医療ニュース
2021年12月22日 水曜日
2021年12月22日 サッカーは直ちにやめるべきかもしれない
日本ではなぜかほとんど関心が持たれていませんが、10年ほど前から欧米諸国ではアメリカンフットボールやサッカーなどコンタクトスポーツ選手の慢性外傷性脳症(CTE)が注目を集めています。なにしろ、かなりの高確率で引退後に脳の障害や認知症に苦しみ、寿命も短くなるわけですから、選手自身や家族は気が気でありません。
今回はサッカーがいかに危険かを示した2つの研究を紹介したいと思います。
まずは、医学誌「Neurology」2021年11月24日号に掲載された「繰り返す頭部衝撃を受けた脳のMRIの異常と神経病理学との関連 (Association Between Antemortem FLAIR White Matter Hyperintensities and Neuropathology in Brain Donors Exposed to Repetitive Head Impacts)」です。
この研究の調査対象者は67人の元サッカー選手及び他の8人(過去にサッカー、ボクシング、軍隊加入のいずれかがある)です。研究開始時点で対象者は全員が死亡していました(なんと平均67歳という若さです)。全員が生存中に脳のMRIを撮影しており、全員が死亡後、研究のために脳を寄付しています。
高齢化に伴い、脳のMRIでは「白質高信号(white matter hyperintensities)」と呼ばれる「スポット」が認められます。この所見はCTEやアルツハイマー病に関連していることが分かっています。今回の研究ではこのスポットの単位が増えるごとに、深刻な小血管障害や白質(脳の一部)の損傷が生じるリスクが2倍になることが分かりました。
解剖ではおよそ7割の(75人中)53人にCTEが認められました。家族の証言からも研究に参加した対象者のおよそ3分の2が認知症に苦しんでいたそうです。
もうひとつの研究は医学誌「JAMA Neurology」2021年8月2日号に掲載された「男性の元プロサッカー選手のポジションとキャリアの長さと神経変性疾患のリスクとの関連 (Association of Field Position and Career Length With Risk of Neurodegenerative Disease in Male Former Professional Soccer Players)」です。
研究の対象者はスコットランド人男性の元プロサッカー選手7,676人。対照として、年齢や経済状況をマッチさせた23,028人の一般人が選ばれています。
7,676人の元サッカー選手のなかでCTEを発症したのは386人(5.0%)で、対照群では366人(1.6%)。リスクは3.66倍となります。
さて、この研究が興味深いのはここからです。サッカーのポジションごとにリスクが検討されているのです。最もリスクが低いのはゴールキーパーで1.83倍(ヘディングする機会が他のポジションよりも少ないから当然でしょう)、最も高いのはフォワードでもミッドフィルダーでもなく「ディフェンダー」で4.98倍です(こちらも当然でしょう)。
キャリアの長さでみると、長ければ長いほどリスクは上昇します。15年以上のプロのキャリアを持つ選手ではリスクがなんと5.20倍にもなっています。
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あくまでも個人的な意見ですが、サッカーという競技自体を見直した方がいいのではないでしょうか。少なくとも、サッカーを開始する時点で本人と保護者はCTEのリスクをきちんと知らされるべきだと思います。
サッカーだけではありません。過去のコラム(下記参照)で、米国ではアメリカンフットボールの元選手の多くがCTEで不幸な結末を迎えていることを紹介しました。オバマ元大統領は「自分に息子がいれば(アメリカン)フットボールはさせない」と公言しています。スポーツの選択には科学的な視点を加えるべきだと思います。
医療ニュース
2017年8月30日 アメリカンフットボールの選手のほとんどがCTEに!
