医療ニュース

2023年1月23日 月曜日

2023年1月23日 コロナ後遺症を予防する2つの薬

 新型コロナウイルス(以下、単に「コロナ」)は随分と軽症化してきました。ワクチン普及がその理由だとする意見が多いのですが、おそらくそれだけではないでしょう。ウイルスが変異を繰り返した結果、重症化しにくいタイプに”進化”してきている可能性もあります。そもそも、できるだけ遺伝子を残したいと考えるウイルスにとっては、宿主のヒトを重症化させて殺してしまうよりも、軽症にとどめて自粛などさせず広範囲を動き回らせる方が自分たちの遺伝子を広めることができるわけですから、軽症化する方が彼(?)らにとっても都合がいいわけです。

 他方、軽症化はもちろんヒトにとってもありがたい話で、「死に至る病」でなく「単なる風邪」なら重症化リスクのない人にとってはたいして注意する必要がなくなります。ただし、重症化リスクのある人に感染させると、最悪の場合その相手が死亡……、という事態も起こり得ることは忘れてはいけません。

 「他人への感染」以外に、もうひとつやっかいなコロナの特徴が「後遺症」です。最近はあまり報道されなくなりましたが、後遺症は依然として存在します。私は2020年4月に「これは非常にやっかいなことになるに違いない……」と感じ、2020年5月12日公開の医療プレミア「新型コロナ 治療後に健康影響の懸念」で初めて注意を促し、その後繰り返し訴えてきました。

 案の定、後遺症を訴える患者さんは急増しました。大部分は(時間はかかるものの)完治するのですが、完治とは言えない人もいます。特効薬はなく、非常に苦しい日々を強いられることもあります。一時「コロナワクチンが治療になる」という話もあり、谷口医院の患者さんのなかにも「ワクチンをうって後遺症が治った」という人もいるのですが、その逆にかえって悪くなったという人もいます。

 ならば「予防薬」に期待したいところです。そして、予防になるかもしれない薬が現在2種類あります。

 1つは重症化リスクのある人に適応のある「パキロビッド」です。エビデンスレベルが高いとは言えないのですが、論文「パキロビッドと新型コロナの急性期後遺症リスク(Nirmatrelvir and the Risk of Post-Acute Sequelae of COVID-19)」によると「新型コロナに感染したと診断されてから90日後に、12種類の後遺症のうち1種類以上に悩まされるリスク」を、パキロビッドは26%下げることが分かりました。

 もうひとつの薬は糖尿病薬のメトホルミンです。論文「メトホルミン、イベルメクチン、フルボキサミンによる新型コロナのの外来治療と、10か月にわたるフォローアップによる後遺症の発症(Outpatient treatment of Covid-19 with metformin, ivermectin, and fluvoxamine and the development of Long Covid over 10-month follow-up)」によると、メトホルミンで後遺症のリスクが42%低下します。
 
 この研究ではメトホルミン以外にイベルメクチンとフルボキサミン(抗うつ薬)についても調べられましたが、これら2種では後遺症の予防はできませんでした。

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 太融寺町谷口医院では、患者さんが拒否しない限り、重症化リスクのある人にはパキロビッドを推薦しています。重症化を防いでくれるだけでなく、後遺症のリスクが減少する可能性があるわけですから積極的に服用すべきだと思います。

 一方、メトホルミンは元々糖尿病がある患者さんには谷口医院で処方していることが多いのですが(谷口医院では糖尿病で最も処方している薬がメトホルミンです)、糖尿病がない人に処方することは(少なくとも保険診療上は)できません。

 追加の研究が増えてエビデンスがそろえば保険診療で使えるようになると思いますが、まだまだ先になりそうです。とはいえ、これまで手がなかった後遺症の予防薬となる可能性があるわけですから(しかもとても安くて3割負担で1錠3円程度です)、これからの研究に注目したいと思います。

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2022年12月30日 金曜日

2022年12月30日 運動で認知症を予防できる?できない?

