医療ニュース
2016年6月27日 月曜日
2016年6月28日 ポテト食べすぎで高血圧
以前、この「医療ニュース」でじゃがいもをたくさん食べると糖尿病のリスクが上昇するという報告(注1)をおこないました。今回はじゃがいもが高血圧のリスクになるという話です。
じゃがいもは血圧を上昇させ、なかでもフライドポテトが最も危険である・・・
医学誌『British Medical Journal』2016年5月17日号(オンライン版)(注2)にこのような論文が掲載されました。
この研究はこれまでに米国で実施された3つの大規模調査の結果を分析することによっておこなわれています。これら大規模調査の対象者は、「NHS(Nurses’Health Study)」と呼ばれる調査に協力した女性看護師88,475人、「NHS Ⅱ」と呼ばれるやはり女性看護師を対象とした調査に協力した88,475人、③HPFS(Health Professionals Follow-up Study)と呼ばれる医療者を対象とした調査に協力した男性の医療者36,803人です。
ジャガイモは、①焼き(baked)/ゆで(boiled)/すりつぶし(mashed)、②フライドポテト(French fries)、③ポテトチップス(potato chips)の3つに分類し、高血圧のリスクが検討されています。結果、焼き/ゆで/すりつぶしで11%、フライドポテトで17%のリスク上昇が認められています。(ポテトチップスでは有意なリスク上昇はなかったようです)
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この研究から言えることは「じゃがいもは野菜ではない」ということです。じゃがいもには食物繊維と多量のカリウムが含まれていることから、むしろ高血圧に有用な食べ物ではないかと言われることもありますが、この研究でそれが否定されたことになります。
ちなみにWHOは以前よりじゃがいもを野菜と認めていません。ポテト料理を食べ過ぎて体重増加を経験した人も少なくないのではないでしょうか。糖尿病と高血圧のリスクを上昇させるじゃがいも。我々はじゃがいもとの付き合い方を見直すべきなのかもしれません。
注1:医療ニュース「ポテト食べすぎで糖尿病」(2016年1月29日)
注2:この論文のタイトルは「Potato intake and incidence of hypertension: results from three prospective US cohort studies」で、下記URLで概要を読むことができます。
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|2016年6月27日 月曜日
2016年6月27日 米国の減塩対策と日本の減塩食品
塩分を減らしましょう、というのはほとんどの診察室で医師が毎日何度も言うセリフで、太融寺町谷口医院も例外ではありません。しかし、この塩分対策というのは容易ではなく、定期的な運動や体重コントロールがきちんとできている人でもなかなかうまくいきません。
米国でもそれは同様で、FDA(アメリカ食品医薬品局)のレポート(注1)によれば、アメリカ人が摂取している塩分は1日8.6g(原文ではナトリウム量の表記で3,400mg)(注2)、米国の推奨値は5.8g(ナトリウム2,300mg)です。(ちなみに、日本人の塩分摂取量は2013年の厚労省の調査では男性11.1g、女性9.4g、2015年版の推奨値は男性8g未満、女性7g未満です)
米国では、摂取する塩分の7割は加工食品や飲食店での食事と言われています。そこで、FDAは食品メーカーやレストランなどに対し、自主的に塩分含有量を減らすことを求めた指針を発表しました。チーズやパン、ドレッシング、お菓子、加工肉など150の食品カテゴリーごとに2年後と10年後のナトリウム含有量の目標値が示されています(注3)。例えば、プロセスチーズなら現在1,358mgで、2年後には1,210mg、10年後には1,000mgが目標とされています。
日本では、このような具体的な指針の発表はありませんが、日本高血圧学会の減塩委員会は減塩にふさわしい食品の検討をおこない、昨年(2015年)から「減塩アワード」というコンテストをおこなっています。下記は第1回と第2回の受賞製品です(注4)。
〇第1回受賞製品(2015年5月発表)
味の素(株) やさしお
ヤマキ(株) 減塩だしつゆ
ユニー(株) スタイルワン素材のうまみ引き立つよせ鍋つゆ
スタイルワン素材のうまみ引き立つちゃんこ鍋つゆ
ヤマモリ(株) 減塩でおいしいとり釜めしの素
減塩でおいしいごぼう釜めしの素
キッコーマン食品(株) 味わいリッチ減塩しょうゆ
一正蒲鉾(株) サラダスティック
鯛入りまめかま赤
鯛入りまめかま白
シマダヤ(株) 「流水麺」うどん
食塩ゼロ本うどん
東京「恵比寿」ラーメンやさしい醤油味
東京「恵比寿」ラーメンやさしい味噌味
サンヨー食品(株) サッポロ一番大人のミニカップきつねうどん
サッポロ一番大人のミニカップきつねそば
