医療ニュース

2013年7月2日 火曜日

2012年10月1日(月) コーヒーは消化管疾患と無関係

 コーヒーは身体にいいことばかりで、いくつかのガンの予防にもなって、糖尿病や高血圧などの生活習慣病の予防にもなるんですよ、ということをこのサイトで何度かお伝えしてきました。しかし、コーヒーは苦手、という人が少なくないのも事実です。コーヒーが苦手な人の意見で多いのが「胃に悪いのではないか」というものです。

 コーヒー摂取と代表的な4つの上部消化管疾患にはなんら関係がない・・・

 これは、2012年9月13日に東京で開催された第16回コーヒーサイエンスセミナーで東大病院消化器内科の医師が報告した研究結果です(注1)。「4つの上部消化管疾患」とは、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃食道逆流症、非びらん性胃食道逆流症の4つです。

 この研究では、過去に胃の病気を指摘されたことがない健康診断で内視鏡検査(胃カメラ)を受けた8,013人(男性4,670人、女性3,343人)が対象とされ、コーヒー摂取と4つの上部消化管疾患発症の関連が調べられています。

 内視鏡検査及び問診から発覚したのは、胃潰瘍172人、十二指腸潰瘍282人、胃食道逆流症994人、非びらん性胃食道逆流症1,118人です。1日のコーヒー摂取量については、1杯未満が2,473人、1~2杯は2,978人、3杯以上は2,562人とのことです。これらからコーヒー摂取と消化管疾患の関連性を分析したところ、有意な差は認められなかったそうです。

 逆に、これら4つの疾患と有意な関連が認められたのは下記の通りです。

・胃潰瘍:ピロリ菌陽性、高齢者、喫煙、男性
・十二指腸潰瘍:ピロリ菌陽性、ペプシノゲンⅠ/Ⅱ比高値、BMI低値、喫煙
・胃食道逆流症:ピロリ菌陰性、男性、BMI高値、ペプシノゲンⅠ/Ⅱ比高値、高齢者、喫煙、飲酒
・非びらん性胃食道逆流症:若年者、女性、喫煙、BMI高値

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 コーヒーが胃に悪いと考えられていた(いる)のは、コーヒー摂取により胃酸の分泌が亢進するからです。今回の研究から言えることは、「コーヒーで胃酸分泌が増えてもそれが消化管疾患の発生につながるわけではない」ということです。

 コーヒーの味や香りが嫌い、という人は別ですが、「胃に悪いからコーヒーを控えている」という人にとっては嬉しい研究結果となるでしょう。ただし、コーヒーが身体に有害とする研究結果も存在することは覚えておくべきでしょう。(下記コラムも参照ください)

 最後にコーヒーの豆知識を2つ紹介したいと思います。1つは、日本人は世界的にみてもコーヒー好きで、コーヒー消費量は世界第4位ということです。ちなみに、1位はアメリカで、2位がブラジル、3位がドイツです。私のイメージでは、フランスやイタリアが多いような印象があったのですが、ヨーロッパではドイツが1位で、そのあとに日本がきているというのは少し意外でした。

 もうひとつの豆知識は、本日(10月1日)が「コーヒーの日」ということです。これを知ったからといって別にいいことはありませんが・・・。

(谷口恭)

注1(2013年9月2日付記):この研究結果は後に論文にされ、医学誌『PLoS One』2013年6月12日号(オンライン版)に掲載されました。タイトルは、「No Association of Coffee Consumption with Gastric Ulcer, Duodenal Ulcer, Reflux Esophagitis, and
Non-Erosive Reflux Disease: A Cross-Sectional Study of 8,013 Healthy Subjectsin Japan」で、下記のURLで全文を読むことができます。

http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0065996

参考:
はやりの病気第22回(2005年12月) 「癌・糖尿病・高血圧の予防にコーヒーを!」
はやりの病気第30回(2006年4月) 「コーヒー摂取で心筋梗塞!」
医療ニュース2008年9月13日 「子宮体癌の予防にコーヒーを」
医療ニュース2008年6月30日 「コーヒーはいいことばかり」
医療ニュース2007年10月16日 「お酒の代わりにコーヒーを、すい臓ガンを予防」  
医療ニュース2007年9月3日 「コーヒーは肝臓癌のリスクを下げる」

