医療ニュース
2016年10月28日 金曜日
2016年10月28日 片頭痛があれば甲状腺機能低下症にも注意
病気には性差というものがあります。例えば、関節リウマチは女性の方が多いですし、慢性炎症性腸疾患のクローン病は男性に多い疾患です。
頭痛は男女ともに起こりますが、頭痛の種類によって男女差は異なります。アルコールが引き金になることが多い「群発頭痛」は男性に多い一方で、片頭痛は女性に多いという特徴があります。
甲状腺疾患は男性でも珍しくありませんが女性に多いのは間違いありません。特に「甲状腺機能低下症」は圧倒的に女性に多い疾患です。
片頭痛、甲状腺機能低下症とも比較的よくある疾患(common disease)であり、両者を合併している患者さんも少なくありません。しかし、これら2つの疾患のメカニズムは互いに関係なく、どちらかを発症するともう一方の疾患のリスクが上がるとは理論上は言えないと思われてきましたが、そうではないかもしれません。
片頭痛を有している患者は、甲状腺機能低下症のリスクが4割も上昇する・・・。
医学誌『HEADACH』2016年9月27日号(オンライン版)に掲載された論文(注1)にこのようなことが述べられています。
研究の対象者は、米国オハイオ州在住の成人8,788人(最終的に解析の対象となったのは8,412人)で、20年間の追跡調査がおこなわれました。その結果、頭痛全体では甲状腺機能低下症を発症するリスクが21%高くなり、片頭痛に限定すれば41%も上昇することが判ったそうです。
ただし、この論文では、片頭痛が甲状腺機能低下症を引き起こす(あるいはその逆の)ことを理論的に説明しているわけではなく、関連性の機序は不明のままです。
研究者によれば、甲状腺機能低下症の治療をおこなえば、頭痛の頻度が減少することが期待でき、また、頭痛があり甲状腺機能低下症を新たに発症すると頭痛の頻度が増えることがあるそうです。
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この論文では、米国の片頭痛の有病率が12%、甲状腺機能低下症は0.1~2%とされています。日本では、片頭痛については数値が高くでた研究でも10%を超えませんから、米国人の方が多いのでしょう。一方、甲状腺機能低下症は、日本では2%ということはなく、少なくとも数パーセントはあります。高齢女性に限定すると10%とするものもあります。また、甲状腺機能低下症の原因となる「橋本病」は疾患名から分かるように日本に多い疾患です。
これらを考えると、米国と日本では同じように考えることができず、日本での片頭痛と甲状腺機能低下症の関連性は現段階では不明です。しかし、甲状腺機能低下症の症状である、便秘、低体温、浮腫(むくみ)、低血圧などがあり、なおかつ片頭痛を持っている患者さんには、甲状腺の検査をすべきかもしれません。
注1:この論文のタイトルは「Headache Disorders May Be a Risk Factor for the Development of New Onset Hypothyroidism」で、下記URLで概要を読むことができます。ただし、上記「41%の上昇」については概要には記されておらず、論文の本文に記載されています。論文は有料になりますので、ここではその該当箇所だけ原文を載せておきます。(論文の6ページの左に該当箇所があります)
Our study found that patients with preexisting headache disorders had a 21% increased risk of developing new onset hypothyroidism while those with possible migraine showed an increased risk of 41%.
