医療ニュース
2023年3月5日 日曜日
2023年3月6日 昼寝はうつ病のリスク因子
2007年の谷口医院の開院以来、「睡眠」の相談は数えきれないくらいに聞いています。「寝付けない」「途中で目覚めてしまう」「睡眠時間は長いが熟睡できない」といった狭義の不眠の悩み以外にも、「いくら寝ても寝足りない」「日中すぐに寝てしまう」なども少なくありません。数年前からは「精神科で処方された睡眠薬をやめたい」という訴えが目立ちます。
様々な睡眠の悩みのなかで「昼寝」についての相談も少なくありません。ただ、昼寝についてはよく分かっていないことが多く、私自身も通り一辺倒に回答しているわけではありません。ある患者さんには昼寝を推奨し、また別の患者さんには昼寝をしないよう助言することもあります。ですが、長時間の昼寝は原則として「やめる」ように話をしています。今回紹介する研究はその私の方針を裏付けることになるかもしれません。
昼寝はうつ病のリスク因子である……
医学誌「Frontiers in Psychology」2022年12月15日号に掲載された論文「昼寝とうつ病のリスク:観察研究のメタ分析(Daytime naps and depression risk: A meta-analysis of observational studies)」はそのように結論づけています。
この研究はこれまで発表された論文を改めて検討し解析しなおす「メタ分析」によっておこなわれています。2022年2月までに発表された良質の研究9件をピックアップし、合計649,111人を対象として解析を加えました。
結果、昼寝をする人は、しない人に比べて抑うつ症状をきたすリスクが15%高いことが分かりました。
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この研究が少し残念なのは、昼寝の時間でリスクがどれだけ変わるかが分からないことです。
谷口医院の経験でいえば、短い時間の昼寝、例えば「5~10分程度の昼寝」であれば健康に寄与していることが多く、うつ病のリスクが上昇するなどとは思えません。その逆に、この短時間睡眠で再び集中力が生まれてきます、運転中どうしようもなく眠くなったときに路肩に車を止めて5分眠ればすっきりしたという経験がある人も多いでしょう。
では昼間に1時間寝るという人はどうでしょうか。1時間以上昼寝をする人はたいてい生活が乱れてきます。特に、一日中家にいる人がこういう昼寝をするとどんどん体調が悪化して、この論文が示すとおり抑うつ状態が進行します。
例外があることは認めますが、ほとんどの人は「朝早く起きて昼寝は最小限(5~10分)とする」が理想だと思います。夜中に仕事をしている人の場合も、「起きる時刻を一定にする」が基本であり、好きなときに眠る、というライフスタイルではやがて心身が病んでいきます。
調子が悪くならない「例外」としては、「3時間睡眠を1日2回とる」「2時間睡眠を3回とる」などの方法でうまくいっている人がいます。こういう睡眠パターンの方が生活のパフォーマンスが上がるという人もいます。それは否定しませんがやはり例外的だと思います。
また自称「ショートスリーパー」の人もたくさんみてきましたが、そのうちに心身が疲労してくる人がほとんどです。「睡眠は〇時間が理想」というのは人によって異なりますが、谷口医院の患者さんを大勢みてきて「ほとんどの日本人は6~7.5時間くらいが適しているのではないか」と感じています。
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|2023年2月26日 日曜日
2023年2月26日 他者に優しくすれば自身の抑うつ感や不安感が改善する
2022年12月のマンスリーレポートで、「誰もが簡単に直ちに幸せになれる方法」として「他人に感謝の言葉を述べる」を紹介しました。
この医療ニュースでは、それに似た研究を取り上げたいと思います。「他者に優しくすれば自分自身の抑うつ感や不安感が改善する」という研究です。
医学誌「The Journal of Positive Psychology」2022年2月26日号に掲載された論文「助けることによる治癒:幸福介入としての優しさ、社会活動、(認知の)再評価の実験的調査(Healing through helping: an experimental investigation of kindness, social activities, and reappraisal as well-being interventions)」です。
研究の対象者は軽度の不安感か抑うつ感のある122人(18歳から78歳、中間年齢24.7歳、女性76%)で、ランダムに次の3つのグループに分けられました。
グループ#1 他者に優しくする行為を行う
グループ#2 社会活動を計画して行う(行動療法)
グループ#3 認知の再評価を行う(認知療法)
結果は次の通りです。
・社会的つながり(social connection):グループ#1が、グループ#2及びグループ#3よりも改善