2019年11月23日 やはりサッカーも認知症のリスク
2016年10月14日 コンタクトスポーツ経験者の3割以上が慢性外傷性脳症
はやりの病気
第137回(2015年1月) 脳振盪の誤解~慢性外傷性脳症(CTE)の恐怖~
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|2021年11月25日 木曜日
2021年11月25日 ω3系脂肪酸は心房細動のリスク
最近の「医療ニュース」で、「ω3系脂肪酸(以下、単に「ω3」)は片頭痛を改善させる」というω3が有用だという話をしましたが、今回は否定的な話題です。
ω3のサプリメント接種で心房細動(不整脈の一種)のリスクが上昇する……
医学誌「Circulation」2021年10月6日号に掲載された論文「心血管疾患のランダム化比較試験における心房細動のリスクに対する長期のω3脂肪酸サプリメントの効果:系統的レビューとメタ分析 (Effect of Long-Term Marine Omega-3 Fatty Acids Supplementation on the Risk of Atrial Fibrillation in Randomized Controlled Trials of Cardiovascular Outcomes: A Systematic Review and Meta-Analysis)」を紹介します。
この研究は過去に発表された良質な論文を集めて解析し直すこと(メタ分析)で結論を出しています。解析全対象者は81,210人で、58,939人(72.6%)は1日当たりのω3の摂取量が1グラム以下、22,271人(27.4%)は1グラムを超える量を摂取していました。ω3の1日当たりの摂取量が1グラムを超えていると、心房細動の発症リスクが49%上昇していたのに対し、1グラム以下ではリスク上昇は12%にとどまっていました。
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巷ではω3は心臓に優しいと言われているのにも関わらず心房細動のリスクになるとは驚きです。
ですが、結論から言えば、過去にも述べたようにほとんどの日本人にとってω3のサプリメントは不要です。ついでに言えば、医薬品としてのω3も不要です。そもそも日本人のω3の平均摂取量はおよそ2グラムです。一方、標準的な米国人では1日あたりの摂取量は1グラム以下です。
そして、ω3のサプリメントを多くとっても有益性はなく、逆に前立腺がんのリスクを上昇させるという研究もあります。サプリメントや製薬会社の宣伝に踊らされるのではなく、日本人らしい食事をしていればそれでOKということです。心房細動はいったん発症すると、生涯にわたり血液をサラサラにする薬を飲まなければならないことも多く、日常生活が制限されてしまいます。また、突然死のリスクも増えます。
サプリメントのせいで心房細動を起こしたとしたら、後悔してもしきれないでしょう。
<参考>
メディカルエッセイ第122回(2013年3月)「不飽和脂肪酸をめぐる混乱」
医療ニュース
2021年8月29日「片頭痛を大きく改善させるω3脂肪酸」
2018年12月30日「ω3系脂肪酸、心血管疾患にもがんにも予防効果なし」
2013年7月31日「ω3系脂肪酸で前立腺ガンのリスクが4割上昇」
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|2021年11月14日 日曜日
2021年11月8日 片頭痛は認知症のリスク
過去に紹介した医療ニュースで「片頭痛がアルツハイマー病のリスクになる」とする研究について紹介しました(医療ニュース2019年10月27日「片頭痛があればアルツハイマーのリスクが4.2倍」)。この研究はかなりのインパクトがあり、この医療ニュースを読んだ方からの問合せも多かったのですが、最近はあまり触れられなくなってきていました。
最近、同じように片頭痛が認知症のリスクであることを示した研究が報告されたので紹介します。
医学誌「Acta Neurologica Scandinavica」オンライン版2021年9月15日号に掲載された「片頭痛と認知症のリスクにおけるメタ解析(Meta-analysis of association between migraine and risk of dementia)」という論文です。
