医療ニュース

2019年2月24日 日曜日

2019年2月23日 乳児期に動物に接するとアレルギーを起こしにくい?!

 意外な結果と言えるかもしれません。

 太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)の患者さんのなかにも少なくない犬アレルギーや猫アレルギー。谷口医院ではほとんどの患者さんが犬や猫が好きな人たちです。なかにはペットショップで働く人や、トリマーの人もいます。仕事を替えるわけにもいきませんし、そもそも犬や猫が好きな人たちですからプライベートでも一緒に過ごしていることが多いのです。

 なぜ犬や猫が好きな人たちがそれらのアレルギーを起こすのか。それは犬や猫に触れる時間が長いからです。このメカニズムは花粉症と同じように考えればわかりやすいと思います。つまり、同じ抗原に何年もさらされていると、あるときを境にそれまでは何ともなかったものがその人にとって”敵”となるのです。以降は一種の「拒絶反応」が起こる。これがアレルギーのメカニズムです。

 ということは、花粉症を防ぐには発症していない時点から花粉に触れないようにするのが最適であり、同様に動物アレルギーを防ぐには動物に触れる時間を短くするのがいい、ということになります。

 ところが、です。医学誌『PLOS ONE』2018年12月19日号に掲載された論文「早い段階でペットと触れていれば動物アレルギーのリスクが低下する(Pet-keeping in early life reduces the risk of allergy in a dose-dependent fashion)」によれば、このタイトル通り、小さい頃にペットに触れているとアレルギーのリスクが下がるというのです。

 この研究はスウェーデンのものです。対象は7~8歳の小児(1,029例)と8~9歳の小児(249例)です。結果は、生まれてから1年以内に(つまり乳児期に)家庭内に猫や犬を飼っていれば、喘息や鼻炎、湿疹といったアレルギー症状が少なくなるというのです。しかも、ペットの数が多いほどその傾向は顕著になり、ペットのいない子供の49%がアレルギーがあるのに対し、5匹以上のペットを飼っている家の子供ではアレルギー発症はなんと0(ゼロ)だというのです。

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 この論文によると「幼少期のペットとの接触がアレルギーのリスクを低下させる」とする研究は他にもあるそうです。ですが、そのメカニズムははっきりしません。食物アレルギーについては、以前は避けるべきだと考えられていたのが、現在はむしろ積極的に摂取すべきだ(注意点はいくつかありますが)と変わってきています(参考:「はやりの病気」第167回(2017年7月)「卵アレルギーを防ぐためのコペルニクス的転回」)。

 動物アレルギーも同じメカニズムかもしれません。食物を乳児期に食べさせるときの最大の注意点はアトピー性皮膚炎などの湿疹をきっちりと治しておくということでした。ということは、乳幼児期にペットを飼うときにも湿疹の治療と予防はきっちりとおこなっておくべきでしょう。

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2019年1月31日 木曜日

2019年1月31日 ビタミンDで心血管疾患のリスクは低下しない

 厚生労働省の発表では日本人は充分な量が摂れており、サプリメントでの有効性を否定する研究が複数あり(下記「医療ニュース」参照)、また摂り過ぎによる被害の報告も多いのにもかかわらず、なぜか患者さんから相談を受けることの多いのがビタミンDです。

 私が興味深いと思うのは、知的職業につきリテラシーが高く海外に精通しているような人たちが「ビタミンDはサプリメントで摂らないとダメなんですよね」と話すことです。βカロテンによる肺がんやビタミンEの心疾患のリスクなどを知っている人たちでさえビタミンDのサプリメントを「魔法のサプリ」のように思っていることがあり驚かされます。おそらくこの理由は、今から10年ほど前に世界中でビタミンDの有効性を指摘した研究がもてはやされていたからではないでしょうか(本サイトでもビタミンDが有用とする論文を何度か紹介したことがあります)。

