医療ニュース
2017年4月28日 金曜日
2017年4月28日 抗菌薬の長期投与は大腸がんのリスク
20~50代で抗菌薬を長期間使用すると大腸がんのリスクが増える…
これは医学誌『Gut』2017年4月4日号(オンライン版)に掲載された研究結果(注1)です。もう少し正確に言えば、抗菌薬長期使用で、結腸と直腸(大腸の肛門に近い部分)に「腺腫」と呼ばれる腫瘍ができやすいことが分かったという研究です。「腺腫」は時間がたつと「がん」になることもあります。
研究の対象者は米国の女性看護師です。NHS(Nurses’ Health Study)と呼ばれる大規模調査に参加した16,642人(2004年の時点で60歳以上)です。20~59歳のときに抗菌薬をどの程度使用したかを聞き出し、2008年には「最近の」抗菌薬の使用状況を確認しています。2004~2010年の間に大腸内視鏡検査がおこなわれ、結果1,195人に「腺腫」がみつかっています。
腺腫と抗菌薬使用の関係を分析すると、とても興味深い結果が出ました。20~30代で2ヶ月以上抗菌薬を使用した人は、使用していない人に比べて腺腫発症のリスクが36%も高く、40~50代で使用した人では69%も高かったのです。
まだあります。20~39歳で15日以上抗菌薬を使用し、さらに40~59歳でも15日以上使用した人は、まったく使用していない人に比べて、なんと73%も腺腫のリスクが上昇するというのです(下記の表)。
40-59歳 使用なし 1-14日 15日以上
20-39歳
使用なし 1.00 1.29 1.26
1-14日 1.06 1.37 1.47
15日以上 1.01 1.56 1.73
なぜ、抗菌薬を用いれば腺腫のリスクが上昇するのか。研究者らは腸内細菌叢が乱れることが原因だと指摘しています。尚、「最近の」抗菌薬の使用ではリスクが上昇していません。
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腸内細菌叢(最近は「腸内フローラ」と呼ばれることが増えてきました)の乱れが様々な疾患のリスクになることが分かってきています。重症の下痢をきたすクロストリジウム・ディフィシル感染症、クローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性疾患、花粉症や喘息などのアレルギー疾患、また最近では肥満や精神疾患の原因も腸内細菌叢の乱れが原因である証拠が増えつつあります。そして腸内細菌叢が乱れる最も大きな原因は「抗菌薬の過剰使用」です。
抗菌薬の使用が大腸がんのリスクにもなるのであれば、抗菌薬適応には今以上に慎重になるべきでしょう。このサイトでも何度も指摘していますが、抗菌薬を気軽に求める患者さんは少なくありません。使用は必要最小限にすべきです。
「風邪で抗生物質をください」という患者さんに、「この風邪は抗菌薬が不要です」という説明をするのに苦労することがありますが、日ごろ私がもっと問題だと感じている抗菌薬の使用があります。それは「ニキビ」に対する使用です。「過去に2か月間抗生物質を飲んでいた」という患者さんがときどきいます。腸内細菌叢についてどのように考えているのでしょうか。太融寺町谷口医院はニキビの患者さんも少なくありませんが、抗菌薬内服はせいぜい1週間の処方にしています。
注1:この論文のタイトルは、「Long-term use of antibiotics and risk of colorectal adenoma」で下記URLで概要を読むことができます。
http://gut.bmj.com/content/early/2017/03/16/gutjnl-2016-313413
参考:
毎日新聞「医療プレミア」
花粉症もアトピーも抗菌薬が原因かも?
