医療ニュース

2017年11月15日 水曜日

2017年11月15日 ピロリ菌除菌後の胃薬PPI使用で胃がんリスク上昇

 医療機関で最もよく処方される胃薬のひとつPPI(プロトンポンプ阻害薬)は、過去2年で最も評判の落ちた薬と言えるかもしれません。これまでは、安全でよく効く、といいことづくしの薬だったのが(値段が高いのは欠点ですが)、認知症のリスクを上げる、血管の老化を早める、腸炎や肺炎にかかりやすくなる、精子の数が減る…、と、様々な副作用のリスクが指摘されるようになってきました(下記「医療ニュース」「はやりの病気」参照)。

 今回は、そのPPIがなんと、胃がんのリスクを上昇させる!という驚くべき研究を紹介したいと思います。なぜ驚くかというと、PPIは「最も効く胃の薬」としての”地位”がありますし、胃がんの原因として有名なピロリ菌の除菌をおこなうときにも使う薬だからです。

 この報告がおこなわれたのは医学誌『Gut』2017年10月31日号(オンライン版)です(注1)。研究の対象は、香港の医療データベースClinical Data Analysis and Reporting System(CDARS)に登録されたピロリ菌の除菌をおこない成功した成人63,939人のデータです。対象者はその後の平均追跡期間7.6年の間に全体の0.24%にあたる153人が胃がんを発症しています。

 胃がんとPPI使用の関係を解析した結果、PPI使用により胃がんの発症リスクが2.44倍にもなることが判りました。さらに、リスクはPPIの使用頻度が多ければ多いほど、期間が長ければ長いほど上昇しています。

 具体的な数字は驚くべきものです。PPIを使用していない人に比べると、週に1~6日内服している人のリスクは2.43倍、毎日飲んでいる人ではなんと4.55倍にも上昇します。内服期間では、1年以上内服すれば5.04倍、2年以上で6.65倍、3年以上では8.34倍にまで上昇します。

 一方、PPIとよく比較される胃薬のH2ブロッカーではリスク上昇はなく、内服していない人に比べて0.72倍とむしろ低下していました。

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 衝撃的な報告です。これが真実だとすれば、直ちにPPIを中止しなければならない人が大勢いることになります。

 ところで、この報告の信ぴょう性はどの程度なのでしょうか。この研究はいわゆる「後ろ向き研究」です。つまり、胃がんになった人、ならなかった人が過去にPPIをどの程度内服していたかを調べて分析したものです。一方、統計学的には「前向き研究」の方がエビデンス(科学的確証度)のレベルが高くなります。前向き研究でPPIのリスクを検討するなら、ピロリ菌除菌後の患者をたくさん集め2つのグループに分け、一方にはPPIを使用し、もう一方には使用しない(より正確にするためには偽薬を用いる)でその後の胃がん発症率を調査することになります。

 前向き研究でもPPI使用者で胃がん発症が多いという結果がでればPPIのリスクはほぼ「確定」となります。したがって、より科学的な考え(エビデンスに基づいた考え)をする人たちからは、「後ろ向き研究しかない現時点でPPIを控えるのは時期尚早」という意見が出てくると思われます。

 ですが、私の個人的見解としては、今回の研究のみでも、つまり前向き研究の登場を待たなくても「PPI投与、特に長期投与は慎重にすべき」と考えていいと思います。少なくとも、先にH2ブロッカーを試すべきですし、その他胃薬には多数ありますし、漢方薬にも有用なものが複数あります。もちろん、薬以前に生活習慣の見直しが重要なのは言うまでもありません。

