医療ニュース

2019年3月31日 日曜日

2019年3月31日 ホルモン補充療法はアルツハイマーのリスク

 一般に閉経前後の更年期障害で用いる「ホルモン補充療法(HRT)」は乳がんや卵巣がんのリスク、さらに心血管系のリスクがあるものの、抑うつ感や不安感などの精神症状の緩和には有効とされています。早期閉経がアルツハイマーのリスクになるという考えもあり、ホルモン補充療法は認知症の予防にもなるのでは、という意見もあります。ですが、その反対にリスクを上げるという報告もあり現在決着がついていません。

 先日論文が発表されたフィンランドの大規模研究では「ホルモン補充療法にはアルツハイマーのリスクがある」という結論が導かれています。

 医学誌『The British Medical Journal』2019年3月6日号(オンライン版)に掲載された「フィンランドにおけるホルモン補充療法とアルツハイマー病(Use of postmenopausal hormone therapy and risk of Alzheimer’s disease in Finland: nationwide case-control study)」を紹介します。

 研究の対照者は1999~2013年にアルツハイマー病と診断された閉経女性84,739人と、他の条件を合致させた同数の対照者です。

 アルツハイマー病患者のうち15,768人(18.6%)が全身性(内服及びジェル・貼付薬)の補充療法を実施しており(論文のTable 1)、10,785人(12.7%)が腟剤のみ使用していました。対称者では、14,394人(17.0%)が内服を、11,170人(13.2%)が腟剤のみを使用していました。これらを解析すると、全身性の補充療法の使用率はアルツハイマー患者で有意に高く(これを数字で見ると大して「差」はなさそうなのですが、論文に掲載されたfig.2を見れば一目瞭然です)、逆に腟剤の使用率はアルツハイマー患者で有意に低くなっています。

 ホルモン補充療法にはエストロゲン(卵胞ホルモン)単体とエストロゲンとプロゲステロン(黄体ホルモン)複合剤があります。それぞれのアルツハイマーのリスク上昇は前者で1.09倍、後者は1.17倍となりました。

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 いくつか補足しておきます。

 まず、日本でもフィンランドでも全身性のホルモン補充療法には内服以外にジェルや貼付剤などの皮膚から吸収されるものがあります。この論文ではそれらの比較ができておらず、どちらがよりアルツハイマー病のリスクとなるかは分かりません。

 次に、エストロゲン単体とエストロゲン・プロゲステロン複合剤では、複合剤の方がアルツハイマー病のリスクが高くなっていますが、エストロゲン単体だと子宮内膜が増殖し子宮体がんのリスクが上がる可能性があります。

 最後に、この論文を読む限り全身性(内服やジェル・貼付剤)はアルツハイマー病のリスクを上昇させるが、膣錠なら安心と解釈できますが、日本ではエストロゲンの膣錠は更年期障害に保険適用がありません。

 いずれにしても、ホルモン補充療法は多くのことが期待できる一方で、乳がんや卵巣がん、心疾患系疾患、さらにアルツハイマー病のリスクがあるというわけです。

参考:医療ニュース
2007年4月30日「ホルモン補充療法の危険性」
2008年3月18日「ホルモン補充療法は中止後も乳がんのリスクが残存」

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2019年3月31日 日曜日

2019年3月31日 親戚・身内にアルツハイマー、自身も高リスク

 アルツハイマー病のリスクとしてよく取り上げられるのは、運動、食事、体重、喫煙、飲酒、社会活動、…、など多数ありますが、率直に言ってこれらのなかに”決定的”なものはありません。多少効果があるかもしれない、というものはありますが、これをすれば高確率で認知症を「防げる」あるいは「防げない」というものは見当たりません。喫煙がリスクを下げるとする研究もあるほどです。

 ですが、決定的なリスク増加要因はあります。それは「家族歴」です。血縁者に認知症の人がいれば自身もいずれ認知症になりやすいというわけです。以前からこのことは指摘されており、遺伝子での解析もそれを実証していますが(後述)、大きな疫学研究は(私の知る限り)ありませんでした。

 今回、これを証明するような研究が発表されたので紹介したいと思います。医学誌『Neurology』2019年3月13日号(オンライン版)に「Relative risk for Alzheimer disease based on complete family history(家族歴におけるアルツハイマー病の相対リスク)」という論文(全文が無料で読めます)が発表されました(注1)。

