医療ニュース

2021年7月19日 月曜日

2021年7月19日 血圧の薬カルシウム拮抗薬は男性の「夜間頻尿」に注意

 血圧が高い……
 夜中にトイレに起きる……

 これらは共に中年以降の男性によくある訴えです。血圧については程度やその人の背景(例えば肥満や喫煙があれば基準が厳しくなる)にもよりますが、運動や食事療法で改善しない場合は薬を検討することになります。

 その血圧の薬のせいで夜中のトイレの回数が増えるようなことは避けたいものです。

 しかし、血圧の薬によってはそうなりやすいのはどうやら間違いなさそうです。

 医学誌「Journal of Clinical Medicine」2021年4月9日号に興味深い論文が掲載されました。タイトルは「カルシウムブ拮抗薬は40歳以上の男性の夜間頻尿に関連 (Calcium Channel Blockers Are Associated with Nocturia in Men Aged 40 Years or Older )」です。

 研究の対象者は泌尿器科に入院していた40歳以上の男性合計418人です。夜間の排尿回数は次のようになりました。

・降圧薬を飲んでいない人:1.35回
・カルシウム拮抗薬以外の降圧薬を飲んでいる人:1.48回
 (飲んでいない人との有意差はなし)
・カルシウム拮抗薬だけを飲んでいる人:1.77回
・カルシウム拮抗薬を含む降圧薬を2種以上飲んでいる人:1.90回

 カルシウム拮抗薬だけが夜間頻尿を促すというわけです。そして、この研究にはもうひとつ興味深い結果が導かれています。この傾向は若年者(40~65歳)で顕著だというのです。この年代では、カルシウム拮抗薬を飲んでいない男性の夜間の排尿は0.96回なのに対し、飲んでいる男性では2.00回に上昇しているのです。

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 降圧薬を簡単にまとめてみましょう。次の種類があります。

#1 カルシウム拮抗薬
#2 ARB(アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬)
#3 ACE阻害薬
#4 βブロッカー

 他にはαブロッカー、サイアザイド系利尿薬、漢方薬などがあります。#1から#4では、太融寺町谷口医院の処方量で言えば、(ARB>>カルシウム拮抗薬≒βブロッカー>>その他)です。ACE阻害薬は、ARBと似た薬ですが副作用がそれなりの頻度で出現するため、ARBの後発品が登場してからはほとんど使わなくなりました。

 カルシウム拮抗薬は昔からある薬で後発品も豊富にそろっていますから、谷口医院を開院したころには最も多く処方していたのですが、年々頻度が減ってきています。実は、夜間頻尿は以前から(この論文の登場前から)訴える人はそれなりにいましたし、顔がほてる、むくむ、という訴えもそれなりにあり、さらに他の薬と飲み合わせが複雑であることから次第に処方頻度は減っていきました。ただし、血圧を下げる力は最も強いように思えます。

 血圧の薬を飲んでいる男性は、最近気になる夜間のトイレは年齢のせいではない可能性があります。特に若い人は一度薬の見直しをしてもいいかもしれません。

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2021年6月17日 木曜日

2021年6月17日 中年期の孤独と睡眠不足が認知症のリスク

 エーザイが認知症の新しい薬を発売予定という話題が盛んですが、この薬は米国で承認されたとは言え、万人に効くわけではありません。また認知症は、遺伝的にあらかじめ決まっているリスクを測定することはできますが(下記参照)、遺伝子を変えることはできません。

 よって、中年期(あるいはもっと若い時期)から予防をしていくしかありません。予防をするには遺伝以外の認知症のリスク対策をしなければなりませんが、リスクとして決定的なものが見つかっているとは言えません。ですが、今回発表された2つの論文は注目に値します。

 1つ目は医学誌「Alzheimer’s & Dementia」2021年3月24日号に掲載された論文「Framingham Heart Studyにおける孤独とアルツハイマー型認知症のリスクとの関連(Associations of loneliness with risk of Alzheimer’s disease dementia in the Framingham Heart Study)」です。