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注1:論文のタイトルは「Long-term proton pump inhibitors and risk of gastric cancer development after treatment for Helicobacter pylori: a population-based study」で、下記URIで概要を読むことができます。

http://gut.bmj.com/content/early/2017/09/18/gutjnl-2017-314605

参考:
はやりの病気第151回(2016年3月)「認知症のリスクになると言われる3種の薬」
医療ニュース
2016年12月8日「胃薬PPI大量使用は脳梗塞のリスク」
2016年8月29日「胃薬PPIが血管の老化を早める可能性」
2017年1月25日「胃薬PPIは細菌性腸炎のリスクも上げる」
2017年1月23日「胃薬PPIは精子の数を減らす」
2017年4月28日「胃薬PPIは認知症患者の肺炎のリスク」

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2017年10月25日 水曜日

2017年10月25日 認知症の治療にイチョウの葉は有効か無効か

 認知症の薬には保険診療で認められているものも4種類(先発品)ありますが(注1)、どれも劇的に効くわけではありません。ならばサプリメントに期待したいところですが、残念ながらこちらもいいものがありません。昔から「イチョウの葉」がいいのでは?と言われていますが、これはエビデンス(科学的確証)のデータベース「コクラン」で否定されています(注2)。

 ですが、そのコクランの見解を覆すような研究、つまり、認知症にイチョウが有効という研究が発表されました。医学誌『International psychogeriatrics』2017年9月21日号(オンライン版)(注3)に掲載されています。

 この研究では認知症の患者さんを2つのグループ(それぞれ814人)に分けて、一方にEGb761と呼ばれるイチョウ葉抽出エキス240mgを投与し、もう一方のグループにはプラセボ(偽薬)を投与しています。投与期間は22~24週です。結果、イチョウを投与したグループは有意にプラセボ群よりも認知症に関連するほとんどの症状が改善したそうです。

 さらに、患者さん本人だけでなく介護者の苦痛も改善したそうです。

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 これまでの見解を覆す興味深い研究ですが、これをもってしてイチョウに期待しすぎるのは時期尚早だと思います。副作用がないなら試してみてもいいのでは、という意見もあるでしょうが、私の経験上、イチョウのサプリメントはけっこうな頻度で頭痛を訴える患者さんがいます。特に片頭痛のエピソードがある人にこの傾向が顕著です。

 認知症は予防も治療も決定的なものがあるとはいえませんが、それでも食事、運動、学習、行動などでリスクが低減するとされているものもありますから、まずはそういった知識を集めるのがいいでしょう。このサイトでも追って新しい情報をお伝えしていきたいと思います。

注1:下記を参照ください。

はやりの病気第95回(2011年7月)「アルツハイマーにどのように向き合うべきか」

注2:コクランのレポートは下記で読むことができます。尚、ページ上方の「日本語」をクリックすれば日本語訳をも読めます。

http://www.cochrane.org/CD003120/DEMENTIA_there-is-no-convincing-evidence-that-ginkgo-biloba-is-efficacious-for-dementia-and-cognitive-impairment

注3:この論文のタイトルは「Treatment effects of Ginkgo biloba extract EGb 761R on the spectrum of behavioral and psychological symptoms of dementia: meta-analysis of randomized controlled trials」で、下記URLで概要を読むことができます。

https://www.cambridge.org/core/journals/international-psychogeriatrics/article/treatment-effects-of-ginkgo-biloba-extract-egb-761-on-the-spectrum-of-behavioral-and-psychological-symptoms-of-dementia-metaanalysis-of-randomized-controlled-trials/B4E1DCC0E7DDCD9898C0294DC437DB54

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2017年10月23日 月曜日

2017年10月23日 骨折予防にビタミンDやカルシウムは無効

 骨を丈夫にして骨折を防ぐためにビタミンDやカルシウムのサプリメントを摂取している人は少なくありませんし、処方薬としてビタミンDを内服している人もいます。ですが、これらの効果は疑わしく、米国予防医療作業部会(U.S. Preventive Services Task Force、以下「USPSTF」)は正式にそれを公表しました。USPSTFの詳細にわたる報告も無料で全文が公開されていますが(注1)、いくつかの米国のメディアが内容をまとめたものを報道しているので(注2)、ここではそちらをまとめたものを紹介したいと思います。