 この論文を理解するために、まずは「血縁者の表現」を確認しておきましょう。日本では一親等、二親等、…と呼ばれる血縁者の表現は言語ごとに異なり、英語では次のように表現します。

・第一度近親者(first-degree relative):両親、きょうだい(兄弟・姉妹)、子供
・第二度近親者(second-degree relative):祖父母、孫、おじ・おば、甥・姪、片方の親が異なるきょうだい
・第三度近親者(third-degree relative):いとこ(first-cousin)(注2)、曽祖父母、ひ孫

 この研究の対象者は1800年代のユタ州の開拓者及びその親族です。解析されたのは合計270,818人、うち4,436人が死亡時にアルツハイマー病の診断がついていました。

 解析の結果、第一度近親者にアルツハイマー病患者が1人以上いると、自身も発症するリスクが1.73倍、2人以上なら3.98倍、4人以上ならなんと14倍にも上っていました。

 また、第一度近親者と第二度近親者のいずれにもアルツハイマー病患者が1人いると、自身の発症リスクは2.04倍であり、第一度近親者に1人、第二度近親者に2人の場合は、自身の発症リスクは21.29倍まで上昇していました。

 第一度近親者にアルツハイマー病患者がいない場合も、第二度近親者に2人以上の患者がいると発症リスクは1.25倍。第一度、第二度がゼロであっても、第三度近親者に2人以上の患者がいればリスクが1.17倍です。4人以上になると1.44倍となり、これは遠い関係であっても血縁者に患者が多ければ多いほど、自身のリスクも上昇することを示しています。

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 この研究結果は当然といえば当然で、現在ではリスクを遺伝子で調べることができます。ApoE遺伝子の「ε4」の数が0か1か2かでリスクが大きく変わるのです。「ε4」を2つ(つまりホモで)持っているとリスクが11.6倍にもなることが分かっています(参照:メディカルエッセイ第179回(2017年12月)「これから普及する次世代検査」)。

 お金をかけてApoE遺伝子を調べなくても、血縁者にアルツハイマー病罹患者がいれば、それだけでハイリスクと言えそうです。該当する人は、たとえ大きな効果がないとしても、運動や食事などの生活習慣を見直した方がいいかもしれません。

注1:論文そのものよりも、この論文を分かりやすく解説した米国の医療サイト「HealthDay」に掲載されたレポート「遠い親戚もアルツハイマーのリスクを上げる(Even Distant Relatives’ History Could Up Your Alzheimer’s Risk)」の方が読みやすいと思います。

注2:first-cousinを英語で説明するとa child of your aunt or uncleとなり日本語の「いとこ」と同じです。通常cousinと言えばfirst-cousinのことを指します。second-cousinは日本語でいうところの「またいとこ」または「はとこ」(a child of a cousin of your mother or father)です。third-cousinはWikipediaによると、Third cousins share at least one set of great-great-grandparents(曽祖父母の親が共通)となり、これは「みいとこ」(曽祖父・曽祖母の兄弟姉妹の曽孫)と同じになると思います。

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2019年2月24日 日曜日

2019年2月23日 やはりベンゾジアゼピンは認知症のリスク

 ベンゾジアゼピン系(以下BZ)は認知症のリスクになるのかならないのか。これは以前から繰り返し検討されているテーマです。「はやりの病気」第151回(2016年3月)「認知症のリスクになると言われる3種の薬」では、ひとつの大規模調査を紹介し、その結論は「BZは必ずしも認知症のリスクとなるわけではない」でした。

 ですが、今回発表されたメタ分析(これまで発表された研究をまとめなおして総合的に検討する分析)では、この結論がくつがえされています。

 医学誌『Journal of clinical neurology』2019年1月号に掲載された論文「ベンゾジアゼピン長期使用の認知症のリスク~メタ分析による~(Risk of Dementia in Long-Term Benzodiazepine Users: Evidence from a Meta-Analysis of Observational Studies)」によると、BZを用いることにより認知症のリスクが1.51倍となります。さらに、当然といえば当然ですが、作用時間の長いタイプのBZ使用者、長期使用者で認知症のリスクが高くなっています。

