医療ニュース

2016年7月11日 月曜日

2016年7月11日 ザガーロはプロペシアに取って代わるか

 男性を対象とした雑誌などではすでに話題になっているようですが、AGA(男性型脱毛症)の新しい治療薬が登場しました。「ザガーロ」という名称で、以前からあった「プロペシア(フィナステリド)」をもっと強力にした薬とされており、だいたいそのような理解で間違ってはいません。実際、プロペシアで効果が不十分だったけれど、ザガーロに変更して発毛効果が認められたとする研究もあります。

 医学誌『International Journal of Dermatology』2014年6月5日号(オンライン版)(注1)によりますと、プロペシア(フィナステリド)で効果が認められなかった症例の8割近くでザガーロの有効性が認められています。

 研究の対象者は韓国人男性です。プロペシアで効果なくザガーロを半年間内服した31人のうち、24人に有効性が認められたそうです。(17例はやや改善(slightly)、6例は中等度改善(moderately)、1例は大きく改善(markedly)とされています) 残りの7人は著変なく、悪化した症例はゼロのようです。発毛の評価はカメラを用いた客観性を担保した方法が採用されています。毛髪の密度は10.3%、太さは18.9%の改善が認められています。副作用は、一過性の性機能不全が6人(17.1%)に生じています。

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 過去に、プロペシアとザガーロ(アボルブ)の比較研究を紹介しました(注2)。その結果もザガーロの方が有効とされていました。ということは、新たにAGA治療を開始するときにはザガーロを選択したいと誰もが考えるでしょう。

 しかしそうはならないのではないかと私はみています。現在プロペシアには後発品(ジェネリック薬品)があり、価格は1箱(28日分)でだいたい6千円くらいです。ところがザガーロには後発品がなく、価格は1箱(30日分)で9千円近くもします。1日あたりでみれば80円程度の差ですが、これが何か月も何年もとなると馬鹿になりません。また、ザガーロとまったく同じアボルブという前立腺肥大症の薬があり、これはザガーロよりは安いのですが、AGAには承認されておらず、自己判断で内服すると大きな副作用が出たときに保障されないという問題があります。

 どちらを選択するかは、個人の考えということになります。それ以前にAGAは病気ではありませんから、それだけ高いお金を払ってまで治療をすべきかという根本的な問題もあります。さらに軽度とはいえ副作用もありますから、治療開始には充分に慎重になるべきです。

注1:この論文のタイトルは「Effect of dutasteride 0.5 mg/d in men with androgenetic alopecia recalcitrant to finasteride」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/ijd.12060/abstract

注2:下記「医療ニュース」のなかで取り上げています。

医療ニュース2014年3月17日「AGAにはプロペシアよりアボルブが有効?」

参考:トップページ「薄毛・抜け毛を治そう」

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2016年7月4日 月曜日

2016年7月4日 肥満+うつ(鬱)があれば食事前の悲しい話はNG

 ストレスがあるときは食事が喉を通らない、という人がいる一方で、ストレスがあれば食欲が亢進する、という人もいます。そして、皮肉なことに、日ごろから肥満を気にしている人に限って「食欲亢進」と言うような印象があります。この私の印象は正しいのでしょうか・・・。

 肥満とうつ(鬱)があると、悲しい話を聞いたときにエネルギー摂取量が有意に多くなる・・・。

 これは医学誌『Journal of health psychology』2016年5月20日号(オンライン版)に掲載された論文(注1)が主張していることです。

 研究は米国ニューヨークのセント・ボナベンチャー大学の心理学者Gregory J Privitera氏によるもので、154人が研究に参加しています。参加者を肥満、うつ病のカテゴリーに分類し、悲しい話を読んでもらったときと、幸せな話を読んでもらったときで、食事量や食事の内容がどれくれい変化するかが調べられています。被験者には、好きなものを好きなだけ食べられるビュッフェスタイルで食事が供給されました。