 まず、高齢者の骨折がどれほど重要なものかを数字でみてみましょう。2014年に米国で転倒で救急外来を受診したのは約280万人。そのうち約80万人が入院し、1年以内に約27,000人が死亡しています。また、数字には出ていませんが、死亡を免れたとしても寝たきり、あるいはそれに近い状態になる人は多数いるはずです。そして、米国では65歳以上の3人に1人は少なくとも年に一度は転倒していると言われています。
 
 これを聞くと、では転倒程度では骨折しない丈夫な骨をつくろう、と誰もが思います。そして、従来はビタミンDとカルシウムが有用と言われてきました。結論から言えば、USPSTFの見解はそれをほぼ否定するものです。つまり、それらを積極的に摂取した人に骨折が少ないわけではなく、USPTFとしては骨折予防のためのビタミンDおよびカルシウムの摂取を推奨しないとしたのです。

 もっとも、これらの骨折予防効果は以前から乏しいと言われており、エビデンス(科学的確証)のデータベースである「コクラン」も完全には効果を否定していないものの似たような報告をおこなっています(注3)。

 一方、米国医学研究所(National Academy of Medicine)とWHOは、健康改善を目的としたビタミンDとカルシウム摂取を推奨していますが、どちらの組織も骨折予防のためのサプリメントは推奨していません。

 ではどうすればいいのか。USPSTFが推奨するのは「運動」です。米国保健福祉省(The US Department of Health and Human Services)が提唱している次の運動メニューを勧めています。

・少なくとも週に150分の中~高強度の運動。または、週75分の激しい運動。
・週に2回の筋トレ
・週に3日以上のバランストレーニング

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 私が感じる日米の違いを2点指摘しておきます。

 ひとつは、日本では今でも医療機関でビタミンDやカルシウムが骨折の再発予防などに処方されていることです。エビデンスに乏しい治療がいけないわけではありませんが、運動の重要性が同時に説明されているか、あるいは説明されていたとしても実践できているかどうかを一度見直す必要があるでしょう。

 もうひとつは運動指導についてです。日本では多くの医療者が高齢者の骨折予防にウォーキングを勧めています。一方、米国で推奨されているのは中から高強度の運動(moderate-intensity exercise)ですから、通常のスピードのウォーキングでは不十分ということになります。もちろん運動は「続けること」が最重要ですから、できない運動の指導をすることには意味がありませんが、強度を上げなければ効果に乏しいことは知っておく必要があります。

注1:下記を参照ください。

https://www.uspreventiveservicestaskforce.org/Page/Document/draft-evidence-review/vitamin-d-calcium-or-combined-supplementation-for-the-primary-prevention-of-fractures-in-adults-preventive-medication

注2:この記事のタイトルは「USPSTF Draft Recommendations for Falls and Fracture Prevention」です。下記URLを参照ください。

https://www.medscape.com/viewarticle/886193

注3:コクランのウェブサイトで読むことができます。レポートのタイトルは「Vitamin D and related vitamin D compounds for preventing fractures resulting from osteoporosis in older people」です。下記URLを参照ください。尚、この報告はページ上部の「日本語」というところをクリックすれば日本語でも読めます。

http://www.cochrane.org/CD000227/MUSKINJ_vitamin-d-and-related-vitamin-d-compounds-preventing-fractures-resulting-osteoporosis-older-people

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2017年10月10日 火曜日

2017年10月10日 認知症になりにくい性格とは?

