医療ニュース

2025年9月15日 月曜日

2025年9月15日 猛暑は「老化」「早産」「暴力」「犯罪」「成績低下」などの原因

 熱中症に罹患したことがある人のなかには「えっ、この程度で熱中症?」と感じたことがある人も多いのではないでしょうか。「外出していないのに」「外は曇っていたのに」「そんなに短時間で……」など、まさかその程度で熱中症で倒れるなどとはまったく考えていなかったという人は少なくありません。

 そして、猛暑がやっかいなのは、頭痛、倦怠感などの狭義の熱中症をもたらすからだけではありません。他にも多くの疾患や症状のリスクがあります。しかも、それらも「えっ、その程度で?」というケースが思いのほか多いのです。ざっと挙げてみましょう。以下はすべて猛暑が原因となる症状です。

・イライラして気が短くなる。怒りっぽくなる

・認知機能が低下し、成績が低下する

・暴力が増え、犯罪が増える
(スパイク・リー監督『Do The Right Thing』は猛暑で人々が次第におかしくなっていく様子が描かれています)

・デッドボールが増える

・老化が促進され寿命が短くなる

 これらはすでに下記のメディアで紹介しました。

〇「毎日メディカル」2025年9月1日「怖いのは熱中症だけじゃない! 猛暑は老化を加速する」

〇「医療プレミア」2024年7月29日「炎熱の地球を生き延びる知恵~その3・暑さで低下する脳機能 試験の成績は落ち、犯罪も増える?~」(このコラムは近日無料化されます)

 今回は、これら2つのコラムで取り上げなかった論文を紹介したいと思います。

 1つは「猛暑が老化を加速する」ことを支持する台湾の研究です。上記「毎日メディカル」のコラムでも台湾の研究を紹介しているのですが、それは2024年に発表された、対象者は2,084人と比較的規模の小さなものでした。最近、より規模の大きな研究が発表されました。

 医学誌「Nature Climate Change」2025年8月25日号に「熱波による加速老化への長期的影響(Long-term impacts of heatwaves on accelerated ageing)」という論文が掲載されました。研究には台湾の24,922人のデータベースが用いられました。結果、猛暑下では年間0.023~0.031年、生物学的年齢が実際の暦よりも老化していたのです。

 「年間0.023~0.031年」といわれてもピンときませんし、「その程度ならいいんじゃないの?」と感じられますが、この数字、論文によると、喫煙、飲酒、運動不足などの健康阻害リスクと同じだといいます。

 では、どのような人がリスクになるのか。これは予想通り、肉体労働者や農作業従事者、そしてエアコンの少ない地域に住む人です。要するに、「年を取りたくなければ外出を控えてエアコンの効いた部屋で休んでおきなさい」ということです。しかし、上記「毎日メディカル」でも述べたように、そうすれば運動不足が促進され、どちらにしても老化が加速されてしまいます……。

 もう1つ紹介したい研究は「猛暑が早産の原因になる」とするものです。医学誌「Nature Medicine」2024年11月5日号に論文「熱中症が母体、胎児、新生児の健康に及ぼす影響に関する系統的レビューとメタアナリシス(A systematic review and meta-analysis of heat exposure impacts on maternal, fetal and neonatal health)」が掲載されました。

 この論文は、これまで66か国で発表された198件の研究を対象としたメタアナリシス(総合的に分析したもの)です。結果、出産前の1か月間に女性がさらされる平均気温が1℃上昇するごとに早産の確率が約4%増加することが分かりました。熱波に晒されれば早産の可能性は25%以上増加、さらに、高温への曝露は、死産のリスクを13%、先天異常のリスクを48%、妊娠糖尿病のリスクを28%増加させるといいます。

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 現在の夏はもはや昔のように「待ち遠しくてワクワクするシーズン」ではありません。真夏日には日中は自宅で過ごし、仕事を含め夜間に活動するような社会にしていくべきではないでしょうか。仕事のみならず、運動も日が暮れてからおこなえば運動不足にならずに済みます。日中の肉体労働や農作業に従事しなければならない場合は、「ひとりあたり1日〇時間まで、かつ年間△日まで」というようなルールを設け、リスクを社会全体で分けあうようにしていく政策が必要ではないかと思えます。

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

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