 認知症の予防を確実にできる方法はありません。一方、認知症のリスクとなるものは多数あります。飲酒、喫煙、片頭痛、睡眠不足、ベンゾジアゼピンの使用、などが挙げられますが、最たるものはやはり「遺伝子」です。過去にも何度か紹介したように(例えば「はやりの病気第179回(2018年7月)認知症について最近わかってきたこと(2018年版)」)、ApoE遺伝子をε4・ε4で持っていれば、ε3・ε3の人に比べてアルツハイマーになるリスクが11.6倍にもなります。

 確実にリスクとなる因子がいくつもあり、リスクを低減させる方法がはっきりしないというのは何とも心許ないものです。「そんなはずはない、従来健康的とされている方法を続ければきっとリスクは下がるはずだ」、と考えるのは人間にとってごく自然なことでしょう。

 いつの時代も健康向上に不可欠とされている「運動」はどうでしょうか。最近、「運動が認知症の予防になるかもしれない」という研究が発表されました。

 医学誌「Journal of Applied Physiology」2022年10月4日号に掲載された論文「有酸素運動は高齢者の脳の血管の抵抗を低下させる:1年間の無作為対照試験(Aerobic exercise training reduces cerebrovascular impedance in older adults: a 1-year randomized controlled trial)」です。

 研究では73人の高齢者を有酸素運動(aerobic exercise training )のグループ36人とストレッチ+トーニング(stretching and toning)と呼ばれるワークアウト(筋トレ)(後述します)に分け、脳内の血管の抵抗が比較されています。脳血管の抵抗(インピーダンス)が低ければ血流が良いことを示します。調査は1年間続けられ、41人の血管の抵抗が調べられました。

 結果、有酸素運動のグループは血管抵抗が有意に低下していた(つまり血流が良くなった)のに対し、ストレッチ+トーニングのグループでは変化がありませんでした。このことから著者らは「高齢者の有酸素運動は脳の循環を良くする」と結論づけています。

 脳の血流がよくなれば脳が若さを保つことができて、その結果認知症のリスク低減が期待できるかもしれません。

 尚、トーニング(toningまたはtoning up)とは、体脂肪を落とし筋肉をしっかりさせるワークアウト(筋トレ)のことで、筋肉量を増やすことを目的としたワークアウトはバルキング(bulkingまたはbulking up)と呼ばれます。この研究では、バルキングについては検討されていません。

 次に紹介するのは、「運動、マインドフルネス、及び両者の併用は認知機能を改善させなかった」という研究です。

 医学誌「Journal of American Medical Association」2022年12月13日号に掲載された論文「高齢者の認知機能に対するマインドフルネスと運動療法の効果:無作為臨床試験(Effects of Mindfulness Training and Exercise on Cognitive Function in Older Adults: A Randomized Clinical Trial)」を紹介します。

 研究の対象は、「認知症ではないが主観的な認知機能低下を自覚する(with subjective cognitive concerns, but not dementia)」65~84歳の高齢者585例で、運動グループ138人、マインドフルネスのグループ150人、両者併用グループ144人、対照グループ153人です。

 18カ月間追跡し、追跡できた475例の認知機能を解析したところ、運動もマインドフルネスも認知機能の改善にまったく寄与しないことが判りました。尚、認知機能の評価にはエピソード記憶(episodic memory)及び遂行機能(executive function)が調べられています。

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 「運動が認知症やアルツハイマー病のリスクを下げる可能性がある」とする研究は多数あるのですが、決定的なものはありません。一方、上に示したように「運動は認知機能を改善させなかった」とするものも多数あります。

 よって、運動をしたからといって認知機能改善はさほど期待できないと考えた方がいいでしょう。ですが、これは運動をしなくていいという意味ではありません。

 今さら言うまでもなく、運動には心身面で驚くほどの効果があります。運動なしで健康な心身状態は得られない、と考えるべきです。

参考:
医療ニュース
2022年3月27日「片頭痛はやはり認知症のリスク」
2022年1月4日「円形脱毛症は認知症と網膜疾患のリスク」
2021年12月27日「安静時の心拍数上昇が認知症のリスク」
2021年6月17日「中年期の孤独と睡眠不足が認知症のリスク」
2019年12月28日「やはり胃薬PPIは認知症のリスクを増やすのか」