(株)マルタイ マルタイラーメン
寿がきや食品(株) 小さなおうどんお吸いもの
〇第2回受賞遺品(2016年5月発表)
味の素(株) お塩控えめの・ほんだし
ヤマモリ(株) 地鶏釜めしの素
山菜五目釜めしの素
(株)マルタイ 屋台とんこつ味棒ラーメン
一正蒲鉾(株) SHさつま揚
中田食品(株) 梅干し おいしく減塩うす塩味塩分3%
梅干し おいしく減塩しそ風味塩分3%
梅干し おいしく減塩はちみつ塩分3%
(株)新進 国産野菜 カレー福神漬 減塩
ユニー(株) スタイルワンだしのうまみ引き立つしょうゆラーメン
スタイルワンだしのうまみ引き立つシーフードラーメン
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注1:下記URLでFDAのレポートが参照できます。
http://www.fda.gov/food/ingredientspackaginglabeling/labelingnutrition/ucm315393.htm
注2:ナトリウムと食塩の換算式は、「食塩(g)=ナトリウム(mg)x2.54÷1,000」です。
注3:下記のサイトで150項目の詳細がわかります。
http://www.fda.gov/downloads/food/guidanceregulation/guidancedocumentsregulatoryinformation/ucm504014.pdf
注4:高血圧学会減塩委員会が推奨する減塩食品のリストは下記URLを参照ください。
http://www.jpnsh.jp/data/salt_foodlist.pdf
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|2016年6月1日 水曜日
2016年6月1日 うつ病と性病の意外な関係
うつ病と性感染症、一見まったく関係のないように思えますが、これらには相関関係があるようです。
うつ病があると性行為感染症のリスクが上昇する・・・
私はこの論文のタイトルをみたときに自分の目を疑いました。 「Young adults with depression are at increased risk of sexually transmitted disease」というタイトル、直訳すると「うつのある若い成人は性感染症のリスクが上昇する」となります。うつ病があると、気分が滅入り外出するのも億劫になりますから、性行為などというエネルギーのいる行為などとてもできない。だから性感染症のリスクは下がるのではないか、というのが私が感じたことです。しかし、そう考えるのは当然すぎて面白くもなんともありませんから、私が考えたような結果ならそもそも論文にはならなかったでしょう。
医学誌『Preventive Medicine』2016年7月号(オンライン版)に掲載された論文(注1)によれば、うつ病があれば性感染症のリスクが上昇し、うつ病の治療を受ければリスクが低下するというのです。
この研究の対象者は米国の12歳以上の合計18,142人の男女で、うつ病(過去にあった例も含めて)の有病率は15.3%、性感染症の有病率は2.4%です。常識的には何ら関連のなさそうなこれら2つを分析してみると、うつ病があれば性感染症に罹患するリスクが男性で2.23倍に、女性で1.61倍になるそうです。白人のみでみると3.02倍にもなります。さらに興味深いことに、治療を受けるとなんと性感染症に罹患するリスクが0.55倍に、つまり45%も減少するというのです。
この研究者は、「プライマリ・ケアの領域でうつ病に積極的に介入することによって性感染症を防ぐことができる」と主張しています。
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先に述べたようにこの研究結果は私にとっては意外なものでした。ただし、うつ病があれば感染症全般に罹患しやすくなるというのは納得できることです。なぜならうつ病があれば、免疫能が落ちることが予想されますから、当然病原体に対する抵抗力が弱くなるからです。そしてこれを調べた研究があります。医学誌『International Journal of Epidemiology』2015年11月19日(オンライン版)に掲載された論文(注2)によれば、うつ病のエピソードがあれば感染症全般のリスクが1.61倍になるそうです。この研究の対象者は976,398人と大規模なものですから、信憑性が高いと言えるでしょう。
性感染症というのは、HIVにしてもB型肝炎にしても、あるいはクラミジア頸管炎/尿道炎といった簡単に治癒する感染症であったとしても自覚症状がないのが普通です。ということは、うつ病のエピソードがあればこれら性感染症のリスクを考慮して検査をすべきなのでしょうか。それともこの研究はアメリカのものであり、日本では結果が異なるのでしょうか。
いずれにしても、うつ病や性感染症というのは上記で述べたように有病率が高いものですから、プライマリ・ケア(総合診療)の現場では積極的に介入すべき疾患であるということは言えそうです。