 結果、肥満とうつ(鬱)がある被検者は、悲しい話を読んだときに、エネルギー摂取量が有意に多くなり、また高カロリー食品を多く摂取することが分かったそうです。

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 研究の規模がさほど大きくないため、信ぴょう性はさほど高くないかもしれませんが、経験的にも合致することであり、参考になる研究だと思います。体重を気にしている人は、気分がすぐれないときには、意識して楽しい本を読んだり楽しい会話を心がける、ということが有効かもしれません。または、そのようなときには意識して食事量を減らし、高カロリーのものを避けるようにすべきでしょう。

 以前私は、フランス人は高カロリー食をたくさん食べるのに肥満が少ないのは「ゆっくり食べる」ことが原因ではないか、という自説を述べました(注2)。フランス人は家族との食事の時間を大切にし、ゆっくりと時間をかけて会話を楽しみながら食事をします。もしかすると肥満になりにくいのは、単に時間をかけて「ゆっくり食べる」からだけではなく、家族との会話を「楽しんで食べる」からかもしれません。

 いずれにしても、ストレスがありうつ状態になっているときに、そのストレスを”孤食”で解消することは止めておいた方がいいでしょう。

 

注1:この論文のタイトルは「Differential food intake and food choice by depression and body mass index levels following a mood manipulation in a buffet-style setting」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://hpq.sagepub.com/content/early/2016/05/19/1359105316650508.abstract

注2:メディカルエッセイ第142回(2015年11月)「速く歩いてゆっくり食べる(後編)」

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2016年6月30日 木曜日

2016年6月30日 酒さが認知症のリスク

 よくある疾患なのにも関わらず、一般の人があまり病名に馴染みのないものに「酒さ(しゅさ)」があります。顔面に生じる非感染性の慢性の炎症性疾患で、赤くなったり、一見ニキビのようなブツブツができたりします。痛みはなくかゆみもほとんどありません。酒さは男女ともに起こりますが、医療機関を受診する患者さんは圧倒的に女性の方が多く、太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)で言えば9割は女性です。

 なぜ男性は医療機関を受診しないかというと、女性ほどは「見た目」が気にならないのでしょう。実際、谷口医院では、別のことで受診した男性の患者さんに、「その顔面の赤みは酒さによるものですけれど治療はしなくてもいいのですか」と尋ねると、「気にしていません」と答える人が多く、なかには「放っておいてくれ」と言わんばかりの人もいます。一方、女性の場合は、気になる人が多いようで、酒さで受診する患者さんの多くは谷口医院を受診するまでにいくつかの医療機関をすでに受診しています。

 酒さが気にならないという男性は、おそらく「見た目の問題だけで別に寿命が短くなるわけでもないし・・・」ときっと思っているはずです。しかし、酒さがあれば認知症になりやすい、となればどうでしょう。

 酒さがあればアルツハイマー病になるリスクが2倍近くになる・・・

 これは医学誌『Annals of neurology』2016年6月号(オンライン版)に掲載された論文(注1)が言っていることです。研究の対象者は、18歳以上のデンマークの住民5,591,718人で、調査期間は1997年1月1日から2012年12月31日です。行政に提出されているデータを分析することにより検討が加えられています。

 調査期間中に何らかの認知症を発症した人は99,040人で、そのなかでアルツハイマー病は29,193人です。皮膚科医が「酒さ」の診断をつけた患者で解析をおこなうと、酒さがあれば何らかの認知症になるリスクが1.42倍、アルツハイマー病に限って言えば1.92倍にもなるそうです(注2)。ただ、リスク上昇が有意に認められたのは60歳以上の高齢者のみだったようです。

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 アルツハイマー病のリスクが1.92倍と聞けば、現在自分の酒さに無関心な男性も治療をおこなう気になるかもしれません。しかし、酒さの治療はそう簡単ではありません。先に述べたように谷口医院を受診する(女性の)酒さの患者さんは、すでにいくつもの医療機関を受診しています。これは、満足いく治療効果がでなかったために自身の判断で医療機関を変更しているということです。

 また、いったんよくなっても再び悪化する例が多く、それを繰り返しているうちに外出が億劫になったり、精神的にしんどくなったりする女性もいます。しかし、治療がないわけではありませんし、「完治」が困難だったとしても、最初の状態よりは大幅に改善させることは可能ですし、治療をあきらめなければならないような疾患ではありません。