 どのような病気ならかかってもいいか、どのような病気で死にたいか、という議論になったとき、一般の人たちからは理解しがたいかもしれませんが、「がん」を挙げる医療者は少なくありません。最大の理由は、死期が予想できるために身の回りの整理ができ時間を効率的に使えること、です。がんに伴う痛みは苦痛ですが、現在では痛みのコントロールはそうむつかしくはありません。

 世間では、「一瞬であの世にいける病気」で死にたい、と考える人が多いようで、例えば、つい先ほどまで元気だったけど心臓発作が起こり数分後には他界するという「ピンピンコロリ」が理想と言う人がいます。死の苦しみが一瞬で終わることが”人気”の理由でしょう。その他、「老衰」というのはよくある答えですし、「飛行機事故」などを挙げる人もいます。

 では、ほとんどすべての人が「なりたくない病気」に挙げるのは何でしょう。おそらく「認知症」ではないでしょうか。しかし認知症になる人は非常に多く、高齢になればなるほどその可能性は高くなります。長生きしたい、という人は大勢いますが、ほぼ全員が「認知症にならなければ」という条件をつけています。

 では、認知症を避けるために何をすべきなのでしょう。残念ながらがんの予防ほど確立した予防法があるとは言い難いのが現実です。がんであれば、例えば、胃がん→ピロリ菌除菌、肝臓がん→ウイルス性肝炎の治療・アルコール制限・肥満抑制、子宮頸がん→HPVワクチン、一部の乳がん→乳房切除、などがあります。一方、認知症の場合はここまではっきりとした予防法があるとはいえません。ですが、リスクが下がる可能性のあるものは知っておきたいものです。過去にいくつかお伝えしましたし(下記コラム参照)、こういった研究は頻繁に報告されますから、また改めてまとめてみたいと思いますが、今回紹介したいのは「性格」についてです。

「誠実」は認知症を予防する…。

 医学誌『Psychological Medicine』2017年9月6日号(オンライン版)にこのような研究が報告されました(注1)。米国の研究です。

 対象者は米国の11,181人。認知症の発症と性格の相関関係が分析されています。調査期間中に278人が認知症を発症、軽度の認知障害(CIND, cognitive impairment not dementia)の診断がついたのは2,186人でした。

 最も認知症のリスクを減少させたのは「責任感」であり、なんと35%もリスクが減少するという結果がでています。また、「自制心」「勤勉」もリスク低下に寄与していることがわかりました。

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 人の内面を現す単語はニュアンスを伝えるのがむつかしいので原語も紹介しておきます。上記の「誠実」「責任感」「自制心」「勤勉」はそれぞれ下記のとおりです。

Conscientiousness → 誠実
responsibility → 責任感
self-control  → 自制心
industriousness  → 勤勉

 このなかでなぜConscientiousnessが大文字で始まっているのか、私には理解できませんでした。責任感、自制心、勤勉は、すべて「誠実」の要素ということでしょうか。それはさておき、これらは人間社会の原則とも呼べるべきものであり、これらを実践していれば、他人と良好な関係を維持しながら結果としてストレスを減らすことにつながります。

 強すぎる責任感はストレス過多につながり精神を病むこともありますから、ほどほどにする必要がありそうですが…。

注1:この論文のタイトルは「Facets of Conscientiousness and risk of dementia」で、下記URLで概要を読むことができます。

https://www.cambridge.org/core/journals/psychological-medicine/article/facets-of-conscientiousness-and-risk-of-dementia/C5CED0073F06247D658E2D626DB1C70F

参考:

はやりの病気第151回(2016年3月)「認知症のリスクになると言われる3種の薬」
はやりの病気第131回(2014年7月)「認知症について最近わかってきたこと」
医療ニュース
2017年4月7日「血圧低下は認知症のリスク」
2017年6月26日「少量の飲酒でも認知症のリスク!?」
2016年6月30日「酒さが認知症のリスク」

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2017年10月6日 金曜日

2017年10月6日 歯科医院の半数は依然医療器具使い回し

 院内感染とは、医療機関内で不潔な医療器具などを通して感染症に感染させられることを言います。致死的な感染症になりうるB型肝炎(HBV)、HIV、C型肝炎(HCV)などに感染させられるようなことは絶対に避けなければなりませんが、日本の歯科医院ではいつ起こってもおかしくありません。

