医療ニュース
2018年3月2日 金曜日
2018年3月2日 有酸素運動が過敏性腸症候群を改善する
腸の疾患で最も多いのはおそらく「過敏性腸症候群」で、太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)にもほぼ毎日患者さんが受診しています。過敏性腸症候群には「下痢型」「便秘型」「混合型」があり、程度も軽症から重症まで様々です。重症化すると、いつ便をもよおすか分からないために、外出が困難になり、電車に乗れないという人もいます。
治療にはまずプロバイオティクス(整腸剤)を用いますがこれだけで改善するケースはそう多くありません。下痢型の場合には便を固める薬や、お腹の動きを止める薬も用います。また、イリボー(ラモセトロン塩酸塩)と呼ばれる薬や、精神症状も出現している場合はやむを得ず精神安定剤を用いることもあります。
過敏性腸症候群はよく「ストレスで悪化する」と言われ、これは正しいとは思いますが、精神的ストレスのみで説明できるわけではありません。谷口医院の患者さんには運動、特に有酸素運動を勧めることがあり、それなりに有効であるように思われます。今回、それが正しいことを裏付けるかもしれない研究が発表されたので紹介したいと思います。
有酸素運動が女性の過敏性腸症候群を改善させる…。
医学誌『Cytokine』2018年2月号(オンライン版)にこのような研究が発表されました(注1)。
研究の対象者は、診断基準を満たした過敏性腸症候群の女性患者109人から60人を選び出し、有酸素運動を実施するグループ30人と、運動をしないグループ30人に分けられました。調査期間は24週間。つまり約半年間、有酸素運動をすればしない場合に比べてどの程度症状が改善するかが調べられました。主な指標とされたのが、サイトカインと呼ばれる免疫に関与する物質や抗酸化物質などです。そして、症状の改善と相関関係が認められました。
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一昔前は過敏性腸症候群といえば「ストレスの病気」と簡単に片づけられていました。それが、サイトカインを代表とする物質の関与が判ってきて、さらに最近では腸内細菌との関連も指摘されるようになってきています。
今回の研究は小規模ではありますが、有酸素運動が免疫系を整えて過敏性腸症候群の症状を改善することが実証されたわけです。そして、有酸素運動には一切のデメリットはありません。また、過敏性腸症候群ではなく単なる「便秘」の人も、ジョギングなど有酸素運動をするだけで「完治」することも珍しくありません。
有酸素運動をあえてしない理由など何もないというわけです。
注1:この論文のタイトルは「Low-to-moderate intensity aerobic exercise training modulates irritable bowel syndrome through antioxidative and inflammatory mechanisms in women: Results of a randomized controlled trial」で、下記URLで概要を読むことができます。
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1043466617303873
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|2018年2月26日 月曜日
2018年2月26日 片頭痛は心筋梗塞、脳卒中、静脈血栓症のリスク
ちょっと物議をかもしそうな論文が発表されました。
今から8年前の2010年6月、「片頭痛は脳梗塞のリスク」という論文が発表され、このときは一般のメディアで取り上げられたこともあり話題になりました。この論文の主旨は「前兆(閃輝暗点)を伴う片頭痛のある女性は脳梗塞を起こしやすい」というものでした(注1)。
今回発表された論文はデンマークの住民を対象としたもので、2010年のものよりも調査の規模がかなり大きく、また結果もインパクトの強いものです。医学誌『British Medical Journal』2018年1月31日(オンライン版)(注2)に掲載されました。
研究の対象者は、デンマークの51,032人の片頭痛患者、対照は510,320人の一般住民。調査期間は1995年から2013年です。結果は以下の通りです。数字は「片頭痛あり」と「片頭痛なし」は1,000人あたりの発症者の人数、「リスク」は片頭痛があればない人に比べて何倍になるかを示しています。
片頭痛あり 片頭痛なし リスク
心筋梗塞 25 17 1.49
脳梗塞 45 25 2.26
脳出血 11 6 1.94
静脈血栓症 27 18 1.59
心房細動・粗動 47 34 1.25
さらに、脳卒中(脳梗塞+脳出血)は、片頭痛の診断がついてから短い人の方が発症しやすいことが分かりました。また、閃輝暗点と呼ばれる目の前がチカチカする前兆(これを英語でauraと呼びます。「あの人にはオーラがある」と使うときのオーラと同じ単語です)を伴う人の方がない場合よりもリスクが高いという結果が出ています。性差としては女性にリスクが高いようです。