 今回は有効性を否定した新たな研究を紹介したいと思います。私の母校の大阪市立大学がおこなったもので、一流の医学誌『JAMA』に掲載されました(これはすごいことです)。タイトルは「Effect of Oral Alfacalcidol on Clinical Outcomes in Patients Without Secondary Hyperparathyroidism Receiving Maintenance Hemodialysis(人工透析を受けていて二次性副甲状腺機能亢進症のない患者に対するアルファカルシドールの効果)」です。

 研究の対象は、日本全国の人工透析を受けている男女976人(中間年齢65歳)で、4年間の追跡調査がおこなわれ、このうち 964人分のデータが解析されています。ビタミンDを投与されたのが488人、されなかったのが476人とほぼ半々です。調査期間中に心筋梗塞や脳卒中などを発症したのは、ビタミンDが投与されていたグループで103人(21.1%)、されていなかったグループでは85人(17.9%)です。死亡率はそれぞれ18.2%、17.9%です。数字だけをみるとビタミンDを内服した方がむしろ発症しやすく死亡しやすいようにみえるかもしれませんが、統計学的に有意差はなくビタミンDが有害と言っているわけではありません。ビタミンDを投与しても心血管疾患の予防にはならないですよ、ということが言えるわけです。

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 実は、人工透析が導入されるとほとんど”無条件”にビタミンDの内服を勧められることが多く、これはビタミンDで心血管疾患が予防できるという「説」があるからです。今回の研究でこの「説」が否定されたことになります。

 ただし、人工透析を続けていると「副甲状腺機能亢進症」と呼ばれる骨が脆くなる疾患をおこすことがあります。こうなるとカルシウム濃度が一気に低下しますから、治療目的でビタミンDが必要になります。

 ところでビタミンDはキノコ類と魚介類(特に肝臓)に多く含まれています。また日光を浴びることにより合成されます。伝統的にこれらを食べ、北欧のような太陽に恵まれない地域でない日本でビタミンDが不足することは通常はありません。健康にいい食事という話題になると、最近は地中海料理がもてはやされ日本食は下火になっていますが、地中海料理と日本食には共通点がいくつもあり、そのひとつがビタミンDを豊富に摂れることだと私は考えています。

 紫外線にはトラブルも多いため、一部の皮膚疾患の患者さんには「紫外線には一生当たらないように」と助言することもありますが、それでも(成人の場合は)通常の食事だけで充分です(成長期には紫外線が必要)。

 例外はヴィーガンと呼ばれる極端なベジタリアンで、この人たちは牛乳や卵を含む一切の動物由来のものが食べられませんから、例外的にビタミンDの補給が必要となります。

参考:医療ニュース
2017年10月23日「骨折予防にビタミンDやカルシウムは無効」
2014年2月28日「ビタミンDのサプリメントに有益性なし」
2010年2月11日「ビタミンDが不足すると喘息が悪化」
2010年2月1日「ビタミンDの不足は大腸ガンのリスク」

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2019年1月31日 木曜日

2019年1月31日 慢性の痛みへのオピオイドの効果はわずか

 私が現在最も懸念している米国の医療問題は「麻薬」です。昨年(2018年)はカナダで嗜好用大麻が合法化されたこともあり大麻の報道が目立ちますが、(違法)薬物で世界が今最も考えなければならないのは大麻ではなく「麻薬」です。米国の「麻薬汚染」は極めて深刻な状態です。

 米国の平均寿命が3年連続で低下しているのは麻薬が原因と言われており、これは数字を見れば頷けます。具体的な数字をみていく前に言葉の確認をしておきましょう。文脈によってはコカインやLSDなども含めて、あるいは覚醒剤や大麻などすべての(違法)薬物を含めて”麻薬”というような呼び方をすることもありますが、ここで述べているのは本来の麻薬すなわちオピオイドです。ここからは言葉の混乱を避けるために「オピオイド」で通します。オピオイドとはケシの実から抽出された物質やそれに近い合成化合物で、具体的には、モルヒネ、ヘロイン、コデイン、フェンタニルなどを指します。

