医療ニュース
2021年10月3日 日曜日
2021年10月3日 新型コロナのChoosing Wisely
以前から太融寺町谷口医院では繰り返しその重要性を訴えているChoosing Wisely。一言で言えば「ムダな医療」をなくそう、ということで、新型コロナウイルス(以下、単に「コロナ」)に関しても考えていかねばなりません。
医学誌「nature medicine」2021年7月5日号に「コロナのChoosing Wisely:患者と医師の10のエビデンスに基づいた推奨 (Choosing Wisely for COVID-19: ten evidence-based recommendations for patients and physicians)」というタイトルの論文が掲載されました。この論文で、コロナのChoosing Wisely10か条が発表されました。最初の5か条は一般市民向け、後半の5か条は医師向けのものです。
<一般市民向け>
#1 公共の場では常に顔面にフィットしたマスクを適切に着用する
#2 屋内での混雑は避ける
#3 コロナを疑う症状があれば検査を受け、症状が軽度でも自己隔離をする
#4 呼吸困難や酸素飽和度が92%以下になった場合は医療機関を受診する
#5 順番が来ればできるだけ早くワクチンを受ける。過去にコロナにかかっていても受ける。
<医師向け>
#6 効果のない(あるいは効果があることが実証されていない)薬を使わない。具体的には、ファビピラビル(アビガン)、イベルメクチン(抗寄生虫薬)、アジスロマイシン(ジスロマック)、ドキシサイクリン(ビブラマイシン)、オセルタミビル(タミフル)、ロピナビル・リトナビル(抗HIV薬)、ヒドロキシクロロキン(抗マラリア薬)、イトリズマブ(日本未発売の乾癬治療薬)、ベバシズマブ(アバスチン)、インターフェロン-α2b、フルボキサミン(抗うつ薬)、回復者の血漿、ハーブ製剤などは使うべきでない
#7 レムデシビルやトシリズマブ(アクテムラ)を使用するときは適用を見極める
#8 ステロイド薬は低酸素血症がある場合にのみ慎重に使用する。使用時には血糖値をモニタし、正常範囲を維持する
#9 治療方針を決定する目的以外でCTの撮影や血液検査をルーチンで行わない
#10 コロナ流行中にもコロナ以外の重症な疾患を見過ごさない
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当然といえば当然のことばかりです。無駄な検査や治療はいつも控えることを考えねばなりません。
ワクチンが普及した今、「スパイク蛋白の抗体(S抗体)の検査をむやみやたらにおこなわない」という一文を入れたいと個人的には思っています。
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|2021年9月23日 木曜日
2021年9月23日 米国で鉄欠乏性貧血が増加している意外な理由
きちんとデータをとったわけではありませんが、太融寺町谷口医院を開業した15年前に比べて、男女とも鉄欠乏性貧血を起こす患者さんが増えているように感じています。今回紹介する研究は米国のものですが、日本でも同じことが言えるかもしれません。
医学誌「The Journal of Nutrition」2021年7月号に掲載された論文「鉄摂取量の減少が米国人の鉄欠乏性貧血および関連死亡率の上昇と類似 (Decreased Iron Intake Parallels Rising Iron Deficiency Anemia and Related Mortality Rates in the US Population )」を紹介します。
この研究は米国人を対象としたデータベースを解析することによっておこなわれています。米国人の食品摂取と鉄欠乏性貧血の関係を調べた結果、「食品に含まれる鉄の摂取量減少が原因で鉄欠乏性貧血の有病率が上昇している」ことが分かりました。
具体的な数字をみていきましょう。まず、全体的に食事から摂取できる鉄分の量が減っています。分析されている1,000以上の食品のうち62.4%が1999年から2018年を比べると鉄の濃度が低くなっています。
米国人の食事内容としては、牛肉の摂取が15.3%減少し、他方鶏肉は21.5%増加しています。食事からの鉄摂取量は男性で6.6%、女性で9.5%減少しています。
米国人の鉄欠乏性貧血の有病率は年齢と性別により20年の間に10.5~106%増加していました。鉄欠乏性貧血に関連する年齢調整死亡率は、20年間で10万人あたり約0.04人から約0.08人に上昇していました。一方、鉄欠乏性貧血以外の貧血(例えば再生不良性貧血)を含む全貧血による死亡は25%以上低下していました。