冒頭で述べた過去に紹介した研究は「前向き研究」と呼ばれる信頼度の高い検査です。今回紹介する研究は「メタ解析」で、これまでに発表された質の高い5つの研究を総合的にまとめ直したものであり、さらに信頼度は高いと言えます。研究の総対象者は合計249,303人とかなり多い人数が選ばれています(よって信ぴょう性は上がります)。結果は以下の通りです。
・片頭痛はすべての認知症のリスクを34%上昇させる。
・片頭痛はアルツハイマー病のリスクを2.49倍上昇させる
・ただし、片頭痛は血管性認知症のリスクを上昇させるわけではない
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この論文、片頭痛がある人には非常に不快なものではないでしょうか。もしも「片頭痛は血管性認知症のリスクを上げる」なら、血管性認知症のリスクを下げる生活習慣を身に着ければいいわけです。例えば、運動をする、適正体重を維持する、などです。
ですが、血管性認知症のリスクではなくアルツハイマー病のリスクを上げるとなると、対策のとりようがありません。もちろん、運動や適正体重、良質な食事などはアルツハイマー病のリスクを下げるとは言われていますが、決定的なものではありません。
冒頭で紹介した過去の論文も「リスクが4.2倍」という悩ましいものでしたが、研究の規模はさほど大きくありませんでした。今回の結果は2.49倍と4.2より数字は小さいわけですが、メタ解析されたもので信頼度はかなり高いと言えます。しかも、そのリスクを下げるための決定的なものはないわけです。
受け止められない人も多いでしょうが、片頭痛がある人は「アルツハイマー病になる」という前提で今後の人生計画を立てた方がいいかもしれません。
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|2021年10月24日 日曜日
2021年10月24日 離乳食「スプーンフルワン」は安全か
数か月前から、乳児の保護者の方たちから繰り返し受けている質問があります。それは「スプーンフルワンで食物アレルギーが予防できるのか」というものです。
まずは離乳食として販売されているこの製品について概要をみてみましょう。
・スイス拠点の世界最大の食品会社ネスレ(Nestle)が開発し世界中で販売している
・食物アレルギーのアレルゲン(原因食品)となりうる16種(鶏卵、牛乳、小麦、ピーナッツ、くるみ、ピーカン、アーモンド、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、ゴマ、大豆、エビ、鱈、鮭、オーツ麦) を含む離乳食
・英語のウェブサイトには、「食物アレルギーの予防になる」という内容の記載があり、小児科医が「昔の考えは間違っていた」「アレルゲンになりうる食品は早く摂取開始すべきだ」といったコメントをしている
・日本のウェブサイトにそのような「効用」を謳った記載はない
英語のサイトでは「食物アレルギーの予防になる」とされている一方で、日本のサイトでは触れられていません。では、スプーンフルワンは食物アレルギーの予防になるのでしょうか。
英語のサイトに書かれているように、以前は「アレルゲンとなる可能性のあるものはできるだけ摂取を遅らせる方がいい」と考えられていました。ところが、現在はこの考えが否定されており、英語のサイトに登場している白人の小児科医が言っているように「早く食べる方がアレルギーになりにくい」のは事実です。これについては、2015年の医療ニュース「ピーナッツアレルギー予防のコンセンサス」で紹介しました。
ですから、英語のサイトが言っていることは間違いではありません。
ところが、2021年10月11日、日本アレルギー学会は、日本小児アレルギー学会、日本小児臨床アレルギー学会、日本外来小児科学会、食物アレルギー研究会の各団体と連名で「乳幼児用のミックス離乳食(Spoonfulone スプーンフルワン)に関する注意喚起」を発表し、「スプーンフルワンの日本語のサイトには食物アレルギー予防の記載がない」ことを強調しています。
この理由は主に2つあります。1つは、「スプーンフルワンを摂取することにより、含まれている16種のアレルギーを発症させる可能性がある」ということ、もう1つは、「スプーンフルワンを摂取できるかどうかを事前に知る方法がない」ということです。
では、結局のところ、スプーンフルワンは食物アレルギーの予防に有効なのでしょうか。
