医療ニュース

2019年11月25日 月曜日

2019年11月25日 「海の近く」に住めば貧しくても心は安定

 将来はどこに住みたいか、というのは多くの人が考えることで、回答は主に「都会派」か「自然派」に分かれると思います。慌ただしい都会を離れて自然に囲まれた田舎暮らしに憧れる人も少なくないようで、そういった特集を雑誌で見かけることもあります。自然に囲まれた生活をイメージすると「山」と「海」に大きく分けることができます。今回紹介するのは「海の近く」の生活です。ただし、「海に近い都市部」です。

 医学誌『Health & Place』2019年9月号に掲載された論文「イングランドの成人における海との距離と精神状態。収入格差をやわらげる効果も(Coastal proximity and mental health among urban adults in England: The moderating effect of household income)」で述べられているポイントを紹介します。

・海岸から1km以内に住めば精神状態が改善する

・最も収入が低いグループにおいては「海の近く=良い精神状態」の関係が特に強かった

 この研究の対象は「イングランド健康調査(Health Survey for England)」の参加者約25,963人です。都市部に住む成人における「海の近くに住むこと」と「精神状態」、さらに「収入」との関連が調べられています。

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 このようなマイナーな医学誌を取り上げたのは私自身がこの論文のタイトルに魅かれたからです。以前『八月の鯨』という映画を観たとき、ストーリーは私にとってはあまり面白くなく退屈だったのですが、映画に登場する部屋から見える海のシーンがとても美しく「こんな家に住めたらどれだけ幸せだろう」と感じたことがあり、そのシーンだけがその後も私の心に中に何度も登場するのです。ちなみにこの映画は映画ファンの間では軒並み評価が高いようで、その海のシーン以外の良さが分からない私にはセンスがないそうです。

 今回紹介した研究の興味深いところは収入との相関関係が調べられていることです。「低収入でも海を見れば幸せ」と極論することは危険でしょうが、「生きるヒント」になるかもしれません。

 もうひとつ気になるのは、これが「都心部での調査」ということです。都心部の海と田舎の海では違いがあるのでしょうか。あるいは離島はどうなのでしょうか。いつかそんな研究が発表されるのを楽しみにしたいと思います。

参考:
「はやりの病気」第185回(2019年1月)「避けられない大気汚染」
「医療ニュース」2017年3月31日「大通り沿いに住むことが認知症のリスク」

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2019年11月23日 土曜日

2019年11月23日 やはりサッカーも認知症のリスク

 いまだに一般のメディアでは大きく取り上げられておらず世間の関心も高くなく、さらに医療者の間でもあまり話題にならないのですが、2014年頃から「CTE(慢性外傷性脳症)」のリスクについて私自身は日ごろの外来で患者さんに伝えるようにしています。また、このサイトを読まれた人たちから質問が寄せられることもあります。

 これほど重要な疾患がなぜ世間で重視されないのか私には皆目見当がつきません。2016年にはCTEを取り上げたウイル・スミス主演の映画『コンカッション』が日本でも公開されたのですが、なぜか単館系での上映のみで期間も短くあまり話題になりませんでした。ちなみに、主演のウイル・スミスはゴールデングローブ賞で最優秀主演男優賞(ドラマ部門)にノミネートされています。

 一方、海外ではCTEに関する研究が増えてきており一般のメディアも報道しています。今回は「やっぱりサッカーも危険だった」という研究を紹介しますが、その前にこのサイトでこれまで述べてきたことを簡単にまとめておきましょう。

・CTEは格闘技やアメリカンフットボールなどのコンタクトスポーツで脳震盪を起こすことが原因。

・NFL(ナショナル・フットボール・リーグ)は当初アメリカンフットボールとCTEの因果関係を否定していたがその後認めるようになった。2015年4月時点で、CTEを発症した元アメリカンフットボールの選手5千人以上に対し、NFLは総額10億ドルを支払うことで和解した(「The New York Times」の記事より)。

