医療ニュース
2017年10月10日 火曜日
2017年10月10日 認知症になりにくい性格とは?
どのような病気ならかかってもいいか、どのような病気で死にたいか、という議論になったとき、一般の人たちからは理解しがたいかもしれませんが、「がん」を挙げる医療者は少なくありません。最大の理由は、死期が予想できるために身の回りの整理ができ時間を効率的に使えること、です。がんに伴う痛みは苦痛ですが、現在では痛みのコントロールはそうむつかしくはありません。
世間では、「一瞬であの世にいける病気」で死にたい、と考える人が多いようで、例えば、つい先ほどまで元気だったけど心臓発作が起こり数分後には他界するという「ピンピンコロリ」が理想と言う人がいます。死の苦しみが一瞬で終わることが”人気”の理由でしょう。その他、「老衰」というのはよくある答えですし、「飛行機事故」などを挙げる人もいます。
では、ほとんどすべての人が「なりたくない病気」に挙げるのは何でしょう。おそらく「認知症」ではないでしょうか。しかし認知症になる人は非常に多く、高齢になればなるほどその可能性は高くなります。長生きしたい、という人は大勢いますが、ほぼ全員が「認知症にならなければ」という条件をつけています。
では、認知症を避けるために何をすべきなのでしょう。残念ながらがんの予防ほど確立した予防法があるとは言い難いのが現実です。がんであれば、例えば、胃がん→ピロリ菌除菌、肝臓がん→ウイルス性肝炎の治療・アルコール制限・肥満抑制、子宮頸がん→HPVワクチン、一部の乳がん→乳房切除、などがあります。一方、認知症の場合はここまではっきりとした予防法があるとはいえません。ですが、リスクが下がる可能性のあるものは知っておきたいものです。過去にいくつかお伝えしましたし(下記コラム参照)、こういった研究は頻繁に報告されますから、また改めてまとめてみたいと思いますが、今回紹介したいのは「性格」についてです。
「誠実」は認知症を予防する…。
医学誌『Psychological Medicine』2017年9月6日号(オンライン版)にこのような研究が報告されました(注1)。米国の研究です。
対象者は米国の11,181人。認知症の発症と性格の相関関係が分析されています。調査期間中に278人が認知症を発症、軽度の認知障害(CIND, cognitive impairment not dementia)の診断がついたのは2,186人でした。
最も認知症のリスクを減少させたのは「責任感」であり、なんと35%もリスクが減少するという結果がでています。また、「自制心」「勤勉」もリスク低下に寄与していることがわかりました。
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人の内面を現す単語はニュアンスを伝えるのがむつかしいので原語も紹介しておきます。上記の「誠実」「責任感」「自制心」「勤勉」はそれぞれ下記のとおりです。
Conscientiousness → 誠実
responsibility → 責任感
self-control → 自制心
industriousness → 勤勉
このなかでなぜConscientiousnessが大文字で始まっているのか、私には理解できませんでした。責任感、自制心、勤勉は、すべて「誠実」の要素ということでしょうか。それはさておき、これらは人間社会の原則とも呼べるべきものであり、これらを実践していれば、他人と良好な関係を維持しながら結果としてストレスを減らすことにつながります。
強すぎる責任感はストレス過多につながり精神を病むこともありますから、ほどほどにする必要がありそうですが…。
注1:この論文のタイトルは「Facets of Conscientiousness and risk of dementia」で、下記URLで概要を読むことができます。
参考:
はやりの病気第151回(2016年3月)「認知症のリスクになると言われる3種の薬」
はやりの病気第131回(2014年7月)「認知症について最近わかってきたこと」
医療ニュース
2017年4月7日「血圧低下は認知症のリスク」
2017年6月26日「少量の飲酒でも認知症のリスク!?」
2016年6月30日「酒さが認知症のリスク」
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|2017年10月6日 金曜日