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 このサイトで繰り返し述べているようにBZには強い依存性があります。たった1錠飲んだだけで人生が変わるとまでは言いませんが、使用には慎重にならなければなりません。過去に紹介した記憶のないままわが子を殺めた東京の主婦が飲んでいたのは「マイスリー」で、これもBZと同系統の薬剤です。

 医療機関で簡単に処方することはありませんが、ときに患者さんは「前のクリニックでは簡単に処方してくれたのに……」と不満を言います。しかし、依存性が強く、記憶がなくなったり認知症のリスクが上がったりする薬剤を簡単に考えてはいけないのです。

参考:
はやりの病気
第164回(2017年4月)「本当に危険なベンゾジアゼピン依存症」
第151回(2016年3月)「認知症のリスクになると言われる3種の薬」
GINAと共に第152回(2019年2月)「アダム・リッポンも飲むベンゾジアゼピンの恐怖」

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2019年2月24日 日曜日

2019年2月23日 乳児期に動物に接するとアレルギーを起こしにくい?!

 意外な結果と言えるかもしれません。

 太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)の患者さんのなかにも少なくない犬アレルギーや猫アレルギー。谷口医院ではほとんどの患者さんが犬や猫が好きな人たちです。なかにはペットショップで働く人や、トリマーの人もいます。仕事を替えるわけにもいきませんし、そもそも犬や猫が好きな人たちですからプライベートでも一緒に過ごしていることが多いのです。

 なぜ犬や猫が好きな人たちがそれらのアレルギーを起こすのか。それは犬や猫に触れる時間が長いからです。このメカニズムは花粉症と同じように考えればわかりやすいと思います。つまり、同じ抗原に何年もさらされていると、あるときを境にそれまでは何ともなかったものがその人にとって”敵”となるのです。以降は一種の「拒絶反応」が起こる。これがアレルギーのメカニズムです。

 ということは、花粉症を防ぐには発症していない時点から花粉に触れないようにするのが最適であり、同様に動物アレルギーを防ぐには動物に触れる時間を短くするのがいい、ということになります。

 ところが、です。医学誌『PLOS ONE』2018年12月19日号に掲載された論文「早い段階でペットと触れていれば動物アレルギーのリスクが低下する(Pet-keeping in early life reduces the risk of allergy in a dose-dependent fashion)」によれば、このタイトル通り、小さい頃にペットに触れているとアレルギーのリスクが下がるというのです。

 この研究はスウェーデンのものです。対象は7~8歳の小児(1,029例)と8~9歳の小児(249例)です。結果は、生まれてから1年以内に(つまり乳児期に)家庭内に猫や犬を飼っていれば、喘息や鼻炎、湿疹といったアレルギー症状が少なくなるというのです。しかも、ペットの数が多いほどその傾向は顕著になり、ペットのいない子供の49%がアレルギーがあるのに対し、5匹以上のペットを飼っている家の子供ではアレルギー発症はなんと0(ゼロ)だというのです。

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 この論文によると「幼少期のペットとの接触がアレルギーのリスクを低下させる」とする研究は他にもあるそうです。ですが、そのメカニズムははっきりしません。食物アレルギーについては、以前は避けるべきだと考えられていたのが、現在はむしろ積極的に摂取すべきだ(注意点はいくつかありますが)と変わってきています(参考:「はやりの病気」第167回(2017年7月)「卵アレルギーを防ぐためのコペルニクス的転回」)。

 動物アレルギーも同じメカニズムかもしれません。食物を乳児期に食べさせるときの最大の注意点はアトピー性皮膚炎などの湿疹をきっちりと治しておくということでした。ということは、乳幼児期にペットを飼うときにも湿疹の治療と予防はきっちりとおこなっておくべきでしょう。

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2019年1月31日 木曜日

2019年1月31日 ビタミンDで心血管疾患のリスクは低下しない

 厚生労働省の発表では日本人は充分な量が摂れており、サプリメントでの有効性を否定する研究が複数あり(下記「医療ニュース」参照)、また摂り過ぎによる被害の報告も多いのにもかかわらず、なぜか患者さんから相談を受けることの多いのがビタミンDです。