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要するに、貧血で亡くなる人は減っているのに鉄欠乏性貧血だけは例外。そして米国人が鉄を摂らなくなった原因は2つあって、1つは食品に含まれる鉄分が減少していること、もうひとつが牛肉を食べなくなったこと、というわけです。
私が鉄欠乏性貧血の患者さんによく言うのが「血のしたたるステーキを食べましょう」です。正確にはあの赤い「血のようなもの」は血液ではなく、牛の筋肉を構成するミオグロビンと呼ばれる蛋白質なのですが、この蛋白質にたっぷりの鉄分が含まれているのです。
一方、米国人の間でも摂取量が増えている鶏肉はあまりミオグロビンを含まず、結果として鉄分があまり取れません。ダイエット目的で牛肉より鶏肉と考える人が少なくないようですが、貧血予防には「血のしたたるステーキ」が一番です。
参照:HealthyDayNews 2021年8月4日「食生活の変化は大勢のアメリカ人の貧血を意味する (Changing Diets Mean More Americans Are Anemic Now)」
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|2021年9月2日 木曜日
2021年9月2日 コロナワクチン、心筋炎のリスクにはなるけれど……
最近、コロナワクチンの副作用の質問で多いのが「心筋炎」です。
日本では中日ドラゴンズの木下雄介投手が7月上旬にコロナワクチン接種後(メーカーは不明)にハードなトレーニング中に倒れ意識を失い大学病院に搬送されたものの8月3日に死亡したと報じられています。
香港の英字新聞「South China Morning Post」2021年7月5日号によると、シンガポールの16歳の男子が、ファイザー製のワクチン接種6日後にジムで激しいトレーニングをした直後に心停止を起こしました。
報道からは2人とも死因ははっきりしませんが、若くて健康な男性が激しいトレーニングのさなかに倒れたわけですから、まずは心疾患が疑われます。一般に、心臓の疾患は、中年以降であれば心筋梗塞、心不全、心筋症などが考えられますが、健康な若者が突然倒れた場合は不整脈か心筋炎、心膜炎などが疑われます。
そして実際、ファイザー製のコロナワクチン接種後の心筋炎のリスクは確実にありそうです。
医学誌「The New England Journal of Medicine」2021年8月25日号に掲載された論文「ファイザー社製コロナワクチンの安全性に関する全国調査(Safety of the BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine in a Nationwide Setting)」によると、イスラエルでの全国規模の調査では、(ファイザー製)ワクチン接種による心筋炎のリスクが3.24倍に上昇し、これは人口10万人につき2.7人が発症することになります。
ただし、この論文によると、ワクチンをうたずに新型コロナに感染すると、心筋炎を発症するリスクは18倍以上、10万人あたり11人が発症します。よって、ワクチンをうって起こり得る心筋炎のリスクよりも、感染して心筋炎を発症するリスクの方がずっと高いということになります。
もちろん、一番いいのはワクチンもうたずに新型コロナにもかからずに、そして心筋炎も発症しないことです。心筋炎の原因として圧倒的に多いのはウイルス性です。様々なウイルスが心筋炎の原因となりますが、最も多いのはコクサッキーウイルスのB群と呼ばれるグループです。他には、コクサッキーウイルスのA群、インフルエンザウイルス、HIV、エコーウイルスなども原因となります。そして、おそらく来年あたりの教科書には心筋炎の原因ウイルスのひとつに新型コロナウイルスも付記されるでしょう。
心筋炎の観点からワクチンをうつべきか否かを考えてみましょう。もしも新型コロナにかかれば、かかっていない人に比べて心筋炎を発症するリスクが18倍にもなります。とはいえ、10万人あたり11人ですからさほど多いわけではありません。新型コロナに罹患した人10万人を集めて11人(≒1万人に1人)ですから、気にしないという人もいるでしょう。
一方、ワクチンでのリスクは10万人あたり2.7人で、1万人あたり0.3人と考えるとやはりそんなに多いわけではありません。大切なのは、接種直後に激しい運動をすればリスクが上がるということです。木下投手の報道からは何日後に発症したのかよく分かりませんが、シンガポールの男子は6日後と報道されています。ということは、やはりワクチン接種後1週間はジム(フィットネスクラブ)での激しい運動は避けるべきだ、ということになります。