2017年10月6日 歯科医院の半数は依然医療器具使い回し
院内感染とは、医療機関内で不潔な医療器具などを通して感染症に感染させられることを言います。致死的な感染症になりうるB型肝炎(HBV)、HIV、C型肝炎(HCV)などに感染させられるようなことは絶対に避けなければなりませんが、日本の歯科医院ではいつ起こってもおかしくありません。
なんと日本では、歯の治療で使われるハンドピース(歯を削るドリル)の滅菌をおこなっていない歯科医院が異常に多いのです。私はこれは大きな問題だと考え、過去に2回問題提起したことがあります(注1)。
当たり前の話ですが、ハンドピースの使いまわしなど絶対にあってはならないことです。それが過去のコラムで紹介したように、2012年の時点で何と7割もの歯科医院がきちんと滅菌していなかったのです。そして、今回、厚労省が研究班の新たなアンケート結果を2017年5月に公表しました(読売新聞2017年9月27日)。
結果は、半数が依然使いまわしをしていることが判りました。7割から5割に改善した!、と考えるわけにはいきません。きちんと滅菌する歯科医院が100%でなくては、一般市民が安心して受診できないからです。100%の歯科医院がきちんと滅菌していることが当然なのです。
読売新聞の報道から数字を取り上げてみましょう。アンケートに回答したのは700施設。下記が回答です。
患者ごとに交換、滅菌: 52%
感染症患者の場合交換、滅菌: 17%
血が付いた場合などに交換、滅菌: 16%
消毒薬で拭く: 13%
過去のコラムでも述べたように、「感染症患者の場合交換」と回答すること自体が信じられません。これも過去に述べましたがHIV陽性者が歯科医院を受診するとき、大半が感染していることを隠しています。また、HIV感染に気付いていない人も少なくありません。
「血が付いた場合などに交換」も呆れる回答です。血液は微量なら見ても分かりませんし、HBVは唾液にも含まれているからです。
では、どのようにしてきちんと滅菌している歯科医療を見つければいいのでしょうか。実は、この答えは簡単です。滅菌してますか?と滅菌していない医療機関に尋ねても、真実は話さないでしょう。そこで、「この歯科医院ではHIV陽性者も診ていますか?」と尋ねればいいのです。きちんと対策をとっているところであれば「もちろん診察しています」という答えが返ってきます。
私が患者として受診している歯科医院もHIV陽性の患者さんが受診し、もちろん滅菌は完璧におこなわれています。
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注1:下記の2つのコラムです。
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|2017年9月29日 金曜日
2017年9月30日 バストアップのサプリメントに対する「誤解」
太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)がオープンした2007年頃、タイ製のバストアップ(豊胸)を目的としたサプリメントの被害者がよく受診されていました。インターネットを通して個人輸入をおこない内服して副作用が生じたのです。最も多い副作用は吐き気と不正出血です。
一時、このような被害が減ったなと感じていたのですが、数年前から再び増えてきています。その理由はタイ製のサプリメントと同じ成分のものが日本で製造され、広く流通するようになったからです。
そして、ついに国民生活センターが注意喚起を発表しました。
問題のサプリメントに含まれる成分は「プエラリア・ミリフィカ」と呼ばれる植物エキスです。なぜ、バストアップの効果が謳われるか。この成分には女性ホルモンに似た働きをするイソフラボンが豊富に含まれているからです。
イソフラボンと言えば、大豆に含まれていることがよく知られており、実際、大豆から抽出したイソフラボンは日本製のサプリメントでもあります。プエラリア・ミリフィカは大豆よりも大量にイソフラボンが含まれているために効果が期待できるというわけです。ですが、当然のことながら量が増えればそれだけ副作用のリスクが上昇します。