 この研究の対象は「Framingham Heart Study」という名の疫学研究に参加した45~64歳の2,880人です。持続的な孤独を感じている人は、孤独を感じていない人に比べて、認知症の発症リスクが91%も高いという結果がでました。さらにこの研究には興味深い点が2つあります。

 1つは、一時的に孤独を感じていた人は、孤独を感じていなかった人に比べて、認知症の発症リスクが0.34倍に、つまり66%も減少するというのです。

 もう一つは、「一人暮らしをしているからといって認知症のリスクが上昇するわけではない」ことです。これについては、この論文を紹介した米国の健康情報ニュースサイトのHealthDayが伝えています。一人暮らしがリスクにならないということは、「一人でいても必ずしも孤独でない。他人と過ごしていても孤独なことがある」ということを意味します。

 2つ目の論文を紹介しましょう。科学誌「nature communication」2021年4月20日に掲載された論文「中高年の睡眠時間と認知症の発生率との関連(Association of sleep duration in middle and old age with incidence of dementia)」です。

 研究の対象者はイギリスの公務員7,959人で追跡期間は25年間です。この間に521人が認知症を発症、発症時の平均年齢は77.1歳でした。1日に7時間の睡眠をとっていた人の発症リスクが最も低く、6時間以下で上がっていました。中年期から7時間睡眠を維持している人に比べると、6時間以下の人は認知症の発症リスクが30%上昇していました。

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 2つの論文を合わせた結論は、「いったん孤独を感じてその後孤独から抜け出した人。ただしその間も睡眠時間はしっかり確保できた人」が最も認知症のリスクが低いということになります。「孤独を感じてその後抜け出す」というのは運がなければ難しそうですが、孤独を感じている人こそ睡眠はとった方がよさそうです。

 ところで、1つ目の論文を紹介したHealthDayの記事は、「孤独な人は、医者、家族、友人などに自分の気持ちを話すように」と勧めています。たしかに、我々医療者が、患者さんから「誰にも言えないような話」を聞く機会がしばしばあります。彼(女)らは無意識的にそのような話を我々におこなうことで孤独感を癒しているのかもしれません。

参考:
次世代検査(リキッド・バイオプシー、ApoE遺伝子、腸内フローラなど)

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2021年6月6日 日曜日

2021年6月6日 米国では女性看護師の自殺リスクが一般女性の2倍

 医師の自殺リスクが高いということがしばしば指摘されます。きちんとした統計データは見たことがないのですが、我々医師の実感としてもこれは正しそうです。医学部の一学年あたりの学生数は80~100人程度しかいないのですが、卒後10年以内にどの大学のどの学年も1人くらいは自殺しているだろうと言われています。

 他方、看護師ではそういう話を聞きません。むしろ、私の個人的な経験でいえば(その多くは太融寺町谷口医院の患者さんですが)看護師として長年勤務して引退されている人は身体も心も健康な人が多いという印象があります。

 しかし、米国では女性看護師の自殺リスクが一般女性の2倍とする研究があります。

 医学誌「JAMA Psychiatry」2021年4月14日号に掲載された論文「米国の看護師と医師の自殺リスク (Association of US Nurse and Physician Occupation With Risk of Suicide)」を紹介しましょう。

 研究に用いられたデータベースでは2017年から2018年にかけて自殺した看護師は2,374人(うち1,912人が女性)、自殺した医師は857人(84.4%が男性)でした。同時期に自殺した一般人口は121,483人(男性が77.8%)でした。これらから、女性10万人あたりの自殺者は看護師で17.1人、一般集団で8.6人となります。よって女性看護師は看護師でない女性にくらべて自殺リスクが約2倍高いということになります。一方、医師は一般人口と比べて自殺リスクが高いとはいえません。

 自殺の方法は「薬物」が多く、薬物を用いた自殺者は一般人口では16.8%なのに対し、医療者では24.9%もあります。使用される薬物は、医療者では、バルビツール酸(睡眠薬)、オピオイド(医療用麻薬)、ベンゾジアゼピンが多かったようです。

 尚、この研究は新型コロナウイルス流行前のデータであることを押さえておいた方がいいでしょう。きちんとした統計があるかどうかわかりませんが、(女性)看護師が新型コロナのせいで自殺したというニュースを何度か読んだ記憶があります。コロナを加味すればさらに自殺リスクが高くなるかもしれません。