・病理解剖の研究によれば、元アメリカンフットボール選手の87%がCTEだった(医学誌『JAMA』2017年7月25日号の論文より)。

・コンタクトスポーツ経験者の3割以上がCTEになることが、米国の脳バンク(ブレインバンク)に集められた脳の検体から明らかとなった(医学誌『Acta Neuropathologica』2015年3月の論文より)。

・米国小児科学会(AAP)のスポーツ医学・フィットネス委員会(COUNCIL ON SPORTS MEDICINE AND FITNESS)は「未成年が格闘技をおこなうのなら非接触型にしなければならない」と勧告した(医学誌『Pediatrics』2016年12月号の論文より)。

・サッカーでヘディングをよく行う選手は、あまり行わない選手に比べて脳震盪を起こす可能性が3倍以上となる(医学誌『Neurology』2017年2月1日号の論文より)。

・イングランドの元ストライカーJeff Astle氏が若くして認知症を発症し2002年に59歳の若さで他界した(報道は「The Telegraph」)。

・オバマ元大統領は「もし自分に息子がいたとすれば、フットボールの選手にはさせない」と発言した(「The Newyorker」より)。

 ここからが今回の研究の紹介です。結論を言えば「サッカー選手は認知症になりやすい」です。医学誌「New England Journal of Medicine」2019年10月21日号(オンライン版)に「元サッカー選手の神経変性疾患による死亡率Neurodegenerative Disease Mortality among Former Professional Soccer Players」というタイトルの論文が掲載されました。

 研究の対象はスコットランドの元プロサッカー選手7,676例。対照には同年代の一般住民23,028例が選ばれています。追跡期間の中央値は18年以上で、その間に元サッカー選手1,180人(15.4%)、対照群3,807人(16.5%)が死亡しています。ポイントは次の通りです。

・全死因の死亡率については、70歳までは元サッカー選手が一般人よりも低かった。しかしその後は逆転している。

・元サッカー選手の神経変性疾患による死亡率は一般人の3.45倍。

・元サッカー選手のアルツハイマー病での死亡率は一般人の5.07倍。

・元サッカー選手は一般人よりも虚血性心疾患による死亡率は20%低い。

・元サッカー選手は一般人よりも肺がんでの死亡率は47%低い。

・元サッカー選手は一般人よりも認知症関連の薬の処方頻度が高い。

・ゴールキーパーはゴールキーパー以外の選手と比べて認知症薬の処方頻度は59%低い。

 これらをまとめると、「サッカーをすれば心臓と肺が強くなるが、神経の病気のリスクが高くなる。特にアルツハイマーのリスクが高い。その原因はヘディングをするからだ」、となります。

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 これまでアメリカンフットボールによるCTEの研究がたくさん米国でおこなわれているのは米国ではサッカーの人口が少ないからでしょう。一方、スコットランドではサッカーが国民的スポーツです。今後欧州の他の地域や南米でもサッカーとCTEを結びつける研究が出てくるかもしれません。しかし、それを待つのではなく、この時点で我々は、そして我々の子供はコンタクトスポーツを続けていいのか、という問題を真剣に考えるべきではないかと私には思えます。

 今年の盛り上がりに水を差すようですが、それはラグビーでも同様です。

はやりの病気
第137回(2015年1月)「脳振盪の誤解~慢性外傷性脳症(CTE)の恐怖~」
医療ニュース
2017年8月30日「アメリカンフットボールの選手のほとんどがCTEに!」
2017年3月6日「ヘディングは脳振盪さらに認知症のリスク」
2016年12月26日「未成年の格闘技は禁止すべきか」
2016年10月14日 「コンタクトスポーツ経験者の3割以上が慢性外傷性脳症」
2015年5月9日「脳振盪に対するNFLの和解額が10億ドルに」