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2013年7月2日 火曜日

2012年10月12日(金) 10月15日は「世界手洗いの日」

 10月1日が「コーヒーの日」ということを先日お伝えしましたが、10月15日は「世界手洗いの日」です。これはユニセフによって2008年に定められたものです。

 ユニセフによりますと、5歳の誕生日を迎えずに、命を終える子どもたちは世界中で年間760万人もいるそうです。もしも清潔に手洗いができていれば年間100万人もの子供たちの命を守ることができるそうです。

 日本ユニセフ協会は、日本の子供たちにも正しい手洗い方法を知ってもらうために専用ウェブサイトを設けています(注1)。

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 手洗いが感染症予防に大変有効なのは言うまでもないことであり、我々日本人のことだけを考えるならば、わざわざ「手洗いの日」など意識しなくてもいいのではないか、と個人的には思います。

 しかし、世界には、石ケンがないどころか、充分な水がなくて手洗いが充分にできない子供(大人もですが)が少なくない、ということを多くの人に思い出してもらう日になればいいなと思います。

 トイレで大便をした後に、お尻を手でふいて、その手を洗える水が不十分、というのは実際にそのような地域に行ってみないとわかりにくいかもしれません。清潔な便器と清潔な紙が用意されていて、手洗いに充分な水と石ケンが使えて、しかもお尻をふいた紙をそのまま便器に流せる、というのは、実は大変贅沢なことなのです。(下記、マンスリーレポートも参照ください)

谷口恭

参考:マンスリーレポート2012年9月号 「トイレの使い方、間違ってませんか?」

注1:このウェブサイトのURLは下記です。ビデオやポスターもダウンロードできますので教育者の方は子供たちに教えるツールになるかもしれません。
http://handwashing.jp/

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2013年7月2日 火曜日

2012年10月27日(土) セアカゴケグモに注意

 セアカゴケグモの被害が相次いでいます。

 今年(2012年)7月23日には、大阪府泉佐野市で11歳の男児が右の胸をかまれて治療がおこなわれたことが報告されています。(どのような状況でセアカゴケグモが胸にかみついたのかはわかりません)

 9月3日には福岡市東区で86歳の女性が足の指をかまれて医療機関を受診しています。この女性は重症化し、呼吸困難も生じ、抗血清まで使用されたそうです。

 セアカゴケグモは、ヒメグモ科に分類される小型の有毒グモで、メスが人をかむそうです。メスの体長は約1cm、黒色で腹部に砂時計型の赤色紋があるのが特徴です。オスは約0.4mmとメスの半分以下のサイズで、褐色で腹部に白い斑紋があるそうです。(メスのみがかむのかもしれませんが、小さなオスにはかまれても医療機関を受診するほどでないのかもしれません)

 セアカゴケグモは、もともと日本には生息していませんでしたが、オーストラリアから輸入された材木やコンテナなどに付着して国内に定着したと考えられています。1995年に大阪府高石市で初めて見つかったときは大きく報道されましたから、当時のニュースを覚えている方も多いのではないでしょうか。その後、おそらく日本国内での物資の移動が原因で、生息域が拡大しています。現在では、北海道や東北地方を除く日本のほぼ全域で確認されています。工場や住宅地のブロックや、道路の溝、公園の植え込みなどで見つけられることが多いそうです。

 セアカゴケグモの毒は「αラトロトキシン」と呼ばれる神経毒です。かまれてから、5~60分ほどで強い痛みが生じ、徐々に広がるそうです。多くは軽症ですむそうですが、冒頭で紹介した福岡の女性のように、重症化することもあるようです。