この答えは「そのお子さんによる」としか言いようがありません。食物アレルギーの予防として推薦できることも多いのですが、アトピー性皮膚炎を含む湿疹がある場合、気管支喘息がある場合、すでに食物アレルギーの疑いがある場合などは控えた方がいい場合もあります。そして、やっかいなのは血液検査などで簡単に摂取可能かどうかが分かるわけではない、ということです。
このあたりに食物アレルギーの難しさがあります。
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|2021年10月3日 日曜日
2021年10月3日 新型コロナのChoosing Wisely
以前から太融寺町谷口医院では繰り返しその重要性を訴えているChoosing Wisely。一言で言えば「ムダな医療」をなくそう、ということで、新型コロナウイルス(以下、単に「コロナ」)に関しても考えていかねばなりません。
医学誌「nature medicine」2021年7月5日号に「コロナのChoosing Wisely:患者と医師の10のエビデンスに基づいた推奨 (Choosing Wisely for COVID-19: ten evidence-based recommendations for patients and physicians)」というタイトルの論文が掲載されました。この論文で、コロナのChoosing Wisely10か条が発表されました。最初の5か条は一般市民向け、後半の5か条は医師向けのものです。
<一般市民向け>
#1 公共の場では常に顔面にフィットしたマスクを適切に着用する
#2 屋内での混雑は避ける
#3 コロナを疑う症状があれば検査を受け、症状が軽度でも自己隔離をする
#4 呼吸困難や酸素飽和度が92%以下になった場合は医療機関を受診する
#5 順番が来ればできるだけ早くワクチンを受ける。過去にコロナにかかっていても受ける。
<医師向け>
#6 効果のない(あるいは効果があることが実証されていない)薬を使わない。具体的には、ファビピラビル(アビガン)、イベルメクチン(抗寄生虫薬)、アジスロマイシン(ジスロマック)、ドキシサイクリン(ビブラマイシン)、オセルタミビル(タミフル)、ロピナビル・リトナビル(抗HIV薬)、ヒドロキシクロロキン(抗マラリア薬)、イトリズマブ(日本未発売の乾癬治療薬)、ベバシズマブ(アバスチン)、インターフェロン-α2b、フルボキサミン(抗うつ薬)、回復者の血漿、ハーブ製剤などは使うべきでない
#7 レムデシビルやトシリズマブ(アクテムラ)を使用するときは適用を見極める
#8 ステロイド薬は低酸素血症がある場合にのみ慎重に使用する。使用時には血糖値をモニタし、正常範囲を維持する
#9 治療方針を決定する目的以外でCTの撮影や血液検査をルーチンで行わない
#10 コロナ流行中にもコロナ以外の重症な疾患を見過ごさない
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当然といえば当然のことばかりです。無駄な検査や治療はいつも控えることを考えねばなりません。
ワクチンが普及した今、「スパイク蛋白の抗体(S抗体)の検査をむやみやたらにおこなわない」という一文を入れたいと個人的には思っています。
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|2021年9月23日 木曜日
2021年9月23日 米国で鉄欠乏性貧血が増加している意外な理由
きちんとデータをとったわけではありませんが、太融寺町谷口医院を開業した15年前に比べて、男女とも鉄欠乏性貧血を起こす患者さんが増えているように感じています。今回紹介する研究は米国のものですが、日本でも同じことが言えるかもしれません。
医学誌「The Journal of Nutrition」2021年7月号に掲載された論文「鉄摂取量の減少が米国人の鉄欠乏性貧血および関連死亡率の上昇と類似 (Decreased Iron Intake Parallels Rising Iron Deficiency Anemia and Related Mortality Rates in the US Population )」を紹介します。
この研究は米国人を対象としたデータベースを解析することによっておこなわれています。米国人の食品摂取と鉄欠乏性貧血の関係を調べた結果、「食品に含まれる鉄の摂取量減少が原因で鉄欠乏性貧血の有病率が上昇している」ことが分かりました。