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2019年10月27日 日曜日

2019年10月27日 片頭痛があればアルツハイマーのリスクが4.2倍

 片頭痛は脳梗塞のリスクであるという情報はかなり知れ渡ってきているようです。初診時の患者さんからこのことを聞かれることが少しずつ増えてきています。脳梗塞のみならず、心筋梗塞、脳出血、静脈血栓症、不整脈などのリスクが上昇することを示した研究も過去のニュース「片頭痛は心筋梗塞、脳卒中、静脈血栓症のリスク」で紹介しました。

 今回報告するのは、おそらく脳梗塞以上に衝撃的だと思います。それは「片頭痛があればアルツハイマー型認知症のリスクが4.2倍にもなる」という研究です。

 医学誌『International Journal of Geriatric Psychiatry』2019年9月号に掲載された論文「片頭痛と認知症のリスク、アルツハイマー型認知症・脳血管性認知症の前向き調査(Migraine and the risk of all‐cause dementia, Alzheimer’s disease, and vascular dementia: A prospective cohort study in community‐dwelling older adults)」で研究結果が報告されています。

 研究の対象者はカナダのある地域に在住する65歳以上の679人で、登録時には認知機能の異常がないことが確認されています。5年後に認知機能を評価しアルツハイマー型認知症及び脳血管型認知症の有無が調べられました。

 その結果、アルツハイマー型認知症のリスクは4.22倍にもなっていました。意外なことに脳血管性認知症のリスクは上昇していません。

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 この論文は非常に重要だと思います。まずこの研究は「前向き研究」でおこなわれています。以前にも述べたように前向き研究は「後向き研究」に比べて、エビデンスレベルがずっと高いわけです。

 次に、アルツハイマー型認知症の最大の要因は「遺伝」です。私の印象で言えば、この点が正確に世間に伝わっておらず、週刊誌やネット情報なども「〇〇を食べればリスク増大」「運動不足がリスクを上げる」「頭を使わないと…」「交友関係が少ないと…」などそのようなことばかり取り上げますが、最大の要因が遺伝であることは間違いありません(下記「医療ニュース」参照)。

 そして、片頭痛も遺伝の要因が強いことはほぼ間違いありません。ということは、片頭痛があり親族にアルツハイマー型認知症がいる人のリスクはかなり高いということになります。であるならば、片頭痛の治療と予防をしっかりおこなうことと、(エビデンスレベルが高くないとはいえ)認知症の予防として推奨されている食事や運動方法などを実践すべきということになります。

 それから(これは誰も言わないので私が言います)、リスクが高い人は認知症を恐れるのではなく、すぐに発症してもいいようにいろいろな”準備”をしておくことが大切です。例えば、預金や保持している金融商品を明確にして家族に伝えておくとか、自営業者の人なら早めに後継者を探すとか、そういったことが必要です。「自分は認知症のリスクが高いから早めに準備しています」という人はあまりいませんが、これは重要なことだと私は考えています。

参考:
はやりの病気第179回(2018年7月)「認知症について最近わかってきたこと(2018年版)」
医療ニュース2019年3月31日「親戚・身内にアルツハイマー、自身も高リスク」
医療ニュース2019年3月31日「ホルモン補充療法はアルツハイマーのリスク」
医療ニュース2018年2月26日「片頭痛は心筋梗塞、脳卒中、静脈血栓症のリスク」

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2019年10月7日 月曜日

2019年10月7日 大阪で日本脳炎ウイルス、北海道出身者は要注意

 2019年9月12日、大阪府八尾市保健所は「同市東部で採取したコガタアカイエカから日本脳炎ウイルスが見つかった」と発表しました。大阪府によれば2003年の調査依頼、府内でウイルスが見つかったのは初めてです。

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 日本脳炎は発症すれば、3分の1が死亡、3分の1が後遺症を残します。つまり「死に至る病」のひとつです。ワクチンを接種していれば防げるのですが、問題はしていない人が少なくないことです。