********
女性で前兆を伴う片頭痛があれば脳梗塞のリスクという2010年の発表に矛盾しない結果となっています。さらに、脳梗塞のみならず他の心血管疾患のリスクにもなるという結果がでたわけです。
では(特に前兆のある)片頭痛を持っている人がすべきことは何か。まず、こういった心血管疾患の他のリスクを取り除くことが最重要です。喫煙、肥満、糖尿病、高血圧、高脂血症などの生活習慣病があればそれらを治すことを考えるべきです。
同時にすべきことは「規則正しい生活」です。毎日同じ時間に起きて、できるだけ同じ時間に就寝する、これを徹底するだけで頭痛の頻度が大きく減少する人は少なくありません。そして「治療」です。治療には症状が生じたときに飲む薬のみならず、頻度の多い人は予防薬を上手に使うことが大切になってきます。
注1:過去の「医療ニュース」で取り上げたことがあります。
医療ニュース2017年2月10日「片頭痛があると術後脳卒中のリスク上昇か」
注2:この論文のタイトルは「Migraine and risk of cardiovascular diseases: Danish population based matched cohort study」で、下記URLで全文を読むことができます。
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|2018年2月26日 月曜日
2018年2月25日 ペットは精神状態を癒してくれる
ペットと一緒にいると心が癒される、というのは多くの人が感じていることです。そして、これは科学的にも正しいようです。
英国リバプール大学が、ペットと飼い主の精神状況の関係についてこれまでに公表された合計17の研究を総合的に解析し(これを「メタアナリシス」と呼びます)、結果を医学誌『BMC Psychiatry』2018年2月5日号(オンライン版)(注1)に発表しました。
ペットの肯定的な側面と否定的な側面についてそれぞれ考察されています。肯定的な面としては、「つながり」(connectivity)が強くなり、飼い主の精神状態がいくつもの方法で(multifaceted ways)安定することが分かり、特に「危機的な状況」(crisis)になったときにペットは強い味方となってくれるようです。
一方、否定的な面として、ペットを飼うことの実際的または精神的な「負担」(burden)が挙げられています。また、ペットを失くしたときの心理的ダメージも指摘されています。
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論文では、研究者らは「さらなる調査が必要」としていますが、この研究は特に真新しい発見があるわけではなく、ほとんどの人が同意することでしょう。先日は「犬を飼えば長生きできる」という研究結果を報告しました。我々は、犬や猫と共に過ごすことが‶自然”なのかもしれません。ただし、一方で、ペットからうつる感染症や「権勢症候群」といった少しやっかいな問題があることもお忘れなく。
注1:この論文のタイトルは「The power of support from companion animals for people living with mental health problems: a systematic review and narrative synthesis of the evidence」で、下記URLで全文を読むことができます。
https://bmcpsychiatry.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12888-018-1613-2
また、医師向けのポータルサイト「Physician’s Briefing」でも紹介されています。
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|2018年2月2日 金曜日
2018年2月2日 インフルエンザワクチンの「謎」が解けたかも…
インフルエンザのワクチンは有効だが完全ではなく、そのため”誤解”が多いということは過去に何度か述べています。なぜ”誤解”が多いかは過去に書いたもの(注1)を見ていただきたいのですが、今回は我々医療者も以前から感じていたある「謎」が解けたかもしれない、という話をしたいと思います。
その「謎」とは、「なぜベテランの医師でなく若い研修医に感染するのか」、というものです。医師だけではありません。看護師も他のメディカルスタッフもベテランよりも若手が感染するのです。そのため、若い看護師は「日ごろの体調管理がなってない!」と自分の母親くらいの年齢の先輩看護師から叱られることになります。