具体的な数字をみていきましょう。まず、全体的に食事から摂取できる鉄分の量が減っています。分析されている1,000以上の食品のうち62.4%が1999年から2018年を比べると鉄の濃度が低くなっています。
米国人の食事内容としては、牛肉の摂取が15.3%減少し、他方鶏肉は21.5%増加しています。食事からの鉄摂取量は男性で6.6%、女性で9.5%減少しています。
米国人の鉄欠乏性貧血の有病率は年齢と性別により20年の間に10.5~106%増加していました。鉄欠乏性貧血に関連する年齢調整死亡率は、20年間で10万人あたり約0.04人から約0.08人に上昇していました。一方、鉄欠乏性貧血以外の貧血(例えば再生不良性貧血)を含む全貧血による死亡は25%以上低下していました。
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要するに、貧血で亡くなる人は減っているのに鉄欠乏性貧血だけは例外。そして米国人が鉄を摂らなくなった原因は2つあって、1つは食品に含まれる鉄分が減少していること、もうひとつが牛肉を食べなくなったこと、というわけです。
私が鉄欠乏性貧血の患者さんによく言うのが「血のしたたるステーキを食べましょう」です。正確にはあの赤い「血のようなもの」は血液ではなく、牛の筋肉を構成するミオグロビンと呼ばれる蛋白質なのですが、この蛋白質にたっぷりの鉄分が含まれているのです。
一方、米国人の間でも摂取量が増えている鶏肉はあまりミオグロビンを含まず、結果として鉄分があまり取れません。ダイエット目的で牛肉より鶏肉と考える人が少なくないようですが、貧血予防には「血のしたたるステーキ」が一番です。
参照:HealthyDayNews 2021年8月4日「食生活の変化は大勢のアメリカ人の貧血を意味する (Changing Diets Mean More Americans Are Anemic Now)」
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|2021年9月2日 木曜日
2021年9月2日 コロナワクチン、心筋炎のリスクにはなるけれど……
最近、コロナワクチンの副作用の質問で多いのが「心筋炎」です。
日本では中日ドラゴンズの木下雄介投手が7月上旬にコロナワクチン接種後(メーカーは不明)にハードなトレーニング中に倒れ意識を失い大学病院に搬送されたものの8月3日に死亡したと報じられています。
香港の英字新聞「South China Morning Post」2021年7月5日号によると、シンガポールの16歳の男子が、ファイザー製のワクチン接種6日後にジムで激しいトレーニングをした直後に心停止を起こしました。
報道からは2人とも死因ははっきりしませんが、若くて健康な男性が激しいトレーニングのさなかに倒れたわけですから、まずは心疾患が疑われます。一般に、心臓の疾患は、中年以降であれば心筋梗塞、心不全、心筋症などが考えられますが、健康な若者が突然倒れた場合は不整脈か心筋炎、心膜炎などが疑われます。
そして実際、ファイザー製のコロナワクチン接種後の心筋炎のリスクは確実にありそうです。
医学誌「The New England Journal of Medicine」2021年8月25日号に掲載された論文「ファイザー社製コロナワクチンの安全性に関する全国調査(Safety of the BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine in a Nationwide Setting)」によると、イスラエルでの全国規模の調査では、(ファイザー製)ワクチン接種による心筋炎のリスクが3.24倍に上昇し、これは人口10万人につき2.7人が発症することになります。
ただし、この論文によると、ワクチンをうたずに新型コロナに感染すると、心筋炎を発症するリスクは18倍以上、10万人あたり11人が発症します。よって、ワクチンをうって起こり得る心筋炎のリスクよりも、感染して心筋炎を発症するリスクの方がずっと高いということになります。
もちろん、一番いいのはワクチンもうたずに新型コロナにもかからずに、そして心筋炎も発症しないことです。心筋炎の原因として圧倒的に多いのはウイルス性です。様々なウイルスが心筋炎の原因となりますが、最も多いのはコクサッキーウイルスのB群と呼ばれるグループです。他には、コクサッキーウイルスのA群、インフルエンザウイルス、HIV、エコーウイルスなども原因となります。そして、おそらく来年あたりの教科書には心筋炎の原因ウイルスのひとつに新型コロナウイルスも付記されるでしょう。