注1:この論文のタイトルは「Young adults with depression are at increased risk of sexually transmitted disease」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0091743516300421
注2:この論文のタイトルは「Depression and the risk of severe infections: prospective analyses on a nationwide representative sample」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://ije.oxfordjournals.org/content/45/1/131.abstract?sid=573d6c57-6af5-47d2-8818-94e253ac4106
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|2016年5月30日 月曜日
2016年5月30日 韓国、加湿器の殺菌剤で100人の死亡者
UKを拠点とし世界中に販売網をもつ多国籍企業の「オキシー・レキット・ベンキーザー」が韓国で販売していた殺菌剤が原因で約100名の死亡者がでています。
この殺菌剤は加湿器の消毒に使うもので、妊産婦や新生児の肺を損傷し多数が犠牲になっています。BBC(注1)によれば、2011年にはこの殺菌剤と死傷者との間の因果関係が示唆されていたのにもかかわらず同社はそのまま販売を継続し被害が広がりました。また製品自体は10年以上も販売され続けていたそうで、今後も被害者が増える可能性があるとみられています。BBCの報道では、同社の社長が犠牲となった人の遺族から激しく詰め寄られるシーンが紹介されています。
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海外のスーパーや薬局で殺虫剤や殺菌剤のコーナーを除くとケバケバしい色とデザインのパッケージに躊躇してしまった経験があるのは私だけではないでしょう。私が最もよく渡航するタイでは、殺虫剤の使用で障害を負ったという話がよくあり、これは「都市伝説」に過ぎないのかもしれませんが、心理的に現地のものを使うのにはいまだに抵抗があります。私は蚊取り線香は日本で購入したものを持参しています。これは品質の高さを求めて、というのが最大の理由ですが、現地のものは何か不純物が入っていないか気になるというのもあります。(現地メーカーには失礼ですが・・・)
今回の韓国の報道はいくつか疑問が残ります。殺菌剤と肺障害の関連性が指摘されてからも長期間販売が継続されたのはなぜなのか、ということに加え、この製品がなぜ韓国だけで販売されていたのかが皆目分かりません。私の個人的な印象でいえば、加湿にこだわるのは韓国人よりも日本人です。そしてこの会社オキシー・レキット・ベンキーザー社は日本にも支店をもっています。しかも1~2年のことなら分かりますが、なぜ、韓国でのみの販売が10年以上も続けられたのでしょうか・・・。何か表には出せない理由があるような気がしてなりません。
ところで、韓国のホテルに泊まれば加湿器が置かれていることがよくあります。この製品が日本では使われていなかったとしても、出張や観光で頻繁に韓国を訪れる日本人は大勢います。今後、呼吸器症状を訴える患者さんには韓国への渡航歴を尋ねるべきかもしれません。
注1:BBCのこの記事のタイトルは「Reckitt Benckiser sold deadly sterilisers in South Korea」で、下記URLで読むことができます。
http://www.bbc.com/news/world-asia-36185549
注2:オキシー・レキット・ベンキーザー社のトップページにこの事件の説明があります。
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|2016年5月30日 月曜日
2016年5月31日 孤独感や孤立で心疾患・脳卒中のリスク上昇
長年連れ添った奥さんに先立たれると残された夫は寿命が短い、ということはよく指摘されますし、社会的に孤立している人や孤独感をいつも抱えている人が健康的でないことは容易に想像できます。今回はこれを証明した大規模調査を紹介します。
孤独感(loneliness)や社会的孤立(social isolation)があれば、心筋梗塞などの心疾患のリスクが29%上昇、脳卒中のリスクは32%も上昇する・・・
医学誌『Heart』2016年4月18日号(オンライン版)に掲載された論文の趣旨です(注1)。この研究は、これまでに発表された23件の疫学研究のデータを総合的に解析しています。対象者のうち、4,628人が心筋梗塞などの心疾患を、3,002人が脳卒中を発症しています。