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2022年12月8日 木曜日

2022年12月8日 帯状疱疹を発症すると将来の脳卒中・心疾患のリスクが増加

 最近、「50歳を超えると帯状疱疹を起こしやすいのですか?」という質問が増えています。これはおそらく帯状疱疹のワクチンのメーカーが接種を促すためのマーケティングとして、いろんな手を使ってそういう言葉を広めているからでしょう。

 では、帯状疱疹は50歳を超えれば注意すればいいのでしょうか。そんなことはまったくありません。統計上50歳を超えれば発症率が上がるのだとしても、あなたにとって重要なのは統計ではなく、「あなたはどうなの?」ということだからです。

 実際、太融寺町谷口医院では帯状疱疹の発症率は、(きちんと数字を見直したわけではありませんが)私の印象で言えば、30代であろうが70代であろうがほとんど変わりません。むしろ、一番患者数が多いのは40歳前後のような気がします。なかには20代で発症している人もいます。

 ここで帯状疱疹が発症する理由を確認しておきましょう。発症の理由は「免疫能の低下」です。ですから、睡眠不足、過重労働、精神的ストレスなどがリスクとなります。20代の発症者であれば、いくらかはHIV感染(男性の場合)か膠原病(女性の場合)があります。

 なかには帯状疱疹を繰り返す人もいます。「帯状疱疹が今回で2回目」という人はそれなりの確率で(HIVなどの)免疫能が低下する疾患を有しています。

 では、帯状疱疹を発症すれば、主症状の「痛み」に耐えればそれでいいのでしょうか。どうもそれだけではなさそうです。

 帯状疱疹を発症すれば、その5~12年後に脳卒中のリスクが30%上昇する……

 医学誌「Journal of the American Heart Association」2022年11月16日号に掲載された論文「帯状疱疹の心血管疾患に対する長期的リスク(Herpes Zoster and Long‐Term Risk of Cardiovascular Disease)」でそのような研究結果が報告されています。

 研究の対象は米国の大規模研究に参加した、研究開始時点で脳血管障害のない男女205,030人(男性31,440人、女性173,590人)です。調査期間中に、3,603件の脳卒中と8,620件の心疾患の発症がありました。帯状疱疹の発症との関連は次の通りです。

帯状疱疹発症後1~4年経過で脳卒中を発症するリスク:1.05倍
       5~8年経過脳卒中を発症するリスク:1.38倍
       9~12年経過脳卒中を発症するリスク:1.28倍
       13年以上脳卒中を発症するリスク:1.19倍 

帯状疱疹発症後1~4年経過で心疾患を発症するリスク:1.13倍
       5~8年経過で心疾患を発症するリスク:1.16倍
       9~12年経過で心疾患を発症するリスク:1.25倍
       13年経過で心疾患を発症するリスク:1.00倍

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 この研究は非常に重要だと思います。なぜなら脳卒中や心疾患というのは、発症すればその後の人生に大きく影響を与えるからです。なかには、そのまま死亡したり重篤な後遺症を残すケースもあります。

 ということは帯状疱疹の発症を可能な限り防ぐべきです。そのためにワクチン接種を受けるのは賢明な方法です。50歳になってからではなく、特にストレスや睡眠不足で免疫能が低下していると思われる人は30歳になれば(あるいは20代でも)ワクチンを検討するのがいいでしょう。尚、ワクチンには2種類あり、接種時の免疫能が正常であれば安い方で充分です。安い方なら1回接種でOKです(ただし、過去に水痘に感染していることが条件となります)。

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2022年11月27日 日曜日

2022年11月27日 便秘が認知症のリスク

 アルツハイマー病や軽度認知障害(これをMCIと呼びます)があって、便秘があれば認知機能低下のスピードが早くなる……。

 これは日本の研究で、医学誌「CNS Neuroscience & Therapeutics」2022年8月8日に「アルツハイマー病の進行に対する便秘の影響:後ろ向き研究(Impact of constipation on progression of Alzheimer’s disease: A retrospective study)」というタイトルで掲載されました。