 国立感染症研究所昆虫医科学部の報告によりますと、「セアカゴケグモの被害は1995年以降20例ほど報告されているが、国内での死亡例はない」、とのことです。「小児や高齢者では重症化する可能性もあるが抗血清を適切に使えば対処できる」、そうです。

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 私自身はセアカゴケグモの被害にあわれた患者さんを診察したことがないので推測の域を超えませんが、診察した医師の報告によれば、治療にはコデインやモルヒネといった麻薬やダントロレンなどの筋弛緩薬が用いられています。こういった薬剤を用いなければならない症例は入院が必要ですし、「軽症」とは呼べないのではないかと思います。

 上記に「抗血清を適切に使えば対処できる」とありますが、セアカゴケグモの抗血清はそもそも日本には存在しませんし、抗血清を使うときはアナフィラキシーを含む重篤な副作用を考えなければなりません。

 セアカゴケグモのいそうな溝や公園には近づかないようにしましょう、などと言うと子供の遊び場を制限することになりますし、これからの対策には苦労することになるかもしれません。

(谷口恭)

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2013年7月2日 火曜日

2012年11月3日(土) マルチビタミン摂取でわずかながらもガン減少

 最近のビタミン剤に関する研究は、有害性の報告が多く、身体に良いとされるものはほとんど目にしないのですが、マルチビタミンの有益性についての報告がありましたのでお知らせいたします。

 医学誌『JAMA』2012年10月17日号に掲載された論文(注1)によりますと、男性がマルチビタミンを摂取した場合、わずかではあるもののガンのリスクが低下するそうです。

 この研究は米国ハーバード大学の研究者J. Michael Gaziano氏らによっておこなわれています。米国の男性医師を対象とした「the Physician’s Health Study(PHS)Ⅱ」と命名された対照試験(RCT)の解析がおこなわれています。

 この調査では、50歳以上の男性医師14,641人(平均年齢は64.3歳)が登録され、7,317人が毎日マルチビタミンを服用し、7,324人がプラセボ(偽薬)を内服しています。1997~2011年の期間に合計2,669例のガンが確認されています。そのうち約半数の1,373例は前立腺ガンだそうです。

 分析の結果、ガン発症率(1年当たり、人口1,000人に対し何人発症するか)は、マルチビタミン摂取群で17.0、プラセボ群で18.3でした。これを統計学的に解析すると、マルチビタミン群でのリスク低下がわずかに認められることになるそうです。しかし前立腺ガンと大腸ガンでは有意なリスク低下は認められなかったそうです。

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 この結果をどうみるか、ですが、発症率が17.0と18.3ではそれほど大差があるようには思えません。この研究はアメリカのものですが、日本にはビタミン剤で発ガンリスク上昇とする研究もあります(下記医療ニュース参照)。

 確実にいえることは、ガンを予防したいならサプリメントよりもまずは生活習慣の見直しをすべき、ということです。

(谷口恭)

注1:この論文のタイトルは、「Multivitamins in the Prevention of Cancer in Men The Physicians’ Health
Study II Randomized Controlled Trial」で、下記のURLで全文を読むことができます。

http://jama.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=1380451

 
参考:医療ニュース
2011年11月14日 「ビタミンEの発ガンリスク」  
2011年8月26日 「ビタミン剤で発ガンのリスク上昇」

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2013年7月2日 火曜日

2012年11月5日(月) 喫煙で8~10年寿命が短く

 喫煙を続ければ心筋梗塞や脳梗塞などの脳血管障害や各種ガンにかかりやすくなる、というのは常識であり、当然寿命が短くなることも想像できますが、では、日本人がタバコを吸い続ければどれだけ寿命が短くなるのか、という問題を科学的に実証した研究はこれまであまりありませんでした。

 20歳までに喫煙を開始して禁煙しなかったとき、男性なら8年、女性なら10年の寿命が短縮する・・・

 これは公益財団法人放射線影響研究所のR.Sakata氏らの研究結果で、医学誌『British Medical Journal』2012年10月25日号(オンライン版)に論文が掲載されています(注1)