 報道によると、2017年1年間で米国でオピオイドによる死亡者は72,000人で毎日200人が死亡していることになります。1999年には16,849人でしたから18年で4倍以上に増えています。2018年の時点でオピオイド依存症は200万人以上と言われています(参考:The Crisis Next Door)。2017年の米国の他の死因をみてみると、交通事故が40,100人、銃での殺人が15,549人、他殺が17,284人(このうちいくらかは銃によるものも含まれているとのこと)、自殺は約45,000人です。

 要するにオピオイドによる死亡は銃による被害や交通事故などよりもはるかに多いということです。

 なぜ、こんなにもオピオイドが消費されるのか。それは関節痛や神経痛といった慢性の痛みにもオピオイドが処方されだしたからです。従来オピオイドはがんの末期に起こる疼痛や手術直後の一次的な痛みに対して用いるものでした。それが、次第に日常的な慢性の痛みにも使われるようになり一気に広がったのです。この原因として製薬会社の責任が指摘されています(下記文献参照)。

 さて、神経痛などの痛みにオピオイドが効果があり、他に手立てがないのなら、注意しながらの使用は検討されるべきでしょう。しかしながら、「効果はあるにしてもそれは極めて小さい」という研究が発表されました。

 医学誌『JAMA』に掲載された論文「Opioids for Chronic Noncancer Pain (A Systematic Review and Meta-analysis)」によると、「オピオイドががん以外の痛みに効くのは事実だが、その効果は他の痛み止めとほとんど変わらない」ようです。

 この研究はこれまでに報告された合計96の研究を総合的に解析(メタ解析)しています。結果、NSAIDs(非ステロイド系鎮痛薬)、三環系抗うつ薬(日本でも痛み止めとして使われます)、抗けいれん薬(これも日本でも使われています)との差はわずかしかないという結果がでました。

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 日本でも過去10年ほどでオピオイドの使用が急激に増えています。米国と同様、がんの末期での使用のみならず、神経痛や関節痛といった慢性の痛みに処方されています。

 太融寺町谷口医院を初めて受診する人に「今飲んでいる薬は?」と尋ねると、オピオイドの名前(トラマール、ワントラム、トラムセットなど)を挙げる人が年々増えています。しかも「危険性を知っていますか」と尋ねて、副作用のリスクや依存性について答えられる人はほとんどいません。

 「日米社会20年遅延説」と呼ばれる説があります。米国で起こったことは20年後に日本で流行するというものです。オピオイドがこれに該当しなければいいのですが…。

参考:GINAと共に
第137回(2017年11月)「痛み止めから始まるHIV」
第151回(2019年1月)「本当に危険な麻薬(オピオイド)」

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2018年12月28日 金曜日

2018年12月30日 ω3系脂肪酸、心血管疾患にもがんにも予防効果なし

 数多いサプリメントのなかでもω3系脂肪酸(オメガ3系脂肪酸)は常に人気があります。青い魚の油に含まれる成分で、サプリメントのみならず医薬品として処方されているもの(ロトリガ、エパデールなど)もあります。一般的には「血液をサラサラにする」と言われており、一度心筋梗塞などの心血管疾患を発症した人が飲めば予防効果があるとされており(これを「二次予防」と呼びます)、米国心臓協会(AHA)も推奨しています。

 ですが、心血管疾患を発症したことのない人に対する予防効果(これを「一次予防」と呼びます)についてはエビデンスレベルの高い研究はないと言われていました。今回発表された論文がそれについての調査結果を発表しました。

 医学誌『The New England Journal of Medicine』2018年11月10日号(オンライン版)に「ω3系脂肪酸の心血管疾患とがんに対する予防効果(Marine n−3 Fatty Acids and Prevention of Cardiovascular Disease and Cancer)」というタイトルの論文が掲載されました。

 研究の対象は米国人で、男性は50歳以上、女性は55歳以上、合計25,871人です。内訳は、ω3系脂肪酸を内服したのが12,933人、プラセボ(偽薬)が12,938人です。追跡期間は中央値で5.3年。

 この間に心血管疾患を発症したのが、ω3系脂肪酸を内服したグループでは386人、プラセボは419人で、これは統計学的に有意な差はありません。

 一方、がん(浸潤がん、invasive cancer)を発症したのは、ω3系脂肪酸摂取者では820人、プラセボでは797人でこちらも差はありません。

 結論として、健常者(心血管疾患を発症したことのない人)がω3系脂肪酸を摂取しても心血管疾患を防げるわけではなく、また、がんの予防効果もなかった、ということになります。