 これまで治療に関心がなかったという男性も、よくなることを諦めてしまっているという女性も、将来の認知症のリスクを挙げないようにするためにも治療を考えてみればどうでしょうか。

注1:この論文のタイトルは「Patients with rosacea have increased risk of dementia」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ana.24645/abstract

注2:ただし、この調査はデンマーク人を対象としたものであり、日本人に同じことが当てはまるかどうかは不明です。

参考:
トップページ:ニキビ・酒さ(しゅさ)を治そう
医療ニュース
2015年10月6日「「酒さ」の原因は生活習慣と遺伝」
2015年11月28日「酒さは生活習慣病や心疾患のリスク」酒さが認知症のリスク

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2016年6月27日 月曜日

2016年6月28日 ポテト食べすぎで高血圧

 以前、この「医療ニュース」でじゃがいもをたくさん食べると糖尿病のリスクが上昇するという報告(注1)をおこないました。今回はじゃがいもが高血圧のリスクになるという話です。

 じゃがいもは血圧を上昇させ、なかでもフライドポテトが最も危険である・・・

 医学誌『British Medical Journal』2016年5月17日号(オンライン版)(注2)にこのような論文が掲載されました。

 この研究はこれまでに米国で実施された3つの大規模調査の結果を分析することによっておこなわれています。これら大規模調査の対象者は、「NHS(Nurses’Health Study)」と呼ばれる調査に協力した女性看護師88,475人、「NHS Ⅱ」と呼ばれるやはり女性看護師を対象とした調査に協力した88,475人、③HPFS(Health Professionals Follow-up Study)と呼ばれる医療者を対象とした調査に協力した男性の医療者36,803人です。

 ジャガイモは、①焼き(baked)/ゆで(boiled)/すりつぶし(mashed)、②フライドポテト(French fries)、③ポテトチップス(potato chips)の3つに分類し、高血圧のリスクが検討されています。結果、焼き/ゆで/すりつぶしで11%、フライドポテトで17%のリスク上昇が認められています。(ポテトチップスでは有意なリスク上昇はなかったようです)

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 この研究から言えることは「じゃがいもは野菜ではない」ということです。じゃがいもには食物繊維と多量のカリウムが含まれていることから、むしろ高血圧に有用な食べ物ではないかと言われることもありますが、この研究でそれが否定されたことになります。

 ちなみにWHOは以前よりじゃがいもを野菜と認めていません。ポテト料理を食べ過ぎて体重増加を経験した人も少なくないのではないでしょうか。糖尿病と高血圧のリスクを上昇させるじゃがいも。我々はじゃがいもとの付き合い方を見直すべきなのかもしれません。

注1:医療ニュース「ポテト食べすぎで糖尿病」(2016年1月29日)

注2:この論文のタイトルは「Potato intake and incidence of hypertension: results from three prospective US cohort studies」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://www.bmj.com/content/353/bmj.i2351

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2016年6月27日 月曜日

2016年6月27日 米国の減塩対策と日本の減塩食品

 塩分を減らしましょう、というのはほとんどの診察室で医師が毎日何度も言うセリフで、太融寺町谷口医院も例外ではありません。しかし、この塩分対策というのは容易ではなく、定期的な運動や体重コントロールがきちんとできている人でもなかなかうまくいきません。

 米国でもそれは同様で、FDA(アメリカ食品医薬品局)のレポート(注1)によれば、アメリカ人が摂取している塩分は1日8.6g(原文ではナトリウム量の表記で3,400mg)(注2)、米国の推奨値は5.8g(ナトリウム2,300mg)です。(ちなみに、日本人の塩分摂取量は2013年の厚労省の調査では男性11.1g、女性9.4g、2015年版の推奨値は男性8g未満、女性7g未満です)

 米国では、摂取する塩分の7割は加工食品や飲食店での食事と言われています。そこで、FDAは食品メーカーやレストランなどに対し、自主的に塩分含有量を減らすことを求めた指針を発表しました。チーズやパン、ドレッシング、お菓子、加工肉など150の食品カテゴリーごとに2年後と10年後のナトリウム含有量の目標値が示されています(注3)。例えば、プロセスチーズなら現在1,358mgで、2年後には1,210mg、10年後には1,000mgが目標とされています。