 調査の対象となったのは、1945年以前に生まれた広島・長崎の市民男性27,311人と、女性40,662人で、1963~1992年の間、郵送および診療所での問診で喫煙状況が調べられています。2008年までの死亡が分析されており、平均追跡年数は22.9年となっています。

 解析の結果、1920~45年に生まれ、20歳までに喫煙を開始してやめなかった場合、全死亡率は、男性で2.21倍、女性では2.61倍にも上っています。

 男性喫煙者の70歳での生存率は72%であり、男性非喫煙者の78歳の生存率が72%であり、これらから、8年間の寿命の差がある、とこの研究では述べられています。

 女性の場合、喫煙者の70歳での生存率が79%で、非喫煙者の生存率が79%になるのは80歳であり、10年の差がある、ということになります。

 気になるのは、今から禁煙しても遅いのでは?、ということですが、論文によりますと、35歳までに喫煙をやめていた場合、死亡率の比は1.02となり、リスクが消失しています。35~44歳でやめていた場合も1.22とリスクは大きく低減しています。

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 放射線影響研究所というのは、原爆放射線の健康への影響について調査する日米共同の研究機関です。公益法人として発足したのは1975年ですが、前身は米国学士院が1947年に設立した原爆傷害調査委員会です。ガンや死亡率、喫煙に関する正確なデータが豊富にありますから、そのデータから分析されたこの結果は注目に値するでしょう。

 この研究は単純に「死亡」のことが調べられています。おそらく「健康に生きているか」という観点からみれば、8~10年よりもさらに大きな差が開くことでしょう。

 私の印象では、ここ2~3年で一気に禁煙する人が増えているような感じがします。特に医師や看護師などは少し前まで喫煙率の高い職業と言われていましたが、私の周囲でいえば喫煙する医療者がほとんどいなくなりました。いきすぎた禁煙ブームに不快感を示したり、愛煙家の権利を守ろうとしたりする喫煙者の動きもありますが、今回の放射線影響研究所の研究結果をよく考えてあらためて禁煙を試みてはいかがでしょうか。

(谷口恭)

注1:この論文のタイトルは、「Impact of smoking on mortality and life expectancy in Japanese smokers:
a prospective cohort study」で、下記のURLで全文を読むことができます。

http://www.bmj.com/content/345/bmj.e7093

参考:医療ニュース
2010年10月1日 「受動喫煙で毎年6,800人が死亡」
2008年12月15日 「女性の喫煙は14.5年も短命に」
2008年2月12日 「タバコで年間800万人が死亡」
2007年8月4日 「タバコで余命が3.5年短縮」

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2013年7月2日 火曜日

2012年11月26日(月) 糖尿病人口、日本は世界9位

 去る11月14日は「世界糖尿病デイ」でした。参加された方もおられると思いますが、この日は日本全国でブルーライトアップがおこなわれました。世界糖尿病デイは2006年に制定され(注1)、毎年国内外の多くのイベント会場でブルーライトアップがおこなわれています。

 この世界糖尿病デイに合わせて、IDF(国際糖尿病連合、International Diabetes
Federation)は、世界の糖尿病人口に関する疫学データを公表しました(注2)。

 IDFによりますと、2012年の20~79歳の世界の糖尿病人口は3億7,100万人にのぼり、医療費は4,710億ドル(約38兆円)にもなるそうです。

 IDFは、世界の糖尿病罹患者の半数が診断を受けていないことが問題であると指摘しています。特にアフリカでは診断されていない人が81%にもなるそうです。糖尿病が原因で死亡するのは世界中で480万人にのぼり、その半数が60歳以下で死亡すると推定されています。