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 ω3系脂肪酸のサプリメントは大きな有害事象はないとされていますから、気に入って飲んでいる人はそのまま続けてもいいかもしれません。ただし、一部にはがんのリスクになるとするものもあります(下記医療ニュース参照)。

 太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)ではサプリメントに関する相談もよくされます。そのなかでもω3系脂肪酸は最もよく聞かれるもののひとつです。たいていの場合、私が答えるのは「エビデンスレベルが高くないにせよω3系脂肪酸を摂って損することはあまりないでしょう。ですが、摂るならサプリメントではなく食品から。新鮮な魚介類は他にも栄養たっぷりですよ!」というものです。ちなみに、谷口医院ではω3系脂肪酸の医薬品の処方をおこなうことはほとんどありません。

医療ニュース2013年7月31日「ω3系脂肪酸で前立腺ガンのリスクが4割上昇
メディカルエッセイ第122回(2013年3月)「不飽和脂肪酸をめぐる混乱」 

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2018年12月28日 金曜日

2018年12月30日 多血小板血漿療法は「効果なし」の結論

 太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)では美容医療をおこなっていませんが、「健康のことは何でも相談ください」と言い続けていることもあって、2007年のオープン当時から美容医療の相談、つまり「〇〇法は有効でしょうか」といった相談をよく受けています。

 そういうもののなかで、過去12年間コンスタントに相談されているのが「多血小板血漿療法」(Platelet Rich Plasma Injection、以下「PRP療法」)です。自分自身の血小板の成長因子が持つ「組織修復能力」を利用して、皮膚を”若返り”させようとする治療法で、例えば床ずれ(褥瘡)や糖尿病の皮膚壊疽や潰瘍を治療する目的で研究が進められてきたものです。

 なにしろ、自分自身の血液を使うために感染症の心配がなく、元々持っている”自然の”再生能力を利用しようというものですから、非常に聞こえがいいわけです。はやりすたりのある美容医療のなかで人気が持続しているのはこのあたりに理由がありそうです。

 では実際に効果があるのでしょうか。医学誌『JAMA Dermatology』に興味深い論文が掲載されました。論文のタイトルは「紫外線で老化した顔面の皮膚の若がえりに対するPRP療法の効果(Effect of Platelet-Rich Plasma Injection for Rejuvenation of Photoaged Facial Skin)」です。

 研究の対象となったのは18~70歳の男女27人(平均年齢46歳、女性が17人)です。片側の頬にPRPを、もう一方の頬には生理食塩水をそれぞれ3mLずつ皮内注射しました。結果は興味深いものです。

 被験者の自己評価は、PRPで治療した頬は生理食塩水と比べて有意に改善しています。fine and coarse texture(訳しにくい!直訳すると「細かい繊維と荒い繊維」、要するに肌の「キメ」のことだと思います)が改善したと答えています。

 一方、皮膚科医が客観的に評価したところ、fine lines(小じわ)、mottled pigmentation(斑状の色素沈着)、skin roughness(あれ)、skin sallowness(黄染)のいずれの点でもPRPと生理食塩水に差はありませんでした。

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 客観的には効果がなくても施術を受けた本人が満足しているのだからそれでいいではないか、という考えもあるかもしれませんが、高額を支払う価値が本当にあるのかどうか、再考した方がよさそうです。

 ちなみに、谷口医院でPRP療法の相談をされたとき、これまでは「自己血を使うから危険性は低い。ただし有効とするエビデンスはない」と伝えてきました。今度相談されたときはこの論文の話をしてみようと思います。

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2018年11月30日 金曜日

2018年11月29日 育毛剤ミノキシジルはやはり危険

 テレビCMの影響もありすっかり有名になった「リアップ」の有効成分はミノキシジルです。濃度は5%が上限であり、これは「リアップx5」として販売されています。以前、ミノキシジル10-15%のものが米国で出回り、さらに個人輸入で世界中に販売され、FDAが警告をしたことを報告しました(医療ニュース「2012年1月30日アメリカ製の育毛剤で健康被害の可能性」)。