・抑うつ感/不安感・生活満足度(depression/anxiety symptoms and life satisfaction):グループ#1が、グループ#3よりも改善
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この研究の興味深い点は、従来言われてきたような「認知行動療法」が「他者に優しくする」に劣っていることです。
21世紀になってから認知行動療法の有効性がやたら主張されてきました。認知行動療法とは「認知のゆがみを直し」「望ましい行動をする」ことで精神状態を改善させる方法で、保険適用もあります。
保険で認知行動療法を受けるには、厚労省に届け出をした医師または看護師が30分以上かけておこなえば16回まで保険で受けることができます。医師の場合は3割負担で1,440円(480点)、看護師の場合は(正確には「医師及び看護師が共同して行う場合」)は1,050円(350点)です。
認知行動療法を保険診療でおこなう医療機関は精神科を標榜していなくてもかまいません。よって、過去に私自身も研修を受けて届出をして実施しようかと考えたこともあるのですが、やめました。
最大の理由は「30分の時間を確保するのが困難」だからですが、他にもあります。それは、「認知行動療法で改善した患者をみたことがない」からです。
保険適用になるくらいですからエビデンスレベルの高い確固とした治療法なのでしょう。ですが、谷口医院の患者さんで精神科を受診してもらってこの治療で改善した人はいまだに一人も知りません。率直に言って、この治療に効果があるとは思えないのです。
むしろ、「やりがいのある仕事が見つかった」「新しいパートナーができた」という人はそれだけで精神状態が大きく改善することがあります。特にパートナーの存在は大きく、どんな名医よりも「愛し合えるパートナー」が最大の”治療”になります。
そして、パートナーとの愛情を深めて維持させるには互いの思いやりが絶対に必要になります。
そういったことを考えると今回紹介したこの研究はすっと腑に落ちます。あまりこのことを強調しすぎると、「パートナーも友達もいなくて優しくする相手がいない場合はどうするんだ」という反論がくるでしょうが、それでも私は「誰でもいいから身近な人に優しくすることから幸せが始まる」と最近は言うようにしています。
参考:認知行動療法を保険診療で実施している医療機関のリスト
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/support/cbt.html
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|2023年2月9日 木曜日
2023年2月9日 夜勤もシフト勤務も認知症のリスク
夜勤が様々な疾患のリスクになるという話はこのサイトで何度も述べてきました。どのような疾患のリスクになるか、少し例を挙げてみると、乳がん、心筋梗塞などの心疾患、高中性脂肪血症、糖尿病、肥満、交通事故のリスク上昇などです。
そして、今回お伝えしたいのは「夜勤は認知症のリスク」というショッキングな研究です。
医学誌「Frontiers in Neurology」2022年11月7日号に掲載された論文「シフト勤務、夜勤と認知症との関係:系統的評価とメタ分析(Relationship between shift work, night work, and subsequent dementia: A systematic evaluation and meta-analysis)」を紹介します。
研究の対象者は過去の4つの研究の対象となった合計103,104人で、これらを総合的に解析(これをメタ解析と呼びます)することで検討しています。
結果は、夜勤をすると夜勤をしない人と比較して、認知症発症のリスクが12%高いことが分かりました。他方、シフト勤務では「全体としては」そのようなリスク上昇が認められませんでした。しかし、50歳以上に限定して解析しなおすと、シフト勤務をすればしない場合に比べて認知症発症リスクが31%上昇していました。
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認知症のリスク、と言われると、さすがに夜勤に抵抗が出てくる人も少なくないのではないでしょうか。こういったことをあまり言い過ぎるのは、夜勤で頑張ってくれている人に対して失礼な行為ではあります。
ですが、やはりこういった信ぴょう性の高いデータは社会で共有する必要があるでしょう。過去のコラム(下記)にも書いたように、夜勤は若いうちに体験して(そして稼いで)、社会全体で様々な疾患のリスクを減らし、そして医療費も削減する、というのが私が考える理想です。
参考:はやりの病気第192回(2019年8月) 「夜勤」がもたらす病気
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|2023年1月29日 日曜日