 国ごとの糖尿病罹患者数と有病率(人口に占める糖尿病患者数)のトップ10は以下の通りです(いずれも20~79歳)。

罹患者数(単位:百万人)
 1位 中国 92.3
 2位 インド 63.0
 3位 アメリカ 24.1
 4位 ブラジル 13.4
 5位 ロシア 12.7
 6位 メキシコ 10.6
 7位 インドネシア 7.6
 8位 エジプト 7.5
 9位 日本 7.1
 10位 パキスタン 6.6

有病率(%)
 1位 ミクロネシア連邦 30.1
 2位 ナウル共和国 30.1
 3位 マーシャル諸島共和国 27.1
 4位 キリバス共和国 25.5
 5位 ツバル 24.8
 6位 クウエート 23.9
 7位 サウジアラビア 23.4
 8位 カタール 23.3
 9位 バーレーン 22.4
 10位 バヌアツ共和国 22.0

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 罹患者数のトップテンをみると、人口の多い国ばかりでこれは納得しやすいといえるでしょう。トップテンのなかでは、エジプトとメキシコが日本より人口が少なくて罹患者は多い国で、残りはすべて日本よりも人口が多い国です。

 興味深いのは有病率の方です。1位から5位と10位が太平洋に浮かぶ小さな国々で、6位から9位が中東の国々です。(ちなみに日本の有病率は5.12%です) これらの国々では人口の3~4人に1人が糖尿病ということになります。

 太平洋の島国が糖尿病大国と言われると違和感を覚える人が多いのではないでしょうか。こういった国々では、小麦色に日焼けしたスリムな男女が幸せそうに暮らしている・・・、というイメージが私にはあったのですが、これはステレオタイプ的な幻想なのでしょうか・・・。

 特に、バヌアツ共和国は、2006年にイギリスの環境保護団体であるFriends of the Earthが公表した「地球幸福度指数(The Happy Planet Index)」第1位で、「地球上で最も幸せな国」として世界中から注目を浴びた国です。その国が糖尿病大国だったとは・・・。

 ちなみに糖尿病とは何の関係もありませんが、有病率1位から4位の、ミクロネシア、ナウル、マーシャル諸島、キリバスは、いずれも太平洋戦争のときに日本軍が上陸しています。

(谷口恭)

注1:世界糖尿病デイの11月14日はインスリンを発見したフレデリック・バンティングの誕生日です。バンティングは1921年にインスリンを発見しました。

注2:詳しくは下記URLを参照ください。
http://www.idf.org/sites/default/files/5E_IDFAtlasPoster_2012_EN.pdf

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2013年7月2日 火曜日

2012年11月27日(火) エナジードリンクに注意を

 米国FDA(米国食品医薬品局)がいわゆる「エナジードリンク(energy drink)」に対する注意勧告をおこないました(注1)。

 エナジードリンクとは、カフェインやタウリンなどの成分を多量に含み、「パフォーマンス向上」、「集中力アップ」などとPRしているドリンク剤のことです。今回FDAが調査をおこない有害事象が報告されているのは「5-Hour Energy」という製品が多いようです。(注1の報告書の後半の表を参照ください)

 有害事象としては、気分不良、体重減少、嘔気などが多いようですが、なかには死亡例もあるようです。

 今回の調査は「有害事象」を調べたものであり「副作用」を調べたわけではありません(注2)。つまり、不快な症状の原因や死亡の原因が5-Hour Energyと断定されるわけではありません。5-Hour Energy服用からどれくらいたってから症状が出現したのかが分からなければ、摂取した5-Hour Energyの量も分からないということです。実際、FDAはこのレポートで「これら有害事象と商品摂取との因果関係は明らかでない」と述べています。

 しかし、それでもこのようなレポートが正式に公表されたわけですから、エナジードリンクを摂取する際には充分注意をする必要があるでしょう。

 尚、エナジードリンクについては、米国小児科学会(American Academy of Pediatrics、AAP)が2011年に「多量のカフェインが含まれているため小児の摂取は危険」との声明を発表しています。

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 FDAのレポートでは、「5-Hour Energy」以外の製品として「Monster」「Rockstar」も取り上げられています。