 研究の対象者は2015~2020年に東北大学病院加齢・老年病科を受診した合計84人(年齢の中央値77.4歳、女性が57.1%)の患者です。アルツハイマー病は45.2%(38人)、残りがMCIです。便秘があった人が20人で、なかった人が64人です。認知機能の評価は複数のツール及びMRIでもおこなわれています。

 認知機能を評価する方法に「ADAS-Cog」と呼ばれるテストがあります。これは医師や心理師が時間をかけて様々なテストをおこない認知機能の評価をします。便秘があってもなくてもこのテストの成績は低下していきましたが、便秘があるグループはないグループに比べて低下する速度が2.74倍も速かったのです。

 またMRIの評価においても差がでました。脳が老化すると「白質病変」と呼ばれる変化がMRI上に現れます。これが拡大していけば認知機能が低下すると考えられています。その低下スピードが、便秘があれば1.65倍速いことが分りました。

 この研究では便秘以外の要素も調べられています。心疾患、糖尿病、脂質異常症の有無などで認知機能の進行に差があるかどうかが検討されています。結果は「ない」でした。この研究では「便秘の有無」のみが認知機能低下の速度に関連していたのです。

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 考えねばならないのは「便秘があるから認知症が進行した」のか「認知症が進行したから便秘が悪化した」のかですが、研究の開始時点で便秘がなくてその後起こったという記載が論文にありませんから、「元々便秘がちな人は認知症にならないように注意すべき」と言えます。

 認知症は長生きすれば多くの人に起こるわけですから、若いうちから便秘対策をすべきということは言えるでしょう。

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2022年11月8日 火曜日

2022年11月8日 日本小児科学会は6か月以上5歳未満にもコロナワクチンを「推奨」

 2022年の年明けごろから、「コロナワクチンは本当に必要か」という声が増えてきています。谷口医院には相変わらず「ワクチンをうつべきか否か」という質問が多数寄せられていますが、春頃からは相談内容の傾向がかなり変わりました。

 以前は「うつべきですよね」という声が多かったのですが、最近では「うたなくてもいいですよね」が過半数近くとなり、18歳未満でいえば、当院で相談された結果「うたない(うたせない)」と結論を出すケースが多数を占めます。

 そして、各自治体で10月24日から始まった生後6か月以上5歳未満の小児に対するコロナワクチンの相談を受け、「うたせます」と答えた保護者はいまだに(11月7日の時点で)ゼロです。

 しかし、厚労省の見解は6か月以上のすべての日本人に対して「努力義務」を課しています。この言葉の定義がよく分かりませんが、そのまま解釈すれば「義務」と付くものであれば、「日本国民なら守りなさい」とお上から言われているような気がします。

 厚労省は行政的な視点から見解を出します。では、医学的にはどうでしょうか。日本小児科学会はすでに5歳以上の小児に対して「推奨」としています。

 そして11月2日、同学会は、6か月以上5歳未満の小児に対し、「日本小児科学会は、生後6か月以上5歳未満のすべての小児に新型コロナワクチン接種を推奨します」との見解を発表しました。

 「現時点では有効性・安全性に関するデータが限られている」としながらも、基礎疾患の有無に関わらず健康な小児も含めて「推奨する」とのことです。

 理由についても詳しく述べられています。次の3つが強調されています。

#1 小児患者数の急増に伴い、以前は少数だった重症例と死亡例が増加している

#2 オミクロン株BA.2流行期における発症予防効果について、生後6か月~23カ月児では75.8%、2~4歳児では71.8%の有効性が報告されている

#3 安全性については、米国の調査で「重篤な有害事象はまれ」と報告されている

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 厚労省が(行政が)「努力義務」とし、日本小児科学会が「推奨」としているワクチンの接種率が極めて低い事態は”異常”と呼んでもいいでしょう。

 では、なぜ小児へのワクチン接種が普及しないのでしょうか。谷口医院の例で言えば、我々は「ワクチンを勧めない」とはまったく言っていませんが、「大阪府の第7波での全年齢の死亡率は0.1%であること、小児の場合インフルエンザの方が重症化しやすい報告があること」などを示すと、「そもそも小児の予防にワクチンは不要じゃないですか」というコメントが返ってきます。