この理由として、よく言われるのが「若手の医師や看護師の方が患者さんと接する時間が長く、熱心であればあるほど感染しやすい」というものがあります。また、「ベテランの医療者は若い頃に何度かかかっているから免疫がある」というものもあります。この2つの意見はどちらも正しいとは思います。ですが、あまり”熱心でない”若手の医療者も感染しますし、何度もかかっている(医療者以外の)高齢者も感染します。そして、高齢者の場合重症化して死に至ることもあります。
インフルエンザを軽く考える人もいますが、年間死亡者数は、世界で約25~50万人、日本で約1万人と推計されています。(参考:厚労省の該当ページ)
さて、なぜベテランの医療者はインフルエンザにかかりにくいのか、その「謎」が解けたかもしれない研究を紹介したいと思います。それは、「ワクチンは毎年接種で効果が高くなる」というものです。なるほど、医療者なら毎年ワクチンを接種することを義務付けられていますから、今年は忙しくてうてなかった、ということはありません。
この研究は医学誌『Canadian Medical Association Journal』2018年1月8日号(オンライン版)に掲載されています(注2)。この医学誌はカナダ発のものですが、研究の対象者はスペイン人です。スペインの病院20施設で2013年から2015年のシーズンにインフルエンザで入院した65歳以上の患者について調査されています。
結果は想像以上のものです。過去4年間で一度もワクチンを接種していない人に比べると、4年連続でワクチンをうっている人は「軽症インフルエンザ」への罹患が31%少なかったのです。31%ならそう多くないかも…、と思えるかもしれませんが、重症例では歴然とした差が出ています。ワクチンを連続して接種していると、集中治療室に入らなければならないような「重症インフルエンザ」を74%減らすことができ、インフルエンザでの死亡は70%減らせることが分かったのです。
そして、興味深いことに、その年にしか接種しなかった人では未接種の人と比べて大差なかったのです。その年と過去3年間で1回(つまり合計2回)接種していた場合は重症化を55%減らせていました。
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この研究が正しいとすれば、ベテランの医療者はインフルエンザに感染しにくく、また感染してもより軽症で済むということになります。ということは、若い医療者たちは「日ごろの健康管理がなっていない」からインフルエンザに感染するのではなく、単にベテランの人たちが繰り返しワクチン接種をしているからだ、ということになります。ベテラン勢はもう少し謙虚になった方がいいのかもしれません…。
注1:下記を参照ください。
そもそもインフルエンザのワクチンって効くの?
毎日新聞「医療プレミア」2016年1月31日「インフルエンザワクチンは必要?不要?」
注2:この論文のタイトルは「Repeated influenza vaccination for preventing severe and fatal influenza infection in older adults」で、下記URLで全文を読むことができます。
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|2018年2月1日 木曜日
2018年2月1日 妊娠中のアセトアミノフェンで言語発達の遅れ?
「妊娠中には市販のものも含めて風邪薬や解熱鎮痛剤はほとんど飲めない。どうしても必要なときにはアセトアミノフェンを使用しなければならない」ということは過去にもお伝えしてきました。また、そのアセトアミノフェンも妊娠中の危険性を指摘する意見がなくはなく、新生児のADHD(注意欠陥多動性障害)のリスクとなるという研究も紹介しました(いずれも下記参考文献を参照)。
今回、新たに妊娠中のアセトアミノフェンの危険性についての研究が発表されましたので報告します。医学誌『European Psychiatry』2018年1月10日号(オンライン版)に論文が掲載されました(注1)。
研究の対象者はスウェーデンの妊娠8~13週に登録された妊婦754人です。妊娠中のアセトアミノフェンの使用と生後30カ月(2歳6カ月)での子供の言語発達との関係が解析されています。
結果は、まず妊娠8~13週の間にアセトアミノフェンを内服していた妊婦は全体の59.2%。言語発達の遅滞は女児(4.1%)より男児(12.6%)に多いものの、アセトアミノフェンとの関連があったのは女児のみでした。妊娠中にアセトアミノフェンを1日6錠(注2)以上内服すると、まったく飲まない妊婦に比べて女児の言語遅滞がみられるリスクが5.92倍増加しています。また、リスクは内服量にも影響するようで、尿中アセトアミノフェン濃度が最も高かった母親から生まれた女児は、最も低かった母親に比べてリスクが10.34倍にもなっています。
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妊娠中に頭痛や発熱が起こったときに何もせずに放っておくと、胎児に影響を与える可能性があります。一方、バファリンやロキソニンといったNSAIDsと呼ばれる鎮痛薬は内服すべきでありません。もちろん麻薬(オピオイド系)は論外です。痛みや発熱が生じたときにはアセトアミノフェンに頼らざるを得ません。