 日本では、このような具体的な指針の発表はありませんが、日本高血圧学会の減塩委員会は減塩にふさわしい食品の検討をおこない、昨年(2015年)から「減塩アワード」というコンテストをおこなっています。下記は第1回と第2回の受賞製品です(注4)。

〇第1回受賞製品(2015年5月発表)

味の素(株)                     やさしお
ヤマキ(株)                     減塩だしつゆ
ユニー(株)                     スタイルワン素材のうまみ引き立つよせ鍋つゆ
                            スタイルワン素材のうまみ引き立つちゃんこ鍋つゆ
ヤマモリ(株)            減塩でおいしいとり釜めしの素
                            減塩でおいしいごぼう釜めしの素
キッコーマン食品(株)  味わいリッチ減塩しょうゆ
一正蒲鉾(株)                サラダスティック
                                       鯛入りまめかま赤
                                       鯛入りまめかま白
シマダヤ(株)                 「流水麺」うどん
                                       食塩ゼロ本うどん
                                       東京「恵比寿」ラーメンやさしい醤油味
                                       東京「恵比寿」ラーメンやさしい味噌味
サンヨー食品(株)          サッポロ一番大人のミニカップきつねうどん
                                       サッポロ一番大人のミニカップきつねそば
(株)マルタイ                  マルタイラーメン
寿がきや食品(株)        小さなおうどんお吸いもの

〇第2回受賞遺品(2016年5月発表)

味の素(株)           お塩控えめの・ほんだし
ヤマモリ(株)               地鶏釜めしの素
                                      山菜五目釜めしの素
(株)マルタイ                屋台とんこつ味棒ラーメン
一正蒲鉾(株)              SHさつま揚
中田食品(株)             梅干し おいしく減塩うす塩味塩分3%
                         梅干し おいしく減塩しそ風味塩分3%
                         梅干し おいしく減塩はちみつ塩分3%
(株)新進                 国産野菜 カレー福神漬 減塩
ユニー(株)               スタイルワンだしのうまみ引き立つしょうゆラーメン
                        スタイルワンだしのうまみ引き立つシーフードラーメン

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注1:下記URLでFDAのレポートが参照できます。
http://www.fda.gov/food/ingredientspackaginglabeling/labelingnutrition/ucm315393.htm

注2:ナトリウムと食塩の換算式は、「食塩(g)=ナトリウム(mg)x2.54÷1,000」です。

注3:下記のサイトで150項目の詳細がわかります。
http://www.fda.gov/downloads/food/guidanceregulation/guidancedocumentsregulatoryinformation/ucm504014.pdf

注4:高血圧学会減塩委員会が推奨する減塩食品のリストは下記URLを参照ください。
http://www.jpnsh.jp/data/salt_foodlist.pdf

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2016年6月1日 水曜日

2016年6月1日 うつ病と性病の意外な関係

 うつ病と性感染症、一見まったく関係のないように思えますが、これらには相関関係があるようです。

 うつ病があると性行為感染症のリスクが上昇する・・・

 私はこの論文のタイトルをみたときに自分の目を疑いました。 「Young adults with depression are at increased risk of sexually transmitted disease」というタイトル、直訳すると「うつのある若い成人は性感染症のリスクが上昇する」となります。うつ病があると、気分が滅入り外出するのも億劫になりますから、性行為などというエネルギーのいる行為などとてもできない。だから性感染症のリスクは下がるのではないか、というのが私が感じたことです。しかし、そう考えるのは当然すぎて面白くもなんともありませんから、私が考えたような結果ならそもそも論文にはならなかったでしょう。

 医学誌『Preventive Medicine』2016年7月号(オンライン版)に掲載された論文(注1)によれば、うつ病があれば性感染症のリスクが上昇し、うつ病の治療を受ければリスクが低下するというのです。

 この研究の対象者は米国の12歳以上の合計18,142人の男女で、うつ病(過去にあった例も含めて)の有病率は15.3%、性感染症の有病率は2.4%です。常識的には何ら関連のなさそうなこれら2つを分析してみると、うつ病があれば性感染症に罹患するリスクが男性で2.23倍に、女性で1.61倍になるそうです。白人のみでみると3.02倍にもなります。さらに興味深いことに、治療を受けるとなんと性感染症に罹患するリスクが0.55倍に、つまり45%も減少するというのです。