 中学生・高校生で積極的に受けたいと考える男子・女子はいますが、谷口医院の例でいえば「留学先で求められているから」「同居する祖父母を守るため」といった理由が目立ちます。

 日本小児科学会は推奨しているのにもかかわらず「小児科医からうたなくていいと言われた」という声がかなりあります。日本小児科学会には「全国のどれだけの小児科医が推奨しているのか」のデータを出してほしいと思います。

 

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2022年10月27日 木曜日

2022年10月27日 週に一度以上の睡眠薬の使用で死亡リスクが1.3倍

 睡眠薬を使えばぐっすり眠れて翌日からは元気いっぱい!、というわけにはいきません。睡眠薬に頼らざるを得ない人の多くは、日中も倦怠感がとれず、食欲は不振で(または過食に走り)、精神状態が悪化していきます。

 では、睡眠薬の長期使用で寿命は縮まるのでしょうか。最近、日本人を対象にそれを調べた研究が発表されました。医学誌「Sleep Medicine」2022年12月に掲載された論文「睡眠薬が必要な不眠症の性別・年齢別の全死因死亡率:日本多施設共同コホート研究からの知見(Sex- and age-specific all-cause mortality in insomnia with hypnotics: Findings from Japan multi-institutional Collaborative Cohort Study)」です。

 結論からいえば、睡眠薬(ここではほとんどがベンゾジアゼピン系睡眠薬)を使用すると死亡リスクが1.3倍に上昇することが分りました。男性は1.51倍、60歳未満では1.75倍にもなります。

 本研究の対象者は92,527人の日本人(35~69歳)で、平均追跡期間は8.4年です。この間に合計1,429人が死亡しました。睡眠薬の使用率は4.2%でした。

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 太融寺町谷口医院では、2007年の開院以来、睡眠薬(及び抗不安薬)については「ゆっくりでいいからできるだけ減らしていきましょう」と助言してきました。最近は、初診時から「睡眠薬をやめたいんですが……」という相談が増えています。

 この研究が周知されて睡眠薬を断ち切りたいと考える人が増えることを期待したいと思います。ただし、「ベンゾジアゼピン依存症からの脱却」は決して簡単ではありません。谷口医院の経験でいえば、覚醒剤よりはましだけど(谷口医院では覚醒剤依存症のハームリダクションとしてベンゾジアゼピンを用いることがあります)、タバコよりは依存症からの解脱がはるかに困難です。

 ではどうすればいいか。不眠を自覚しても安易にベンゾジアゼピンに手を出さないことです。依存症の最善の治療は「初めから手を出さない」です。この研究の対象者が使用している睡眠薬はおそらく大部分がベンゾジアゼピンです。不眠で悩んだときは、ベンゾジアゼピンではなく他の方法で治せばいいのです。

参考:不眠を治そう・依存症を治そう

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2022年10月13日 木曜日

2022年10月13日 鼻うがいで新型コロナ感染後の重症化リスク低減

 私が「谷口式鼻うがい」を初めて実施したのが約10年前の2012年12月末です。そして、その後風邪は一度も引いていません。

 新型コロナウイルス(以下、単に「コロナ」)の流行が始まっていた2020年2月、当時の私は診察室でさえもマスクをしていませんでした。マスクにはコロナを防ぐ効果がありませんし(ただし「感染させない」効果があることがその後分かりました。よって当時の私は間違っていました)、ましてコロナより粒子の小さいインフルエンザやライノウイルスにはほとんど効果がありません。

 しかし、私はコロナが始まったときから「自分はコロナに感染しない」という自信がある程度あり、実際一度も感染していません。毎日、発熱外来を実施していても、です。「絶対にかかりません」とまでは言えませんが、なぜ、そこまで強気なことが言えるかというと、鼻うがいを初めてから一度も風邪をひいておらず、その記録がもうすぐ10年になるからです。