 なんと日本では、歯の治療で使われるハンドピース(歯を削るドリル)の滅菌をおこなっていない歯科医院が異常に多いのです。私はこれは大きな問題だと考え、過去に2回問題提起したことがあります(注1)。

 当たり前の話ですが、ハンドピースの使いまわしなど絶対にあってはならないことです。それが過去のコラムで紹介したように、2012年の時点で何と7割もの歯科医院がきちんと滅菌していなかったのです。そして、今回、厚労省が研究班の新たなアンケート結果を2017年5月に公表しました(読売新聞2017年9月27日)。

 結果は、半数が依然使いまわしをしていることが判りました。7割から5割に改善した!、と考えるわけにはいきません。きちんと滅菌する歯科医院が100%でなくては、一般市民が安心して受診できないからです。100%の歯科医院がきちんと滅菌していることが当然なのです。

 読売新聞の報道から数字を取り上げてみましょう。アンケートに回答したのは700施設。下記が回答です。

患者ごとに交換、滅菌: 52%
感染症患者の場合交換、滅菌: 17%
血が付いた場合などに交換、滅菌: 16%
消毒薬で拭く:  13%

 過去のコラムでも述べたように、「感染症患者の場合交換」と回答すること自体が信じられません。これも過去に述べましたがHIV陽性者が歯科医院を受診するとき、大半が感染していることを隠しています。また、HIV感染に気付いていない人も少なくありません。

「血が付いた場合などに交換」も呆れる回答です。血液は微量なら見ても分かりませんし、HBVは唾液にも含まれているからです。

 では、どのようにしてきちんと滅菌している歯科医療を見つければいいのでしょうか。実は、この答えは簡単です。滅菌してますか?と滅菌していない医療機関に尋ねても、真実は話さないでしょう。そこで、「この歯科医院ではHIV陽性者も診ていますか?」と尋ねればいいのです。きちんと対策をとっているところであれば「もちろん診察しています」という答えが返ってきます。

 私が患者として受診している歯科医院もHIV陽性の患者さんが受診し、もちろん滅菌は完璧におこなわれています。

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注1:下記の2つのコラムです。

毎日新聞「医療プレミア」2016年11月6日「歯科医院での院内感染を防ぐには」

GINAと共に第95回(2014年5月号)「HIVを拒否する歯科医院と滅菌を怠る歯科医院」

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2017年9月29日 金曜日

2017年9月30日 バストアップのサプリメントに対する「誤解」

 太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)がオープンした2007年頃、タイ製のバストアップ(豊胸)を目的としたサプリメントの被害者がよく受診されていました。インターネットを通して個人輸入をおこない内服して副作用が生じたのです。最も多い副作用は吐き気と不正出血です。

 一時、このような被害が減ったなと感じていたのですが、数年前から再び増えてきています。その理由はタイ製のサプリメントと同じ成分のものが日本で製造され、広く流通するようになったからです。

 そして、ついに国民生活センターが注意喚起を発表しました。

 問題のサプリメントに含まれる成分は「プエラリア・ミリフィカ」と呼ばれる植物エキスです。なぜ、バストアップの効果が謳われるか。この成分には女性ホルモンに似た働きをするイソフラボンが豊富に含まれているからです。

 イソフラボンと言えば、大豆に含まれていることがよく知られており、実際、大豆から抽出したイソフラボンは日本製のサプリメントでもあります。プエラリア・ミリフィカは大豆よりも大量にイソフラボンが含まれているために効果が期待できるというわけです。ですが、当然のことながら量が増えればそれだけ副作用のリスクが上昇します。

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 さて、私の懸念はまだ続きます。谷口医院の患者さんでプエラリア・ミリフィカの被害を訴えた患者さんのなかで低用量ピルを飲んでいる人がいました。これは絶対にやってはいけないことです。

 そもそもピル(超低用量から高用量まですべて)の成分は女性ホルモンです。ピルを飲んでいるときに女性ホルモンに似たイソフラボンを飲めば、不正出血をはじめホルモンバランスの乱れで生じうる様々な問題が起こり得ます。