月並みなコメントになりますが、まずは健康に注意し、規則正しい生活をこころがけ(頭痛は生活の乱れがリスクとなります)、可能な限り鎮痛薬に頼らぬよう予防することが最重要となります。
注1:この論文のタイトルは「Prenatal exposure to acetaminophen and children’s language development at 30 months」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://www.europsy-journal.com/article/S0924-9338(17)32989-9/abstract
注2:論文にはミリグラム数が記載されていません。日本ではアセトアミノフェンの製剤は1錠200mgが多いのですが、海外では300mgが一般的です。海外での6錠(1,800mg)は日本の9錠に相当するのではないかと思われます。(ただし、スウェーデンに渡航したことのない私には確証はもてません)
参考:
毎日新聞「医療プレミア」2016年1月10日「解熱鎮痛剤 安易に使うべからず」
医療ニュース2015年1月30日「妊娠中のアセトアミノフェンの是非は?」
医療ニュース2014年4月4日「妊娠中のアセトアミノフェンがADHDを招く?」
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|2018年2月1日 木曜日
2018年1月31日 うつ病の背景にヘルペス2型とサイトメガロが?
うつ病は心(精神)の病であり、通常は感染症とは無関係です。一方、疲労についてはヘルペスウイルス6型(HHV-6)との関連が指摘されています。HHV-6は幼少期に感染する突発性発疹の原因ウイルスのひとつで、いったん感染するとウイルス自体は生涯体内から消えません。また、疲労が強いときに口唇ヘルペスや性器ヘルペスを発症しやすくなりますから疲労が単純ヘルペス1型(HSV-1)や2型(HSV-2)と関連しているのも間違いありません。(ちなみに、昔はHSV-1が口唇ヘルペス、HSV-2が性器ヘルペスの原因と言われていましたが、実際には口唇ヘルペスの病変からHSV-2が、性器ヘルペスからHSV-1が検出されることも多々あります)
しかし、疲労ではなくうつ病が一部のウイルス感染が関与しているという研究が発表されました。医学誌『Psychiatry Research』2018年3月号(オンライン版)(注1)に掲載されています。
研究の対象は米国の成人で、CDC(米国疾病管理局)の国民健康栄養研究調査(National Health and Nutrition Examination Survey)のデータを解析することによりおこなわれています。研究の対象となった感染症はいずれもウイルスで次の6つ。A型肝炎ウイルス(HAV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、HSV-1、HSV-2、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)、サイトメガロウイルス(CMV)です。
うつ病と関連があることがわかったのはHSV-2とCMVです。HSV-2感染はうつ病のリスクを上昇させ、CMVはその抗体価が高ければうつ病を発症しやすくなるとの結果がでています。
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CMVは幼少時もしくは青年期までに感染することが多く、抗体価が高くなるのは免疫が低下したときです。例えば、HIVに感染して無治療でいるとCMVは活性化し、その結果、抗体価が高くなります。(CMVの抗体はCMVをやっつけることはできません) 一方、HIV感染とうつとはいかにも関係がありそうですが、これが否定される結果となりました。ということは、HIV感染→免疫能低下→CMV抗体価上昇→うつ病、というわけではないということになります。
また、HSV-1では無関係で、HSV-2のみがうつ病のリスクになるというのは、それを説明する合理的な理由が見当たりません。
まだまだ謎だらけのウイルスとうつの関係と言えそうです。また、冒頭で述べた疲労の原因であることが分かっているHHV-6とうつの関係も知りたいところです。
注1:この論文のタイトルは「Association between virus exposure and depression in US adults」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://www.psy-journal.com/article/S0165-1781(17)30980-0/abstract
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|2018年1月26日 金曜日
2018年1月26日 単身者は犬を飼えば長生き 雑種より猟犬が良い?