 この研究者は、「プライマリ・ケアの領域でうつ病に積極的に介入することによって性感染症を防ぐことができる」と主張しています。

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 先に述べたようにこの研究結果は私にとっては意外なものでした。ただし、うつ病があれば感染症全般に罹患しやすくなるというのは納得できることです。なぜならうつ病があれば、免疫能が落ちることが予想されますから、当然病原体に対する抵抗力が弱くなるからです。そしてこれを調べた研究があります。医学誌『International Journal of Epidemiology』2015年11月19日(オンライン版)に掲載された論文(注2)によれば、うつ病のエピソードがあれば感染症全般のリスクが1.61倍になるそうです。この研究の対象者は976,398人と大規模なものですから、信憑性が高いと言えるでしょう。

 性感染症というのは、HIVにしてもB型肝炎にしても、あるいはクラミジア頸管炎/尿道炎といった簡単に治癒する感染症であったとしても自覚症状がないのが普通です。ということは、うつ病のエピソードがあればこれら性感染症のリスクを考慮して検査をすべきなのでしょうか。それともこの研究はアメリカのものであり、日本では結果が異なるのでしょうか。

 いずれにしても、うつ病や性感染症というのは上記で述べたように有病率が高いものですから、プライマリ・ケア(総合診療)の現場では積極的に介入すべき疾患であるということは言えそうです。

注1:この論文のタイトルは「Young adults with depression are at increased risk of sexually transmitted disease」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0091743516300421

注2:この論文のタイトルは「Depression and the risk of severe infections: prospective analyses on a nationwide representative sample」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://ije.oxfordjournals.org/content/45/1/131.abstract?sid=573d6c57-6af5-47d2-8818-94e253ac4106

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2016年5月30日 月曜日

2016年5月30日 韓国、加湿器の殺菌剤で100人の死亡者

 UKを拠点とし世界中に販売網をもつ多国籍企業の「オキシー・レキット・ベンキーザー」が韓国で販売していた殺菌剤が原因で約100名の死亡者がでています。

 この殺菌剤は加湿器の消毒に使うもので、妊産婦や新生児の肺を損傷し多数が犠牲になっています。BBC(注1)によれば、2011年にはこの殺菌剤と死傷者との間の因果関係が示唆されていたのにもかかわらず同社はそのまま販売を継続し被害が広がりました。また製品自体は10年以上も販売され続けていたそうで、今後も被害者が増える可能性があるとみられています。BBCの報道では、同社の社長が犠牲となった人の遺族から激しく詰め寄られるシーンが紹介されています。

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 海外のスーパーや薬局で殺虫剤や殺菌剤のコーナーを除くとケバケバしい色とデザインのパッケージに躊躇してしまった経験があるのは私だけではないでしょう。私が最もよく渡航するタイでは、殺虫剤の使用で障害を負ったという話がよくあり、これは「都市伝説」に過ぎないのかもしれませんが、心理的に現地のものを使うのにはいまだに抵抗があります。私は蚊取り線香は日本で購入したものを持参しています。これは品質の高さを求めて、というのが最大の理由ですが、現地のものは何か不純物が入っていないか気になるというのもあります。(現地メーカーには失礼ですが・・・)

 今回の韓国の報道はいくつか疑問が残ります。殺菌剤と肺障害の関連性が指摘されてからも長期間販売が継続されたのはなぜなのか、ということに加え、この製品がなぜ韓国だけで販売されていたのかが皆目分かりません。私の個人的な印象でいえば、加湿にこだわるのは韓国人よりも日本人です。そしてこの会社オキシー・レキット・ベンキーザー社は日本にも支店をもっています。しかも1~2年のことなら分かりますが、なぜ、韓国でのみの販売が10年以上も続けられたのでしょうか・・・。何か表には出せない理由があるような気がしてなりません。