心筋炎の観点からワクチンをうつべきか否かを考えてみましょう。もしも新型コロナにかかれば、かかっていない人に比べて心筋炎を発症するリスクが18倍にもなります。とはいえ、10万人あたり11人ですからさほど多いわけではありません。新型コロナに罹患した人10万人を集めて11人(≒1万人に1人)ですから、気にしないという人もいるでしょう。
一方、ワクチンでのリスクは10万人あたり2.7人で、1万人あたり0.3人と考えるとやはりそんなに多いわけではありません。大切なのは、接種直後に激しい運動をすればリスクが上がるということです。木下投手の報道からは何日後に発症したのかよく分かりませんが、シンガポールの男子は6日後と報道されています。ということは、やはりワクチン接種後1週間はジム(フィットネスクラブ)での激しい運動は避けるべきだ、ということになります。
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|2021年8月29日 日曜日
2021年8月29日 片頭痛を大きく改善させるω3脂肪酸
ω3不飽和脂肪酸(以下、単に「ω3」とします)をしっかり摂取して、ω6不飽和脂肪酸(以下「ω6」)を減らすと、いろんな病気の予防になり健康に良い、ということが随分前から言われています。特に日本では、伝統的にω3を豊富に含む青魚をたくさん食べることから「支持されやすい健康法」だと言えるでしょう。
今回ご紹介するのは、そのω3が「片頭痛の予防効果がある」という話です。尚、ω3は「n-3系脂肪酸」とも呼ばれ、医療者の立場で言えばこちらの方が馴染みのある表現なのですが、一般的にはω3の方がむしろ人口に膾炙しているようですので、ここではω3で統一します。
医学誌「British Medical Journal」2021年7月1日号に「成人の片頭痛を軽減するためのω3およびω6脂肪酸を含む食事変更:ランダム化比較試験 (Dietary alteration of n-3 and n-6 fatty acids for headache reduction in adults with migraine: randomized controlled trial)」という論文が掲載されました。
この研究では米国人の対象者がω3及びω6の摂取量を基準に3つのグループに分けられています。ω3としてEPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)を含む食事が採用されています。ω6にはリノール酸が用いられています。尚、リノール酸を多く含む油の代表がコーン油や大豆油です。
・グループ#1:ω3を多く摂取+ω6は通常(ω3を1.5g/日摂取、リノール酸を摂取エネルギーの7%とする)
・グループ#2:ω3を多く摂取+ω6を減らす(ω3を1.5g/日摂取、リノール酸を摂取エネルギーの1.8%以下とする)
・グループ#3:ω3もω6も通常の食事と同様(ω3を0.15g/日以下、リノール酸を摂取エネルギーの7%とする)
結果、グループ#2では、1日あたりの頭痛時間が減り、1か月あたりの頭痛の日数は平均で4日間減少しました。また、グループ#1でも、グループ#2ほどではないものの、1日あたりの頭痛時間も月あたりの日数も減っています。
ただし、「生活の質を劇的に改善した(significantly improve quality of life)とまでは言えない」、と研究者らは付記しています。
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平均で月あたりの頭痛回数が4日も減ったのなら、生活の質(quality of life)はかなり改善したのではないのか?と私は論文を読んだときに感じたのですが、それはさておき、食の「質」を損なわない、つまり美味しく食べられるのであれば、「ω3を増やしてω6を減らす食事療法」を再考してみてもよさそうです。
ω3について書かれたウェブサイトは星の数ほどありどれを信頼していいのか迷うこともあるでしょう。日本語で読めるサイトとしては厚労省のサイトがお勧めです。ここに書かれていることを簡単にまとめると次のようになります。
・ω3が心疾患に有効なのはまず間違いない
・ω3は関節リウマチにも有効
