医療ニュース

2018年4月6日 金曜日

2018年4月6日 胃薬PPIは短期使用でも骨粗しょう症のリスクに

 このサイトで何度も指摘している胃薬PPIの危険性については、ときおりマスコミでも報道されているようで、ここ1~2年でみれば、太融寺町谷口医院で「前の医療機関で処方されたんですけど大丈夫ですか?」と患者さんから質問される薬のナンバー1です。

 特に「PPI使用が胃がんのリスク」という報道は大変物議を醸しています。胃がん以外にも、認知症のリスクを上げる、血管の老化を早める、腸炎や肺炎にかかりやすくなる、精子の数が減る、など次々と否定的な見解が発表されています。

 今回は「PPIが骨粗鬆症のリスク」という報告です。

 医学誌『Current Opinion in Rheumatology』2016年7月号に掲載された論文(注1)に報告されています。この研究では、過去18カ月以内に公表されたPPIと骨粗鬆症リスクについての文献が分析(これを「メタ分析」と呼びます)することにより、より客観的な事実を導こうとしています。

 結果、たとえ短期間であってもPPIを使用すれば、骨粗鬆症および骨粗鬆症性骨折のリスクが高まることが判った、とされています。

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 PPIは胃炎や逆流性食道炎に対しては確かによく効く薬剤です。ですが、これまでは安全性が担保されていると考えられていたこともあり、あまりにも簡単に処方されすぎているように思えます。

 冒頭で述べたような「前の医療機関で処方されたんですけど…」と患者さんから相談されたとき、もちろん症状にもよりますが、H2ブロッカーに切り替えてもらうことがよくあります。それで(全例とはいいませんが)大部分は改善します。もしも、漠然とPPIを長い間飲んでいる人がいれば、一度他の薬剤への変更を検討してみるべきかもしれません。

注1:この論文のタイトルは「Proton pump inhibitors and osteoporosis」で、下記URLで概要を読むことができます。

https://journals.lww.com/co-rheumatology/Abstract/2016/07000/Proton_pump_inhibitors_and_osteoporosis.13.aspx

参考:医療ニュース
2017年11月15日 ピロリ菌除菌後の胃薬PPI使用で胃がんリスク上昇
2017年4月28日 胃薬PPIは認知症患者の肺炎のリスク

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2018年4月6日 金曜日

2018年4月5日 コーヒーの発がん性をLA高等裁判所が認定

 コーヒーについて米国で驚くべきニュースが報じられました。

 米国ロサンゼルス高等裁判所がコーヒーの発がん性を認め、スターバックスなどコーヒーの販売業者に、「コーヒーには発がん性物質が含まれている」という警告を店内に表示するよう義務付けるというのです。2018年3月30日のAP通信が報道しています。

 この判決が下されたのは地方裁判所ではなく高等裁判所(Los Angeles Superior Court )です。スターバックスなど販売側は最高裁判所に上告することはできますが、この時点で相当大きな問題となっていると思われます。

 AP通信によると、原告側はコーヒーの焙煎過程で生じるアクリルアミドを取り除くか、警告の表示をするよう求めていました。これに対し、被告側(販売側)は、健康に影響が及ぶほどではなく健康上の利点が上回ることを主張していました。

 裁判所の判決は、「原告側は主張を裏付ける証拠を提出したのに対し、被告側の主張は根拠が不十分であった」、と同通信は報じています。

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 コーヒーはかつてはWHOも発がん性を指摘していました。しかし、2016年6月15日、WHOの下部組織であるIARC(International Agency for Research on Cancer、国際がん研究機関)は「発がん性を示す決定的な証拠はない」として、事実上「安全」であると公表しています。

 このニュース、日本ではあまり報道されていないようですが、もしも米国のスターバックスで「警告」が表示されるようになれば、おそらく日本の消費者団体も何らかの行動をおこすのではないでしょうか。

 コーヒーについてはこのサイトで何度も述べているように健康に寄与するエビデンス(科学的確証)がいくつもあります。カリフォルニアのこの判決には惑わされない方がいいのでは、というのが私の意見です。