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|2021年8月29日 日曜日
2021年8月29日 片頭痛を大きく改善させるω3脂肪酸
ω3不飽和脂肪酸(以下、単に「ω3」とします)をしっかり摂取して、ω6不飽和脂肪酸(以下「ω6」)を減らすと、いろんな病気の予防になり健康に良い、ということが随分前から言われています。特に日本では、伝統的にω3を豊富に含む青魚をたくさん食べることから「支持されやすい健康法」だと言えるでしょう。
今回ご紹介するのは、そのω3が「片頭痛の予防効果がある」という話です。尚、ω3は「n-3系脂肪酸」とも呼ばれ、医療者の立場で言えばこちらの方が馴染みのある表現なのですが、一般的にはω3の方がむしろ人口に膾炙しているようですので、ここではω3で統一します。
医学誌「British Medical Journal」2021年7月1日号に「成人の片頭痛を軽減するためのω3およびω6脂肪酸を含む食事変更:ランダム化比較試験 (Dietary alteration of n-3 and n-6 fatty acids for headache reduction in adults with migraine: randomized controlled trial)」という論文が掲載されました。
この研究では米国人の対象者がω3及びω6の摂取量を基準に3つのグループに分けられています。ω3としてEPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)を含む食事が採用されています。ω6にはリノール酸が用いられています。尚、リノール酸を多く含む油の代表がコーン油や大豆油です。
・グループ#1:ω3を多く摂取+ω6は通常(ω3を1.5g/日摂取、リノール酸を摂取エネルギーの7%とする)
・グループ#2:ω3を多く摂取+ω6を減らす(ω3を1.5g/日摂取、リノール酸を摂取エネルギーの1.8%以下とする)
・グループ#3:ω3もω6も通常の食事と同様(ω3を0.15g/日以下、リノール酸を摂取エネルギーの7%とする)
結果、グループ#2では、1日あたりの頭痛時間が減り、1か月あたりの頭痛の日数は平均で4日間減少しました。また、グループ#1でも、グループ#2ほどではないものの、1日あたりの頭痛時間も月あたりの日数も減っています。
ただし、「生活の質を劇的に改善した(significantly improve quality of life)とまでは言えない」、と研究者らは付記しています。
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平均で月あたりの頭痛回数が4日も減ったのなら、生活の質(quality of life)はかなり改善したのではないのか?と私は論文を読んだときに感じたのですが、それはさておき、食の「質」を損なわない、つまり美味しく食べられるのであれば、「ω3を増やしてω6を減らす食事療法」を再考してみてもよさそうです。
ω3について書かれたウェブサイトは星の数ほどありどれを信頼していいのか迷うこともあるでしょう。日本語で読めるサイトとしては厚労省のサイトがお勧めです。ここに書かれていることを簡単にまとめると次のようになります。
・ω3が心疾患に有効なのはまず間違いない
・ω3は関節リウマチにも有効
・ω3が、脳疾患、眼疾患、前立腺がんに有効かどうかは分からない
・ω3は食品から摂ることが推奨され、サプリメントの効果は不明
サプリメントで摂取しても効果がないなら食品から摂るしかありません。まず、日本人は食品からω3がどれだけ摂取できているのかをみてみましょう。
厚労省のサイト(の137ページの表5)を簡略化してまとめると次のようになります。
男性 女性
18~29歳 2.0g/日 1.6g/日
30~49歳 2.0g/日 1.6g/日
50~64歳 2.2g/日 1.9g/日
50歳を超えると摂取量が増えるのは年をとれば肉から魚に食事の趣向が変わるからでしょうか。なぜ、男性が女性よりも多いのかについては、単に食事の総量が多いからだと思われます。
次に、厚労省の定める「1日あたりの目標摂取量」(上記サイトの151ページ)をみてみましょう。
男性 女性
18~29歳 1.92g/日 1.62g/日
30~49歳 2.03g/日 1.59g/日
50~64歳 2.16g/日 1.85g/日
これをみる限り、日本人は男女ともほとんどが基準量を摂取できているようです。基準を満たしていないのは、30~49歳の男性と18~29歳の女性だけですし、いずれもわずかです。先に紹介した米国の研究では1.5g/日を「積極的摂取」とし、通常摂取を0.15g未満としていることに注意してください。米国の標準的な料理ではω3がほとんど摂れていないことがよく分かります。