 私が興味深いと思うのは、知的職業につきリテラシーが高く海外に精通しているような人たちが「ビタミンDはサプリメントで摂らないとダメなんですよね」と話すことです。βカロテンによる肺がんやビタミンEの心疾患のリスクなどを知っている人たちでさえビタミンDのサプリメントを「魔法のサプリ」のように思っていることがあり驚かされます。おそらくこの理由は、今から10年ほど前に世界中でビタミンDの有効性を指摘した研究がもてはやされていたからではないでしょうか(本サイトでもビタミンDが有用とする論文を何度か紹介したことがあります)。

 今回は有効性を否定した新たな研究を紹介したいと思います。私の母校の大阪市立大学がおこなったもので、一流の医学誌『JAMA』に掲載されました(これはすごいことです)。タイトルは「Effect of Oral Alfacalcidol on Clinical Outcomes in Patients Without Secondary Hyperparathyroidism Receiving Maintenance Hemodialysis(人工透析を受けていて二次性副甲状腺機能亢進症のない患者に対するアルファカルシドールの効果)」です。

 研究の対象は、日本全国の人工透析を受けている男女976人(中間年齢65歳)で、4年間の追跡調査がおこなわれ、このうち 964人分のデータが解析されています。ビタミンDを投与されたのが488人、されなかったのが476人とほぼ半々です。調査期間中に心筋梗塞や脳卒中などを発症したのは、ビタミンDが投与されていたグループで103人(21.1%)、されていなかったグループでは85人(17.9%)です。死亡率はそれぞれ18.2%、17.9%です。数字だけをみるとビタミンDを内服した方がむしろ発症しやすく死亡しやすいようにみえるかもしれませんが、統計学的に有意差はなくビタミンDが有害と言っているわけではありません。ビタミンDを投与しても心血管疾患の予防にはならないですよ、ということが言えるわけです。

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 実は、人工透析が導入されるとほとんど”無条件”にビタミンDの内服を勧められることが多く、これはビタミンDで心血管疾患が予防できるという「説」があるからです。今回の研究でこの「説」が否定されたことになります。

 ただし、人工透析を続けていると「副甲状腺機能亢進症」と呼ばれる骨が脆くなる疾患をおこすことがあります。こうなるとカルシウム濃度が一気に低下しますから、治療目的でビタミンDが必要になります。

 ところでビタミンDはキノコ類と魚介類(特に肝臓)に多く含まれています。また日光を浴びることにより合成されます。伝統的にこれらを食べ、北欧のような太陽に恵まれない地域でない日本でビタミンDが不足することは通常はありません。健康にいい食事という話題になると、最近は地中海料理がもてはやされ日本食は下火になっていますが、地中海料理と日本食には共通点がいくつもあり、そのひとつがビタミンDを豊富に摂れることだと私は考えています。

 紫外線にはトラブルも多いため、一部の皮膚疾患の患者さんには「紫外線には一生当たらないように」と助言することもありますが、それでも(成人の場合は)通常の食事だけで充分です(成長期には紫外線が必要)。

 例外はヴィーガンと呼ばれる極端なベジタリアンで、この人たちは牛乳や卵を含む一切の動物由来のものが食べられませんから、例外的にビタミンDの補給が必要となります。

参考:医療ニュース
2017年10月23日「骨折予防にビタミンDやカルシウムは無効」
2014年2月28日「ビタミンDのサプリメントに有益性なし」
2010年2月11日「ビタミンDが不足すると喘息が悪化」
2010年2月1日「ビタミンDの不足は大腸ガンのリスク」

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2019年1月31日 木曜日

2019年1月31日 慢性の痛みへのオピオイドの効果はわずか

 私が現在最も懸念している米国の医療問題は「麻薬」です。昨年(2018年)はカナダで嗜好用大麻が合法化されたこともあり大麻の報道が目立ちますが、(違法)薬物で世界が今最も考えなければならないのは大麻ではなく「麻薬」です。米国の「麻薬汚染」は極めて深刻な状態です。

 米国の平均寿命が3年連続で低下しているのは麻薬が原因と言われており、これは数字を見れば頷けます。具体的な数字をみていく前に言葉の確認をしておきましょう。文脈によってはコカインやLSDなども含めて、あるいは覚醒剤や大麻などすべての(違法)薬物を含めて”麻薬”というような呼び方をすることもありますが、ここで述べているのは本来の麻薬すなわちオピオイドです。ここからは言葉の混乱を避けるために「オピオイド」で通します。オピオイドとはケシの実から抽出された物質やそれに近い合成化合物で、具体的には、モルヒネ、ヘロイン、コデイン、フェンタニルなどを指します。