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 冒頭で述べたように、引退後もいきいきとしている女性に元看護師が多いという印象が私にはあるのですが(他には元小学校の先生も多い)、よく思い出してみると、谷口医院に通院している若い女性看護師は精神疾患を持ち合わせていることが少なくありません。さすがにバルビツールやオピオイドを常用している人は(ほぼ)いませんが、ベンゾジアゼピンに頼っている看護師はそれなりに多いといえます。

 ベンゾジアゼピンはゆっくりと減らしていく治療をおこなっていくわけですが、上手くいかないこともあります。なかには、看護業務を続けられなくなり、看護師をやめて別の仕事にうつる人(なかには社会復帰できない人も)もいます。

 ということは、「女性看護師は引退後もいきいき」は「元々引退後も健やかにすごせる人が看護師に向いている」ということであり、「元々メンタルが強くない人が看護師になると薬物に依存するようになり自殺のリスクも上がる」ということなのかもしれません。

 たしかに看護師の世界は(おそらく医師の世界よりも)厳しい社会です。ですが、ものすごくやりがいがあって他者に貢献できる職業なのは事実です。谷口医院の患者さんのなかには(なぜか)「これから看護師を目指します」と話す30~40代の女性が少なくなく、またメールでそのような相談を受けることもしばしばあります。

 どうかそういった人たちも、米国のこの研究で将来に不安を感じるのではなく、「なぜ看護師を目指そうと思ったのか」をいつも思い出して自身の夢に進んでもらいたいと思います。看護師が素晴らしい職業であることは私が保障します。

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2021年5月30日 日曜日

2021年5月30日 「仕事で身体動かしてます」は無意味?

 2007年の開院以来、当院が一貫して言い続けているのが「検査や薬は最小限に」です。では、薬を極力減らしてどのように治療しているかというと、最も患者さんに言い続けているのが「運動」です。肥満や他の生活習慣病はもちろん、頭痛やめまいなどの神経疾患、胃炎や過敏性腸症候群などの消化器疾患、肩こりや腰痛といった整形外科的疾患、うつや不安などの精神疾患にも運動を積極的に勧めています。そして実際、運動だけでこういった疾患が治癒することも少なくありません。

 患者さんに「運動しましょうよ」と言って、よく反論されるのが「私は仕事で身体を動かすので、運動はすでにしています」というものです。しかし、私の経験上、「仕事での運動」は(職種にもよりますが)あまり効果がありません。今回紹介するのはその私の考えを支持するような論文です。

 医学誌「European Heart Journal」2021年4月14日号に掲載された論文「心血管疾患における身体活動のパラドックスと全死亡率: 104,046人の成人を対象としたコペンハーゲンの人口調査 (The physical activity paradox in cardiovascular disease and all-cause mortality: the contemporary Copenhagen General Population Study with 104 046 adults)」によると、「余暇の時間に運動をすると心血管疾患のリスクが低下するが、仕事で身体を動かすと逆に上昇する」ようです。

 研究の対象はデンマークの20~100歳の一般住民104,046人です。余暇の身体活動レベル、及び仕事での身体活動レベルが、自己申告に基づいて「低値」「中等度」「高値」「極めて高値」の4つのグループに分られています。そして、追跡調査を10年間(中央値)おこない、心血管疾患との関連が調べられています。追跡期間中に7,913件(7.6%)の心血管疾患が確認され、9,846人(9.5%)が死亡しています。

 結果は次の通りです。

 余暇の身体活動レベルが「低値」のグループに比べると、「中等度」は14%、「高値」は23%、「極めて高値」は15%、心血管系疾患に罹患するリスクが低下していた。

 「死亡」でみると、「低値」のグループに比べ、「中等度」は26%、「高値」は41%、「極めて高値」は40%、リスクが低下していた。

 一方、仕事での身体活動レベルが「低値」のグループに比べると、「高値」は15%、「極めて高値」は35%、心血管系疾患に罹患するリスクが上昇していた。

 「死亡」でみると、「低値」のグループに比べ、「高値」は13%、「極めて高値」は27%、リスクが上昇していた。

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 なぜ、余暇の時間に運動すれば健康になり、仕事で身体を使えば不健康になり死亡率が上昇するのか、その理由は論文からは分かりません。