 私はこれらの製品名を聞いたことがなかったので、調べてみると、「Monster」「Rockstar」は日本で発売されていることが分かりました。また、「5-Hour Energy」も個人輸入で簡単に手に入るようです。

 ちなみに私は「エナジードリンク」と聞いて、まず頭に浮かんだのが「Red Bull」です。Red Bullはおそらくタイが発祥だったと思います。タイでは随分と前から頻繁にみかけますが、最近では日本のコンビニでも売られているようです。このRed Bullでも被害が出ているのかに興味があったためにいくつかの報道を調べてみました。

 2012年11月15日のNew York Times(注3)は、今回のFDAの注意勧告に関する記事を取り上げていてRed Bullについても言及しています。同紙によりますと、Red Bullは、米国ではエナジードリンクではなく清涼飲料水(beverage)の扱いとなり、今回のFDAの調査の範疇には入れられていないそうです。(だからといって安全と断定できるわけではありません)

 有害事象が報告されFDAが注意勧告をしている以上、エナジードリンクが好きな人は今後も安全に関する情報に注意する必要があるでしょう。しかし、副作用があるかもしれないというリスクを抱えてでも摂取すべきほどの効果が期待できるものなのでしょうか。ちなみに私はRed Bullをタイで初めてみた年に何度か試してみましたが、その後は一度も飲んでいません・・・。

(谷口恭)

注1:この注意勧告に関するレポートは下記URLで閲覧することができます。

http://www.fda.gov/downloads/AboutFDA/CentersOffices/OfficeofFoods/CFSAN/CFSANFOIAElectronicReadingRoom/UCM328270.pdf

注2:言葉の意味を補足しておきます。「有害事象」とは因果関係に関係なく起こりうる事象をいいます。例えば、極端な例を挙げれば、てんかんを持っている人が薬を飲み忘れていて、5-Hour Energyを飲んだ後にてんかん発作が起こったようなとき、原因は薬の飲み忘れと考えられますが、この場合も5–Hour Energyの「有害事象」とされます。一方、「副作用」は5-Hour Energyを飲んだことが原因で生じた好ましくない事象のことをいいます。

注3:New York Timesのこの記事は下記のURLで閲覧できます。

http://www.nytimes.com/2012/11/16/business/scrutiny-of-energy-drinks-grows.html?_r=0

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2013年7月2日 火曜日

2012年12月1日(土) 年末年始はノロウイルスとインフルエンザに要注意

 ノロウイルスによる感染性胃腸炎がはやっています。国立感染症研究所の報告によりますと、11月12~18日の1週間での1医療機関あたりのノロウイルス感染症の罹患者は11.39人とされており、これはここ10年間では最も流行した2006年に次ぐ勢いとなります。

 地域別のデータをみてみると現時点では宮崎県や大阪府など西日本に多いようです。太融寺町谷口医院でも11月中旬からノロウイルスが原因と思われる嘔吐・下痢の症状の患者さんが相次いでいます。

 同所の報告によれば、年齢は0~5歳が大半とされていますが、これは届出されているのが小児中心であるためにこのような結果になるのであり、実際は統計に上がってこない成人の感染はかなり多数あるはずです。ノロウイルスは例年12月に急増しますからこれからの予防対策が重要になります。

 インフルエンザも不気味な動きをみせています。今年は沖縄で早くから流行していましたが、それ以外の地域では大きな流行はありませんでした。それが11月中旬より、九州全域、島根、和歌山、新潟、さらに宮城や岩手といった東北地方まで集団感染の報告が上がってきています。ここまでくれば東京や大阪などの大都市での流行はカウントダウンに入ったとみるべきでしょう。

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 予防については、インフルエンザのみをターゲットにするなら、ワクチンを接種しておき(今からではちょっと遅いかもしれませんが)、ジェルタイプの携帯用アルコールなどで手指を消毒することとうがいを心がければいいでしょう。
 