 報道によると、2017年1年間で米国でオピオイドによる死亡者は72,000人で毎日200人が死亡していることになります。1999年には16,849人でしたから18年で4倍以上に増えています。2018年の時点でオピオイド依存症は200万人以上と言われています(参考:The Crisis Next Door)。2017年の米国の他の死因をみてみると、交通事故が40,100人、銃での殺人が15,549人、他殺が17,284人(このうちいくらかは銃によるものも含まれているとのこと)、自殺は約45,000人です。

 要するにオピオイドによる死亡は銃による被害や交通事故などよりもはるかに多いということです。

 なぜ、こんなにもオピオイドが消費されるのか。それは関節痛や神経痛といった慢性の痛みにもオピオイドが処方されだしたからです。従来オピオイドはがんの末期に起こる疼痛や手術直後の一次的な痛みに対して用いるものでした。それが、次第に日常的な慢性の痛みにも使われるようになり一気に広がったのです。この原因として製薬会社の責任が指摘されています(下記文献参照)。

 さて、神経痛などの痛みにオピオイドが効果があり、他に手立てがないのなら、注意しながらの使用は検討されるべきでしょう。しかしながら、「効果はあるにしてもそれは極めて小さい」という研究が発表されました。

 医学誌『JAMA』に掲載された論文「Opioids for Chronic Noncancer Pain (A Systematic Review and Meta-analysis)」によると、「オピオイドががん以外の痛みに効くのは事実だが、その効果は他の痛み止めとほとんど変わらない」ようです。

 この研究はこれまでに報告された合計96の研究を総合的に解析(メタ解析)しています。結果、NSAIDs(非ステロイド系鎮痛薬)、三環系抗うつ薬(日本でも痛み止めとして使われます)、抗けいれん薬(これも日本でも使われています)との差はわずかしかないという結果がでました。

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 日本でも過去10年ほどでオピオイドの使用が急激に増えています。米国と同様、がんの末期での使用のみならず、神経痛や関節痛といった慢性の痛みに処方されています。

 太融寺町谷口医院を初めて受診する人に「今飲んでいる薬は?」と尋ねると、オピオイドの名前(トラマール、ワントラム、トラムセットなど)を挙げる人が年々増えています。しかも「危険性を知っていますか」と尋ねて、副作用のリスクや依存性について答えられる人はほとんどいません。

 「日米社会20年遅延説」と呼ばれる説があります。米国で起こったことは20年後に日本で流行するというものです。オピオイドがこれに該当しなければいいのですが…。

参考:GINAと共に
第137回(2017年11月)「痛み止めから始まるHIV」
第151回(2019年1月)「本当に危険な麻薬(オピオイド)」

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2018年12月28日 金曜日

2018年12月30日 ω3系脂肪酸、心血管疾患にもがんにも予防効果なし

 数多いサプリメントのなかでもω3系脂肪酸(オメガ3系脂肪酸)は常に人気があります。青い魚の油に含まれる成分で、サプリメントのみならず医薬品として処方されているもの(ロトリガ、エパデールなど)もあります。一般的には「血液をサラサラにする」と言われており、一度心筋梗塞などの心血管疾患を発症した人が飲めば予防効果があるとされており(これを「二次予防」と呼びます)、米国心臓協会(AHA)も推奨しています。

 ですが、心血管疾患を発症したことのない人に対する予防効果(これを「一次予防」と呼びます)についてはエビデンスレベルの高い研究はないと言われていました。今回発表された論文がそれについての調査結果を発表しました。

 医学誌『The New England Journal of Medicine』2018年11月10日号(オンライン版)に「ω3系脂肪酸の心血管疾患とがんに対する予防効果(Marine n−3 Fatty Acids and Prevention of Cardiovascular Disease and Cancer)」というタイトルの論文が掲載されました。

 研究の対象は米国人で、男性は50歳以上、女性は55歳以上、合計25,871人です。内訳は、ω3系脂肪酸を内服したのが12,933人、プラセボ(偽薬)が12,938人です。追跡期間は中央値で5.3年。