 最も注意が必要なのは北海道出身の人です。北海道にはコガタアカイエカが棲息してないことから長年ワクチンが定期化されておらず、ようやく定期接種に位置付けられたのは2016年からです。

 また、中年以降の人も注意が必要です。北海道以外の地域でも正式に「定期予防接種」に指定されたのは1994年です。また2005年から2010年の間は「積極的勧奨の差し控え」となっていました。下記は日本の日本脳炎ワクチンの簡単な時間的推移です。

1954年 不活化ワクチンの勧奨接種が開始
1976年 臨時の予防接種に指定
1994年 定期予防接種に指定
2005年 積極的勧奨の差し控え
2010年 新型ワクチンによる積極的勧奨再開

参考:
はやりの病気
第63回(2008年11月)「日本脳炎を忘れないで!」
医療ニュース
2016年10月8日「対馬での日本脳炎「集団感染」の謎」
毎日新聞「医療プレミア」
「来夏の東京五輪で「日本脳炎」の患者が急増する心配」2019年5月5日
「日本脳炎のワクチンが今必要なわけ」2016年12月18日
「日本脳炎の大流行を危惧する二つの理由」2016年12月11日

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2019年9月26日 木曜日

2019年9月26日 犬を飼えば心臓の病気になりにくい

 太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)の約13年間の歴史を振り返ると、犬アレルギーの患者さんが増えているような印象があります。割合で言えば猫アレルギーの方が多く、猫アレルギー自体も増加傾向にあるのですが、犬も確実に増えています。もちろん、アレルギーがあるからといって必ずしも離れて暮らす必要はないのですが、それなりの対処が必要です。

 最近増えている相談が「アレルギーを発症するのが怖いのですが初めから飼わない方がいいですか」というものです。例えば両親のどちらかが犬アレルギーがある場合は自身もそのうちに発症するのではないか、花粉症があるのでいずれ犬にも反応するのではないか、などと考えられているのです。この考えは間違っておらず、たしかに自身もしくは血縁者にアレルギー体質の人がいれば、現在は大丈夫でも将来的に犬アレルギーを発症する可能性はあります。

 ですが、現時点でないのであれば飼育することに問題はありませんし、アレルギーになりにくくする方法もあります。ですから「将来のリスク」よりも「現在及び将来の(犬と過ごすことでの)メリット」を考えるべきだと私は思います。それに、最近は犬を飼うことの利点を報告する研究が増えてきています(下記「医療ニュース」参照)。今回お伝えするのもそんな研究です。

 犬を飼えば心血管障害を起こしにくい……。

 米国の有名病院「メイヨー・クリニック」のウェブサイトにそのような研究「犬の飼い主と心臓の病気(Dog Ownership and Cardiovascular Health: Results From the Kardiovize 2030 Project)」が掲載されました。研究の対象者はチェコスロバキア第二の都市ブルノ在住の住民1,769人で、研究を実施したのもチェコ共和国の研究者です。なぜ、チェコの学者が米国の病院のウェブサイトに論文を載せるかというと、メイヨー・クリニックというのはいわゆる診療所(クリニック)ではなく、全米で最も優れた病院のひとつであり、臨床のみならず教育や研究にも力を入れています。メイヨー・クリニックのサイトに研究成果が掲載されるということは一流の医学誌に論文が掲載されるのと同じように名誉なことなのです。

 話を研究結果に戻しましょう。犬を含む何らかのペットを飼っている人は、飼っていない人に比べて喫煙率は高かったものの、身体活動度、食事、血糖値がより良好であることが判りました。ペットのなかで、特に犬を飼っている人は何もペットを飼っていない人に比べ、心臓の健康度を示すスコアが有意に高かったのです。また、犬を飼っている人は他のペットを飼っている人に比べ、身体活動度および食事がより良好であるとの結果も得られています。