 しかし、鼻うがいはコロナどころか風邪に有効とする研究もほとんどありません。そんななか、ついに有効性を示した論文が登場しましたので紹介します。

 生理食塩水を用いた1日2回の鼻うがいで、入院および死亡リスクが1/8に低下する

 医学誌「Ear, Nose & Throat Journal」2022年8月25日に「重症化リスクのある新型コロナウイルス感染者のリスクを軽減するために生理食塩水による鼻うがいを実施(Rapid initiation of nasal saline irrigation to reduce severity in high-risk COVID+ outpatients)」にこのような研究が報告されました。

 また、米国の医療メディア「Health Day News」はこの論文をわかりやすく解説しています。結論からいえば、「鼻うがいをしていなかった人はしていた人に比べて入院または死亡のリスクが8.57倍も高くなる」となり、2021年11月の米国で言えば、「鼻うがいにより入院を要する高齢者が100万人以上減る」ことを意味します。

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 「谷口式鼻うがい」はとても簡単で、生理食塩水すら不要です。必要なのは10mLか20mLのシリンジ(プラスティック製の注射器)1本です。これはAmazonで買えます。

 ただし、どこでもできるわけではなく「場所」は選びます。その場所とは風呂場です。この方法は簡単で痛くもないのですが、周囲が(不潔な水の)水浸しになります。私は風呂場にシリンジを置いておいて、1日2回この鼻うがいを実施しています。

 これから私の「風邪をひかない記録」がどこまで更新できるのか、自分でも楽しみです。

参考:毎日新聞医療プレミア(すべて無料で読めます)
鼻にいるコロナは喉の1万倍 対策は「うがい」
うがいの”常識”ウソ・ホント
新型コロナ 「うがい薬推奨」は問題

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2022年9月11日 日曜日

2022年9月11日 減塩対策の「裏技」

 まずは2つの数字を思い出しましょう。1つは、WHO(世界保健機関)が推奨する1日の食塩摂取量、もう1つは日本人の平均食塩摂取量です。答えは次のようになります。

WHOの推奨する1日あたりの塩分摂取量:5g/日

・日本人の食塩平均摂取量:男性11.0g/日、女性9.3/日
(平成30年「国民健康・栄養調査」より)

 男女とも基準の約2倍を摂取しているというわけです。食塩量は味噌汁1杯で2g、ラーメン1杯7-8g、かつ丼1杯4g、梅干し1個2gくらいです。これらの数字をみただけで、1日5g未満を達成するのがいかに過酷かが分かるでしょう。

 では日本食を減らせば減塩できるのでしょうか。これは一理あるのですが、そう簡単ではありません。例えば、タイで現地の人たちと一緒にタイ料理を食べれば塩分がかなり少ないことが実感できます。唐辛子やコショウを上手く使って美味しく食べることができればいいのですが、それを長く続けていると和食に慣れた日本人は次第に物足りなくなってきます。タイに長く住んでいるとタイ料理に塩をかけたくなってくるのです。

 では、塩分の量を増やさずに塩味を得ることができるとすればどうでしょう。「代替塩」というものがあります。従来の「食塩」は塩(ナトリウム)が(ほぼ)100%ですが、ナトリウム75%・カリウム25%の代替塩が存在します。

 これを使った大規模調査が中国でおこなわれ論文として発表されています。医学誌「The New England Jpurnal of Medicine」2021年9月16日に掲載された「心血管疾患および死亡に対する代替塩の影響(Effect of Salt Substitution on Cardiovascular Events and Death)」です。

 研究の対象者は中国の約600の村の住民で、脳卒中を起こしたことがあるか60歳以上で高血圧がある20,995人です。10,504人には「ナトリウム75%・カリウム25%の代替塩」を、残りの10,491人には「ナトリウム100%の従来の食塩」を使用してもらいました。追跡調査の平均期間は4.74年です。

 結果、代替塩を使うと、脳卒中、心血管疾患、死亡のリスクが、それぞれ、14%、13%、12%低下していました。

 しかし、カリウムがたくさん含まれる代替塩を摂取すると、高カリウム血症を起こすのではないかという懸念が生まれます。しかし、この研究では高カリウム血症を含む有害事象は代替塩に認められませんでした。