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さて、私の懸念はまだ続きます。谷口医院の患者さんでプエラリア・ミリフィカの被害を訴えた患者さんのなかで低用量ピルを飲んでいる人がいました。これは絶対にやってはいけないことです。
そもそもピル(超低用量から高用量まですべて)の成分は女性ホルモンです。ピルを飲んでいるときに女性ホルモンに似たイソフラボンを飲めば、不正出血をはじめホルモンバランスの乱れで生じうる様々な問題が起こり得ます。
ところで、プエラリア・ミリフィカの販売会社は、販売するときに「ピルを飲んでいる人は飲めません」という案内をしていないのでしょうか。あるいは、「サプリメントだから安心」というようなイメージを消費者に植え付けていないでしょうか。
尚、イソフラボンもピル服用者は原則として飲めません。サプリメントの被害は、世間で思われているよりもずっと深刻です。新たにサプリメントや健康食品を開始したいときはかかりつけ医に相談するか、信頼できるウェブサイト(注1)を参照することが必要です。
注1:最も推薦できるサイトは、国立健康・影響研究所が作成している「「健康食品」の安全性・有効性情報」です。プエラリア・ミリフィカについても詳しく記載されています。
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|2017年9月29日 金曜日
2017年9月29日 ビタミンBのサプリメントもがんのリスク
ついにビタミンBのサプリメントにも発がんリスクの報告がおこなわれました。
医学誌『Journal of Clinical Oncology』2017年8月22日号(オンライン版)に掲載された論文(注1)に興味深い研究が掲載されています。
研究の対象者は米国在住の男女77,118人(50~76歳)です。どのようなサプリメントをどれだけ摂取しているかと発がんの関係が解析されました。
その結果、過去10年間で1日20mgを超えてビタミンB6のサプリメントを摂取していた男性は、摂取していない人に比べると肺がんの発症リスクが1.82倍に上昇していました。同様に、ビタミンB12については1日55ugを超えて摂取していると1.98倍にも上昇していたのです。
尚、このように発がんリスクが上昇したのは男性だけであり、女性には認められなかったようです。
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ビタミン剤の発がんリスクといえば、ビタミンEとベータカロテン(以前は「ベータカロチン」と呼ばれていました)が有名ですが、これらは脂溶性のビタミンですからサプリメントの過剰摂取で蓄積された結果ががんにつながるというのはなんとなく想像しやすいように感じられます。
一方、ビタミンBは水溶性で過剰に摂取しても吸収されず安全と長い間言われてきました。ですが、結果は発がんリスクが2倍にもなるというのです…。
今のところ、ビタミンのサプリメントでエビデンス(科学的確証)をもって「有用」とされているのは妊娠中または妊娠前の女性が摂取する葉酸だけです。ビタミンDはいくつかの疾患に有用とするものもありますが、逆に有害とするものも多く、現時点では積極的な摂取は推薦できません。
ビタミンのサプリメントが注目された時代はすでに過去のものになりきった感じがします。
注1:この論文のタイトルは「Long-Term, Supplemental, One-Carbon Metabolism-Related Vitamin B Use in Relation to Lung Cancer Risk in the Vitamins and Lifestyle (VITAL) Cohort 」。下記URLで概要を読むことができます。
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|2017年9月7日 木曜日
2017年9月7日 地中海料理が健康にいいのは高学歴か高収入のみ!?
日本料理は健康にいいとされていますが、より多くの論文が発表され有効性が世界的に認められているのは日本料理よりも地中海料理です。特に動脈硬化を予防し、心筋梗塞や脳梗塞を防ぐことができると言われています。ですが、気になる研究が最近発表されました。
なんと、地中海料理で心疾患予防の恩恵を受けられるのは、高学歴者か高収入者のみというのです!!