ちなみに厚労省の同じ資料からω6をみてみると、男女ともほとんどの年齢で基準値をやや超えた量を摂取しています(18~29歳の男性はわずかに基準値を下回っています)。
では、ω3を多く含む食材にはどのようなものがあるのでしょうか。これは以前からいろんなところで発表されていますからお馴染みだと思いますが、改めて確認しておくと、サバやイワシなどの青い魚、亜麻仁油、エゴマ、くるみなどが有名です。
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<参考>
メディカルエッセイ第122回(2013年3月)「不飽和脂肪酸をめぐる混乱」
医療ニュース
2018年12月30日「ω3系脂肪酸、心血管疾患にもがんにも予防効果なし」
2013年7月31日「ω3系脂肪酸で前立腺ガンのリスクが4割上昇」
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|2021年8月15日 日曜日
2021年8月15日 不眠に対する運動は有効か
当院で不眠の相談をしたことがある人には「またかよ」と言われるでしょうが、私は不眠を訴える患者さんほぼ全員に繰り返し「運動をしましょう」と言い続けています。実際、運動だけで不眠症が治った人は決して少なくありません。また、定期的な運動をしている人で不眠で悩む人はほとんどいません(過剰な運動で不眠になる人はいますが)。
しかし、運動が不眠に有効なのはば確実ですが、どの程度有効なのかを評価した質の高い大規模研究はあまりみたことがありません。今回、そういった研究が報告されたのでお伝えします。
研究は医学誌「The Journal of sports medicine and physical fitness」2021年6月号に「原発性不眠症に対する運動介入の効果:メタ分析(Effect of exercise intervention on primary insomnia: a meta-analysis.)」というタイトルで掲載されています。
この研究では、これまでに発表されている運動と睡眠の関係を検討した23の研究をメタ解析しています。運動をした人1,269例と対照グループ(運動をしなかった人)1,203例が比較検討されています。
その結果、運動をすれば不眠を改善する効果が認められることが分かりました。尚、この研究ではSMDという指標が使われています。運動が不眠に有効であることを示すSMDは-(マイナス)1.64、有酸素運動であれば-2.21です。-(マイナス)がついていて、なおかつ絶対値が大きければ大きいほどその関係が強いことを示します。よって、この研究から言えることは、運動が不眠を改善するのは確実であり、なかでも有酸素運動が有効だ、ということになります。
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ところで、睡眠の質が高いか低いかはどのように判断すればいいのでしょうか。専門的には睡眠中の脳波や心拍数を測定するのですが、自宅で医療者の介入なしに簡単にできる方法があります。
それはFitbitを使うことです。AppleWatchではなくFitbitの方が有効です(私見ですが)。Fitbitなら、睡眠の深さがどの程度かを知ることができ、何時に深い睡眠(あるいはレム睡眠)をとっていたかが分かります。同時に心拍数も測定できますから、健康管理にとても役立ちます。念のために付記しておくと、私はFitbitの会社と関係があるわけではなく利益供与はありません。
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|2021年7月29日 木曜日
2021年7月29日 果物摂取で糖尿病リスクが36%低下
果物を積極的に食べるようにすれは糖尿病のリスクが36%も下がる……
このような嬉しい研究結果が医学誌「The Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism」2021年6月2日号に報告されました。論文のタイトルは「あるコホートにおける果物摂取と糖尿病のリスクとの関連(Associations Between Fruit Intake and Risk of Diabetes in the AusDiab Cohort)」です。