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 この研究を評した解説を探していると、同様の結果が過去の研究でも認められていることが分かりました。医学誌『Circulation』2013年5月9日号(オンライン版)に「ペット飼育と心血管疾患のリスク(Pet Ownership and Cardiovascular Risk)」という論文が掲載されており、ここでも「ペット(特に犬)を飼うことで、身体活動度が向上し、心血管疾患のリスク低下が期待できる」とされています。

 これだけの恩恵をもたらせてくれる犬。アレルギーや他のリスクに注意が必要だったとしても簡単に諦めない方がよさそうです。

医療ニュース
2019年6月30日「乳幼児期に犬と過ごせば食物アレルギーを予防できる?」
2019年2月23日「乳児期に動物に接するとアレルギーを起こしにくい?!」
2018年1月26日「単身者は犬を飼えば長生き 雑種より猟犬が良い?」

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2019年9月26日 木曜日

2019年9月26日 ビタミンDの補給でがんによる死亡リスクが低下

 サプリメントに関する質問のなかでここ数年で最も多いのがビタミンDだという話を何度かしています。ビタミンDで心疾患の予防ができる、がんが防げる、感染症にかかりにくくなる、若返る……、いろんなことを言う人がいます。また、ビタミンDは食事だけでは十分量が摂れないことを指摘する人もいます。これらについて、つまりビタミンDの「総論」について「はやりの病気」2019年4月号「ビタミンDが混乱を招く2つの理由」でまとめました。

 そこで私が述べた結論は、ビタミンDは大切な栄養素であることは間違いないが、日本人であれば食事から十分量が摂れるので心配はない。サプリメントではなく食事に気を付けようというものでした。

 ですが、世界では今も「ビタミンDを積極的にサプリメントで摂るべき」とする研究もあります。今回紹介するのもそのようなひとつです。

 ビタミンDのサプリメントを摂取すればがんによる死亡率が16%低下する……。

 医学誌『British Medical Journal』2019年8月12日号(オンライン版)に掲載された論文「ビタミンD補給と死亡率の関連:系統的レビューとメタ分析(Association between vitamin D supplementation and mortality: systematic review and meta-analysis)」でそのような結論が導かれています。

 この研究は「メタ分析」でおこなわれています。つまりこれまで世界中で発表されているビタミンDについての研究をまとめ、それを解析することにより結論を出そうすると研究です。対象となった研究は52で、被験者は合計75,454例となります。

 そのメタ分析の結果、全死亡例は8,033例。そのなかで心血管疾患での死亡が1,331例、がんによる死亡は877例でした。ビタミンDサプリメントの摂取とすべての死因を含む死亡との間には関連性が認められませんでした。また心血管疾患による死亡との関連もありませんでした。

 しかしながら、ビタミンDのサプリメントはがんによる死亡のリスクを16%低下させているという結果が算出されています。

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 論文の原文は「vitamin D supplementation」とされており、内容からこれは食事による補完ではなくサプリメントや薬剤としてのビタミンDによる補給と考え、ここでは「ビタミンDのサプリメント」と表現しています。

 さて、ビタミンDのサプリメントを積極的に摂るべきかどうかについて、私個人の考えとしては以前から述べているように基本的には「不要」です。例外となるのは、ヴィーガンの人だけです。よく「紫外線に一切あたらないようにしているんですがそれでもビタミンDのサプリは不要ですか」と聞かれます。私の答えは「サーモンとキノコ類をしっかり摂っていれば不要」です。

はやりの病気
第188回(2019年4月)「ビタミンDが混乱を招く2つの理由」
医療ニュース
2019年1月31日「ビタミンDで心血管疾患のリスクは低下しない」
2017年10月23日「骨折予防にビタミンDやカルシウムは無効」
2014年2月28日「ビタミンDのサプリメントに有益性なし」
2010年2月11日「ビタミンDが不足すると喘息が悪化」
2010年2月1日「ビタミンDの不足は大腸ガンのリスク」