 ところで、韓国のホテルに泊まれば加湿器が置かれていることがよくあります。この製品が日本では使われていなかったとしても、出張や観光で頻繁に韓国を訪れる日本人は大勢います。今後、呼吸器症状を訴える患者さんには韓国への渡航歴を尋ねるべきかもしれません。

注1:BBCのこの記事のタイトルは「Reckitt Benckiser sold deadly sterilisers in South Korea」で、下記URLで読むことができます。

http://www.bbc.com/news/world-asia-36185549

注2:オキシー・レキット・ベンキーザー社のトップページにこの事件の説明があります。

http://www.rb.com/jp/

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2016年5月30日 月曜日

2016年5月31日 孤独感や孤立で心疾患・脳卒中のリスク上昇

 長年連れ添った奥さんに先立たれると残された夫は寿命が短い、ということはよく指摘されますし、社会的に孤立している人や孤独感をいつも抱えている人が健康的でないことは容易に想像できます。今回はこれを証明した大規模調査を紹介します。

 孤独感(loneliness)や社会的孤立(social isolation)があれば、心筋梗塞などの心疾患のリスクが29%上昇、脳卒中のリスクは32%も上昇する・・・

 医学誌『Heart』2016年4月18日号(オンライン版)に掲載された論文の趣旨です(注1)。この研究は、これまでに発表された23件の疫学研究のデータを総合的に解析しています。対象者のうち、4,628人が心筋梗塞などの心疾患を、3,002人が脳卒中を発症しています。

 孤独感や社会的孤立をひとつの因子として解析すると、心筋梗塞など心疾患のリスクは29%の上昇、脳卒中のリスクは32%上昇することが判ったそうです。

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 どのようにして孤独感や孤立の程度を評価するのか、という課題はありますが、心疾患29%、脳卒中32%という数字の大きさを考えると、これらの対策にもっと力を入れるべきでしょう。これだけのリスクがあるとなると、適正体重の維持や日々の運動などよりも先に対策を立てなければならないかもしれません。

 しかし、どのようにして孤独感を払拭し、社会的孤立を防げばいいのでしょうか・・・。地域にもよるでしょうが、昔のような地域のつながりはもはやありません。都心部では公民館での行事や回覧板の存在すらなくなっています。ではフェイスブックなどのSNSで友達と交流すればいいではないか、という意見がありますが、残念ながら、現在ではこういった社会ツールでは孤独や孤立をなくすことができないとう研究があります(注2)。一方、「ひとりで過ごす方が有意義」という考えもあり、例えば漫画家の蛭子能収氏の著書『ひとりぼっちを笑うな』はベストセラーになっているそうです。

 血圧や体重、運動量などとは異なり、孤独度、孤立度というのは数値に還元しにくく研究はおこないにくいものです。そして、おそらくは、その人によって、それが健康上のリスクになるかどうかの幅が大きいでしょう。(喫煙は多くの人にとって多かれ少なかれリスクになるが、孤独・孤立はさほどリスクにならない人もいる可能性がある)

 また国民性や宗教によって違いがあるかもしれません。例えば誰とも話さない生活を送っていても週に一度協会に行っている人はリスクが少ないといったことはあるかもしれません。今後のさらなる研究を待ちたいと思います。

注1:この論文のタイトルは「Loneliness and social isolation as risk factors for coronary heart disease and stroke: systematic review and meta-analysis of longitudinal observational studies 」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://heart.bmj.com/content/early/2016/03/15/heartjnl-2015-308790.abstract?sid=4d2a18b2-261e-4fe0-82d7-3f2169e561b9

注2:下記を参照ください。

医療ニュース2015年6月6日「フェイスブックで「うつ」になる理由とは」

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2016年5月13日 金曜日

2016年5月13日 「味の素」で大腸がんの予防

 先月の「はやりの病気」で、AICR(米国がん研究協会、American Institute for Cancer Research)が発表した「大腸がんの半数を減らすことのできる6つの習慣」を紹介しました(注1)。その6つをざっと振り返ると、①太らない、②運動する、③食物繊維を摂る、④加工肉NG、⑤アルコール控える、⑥ニンニクたっぷり、です。

 今回お伝えしたいのは、「グルタミン酸が大腸がんの予防になる」とする研究で、医学誌『Cancer』2016年3月15日号(オンライン版)に掲載されています(注2)。