研究の対象は合計7,675人のオーストラリア人(平均年齢54歳、男性45%)で、果物の総摂取量で全体を4つのグループに分類しています。最も接種量が少ないグループは1日の果物摂取量が平均で62グラム、2番目に少ないグループは122グラム、上から2番目のグループは230グラム、最も多いグループは372グラムです。
研究では対象者に「糖負荷試験」を実施しています。糖負荷試験とは空腹時に糖(甘い飲み物)を飲んでもらい、その後採血をおこない血糖値やインスリンの血中濃度を測定する試験です。
結果、果物摂取が最も少ないグループに比べて、最も多いグループは糖負荷後、血糖値が3%低く、インスリン濃度が5%低値で、インスリン感受性は6%高くなっていました。インスリンは血中の糖を体内に取り込むときに必要なホルモンです。ということは、糖負荷後にインスリン濃度が低いということはそれだけ糖尿病になりにくいことを意味します。また「インスリン感受性が高い」ということは、少量のインスリンでも効くという意味ですから、やはり糖尿病になりにくいことを示しています。
そして、5年後の2型糖尿病発症リスクを検討すると、果物摂取が最も少ないグループに比べて、最も多いグループは36%リスクが低かったのです。
残念ながら、12年後の調査では果物摂取による糖尿病リスク低下は認められなかったのですが、リンゴ、オレンジ、バナナでは、ある程度のリスク低下がありました。
尚、興味深いことに、果物をジュースにした場合は、糖尿病のリスク低下は認められませんでした。
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果物は糖尿病のリスクと思っていた、と言う患者さんがなぜかけっこういます。また、果物ジュースはむしろ糖尿病のリスクになると思っている人も少なくありません。
この研究を意外に思う人もいるかもしれませんが、果物のGI値(グリセミックインデックス)を考えれば何も不思議ではありません。不思議なのは、果物はたいてい甘い(そして美味しい)のにGI値がさほど高くないことです。一般にGI値が高い食べ物は糖尿病の、そして肥満のリスクになります。白米より玄米、うどんよりそば、と言われるのは、白米より玄米が、うどんよりそばがGI値が低いからです。
果物ジュースで効果が出ない理由は、(これは論文には書いていないことですが)おそらく2つあります。1つは果物そのものを食べるときと異なり、一気に甘い成分(果糖)が体内に吸収されること、もうひとつは本来果物に含まれているはずの食物繊維がジュースにすることにより分解されているからではないかと思われます。
ということは、果物ジュースを飲むときにはゆっくり飲む方がいいということになります。また、果物ジュースが糖尿病のリスクになるわけではなく、すでに糖尿病の人が果物ジュースを飲んではいけないわけではありません。ただし、果物にもよりますから、すでに糖尿病がある人はかかりつけ医に相談してください。
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|2021年7月19日 月曜日
2021年7月19日 血圧の薬カルシウム拮抗薬は男性の「夜間頻尿」に注意
血圧が高い……
夜中にトイレに起きる……
これらは共に中年以降の男性によくある訴えです。血圧については程度やその人の背景(例えば肥満や喫煙があれば基準が厳しくなる)にもよりますが、運動や食事療法で改善しない場合は薬を検討することになります。
その血圧の薬のせいで夜中のトイレの回数が増えるようなことは避けたいものです。
しかし、血圧の薬によってはそうなりやすいのはどうやら間違いなさそうです。
医学誌「Journal of Clinical Medicine」2021年4月9日号に興味深い論文が掲載されました。タイトルは「カルシウムブ拮抗薬は40歳以上の男性の夜間頻尿に関連 (Calcium Channel Blockers Are Associated with Nocturia in Men Aged 40 Years or Older )」です。
研究の対象者は泌尿器科に入院していた40歳以上の男性合計418人です。夜間の排尿回数は次のようになりました。
・降圧薬を飲んでいない人:1.35回
・カルシウム拮抗薬以外の降圧薬を飲んでいる人:1.48回
(飲んでいない人との有意差はなし)
・カルシウム拮抗薬だけを飲んでいる人:1.77回
・カルシウム拮抗薬を含む降圧薬を2種以上飲んでいる人:1.90回
カルシウム拮抗薬だけが夜間頻尿を促すというわけです。そして、この研究にはもうひとつ興味深い結果が導かれています。この傾向は若年者(40~65歳)で顕著だというのです。この年代では、カルシウム拮抗薬を飲んでいない男性の夜間の排尿は0.96回なのに対し、飲んでいる男性では2.00回に上昇しているのです。