参考:医療ニュース
2016年8月12日 加工肉はNGだがコーヒーはガンのリスクでない

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2018年3月30日 金曜日

2018年3月30日 3月24日は「世界の8つの記念日」のひとつ~結核~

 先日、3月21日は「世界ダウン症の日」であることをお伝えし、英国発の4分半の画像が世界中を感動の渦に巻き込んだ、というニュースを紹介しました。

 世界ダウン症の日は、健康に関する記念日のなかでは比較的有名な方ですが、全体からみたときにはマイナーです。では、もっと有名というか世界的に重要と考えられているのはどのような疾患かというと、WHO(世界保健機関)が公式に認定している記念日が合計8つあります(注1)。今回はそれらを紹介し、3月24日が記念日の「結核」について述べたいと思います。8つの記念日は以下の通りです。尚、日本語表記について、ここでは「~の日」という表現にしましたが、「~デイ」あるいは「~デー」と呼ばれることもあります。

3月24日   世界結核の日
4月7日    世界健康の日
4月の最終週  世界ワクチン週間
4月25日   世界マラリアの日
5月31日   世界禁煙の日
6月14日   世界献血の日
7月28日   世界肝炎の日
12月1日   世界エイズの日

 このように記念日は春に集中しています。結核の日が3月24日に定められたのは、結核菌を発見したドイツのロベルト・コッホが結核についての演説をおこなった日だからと言われています。

 世界結核の日は日本ではさほど盛り上がりません。世界マラリアの日が日本であまり(というかほとんど)取り上げられないのは日本にはマラリアがないからだと思いますが、結核は世界で最も死亡者の多い感染症ですし(注2)、日本でも少なくありません。たしかにピーク時からは大きく減少していますが、今も先進国のなかではかかり多いのです。

 WHOの2017年のレポートから少し抜粋してみます。まず、結核は世界で9番目に多い死因で、感染症では2位のHIV/AIDSを引き離し第1位です。(このレポートには記載はありませんが第3位はマラリアです) 

 2016年の結核による死亡者はHIV陰性者で130万人、HIV陽性者で37万4千人。2016年に新たなに結核を発症したのは合計で1,040万人。そのうち90%が成人。男性が65%。10%はHIV陽性者です。全体の56%が5つの国(インド、インドネシア、中国、フィリピン、パキスタン)で発症しています。

 日本では毎年約18,000人が新たに結核を発症し、約1,900人が結核で死亡しています(注3)。

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 このサイトは(ありがたいことに)関西以外の人にもご覧いただいているようなので、少し解説しておきます。関西(というか大阪の一部の地域)では、結核が珍しくない感染症であることが広く知られていますが、関西以外の地域では「過去の病気」と思われているようです。たしかに、昔の小説のような主人公が結核で他界するような話は現在の日本では現実味がありませんが、関西では長引く咳の患者さんをみたときには必ず結核を鑑別に入れます。また、結核は肺結核とは限りません。たとえば、膀胱炎が治らないと思っていたら、それは結核性膀胱炎だったということもしばしばあります。

 また、結核は世界のなかでも特にアフリカに多いと思っている人が多いようですが、これも上述したWHOのレポートにあるように、アフリカよりもアジアに多い感染症です。(ただしWHOのレポートによると、HIVと結核を合併している人の74%はアフリカです)

 アジアから帰国後、体調が悪い、咳が続くという人は、結核感染の有無を調べた方がいいかもしれません。発症者が多い関西でも、結核の診断にいたるまでにいくつもの医療機関を受診していることが少なくありません。

注1:詳しくはWHOの下記ページを参照ください。

http://www.who.int/mediacentre/events/official_days/en/

注2:詳しくはWHOの「Global tuberculosis report 2017」を参照ください。

注3:公益財団法人結核予防会のサイトを参照ください。

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2018年3月28日 水曜日

2018年3月28日 世界中を感動させたダウン症の動画

 3月21日は「世界ダウン症の日」です。そして、この日世界中で話題となり多くの涙を誘った動画があります。2018年3月16日、その動画がアップロードされると、一瞬で世界中を駆け巡り、ユーチューブで10万回以上、フェイスブックで100万回以上閲覧されました。翌日のBBCが報道しています(注1)。(12日後の3月28日時点でユーチューブの再生回数はすでに350万回を超えています)