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2019年8月29日 木曜日

2019年8月29日 海外で出回っている偽物ワクチンに注意を

 日本のワクチンは高いから海外での接種を検討しませんか。

 これは私がよく患者さんに話すことです。過去数年は円安傾向に進んだことで海外との薬の差はさほど大きくなくなってきたと言われていますが、例外のひとつがワクチンです。例を挙げると、麻疹・風疹・おたふく風邪のワクチンを日本で接種すると、少なくとも15,000円はします。これを、例えば私がよく推薦するタイのマヒドン大学内にある「Thai Travel Clinic」で接種すればわずか7ドル(もしくは227バーツ)です。20倍近く違うわけですから日本での接種が馬鹿らしくなるのではないでしょうか。ちなみに、私自身もこのクリニックでいくつかのワクチン接種をしています。

 しかし、その安いワクチンが偽物である可能性がないかについては充分に注意しなければなりません。2018年後半からフィリピンで偽物の狂犬病ワクチンが出回っており、WHOが2019年7月16日付けで注意喚起を出しました。

 当初出回っていた偽物ワクチンは商品名が「Verorab」というものだけでしたが、最近は「Rabipur」、「SPEEDA」、さらに狂犬病の治療薬である ERIG(ウマ抗狂犬病免疫グロブリン)の偽物も確認されているようです。これらはWHOの注意喚起に写真も載せられています。見る者が見れば「怪しい」と感じますが、ぱっと見ただけでは本物と区別がつかないものもあります。

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 では、海外ではワクチン接種を控えた方がいいのでしょうか。100%の保証ができるわけではありませんが、日本人が運営に関与しているところや日本人医師がいるところならまず安心です。しかしこういうところは日本よりは安いものの少し値段が高いようです。

 個人的には、先述したタイの「Thai Travel Clinic」か同じくバンコク内の通称「スネーク・ファーム」と呼ばれている「Immunization and Travel Clinic」がお勧めです。狂犬病ワクチンは、それぞれ347バーツ、350バーツ(約1,200円)です。ちなみに太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)では15,000円ですから12.5倍も高いことになります。もちろん谷口医院が暴利を貪っているのではなく、これはほとんど仕入れ値と変わらない価格です。

 尚、狂犬病ワクチンは日本ではこれまで日本製しか認可されていませんでしたが、2019年7月後半より(フィリピンで偽物が出回っている)「Rabipur」が承認され谷口医院でもこちらに切り替えています。日本製ワクチンよりも高い効果があることがわかっているからです。

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2019年8月29日 木曜日

2019年8月29日 43歳以上の飲酒は翌日眠くなる

 「酒は百薬の長」、「少量の飲酒は健康にいい」、などと以前から言われていますが、果たして本当に正しいのでしょうか。過去に紹介したようにこれを否定する研究もあります(下記「医療ニュース」参照)。

 今回紹介したいのは「43歳以上の飲酒は翌日の眠気をもたらせる」というもので注目に値する研究です。医学誌『Occupational Medicine』2019年7月号に掲載された「ドライバーにおける日中の眠気とアルコール消費(Excessive daytime sleepiness and alcohol consumption among commercial drivers)」というタイトルの論文です。

 研究の対象者は全日本トラック協会(Japan Trucking Association)に登録されている20~69歳の男性ドライバー1,422人で結果は次の通りです。飲酒翌日の日中の眠気が飲酒でどのように変わったかが算出されています。

〇43歳未満の場合

軽度飲酒者:非飲酒者と比べて眠気は19%減少
中等度飲酒者:7%減少
大量飲酒者:39%減少

〇43歳以上の場合

軽度飲酒者:非飲酒者と比べて眠気は42%上昇
中等度飲酒者:53%上昇
大量飲酒者:337%上昇

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 私が知る限り、この研究これまでに一般のメディアで紹介されていないようですが、驚くべき結果です。43歳以上で大量飲酒をすれば、翌日の眠気のレベルが3.37倍(337%)になるというのです。そして、興味深いことに43歳未満なら大量飲酒で逆に眠気が4割も低下するのです。