孤独感や社会的孤立をひとつの因子として解析すると、心筋梗塞など心疾患のリスクは29%の上昇、脳卒中のリスクは32%上昇することが判ったそうです。
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どのようにして孤独感や孤立の程度を評価するのか、という課題はありますが、心疾患29%、脳卒中32%という数字の大きさを考えると、これらの対策にもっと力を入れるべきでしょう。これだけのリスクがあるとなると、適正体重の維持や日々の運動などよりも先に対策を立てなければならないかもしれません。
しかし、どのようにして孤独感を払拭し、社会的孤立を防げばいいのでしょうか・・・。地域にもよるでしょうが、昔のような地域のつながりはもはやありません。都心部では公民館での行事や回覧板の存在すらなくなっています。ではフェイスブックなどのSNSで友達と交流すればいいではないか、という意見がありますが、残念ながら、現在ではこういった社会ツールでは孤独や孤立をなくすことができないとう研究があります(注2)。一方、「ひとりで過ごす方が有意義」という考えもあり、例えば漫画家の蛭子能収氏の著書『ひとりぼっちを笑うな』はベストセラーになっているそうです。
血圧や体重、運動量などとは異なり、孤独度、孤立度というのは数値に還元しにくく研究はおこないにくいものです。そして、おそらくは、その人によって、それが健康上のリスクになるかどうかの幅が大きいでしょう。(喫煙は多くの人にとって多かれ少なかれリスクになるが、孤独・孤立はさほどリスクにならない人もいる可能性がある)
また国民性や宗教によって違いがあるかもしれません。例えば誰とも話さない生活を送っていても週に一度協会に行っている人はリスクが少ないといったことはあるかもしれません。今後のさらなる研究を待ちたいと思います。
注1:この論文のタイトルは「Loneliness and social isolation as risk factors for coronary heart disease and stroke: systematic review and meta-analysis of longitudinal observational studies 」で、下記URLで概要を読むことができます。
注2:下記を参照ください。
医療ニュース2015年6月6日「フェイスブックで「うつ」になる理由とは」
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|2016年5月13日 金曜日
2016年5月13日 「味の素」で大腸がんの予防
先月の「はやりの病気」で、AICR(米国がん研究協会、American Institute for Cancer Research)が発表した「大腸がんの半数を減らすことのできる6つの習慣」を紹介しました(注1)。その6つをざっと振り返ると、①太らない、②運動する、③食物繊維を摂る、④加工肉NG、⑤アルコール控える、⑥ニンニクたっぷり、です。
今回お伝えしたいのは、「グルタミン酸が大腸がんの予防になる」とする研究で、医学誌『Cancer』2016年3月15日号(オンライン版)に掲載されています(注2)。
この研究の対象者は「ロッテルダム・スタディ」と呼ばれる疫学調査に参加した55歳以上のオランダ人5,362人で、調査開始は1990年です。調査期間中242人が大腸がんを発症しています。分析の結果、調査開始時のグルタミン酸摂取量と大腸がんの発症には相関関係があることがわかりました。つまり、グルタミン酸を多く摂っていれば、大腸がんのリスクが減らせるというわけです。
総蛋白摂取量に占めるグルタミン酸の割合が1%増加すれば相対リスクが0.78に、つまり発症のリスクを22%下げることができるとされています。さらに、この傾向は体重によって異なるようです。BMIが25以下、つまり適正体重であれば相対リスクが0.58で、これは42%もリスクが減るということを意味します。
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太っていればグルタミン酸の効果が減るというのは、AICRの「6つの習慣」のひとつでもある、上記①太らない、と関係があるのかもしれません。つまり太っていることによるリスクがグルタミン酸の効果を差し引くということです。
適正体重であればグルタミン酸摂取で大腸がんの相対リスクが0.58になるというのは、センセーショナルな結果であり、世界中で取り上げられてもいいと思うのですが、今ひとつ話題になっていません。私の分析では、この理由は以下の3つです。
(1)オランダという比較的小さな国での研究である。(これが米・英、あるいは日本ならもっと大きく取り上げられたかもしれません)
(2)「総蛋白摂取量に占めるグルタミン酸の割合」というものがそんなに簡単に計測できるのか、という疑問がある。(私自身も、この計測の正確さに疑問を持っています)
(3)グルタミン酸の有害性を指摘する声もある