 大切なのは、理由はともかく、仕事で身体を動かす人もそうでない人も、余暇の時間に運動しましょう、ということです。

 尚、どのような運動が望ましいかについてまでは分析されていませんが、当院で勧めることが多いのは、50歳未満ならジョギング、50歳以上なら速いスピードのウォーキング、さらに年齢に応じた筋トレです。

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2021年5月9日 日曜日

2021年5月9日 鳥のさえずりと水の音で健康増進

 波の音と鳥のさえずりで目を覚ます日々……。考えただけでワクワクするのは私だけではないでしょう。そして、こういった環境が健康を増進するという研究結果が発表されました。

 医学誌「PNAS」2021年4月6日号に発表された論文「自然の音による健康上の利点と国立公園でのそれらの分布 (A synthesis of health benefits of natural sounds and their distribution in national parks)」です。

 この研究では、これまでに発表された自然の音についての合計36件の論文が精査されています。その上で、18件を取り出しそれらを総合的に解析(これをメタ解析とよびます)しています。その結果、単に気分が改善するだけでなく、痛みが軽減し、ストレスが減り、さらに、認知能力の向上も認められたのです。

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 この論文は米国の健康サイトHealthDayでも取り上げられています。タイトルは「(波の音と鳥のさえずり、自然の音が癒しをもたらすことを示した研究(Waves Lapping, Birds Singing: Nature’s Sounds Bring Healing, Study Finds)」です。さらに、ビデオもあります。

 公園の横に位置したマンションやホテルはそれだけで人気があると聞いたことがあります。公園の存在だけでなく、鳥のさえずりも人気に寄与しているのかもしれません。公園に噴水や池があれば尚いいと思いますが、それらがあったとしても「水の音」は聞こえるのでしょうか。

 と、ここまで書いて思い出したのが大阪の梅田にあるウエスティンホテルです。私はこのような高級ホテルとは(おそらく生涯)縁がありませんが、このホテル、中庭に「森」があり、その中に滝があることで有名です。近くを通ると(私も通ったことはあります)、まさに本物の滝と同じ音が聞けます。季節と時間によっては鳥のさえずりも聞こえるでしょうから、最高にリラックスできるかもしれません。

 ちなみに私は、高級ホテルではありませんが、以前タイ南部の田舎にある海に面したホテルに泊まったことがありこの体験をしました。周りには何もないところで、まさに波の音と小鳥のさえずりで目を覚ましたのです。着替えて海岸に行くと、海藻をとっている高齢の女性がひとりいるだけ。海は格別きれいというわけではありませんでしたが、10年以上も前のあの朝のシーンを今回紹介した論文を読んで思い出しました。

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2021年4月28日 水曜日

2021年4月28日 「濃厚接触」の定義はどのように変わったのか

 「濃厚接触」、1年前から毎日何度も聞くようになった言葉です。

 「わたしは濃厚接触になりますか?」「保健所からは濃厚接触ではないと言われたのですが…」「濃厚接触の人と接したわたしも濃厚接触ですか?」などなど、この濃厚接触という言葉をめぐって今も毎日多くの問合せが寄せられています。

 その(新型コロナウイルスに関する)濃厚接触の定義が最近変更になりました。

 下記は変更前の定義です。国立感染症研究所による「新型コロナウイルス感染症者に対する積極的疫学調査実施要項」(2020年5月29日版)に記載されています。

「濃厚接触者」とは、「患者(確定例)」(「無症状病原体保有者」を含む。以下同じ)の感染可能期間において当該患者が入院、宿泊療養又は自宅療養を開始するまでに接触した者のうち、次の範囲に該当する者である。