2023年1月29日 「鼻腔」の免疫向上に「マスク着用」「鼻を触らない」
最近公開した「はやりの病気」2023年1月号の「「湿度」を調節すれば風邪が防げる」で、マスクはなぜ風邪予防に有効かについて「気道の湿度を保てるから」という研究を紹介しました。しかし、マスクが有効な理由はそれだけではなさそうです。
そのコラムを書いた数日後、たまたま興味深いレポートと論文を発見しました。米国の医療系ニュースサイト「Health Day」に「鼻腔が冷えることが冬に風邪が流行る理由かもしれない(Cooler Noses May Be Key to Winter’s Spike in Colds)」という記事が載っていました。この記事では、医学誌「Allergy and Clinical Immunology」2022年12月6日号に掲載された論文「寒さに晒されると細胞外小胞による鼻腔内のウイルスに対する免疫が下がる(Cold exposure impairs extracellular vesicle swarm-mediated nasal antiviral immunity)」を引き合いに出しています。
Health Dayによると、鼻に細菌が入って来たとき、鼻腔の前部に存在する細胞が働きます。細胞は、まずその細菌を検知し、数十億もの小さな液体で満たされた”袋”を鼻腔粘液に放出します。すると、その”袋”が細菌を攻撃するのです。そして、この袋のことを「細胞外小胞(extracellular vesicles, EVs)」と呼びます。
ではウイルスではどうでしょうか。上述の論文はそれを調べたものです。1種のコロナウイルス(新型コロナウイルスとは別のコロナウイルス)と2種のライノウイルスを健常者に感染させ、細胞外小胞がどのように反応するかを調べました。それぞれのウイルスに対し、異なる方法で反応することが分かりました。ウイルスがヒトの細胞に感染する前に、細胞外小胞がウイルスを捕まえることも分かりました。
しかし、研究では細胞外小胞のこの素晴らしい機能が低温化では妨げられることが分かりました。華氏40度(摂氏4.4度)の寒い環境では、細胞外小胞のそのウイルスを捕まえる効果が87.5%も抑制されることが分かったのです。また細胞外小胞の放出も大幅に低下しています(注)。
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鼻腔内の温度を下げないようにするにはマスクが最適です。そして、記事によると、大切なのは鼻腔の奥ではなく手前(前方)の部位です。この部分の細胞が”敵”が侵入したことを検知し、多量の細胞外小胞を放出するのです。
ということは、「はやりの病気」で述べたように、「鼻毛を抜く」「鼻をほじる」などの行為は感染予防上、最悪の行為ということになります。
「マスクをする」「鼻を触らない」がものすごく重要というわけです。
注:細胞外小胞の放出が大幅に低下することは論文のグラフで示されているのですが、具体的な数字は書かれていません。ですが、Health Dayの記事には42%低下と書かれています。
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|2023年1月23日 月曜日
2023年1月23日 コロナ後遺症を予防する2つの薬
新型コロナウイルス(以下、単に「コロナ」)は随分と軽症化してきました。ワクチン普及がその理由だとする意見が多いのですが、おそらくそれだけではないでしょう。ウイルスが変異を繰り返した結果、重症化しにくいタイプに”進化”してきている可能性もあります。そもそも、できるだけ遺伝子を残したいと考えるウイルスにとっては、宿主のヒトを重症化させて殺してしまうよりも、軽症にとどめて自粛などさせず広範囲を動き回らせる方が自分たちの遺伝子を広めることができるわけですから、軽症化する方が彼(?)らにとっても都合がいいわけです。
他方、軽症化はもちろんヒトにとってもありがたい話で、「死に至る病」でなく「単なる風邪」なら重症化リスクのない人にとってはたいして注意する必要がなくなります。ただし、重症化リスクのある人に感染させると、最悪の場合その相手が死亡……、という事態も起こり得ることは忘れてはいけません。
「他人への感染」以外に、もうひとつやっかいなコロナの特徴が「後遺症」です。最近はあまり報道されなくなりましたが、後遺症は依然として存在します。私は2020年4月に「これは非常にやっかいなことになるに違いない……」と感じ、2020年5月12日公開の医療プレミア「新型コロナ 治療後に健康影響の懸念」で初めて注意を促し、その後繰り返し訴えてきました。
案の定、後遺症を訴える患者さんは急増しました。大部分は(時間はかかるものの)完治するのですが、完治とは言えない人もいます。特効薬はなく、非常に苦しい日々を強いられることもあります。一時「コロナワクチンが治療になる」という話もあり、谷口医院の患者さんのなかにも「ワクチンをうって後遺症が治った」という人もいるのですが、その逆にかえって悪くなったという人もいます。