動物療法(動物介在療法、ぺット療法、アニマルセラピーなどとも呼ばれる)が心身の健康に良いということが指摘されています。エビデンス(科学的確証)が充分ではなく、すべての医療者が推薦しているわけではありませんが、私の経験からいっても、犬を飼いだしてから笑顔が戻った引きこもりの若者や、パートナーをなくしてふさぎ込んでいたところ犬と一緒に暮らしだして元気になった高齢者などを何人かみていますから、「犬を飼おうと思っているんですけど…」と相談されたときは積極的に推薦するようにしています。
では、果たして犬を飼うことは本当に健康によいのでしょうか。結論から言えばよさそうです。科学誌『Scientific Reports』2017年11月17日号(オンライン版)に興味深い論文(注1)が掲載されています。
この研究はスウェーデンのものです。データベースに登録されている合計3,432,153人(男性が48%、中間年齢57歳)が研究対象です。犬を飼っているのは全体の13.1%で調査期間は12年間です。
犬の飼育は単身者と家族のいる人とで分けて分析されています。犬を飼育していると、死亡リスクは家族のいる人で11%低下、単身者だと33%低下しています。心血管系疾患の死亡リスクでみると、家族のいる人で15%、単身者は36%も低下しています。
この研究では犬の種類ごとの検討もおこなわれています。結果は下記に示した通りです(ただしこの和訳に自信がないので関心のある人はhttps://www.nature.com/articles/s41598-017-16118-6/tables/3を参照してください。また、ジャパン・ケネル・クラブのサイトではこれと同じ順番で犬の種類が紹介されています)
心血管系疾患のリスク 全死亡のリスク
牧羊犬 1.02 0.84
ピンシャー、シュナウザー 0.97 0.78
テリア 0.95 0.81
ダックスフンド 0.94 0.76
スピッツ類 0.98 0.72
セント(嗅覚)ハウンド 0.93 0.63
ポインター 0.90 0.60
レトリバー 0.90 0.74
トイドッグ 1.04 0.85
サイト(視覚)ハウンド 1.02 0.83
雑種 1.13 0.98
興味深いことに、猟犬タイプ(ポインター、レトリバー、ハウンドなど)は心血管系疾患のリスクも全死亡のリスクも低くなっている一方で、雑種やトイドッグはさほどリスク低下が認められません。特に雑種は、心血管系疾患のリスクが逆に13%増加しています(全死亡のリスクは2%の低下)。
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そのままこのデータを信用するなら、雑種でなく猟犬を飼おうとなるかもしれませんが、実際には品種にこだわらずに一緒にいて落ち着けるタイプの犬がいいのではないか、というのが私の考えです。私の家では、私が小さい頃に犬を何度か飼ったことがありますが、すべて雑種でした。一流の血統の犬を飼っている友達もいましたが、私は私の家の犬が一番かわいいと思っていました。
注1:この論文のタイトルは「Dog ownership and the risk of cardiovascular disease and death – a nationwide cohort study」です。下記URLで全文を読むことができます。
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|2018年1月11日 木曜日
2018年1月12日 高学歴はアルツハイマーのリスクを下げるが喫煙も?