 ところで、プエラリア・ミリフィカの販売会社は、販売するときに「ピルを飲んでいる人は飲めません」という案内をしていないのでしょうか。あるいは、「サプリメントだから安心」というようなイメージを消費者に植え付けていないでしょうか。

 尚、イソフラボンもピル服用者は原則として飲めません。サプリメントの被害は、世間で思われているよりもずっと深刻です。新たにサプリメントや健康食品を開始したいときはかかりつけ医に相談するか、信頼できるウェブサイト(注1)を参照することが必要です。

注1:最も推薦できるサイトは、国立健康・影響研究所が作成している「「健康食品」の安全性・有効性情報」です。プエラリア・ミリフィカについても詳しく記載されています。

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2017年9月29日 金曜日

2017年9月29日 ビタミンBのサプリメントもがんのリスク

 ついにビタミンBのサプリメントにも発がんリスクの報告がおこなわれました。

 医学誌『Journal of Clinical Oncology』2017年8月22日号(オンライン版)に掲載された論文(注1)に興味深い研究が掲載されています。

 研究の対象者は米国在住の男女77,118人(50~76歳)です。どのようなサプリメントをどれだけ摂取しているかと発がんの関係が解析されました。

 その結果、過去10年間で1日20mgを超えてビタミンB6のサプリメントを摂取していた男性は、摂取していない人に比べると肺がんの発症リスクが1.82倍に上昇していました。同様に、ビタミンB12については1日55ugを超えて摂取していると1.98倍にも上昇していたのです。

 尚、このように発がんリスクが上昇したのは男性だけであり、女性には認められなかったようです。

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 ビタミン剤の発がんリスクといえば、ビタミンEとベータカロテン(以前は「ベータカロチン」と呼ばれていました)が有名ですが、これらは脂溶性のビタミンですからサプリメントの過剰摂取で蓄積された結果ががんにつながるというのはなんとなく想像しやすいように感じられます。

 一方、ビタミンBは水溶性で過剰に摂取しても吸収されず安全と長い間言われてきました。ですが、結果は発がんリスクが2倍にもなるというのです…。

 今のところ、ビタミンのサプリメントでエビデンス(科学的確証)をもって「有用」とされているのは妊娠中または妊娠前の女性が摂取する葉酸だけです。ビタミンDはいくつかの疾患に有用とするものもありますが、逆に有害とするものも多く、現時点では積極的な摂取は推薦できません。

 ビタミンのサプリメントが注目された時代はすでに過去のものになりきった感じがします。

 

注1:この論文のタイトルは「Long-Term, Supplemental, One-Carbon Metabolism-Related Vitamin B Use in Relation to Lung Cancer Risk in the Vitamins and Lifestyle (VITAL) Cohort 」。下記URLで概要を読むことができます。

http://ascopubs.org/doi/10.1200/JCO.2017.72.7735

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2017年9月7日 木曜日

2017年9月7日 地中海料理が健康にいいのは高学歴か高収入のみ!?

 日本料理は健康にいいとされていますが、より多くの論文が発表され有効性が世界的に認められているのは日本料理よりも地中海料理です。特に動脈硬化を予防し、心筋梗塞や脳梗塞を防ぐことができると言われています。ですが、気になる研究が最近発表されました。

 なんと、地中海料理で心疾患予防の恩恵を受けられるのは、高学歴者か高収入者のみというのです!!