 この動画は、イギリスのダウン症支援グループに所属する49人の母親たちが作成したものです。クリスティーナ・ペリー(Christina Perri)の2011年の名曲「A Thousand Years」のカラオケを車の中にいる母親とダウン症の子供が手話で歌っています。BBCによれば、「James Corden’s Carpool Karaoke」という(おそらく)テレビの企画があり、その方式で母親とダウン症の子供が歌い、それを父親のひとりが編集したようです。

 BBCの報道から、ひとりの母親のコメントを紹介しておきます。

「私たちは普通の母親で、子供たちを愛しています。子供たちもまた私たちを愛しています。子供たちは他の4歳の子たちと変わりありませんし、私たちは子供たちを変えようとも思いません。そういう思いでビデオを作成しました」(The idea is, we are just normal mums, we love our kids, they love us, and they are just like other four-year-olds, we wouldn’t change them)

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 ダウン症の患者数は日本・英国とも約5万人と言われています。染色体異常のなかで最も多い疾患で、一般的な発生頻度は0.1%程度ですが、高齢出産でリスクが上がることが知られています。40歳以上の初産婦では1%になると言われています。

 ダウン症を知るには映画がお勧めです。ダウン症の子供が登場する映画はいくつかありますが、私が最も推薦したいのは『チョコレート・ドーナツ』です。母親から育児放棄されたダウン症の少年をゲイのカップルが育てようとする、というストーリーです。この映画はハンカチなしでは観られません。すべての人に推薦したい映画です。

注1:BBCの記事のタイトルは「カルプール式のカラオケ、母親とダウン症の子供の画像が拡散される」(Carpool karaoke mums’ Down’s syndrome video goes viral)で、下記URLで読むことができます。

http://www.bbc.com/news/uk-england-coventry-warwickshire-43443510

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2018年3月17日 土曜日

2018年3月17日 女性は低収入が肥満のリスク?パートナーの減量に期待?

 年収が低い女性は肥満になりやすい…。

 このような日本の研究結果が発表されメディアで報道されました。研究は滋賀医大の研究者によりおこなわれ同大学社会医学講座のウェブサイトのトップページで案内されています。

 メディアの報道からこの研究をまとめてみます。対象は、厚労省が実施した2010年国民生活基礎調査と国民健康・栄養調査に参加した全国の20歳以上の男女約2900人。就業状況、教育歴、世帯支出などの社会要因や、食事の傾向など生活習慣が健康にどの程度相関するかが調べられています。

 65歳未満の女性の場合、世帯年収が200万~600万円未満であれば、肥満になるリスクが600万円以上の女性に比べて1.7倍、年収200万円未満ならなんと約2.1倍にもなるそうです。教育歴との関係も調べられており、学歴9年以下(つまり中卒)は、10年以上(大卒以上)に比べて1.7倍肥満になりやすいそうです。

 また、年収が低いほど炭水化物をよく摂ることも分かったそうです。

「肥満」に関して、最近発表された興味深い海外の研究を紹介しましょう。それは同居するカップルの一方が減量に成功すると、ダイエットをしていないパートナーも同時にやせる、というものです。医学誌『Obesity』2018年2月1日号(注1)で報告されています。

 この研究の対象者は合計130組の同居するカップルで、一方がダイエットをおこない、もう一方はおこないません。半数の65組は米国の民間企業「Weight Watchers」が提供する減量プログラムに基づいたダイエットをおこない、残りの65組は自己管理でダイエットしました。

 結果はとても興味深いもので、下記の通りダイエットをおこなっていない「相方」も体重が減ったのです! 