ならば「予防薬」に期待したいところです。そして、予防になるかもしれない薬が現在2種類あります。
1つは重症化リスクのある人に適応のある「パキロビッド」です。エビデンスレベルが高いとは言えないのですが、論文「パキロビッドと新型コロナの急性期後遺症リスク(Nirmatrelvir and the Risk of Post-Acute Sequelae of COVID-19)」によると「新型コロナに感染したと診断されてから90日後に、12種類の後遺症のうち1種類以上に悩まされるリスク」を、パキロビッドは26%下げることが分かりました。
もうひとつの薬は糖尿病薬のメトホルミンです。論文「メトホルミン、イベルメクチン、フルボキサミンによる新型コロナのの外来治療と、10か月にわたるフォローアップによる後遺症の発症(Outpatient treatment of Covid-19 with metformin, ivermectin, and fluvoxamine and the development of Long Covid over 10-month follow-up)」によると、メトホルミンで後遺症のリスクが42%低下します。
この研究ではメトホルミン以外にイベルメクチンとフルボキサミン(抗うつ薬)についても調べられましたが、これら2種では後遺症の予防はできませんでした。
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太融寺町谷口医院では、患者さんが拒否しない限り、重症化リスクのある人にはパキロビッドを推薦しています。重症化を防いでくれるだけでなく、後遺症のリスクが減少する可能性があるわけですから積極的に服用すべきだと思います。
一方、メトホルミンは元々糖尿病がある患者さんには谷口医院で処方していることが多いのですが(谷口医院では糖尿病で最も処方している薬がメトホルミンです)、糖尿病がない人に処方することは(少なくとも保険診療上は)できません。
追加の研究が増えてエビデンスがそろえば保険診療で使えるようになると思いますが、まだまだ先になりそうです。とはいえ、これまで手がなかった後遺症の予防薬となる可能性があるわけですから(しかもとても安くて3割負担で1錠3円程度です)、これからの研究に注目したいと思います。
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|2022年12月30日 金曜日
2022年12月30日 運動で認知症を予防できる?できない?
認知症の予防を確実にできる方法はありません。一方、認知症のリスクとなるものは多数あります。飲酒、喫煙、片頭痛、睡眠不足、ベンゾジアゼピンの使用、などが挙げられますが、最たるものはやはり「遺伝子」です。過去にも何度か紹介したように(例えば「はやりの病気第179回(2018年7月)認知症について最近わかってきたこと(2018年版)」)、ApoE遺伝子をε4・ε4で持っていれば、ε3・ε3の人に比べてアルツハイマーになるリスクが11.6倍にもなります。
確実にリスクとなる因子がいくつもあり、リスクを低減させる方法がはっきりしないというのは何とも心許ないものです。「そんなはずはない、従来健康的とされている方法を続ければきっとリスクは下がるはずだ」、と考えるのは人間にとってごく自然なことでしょう。
いつの時代も健康向上に不可欠とされている「運動」はどうでしょうか。最近、「運動が認知症の予防になるかもしれない」という研究が発表されました。
医学誌「Journal of Applied Physiology」2022年10月4日号に掲載された論文「有酸素運動は高齢者の脳の血管の抵抗を低下させる:1年間の無作為対照試験(Aerobic exercise training reduces cerebrovascular impedance in older adults: a 1-year randomized controlled trial)」です。
研究では73人の高齢者を有酸素運動(aerobic exercise training )のグループ36人とストレッチ+トーニング(stretching and toning)と呼ばれるワークアウト(筋トレ)(後述します)に分け、脳内の血管の抵抗が比較されています。脳血管の抵抗(インピーダンス)が低ければ血流が良いことを示します。調査は1年間続けられ、41人の血管の抵抗が調べられました。
結果、有酸素運動のグループは血管抵抗が有意に低下していた(つまり血流が良くなった)のに対し、ストレッチ+トーニングのグループでは変化がありませんでした。このことから著者らは「高齢者の有酸素運動は脳の循環を良くする」と結論づけています。
脳の血流がよくなれば脳が若さを保つことができて、その結果認知症のリスク低減が期待できるかもしれません。