医学誌『Epidemiology』2017年8月1日号(オンライン版)で研究が報告されています(注1)。研究の対象者は、35歳以上のイタリア人の男女合計18,991人です。調査期間の4.3年間の間に合計252人が心筋梗塞などの心血管疾患を発症しています。全体で評価すると「地中海料理スコア(Mediterranean diet score)」が2ポイント増加(ポイントが高いほど健康的な地中海料理をたくさん食べている)すると、心血管疾患発症リスクが15%減少していました。
興味深いことに、このような関連性は高学歴者に顕著であり、高学歴者の場合は地中海料理により57%も心疾患のリスクが減少するのに対し、高学歴でない人はわずか6%しか低下していません。収入でみてみると、高収入の人は61%も低下するのに対し、高収入でない人にはリスク低下は認められません。
なぜこのような差が出るのか。高学歴・高収入の人は、有機野菜、全粒パン、ポリフェノールを含む食品など、多くの種類の抗酸化物質が豊富に含まれる食品を摂取していることが判明し、研究者らはこれが原因であろうとみています。
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どうやら本当の理由は「抗酸化物質を豊富に含む多種類の食品」にありそうです。おそらく、上等のワインやオリーブオイル、新鮮な魚などは安くないのでしょう。高収入者はそういった食品を抵抗なく購入することができ、高学歴者はさほど収入が高くなかったとしても食事にお金をかけるべきだということを知っている、ということでしょうか。
注1:この論文のタイトルは「High adherence to the Mediterranean diet is associated with cardiovascular protection in higher but not in lower socioeconomic groups: prospective findings from the Moli-sani study」で、下記URLで概要を読むことができます。
参考:
はやりの病気第131回(2014年7月)「認知症について最近わかってきたこと」
医療ニュース:
2014年6月2日「オリーブオイルで心房細動が予防できる可能性」
2014年1月6日「ナッツを毎日食べると健康で長生き」
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|2017年9月3日 日曜日
2017年9月4日 危険な陰毛処理
過去のコラムでも述べたように、総合診療を実践している太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)には「外陰部の悩み」を訴える女性の患者さんがしばしば訪れます。婦人科に行くと「皮膚科に行け」と言われ、皮膚科を受診すると「婦人科に行け」と言われたという気の毒な患者さんも少なくありません。
そのコラムでは「精液アレルギー」という稀な疾患について解説しましたが、今回紹介したいのは非常によくある皮膚のトラブルについてです。そしてその原因は「剃毛」もしくは「脱毛」にあります。
皮膚のトラブルの話に入る前に、私が数年前から感じている素朴な疑問について触れておきます。それは「陰毛処理をする女性が急増している」ということです。これはあまり医学的に意味がないことですからそれほど気に留めていたわけではないのですが、ある論文を読んで「そうか!」と腑に落ちました。
医学誌『JAMA Dermatology』2016年10月号(オンライン版)に掲載された論文(注1)によれば、米国女性の8割以上が陰毛処理をおこなっています。調査対象は米国の3,372人の女性で、期間は2015年11月と12月、インターネットを用いた質問票での調査です。結果、全体の83.8%に相当する2,778人が陰毛処理をおこなっていました。
処理をする理由は、衛生的だから(59.0%)、日々のルーチンとして実施している(45.5%)、外性器の魅力向上のため(31.5%)、パートナーの好み(21.1%)となっています。また、理由は明らかにされていませんが、若い女性と高学歴女性に陰毛処理をする傾向が高いという結果がでています。
多くの”文化”は米国から入ってくると言われますから、日本女性の「処理率」の上昇も米国由来なのかな、と私は思っています。
今回の本題はここからです。同じ医学誌『JAMA Dermatology』2017年8月16日号(オンライン版)に掲載された論文(注2)によると、陰毛処理する女性の27.1%が処理により皮膚に障害を負った経験があります。研究対象は米国人の女性3,372人で、期間は2014年の1月、やはりインターネットでの調査です。