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 2021年9月に発表されたこの研究、コロナ禍のせいで大きな注目はされませんでしたが、かなり衝撃的な内容です。というより、これを読めば、直ちに世界のスーパーマーケットの食塩売り場の棚を一掃すべきだ、と考えたくなります。

 しかし、ナトリウム75%・カリウム25%の代替塩はどうやって入手すればいいのでしょう。実は、日本にはこの代替塩よりもはるかに有用な(と考えられる)”代替塩”があります。そして、すでに過去の医療ニュース「2016年6月27日 米国の減塩対策と日本の減塩食品」で紹介しています。

 それは味の素の「やさしお」です。「やさしお」ならナトリウムが約50%で、残りはカリウムとマグネシウムでできています。はっきり言うと、この「やさしお」、非の打ちどころがない素晴らしい商品です。

 医師が特定の商品を絶賛するようなことは極力避けるべきですし、私はすでに過去のマンスリーレポート「2013年8月 この夏の暑さと塩と味の素」で「味の素」を褒めちぎってしまいましたから、同じようなことはしたくないのですが、「やさしお」はどう考えても誉め言葉以外の言葉が見つからない商品なのです。

 ただし、調べてみると、他にも2つ「代替塩」として推奨できる商品が見つかりました。

 1つは大正製薬の「減塩習慣」で「やさしお」と同様、ナトリウムが約50%で、残りはカリウムを中心に、リン酸カルシウムやクエン酸が含まれています。

 もうひとつはポッカの「ウレシオ」で、こちらもナトリウムは約50%です。ユニークなのはカリウムがわずかしか含まれておらず、炭水化物が残りの大半を占めていることです。「粉末レモン」が使われているようで、おそらくこの正体が炭水化物なのではないかと思われます。一般に、「粉末もの」の正体は炭水化物であることが多いからです。サイトをみると「塩化カリウム不使用」であることが強調されているので、もしかすると慢性腎臓病や腎不全の人のために開発されたものかもしれません。

 最後に、代替塩を使うよりももっと推薦できる方法を紹介したいと思います。その方法なら、費用がほぼかからず、安全で、(一部の人を除けば)誰もが簡単にできます。それは「運動で汗をかくこと」です。過剰に摂取したナトリウムは汗とともに対外に排出されます。そういう意味でも運動は大切なのです。

 というわけで「代替塩と日々の運動」という”裏技”で、過酷な塩分制限をしなくても美味しい食事を楽しむことができるのです。

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2022年9月4日 日曜日

2022年9月5日 血圧が高くても毎日コーヒーを飲めば血管がしなやかに

 太融寺町谷口医院では高血圧の患者さんを診ない日はありません。全員に毎回、というわけではありませんが、血圧は計測する以外にも私自身がときどき血管を触らせてもらうことがあります。なかには触っただけで血管がガチガチに硬くなっている人もいます。

 高血圧が進行し、血管が硬くなると、血管はしなやかさを失い全身の動脈硬化が進行します(触った血管が硬くなっていること自体が動脈硬化であることを示しています)。

 しかし、血圧が高くても血管をしなやかに保つ(=動脈硬化を防ぐ)方法があるとすればどうでしょう。しかも、ごく簡単な方法で。

 毎日コーヒーを飲む習慣がある人は血圧が高くても血管の機能が良好。

 このようなコーヒー好きには嬉しい研究発表が日本人によっておこなわれました。医学誌「Nutrients」2022年6月29日に掲載された論文「高血圧患者における日々のコーヒー摂取量と血管機能との関係(Relationship of Daily Coffee Intake with Vascular Function in Patients with Hypertension )」に掲載されています。

 研究の対象者は広島大学付属病院で2016年4月~2021年8月に健診を受けた高血圧患者462人です。受診者にはコーヒーをどれほど飲むかを尋ね、その量と血管のしなやかさが測定され関係が算出されました。

 結論を言えば、「コーヒー摂取量が多いほど血管がしなやかになる」という結果が出たのですが、もう少し詳しく解説しましょう。本研究では血管のしなやかさを2つの指標で調べています。