 この間に心血管疾患を発症したのが、ω3系脂肪酸を内服したグループでは386人、プラセボは419人で、これは統計学的に有意な差はありません。

 一方、がん(浸潤がん、invasive cancer)を発症したのは、ω3系脂肪酸摂取者では820人、プラセボでは797人でこちらも差はありません。

 結論として、健常者(心血管疾患を発症したことのない人)がω3系脂肪酸を摂取しても心血管疾患を防げるわけではなく、また、がんの予防効果もなかった、ということになります。

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 ω3系脂肪酸のサプリメントは大きな有害事象はないとされていますから、気に入って飲んでいる人はそのまま続けてもいいかもしれません。ただし、一部にはがんのリスクになるとするものもあります(下記医療ニュース参照)。

 太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)ではサプリメントに関する相談もよくされます。そのなかでもω3系脂肪酸は最もよく聞かれるもののひとつです。たいていの場合、私が答えるのは「エビデンスレベルが高くないにせよω3系脂肪酸を摂って損することはあまりないでしょう。ですが、摂るならサプリメントではなく食品から。新鮮な魚介類は他にも栄養たっぷりですよ!」というものです。ちなみに、谷口医院ではω3系脂肪酸の医薬品の処方をおこなうことはほとんどありません。

医療ニュース2013年7月31日「ω3系脂肪酸で前立腺ガンのリスクが4割上昇
メディカルエッセイ第122回(2013年3月)「不飽和脂肪酸をめぐる混乱」 

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2018年12月28日 金曜日

2018年12月30日 多血小板血漿療法は「効果なし」の結論

 太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)では美容医療をおこなっていませんが、「健康のことは何でも相談ください」と言い続けていることもあって、2007年のオープン当時から美容医療の相談、つまり「〇〇法は有効でしょうか」といった相談をよく受けています。

 そういうもののなかで、過去12年間コンスタントに相談されているのが「多血小板血漿療法」(Platelet Rich Plasma Injection、以下「PRP療法」)です。自分自身の血小板の成長因子が持つ「組織修復能力」を利用して、皮膚を”若返り”させようとする治療法で、例えば床ずれ(褥瘡)や糖尿病の皮膚壊疽や潰瘍を治療する目的で研究が進められてきたものです。

 なにしろ、自分自身の血液を使うために感染症の心配がなく、元々持っている”自然の”再生能力を利用しようというものですから、非常に聞こえがいいわけです。はやりすたりのある美容医療のなかで人気が持続しているのはこのあたりに理由がありそうです。

 では実際に効果があるのでしょうか。医学誌『JAMA Dermatology』に興味深い論文が掲載されました。論文のタイトルは「紫外線で老化した顔面の皮膚の若がえりに対するPRP療法の効果(Effect of Platelet-Rich Plasma Injection for Rejuvenation of Photoaged Facial Skin)」です。

 研究の対象となったのは18~70歳の男女27人(平均年齢46歳、女性が17人)です。片側の頬にPRPを、もう一方の頬には生理食塩水をそれぞれ3mLずつ皮内注射しました。結果は興味深いものです。

 被験者の自己評価は、PRPで治療した頬は生理食塩水と比べて有意に改善しています。fine and coarse texture(訳しにくい!直訳すると「細かい繊維と荒い繊維」、要するに肌の「キメ」のことだと思います)が改善したと答えています。

 一方、皮膚科医が客観的に評価したところ、fine lines(小じわ)、mottled pigmentation(斑状の色素沈着)、skin roughness(あれ)、skin sallowness(黄染)のいずれの点でもPRPと生理食塩水に差はありませんでした。

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 客観的には効果がなくても施術を受けた本人が満足しているのだからそれでいいではないか、という考えもあるかもしれませんが、高額を支払う価値が本当にあるのかどうか、再考した方がよさそうです。

 ちなみに、谷口医院でPRP療法の相談をされたとき、これまでは「自己血を使うから危険性は低い。ただし有効とするエビデンスはない」と伝えてきました。今度相談されたときはこの論文の話をしてみようと思います。