アルツハイマーのリスクを上げる要因、下げる要因については世界中で様々な研究がおこなわれています。今回紹介したいのはスウェーデンでおこなわれた大規模調査で、医学誌『British Medical Journal』2017年12月7日号(オンライン版)に掲載されたものです(注1)。
調査は、ヨーロッパのアルツハイマー病の患者17,008例と対照37,154例を比較検討することによっておこなわれています。
結果は、大学を卒業していればアルツハイマー病の発症を26%低減させるというものです。学歴以外の興味深い結果としては、喫煙(1日10本)で31%のリスク低下(!)、コーヒー(1日1杯)は26%のリスク上昇(!)です。
アルコール摂取、葉酸、ビタミンB12、血糖値、血圧、脂質などには関連性は認められなかったようです。
************
論文の著者は「高学歴がアルツハイマーのリスクを下げる」ということを最も強調したいようですが、それよりも喫煙がリスクを下げて、コーヒーが逆に上げるということの方が気になります。従来から言われていることと逆になるからです。
学歴にしてもヨーロッパと日本では事情が異なるでしょうし、大学にも様々なところがありますし、さらに私個人の見解を述べれば、大学卒業後もどれだけ勤勉な態度を維持しているかの方が重要だと思います。
今回の結果を鵜呑みにするのではなく(特にタバコ!)、従来から言われているように生活習慣病に気を付けて、規則正しい生活をおこなうべきだと私は思います。この論文を読んで喫煙を開始することなどあってはなりません。
注1:この論文のタイトルは「Modifiable pathways in Alzheimer’s disease: Mendelian randomisation analysis」で、下記のURLで全文を読むことができます。
http://www.bmj.com/content/359/bmj.j5375
参考:
メディカルエッセイ第179回(2017年12月)「これから普及する次世代検査」
はやりの病気第131回(2014年7月)「認知症について最近わかってきたこと」
医療ニュース
2017年10月10日「認知症になりにくい性格とは?」
2017年4月7日「血圧低下は認知症のリスク」
2017年10月25日「認知症の治療にイチョウの葉は有効か無効か」
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|2018年1月11日 木曜日
2018年1月11日 バイアグラ過剰摂取で全裸の男が空港で逮捕
バイアグラが効きにくくなってきたとの理由から自己判断で過剰摂取する人がときどきいますが、それをすると世界中に恥をさらすことになるかもしれません。
2018年1月4日、タイのプーケットから韓国のインチョン行きのフライトに搭乗予定の韓国系アメリカ人の男性が、プーケット空港で全裸になり、なんと自分の糞便を周囲に投げつけ、危険回避のために逮捕されました。世界中のメディアが写真やビデオ付きで報じています。(なぜか日本のメディアは取り上げていないようですが)
この男性は平静を取り戻した後、自分の罪を認め、損害賠償にも応じると話しているそうです。当然のことながら、韓国行きのフライトには搭乗できず地元の警察に連行されました。
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突然空港で見知らぬ男性が全裸になり糞便を投げつけてくれば恐怖を覚えますから、この男性が罪に問われるのは無理もありません。ですが、実名を晒され、画像が世界中に拡散されるのは問題ではないでしょうか。もはやこの男性が「社会復帰」するのは困難でしょう。(私自身は、名前や画像が広がることを疑問視していますので、ここではこのニュースの出所は書かないでおきます。検索すれば簡単に見つかりますが…)
それにしても怖いのはバイアグラです。これからの取り調べで別の薬物が出てくる可能性もあるでしょうし、理論的にバイアグラが原因でこのような行動をとったとは考えにくいのですが、バイアグラを過剰摂取したのは事実のようです。
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|2017年12月8日 金曜日
2017年12月8日 子宮頸がんより多いHPVが原因の中咽頭がん
世界的にはかなり普及してきたHPVワクチンが日本では一向に広まらないなか、このウイルスが原因の中咽頭がんが急増していることが指摘されています。
医学誌『Annals of Internal Medicine』2017年11月21日号(オンライン版)で報告された論文(注1)によれば、米国では2008年から2012年の間に、年平均38,793人が「HPVが原因のがん」と診断されています。そのうち女性が23,000人で59%、男性は15,793人、41%です。そして、驚くのはここからです。