 (1)患者(確定例)と同居あるいは長時間の接触(車内、航空機内等を含む)があった者

 (2)適切な感染防護なしに患者(確定例)を診察、看護もしくは介護していた者

 (3)患者(確定例)の気道分泌液もしくは体液等の汚染物質に直接触れた可能性が高い者

 (4)その他:手で触れることのできる距離(目安として1m)で、必要な感染予防策なしで、「患者(確定例)」と15分以上の接触があった者(周辺の環境や接触の状況等個々の状況から患者の感染性を総合的に判断する)。

 2021年4月20日、この定義が見直されました。厚労省のサイトにも書かれていますが、より分かりやすいのはNHKの説明です。

 ポイントは「発症の2日前から1メートル以内で15分以上接触」という点です。以前は「期間」についての記述があいまいでしたが、新しい定義でははっきりと「発症の2日前」とされています。距離については、以前は2メートルで新しい基準は1メートル、時間は変わらずに「15分間」です。

 2メートルから1メートルに距離は縮められたわけですから、ここだけを見ると、「以前は濃厚接触だったけれど新しい定義では濃厚接触にならない」ケースが増えるように思えますが、NHKは「今回の変更で全国的に増加する見通し」と断定しています。これは、「発症の2日前」と断定されたことで該当者が大幅に増加すると考えているからです。

 無症状の発症前の2日間は行動範囲が広いことが予想されますから、そうなるのは当然でしょう。

 ただし、あまりこの定義にはこだわらない方がいいと思います。また、「保健所が濃厚接触でないと言ったから…」というのも感染していない理由にはなりません。実際、保健所からは濃厚接触でないと言われ感染していた人も大勢います。

 結論としては「気になれば検査を」です。太融寺町谷口医院では、当院をかかりつけ医にしている人と海外渡航目的の人以外は新型コロナウイルスの検査をおこなっていませんが、最近は民間の検査会社が驚くほど低価格(当院が使っているロシュ社製の検査は何倍もします)で検査を実施しています。精度に問題があるという指摘もあるようですが、しないよりはましです。依然として医療者のなかには「PCRの対象を絞れ」という意見も多いのですが、私自身は「疑えば検査を」と言い続けています。

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2021年4月28日 水曜日

2021年4月27日 たった一度の頭部外傷で認知症リスクが上昇

 慢性外傷性脳症(以下「CTE」)の恐ろしさについてこれまで繰り返し述べてきました。今も日本ではこの疾患があまり注目されていませんが、スポーツに捧げた人生の最期が悲惨なものになることから、海外ではサッカーを含むコンタクトスポーツの是非が見直されつつあります。

 一般にCTEは繰り返し脳震盪を起こしたような人がハイリスクと言われています。では”繰り返さなければ”リスクは低いのでしょうか。

 たった一度の頭部外傷で認知症のリスクが上昇する……

 医学誌「Alzheimer’s & Dementia」2021年3月9日号(オンライン版)に掲載された論文でこのようなことが言われています。論文のタイトルは「頭部外傷と認知症の25年間のリスク(Head injury and 25‐year risk of dementia)」で、要約すると「たった一度でも頭部外傷の経験があれば後年に認知症を発症するリスクが25%高く、受傷回数が多いほどそのリスクは上昇する」というものです。

 研究の対象は米国のARIC(Atherosclerosis Risk in Communities)と呼ばれる研究に参加した14,376人(研究開始時の平均年齢は54歳、56%が女性)。追跡期間中(中央値25年)に、対面または電話で頭部外傷に関する聞き取り調査をおこない、さらに対象者のカルテから過去の頭部外傷のエピソードが調べられています。

 認知症との関係を分析したところ、認知症を発症した人の9.5%が、過去に生じた1回以上の頭部外傷に関連していることが分かりました。頭部外傷のエピソードがある人とない人を比較すると、一度のエピソードがある人は、後年に認知症を発症するリスクが25%高いことが分かりました。2回以上あれば25年後の発症リスクが2倍以上になっていました。

 男女の比較では、女性の方がリスクが高く(女性1.69倍、男性1.15倍)、白人の方が黒人よりもリスクが高い(白人1.55倍、黒人1.22倍)ことが分かりました。

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 どうやら、我々の頭部は固い頭蓋骨に保護されているとはいえ、それほど強固なものではなさそうです。コンタクトスポーツのみならず、日常生活でも注意すべきでしょう。バイク乗車はもちろん、自転車でもヘルメット装着がもっと検討されてもいいかもしれません。

参考:

医療ニュース
2020年8月17日「小児のヘディングは禁止すべきか」
2019年11月23日「やはりサッカーも認知症のリスク」
はやりの病気
第137回(2015年1月)「脳振盪の誤解~慢性外傷性脳症(CTE)の恐怖~」

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2021年4月1日 木曜日

2021年3月31日 心臓の病気で死にやすいのは低所得で運動しない人?