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降圧薬を簡単にまとめてみましょう。次の種類があります。
#1 カルシウム拮抗薬
#2 ARB(アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬)
#3 ACE阻害薬
#4 βブロッカー
他にはαブロッカー、サイアザイド系利尿薬、漢方薬などがあります。#1から#4では、太融寺町谷口医院の処方量で言えば、(ARB>>カルシウム拮抗薬≒βブロッカー>>その他)です。ACE阻害薬は、ARBと似た薬ですが副作用がそれなりの頻度で出現するため、ARBの後発品が登場してからはほとんど使わなくなりました。
カルシウム拮抗薬は昔からある薬で後発品も豊富にそろっていますから、谷口医院を開院したころには最も多く処方していたのですが、年々頻度が減ってきています。実は、夜間頻尿は以前から(この論文の登場前から)訴える人はそれなりにいましたし、顔がほてる、むくむ、という訴えもそれなりにあり、さらに他の薬と飲み合わせが複雑であることから次第に処方頻度は減っていきました。ただし、血圧を下げる力は最も強いように思えます。
血圧の薬を飲んでいる男性は、最近気になる夜間のトイレは年齢のせいではない可能性があります。特に若い人は一度薬の見直しをしてもいいかもしれません。
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|2021年6月17日 木曜日
2021年6月17日 中年期の孤独と睡眠不足が認知症のリスク
エーザイが認知症の新しい薬を発売予定という話題が盛んですが、この薬は米国で承認されたとは言え、万人に効くわけではありません。また認知症は、遺伝的にあらかじめ決まっているリスクを測定することはできますが(下記参照)、遺伝子を変えることはできません。
よって、中年期(あるいはもっと若い時期)から予防をしていくしかありません。予防をするには遺伝以外の認知症のリスク対策をしなければなりませんが、リスクとして決定的なものが見つかっているとは言えません。ですが、今回発表された2つの論文は注目に値します。
1つ目は医学誌「Alzheimer’s & Dementia」2021年3月24日号に掲載された論文「Framingham Heart Studyにおける孤独とアルツハイマー型認知症のリスクとの関連(Associations of loneliness with risk of Alzheimer’s disease dementia in the Framingham Heart Study)」です。
この研究の対象は「Framingham Heart Study」という名の疫学研究に参加した45~64歳の2,880人です。持続的な孤独を感じている人は、孤独を感じていない人に比べて、認知症の発症リスクが91%も高いという結果がでました。さらにこの研究には興味深い点が2つあります。
1つは、一時的に孤独を感じていた人は、孤独を感じていなかった人に比べて、認知症の発症リスクが0.34倍に、つまり66%も減少するというのです。
もう一つは、「一人暮らしをしているからといって認知症のリスクが上昇するわけではない」ことです。これについては、この論文を紹介した米国の健康情報ニュースサイトのHealthDayが伝えています。一人暮らしがリスクにならないということは、「一人でいても必ずしも孤独でない。他人と過ごしていても孤独なことがある」ということを意味します。
2つ目の論文を紹介しましょう。科学誌「nature communication」2021年4月20日に掲載された論文「中高年の睡眠時間と認知症の発生率との関連(Association of sleep duration in middle and old age with incidence of dementia)」です。
研究の対象者はイギリスの公務員7,959人で追跡期間は25年間です。この間に521人が認知症を発症、発症時の平均年齢は77.1歳でした。1日に7時間の睡眠をとっていた人の発症リスクが最も低く、6時間以下で上がっていました。中年期から7時間睡眠を維持している人に比べると、6時間以下の人は認知症の発症リスクが30%上昇していました。
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2つの論文を合わせた結論は、「いったん孤独を感じてその後孤独から抜け出した人。ただしその間も睡眠時間はしっかり確保できた人」が最も認知症のリスクが低いということになります。「孤独を感じてその後抜け出す」というのは運がなければ難しそうですが、孤独を感じている人こそ睡眠はとった方がよさそうです。
