医療ニュース
2017年10月25日 水曜日
2017年10月25日 認知症の治療にイチョウの葉は有効か無効か
認知症の薬には保険診療で認められているものも4種類(先発品)ありますが(注1)、どれも劇的に効くわけではありません。ならばサプリメントに期待したいところですが、残念ながらこちらもいいものがありません。昔から「イチョウの葉」がいいのでは?と言われていますが、これはエビデンス(科学的確証)のデータベース「コクラン」で否定されています(注2)。
ですが、そのコクランの見解を覆すような研究、つまり、認知症にイチョウが有効という研究が発表されました。医学誌『International psychogeriatrics』2017年9月21日号(オンライン版)(注3)に掲載されています。
この研究では認知症の患者さんを2つのグループ(それぞれ814人)に分けて、一方にEGb761と呼ばれるイチョウ葉抽出エキス240mgを投与し、もう一方のグループにはプラセボ(偽薬)を投与しています。投与期間は22~24週です。結果、イチョウを投与したグループは有意にプラセボ群よりも認知症に関連するほとんどの症状が改善したそうです。
さらに、患者さん本人だけでなく介護者の苦痛も改善したそうです。
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これまでの見解を覆す興味深い研究ですが、これをもってしてイチョウに期待しすぎるのは時期尚早だと思います。副作用がないなら試してみてもいいのでは、という意見もあるでしょうが、私の経験上、イチョウのサプリメントはけっこうな頻度で頭痛を訴える患者さんがいます。特に片頭痛のエピソードがある人にこの傾向が顕著です。
認知症は予防も治療も決定的なものがあるとはいえませんが、それでも食事、運動、学習、行動などでリスクが低減するとされているものもありますから、まずはそういった知識を集めるのがいいでしょう。このサイトでも追って新しい情報をお伝えしていきたいと思います。
注1:下記を参照ください。
はやりの病気第95回(2011年7月)「アルツハイマーにどのように向き合うべきか」
注2:コクランのレポートは下記で読むことができます。尚、ページ上方の「日本語」をクリックすれば日本語訳をも読めます。
注3:この論文のタイトルは「Treatment effects of Ginkgo biloba extract EGb 761R on the spectrum of behavioral and psychological symptoms of dementia: meta-analysis of randomized controlled trials」で、下記URLで概要を読むことができます。
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|2017年10月23日 月曜日
2017年10月23日 骨折予防にビタミンDやカルシウムは無効
骨を丈夫にして骨折を防ぐためにビタミンDやカルシウムのサプリメントを摂取している人は少なくありませんし、処方薬としてビタミンDを内服している人もいます。ですが、これらの効果は疑わしく、米国予防医療作業部会(U.S. Preventive Services Task Force、以下「USPSTF」)は正式にそれを公表しました。USPSTFの詳細にわたる報告も無料で全文が公開されていますが(注1)、いくつかの米国のメディアが内容をまとめたものを報道しているので(注2)、ここではそちらをまとめたものを紹介したいと思います。
まず、高齢者の骨折がどれほど重要なものかを数字でみてみましょう。2014年に米国で転倒で救急外来を受診したのは約280万人。そのうち約80万人が入院し、1年以内に約27,000人が死亡しています。また、数字には出ていませんが、死亡を免れたとしても寝たきり、あるいはそれに近い状態になる人は多数いるはずです。そして、米国では65歳以上の3人に1人は少なくとも年に一度は転倒していると言われています。
これを聞くと、では転倒程度では骨折しない丈夫な骨をつくろう、と誰もが思います。そして、従来はビタミンDとカルシウムが有用と言われてきました。結論から言えば、USPSTFの見解はそれをほぼ否定するものです。つまり、それらを積極的に摂取した人に骨折が少ないわけではなく、USPTFとしては骨折予防のためのビタミンDおよびカルシウムの摂取を推奨しないとしたのです。
もっとも、これらの骨折予防効果は以前から乏しいと言われており、エビデンス(科学的確証)のデータベースである「コクラン」も完全には効果を否定していないものの似たような報告をおこなっています(注3)。