・ω3が、脳疾患、眼疾患、前立腺がんに有効かどうかは分からない
・ω3は食品から摂ることが推奨され、サプリメントの効果は不明
サプリメントで摂取しても効果がないなら食品から摂るしかありません。まず、日本人は食品からω3がどれだけ摂取できているのかをみてみましょう。
厚労省のサイト(の137ページの表5)を簡略化してまとめると次のようになります。
男性 女性
18~29歳 2.0g/日 1.6g/日
30~49歳 2.0g/日 1.6g/日
50~64歳 2.2g/日 1.9g/日
50歳を超えると摂取量が増えるのは年をとれば肉から魚に食事の趣向が変わるからでしょうか。なぜ、男性が女性よりも多いのかについては、単に食事の総量が多いからだと思われます。
次に、厚労省の定める「1日あたりの目標摂取量」(上記サイトの151ページ)をみてみましょう。
男性 女性
18~29歳 1.92g/日 1.62g/日
30~49歳 2.03g/日 1.59g/日
50~64歳 2.16g/日 1.85g/日
これをみる限り、日本人は男女ともほとんどが基準量を摂取できているようです。基準を満たしていないのは、30~49歳の男性と18~29歳の女性だけですし、いずれもわずかです。先に紹介した米国の研究では1.5g/日を「積極的摂取」とし、通常摂取を0.15g未満としていることに注意してください。米国の標準的な料理ではω3がほとんど摂れていないことがよく分かります。
ちなみに厚労省の同じ資料からω6をみてみると、男女ともほとんどの年齢で基準値をやや超えた量を摂取しています(18~29歳の男性はわずかに基準値を下回っています)。
では、ω3を多く含む食材にはどのようなものがあるのでしょうか。これは以前からいろんなところで発表されていますからお馴染みだと思いますが、改めて確認しておくと、サバやイワシなどの青い魚、亜麻仁油、エゴマ、くるみなどが有名です。
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<参考>
メディカルエッセイ第122回(2013年3月)「不飽和脂肪酸をめぐる混乱」
医療ニュース
2018年12月30日「ω3系脂肪酸、心血管疾患にもがんにも予防効果なし」
2013年7月31日「ω3系脂肪酸で前立腺ガンのリスクが4割上昇」
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|2021年8月15日 日曜日
2021年8月15日 不眠に対する運動は有効か
当院で不眠の相談をしたことがある人には「またかよ」と言われるでしょうが、私は不眠を訴える患者さんほぼ全員に繰り返し「運動をしましょう」と言い続けています。実際、運動だけで不眠症が治った人は決して少なくありません。また、定期的な運動をしている人で不眠で悩む人はほとんどいません(過剰な運動で不眠になる人はいますが)。
しかし、運動が不眠に有効なのはば確実ですが、どの程度有効なのかを評価した質の高い大規模研究はあまりみたことがありません。今回、そういった研究が報告されたのでお伝えします。
研究は医学誌「The Journal of sports medicine and physical fitness」2021年6月号に「原発性不眠症に対する運動介入の効果:メタ分析(Effect of exercise intervention on primary insomnia: a meta-analysis.)」というタイトルで掲載されています。
この研究では、これまでに発表されている運動と睡眠の関係を検討した23の研究をメタ解析しています。運動をした人1,269例と対照グループ(運動をしなかった人)1,203例が比較検討されています。
その結果、運動をすれば不眠を改善する効果が認められることが分かりました。尚、この研究ではSMDという指標が使われています。運動が不眠に有効であることを示すSMDは-(マイナス)1.64、有酸素運動であれば-2.21です。-(マイナス)がついていて、なおかつ絶対値が大きければ大きいほどその関係が強いことを示します。よって、この研究から言えることは、運動が不眠を改善するのは確実であり、なかでも有酸素運動が有効だ、ということになります。
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ところで、睡眠の質が高いか低いかはどのように判断すればいいのでしょうか。専門的には睡眠中の脳波や心拍数を測定するのですが、自宅で医療者の介入なしに簡単にできる方法があります。