ところで、1つ目の論文を紹介したHealthDayの記事は、「孤独な人は、医者、家族、友人などに自分の気持ちを話すように」と勧めています。たしかに、我々医療者が、患者さんから「誰にも言えないような話」を聞く機会がしばしばあります。彼(女)らは無意識的にそのような話を我々におこなうことで孤独感を癒しているのかもしれません。
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|2021年6月6日 日曜日
2021年6月6日 米国では女性看護師の自殺リスクが一般女性の2倍
医師の自殺リスクが高いということがしばしば指摘されます。きちんとした統計データは見たことがないのですが、我々医師の実感としてもこれは正しそうです。医学部の一学年あたりの学生数は80~100人程度しかいないのですが、卒後10年以内にどの大学のどの学年も1人くらいは自殺しているだろうと言われています。
他方、看護師ではそういう話を聞きません。むしろ、私の個人的な経験でいえば(その多くは太融寺町谷口医院の患者さんですが)看護師として長年勤務して引退されている人は身体も心も健康な人が多いという印象があります。
しかし、米国では女性看護師の自殺リスクが一般女性の2倍とする研究があります。
医学誌「JAMA Psychiatry」2021年4月14日号に掲載された論文「米国の看護師と医師の自殺リスク (Association of US Nurse and Physician Occupation With Risk of Suicide)」を紹介しましょう。
研究に用いられたデータベースでは2017年から2018年にかけて自殺した看護師は2,374人(うち1,912人が女性)、自殺した医師は857人(84.4%が男性)でした。同時期に自殺した一般人口は121,483人(男性が77.8%)でした。これらから、女性10万人あたりの自殺者は看護師で17.1人、一般集団で8.6人となります。よって女性看護師は看護師でない女性にくらべて自殺リスクが約2倍高いということになります。一方、医師は一般人口と比べて自殺リスクが高いとはいえません。
自殺の方法は「薬物」が多く、薬物を用いた自殺者は一般人口では16.8%なのに対し、医療者では24.9%もあります。使用される薬物は、医療者では、バルビツール酸(睡眠薬)、オピオイド(医療用麻薬)、ベンゾジアゼピンが多かったようです。
尚、この研究は新型コロナウイルス流行前のデータであることを押さえておいた方がいいでしょう。きちんとした統計があるかどうかわかりませんが、(女性)看護師が新型コロナのせいで自殺したというニュースを何度か読んだ記憶があります。コロナを加味すればさらに自殺リスクが高くなるかもしれません。
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冒頭で述べたように、引退後もいきいきとしている女性に元看護師が多いという印象が私にはあるのですが(他には元小学校の先生も多い)、よく思い出してみると、谷口医院に通院している若い女性看護師は精神疾患を持ち合わせていることが少なくありません。さすがにバルビツールやオピオイドを常用している人は(ほぼ)いませんが、ベンゾジアゼピンに頼っている看護師はそれなりに多いといえます。
ベンゾジアゼピンはゆっくりと減らしていく治療をおこなっていくわけですが、上手くいかないこともあります。なかには、看護業務を続けられなくなり、看護師をやめて別の仕事にうつる人(なかには社会復帰できない人も)もいます。
ということは、「女性看護師は引退後もいきいき」は「元々引退後も健やかにすごせる人が看護師に向いている」ということであり、「元々メンタルが強くない人が看護師になると薬物に依存するようになり自殺のリスクも上がる」ということなのかもしれません。
たしかに看護師の世界は(おそらく医師の世界よりも)厳しい社会です。ですが、ものすごくやりがいがあって他者に貢献できる職業なのは事実です。谷口医院の患者さんのなかには(なぜか)「これから看護師を目指します」と話す30~40代の女性が少なくなく、またメールでそのような相談を受けることもしばしばあります。
どうかそういった人たちも、米国のこの研究で将来に不安を感じるのではなく、「なぜ看護師を目指そうと思ったのか」をいつも思い出して自身の夢に進んでもらいたいと思います。看護師が素晴らしい職業であることは私が保障します。
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|2021年5月30日 日曜日
2021年5月30日 「仕事で身体動かしてます」は無意味?