やせられない… それは抗菌薬が原因かも
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|2017年4月28日 金曜日
2017年4月28日 胃薬PPIは認知症患者の肺炎のリスク
つい数年前まで「最も優れた胃薬」と考えられていたPPI(プロトンポンプ阻害薬)の弊害が次々と指摘されています。インパクトが強かったのが認知症のリスク(注1)になるというものですが、他にも様々な副作用や弊害が指摘されています(下記「医療ニュース」参照)。
今回紹介したいのは、「認知症患者にPPIを用いると肺炎のリスクが9割も上昇する」というものです。
医学誌『Journal of the American Geriatrics Society』2017年3月21日号(オンライン版)に台湾の研究(注2)が紹介されています。
研究の対象者は、PPIを投与された認知症患者786人です。PPIを投与されていない認知症患者との比較がおこなわれました。結果、PPIを投与されると89%も肺炎のリスクが上昇することが分かったのです。
他の肺炎のリスクとしては、年齢(5%の上昇、以下同様)、男性(57%)、脳血管疾患の既往(30%)、慢性肺疾患(39%)、うっ血性心不全(54%)、糖尿病(54%)、向精神薬の使用(29%)という結果です。
興味深いのは、H2ブロッカーと呼ばれる、PPIとよく比較される胃薬を用いれば肺炎のリスクが低下するという結果がでたことです。
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おしなべて言えば、PPIはH2ブロッカーよりもよく効きます。ですが、太融寺町谷口医院の患者さんで、胃炎、胃潰瘍、逆流性食道炎などでPPIでなければコントロールできないという人はそう多くありません。前医でPPIを処方されていても、症状が安定していればH2ブロッカーに変更できることも多々あります。
漢方薬なども含めて他の胃薬を併用したり、食生活の習慣を見直してもらったりして、PPIからの離脱に成功することはそう珍しくありません。以前は「安全」と言われていましたが、これだけリスクが指摘されていますから、今後PPIの使用は最小限にすべきでしょう。
注1:下記を参照ください。
はやりの病気第151回(2016年3月)「認知症のリスクになると言われる3種の薬」
注2:この論文のタイトルは「Association of Proton Pump Inhibitors Usage with Risk of Pneumonia in Dementia Patients」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jgs.14813/abstract
参照:医療ニュース
2017年1月25日「胃薬PPIは細菌性腸炎のリスクも上げる」
2016年12月8日「胃薬PPI大量使用は脳梗塞のリスク」
2016年8月29日「胃薬PPIが血管の老化を早める可能性」
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|2017年4月7日 金曜日
2017年4月7日 血圧低下は認知症のリスク
高血圧は生活習慣病のリスクであり、減塩・運動・減量では下がりきらず、降圧薬を使わざるを得ない人も少なくありません。適度な血圧を維持することは、将来の脳卒中や心筋梗塞を予防するために重要なことですが、血圧が下がることは「認知症」のリスクになります。最近、2つの研究が報告されました。
ひとつめの報告は医学誌『Alzheimer’s & Dementia』2017年2月号に掲載されています(注1)。ポイントをまとめます。
・認知症を患っていない90歳以上の対象者559人(米国人)を約3年調査したところ、(なんと)40%が認知症を発症した。
・80歳以降で高血圧を発症した人は、90代で認知症を発症するリスクが正常血圧の人に比べて42%低かった。
・90歳以降で高血圧を発症した人は、90代で認知症を発症するリスクが正常血圧の人に比べて63%低かった。
・以上の関連性は降圧薬を服用しても変わりはなかった。
ということは、80代以降に高血圧を発症すれば、認知症になりにくく、また動脈硬化のリスクは降圧薬服用で下がるのだから、高血圧を発症した方が心身ともに健康で長生きできることを意味しています。むしろ、90歳をこえれば4割もが認知症になるのなら、高血圧を起こすためにどうすればいいかを考えたくなってきます。
もうひとつ紹介したいのはスウェーデンの大規模調査です。医学誌『European journal of epidemiology』2017年2月11日号(オンライン版)に掲載されています(注2)。
対象者は同国の18,240人(平均年齢45歳±7歳、男性63%)であり、1974~92年に安静時と体位変換時の血圧が測定されています。そして2002~2006年に再度安静時の血圧が測定されています(平均年齢68±6歳)。結果は以下の通りです。
・2009年12月末までに428人(2.3%)が認知症を発症した。
・調査開始時の起立時の拡張期血圧(下の血圧)が低ければ認知症のリスクが高かった。10mmHg低下するごとに1.22倍のリスク上昇。これは(安静時に)正常血圧である場合にリスク上昇となる。
・2002~06年の再検査で、血圧が高くなっていれば認知症のリスクは低下していた。収縮期血圧(上の血圧)は10mmHg上昇していれば6%のリスク低下、拡張期は10mmHg上昇していれば13%低下。
・2002~06年の再検査で、最も血圧が下がっていたグループは、血圧が最も上昇していたグループと比較すると、認知症のリスクが大きく上昇していた。収縮期の低下は46%のリスク上昇、拡張期の低下は54%の上昇。