尚、トーニング(toningまたはtoning up)とは、体脂肪を落とし筋肉をしっかりさせるワークアウト(筋トレ)のことで、筋肉量を増やすことを目的としたワークアウトはバルキング(bulkingまたはbulking up)と呼ばれます。この研究では、バルキングについては検討されていません。
次に紹介するのは、「運動、マインドフルネス、及び両者の併用は認知機能を改善させなかった」という研究です。
医学誌「Journal of American Medical Association」2022年12月13日号に掲載された論文「高齢者の認知機能に対するマインドフルネスと運動療法の効果:無作為臨床試験(Effects of Mindfulness Training and Exercise on Cognitive Function in Older Adults: A Randomized Clinical Trial)」を紹介します。
研究の対象は、「認知症ではないが主観的な認知機能低下を自覚する(with subjective cognitive concerns, but not dementia)」65~84歳の高齢者585例で、運動グループ138人、マインドフルネスのグループ150人、両者併用グループ144人、対照グループ153人です。
18カ月間追跡し、追跡できた475例の認知機能を解析したところ、運動もマインドフルネスも認知機能の改善にまったく寄与しないことが判りました。尚、認知機能の評価にはエピソード記憶(episodic memory)及び遂行機能(executive function)が調べられています。
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「運動が認知症やアルツハイマー病のリスクを下げる可能性がある」とする研究は多数あるのですが、決定的なものはありません。一方、上に示したように「運動は認知機能を改善させなかった」とするものも多数あります。
よって、運動をしたからといって認知機能改善はさほど期待できないと考えた方がいいでしょう。ですが、これは運動をしなくていいという意味ではありません。
今さら言うまでもなく、運動には心身面で驚くほどの効果があります。運動なしで健康な心身状態は得られない、と考えるべきです。
参考:
医療ニュース
2022年3月27日「片頭痛はやはり認知症のリスク」
2022年1月4日「円形脱毛症は認知症と網膜疾患のリスク」
2021年12月27日「安静時の心拍数上昇が認知症のリスク」
2021年6月17日「中年期の孤独と睡眠不足が認知症のリスク」
2019年12月28日「やはり胃薬PPIは認知症のリスクを増やすのか」
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|2022年12月8日 木曜日
2022年12月8日 帯状疱疹を発症すると将来の脳卒中・心疾患のリスクが増加
最近、「50歳を超えると帯状疱疹を起こしやすいのですか?」という質問が増えています。これはおそらく帯状疱疹のワクチンのメーカーが接種を促すためのマーケティングとして、いろんな手を使ってそういう言葉を広めているからでしょう。
では、帯状疱疹は50歳を超えれば注意すればいいのでしょうか。そんなことはまったくありません。統計上50歳を超えれば発症率が上がるのだとしても、あなたにとって重要なのは統計ではなく、「あなたはどうなの?」ということだからです。
実際、太融寺町谷口医院では帯状疱疹の発症率は、(きちんと数字を見直したわけではありませんが)私の印象で言えば、30代であろうが70代であろうがほとんど変わりません。むしろ、一番患者数が多いのは40歳前後のような気がします。なかには20代で発症している人もいます。
ここで帯状疱疹が発症する理由を確認しておきましょう。発症の理由は「免疫能の低下」です。ですから、睡眠不足、過重労働、精神的ストレスなどがリスクとなります。20代の発症者であれば、いくらかはHIV感染(男性の場合)か膠原病(女性の場合)があります。
なかには帯状疱疹を繰り返す人もいます。「帯状疱疹が今回で2回目」という人はそれなりの確率で(HIVなどの)免疫能が低下する疾患を有しています。
では、帯状疱疹を発症すれば、主症状の「痛み」に耐えればそれでいいのでしょうか。どうもそれだけではなさそうです。
帯状疱疹を発症すれば、その5~12年後に脳卒中のリスクが30%上昇する……
医学誌「Journal of the American Heart Association」2022年11月16日号に掲載された論文「帯状疱疹の心血管疾患に対する長期的リスク(Herpes Zoster and Long‐Term Risk of Cardiovascular Disease)」でそのような研究結果が報告されています。
研究の対象は米国の大規模研究に参加した、研究開始時点で脳血管障害のない男女205,030人(男性31,440人、女性173,590人)です。調査期間中に、3,603件の脳卒中と8,620件の心疾患の発症がありました。帯状疱疹の発症との関連は次の通りです。