 医学誌『Epidemiology』2017年8月1日号(オンライン版)で研究が報告されています(注1)。研究の対象者は、35歳以上のイタリア人の男女合計18,991人です。調査期間の4.3年間の間に合計252人が心筋梗塞などの心血管疾患を発症しています。全体で評価すると「地中海料理スコア(Mediterranean diet score)」が2ポイント増加(ポイントが高いほど健康的な地中海料理をたくさん食べている)すると、心血管疾患発症リスクが15%減少していました。

 興味深いことに、このような関連性は高学歴者に顕著であり、高学歴者の場合は地中海料理により57%も心疾患のリスクが減少するのに対し、高学歴でない人はわずか6%しか低下していません。収入でみてみると、高収入の人は61%も低下するのに対し、高収入でない人にはリスク低下は認められません。

 なぜこのような差が出るのか。高学歴・高収入の人は、有機野菜、全粒パン、ポリフェノールを含む食品など、多くの種類の抗酸化物質が豊富に含まれる食品を摂取していることが判明し、研究者らはこれが原因であろうとみています。

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 どうやら本当の理由は「抗酸化物質を豊富に含む多種類の食品」にありそうです。おそらく、上等のワインやオリーブオイル、新鮮な魚などは安くないのでしょう。高収入者はそういった食品を抵抗なく購入することができ、高学歴者はさほど収入が高くなかったとしても食事にお金をかけるべきだということを知っている、ということでしょうか。

注1:この論文のタイトルは「High adherence to the Mediterranean diet is associated with cardiovascular protection in higher but not in lower socioeconomic groups: prospective findings from the Moli-sani study」で、下記URLで概要を読むことができます。

https://academic.oup.com/ije/article-abstract/doi/10.1093/ije/dyx145/4056503/High-adherence-to-the-Mediterranean-diet-is?redirectedFrom=fulltext

参考:
はやりの病気第131回(2014年7月)「認知症について最近わかってきたこと」
医療ニュース:
2014年6月2日「オリーブオイルで心房細動が予防できる可能性」
2014年1月6日「ナッツを毎日食べると健康で長生き」

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2017年9月3日 日曜日

2017年9月4日 危険な陰毛処理

 過去のコラムでも述べたように、総合診療を実践している太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)には「外陰部の悩み」を訴える女性の患者さんがしばしば訪れます。婦人科に行くと「皮膚科に行け」と言われ、皮膚科を受診すると「婦人科に行け」と言われたという気の毒な患者さんも少なくありません。

 そのコラムでは「精液アレルギー」という稀な疾患について解説しましたが、今回紹介したいのは非常によくある皮膚のトラブルについてです。そしてその原因は「剃毛」もしくは「脱毛」にあります。

 皮膚のトラブルの話に入る前に、私が数年前から感じている素朴な疑問について触れておきます。それは「陰毛処理をする女性が急増している」ということです。これはあまり医学的に意味がないことですからそれほど気に留めていたわけではないのですが、ある論文を読んで「そうか!」と腑に落ちました。

 医学誌『JAMA Dermatology』2016年10月号(オンライン版)に掲載された論文(注1)によれば、米国女性の8割以上が陰毛処理をおこなっています。調査対象は米国の3,372人の女性で、期間は2015年11月と12月、インターネットを用いた質問票での調査です。結果、全体の83.8%に相当する2,778人が陰毛処理をおこなっていました。

 処理をする理由は、衛生的だから(59.0%)、日々のルーチンとして実施している(45.5%)、外性器の魅力向上のため(31.5%)、パートナーの好み(21.1%)となっています。また、理由は明らかにされていませんが、若い女性と高学歴女性に陰毛処理をする傾向が高いという結果がでています。

 多くの”文化”は米国から入ってくると言われますから、日本女性の「処理率」の上昇も米国由来なのかな、と私は思っています。

 今回の本題はここからです。同じ医学誌『JAMA Dermatology』2017年8月16日号(オンライン版)に掲載された論文(注2)によると、陰毛処理する女性の27.1%が処理により皮膚に障害を負った経験があります。研究対象は米国人の女性3,372人で、期間は2014年の1月、やはりインターネットでの調査です。

 どのような障害かについて、最も多いのが「傷」で61.2%、その次が熱傷(23.0%)、発疹(12.2%)、感染症(9.3%)と続きます。また、処理をする人全体の1.4%に医学的な治療が必要とされていたことが判りました(この調査は男性にもおこなわれており、これらの数字は男女合わせてのものです)。
 