 43歳まではたっぷりと飲んで、43歳の誕生日がくるとお酒をやめましょう、というような単純な話ですが、この結果をよく考えるべきでしょう。「酒は百薬の長」は43歳未満の場合だけかもしれません。

参考:
医療ニュース
2017年6月26日 「少量の飲酒でも認知症のリスク!?」
2011年10月26日 「女性は中年期の適量の飲酒で高齢期が健康に」
2011年1月9日 「飲酒→睡眠→運転はキケン!」
2010年5月21日 「飲酒によりリンパ系腫瘍のリスクが低減」
2010年8月23日 「飲酒が関節リウマチに有効?」
2010年4月8日 「適度な飲酒は女性の体重増加を抑制」
2009年9月10日 「 自殺者の4人に1人がアルコール問題」
マンスリーレポート
2012年6月号 「酒とハーブと覚醒剤」

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2019年7月29日 月曜日

2019年7月29日 筋肉増強やダイエット目的のサプリメントはこんなにも危険

 太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)の患者さんは比較的若いということもあり、サプリメントの相談のなかでは動脈硬化予防やがんの予防よりもむしろ、筋肉増強やダイエットに関したものの方が多いという特徴があります。「〇〇を飲もうと思っているんですけど…」という相談をされる方もいますが、多くはすでに飲みだしてから不安になった人たちです。あるいは、これは相談ではありませんが、健診で肝臓や腎臓の数値が悪いことで受診され、問診からその原因がサプリメントであることが判ったということもよくあります。

 では、どの程度の割合で健康被害がでるのでしょう。これについては我々は漠然と”多い”という感覚がありますが、具体的な数字はよく分かっていませんでした。薬の場合は発売前から「〇%の使用者に△という副作用がある」ということが分かっていますが、サプリメントの場合はほとんど情報がありません。過去に東京都福祉保健局が実施した「サプリメントの副作用は全体の4.2%」という調査結果がありますが、これは自覚症状に限ってのことであり、無自覚の肝機能障害、腎機能障害などを加えるともっと高くなるはずです。

 これを検証した研究が発表されました。医学誌『Journal of Adolescent Health』2019年6月5日(オンライン版)に「小児から若い世代でのサプリメントの弊害(Taking Stock of Dietary Supplements’ Harmful Effects on Children, Adolescents, and Young Adults)」というタイトルの論文が掲載されました。さらに、一般向けの医療情報サイト「Health Day」では「10代にとっての多くのサプリメントは危険(Many Dietary Supplements Dangerous for Teens)」というタイトルで紹介されています。

 この研究では、FDA(米国食品医薬品局)の有害事象報告システムが用いられています。2004年1月~2015年4月に報告された米国の0~25歳の小児から若年成人が内服したサプリメントによる有害事象が解析されています。その結果、調査期間中に合計977件の有害事象が認められ、そのうち(なんと)40%もが「重篤な健康被害」だったというのです。重症例には入院例、救急受診例、さらに死亡例も含まれています。

 この研究では若者が好むサプリメントがビタミン剤に比べてどれくらいリスクが大きいのかが検討されています。結果、筋肉増強を目的としたサプリメントでは2.7倍、性機能増強などのエネルギーアップを目的としたものでは2.6倍、体重減少(ダイエット)を目的としたものでは2.6倍リスクが上昇していることが分かりました。

 上記「Health Day」の記事では、ハーバード大学公衆衛生学部教授のオースティン(Austin)氏の言葉を紹介しています。氏によれば、サプリメントが野放しのこの現状は「アメリカの若者にロシアンルーレットをさせているようなもの」だそうです。

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 たしかに、死亡例も出ているわけですから「ロシアンルーレット」という表現も大げさではないかもしれません。