 しかしノロウイルスはアルコールで死滅しませんから、流水下でしっかりと手洗いする必要があります。感染力は強く、食べ物からの感染のみならず人から人への感染も簡単に起こします。ワクチンもありません。

 月並みな言い方ですが、うがい・手洗いをしっかりとおこない年末年始を乗り切りましょう。

(谷口恭)

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2013年7月2日 火曜日

2012年12月3日(月) コーヒーも紅茶も生活習慣病に有効

 コーヒーがいくつかのガンや糖尿病などの予防効果があるという研究についてこのサイトで何度かお伝えしてきましたが、医学誌『Journal of Epidemiology』2012年10月6日号(オンライン版)(注1)に日本の研究者による論文が掲載されましたので紹介しておきます。
 
 この研究は、J-MICCと命名された調査に参加した日本人554人が対象とされており、コーヒーと緑茶とメタボリック・シンドロームとの関連が解析されています。

 その結果は、「コーヒーをよく飲む人ほどメタボリック・シンドロームにかかりにくい」というものだったそうです。もう少し細かくみてみると、コーヒーをたくさん飲む人ほど中性脂肪(トリグリセライド)の値が低くなり、血圧上昇や腹囲増加をきたさない、となっています。また、適量のコーヒー(1日1.5~3杯)で高血糖を防ぐことができる、という結果もでているようです。
 
 興味深いことに、緑茶ではこのような相関関係が一切なかったようです。

 紅茶の研究も紹介しておきましょう。医学誌『BMJ Open』2012年11月8日号(オンライン版)(注2)に、スイスの研究者Ariel Beresniak氏の論文が掲載されました。
 
 この研究は、世界50ヶ国の2009年の紅茶の消費量と、呼吸器疾患、感染症、ガン、心血管疾患、及び糖尿病との関連が調べられています。

 解析の結果、紅茶の消費量が多い国ほど糖尿病の罹患率が少ないことがわかったようです。しかし、先に述べた糖尿病以外の疾患については紅茶消費量との関連性は認められなかったそうです。
 
 この論文によりますと、国民1人当たりの年間の紅茶消費量が最も多いのがアイルランドで2.1576kg、2位がイギリスの1.8137kg、3位がトルコの1.6631kgです。逆に、紅茶を最も飲まない国は韓国で0.0007kg、2位がブラジルの0.001kg、3位が中国の0.0011kgです。
 
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 サプリメントや健康食品の生活習慣病に対する有効性がほとんど検証されないのに対して、従来から多くの人々に愛用されているコーヒーや紅茶が有効というのは興味深いと言えるでしょう。
 
 しかし、一般的に健康によいとされている緑茶に生活習慣病の予防効果がなかった、というのもまた興味深い結果です。

 私は紅茶をほとんど飲まないので消費量をキログラムで示されてもよくわからないのですが、仮に紅茶1杯が2グラムとすれば、平均的なアイルランド人は1日に約3杯(2157.6グラム÷2グラム÷365日=2.9556)飲んでいることになります。
 
 同様の計算をおこなうと、紅茶を最も飲まない国、韓国では平均的な韓国人は3年に1杯しか紅茶を飲まない(0.0007kg=0.7グラム、0.7グラム÷2グラム=0.35杯/年、0.35杯/年x3年=1.05杯)ことになり、医学的ではなく文化的な観点から私にとってはこちらの方が興味深い気がします。
 
 ちなみに、これも医学には関係のない話ですが、紅茶の英語名は一般的にはblack teaで、この論文でもblack teaとされています。紅茶を辞書でみるとred teaという記載がある場合がありますが、私はred teaと話している外国人をみたことがありません。ただしblack teaと言うこともそれほど多くないと思います。西洋人が紅茶のことを指すときは単にteaというのが普通です。日本人が機内などで紅茶を頼むときはteaと言うと、緑茶かな、と思われますから、black teaもしくはEnglish teaと言うのがいいと思います。
 
(谷口恭)