ダイエットをした人の体重減少     3カ月後   6カ月後
 減量プログラム              3.4kg    4.3kg
 自己管理で実施             2.0kg    3.1kg
  
その相方の体重減少
 (パートナーが)減量プログラム      1.5kg    2.2kg
 (パートナーが)自己管理で実施     1.1kg    1.9kg

 論文のタイトルにもあるように、著者はダイエット方法に関わらず同居するだけで「Ripple Effect(波及効果)」があることを強調しています。

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 実は、「肥満(やせ)は伝染する」ということは以前から指摘されています。ある有名な研究では、肥満になるリスクはその人の配偶者が肥満になれば37%上昇し、その人の親友が肥満になるとなんと71%も上昇する、とされています。この研究では、興味深いことに、ただ隣に住んでいるだけの隣人が肥満になってもリスクは上昇せず、一緒に暮らしていなくても、兄弟が肥満になった場合はリスクが上昇することを明らかにしています。

 この研究に対する私の「仮説」を紹介しておきます。それは「肉を食べる習慣」です。そして、肉が体重を決めるのではなく、肉に含まれている「抗菌薬」の影響を受けて体重が決まるのではないかというのが私の仮説です。最近は規制される傾向にあるとはいえ、家畜を飼育するときには大量の抗菌薬が使用されます。つまりヒトが肉を食べると抗菌薬も一緒に摂取することになるのです。そして、抗菌薬を与えた家畜は肥満しやすいことが分かっています。そもそも家畜に大量に抗菌薬を投与するのは感染予防ではなく早く身体を大きくして出荷したいという人間の都合によるものなのです。(この理論について興味のある方はかつて私が書いたコラム(注2)を参照ください)

注1:この論文のタイトルは「Randomized Controlled Trial Examining the Ripple Effect of a Nationally Available Weight Management Program on Untreated Spouses」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/oby.22098/abstract

注2;毎日新聞医療プレミア2017年4月2日「やせられない… それは抗菌薬が原因かも」

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2018年3月2日 金曜日

2018年3月2日 有酸素運動が過敏性腸症候群を改善する

 腸の疾患で最も多いのはおそらく「過敏性腸症候群」で、太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)にもほぼ毎日患者さんが受診しています。過敏性腸症候群には「下痢型」「便秘型」「混合型」があり、程度も軽症から重症まで様々です。重症化すると、いつ便をもよおすか分からないために、外出が困難になり、電車に乗れないという人もいます。

 治療にはまずプロバイオティクス(整腸剤)を用いますがこれだけで改善するケースはそう多くありません。下痢型の場合には便を固める薬や、お腹の動きを止める薬も用います。また、イリボー(ラモセトロン塩酸塩)と呼ばれる薬や、精神症状も出現している場合はやむを得ず精神安定剤を用いることもあります。

 過敏性腸症候群はよく「ストレスで悪化する」と言われ、これは正しいとは思いますが、精神的ストレスのみで説明できるわけではありません。谷口医院の患者さんには運動、特に有酸素運動を勧めることがあり、それなりに有効であるように思われます。今回、それが正しいことを裏付けるかもしれない研究が発表されたので紹介したいと思います。

 有酸素運動が女性の過敏性腸症候群を改善させる…。

 医学誌『Cytokine』2018年2月号(オンライン版)にこのような研究が発表されました(注1)。

 研究の対象者は、診断基準を満たした過敏性腸症候群の女性患者109人から60人を選び出し、有酸素運動を実施するグループ30人と、運動をしないグループ30人に分けられました。調査期間は24週間。つまり約半年間、有酸素運動をすればしない場合に比べてどの程度症状が改善するかが調べられました。主な指標とされたのが、サイトカインと呼ばれる免疫に関与する物質や抗酸化物質などです。そして、症状の改善と相関関係が認められました。

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 一昔前は過敏性腸症候群といえば「ストレスの病気」と簡単に片づけられていました。それが、サイトカインを代表とする物質の関与が判ってきて、さらに最近では腸内細菌との関連も指摘されるようになってきています。