どのような障害かについて、最も多いのが「傷」で61.2%、その次が熱傷(23.0%)、発疹(12.2%)、感染症(9.3%)と続きます。また、処理をする人全体の1.4%に医学的な治療が必要とされていたことが判りました(この調査は男性にもおこなわれており、これらの数字は男女合わせてのものです)。
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後半の論文では男女ともにトラブルが多いとされていますが、谷口医院に「陰毛処理後のトラブル」で受診するのは女性が圧倒的に多いといえます。この理由は、米国に比べて日本では男性は陰毛処理をしないということかと思いますが、もしかすると男性は皮膚科を受診して治療を受けており、女性のように、「皮膚科に行けば婦人科に、婦人科に行けば皮膚科に」ということがないからかもしれません。
谷口医院の女性患者さんの陰毛処理で最も多いトラブルは「毛嚢炎」または「毛包炎」で、毛穴に起こった細菌感染、分かりやすく言えば「ニキビ」です。軽症であれば抗菌薬の外用剤だけで治りますが、最近は内服を使わざるをえないケースが増えてきています。
また、エステティックサロンでのレーザー脱毛による熱傷(やけど)や、脱毛クリームやワックスによる「かぶれ」も増えています。
注1:この論文のタイトルは「Pubic Hair Grooming Prevalence and Motivation Among Women in the United States」で、下記URLで概要を読むことがでいます。
http://jamanetwork.com/journals/jamadermatology/fullarticle/2529574
注2:この論文のタイトルは「Prevalence of Pubic Hair Grooming-Related Injuries and Identification of High-Risk Individuals in the United States」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://jamanetwork.com/journals/jamadermatology/article-abstract/2648859
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|2017年8月31日 木曜日
2017年8月31日 長時間労働で心房細動発症のリスクが大幅上昇
心房細動と呼ばれる不整脈はときに「死に至る病」となることがある重要な疾患です。心臓の疾患として有名な狭心症や心筋梗塞は、適正体重を維持し、禁煙し、適度な運動をおこない、血圧・血糖・コレステロールなどに注意していればリスクを大幅に下げることができます。
一方、心房細動はこれらに注意していても起こるときは起こります。よく議論されるのが「激しい運動」です。マラソンが心房細動のリスクになるという意見は昔からあり、またその逆に激しい運動がリスクを下げるという研究もあり、現時点ではコンセンサスが得られていません。
では「長時間労働」はどうでしょう。
週55時間の長時間労働をおこなうと、週35~40時間のときに比べて4割も心房細動発症のリスクが上昇する…。
米国の医療者向け用サイト『Medscape Family Medicine』にこのようなレポート(注1)が掲載されました。
研究の対象はヨーロッパの8つの患者データベースに登録されている85,494人(うち65%が女性)です。調査開始時に週55時間以上労働していたのが全体の5.2%、35~40時間勤務が62.5%です。追跡機関平均10年の間に1,061人が心房細動を発症しました。
心房細動の発症率と週あたりの労働時間を解析した結果、週55時間以上働く人は、週35~40時間の人に比べて42%も発症リスクが高いことが分かったのです。
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今回の研究だけで長時間労働と心房細動の因果関係を証明するまでには至りませんが、それでも示唆に富む報告です。週55時間というと週休2日を維持したとして、出勤日に1日あたり3時間勤務すればこのレベルになります。日本人の労働者の多くはこれ以上働いているのではないでしょうか。医師の99%はこのレベルを軽く超えています。
日本にも心房細動で悩んでいる人は少なくありません。日本での長時間労働との関係を調べた研究はおそらくないと思いますが、現在でも過去でも長時間労働の経験がある人は定期的な心電図検査をおこなうべきでしょう。心房細動は健診時に本人の自覚がない状態で発見されることが多いからです。
注1:このレポートのタイトルは「New-Onset AF Risk Seen to Rise With Longer Work Hours」で、下記URLで全文を読めます。