ところで、我々日本人が「グルタミン酸」と聞いてまず思い出すのが「味の素」です。というより、この論文を読めばほとんどの日本人が「じゃあ、味の素をしっかり摂ればいいのだろうか」と思うでしょう。
私は個人的には「味の素は健康に寄与できる」ということがもっと強調されてもいいと感じているのですが、味の素株式会社はその点で消極的なようです。少なくとも味の素を効果的に使うことによって、塩分摂取を大幅に減らすことが可能です。さらに大腸がんの予防効果があるとなると、PRしないのはもったいないという気がするのですが・・・。
私の推測ですが、上記(3)、つまり、グルタミン酸≒味の素の有害性を強調する声があるために、あまり味の素の良さが味の素株式会社からもアピールされないのではないかという気がしています。どのようなものも摂取しすぎるのは良くありませんが、私の経験上、少なくともタイ、マレーシア、インドネシアといった東南アジアの人たちに比べると日本人の味の素の摂取量がかなり少ないのは間違いありません。以前タイのある地域で、ソムタム(タイのパパイヤサラダ)をつくっているのを見たとき、味の素をあまりにも大量に入れているのを見て驚いたことがあります(注3)。一皿に大さじ2~3杯は入れられていました。ちなみに、タイでも味の素は「アジノモト」と呼ばれています。
グルタミン酸≒味の素の有害性については過去に指摘されたことがありますが、現在は少なくとも信憑性の高い否定的なデータはほとんどありません。もしも味の素が健康を害するものなら、日本より摂取量が多いと思われるタイを初めとする東南アジアで何らかの被害が生じると思うのですが、そういう話も聞きません。現在WHOはグルタミン酸の上限を設けておらず安全なものとしていますから、私自身はそれほど過敏になる必要はなく、美味しいと思える範囲でどんどん摂取すればいいと思っています。ただ、どのようなものも摂りすぎには注意する必要がありますが(注4)。
注1:下記を参照ください。
はやりの病気第152回(2016年4月)「大腸がん予防の「6つの習慣」とアスピリン」
注2:この論文のタイトルは「Baseline dietary glutamic acid intake and the risk of colorectal cancer: The Rotterdam study」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/cncr.29862/abstract
注3:詳しくは下記を参照ください。
マンスリーレポート2013年8月号「この夏の暑さと塩と味の素」
注4:味の素も多量に摂りすぎると中毒症状を呈することがあります。「味の素中毒」(中華料理店症候群)については下記を参照ください。
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|2016年5月6日 金曜日
2016年5月6日 怒りやすいのは寄生虫が原因の可能性
些細なことですぐに怒り出す人はどこの社会にもいますから、文化の違いはあるにせよ、「そういった人もいての世の中」と考える必要があります。ただし、怒りの程度が一線を越えてしまえば「病気」と認識すべきです。
ちょっとしたことで突然声を荒げ、暴力的行為を働き、実際に他人に損傷を負わせる、あるいは他人のモノを壊す、となれば、それが10分程度で治まったとしてもやはり「病気」であり治療の対象となります。(必ずしも治療は上手くいきませんが)
すぐに怒り出す(すぐにキレる)というエピソードは、いくつかの精神疾患、例えば、パーソナリティ障害(特に、反社会性パーソナリティ障害や境界性パーソナリティ障害)、統合失調症、躁病、ADHD(注意欠陥多動性障害)などでも起こりえます。しかし、これら疾患では説明がつかない、より重症の「すぐに怒る病気」があり、「間欠性爆発性障害(以下IED)」と呼ばれています。
IEDはこれまで、脳の疾患であるとする説が有力で、実際に脳MRIを撮影すると異状が認められるとする報告もあります(注1)。今回新たに報告されたものは従来の説を根底から覆すもので、その原因は感染症とされています。
医学誌『The Journal of Clinical Psychiatry』2016年3月23日号(オンライン版)に掲載された論文(注2)によれば、IEDの原因はトキソプラズマという原虫です。
研究の対象者は成人358人。IEDの診断がついているグループ、IED以外の精神疾患を持つグループ、精神疾患のないグループの3つのグループに分け、トキソプラズマ抗体(IgG抗体)が調べられています。抗体陽性率は、IEDグループで22%、他の精神疾患グループで16%、精神疾患のないグループで9%だったそうです。また、トキソプラズマ抗体の陽性者と陰性者を比べると、陽性者の「怒り・攻撃性のスコア」は有意に高かったそうです。