 参考までに谷口医院で診断がついた最も多いサプリメントの被害は、男性の場合、プロテインによる腎機能障害、次いでクレアチンによる腎機能障害です。女性は、ダイエットのサプリメントでの動悸、嘔気、肝機能障害です。これらについては過去のコラム(マンスリーレポート2018年11月「サプリメントや健康食品はなぜ跋扈するのか」も参照してください。

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2019年7月26日 金曜日

2019年7月26日 ライチを食べて子供が死ぬ理由

 過去1ヶ月で、患者さんから受けた質問で最も多いひとつが「ライチは毒って本当?」というものです。主にネットニュースで「インドでライチを食べた子供が次々と死んでいる」という趣旨の報道がおこなわれているようです。

 実はこれは今に始まったことではなく、インドでは過去にも同様の”事件”が報道されています。ここでは、なぜライチで子供が死んでしまうかについて解説したいと思いますが、まずは最近の報道を振り返ってみましょう。

 2019年6月25日のBBCの記事「ビハール州の脳炎はインドの保健システムが原因(Bihar encephalitis deaths reveal cracks in India healthcare)」によると、2019年6月上旬頃よりビハール州のムザファルプル県で150人以上の子どもたちがライチを食べた後に死亡しています。BBCによれば、死亡した子供たちのほとんどがまともな医療を受けることができていません。

 BBCは2017年にも同様の報道をしています。2017年2月1日の記事「インドの子供たちが空腹時にライチを食べて死亡(Indian children died after ‘eating lychees on empty stomach’)」で、毎年100人以上の子供が脳炎を起こして死亡していることを指摘し、その原因を医学誌『LANCET』から引用して紹介しています。

 ここでその『LANCET』の論文を紹介しましょう。同誌2017年1月30日号(オンライン版)に「ムザファルプル県の脳炎のアウトブレイクと脳炎の関係(Association of acute toxic encephalopathy with litchi consumption in an outbreak in Muzaffarpur, India, 2014: a case-control study)」というタイトルで掲載された論文で、要旨は次のようになります。

・2014年5月26日から7月17日の間に390人の患者が入院し、うち122人(31%)が死亡した。
・この中からデータが残っている104人を選び、他の疾患で入院した同じ年齢の対照群コ(ントロール群)と比較した。
・発症24時間前のライチ消費量は対照群と比べて9.6倍だった。
・発症前に夕食を摂っていなかった割合は対照群と比べて2.2倍だった。
・ヒポグリシンA(hypoglycin A)もしくはMCPG(methylenecyclopropylglycine)の代謝物が、脳炎発症者73人の尿検体のうち48人から検出された。一方対照群からは検出されなかった。
・ムザファルプル県の36個のライチの殻を調べると、ヒポグリシンAの濃度は12.4μg/g~152.0μg/gの範囲で、MCPGは44.9μg/g~220.0μg/gの範囲だった。

 ライチには2種の「毒素」が含まれており、その毒素が体内で糖を新生することを阻害することが分かっています。低栄養状態時にその毒素が体内に入ると急激に低血糖が進行し、糖の補給をおこなわなければ死に至る、というメカニズムです。

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 BBCによると、この脳炎は現地では「急性低血糖脳炎(acute hypoglycemic encephalopathy) (AHE)」と呼ばれているそうです。過去20年以上にわたり毎年100人以上の子供が他界しており、かつては日本脳炎だと考えられていたそうです。しかし『LANCET』に報告されたことから、正確な診断と治療がおこなわれるようになり、患者数は減少傾向にありました。ところが、今年(2019年)は再び患者数が上昇し、その原因がBBCが指摘しているように脆弱な医療システムにあるというわけです。

 日本人の場合、飢餓になるほどの状態でこの地を訪れることはまずないでしょうし、仮にライチの皮に含まれる毒素を摂取したとしてもすぐに糖分を摂れば問題ありません。むしろ、日本脳炎の方を注意すべきです。インド(のみならずアジア全域)に渡航するなら、日本脳炎のワクチン接種歴を確認しておくべきです。

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