帯状疱疹発症後1~4年経過で脳卒中を発症するリスク:1.05倍
5~8年経過脳卒中を発症するリスク:1.38倍
9~12年経過脳卒中を発症するリスク:1.28倍
13年以上脳卒中を発症するリスク:1.19倍
帯状疱疹発症後1~4年経過で心疾患を発症するリスク:1.13倍
5~8年経過で心疾患を発症するリスク:1.16倍
9~12年経過で心疾患を発症するリスク:1.25倍
13年経過で心疾患を発症するリスク:1.00倍
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この研究は非常に重要だと思います。なぜなら脳卒中や心疾患というのは、発症すればその後の人生に大きく影響を与えるからです。なかには、そのまま死亡したり重篤な後遺症を残すケースもあります。
ということは帯状疱疹の発症を可能な限り防ぐべきです。そのためにワクチン接種を受けるのは賢明な方法です。50歳になってからではなく、特にストレスや睡眠不足で免疫能が低下していると思われる人は30歳になれば(あるいは20代でも)ワクチンを検討するのがいいでしょう。尚、ワクチンには2種類あり、接種時の免疫能が正常であれば安い方で充分です。安い方なら1回接種でOKです(ただし、過去に水痘に感染していることが条件となります)。
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|2022年11月27日 日曜日
2022年11月27日 便秘が認知症のリスク
アルツハイマー病や軽度認知障害(これをMCIと呼びます)があって、便秘があれば認知機能低下のスピードが早くなる……。
これは日本の研究で、医学誌「CNS Neuroscience & Therapeutics」2022年8月8日に「アルツハイマー病の進行に対する便秘の影響:後ろ向き研究(Impact of constipation on progression of Alzheimer’s disease: A retrospective study)」というタイトルで掲載されました。
研究の対象者は2015~2020年に東北大学病院加齢・老年病科を受診した合計84人(年齢の中央値77.4歳、女性が57.1%)の患者です。アルツハイマー病は45.2%(38人)、残りがMCIです。便秘があった人が20人で、なかった人が64人です。認知機能の評価は複数のツール及びMRIでもおこなわれています。
認知機能を評価する方法に「ADAS-Cog」と呼ばれるテストがあります。これは医師や心理師が時間をかけて様々なテストをおこない認知機能の評価をします。便秘があってもなくてもこのテストの成績は低下していきましたが、便秘があるグループはないグループに比べて低下する速度が2.74倍も速かったのです。
またMRIの評価においても差がでました。脳が老化すると「白質病変」と呼ばれる変化がMRI上に現れます。これが拡大していけば認知機能が低下すると考えられています。その低下スピードが、便秘があれば1.65倍速いことが分りました。
この研究では便秘以外の要素も調べられています。心疾患、糖尿病、脂質異常症の有無などで認知機能の進行に差があるかどうかが検討されています。結果は「ない」でした。この研究では「便秘の有無」のみが認知機能低下の速度に関連していたのです。
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考えねばならないのは「便秘があるから認知症が進行した」のか「認知症が進行したから便秘が悪化した」のかですが、研究の開始時点で便秘がなくてその後起こったという記載が論文にありませんから、「元々便秘がちな人は認知症にならないように注意すべき」と言えます。
認知症は長生きすれば多くの人に起こるわけですから、若いうちから便秘対策をすべきということは言えるでしょう。
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|2022年11月8日 火曜日
2022年11月8日 日本小児科学会は6か月以上5歳未満にもコロナワクチンを「推奨」
2022年の年明けごろから、「コロナワクチンは本当に必要か」という声が増えてきています。谷口医院には相変わらず「ワクチンをうつべきか否か」という質問が多数寄せられていますが、春頃からは相談内容の傾向がかなり変わりました。
以前は「うつべきですよね」という声が多かったのですが、最近では「うたなくてもいいですよね」が過半数近くとなり、18歳未満でいえば、当院で相談された結果「うたない(うたせない)」と結論を出すケースが多数を占めます。
そして、各自治体で10月24日から始まった生後6か月以上5歳未満の小児に対するコロナワクチンの相談を受け、「うたせます」と答えた保護者はいまだに(11月7日の時点で)ゼロです。