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|2017年8月31日 木曜日
2017年8月31日 韓国の加湿器殺菌剤、死亡者は1,200人以上
昨年(2016年)5月にこの「医療ニュース」でお伝えしたように、UKを拠点とした他国籍企業オキシー・レキット・ベンキーザー社が韓国で発売していた殺菌剤が原因で、同国では多数の犠牲者が出ています。昨年紹介したBBCの報道では「約100名が死亡」とされていましたが、韓国のメディア(注1)によると、2017年7月の時点で、被害者総数は5,657人、うち1,212人が死亡しています。
この事件で最も問題なのは、この殺菌剤が肺を損傷させることはすでに2011年にはその可能性が指摘されていたのにもかかわらず、同社がそのまま販売を続けたことです。製品は結局20年近く販売されていたようです。
また、当初の報道ではこの会社だけが問題なのかと思われていましたが、最終的に同社の「Oxy」と呼ばれる製品の被害者は181人のみ(死者は73人)です。同社のこの製品による被害者数が最多なのは事実ですが、全体の被害者数はその30倍以上になります。これは同社だけではなく、スーパー大手の「ロッテマート」や「ホームプラス」も同類の製品を販売していたからであり、これらの業者も有罪判決を受けています(注2)。
************
この事件を医学的に検討した論文を探してみましたが見つかりませんでした。BBCなどの一般メディアから得られる情報を総合的に勘案すると、おそらくこの薬剤で起こる肺疾患は「肺線維症」ではないかと思われます。
韓国メディアは、文在寅大統領が2017年8月8日、政府の責任を認めて大統領として初めて謝罪したことを伝えています。政府と企業のどちらが悪いかを論じてもあまり意味がないと思いますが、オキシー・レキット・ベンキーザー社はこの製品をなぜ韓国のみで発売していたのでしょう。同社は日本にもありますが、日本では一切販売されていません。
ですが日本人も安心はできません。過去20年間で韓国のホテルに複数回宿泊した日本人は大勢いるはずです。最近、息苦しさや原因不明の咳が続いている人で韓国渡航歴のある人は、ホテルの部屋に加湿器がおいてなかったかどうかを思い出すべきかもしれません…。
注1:韓国の英字新聞「Korea JoongAng Daily」が報道しています。
http://mengnews.joins.com/view.aspx?aId=3036910
注2:UKのメディア「Independent」が報道しています。
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|2017年8月31日 木曜日
2017年8月30日 アメリカンフットボールの選手のほとんどがCTEに!
慢性外傷性脳症(以下「CTE」)…。世間では今もあまり知られておらず名前も地味ですが、もっともっと注目されなければならない、と数年前から私が(他に仲間もおらず)ひとりで言い続けている疾患です。
詳しくは過去のコラム(注1)を参照いただきたいのですが、ここでも簡単にまとめておくと、アメリカンフットボールの選手の多くが度重なる頭部への衝撃が原因で脳に損傷が生じ、若くして認知症、うつ病、パーキンソン病様症状などの神経症状を発症し、やがて死に至る極めて悲惨な疾患です。また自殺率が高いことも判っています。
アメリカンフットボールが原因であることが自明でありながら、これまでそれが大きく報道されておらず、また野球やサッカーでも同じ被害が出ることも指摘されていますが、こちらも(特に日本の)メディアはあまり取り上げません。
今回紹介したい研究は、CTEが従来考えられていたよりもずっと起こりやすいことを明らかにしました。
医学誌『JAMA』2017年7月25日号(オンライン版)に掲載された論文(注2)によると、死亡した元アメリカンフットボール選手202人(死亡時年齢中央値66歳)のうち、なんと177人(87%)もが神経病理学的にCTEの診断がついたのです。177人の死亡時年齢中央値は67歳、選手をしていた期間は平均15.1年でした。
また、NFL(ナショナル・フットボール・リーグ)の選手111人だけで検討すると、なんと110人(99%)がCTEの診断がついているのです。つまり、選手としてのレベルが高いほど有病率が高いということです。
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この研究、海外のSNSでどれだけ話題になっているのか私にはわかりませんが、少なくとも海外のメディアでは大きく報道されています(注3)。一方、日本のメディアは沈黙しているようにしか見えません。日本では欧米諸国と比べると、アメリカンフットボールをプレイする人数は少ないでしょうが、サッカーや野球は大勢います。