注1:この論文のタイトルは、「Inverse Correlation Between Coffee Consumption and Prevalence of
Metabolic Syndrome: Baseline Survey of the Japan Multi-Institutional Collaborative Cohort
(J-MICC) Study in Tokushima, Japan」で、下記のURLで全文を読めます。
 
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jea/advpub/0/advpub_JE20120053/_pdf   

注2:この論文のタイトルは、「Relationships between black tea consumption and key health indicators in the world:
an ecological study」で、下記のURLで全文を読むことができます。
 
http://bmjopen.bmj.com/content/2/6/e000648.full?sid=12e3a4cd-50cb-4af7-91fe-f7f68a68d8ac
 
参考:
医療ニュース
2012年10月1日 「コーヒーは消化管疾患と無関係」
2010年5月24日 「紅茶で大腸ガンのリスクが上昇?」
はやりの病気第22回(2005年12月) 「癌・糖尿病・高血圧の予防にコーヒーを!」  
はやりの病気第30回(2006年4月) 「コーヒー摂取で心筋梗塞!」

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2013年7月2日 火曜日

2012年12月28日(金) 筋力が低いと早死にのリスクに

 10代のときに筋力が弱いと早死にのリスクになる・・・

 これは、スウェーデンのカロリンスカ(Karolinska)研究所のFinn Rasmussen氏らの研究結果で、医学誌『British Medical Journal』2012年11月20日号(オンライン版)に掲載されています(注1)。
 
 この研究では、16~19歳のスウェーデン人の男性1,142,599人が対象とされ、24年間追跡されています。研究開始時に筋力テストが実施され、早死に(早期死亡)の定義は「55歳前の死亡」とされています。24年の追跡期間中に全体の2.29%にあたる26,145人が死亡しています。

 死因で最も多かったのが「自殺」で22.3%、「ガン」14.9%、「心血管疾患」7.8%と続きます。

 筋力別の数字をみてみると、全死亡者では、最も筋力の低いグループは1年間で10万人あたり122.3人、最も筋力の高いグループでは86.9人となっています。心血管疾患による死亡率でみると、それぞれ9.5人、5.6人、自殺による死亡率ではそれぞれ24.6人、16.9人とされています。
 
 筋力が高かったグループでは、血圧やBMIに関係なく(注2)、早期死亡のリスクが20~35%低く、自殺による早期死亡のリスクも20~30%低かったようです。また、統合失調症や気分障害といった精神疾患の診断を受ける可能性は15~65%低かったそうです。
 
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 この研究から、「若い頃に筋力が高い(強い)人は死亡リスクが少なくなる」、ということは言えると思います。しかし、「筋力が高いことが原因で死亡リスクが減る」とか「筋力が低いことが原因で早死にしやすくなる」、とまでは言えないと思います。
 
 つまり、若い頃にしっかりと筋肉がついている、ということは、定期的にスポーツをしており、規則正しい生活を心がけていて、健康に関心を持っている可能性が強いわけで、そのような人たちが長生きするのは当然といえば当然だからです。
 
 この研究を読んで次に知りたいと思ったのは、女性ではどうなのか、ということと、(病気などで)10代の頃には筋力がさほどなかったけれど成人になってから、あるいは中年期になってから体を鍛えて筋肉をつけた場合はどうなるのか、という点で、これらは将来の研究に期待したいと思います。
 
 現時点で確実に言えることは、性別や年齢に関係なく、運動習慣があり、ある程度の筋肉量を維持することが(身体的にも精神的にも)健康で長生きするのに有利である、ということだと思います。
 

(谷口恭)

注1:この論文のタイトルは、「Muscular strength in male adolescents and premature death:
cohort study of one million participants」で、下記のURLで全文を読むことができます。
 
http://www.bmj.com/content/345/bmj.e7279

注2:10代の頃に血圧が高い場合や、BMI(Body Mass Index)が高い場合(要するに肥満があるとき)に早期死亡するリスクがあることはこれまでの研究からあきらかとなっています。

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

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