一方、米国医学研究所(National Academy of Medicine)とWHOは、健康改善を目的としたビタミンDとカルシウム摂取を推奨していますが、どちらの組織も骨折予防のためのサプリメントは推奨していません。
ではどうすればいいのか。USPSTFが推奨するのは「運動」です。米国保健福祉省(The US Department of Health and Human Services)が提唱している次の運動メニューを勧めています。
・少なくとも週に150分の中~高強度の運動。または、週75分の激しい運動。
・週に2回の筋トレ
・週に3日以上のバランストレーニング
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私が感じる日米の違いを2点指摘しておきます。
ひとつは、日本では今でも医療機関でビタミンDやカルシウムが骨折の再発予防などに処方されていることです。エビデンスに乏しい治療がいけないわけではありませんが、運動の重要性が同時に説明されているか、あるいは説明されていたとしても実践できているかどうかを一度見直す必要があるでしょう。
もうひとつは運動指導についてです。日本では多くの医療者が高齢者の骨折予防にウォーキングを勧めています。一方、米国で推奨されているのは中から高強度の運動(moderate-intensity exercise)ですから、通常のスピードのウォーキングでは不十分ということになります。もちろん運動は「続けること」が最重要ですから、できない運動の指導をすることには意味がありませんが、強度を上げなければ効果に乏しいことは知っておく必要があります。
注1:下記を参照ください。
注2:この記事のタイトルは「USPSTF Draft Recommendations for Falls and Fracture Prevention」です。下記URLを参照ください。
https://www.medscape.com/viewarticle/886193
注3:コクランのウェブサイトで読むことができます。レポートのタイトルは「Vitamin D and related vitamin D compounds for preventing fractures resulting from osteoporosis in older people」です。下記URLを参照ください。尚、この報告はページ上部の「日本語」というところをクリックすれば日本語でも読めます。
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|2017年10月10日 火曜日
2017年10月10日 認知症になりにくい性格とは?
どのような病気ならかかってもいいか、どのような病気で死にたいか、という議論になったとき、一般の人たちからは理解しがたいかもしれませんが、「がん」を挙げる医療者は少なくありません。最大の理由は、死期が予想できるために身の回りの整理ができ時間を効率的に使えること、です。がんに伴う痛みは苦痛ですが、現在では痛みのコントロールはそうむつかしくはありません。
世間では、「一瞬であの世にいける病気」で死にたい、と考える人が多いようで、例えば、つい先ほどまで元気だったけど心臓発作が起こり数分後には他界するという「ピンピンコロリ」が理想と言う人がいます。死の苦しみが一瞬で終わることが”人気”の理由でしょう。その他、「老衰」というのはよくある答えですし、「飛行機事故」などを挙げる人もいます。
では、ほとんどすべての人が「なりたくない病気」に挙げるのは何でしょう。おそらく「認知症」ではないでしょうか。しかし認知症になる人は非常に多く、高齢になればなるほどその可能性は高くなります。長生きしたい、という人は大勢いますが、ほぼ全員が「認知症にならなければ」という条件をつけています。
では、認知症を避けるために何をすべきなのでしょう。残念ながらがんの予防ほど確立した予防法があるとは言い難いのが現実です。がんであれば、例えば、胃がん→ピロリ菌除菌、肝臓がん→ウイルス性肝炎の治療・アルコール制限・肥満抑制、子宮頸がん→HPVワクチン、一部の乳がん→乳房切除、などがあります。一方、認知症の場合はここまではっきりとした予防法があるとはいえません。ですが、リスクが下がる可能性のあるものは知っておきたいものです。過去にいくつかお伝えしましたし(下記コラム参照)、こういった研究は頻繁に報告されますから、また改めてまとめてみたいと思いますが、今回紹介したいのは「性格」についてです。
「誠実」は認知症を予防する…。
医学誌『Psychological Medicine』2017年9月6日号(オンライン版)にこのような研究が報告されました(注1)。米国の研究です。
対象者は米国の11,181人。認知症の発症と性格の相関関係が分析されています。調査期間中に278人が認知症を発症、軽度の認知障害(CIND, cognitive impairment not dementia)の診断がついたのは2,186人でした。