 今回の研究は小規模ではありますが、有酸素運動が免疫系を整えて過敏性腸症候群の症状を改善することが実証されたわけです。そして、有酸素運動には一切のデメリットはありません。また、過敏性腸症候群ではなく単なる「便秘」の人も、ジョギングなど有酸素運動をするだけで「完治」することも珍しくありません。

 有酸素運動をあえてしない理由など何もないというわけです。

注1:この論文のタイトルは「Low-to-moderate intensity aerobic exercise training modulates irritable bowel syndrome through antioxidative and inflammatory mechanisms in women: Results of a randomized controlled trial」で、下記URLで概要を読むことができます。

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1043466617303873
 

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2018年2月26日 月曜日

2018年2月26日 片頭痛は心筋梗塞、脳卒中、静脈血栓症のリスク

 ちょっと物議をかもしそうな論文が発表されました。

 今から8年前の2010年6月、「片頭痛は脳梗塞のリスク」という論文が発表され、このときは一般のメディアで取り上げられたこともあり話題になりました。この論文の主旨は「前兆(閃輝暗点)を伴う片頭痛のある女性は脳梗塞を起こしやすい」というものでした(注1)。

 今回発表された論文はデンマークの住民を対象としたもので、2010年のものよりも調査の規模がかなり大きく、また結果もインパクトの強いものです。医学誌『British Medical Journal』2018年1月31日(オンライン版)(注2)に掲載されました。

 研究の対象者は、デンマークの51,032人の片頭痛患者、対照は510,320人の一般住民。調査期間は1995年から2013年です。結果は以下の通りです。数字は「片頭痛あり」と「片頭痛なし」は1,000人あたりの発症者の人数、「リスク」は片頭痛があればない人に比べて何倍になるかを示しています。

           片頭痛あり  片頭痛なし  リスク
心筋梗塞        25       17      1.49
脳梗塞          45       25      2.26
脳出血             11         6      1.94
静脈血栓症       27       18      1.59
心房細動・粗動    47       34      1.25

 さらに、脳卒中(脳梗塞+脳出血)は、片頭痛の診断がついてから短い人の方が発症しやすいことが分かりました。また、閃輝暗点と呼ばれる目の前がチカチカする前兆(これを英語でauraと呼びます。「あの人にはオーラがある」と使うときのオーラと同じ単語です)を伴う人の方がない場合よりもリスクが高いという結果が出ています。性差としては女性にリスクが高いようです。

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 女性で前兆を伴う片頭痛があれば脳梗塞のリスクという2010年の発表に矛盾しない結果となっています。さらに、脳梗塞のみならず他の心血管疾患のリスクにもなるという結果がでたわけです。

 では(特に前兆のある)片頭痛を持っている人がすべきことは何か。まず、こういった心血管疾患の他のリスクを取り除くことが最重要です。喫煙、肥満、糖尿病、高血圧、高脂血症などの生活習慣病があればそれらを治すことを考えるべきです。

 同時にすべきことは「規則正しい生活」です。毎日同じ時間に起きて、できるだけ同じ時間に就寝する、これを徹底するだけで頭痛の頻度が大きく減少する人は少なくありません。そして「治療」です。治療には症状が生じたときに飲む薬のみならず、頻度の多い人は予防薬を上手に使うことが大切になってきます。

注1:過去の「医療ニュース」で取り上げたことがあります。

医療ニュース2017年2月10日「片頭痛があると術後脳卒中のリスク上昇か」

注2:この論文のタイトルは「Migraine and risk of cardiovascular diseases: Danish population based matched cohort study」で、下記URLで全文を読むことができます。

http://www.bmj.com/content/360/bmj.k96

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2018年2月26日 月曜日

2018年2月25日 ペットは精神状態を癒してくれる

 ペットと一緒にいると心が癒される、というのは多くの人が感じていることです。そして、これは科学的にも正しいようです。

 英国リバプール大学が、ペットと飼い主の精神状況の関係についてこれまでに公表された合計17の研究を総合的に解析し(これを「メタアナリシス」と呼びます)、結果を医学誌『BMC Psychiatry』2018年2月5日号(オンライン版)(注1)に発表しました。