また、CTEは過去に「パンチドランカー」と呼ばれていたものとほぼ同じ疾患であり、ボクサーをはじめとする格闘家に多いことも分かっています。
日本でもこういったスポーツがCTEのリスクになっていないかどうかを調査し、危険性がどの程度か明らかにし世間に伝えるべきだと私は考えています。
注1;下記コラムを参照ください。
はやりの病気第137回(2015年1月)「脳振盪の誤解~慢性外傷性脳症(CTE)の恐怖~」
医療ニュース2017年3月6日「ヘディングは脳振盪さらに認知症のリスク」
医療ニュース2016年10月14日「コンタクトスポーツ経験者の3割以上が慢性外傷性脳症」
注2:この論文のタイトルは「Clinicopathological Evaluation of Chronic Traumatic Encephalopathy in Players of American Football」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/2645104?resultClick=1
注3:下記を参照ください。
BBC:http://www.bbc.com/news/world-us-canada-40718990
CNN:http://edition.cnn.com/2017/07/25/health/cte-nfl-players-brains-study/index.html
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|2017年8月7日 月曜日
2017年8月7日 冷たい食べ物で起こる頭痛と片頭痛
アイスキャンディやアイスクリームなどを食べると、キーンとする頭痛が起こるという人は少なくないと思います。この頭痛、医学的には「cold stimulus headache(冷刺激頭痛)」(注1)と呼びますが、軽症であることもあり、あまり医学界では議論されません。他の呼称として「brain-freeze headache(脳凍結頭痛)」「ice-cream headache(アイスクリーム頭痛)」があります。(カッコ内の日本語訳は私の訳です。正式な和名はおそらくないと思います)
米国の医療系メディア『Health Day』2017年7月22日号(注2)にこの頭痛を防ぐ方法が紹介されています。その方法を述べる前に、この頭痛を少し医学的にみてみましょう。
この頭痛はそのメカニズムが完全に解明されたわけではありませんが、口蓋(口の中の上の部分)の奥にある神経が、冷たい食べ物で刺激されると、その情報が頭痛を引き起こす脳の領域に伝わることで生じると考えられています。『Health Day』の取材を受けた米国テキサスA&M医科大学(Texas A&M College of Medicine)のStephanie Vertrees氏は、この神経は蝶口蓋神経節神経痛(sphenopalatine ganglioneuralgia)と述べています。
世界的な医学のオンライン教科書である『UptoDate』によると、この頭痛は大勢の人にみられるものの、とりわけ片頭痛を有する人によく認められます。Stephanie Vertrees氏はそれを進めて、「この頭痛を意図的に起こすことによって片頭痛が予防できるかもしれない」と述べています。
これが正しいのかどうかは今後の研究を待つしかありません。また、これも現時点では高いエビデンス(科学的確証)があるとはいえませんが、Stephanie Vertrees氏が『Health Day』で述べた、この頭痛を防ぐ3つの方法について紹介しておきます。
①冷たいものはゆっくり食べる
②冷たいものは口の奥に含むのではなく前の方で保つようにする
③舌を口蓋(口の上)に押し付けて舌の温度で温める
************
この頭痛(cold stimulus headache)自体はたいしたことがなく、もちろん治療の対象になりませんが、片頭痛との関連性は興味深いと言えます。たしかに、アイスクリームを食べたときに片頭痛が起こるという人もいます。私自身は、片頭痛の患者さんに冷たいものを避けるような制限をすることはありませんが、今後、「アイスクリームで片頭痛」と言う人には、まったく食べないのではなく、上記の3つを守りながら食べることを助言したいと考えています。
ですが、Stephanie Vertrees氏が述べている「この頭痛を意図的に起こすことによって片頭痛を予防する」という考えは時期尚早だと思います。
注1:世界的な医学の教科書『UpToDate』に少し説明があります。(ただし有料サイトです)
注2:この記事は「The Scoop on Avoiding ‘brain freeze’」で読むことができます。
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