2007年の開院以来、当院が一貫して言い続けているのが「検査や薬は最小限に」です。では、薬を極力減らしてどのように治療しているかというと、最も患者さんに言い続けているのが「運動」です。肥満や他の生活習慣病はもちろん、頭痛やめまいなどの神経疾患、胃炎や過敏性腸症候群などの消化器疾患、肩こりや腰痛といった整形外科的疾患、うつや不安などの精神疾患にも運動を積極的に勧めています。そして実際、運動だけでこういった疾患が治癒することも少なくありません。
患者さんに「運動しましょうよ」と言って、よく反論されるのが「私は仕事で身体を動かすので、運動はすでにしています」というものです。しかし、私の経験上、「仕事での運動」は(職種にもよりますが)あまり効果がありません。今回紹介するのはその私の考えを支持するような論文です。
医学誌「European Heart Journal」2021年4月14日号に掲載された論文「心血管疾患における身体活動のパラドックスと全死亡率: 104,046人の成人を対象としたコペンハーゲンの人口調査 (The physical activity paradox in cardiovascular disease and all-cause mortality: the contemporary Copenhagen General Population Study with 104 046 adults)」によると、「余暇の時間に運動をすると心血管疾患のリスクが低下するが、仕事で身体を動かすと逆に上昇する」ようです。
研究の対象はデンマークの20~100歳の一般住民104,046人です。余暇の身体活動レベル、及び仕事での身体活動レベルが、自己申告に基づいて「低値」「中等度」「高値」「極めて高値」の4つのグループに分られています。そして、追跡調査を10年間(中央値)おこない、心血管疾患との関連が調べられています。追跡期間中に7,913件(7.6%)の心血管疾患が確認され、9,846人(9.5%)が死亡しています。
結果は次の通りです。
余暇の身体活動レベルが「低値」のグループに比べると、「中等度」は14%、「高値」は23%、「極めて高値」は15%、心血管系疾患に罹患するリスクが低下していた。
「死亡」でみると、「低値」のグループに比べ、「中等度」は26%、「高値」は41%、「極めて高値」は40%、リスクが低下していた。
一方、仕事での身体活動レベルが「低値」のグループに比べると、「高値」は15%、「極めて高値」は35%、心血管系疾患に罹患するリスクが上昇していた。
「死亡」でみると、「低値」のグループに比べ、「高値」は13%、「極めて高値」は27%、リスクが上昇していた。
************
なぜ、余暇の時間に運動すれば健康になり、仕事で身体を使えば不健康になり死亡率が上昇するのか、その理由は論文からは分かりません。
大切なのは、理由はともかく、仕事で身体を動かす人もそうでない人も、余暇の時間に運動しましょう、ということです。
尚、どのような運動が望ましいかについてまでは分析されていませんが、当院で勧めることが多いのは、50歳未満ならジョギング、50歳以上なら速いスピードのウォーキング、さらに年齢に応じた筋トレです。
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