 ペットの肯定的な側面と否定的な側面についてそれぞれ考察されています。肯定的な面としては、「つながり」(connectivity)が強くなり、飼い主の精神状態がいくつもの方法で(multifaceted ways)安定することが分かり、特に「危機的な状況」(crisis)になったときにペットは強い味方となってくれるようです。

 一方、否定的な面として、ペットを飼うことの実際的または精神的な「負担」(burden)が挙げられています。また、ペットを失くしたときの心理的ダメージも指摘されています。

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 論文では、研究者らは「さらなる調査が必要」としていますが、この研究は特に真新しい発見があるわけではなく、ほとんどの人が同意することでしょう。先日は「犬を飼えば長生きできる」という研究結果を報告しました。我々は、犬や猫と共に過ごすことが‶自然”なのかもしれません。ただし、一方で、ペットからうつる感染症や「権勢症候群」といった少しやっかいな問題があることもお忘れなく。

注1:この論文のタイトルは「The power of support from companion animals for people living with mental health problems: a systematic review and narrative synthesis of the evidence」で、下記URLで全文を読むことができます。

https://bmcpsychiatry.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12888-018-1613-2

また、医師向けのポータルサイト「Physician’s Briefing」でも紹介されています。

http://www.physiciansbriefing.com/Article.asp?AID=731112

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2018年2月2日 金曜日

2018年2月2日 インフルエンザワクチンの「謎」が解けたかも…

 インフルエンザのワクチンは有効だが完全ではなく、そのため”誤解”が多いということは過去に何度か述べています。なぜ”誤解”が多いかは過去に書いたもの(注1)を見ていただきたいのですが、今回は我々医療者も以前から感じていたある「謎」が解けたかもしれない、という話をしたいと思います。

 その「謎」とは、「なぜベテランの医師でなく若い研修医に感染するのか」、というものです。医師だけではありません。看護師も他のメディカルスタッフもベテランよりも若手が感染するのです。そのため、若い看護師は「日ごろの体調管理がなってない!」と自分の母親くらいの年齢の先輩看護師から叱られることになります。

 この理由として、よく言われるのが「若手の医師や看護師の方が患者さんと接する時間が長く、熱心であればあるほど感染しやすい」というものがあります。また、「ベテランの医療者は若い頃に何度かかかっているから免疫がある」というものもあります。この2つの意見はどちらも正しいとは思います。ですが、あまり”熱心でない”若手の医療者も感染しますし、何度もかかっている(医療者以外の)高齢者も感染します。そして、高齢者の場合重症化して死に至ることもあります。

 インフルエンザを軽く考える人もいますが、年間死亡者数は、世界で約25~50万人、日本で約1万人と推計されています。(参考:厚労省の該当ページ

 さて、なぜベテランの医療者はインフルエンザにかかりにくいのか、その「謎」が解けたかもしれない研究を紹介したいと思います。それは、「ワクチンは毎年接種で効果が高くなる」というものです。なるほど、医療者なら毎年ワクチンを接種することを義務付けられていますから、今年は忙しくてうてなかった、ということはありません。

 この研究は医学誌『Canadian Medical Association Journal』2018年1月8日号(オンライン版)に掲載されています(注2)。この医学誌はカナダ発のものですが、研究の対象者はスペイン人です。スペインの病院20施設で2013年から2015年のシーズンにインフルエンザで入院した65歳以上の患者について調査されています。

 結果は想像以上のものです。過去4年間で一度もワクチンを接種していない人に比べると、4年連続でワクチンをうっている人は「軽症インフルエンザ」への罹患が31%少なかったのです。31%ならそう多くないかも…、と思えるかもしれませんが、重症例では歴然とした差が出ています。ワクチンを連続して接種していると、集中治療室に入らなければならないような「重症インフルエンザ」を74%減らすことができ、インフルエンザでの死亡は70%減らせることが分かったのです。