 この研究の対象者は「ロッテルダム・スタディ」と呼ばれる疫学調査に参加した55歳以上のオランダ人5,362人で、調査開始は1990年です。調査期間中242人が大腸がんを発症しています。分析の結果、調査開始時のグルタミン酸摂取量と大腸がんの発症には相関関係があることがわかりました。つまり、グルタミン酸を多く摂っていれば、大腸がんのリスクが減らせるというわけです。

 総蛋白摂取量に占めるグルタミン酸の割合が1%増加すれば相対リスクが0.78に、つまり発症のリスクを22%下げることができるとされています。さらに、この傾向は体重によって異なるようです。BMIが25以下、つまり適正体重であれば相対リスクが0.58で、これは42%もリスクが減るということを意味します。

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 太っていればグルタミン酸の効果が減るというのは、AICRの「6つの習慣」のひとつでもある、上記①太らない、と関係があるのかもしれません。つまり太っていることによるリスクがグルタミン酸の効果を差し引くということです。

 適正体重であればグルタミン酸摂取で大腸がんの相対リスクが0.58になるというのは、センセーショナルな結果であり、世界中で取り上げられてもいいと思うのですが、今ひとつ話題になっていません。私の分析では、この理由は以下の3つです。

(1)オランダという比較的小さな国での研究である。(これが米・英、あるいは日本ならもっと大きく取り上げられたかもしれません)

(2)「総蛋白摂取量に占めるグルタミン酸の割合」というものがそんなに簡単に計測できるのか、という疑問がある。(私自身も、この計測の正確さに疑問を持っています)

(3)グルタミン酸の有害性を指摘する声もある

 ところで、我々日本人が「グルタミン酸」と聞いてまず思い出すのが「味の素」です。というより、この論文を読めばほとんどの日本人が「じゃあ、味の素をしっかり摂ればいいのだろうか」と思うでしょう。
 
 私は個人的には「味の素は健康に寄与できる」ということがもっと強調されてもいいと感じているのですが、味の素株式会社はその点で消極的なようです。少なくとも味の素を効果的に使うことによって、塩分摂取を大幅に減らすことが可能です。さらに大腸がんの予防効果があるとなると、PRしないのはもったいないという気がするのですが・・・。

 私の推測ですが、上記(3)、つまり、グルタミン酸≒味の素の有害性を強調する声があるために、あまり味の素の良さが味の素株式会社からもアピールされないのではないかという気がしています。どのようなものも摂取しすぎるのは良くありませんが、私の経験上、少なくともタイ、マレーシア、インドネシアといった東南アジアの人たちに比べると日本人の味の素の摂取量がかなり少ないのは間違いありません。以前タイのある地域で、ソムタム(タイのパパイヤサラダ)をつくっているのを見たとき、味の素をあまりにも大量に入れているのを見て驚いたことがあります(注3)。一皿に大さじ2~3杯は入れられていました。ちなみに、タイでも味の素は「アジノモト」と呼ばれています。

 グルタミン酸≒味の素の有害性については過去に指摘されたことがありますが、現在は少なくとも信憑性の高い否定的なデータはほとんどありません。もしも味の素が健康を害するものなら、日本より摂取量が多いと思われるタイを初めとする東南アジアで何らかの被害が生じると思うのですが、そういう話も聞きません。現在WHOはグルタミン酸の上限を設けておらず安全なものとしていますから、私自身はそれほど過敏になる必要はなく、美味しいと思える範囲でどんどん摂取すればいいと思っています。ただ、どのようなものも摂りすぎには注意する必要がありますが(注4)。

注1:下記を参照ください。
はやりの病気第152回(2016年4月)「大腸がん予防の「6つの習慣」とアスピリン」

注2:この論文のタイトルは「Baseline dietary glutamic acid intake and the risk of colorectal cancer: The Rotterdam study」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/cncr.29862/abstract

注3:詳しくは下記を参照ください。
マンスリーレポート2013年8月号「この夏の暑さと塩と味の素」

注4:味の素も多量に摂りすぎると中毒症状を呈することがあります。「味の素中毒」(中華料理店症候群)については下記を参照ください。

http://www.j-poison-ic.or.jp/tebiki20121001.nsf/SchHyodai/F7432F91F76CE98F492567DE002B895F/$FILE/M70005_0101_2.pdf