最も認知症のリスクを減少させたのは「責任感」であり、なんと35%もリスクが減少するという結果がでています。また、「自制心」「勤勉」もリスク低下に寄与していることがわかりました。
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人の内面を現す単語はニュアンスを伝えるのがむつかしいので原語も紹介しておきます。上記の「誠実」「責任感」「自制心」「勤勉」はそれぞれ下記のとおりです。
Conscientiousness → 誠実
responsibility → 責任感
self-control → 自制心
industriousness → 勤勉
このなかでなぜConscientiousnessが大文字で始まっているのか、私には理解できませんでした。責任感、自制心、勤勉は、すべて「誠実」の要素ということでしょうか。それはさておき、これらは人間社会の原則とも呼べるべきものであり、これらを実践していれば、他人と良好な関係を維持しながら結果としてストレスを減らすことにつながります。
強すぎる責任感はストレス過多につながり精神を病むこともありますから、ほどほどにする必要がありそうですが…。
注1:この論文のタイトルは「Facets of Conscientiousness and risk of dementia」で、下記URLで概要を読むことができます。
参考:
はやりの病気第151回(2016年3月)「認知症のリスクになると言われる3種の薬」
はやりの病気第131回(2014年7月)「認知症について最近わかってきたこと」
医療ニュース
2017年4月7日「血圧低下は認知症のリスク」
2017年6月26日「少量の飲酒でも認知症のリスク!?」
2016年6月30日「酒さが認知症のリスク」
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|2017年10月6日 金曜日
2017年10月6日 歯科医院の半数は依然医療器具使い回し
院内感染とは、医療機関内で不潔な医療器具などを通して感染症に感染させられることを言います。致死的な感染症になりうるB型肝炎(HBV)、HIV、C型肝炎(HCV)などに感染させられるようなことは絶対に避けなければなりませんが、日本の歯科医院ではいつ起こってもおかしくありません。
なんと日本では、歯の治療で使われるハンドピース(歯を削るドリル)の滅菌をおこなっていない歯科医院が異常に多いのです。私はこれは大きな問題だと考え、過去に2回問題提起したことがあります(注1)。
当たり前の話ですが、ハンドピースの使いまわしなど絶対にあってはならないことです。それが過去のコラムで紹介したように、2012年の時点で何と7割もの歯科医院がきちんと滅菌していなかったのです。そして、今回、厚労省が研究班の新たなアンケート結果を2017年5月に公表しました(読売新聞2017年9月27日)。
結果は、半数が依然使いまわしをしていることが判りました。7割から5割に改善した!、と考えるわけにはいきません。きちんと滅菌する歯科医院が100%でなくては、一般市民が安心して受診できないからです。100%の歯科医院がきちんと滅菌していることが当然なのです。
読売新聞の報道から数字を取り上げてみましょう。アンケートに回答したのは700施設。下記が回答です。
患者ごとに交換、滅菌: 52%
感染症患者の場合交換、滅菌: 17%
血が付いた場合などに交換、滅菌: 16%
消毒薬で拭く: 13%
過去のコラムでも述べたように、「感染症患者の場合交換」と回答すること自体が信じられません。これも過去に述べましたがHIV陽性者が歯科医院を受診するとき、大半が感染していることを隠しています。また、HIV感染に気付いていない人も少なくありません。
「血が付いた場合などに交換」も呆れる回答です。血液は微量なら見ても分かりませんし、HBVは唾液にも含まれているからです。
では、どのようにしてきちんと滅菌している歯科医療を見つければいいのでしょうか。実は、この答えは簡単です。滅菌してますか?と滅菌していない医療機関に尋ねても、真実は話さないでしょう。そこで、「この歯科医院ではHIV陽性者も診ていますか?」と尋ねればいいのです。きちんと対策をとっているところであれば「もちろん診察しています」という答えが返ってきます。
私が患者として受診している歯科医院もHIV陽性の患者さんが受診し、もちろん滅菌は完璧におこなわれています。
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注1:下記の2つのコラムです。
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