しかし、厚労省の見解は6か月以上のすべての日本人に対して「努力義務」を課しています。この言葉の定義がよく分かりませんが、そのまま解釈すれば「義務」と付くものであれば、「日本国民なら守りなさい」とお上から言われているような気がします。
厚労省は行政的な視点から見解を出します。では、医学的にはどうでしょうか。日本小児科学会はすでに5歳以上の小児に対して「推奨」としています。
そして11月2日、同学会は、6か月以上5歳未満の小児に対し、「日本小児科学会は、生後6か月以上5歳未満のすべての小児に新型コロナワクチン接種を推奨します」との見解を発表しました。
「現時点では有効性・安全性に関するデータが限られている」としながらも、基礎疾患の有無に関わらず健康な小児も含めて「推奨する」とのことです。
理由についても詳しく述べられています。次の3つが強調されています。
#1 小児患者数の急増に伴い、以前は少数だった重症例と死亡例が増加している
#2 オミクロン株BA.2流行期における発症予防効果について、生後6か月~23カ月児では75.8%、2~4歳児では71.8%の有効性が報告されている
#3 安全性については、米国の調査で「重篤な有害事象はまれ」と報告されている
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厚労省が(行政が)「努力義務」とし、日本小児科学会が「推奨」としているワクチンの接種率が極めて低い事態は”異常”と呼んでもいいでしょう。
では、なぜ小児へのワクチン接種が普及しないのでしょうか。谷口医院の例で言えば、我々は「ワクチンを勧めない」とはまったく言っていませんが、「大阪府の第7波での全年齢の死亡率は0.1%であること、小児の場合インフルエンザの方が重症化しやすい報告があること」などを示すと、「そもそも小児の予防にワクチンは不要じゃないですか」というコメントが返ってきます。
中学生・高校生で積極的に受けたいと考える男子・女子はいますが、谷口医院の例でいえば「留学先で求められているから」「同居する祖父母を守るため」といった理由が目立ちます。
日本小児科学会は推奨しているのにもかかわらず「小児科医からうたなくていいと言われた」という声がかなりあります。日本小児科学会には「全国のどれだけの小児科医が推奨しているのか」のデータを出してほしいと思います。
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|2022年10月27日 木曜日
2022年10月27日 週に一度以上の睡眠薬の使用で死亡リスクが1.3倍
睡眠薬を使えばぐっすり眠れて翌日からは元気いっぱい!、というわけにはいきません。睡眠薬に頼らざるを得ない人の多くは、日中も倦怠感がとれず、食欲は不振で(または過食に走り)、精神状態が悪化していきます。
では、睡眠薬の長期使用で寿命は縮まるのでしょうか。最近、日本人を対象にそれを調べた研究が発表されました。医学誌「Sleep Medicine」2022年12月に掲載された論文「睡眠薬が必要な不眠症の性別・年齢別の全死因死亡率:日本多施設共同コホート研究からの知見(Sex- and age-specific all-cause mortality in insomnia with hypnotics: Findings from Japan multi-institutional Collaborative Cohort Study)」です。
結論からいえば、睡眠薬(ここではほとんどがベンゾジアゼピン系睡眠薬)を使用すると死亡リスクが1.3倍に上昇することが分りました。男性は1.51倍、60歳未満では1.75倍にもなります。
本研究の対象者は92,527人の日本人(35~69歳)で、平均追跡期間は8.4年です。この間に合計1,429人が死亡しました。睡眠薬の使用率は4.2%でした。
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太融寺町谷口医院では、2007年の開院以来、睡眠薬(及び抗不安薬)については「ゆっくりでいいからできるだけ減らしていきましょう」と助言してきました。最近は、初診時から「睡眠薬をやめたいんですが……」という相談が増えています。
この研究が周知されて睡眠薬を断ち切りたいと考える人が増えることを期待したいと思います。ただし、「ベンゾジアゼピン依存症からの脱却」は決して簡単ではありません。谷口医院の経験でいえば、覚醒剤よりはましだけど(谷口医院では覚醒剤依存症のハームリダクションとしてベンゾジアゼピンを用いることがあります)、タバコよりは依存症からの解脱がはるかに困難です。
ではどうすればいいか。不眠を自覚しても安易にベンゾジアゼピンに手を出さないことです。依存症の最善の治療は「初めから手を出さない」です。この研究の対象者が使用している睡眠薬はおそらく大部分がベンゾジアゼピンです。不眠で悩んだときは、ベンゾジアゼピンではなく他の方法で治せばいいのです。
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