こちらは比較的若い世代での検討です。40代でも60代でも血圧が低いことは認知症のリスクとなり、年をとってから血圧が下がった場合は、リスクが大幅に増加することを示しています。
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この2つの研究、日本のメディアはあまり取り上げていませんが、もっと注目されてもいいのではないでしょうか。血圧を下げることに躍起になっている人は少なくありません。もちろん認知症のリスクは血圧だけで予測できるわけではありませんし、民族間の差もあると思われます。
私の知る限り、日本では低い血圧が認知症のリスクと結論づけられた研究は見当たりません。私が診察室でよく感じるのは、数字にこだわりすぎる人が多い、ということです。(もちろん血圧にまったく無関心な人も少なくありませんが…) 収縮期血圧、拡張期血圧がどれくらいが理想かというのは、その人の年齢、性別、体重、運動量、ライフスタイル、これまでの病気などによってまったく異なります。メディアが語る「理想の数字」に囚われるのではなく、ひとりひとりがかかりつけ医と相談すべきであることは間違いありません。
注1:この論文のタイトルは「Age of onset of hypertension and risk of dementia in the oldest-old: The 90+ Study」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://www.alzheimersanddementia.com/article/S1552-5260(16)32962-4/fulltext
また、下記URLで一般向けのプレスリリースを読むことができます。こちらの方が英語が分かりやすくておすすめです。
http://alz.org/documents_custom/high-bp_statement_011717.pdf
注2:この論文のタイトルは「Longitudinal and postural changes of blood pressure predict dementia: the Malmö Preventive Project」で、下記URLで概要を読むことができます。
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|2017年4月3日 月曜日
2017年4月3日 グルテンフリー食は糖尿病のリスク?!
過去のコラム(「はやりの病気」第158回(2016年10月)「「コムギ/グルテン過敏症」という病は存在するか」)で紹介したように、太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)には、コムギ/グルテンフリー食を実践している患者さんが少なくありません。
医学的根拠はないものの「コムギ/グルテン過敏症」が存在する可能性は否定できず、私自身はこの疾患の存在を100%の確証を持って肯定しているわけではありませんが、実践して調子がいい、という患者さんは応援するようにしています。
その理由のひとつが、コムギ/グルテンを除去することで糖質摂取が制限され、また、米は食べていますから、適度な「糖質制限」ができるからです。「糖質制限」についても私自身は「完全肯定」しているわけではありませんが、経過観察を続けながらやり過ぎないように実践する分にはかまわないと考えています。
ですから、適度なコムギ/グルテンフリー食は糖尿病や肥満の予防になるのではないかと考えていました。ところが、です。「グルテンフリー食にすると糖尿病のリスクが上昇する」という研究が最近報告されました。米国心臓協会(American Heart Association)がウェブサイトで報告(注1)しています。
研究は、医療従事者を対象とした3件(NHS (Nurses’Health Study), NHSⅡ(Nurses’Health StudyⅡ), HSPS(Health Professionals Follow-up Study))の疫学調査のデータ合計199,794人分を解析することによりおこなわれています。結果、グルテン摂取量が最も多い上位20%のグループは、最も少ないグループ(4グラム/日未満)に比べて、糖尿病のリスクが13%低下していたのです。
なぜ、グルテンフリー食は糖尿病のリスクを上昇させるのか。研究者らは「食物繊維」が要因のひとつと考えています。つまり、グルテンを含む食品には食物繊維が豊富に含まれており、これが糖尿病の予防になるのではないかという考えです。さらに、研究者らは、グルテンフリー食はビタミンやミネラルといった微量元素が不足する可能性についても言及しています。
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食物繊維をしっかり摂れば肥満や糖尿病のリスクを軽減できることが最近よく指摘されます。そして、食物繊維というのは量をある程度摂らねばならないことから、食品から取り出してサプリメントや健康食品をつくることが困難です。しかも、食物繊維には様々な種類があります。結局、効果的に食物繊維を摂取するには「バランスの良い食事をする」のが最も現実的です。
この研究は米国人を対象としています。日本食の場合、野菜、海藻、いも類、あるいは玄米などから食物繊維を摂取することができます。本文でも述べたように、私自身はグルテンフリー食を否定も肯定もしていませんが、日本食をバランスよく摂取するのであれば、この報告に影響を受けてやめる必要はないと考えています。
注1:このレポートのタイトルは「Low gluten diets may be associated with higher risk of type 2 diabetes」で、下記URLで読むことができます。
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