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トキソプラズマといえばAIDS患者に発症するものと一般には思われており、実際免疫能が低下した場合に感染し発症します。ネコの糞から感染するのが一般的な感染ルートです。症状としては、発熱、リンパ節腫脹、肝機能異常などが主で、重症化すると、筋炎、肺炎、網脈絡膜炎(目の炎症)、さらに重症化すると全身の多臓器不全をおこします。また、妊娠中に初感染すれば(HIV感染に関係なく)、胎盤を介して胎児に感染することがあります。すると胎内死亡、流産・早・死産が生じやすくなり、出生すると、脳内石灰化、水頭症(小頭症)、網脈絡膜炎、精神・運動発達遅滞などをきたします。妊娠するとネコに注意、と言われるのはトキソプラズマの初感染を防ぐためです。(すでに感染したことのある人は気にする必要はありません)
さて、この研究はトキソプラズマでIEDのすべての説明がつくわけではありません。それに、先にも述べたように、怒りというのは誰にでも起こりうる反応ですから、怒りっぽい性格の人全員が検査をする必要はもちろんありません。ただ、以前と性格が変わってしまい、些細なことで周囲を驚かせるくらいに怒ってしまうという人はかかりつけ医に相談してもいいかもしれません。
注1:この論文は医学誌『Biological Psychiatry』2016年1月号(オンライン版)に掲載されており、タイトルは「Frontolimbic Morphometric Abnormalities in Intermittent Explosive Disorder and Aggression」。下記URLで概要を読むことができます。
http://www.biologicalpsychiatrycnni.org/article/S2451-9022%2815%2900007-5/abstract
注2:この論文のタイトルは「Toxoplasma gondii Infection: Relationship With Aggression in Psychiatric Subjects」で、下記URLで全文を読むことができます。(全文が読めるのは一定期間内となる可能性もあります)
http://www.psychiatrist.com/JCP/article/Pages/2016/v77n03/v77n0313.aspx
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|2016年4月27日 水曜日
2016年4月27日 ダイエットには充分なタンパク質を
最近、水が最強のダイエット飲料であるという情報を紹介しました(注1)。これは、ほとんどコストゼロでできる簡単で(度を超さなければ)安全なダイエット法であり、体重が気になる人はすぐにでも実践すべきでしょう。今回お伝えするのも、比較的簡単にできて、しかも苦痛を伴わない方法です。
タンパク質の豊富な食事は満腹感を早くに得られる・・・
医学誌『Journal of the Academy of Nutrition and Dietetics』2016年3月3日号(オンライン版)にこのような研究結果が報告されています(注2)。
この研究は、米国インディアナ州Purdue大学のRichard D. Mattes氏らによっておこなわれました。研究の方法は、新たに被験者を募ったわけではなく、これまでに発表されている多くの論文を総合的に解析するというものです。(これをメタ解析と呼びます)
結果、タンパク質を豊富に取れば、タンパク質が少ないときよりも満腹感が早く得られることが分かったそうです。この理由について、研究者は、タンパク質がいわゆる「満腹ホルモン」の分泌を促しているのではないかと推測しています。どのくらいのタンパク質を摂取すれば満腹感を得られるのかについては、はっきりと言及していません。
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体重が気になる人がいればすぐにでも試してみるべきかもしれません。水が有効という研究もあるわけですから、食事前にまず水を飲み、その後野菜のみならずタンパク質も積極的に摂るようにして、満腹ホルモンの分泌が終わってから、少量の脂肪、最後に少量の炭水化物という流れがダイエットには理想ということになります。
注1:下記を参照ください。
医療ニュース2016年4月4日「最強のダイエット飲料は「普通の水」」
注2:この論文のタイトルは「The Effects of Increased Protein Intake on Fullness: A Meta-Analysis and Its Limitations」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://www.andjrnl.org/article/S2212-2672%2816%2900042-3/abstract
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|2016年4月26日 火曜日
2016年4月26日 睡眠不足で食欲亢進はカンナビノイドが原因