それはFitbitを使うことです。AppleWatchではなくFitbitの方が有効です(私見ですが)。Fitbitなら、睡眠の深さがどの程度かを知ることができ、何時に深い睡眠(あるいはレム睡眠)をとっていたかが分かります。同時に心拍数も測定できますから、健康管理にとても役立ちます。念のために付記しておくと、私はFitbitの会社と関係があるわけではなく利益供与はありません。
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|2021年7月29日 木曜日
2021年7月29日 果物摂取で糖尿病リスクが36%低下
果物を積極的に食べるようにすれは糖尿病のリスクが36%も下がる……
このような嬉しい研究結果が医学誌「The Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism」2021年6月2日号に報告されました。論文のタイトルは「あるコホートにおける果物摂取と糖尿病のリスクとの関連(Associations Between Fruit Intake and Risk of Diabetes in the AusDiab Cohort)」です。
研究の対象は合計7,675人のオーストラリア人(平均年齢54歳、男性45%)で、果物の総摂取量で全体を4つのグループに分類しています。最も接種量が少ないグループは1日の果物摂取量が平均で62グラム、2番目に少ないグループは122グラム、上から2番目のグループは230グラム、最も多いグループは372グラムです。
研究では対象者に「糖負荷試験」を実施しています。糖負荷試験とは空腹時に糖(甘い飲み物)を飲んでもらい、その後採血をおこない血糖値やインスリンの血中濃度を測定する試験です。
結果、果物摂取が最も少ないグループに比べて、最も多いグループは糖負荷後、血糖値が3%低く、インスリン濃度が5%低値で、インスリン感受性は6%高くなっていました。インスリンは血中の糖を体内に取り込むときに必要なホルモンです。ということは、糖負荷後にインスリン濃度が低いということはそれだけ糖尿病になりにくいことを意味します。また「インスリン感受性が高い」ということは、少量のインスリンでも効くという意味ですから、やはり糖尿病になりにくいことを示しています。
そして、5年後の2型糖尿病発症リスクを検討すると、果物摂取が最も少ないグループに比べて、最も多いグループは36%リスクが低かったのです。
残念ながら、12年後の調査では果物摂取による糖尿病リスク低下は認められなかったのですが、リンゴ、オレンジ、バナナでは、ある程度のリスク低下がありました。
尚、興味深いことに、果物をジュースにした場合は、糖尿病のリスク低下は認められませんでした。
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果物は糖尿病のリスクと思っていた、と言う患者さんがなぜかけっこういます。また、果物ジュースはむしろ糖尿病のリスクになると思っている人も少なくありません。
この研究を意外に思う人もいるかもしれませんが、果物のGI値(グリセミックインデックス)を考えれば何も不思議ではありません。不思議なのは、果物はたいてい甘い(そして美味しい)のにGI値がさほど高くないことです。一般にGI値が高い食べ物は糖尿病の、そして肥満のリスクになります。白米より玄米、うどんよりそば、と言われるのは、白米より玄米が、うどんよりそばがGI値が低いからです。
果物ジュースで効果が出ない理由は、(これは論文には書いていないことですが)おそらく2つあります。1つは果物そのものを食べるときと異なり、一気に甘い成分(果糖)が体内に吸収されること、もうひとつは本来果物に含まれているはずの食物繊維がジュースにすることにより分解されているからではないかと思われます。
ということは、果物ジュースを飲むときにはゆっくり飲む方がいいということになります。また、果物ジュースが糖尿病のリスクになるわけではなく、すでに糖尿病の人が果物ジュースを飲んではいけないわけではありません。ただし、果物にもよりますから、すでに糖尿病がある人はかかりつけ医に相談してください。
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