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2018年11月30日 金曜日

2018年11月29日 育毛剤ミノキシジルはやはり危険

 テレビCMの影響もありすっかり有名になった「リアップ」の有効成分はミノキシジルです。濃度は5%が上限であり、これは「リアップx5」として販売されています。以前、ミノキシジル10-15%のものが米国で出回り、さらに個人輸入で世界中に販売され、FDAが警告をしたことを報告しました(医療ニュース「2012年1月30日アメリカ製の育毛剤で健康被害の可能性」)。

 FDAによれば、ミノキシジルは内服でなく外用であったとしても、低血圧や動悸、皮膚障害といった全身性の副作用が生じる可能性があります。

 さて、今回お伝えしなければならないのは、そのミノキシジルの内服を含むAGA薬により日本人が肝機能障害を発症した事象です。2018年10月30日付けで、厚生労働省医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課が発表した報告(タイトルは「国内未承認のいわゆる発毛薬の服用が原因と考えられる健康被害の発生について」)によれば、1日あたりフィナステリド1mgとミノキシジル5mgを3週間内服した40代の男性が肝機能障害を起こしました。

 男性は服薬を中止することにより軽快しているそうです。また、この薬は男性が個人輸入したものではなく医療機関で医師が個人輸入したものだったそうです。

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 フィナステリドも肝機能障害を起こすことがありますから、この肝機能障害の原因薬剤がミノキシジルと断定できるわけではないと思いますが、いずれにしても未承認のものを使用するときには充分すぎるほどの注意が必要でしょう。

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2018年11月30日 金曜日

2018年11月30日 コーヒーで酒さ予防

 患者数が多い割にはいまだに治療法が確立しておらず、メディアでも取り上げられることが少ない酒さ。アルコールと紫外線が悪化因子なのはおそらく間違いなく、他にもタバコ、生活習慣病、ピロリ菌などとの関係が指摘されています。その一方で、何をすれば良いという情報はあまりないのですが、今回コーヒーが酒さを予防するのではないか、という研究が公表されたので報告します。

 医学誌『The Journal of the American Medical Dermatology (JAMA Dermatology)』2018年10月17日号(オンライン版)に掲載された「Association of Caffeine Intake and Caffeinated Coffee Consumption With Risk of Incident Rosacea In Women.」というタイトルの論文です。

 この研究は、NHSⅡ(Nurses’ Health StudyⅡ)」と呼ばれる調査に協力した女性看護師82,737人が対象です。1991~2005年の間、コーヒー摂取と酒さの発症にどのような関係があったかが調べられています。同時に、お茶、ソーダ、チョコレートといった他のカフェインを含有する食品についても調べられています。

 結果は以下のとおりです。

・調査期間中に4,945例が酒さを発症した。

・カフェイン摂取量と酒さのリスクは逆相関の関係にあった。つまり、コーヒーをたくさん飲めば飲むほど酒さが起こりにくいことがわかった。

・1日に4杯以上のコーヒーを飲めば、1か月で1杯未満の場合に比べ23%リスクが下がっていた(相対リスク0.77)。カフェインレスのコーヒーでは有意差が出なかった。

・お茶、ソーダ、チョコレートからカフェインを摂取しても酒さのリスクは下がらなかった。

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 この研究だけで「酒さにはコーヒー!」と断定するのは時期尚早ですが、コーヒー好きには嬉しい結果です。ちょうどこのサイトを立ち上げた頃から、コーヒーについては肯定的な研究が続々と出てきています。

 ただし、酒さについては「発症リスクの低下」が示唆されているだけであり「発症後の治療」になると言われているわけではありません。

参考:
医療ニュース
2015年10月6日 酒さの原因は生活習慣と遺伝
2015年11月28日 酒さは生活習慣病や心疾患のリスク
2017年5月11日 白ワインは女性の酒さのリスク 
2017年6月2日 ピロリ菌除菌で酒さが大きく改善
2016年12月9日 コーヒー1日3杯以上で脳腫瘍のリスクが低下
2016年10月31日  認知症予防にはコーヒー?それとも緑茶?
2016年8月12日 加工肉はNGだがコーヒーはガンのリスクでない
2015年8月28日 コーヒーが悪性黒色腫を予防
はやりの病気
第22回(2005年12月)「癌・糖尿病・高血圧の予防にコーヒーを!」

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