 FDAによれば、ミノキシジルは内服でなく外用であったとしても、低血圧や動悸、皮膚障害といった全身性の副作用が生じる可能性があります。

 さて、今回お伝えしなければならないのは、そのミノキシジルの内服を含むAGA薬により日本人が肝機能障害を発症した事象です。2018年10月30日付けで、厚生労働省医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課が発表した報告(タイトルは「国内未承認のいわゆる発毛薬の服用が原因と考えられる健康被害の発生について」)によれば、1日あたりフィナステリド1mgとミノキシジル5mgを3週間内服した40代の男性が肝機能障害を起こしました。

 男性は服薬を中止することにより軽快しているそうです。また、この薬は男性が個人輸入したものではなく医療機関で医師が個人輸入したものだったそうです。

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 フィナステリドも肝機能障害を起こすことがありますから、この肝機能障害の原因薬剤がミノキシジルと断定できるわけではないと思いますが、いずれにしても未承認のものを使用するときには充分すぎるほどの注意が必要でしょう。

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2018年11月30日 金曜日

2018年11月30日 コーヒーで酒さ予防

 患者数が多い割にはいまだに治療法が確立しておらず、メディアでも取り上げられることが少ない酒さ。アルコールと紫外線が悪化因子なのはおそらく間違いなく、他にもタバコ、生活習慣病、ピロリ菌などとの関係が指摘されています。その一方で、何をすれば良いという情報はあまりないのですが、今回コーヒーが酒さを予防するのではないか、という研究が公表されたので報告します。

 医学誌『The Journal of the American Medical Dermatology (JAMA Dermatology)』2018年10月17日号(オンライン版)に掲載された「Association of Caffeine Intake and Caffeinated Coffee Consumption With Risk of Incident Rosacea In Women.」というタイトルの論文です。

 この研究は、NHSⅡ(Nurses’ Health StudyⅡ)」と呼ばれる調査に協力した女性看護師82,737人が対象です。1991~2005年の間、コーヒー摂取と酒さの発症にどのような関係があったかが調べられています。同時に、お茶、ソーダ、チョコレートといった他のカフェインを含有する食品についても調べられています。

 結果は以下のとおりです。

・調査期間中に4,945例が酒さを発症した。

・カフェイン摂取量と酒さのリスクは逆相関の関係にあった。つまり、コーヒーをたくさん飲めば飲むほど酒さが起こりにくいことがわかった。

・1日に4杯以上のコーヒーを飲めば、1か月で1杯未満の場合に比べ23%リスクが下がっていた(相対リスク0.77)。カフェインレスのコーヒーでは有意差が出なかった。

・お茶、ソーダ、チョコレートからカフェインを摂取しても酒さのリスクは下がらなかった。

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 この研究だけで「酒さにはコーヒー!」と断定するのは時期尚早ですが、コーヒー好きには嬉しい結果です。ちょうどこのサイトを立ち上げた頃から、コーヒーについては肯定的な研究が続々と出てきています。

 ただし、酒さについては「発症リスクの低下」が示唆されているだけであり「発症後の治療」になると言われているわけではありません。

参考:
医療ニュース
2015年10月6日 酒さの原因は生活習慣と遺伝
2015年11月28日 酒さは生活習慣病や心疾患のリスク
2017年5月11日 白ワインは女性の酒さのリスク 
2017年6月2日 ピロリ菌除菌で酒さが大きく改善
2016年12月9日 コーヒー1日3杯以上で脳腫瘍のリスクが低下
2016年10月31日  認知症予防にはコーヒー?それとも緑茶?
2016年8月12日 加工肉はNGだがコーヒーはガンのリスクでない
2015年8月28日 コーヒーが悪性黒色腫を予防
はやりの病気
第22回(2005年12月)「癌・糖尿病・高血圧の予防にコーヒーを!」