睡眠時間が短いとダイエットの効果が乏しくなるという研究を以前お伝えしたことがあります(注1)。この研究は、同じ食事量でも睡眠不足があるとやせにくい、とするものです。そして、睡眠不足がダイエットに不向きな理由はまだあります。睡眠時間が短いと食欲が亢進することを実感したことのある人は多いのではないでしょうか。今回お伝えしたい研究はそのメカニズム解明につながるかもしれない興味深いものです。
睡眠不足になるとカンナビノイドが増加する・・・
カンナビノイドと聞いて分からないという人もいるかもしれませんが、これは誰もが知っている物質です。それは「大麻」です。多幸感をもたらす大麻の成分がカンナビノイドなのです。(正確にはカンナビノイドにもいくつかの種類があり、多幸感と無縁のものがありますがここではその説明に踏み込みません)
大麻は日本では今も違法であり、世界各国でも前世紀までは一部の国と地域を除いて違法でしたが、ここ10年くらいで合法とする国が一気に増えました。南米、ヨーロッパでは多くの国が合法になり、アメリカでもいくつかの州ですでに合法です。また、日本を含む違法の国であっても入手するのはそうむつかしくありませんから、興味本位で試したことがあるという人もいるでしょう。大麻には依存性もありますし(大麻推進派は「ない」と言いますが、ないわけではありません)、副作用も少なくありませんから安易に手を出すべきではないと私は考えています。そして大麻フリークの人たちも「これだけは困る・・・」と口をそろえて言う”副作用”があります。それが「食欲亢進」です。
今回紹介する研究は米国シカゴ大学が運営している『SCIENCE Life』と名前のウェブサイト(注2)に報告されています。
この研究の対象者は20代の健常なボランティア男女14人です。最初の4日間は8.5時間、残りの4日間は4.5時間の睡眠時間が与えられました。(実際の平均睡眠時間は7.5時間と4.2時間) 全日程において1日3食の食事が与えられ、定期的な血液検査がおこなわれました。
結果、睡眠時間が短ければ、血中カンナビノイド値が、充分な睡眠時間のときに比べて33%も上昇していました。さらに、睡眠時間が充分なときは、血中カンナビノイドは昼食後にピークとなり、その後次第に下降していくのですが、睡眠不足があれば、血中カンナビノイド値の立ち上がりが遅く、午後の遅い時間から上昇し、夕方から夜遅い時間まで高値を維持したままであることが分かりました。
そして、実際に血中カンナビノイドが高いままの睡眠不足になると、空腹を訴え続け、差し出されたスナック菓子を、睡眠時間が充分なときに比べ2倍近い量を食べたそうです。そして、カロリー摂取量は睡眠時間が充分なときに比べ50%も上昇し、摂取脂肪量にいたっては2倍にもなったそうです。
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睡眠不足があれば、同じカロリー摂取であっても太りやすいだけでなく、食欲が大幅に亢進するというわけです。
現在、日本でも大麻を解禁すべきという意見が増えてきているようですが、太ることに敏感な日本人の性格を考えると、太るなら大麻なんていらない、という声が上がり、意外にも世論が「大麻解禁反対」となるかもしれません。
それにしても多幸感をもたらすカンビノイドが体内で合成されるというのは興味深いと言えます。ヘロイン(麻薬)やメタンフェタミン(覚醒剤)も、なぜ多幸感や興奮をもたらすかというと、これらに似た物質が体内でつくられるからです。ならば、いわば天然の大麻、麻薬、覚醒剤などを思いのままに脳内で作り出せることができれば随分精神状態が安定するのではないか、というのは私が長年考えていることです。いずれ、このことについても詳しく述べたいと思います。
注1:はやりの病気第139回(2015年3月)「不眠症の克服~「早起き早寝」と眠れない職業トップ3~」の中で紹介しています。
注2:このレポートのタイトルは「Sleep loss boosts hunger and unhealthy food choices」で、下記URLで読むことができます。
https://sciencelife.uchospitals.edu/2016/02/29/sleep-loss-boosts-hunger-and-unhealthy-food-choices/
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|2016年4月25日 月曜日
2016年4月25日 ノロウイルスの有効な予防法
毎年冬から春にかけてノロウイルスを代表とする感染性胃腸炎(注1)が流行します。ノロウイルスには一応は周期があるとされており、たしかに統計学的な数字をみれば流行したのは2002年、2006年、2010年と規則性があるように見受けられます。しかし、私の実感としては少なくともここ数年間は「数年毎の流行」ではなく、「毎年の流行」のような印象があります。