 1つは「血流再開時に血管がどれくらい拡張するか」です。血圧を測るときには駆血帯を上腕に巻いて強くしばり、いったん血液の流れを止めます。解放したときに血管が拡張します。このときの拡張の度合いを「血流再開による血管拡張反応(flow-mediated vasodilation)」と呼びます。

 もう1つの指標は、ニトログリセリン(血管を拡張させることができる薬品)を投与したときにどれだけ血管が拡張するかで、これを「ニトログリセリン投与による血管拡張反応(nitroglycerine-induced vasodilation)」と呼びます。

 「血流再開による血管拡張反応」の成績が悪い(血流を再開しても血管が拡張しにくい)下位3分の1のグループに、コーヒーを毎日摂取している人が含まれるリスクは45%低下することが分りました。

 「ニトログリセリン投与による血管拡張反応」では、成績が悪い(ニトログリセリンを投与しても血管が拡張しにくい)下位3分の1のグループに、コーヒーを毎日摂取している人が含まれるリスクは50%低下することが分りました。

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 コーヒー好きには朗報ですが、飲めば飲むほど血管がしなやかになるとは言えないでしょう。効果のある上限(何杯までが有効か)が気になるところですが、この研究からは分かりません。

 また、当然のことながら、コーヒーに期待しすぎるのは禁物です。昔からはっきりしているのは「血管のしなやかさを保つのに最も大切なのは運動」という事実です。 

参考:医療ニュース
2022年3月20日 ADHDには濃いコーヒーが有効かも
2018年11月30日 コーヒーで酒さ予防
2018年4月5日 コーヒーの発がん性をLA高等裁判所が認定
2016年12月9日 コーヒー1日3杯以上で脳腫瘍のリスクが低下
2016年3月8日 コーヒーを毎日飲めば膀胱がんのリスクが低下
2015年12月26日 コーヒーを飲んで長生き、自殺も予防!

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2022年8月28日 日曜日

2022年8月28日 「10秒間の片足立ち」ができなければ死亡リスク増

 大変分かりやすくて興味深い論文を一流誌から見つけましたので報告しておきます。医学誌「British Journal of Sports Medicine」2022年6月21日号に掲載された「10秒間の片足立ちができるかどうかが中高年の生存リスクを予測する(Successful 10-second one-legged stance performance predicts survival in middle-aged and older individuals)」です。

 この研究の対象はブラジル人です。2009年2月10日~2020年12月10日に医療機関を受診した51~75歳の合計1,702人(平均年齢61.7歳、男性67.9%)を調査しました。「10秒間片足立ち」ができなかった割合は次の通りです。

全体       20.4%
51~55歳      4.7%
56~60歳      8.1%
61~65歳    17.8%
66~70歳       36.8%
71~75歳       53.6%     

 全体として7年間(中央値)を追跡した結果、合計123人が死亡しました。内訳は、がん、心血管疾患、呼吸疾患、新型コロナウイルス関連が、それぞれ、32%、30%、9%、7%でした。

 死亡率をみてみると、「10秒間片足立ち」が「できたグループ」の死亡率が4.6%なのに対し、「できなかったグループ」では17.5%と大きく差がつきました。

 両グループの既往(持病)は次のようになります。

      できたグループ   できなかったグループ
肥満      22.6%        40.2%
冠動脈疾患   30.0%        40.5%
高血圧     43.5%        65.3%
脂質異常症   52.7%        63.0%
糖尿病     12.6%        37.9%

 年齢、性、BMI、どのような病気を持っているかを調整した後の解析結果は、「できなかったグループ」は「できたグループ」に比べて「10年以内の全死亡リスクは84%高い」と推定されました。

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 この研究からは少なくとも次の3つのことは言えそうです。

・加齢と共に「10秒間片足立ち」ができなくなっていく

・「10秒間片足立ち」ができない人は生活習慣病を持っていることが多い

・生活習慣病があっても「10秒間片足立ち」ができれば死亡リスクは低くなる

 ということは、日ごろから生活習慣病の予防に努めるとともに、日々「10秒間片足立ち」をおこないリスクの確認と(片足立ちすることによる)ワークアウト(筋トレ)をすべきだ、という結論が導かれます。

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

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