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2018年10月1日 月曜日

2018年10月1日 細菌が肥満と精神症状の原因、抗菌薬は効くけれど……

 以前、毎日新聞の「医療プレミア」に「抗菌薬を飲むと太る」というコラムを書いたことがあります。家畜に抗菌薬が使われるのは感染症の予防よりも短期間に体重を増やすことを目的とされており(現在これが非難され畜産業界も変わりつつありますが)、動物が太るならヒトも太ると考えるのが理にかなっています。マウスに高脂肪と抗菌薬を同時に与えると体重が急増することを証明した実験もあります。「医療プレミア」ではそのあたりについても解説しました。

 今回紹介したいのは抗菌薬でなく「細菌」が肥満をもたらし、さらに不安や抑うつといった精神症状の原因になるという研究です。医学誌『Molecular Psychiatry』2018年6月18日号(オンライン版)に掲載された論文「Gut microbiota modulate neurobehavior through changes in brain insulin sensitivity and metabolism」にまとめられています。

 論文の著者は米国マサチューセッツ州ハーバード大学医学部で糖尿病の研究をしているRonald Kahn氏。研究チームはマウスに高脂肪食を与え、動物が肥満になったときの行動を観察しました。さらに、高脂肪食で肥満になったマウスは暗い領域でじっとしていることが分かりました。暗いところでじっとしているからといって、これらマウスが不安や抑うつを自覚しているとは断定できません。研究者らは側坐核(nucleus accumbens)と 扁桃体(amygdala)という情動に関連する脳の部位の炎症の程度を調べています。

 また、研究者らは肥満と精神症状をきたしたマウスに抗菌薬を服用させると、脳内のインスリンシグナル伝達を改善しその結果として肥満が解消されること、さらに不安や抑うつ状態を改善させることを示しました。研究に用いられた抗菌薬はメトロニダゾールとバンコマイシンです。

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 この研究を都合のいいように読めば、抗菌薬が肥満と精神状態の改善薬になるような印象を受けかねませんが、研究者らはそう言っているわけではありません。むしろ安易な抗菌薬の使用こそが肥満につながるのは冒頭で述べた通りです。

 日ごろから低脂肪を心がけ、腸内細菌の状態を良くしておき、安易に抗菌薬を用いないことが重要です。

参考:毎日新聞「医療プレミア」2017年4月9日「やせ型腸内細菌を死なせる? 抗菌薬の罪」

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2018年9月28日 金曜日

2018年9月28日 胃薬PPIで認知症のリスクは増加しない?!

 つい最近まで「最強の胃薬」とも呼ばれていたPPI(プロトンポンプ阻害薬)が、ここ数年で様々な副作用のリスクが指摘されています。なかでも認知症のリスクになるという意見は大変注目され世界中で物議をかもしています。今回、そのPPIは「認知症のリスクでない」ことを示した大規模調査が報告されました。

 医学誌『Drug Safety』2018年8月27日号(オンライン版)に掲載された論文を紹介します。この研究は英国のデータベースに登録されている記録の解析です。1998年~2015年に新たにアルツハイマー型認知症または(脳梗塞などによる)血管性認知症と診断された65歳以上の41,029例が対象です。

 結果は、長期間PPIを使用した人は使用していない人に比べ、アルツハイマーの発症率は0.88倍、血管性認知症については1.18倍で、これらはいずれも統計学的に有意な差ではありませんでした。

 この研究ではPPIだけでなくH2ブロッカーについても調べられています。H2ブロッカー長期使用者は使用していない人に比べ、アルツハイマーは0.94倍、血管性認知症は0.99倍とやはり差はありません。

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 この研究はいわゆる「後向き研究」ですが、それでも規模が大きいのでそれなりにエビデンスレベルは高いと言えるでしょう。ですが、認知症のリスクが完全に否定されたとまでは言えないと思います。とはいえ、自身の判断で薬を中止するのは危険です。中止を考えたときはまずはかかりつけ医に相談するようにしましょう。