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2016年5月6日 金曜日

2016年5月6日 怒りやすいのは寄生虫が原因の可能性

 些細なことですぐに怒り出す人はどこの社会にもいますから、文化の違いはあるにせよ、「そういった人もいての世の中」と考える必要があります。ただし、怒りの程度が一線を越えてしまえば「病気」と認識すべきです。

 ちょっとしたことで突然声を荒げ、暴力的行為を働き、実際に他人に損傷を負わせる、あるいは他人のモノを壊す、となれば、それが10分程度で治まったとしてもやはり「病気」であり治療の対象となります。(必ずしも治療は上手くいきませんが)

 すぐに怒り出す(すぐにキレる)というエピソードは、いくつかの精神疾患、例えば、パーソナリティ障害(特に、反社会性パーソナリティ障害や境界性パーソナリティ障害)、統合失調症、躁病、ADHD(注意欠陥多動性障害)などでも起こりえます。しかし、これら疾患では説明がつかない、より重症の「すぐに怒る病気」があり、「間欠性爆発性障害(以下IED)」と呼ばれています。

 IEDはこれまで、脳の疾患であるとする説が有力で、実際に脳MRIを撮影すると異状が認められるとする報告もあります(注1)。今回新たに報告されたものは従来の説を根底から覆すもので、その原因は感染症とされています。

 医学誌『The Journal of Clinical Psychiatry』2016年3月23日号(オンライン版)に掲載された論文(注2)によれば、IEDの原因はトキソプラズマという原虫です。

 研究の対象者は成人358人。IEDの診断がついているグループ、IED以外の精神疾患を持つグループ、精神疾患のないグループの3つのグループに分け、トキソプラズマ抗体(IgG抗体)が調べられています。抗体陽性率は、IEDグループで22%、他の精神疾患グループで16%、精神疾患のないグループで9%だったそうです。また、トキソプラズマ抗体の陽性者と陰性者を比べると、陽性者の「怒り・攻撃性のスコア」は有意に高かったそうです。

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 トキソプラズマといえばAIDS患者に発症するものと一般には思われており、実際免疫能が低下した場合に感染し発症します。ネコの糞から感染するのが一般的な感染ルートです。症状としては、発熱、リンパ節腫脹、肝機能異常などが主で、重症化すると、筋炎、肺炎、網脈絡膜炎(目の炎症)、さらに重症化すると全身の多臓器不全をおこします。また、妊娠中に初感染すれば(HIV感染に関係なく)、胎盤を介して胎児に感染することがあります。すると胎内死亡、流産・早・死産が生じやすくなり、出生すると、脳内石灰化、水頭症(小頭症)、網脈絡膜炎、精神・運動発達遅滞などをきたします。妊娠するとネコに注意、と言われるのはトキソプラズマの初感染を防ぐためです。(すでに感染したことのある人は気にする必要はありません)

 さて、この研究はトキソプラズマでIEDのすべての説明がつくわけではありません。それに、先にも述べたように、怒りというのは誰にでも起こりうる反応ですから、怒りっぽい性格の人全員が検査をする必要はもちろんありません。ただ、以前と性格が変わってしまい、些細なことで周囲を驚かせるくらいに怒ってしまうという人はかかりつけ医に相談してもいいかもしれません。

注1:この論文は医学誌『Biological Psychiatry』2016年1月号(オンライン版)に掲載されており、タイトルは「Frontolimbic Morphometric Abnormalities in Intermittent Explosive Disorder and Aggression」。下記URLで概要を読むことができます。

http://www.biologicalpsychiatrycnni.org/article/S2451-9022%2815%2900007-5/abstract

注2:この論文のタイトルは「Toxoplasma gondii Infection: Relationship With Aggression in Psychiatric Subjects」で、下記URLで全文を読むことができます。(全文が読めるのは一定期間内となる可能性もあります)

http://www.psychiatrist.com/JCP/article/Pages/2016/v77n03/v77n0313.aspx

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

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