HPV原因のがんといえば子宮頸がんがいわば”常識”でしたが、これが覆りました。報告によれば、現在米国の「HPVが原因のがん」のなかで最も多いのは子宮頸がんでなく中咽頭がんなのです。そして、興味深いことに中咽頭がんを男女ごとにみてみると、女性が3,100人なのに対し、男性は12,638人。男性の方が4倍も多いのです。
男女差についてもう少しみていきましょう。2002年から2012年の間、HPVが原因の中咽頭がんは女性ではほとんど増えていないのに対し(年0.57%の増加。後で述べるように最近は減少傾向という報告もあります)、男性では年2.89%の増加です。そして、男性の中咽頭がんの発症率は人口10万人あたり7.8人であり、すでに女性の子宮頸がんの発症率(10万人あたり7.4人)を超えているのです。特に上昇率が顕著なのが50代の男性です。論文によれば、この上昇傾向は2060年までは継続し、中咽頭がんは公衆衛生学的に重要な懸念事項とされています。
では中咽頭がんに対して最も有効な方法は何か。論文ではワクチン接種で発症を予防できることが指摘されています。ところが、米国ではHPVワクチンの接種が男性ではさほど高くなく、さらにリスクの高い中高年にはほとんど普及していません。
ここからはHPV感染率についてみていきましょう。やはり男女比が興味深いと言えます。口腔内のHPV感染率は、女性で3.2%なのに対し男性では11.5%もあります。人数に換算すれば男性1,100万人、女性320万人です。ハイリスク(注2)のHPV感染率でみると、男性7.3%、女性1.4%です。HPVのハイリスクとして有名な#16だけでみると、男性の口腔内感染率は女性の6倍にもなります(男性1.8%、女性0.3%)。
もう少し細かくみてみましょう。同性間のパートナーをもつ男女でみると、男性の場合ハイリスクのHPV口腔内陽性率は12.7%、女性は3.6%です。また、黒人、喫煙者、大麻使用者、生涯に16人以上の膣またはオーラルセックスのパートナーがいた者でリスクが高くなっています。
この「生涯16人以上のパートナー」を詳しくみてみましょう。これまでの人生で16人以上のパートナーがいた男性の場合、パートナーが1人以下の場合に比べて、口腔内のHPV感染は、そのパートナーたちとの「行為」が、オーラルセックスで10倍、膣交渉で4倍、「いずれも」で8倍高くなっています。女性については16人以上のパートナーがれば、1人未満に比べて、オーラルセックスで3倍、膣交渉で6倍、「いずれも」で7倍高くなっています。
上に述べたように女性の中咽頭がんは増減がほとんどないとされていますが、この論文では、最近は減少傾向にあることを指摘した別の論文を引き合いに出しています。この理由として、女性のHPV感染の予防(子宮頸がんスクリーニング検査やワクチン)が功を奏した結果ではないかと著者らは考えています。
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この論文は衝撃的です。医学の教科書を書き換えなければならない数字が突き付けられています。これまではHPVが原因のがんといえば子宮頸がんがほとんどだったのが、中咽頭がんが最多となり、しかも男性の方が女性より4倍も多いというのです。
日本にはまだこのようなデータがありませんし、中咽頭がんでHPVが調べられるようになったのはつい最近のことです。
ちなみに日本は諸外国と比べてオーラルセックスの普及率が高いと言われており、海外ではいくらか普及している女性の膣をカバーする「デンタルダム」などは日本ではほとんど売れないと聞きます。
あなたが男性であったとしても女性であったとしても、咽頭のHPV検査、またはHPVワクチン、検討しなくていいですか?
注1:この論文のタイトルは「Oral Human Papillomavirus Infection: Differences in Prevalence Between Sexes and Concordance With Genital Human Papillomavirus Infection, NHANES 2011 to 2014」で、下記URLで概要を読めます。
注2:論文によれば、ハイリスクのHPVのサブタイプは、16, 18, 26, 31, 33, 35, 39, 45, 51, 52, 53, 56, 58, 59, 66, 68, 73, 82。ローリスク(通常、尖圭コンジローマの原因となる)は、6, 11, 40, 42, 54, 55, 61, 62, 64, 67, 69, 70, 71, 72, 81, 82, 83, 84, 89です。
参考:
毎日新聞「医療プレミア」
「HPVよりも優先すべきワクチンは」2016年8月7日
「HPVワクチン定期化の費用対効果」2016年8月14日
「ワクチン接種する/しない 学んだ上で判断を」2016年8月21日
NPO法人GINAコラム「子宮頚ガンとHPVワクチン」
NPO法人GINAコラム「悩ましき尖圭コンジローマ」
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