 そして、興味深いことに、その年にしか接種しなかった人では未接種の人と比べて大差なかったのです。その年と過去3年間で1回(つまり合計2回)接種していた場合は重症化を55%減らせていました。

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 この研究が正しいとすれば、ベテランの医療者はインフルエンザに感染しにくく、また感染してもより軽症で済むということになります。ということは、若い医療者たちは「日ごろの健康管理がなっていない」からインフルエンザに感染するのではなく、単にベテランの人たちが繰り返しワクチン接種をしているからだ、ということになります。ベテラン勢はもう少し謙虚になった方がいいのかもしれません…。

注1:下記を参照ください。

そもそもインフルエンザのワクチンって効くの? 
毎日新聞「医療プレミア」2016年1月31日「インフルエンザワクチンは必要?不要?」

注2:この論文のタイトルは「Repeated influenza vaccination for preventing severe and fatal influenza infection in older adults」で、下記URLで全文を読むことができます。

http://www.cmaj.ca/content/190/1/E3

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2018年2月1日 木曜日

2018年2月1日 妊娠中のアセトアミノフェンで言語発達の遅れ?

「妊娠中には市販のものも含めて風邪薬や解熱鎮痛剤はほとんど飲めない。どうしても必要なときにはアセトアミノフェンを使用しなければならない」ということは過去にもお伝えしてきました。また、そのアセトアミノフェンも妊娠中の危険性を指摘する意見がなくはなく、新生児のADHD(注意欠陥多動性障害)のリスクとなるという研究も紹介しました(いずれも下記参考文献を参照)。

 今回、新たに妊娠中のアセトアミノフェンの危険性についての研究が発表されましたので報告します。医学誌『European Psychiatry』2018年1月10日号(オンライン版)に論文が掲載されました(注1)。

 研究の対象者はスウェーデンの妊娠8~13週に登録された妊婦754人です。妊娠中のアセトアミノフェンの使用と生後30カ月(2歳6カ月)での子供の言語発達との関係が解析されています。

 結果は、まず妊娠8~13週の間にアセトアミノフェンを内服していた妊婦は全体の59.2%。言語発達の遅滞は女児(4.1%)より男児(12.6%)に多いものの、アセトアミノフェンとの関連があったのは女児のみでした。妊娠中にアセトアミノフェンを1日6錠(注2)以上内服すると、まったく飲まない妊婦に比べて女児の言語遅滞がみられるリスクが5.92倍増加しています。また、リスクは内服量にも影響するようで、尿中アセトアミノフェン濃度が最も高かった母親から生まれた女児は、最も低かった母親に比べてリスクが10.34倍にもなっています。

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 妊娠中に頭痛や発熱が起こったときに何もせずに放っておくと、胎児に影響を与える可能性があります。一方、バファリンやロキソニンといったNSAIDsと呼ばれる鎮痛薬は内服すべきでありません。もちろん麻薬(オピオイド系)は論外です。痛みや発熱が生じたときにはアセトアミノフェンに頼らざるを得ません。

 月並みなコメントになりますが、まずは健康に注意し、規則正しい生活をこころがけ(頭痛は生活の乱れがリスクとなります)、可能な限り鎮痛薬に頼らぬよう予防することが最重要となります。

注1:この論文のタイトルは「Prenatal exposure to acetaminophen and children’s language development at 30 months」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://www.europsy-journal.com/article/S0924-9338(17)32989-9/abstract

注2:論文にはミリグラム数が記載されていません。日本ではアセトアミノフェンの製剤は1錠200mgが多いのですが、海外では300mgが一般的です。海外での6錠(1,800mg)は日本の9錠に相当するのではないかと思われます。(ただし、スウェーデンに渡航したことのない私には確証はもてません)

参考:
毎日新聞「医療プレミア」2016年1月10日「解熱鎮痛剤 安易に使うべからず」
医療ニュース2015年1月30日「妊娠中のアセトアミノフェンの是非は?」
医療ニュース2014年4月4日「妊娠中のアセトアミノフェンがADHDを招く?」

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