参考:
はやりの病気第151回(2016年3月)「認知症のリスクになると言われる3種の薬」
医療ニュース
2017年4月28日「胃薬PPIは認知症患者の肺炎のリスク」
2017年1月25日「胃薬PPIは細菌性腸炎のリスクも上げる」
2016年12月8日「胃薬PPI大量使用は脳梗塞のリスク」
2016年8月29日「胃薬PPIが血管の老化を早める可能性」

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2018年9月28日 金曜日

2018年9月28日 健常者には低用量アスピリンの効果なし

 これは大きなニュースだと思います。

 低用量アスピリンの有用性は過去何十年間繰り返し指摘されてきました。有用性を実証した研究もたくさんあります。何に対して有効かというと、まず心筋梗塞や脳梗塞といった「心血管疾患の再発予防」です。血液が固まりやすくなったことでこれらが起こったのだから、再発を防ぐために血をサラサラにする効果のあるアスピリンを毎日飲みましょう、というわけです。また、アスピリンには大腸がんを予防する効果があることも随分前から主張されています。心血管疾患とがんの中で高頻度の大腸がんを同時に防ぐことができるならば、低用量アスピリンはまさに「魔法の薬」のようです。しかも、通常量を飲めば頭痛や咽頭痛にも有効なわけですから現代人には欠かせない薬と言えるかもしれません。

 では本当に健常人が飲むことに意味があるのでしょうか。これを検証したのが今回紹介する研究です。研究者はオーストラリアのJohn J. McNeil氏。同国および米国の健康な高齢者を対象として、低用量アスピリンの有益性とリスクを検証する研究をおこないました。結果は、一流の医学誌『The New England Journal of Medicine』2018年9月16日(オンライン版)になんと3つの論文で同時に掲載されています(この医学誌に論文が掲載されること自体が名誉なことであり、それが同時に3本というのは”快挙”と言っていいでしょう)(注1)。

 この研究は「ASPREE」(Aspirin in Reducing Events in the Elderly)と名付けられています。2010~2014年に両国で調査開始時点で心血管疾患を有さない高齢者19,114人 (中央値74歳)をアスピリン100mg/日投与したグループ(9,525人)とプラセボ投与グループ(9,589人)に分け4.7年間(中央値)追跡しています。

 結果をみていきましょう。まず「障害のない生活(Disability-free Survival)」についてです。追跡期間中の死亡、認知症、身体障害の発生率はアスピリン服用グループで21.5/1,000人・年、プラセボグループで21.2/1,000人・年で、両グループに有意差はありませんでした。

 次に「全死亡率(All-Cause Mortality)」をみてみましょう。全死亡率はアスピリン服用グループが12.7/1,000人・年、プラセボが11.1/1,000人・年で、アスピリンのリスクは1.14倍となります。認知症の発生率はそれぞれ6.7/1,000人・年と6.9/1,000人・年。永続的な身体障害の発生率は4.9/1,000人・年と5.8/1,000人・年(同0.85、0.70~1.03)でした。全死亡率の差について、著者は、アスピリングループのがんによる死亡率は3.1%とプラセボの2.3%より高く、アスピリンががんの発生に関与している可能性を指摘しています。

 心血管疾患の発生率はアスピリングループが10.7/1,000人・年、プラセボが11.3/1,000人・年で、これは統計学的に有意差はありませんでした。一方、「重大な出血」の発生率はそれぞれ8.6/1,000人・年、6.2/1,000人・年と、アスピリングループで有意に高かったことが判りました。

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 結論としては、健常者が低用量アスピリンを毎日服用すると、長生きするどころか、(胃潰瘍や腸管出血、あるいは脳出血など)出血性疾患のリスクが上昇し、また従来言われていたことと異なり、がんの発症リスクを上昇させるかもしれない、ということになります。

 くれぐれも自己判断でアスピリンを開始しないようにしましょう。鎮痛剤としても、です。

注1:3つの論文のタイトルは「Effect of Aspirin on Disability-free Survival in the Healthy Elderly」「Effect of Aspirin on All-Cause Mortality in the Healthy Elderly」「Effect of Aspirin on Cardiovascular Events and Bleeding in the Healthy Elderly」、です。

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