なぜノロウイルスがやっかいなのか。それは感染力が非常に強く、通常のアルコール消毒では効果が不十分だからです。ただし、アルコールがまったく無効というわけではありません。しかし、アルコールはまったく無効と考えている人が(医療者の中にも)います。実は、アルコールの効果に対する考え方は少しずつ変わってきており、厚労省の正式な文章でも表現が改訂されています。また、ノロウイルスに対して有効と思われる新しい消毒液が発売されましたので、これについても紹介したいと思います。
2004年2月4日に厚労省が発表した「ノロウイルスに関するQ&A」(注2)には、「ノロウイルスの失活化には、エタノールや逆性石鹸はあまり効果がありません。ノロウイルスを完全に失活化する方法には、次亜塩素酸ナトリウム、加熱があります」と書かれています。これを素直に読めば、アルコール(エタノール)は使うべきでなく、ノロウイルスの対策には化学薬品としては次亜塩素酸ナトリウム以外にはない、となります。
このQ&Aは2015年6月30日に改訂(注3)されました。消毒については「一般的な感染症対策として、消毒用エタノールや逆性石鹸(塩化ベンザルコニウム)が用いられることがありますが、ノロウイルスを完全に失活化する方法としては、次亜塩素酸ナトリウムや加熱による処理があります」、とされています。「(エタノールには)あまり効果がありません」という文言が消えています。
2004年の表現と2015年の改訂文書は似ているようにみえるかもしれませんが全く異なります。先に述べたように2004年の文書では「アルコールは効果なし」と読めるのに対し、2015年版では「アルコールは完璧ではないですが使うべきです」と解釈できるからです。
実は、アルコールに対する効果が過小評価されていないか、ということは以前からしばしば指摘されていました。実際には、アルコールはノロウイルスにもある程度は有効です(注4)。ノロウイルスの予防に最も有効なのは「徹底的な手洗い」です。石けんについては、他のウイルスほど有効ではありません。一般に、エンベロープといって”殻”のようなものを持つタイプのウイルス(インフルエンザウイルスやHIVが代表です)には石けんは有効ですが、エンベロープを持たないタイプのウイルスは効果が劣ります。しかし石けんはアブラを落とすのが得意ですから、アブラに付着したノロウイルスを洗い流すことはできます。ですから石けんは効果が不十分とはいえ使った方がいいのです。
アルコールに話を戻すと、病原体の予防を考えたとき、(特に日本人は)「完璧さ」を求めます。このため、「アルコールで完全に死滅させることができないならもっと強力なものはないのか」と考えたくなります。そして、その「もっと強力なもの」が次亜塩素酸ナトリウムです。実際、次亜塩素酸ナトリウムであれば、ほとんどすべての微生物を完璧に防ぐことができます。
しかし、欠点もあります。まず刺激が強すぎて皮膚に直接付けることができず手洗いには使えません。金属に塗布すると腐食するという欠点もあります。木材や有機物と接触すると消毒のパワーが減弱することも指摘されています。このため、木製の椅子や手すりなどの消毒には不十分となる可能性があります。パルプを原料とした紙も同様で、以前は、嘔吐物に新聞を載せてその上から次亜塩素酸ナトリウムをかけることが推薦されていましたが、最近はこの方法を疑問視する声もあります。
最近、ノロウイルスを効果的に予防することのできる改良型の消毒薬が相次いで登場してきています。価格が高いことなどもあり、現時点ではまだそれほど普及していませんが、医療機関のみならず一般企業や家庭でも今後使われるようになっていくかもしれません。下記はその一例です。
〇ルビスタ(R)(キョーリンメディカルサプライ社)
http://www.rubysta.jp/
〇ラビショット(健栄製薬株式会社)
http://www.kenei-pharm.com/medical/344/
〇ザルクリーン (健栄製薬株式会社)
http://www.kenei-pharm.com/medical/336/
******************
注1:ノロウイルスに感染しているかどうか調べてほしい、という要望がときどきありますが、原則として成人の場合は保険適用もなく現実的ではありません。ノロウイルスは成人であればほとんどのケースで入院は不要ですし、そもそも特効薬がありませんから、検査することにあまり意味がありません。一方、小児や高齢者で入院が必要になる場合は院内感染のリスク管理の意味もあり検査がおこなわれることが多いといえます。
注2:下記URLを参照ください。
http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/kanren/yobou/dl/040204-1.pdf
注3:下記URLを参照ください。
注4:消毒に用いるアルコールには「エタノール」と「イソプロピルアルコール」があります。ノロウイルスを含むエンベロープを持たないウイルスにはイソプロピルアルコールでは有効性が乏しいため、エタノールを用いるべきです。
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