 心疾患に関する論文で興味深いものが2つありましたのでまとめて紹介します。

 ひとつめは「運動不足の人は心臓発作で死にやすい」とするものです。医学誌「European Journal of Preventive Cardiology」2021年2月10日号に掲載された論文「死に至る心筋梗塞と過去の身体活動レベルとの関連 (Association of fatal myocardial infarction with past level of physical activity: a pooled analysis of cohort studies)」によると、日ごろの身体活動量が多い人は、たとえ心筋梗塞の発作を起こしたとしても、死亡しにくいことが分かりました。

 この研究はこれまでに発表された10件の研究を統合して解析し直すこと(メタ解析)によりおこなわれています。研究の対象となった総人数は1,495,254人。追跡期間中に心筋梗塞を発症したのは28,140人。そのなかで発症後28日以内に死亡したのが4,976人(17.7%)でした。

 対象者は身体活動量によって4つにわけられています。「ほとんど運動しないグループ」、「低運動グループ」、「中運動グループ」、「高運動グループ」の4つです。

 「ほとんど運動しないグループ」に比べて、「低運動グループ」、「中運動グループ」、「高運動グループ」は死亡リスクがそれぞれ、21%、33%、45%少ないことが分かりました。

 もうひとつの研究は「収入が多い人ほど心臓が丈夫」とするもので、これは日本の研究です。医学誌「Journal of Occupational Health」2020年2月2日号に掲載された論文「東京の労働者、社会経済的地位が運動習慣と心肺機能に関連 (Socioeconomic status relates to exercise habits and cardiorespiratory fitness among workers in the Tokyo area)」によると、雇用形態や収入、学歴と、運動習慣や心肺機能に関連のあることが分かりました。

 この研究の対象者は東京、埼玉、千葉、神奈川のいずれかに在住で、1日6時間以上、週3日以上働いている20~65歳9,406人(うち男性は56.0%)です。調査は2018年1月~7月にウェブサイト上でおこなわれました。結果は次の通りです。

・年齢と運動習慣の有無は無関係
・既婚者の方が未婚者より運動している(34.7% vs 30.9%)
・高学歴者の方が運動している(大学院卒36.7% vs 高卒者27.8%)
・経営者(雇用者)>正社員(フルタイム従業員)>パートタイムワーカーの順に運動している(41.5% > 36.7% > 27.8%)
・標準体重の人は肥満者ややせている者よりよく運動している

 この研究が興味深いのは、(ウェブ上のアンケートですから)実際には測定していないものの、年齢、性別、BMI、身体活動量から最大酸素摂取量を算出し、これと社会的因子の関係を調べていることです。最大酸素摂取量が大きいほど心配機能が高いと考えればOKです。
 
 その結果、心配機能の高低には次のように関係があることが分かりました。

・大卒者 > 高卒者
・経営者(雇用者)>フルタイム従業員>パートタイムワーカー

 さらに、年収上位3分の1のグループは、下位3分の1のグループに比べて運動習慣がある確率が76%高く、心肺能力が劣る確率が47%低いことがわかりました。

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 2つの論文をまとめると、運動すれば心臓が強くなり(これは当然と言えば当然)、学歴が高く収入が多いほど運動していて心肺機能が高い、となります。最近、所得で寿命が決まるというようなことがよく言われます。それを裏付けるような研究と言えるかもしれません。

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2021年4月1日 木曜日

2021年3月31日 ステロイドは塗り薬でも骨粗しょう症のリスク増大

 アトピー性皮膚炎(以下、単に「アトピー」)の治療の最大のポイントはステロイドを早く終わらせることです!