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|2016年10月14日 金曜日
2016年10月14日 コンタクトスポーツ経験者の3割以上が慢性外傷性脳症
なぜか日本ではそれほど注目されていないものの、世界では、特にアメリカで近年最も注目されている脳疾患が慢性外傷性脳症(CTE)であるということを、以前述べました(注1)。
なにしろ、元々は通称「パンチドドランカー」と呼ばれていた、元ボクサーにみられる、若年にして認知症を発症するこの恐怖の疾患が、実はボクサーのみならず、アメリカンフットボールやサッカー、さらに野球選手にも起こり得る、それもけっこうな頻度で起こることが明らかとなり、NFL(ナショナル・フットボール・リーグ)もそれを認め、オバマ大統領は「自分に息子がいればフットボールはさせない」と公言したのです。
コンタクトスポーツ経験者の3割以上が慢性外傷性脳症(CTE)に・・・
この衝撃的な事実は、医学誌『Acta Neuropathologica』2015年10月30日号(オンライン版)に掲載されました(注2)。研究は米国の脳バンク(ブレインバンク)に集められた脳の検体が対象とされています。
脳検体を用いて病理学的な考察がおこなわれています。合計1,721名の男性のなかで66人がアメリカンフットボールやサッカーなどのコンタクトスポーツの経験があります。その66人の脳を分析すると、なんと21人(32%)に慢性外傷性脳症の病理所見が見つかったのです。
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この疾患が有名になったきっかけは、米国のアメリカンフットボールのスーパースター、マイク・ウェブスターの悲惨な人生です。かつてのスーパースターは、引退後、奇妙な行動をとり始め、精神症状に悩まされ、家を失い、妻に去られ、末路はホームレスでした。認知症が進行していたのです。
その後、次々に元アメリカンフットボールの選手、野球選手、プロレスラーなどがこの疾患を発症していることが明らかとなりました。先に述べたようにオバマ大統領が「自分の息子には・・・」と述べたこともあり、現在米国では大きな議論を読んでいます。
翻って日本では、ほとんど話題にさえなっていません。コンタクトスポーツ経験者の3割以上がCTEに・・・。この論文がもっと議論されるべきではないか、私はそう考えています。
注1:下記を参照ください。
はやりの病気第137回(2015年1月)「脳振盪の誤解~慢性外傷性脳症(CTE)の恐怖~」
注2:この論文のタイトルは「Chronic traumatic encephalopathy pathology in a neurodegenerative disorders brain bank」で、下記URLで概要が読めます。
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|2016年10月8日 土曜日
2016年10月8日 対馬での日本脳炎「集団感染」の謎
すでにマスコミで報道されているように2016年9月末に対馬で合計4人の日本脳炎発症者が確認されました。対馬は、地理的には福岡県または佐賀県と釜山の中間くらいに位置した島ですが、行政上は長崎県になります。その長崎県の発表によれば、感染した4人には行動範囲などに共通性がないことから、集団感染や院内感染は否定されています。
4名の患者は、70歳代の男性2人と80代の男女1人ずつです。
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この報道がとても不可解なのは、対馬には豚がいないはずだからです。日本脳炎ウイルスは豚→蚊(コガタアカイエカ)→ヒトと感染します。感染者がいるということはコガタアカイエカは必ず対馬にいます。たとえまだ蚊が発見されていなくても確実に存在します。しかし、豚は(まさか野生の豚はいないでしょうから)養豚場がなければ存在しているはずがありません。
にもかかわらず日本脳炎が発症したのはなぜなのでしょう。一部の報道ではイノシシ(野生のイノシシはいるでしょう)が豚の代わりとなったのではないかと言われていますが真相はわかっていません。
ところで、私はこのコラムのタイトルに「集団感染」という言葉を入れました。長崎県が正式に「集団感染」を否定しているのに、です。この理由を述べたいと思います。報道されているように確かに4人の患者には共通点がありません。しかし、日本脳炎は感染しても、発症するのは、100人から1,000人にひとりくらいです。そして対馬の人口は3万人程度のはずです。仮に1,000人に1人発症したとすると、4人の発症者は感染者4千人を意味します。人口3万人のうち4千人が感染したとすると、感染率は10%を超えます。これは立派な「集団感染」です。
過去の医療ニュースでお伝えしたように、2016年7月11日、韓国保健福祉部は、韓国全土に「日本脳炎警報」を発令しました。イノシシが感染源になっているかどうかは別にして、コガタアカイエカが朝鮮半島から対馬にかけて大量発生しているのは間違いないでしょう。
参考:
医療ニュース2016年7月13日「韓国全土に日本脳炎警報」
はやりの病気第63回(2008年11月)「日本脳炎を忘れないで!」
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