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 後半の論文では男女ともにトラブルが多いとされていますが、谷口医院に「陰毛処理後のトラブル」で受診するのは女性が圧倒的に多いといえます。この理由は、米国に比べて日本では男性は陰毛処理をしないということかと思いますが、もしかすると男性は皮膚科を受診して治療を受けており、女性のように、「皮膚科に行けば婦人科に、婦人科に行けば皮膚科に」ということがないからかもしれません。

 谷口医院の女性患者さんの陰毛処理で最も多いトラブルは「毛嚢炎」または「毛包炎」で、毛穴に起こった細菌感染、分かりやすく言えば「ニキビ」です。軽症であれば抗菌薬の外用剤だけで治りますが、最近は内服を使わざるをえないケースが増えてきています。

 また、エステティックサロンでのレーザー脱毛による熱傷(やけど)や、脱毛クリームやワックスによる「かぶれ」も増えています。

注1:この論文のタイトルは「Pubic Hair Grooming Prevalence and Motivation Among Women in the United States」で、下記URLで概要を読むことがでいます。

http://jamanetwork.com/journals/jamadermatology/fullarticle/2529574

注2:この論文のタイトルは「Prevalence of Pubic Hair Grooming-Related Injuries and Identification of High-Risk Individuals in the United States」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://jamanetwork.com/journals/jamadermatology/article-abstract/2648859

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2017年8月31日 木曜日

2017年8月31日 長時間労働で心房細動発症のリスクが大幅上昇

 心房細動と呼ばれる不整脈はときに「死に至る病」となることがある重要な疾患です。心臓の疾患として有名な狭心症や心筋梗塞は、適正体重を維持し、禁煙し、適度な運動をおこない、血圧・血糖・コレステロールなどに注意していればリスクを大幅に下げることができます。

 一方、心房細動はこれらに注意していても起こるときは起こります。よく議論されるのが「激しい運動」です。マラソンが心房細動のリスクになるという意見は昔からあり、またその逆に激しい運動がリスクを下げるという研究もあり、現時点ではコンセンサスが得られていません。

 では「長時間労働」はどうでしょう。

 週55時間の長時間労働をおこなうと、週35~40時間のときに比べて4割も心房細動発症のリスクが上昇する…。

 米国の医療者向け用サイト『Medscape Family Medicine』にこのようなレポート(注1)が掲載されました。

 研究の対象はヨーロッパの8つの患者データベースに登録されている85,494人(うち65%が女性)です。調査開始時に週55時間以上労働していたのが全体の5.2%、35~40時間勤務が62.5%です。追跡機関平均10年の間に1,061人が心房細動を発症しました。

 心房細動の発症率と週あたりの労働時間を解析した結果、週55時間以上働く人は、週35~40時間の人に比べて42%も発症リスクが高いことが分かったのです。

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 今回の研究だけで長時間労働と心房細動の因果関係を証明するまでには至りませんが、それでも示唆に富む報告です。週55時間というと週休2日を維持したとして、出勤日に1日あたり3時間勤務すればこのレベルになります。日本人の労働者の多くはこれ以上働いているのではないでしょうか。医師の99%はこのレベルを軽く超えています。

 日本にも心房細動で悩んでいる人は少なくありません。日本での長時間労働との関係を調べた研究はおそらくないと思いますが、現在でも過去でも長時間労働の経験がある人は定期的な心電図検査をおこなうべきでしょう。心房細動は健診時に本人の自覚がない状態で発見されることが多いからです。

注1:このレポートのタイトルは「New-Onset AF Risk Seen to Rise With Longer Work Hours」で、下記URLで全文を読めます。

http://www.medscape.com/viewarticle/883029

参考:医療ニュース2015年7月31日「運動は心房細動のリスクを上げる?下げる?」

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

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