 これは太融寺町谷口医院でほぼすべてのアトピーの患者さんに対して15年前から言い続けている言葉です。ほぼ100%の患者さんに「ステロイドを塗るのは今から1週間のみ。その後は生涯塗らなくてOK」と伝えています。そして、実際、きちんとケアをすればほとんどの患者さんがステロイドゼロにもっていけます(ただし頭皮は除く)。

 しかしながら、痒みがとれれば「忙しい」などを言い訳にしてケアを怠り、再びステロイドが必要になる人もいます。そういう人には「今度こそ今から1週間が生涯最後のステロイド」と伝えるのですが、やはりケアを怠って……、という人もなかにはいます。今回はそんな人にこそ知ってもらいたい研究結果です。

 ステロイドは塗り薬でも骨粗しょう症や骨折のリスクになる!

 医学誌「JAMA Dermatology」2021年1月20日号に掲載された論文「ステロイド外用薬と骨粗しょう症および骨粗鬆しょうが原因の骨折のリスクとの関連 (Association of Potent and Very Potent Topical Corticosteroids and the Risk of Osteoporosis and Major Osteoporotic Fractures)」で報告されています。

 この研究の対象者はデンマークの723,251人。データベースを用いて解析されています。ステロイド外用の累積使用量が500g未満に比べて、501~999gの場合、骨粗しょう症が原因の骨折のリスクが1.01倍に、1,000~1,999gであれば1.05倍に上昇します。2,000~9,999gなら1.10倍、10,000g以上になると1.27倍にもなります。

 また、ステロイド使用量が倍になる度に骨粗しょう症及び骨粗しょう症が原因の骨折のリスクが3%ずつ増加するという結果も出ています。

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 ステロイド10,000gというと、1本が5gの軟膏でいえば2,000本に相当します。2,000本と聞くと多いような気がしますが、太融寺町谷口医院を受診する人のなかには、「これまでの人生でそれ以上使ってきた」と答える人も少なくありません。例えば、月に20本使えば8年4か月で”達成”してしまいます。

 ステロイド外用で骨折が起こるということは当然血中に吸収されているということです。血中にステロイドが吸収されているのなら、骨折以外にも当然様々な副作用が起こり得ます。

 私が医師になり20年近くがたちますが、以前に比べてステロイドに対する危機感が社会全体で薄れているような気がします。改めてステロイドのリスクを見直す必要があります。ちなみに、この研究の対象とされたステロイドは先発品でいえば「フルメタ」です。

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2021年3月1日 月曜日

2021年2月28日 頻繁に旅行をすれば幸せが7%アップ!

 今月(2021年2月)のマンスリーレポート「コロナ禍でも旅に出よう」で、「旅は人生を豊かにする」ということを述べました。それを書いたこともあり「旅/travel」をキーワードにネット検索していると興味深い記事が見つかりました。

 医学誌「Tourism Analysis」2020年12月5日号に論文「頻繁に旅行に行けば人は幸せになれるだろうか(Would You Be More Satisfied with Your Life If You Travel More Frequently?)」が掲載されました。それを医療系のメディア「News Medical Life Science」「HealthDay News」が分かりやすく解説しています。

 この研究の最大のポイントは単に「旅行」の効用を調べたのではなく「頻繁に旅行にいくこと」に着眼している点です。

 研究の対象は500人。「旅行の重要性」「旅行計画にかける時間」「年間の旅行回数」「人生の満足度」なども調べられています。

 結果、自宅から75マイル(120km)以上離れた場所に定期的に旅行する人は、あまり旅行をしない人や全く旅行をしない人と比べて、約7%幸せを多く感じているという結果が出ました。

 この調査ではもうひとつ興味深いことが分かりました。日ごろから休暇について話したり計画したりする人ほど実際に休暇を取り旅行に行く可能性が高くなるというのです。

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 日ごろから旅行のことを考えていれば実際に旅行に行く回数が増えるのは当然といえば当然ですが、それでもこの「事実」は重要だと思います。「人生を幸福にしたければ旅に出よ。旅に出ていないときは旅のことを考えよ」、と言えそうです。

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