医療ニュース

2016年4月27日 水曜日

2016年4月27日 ダイエットには充分なタンパク質を

  最近、水が最強のダイエット飲料であるという情報を紹介しました(注1)。これは、ほとんどコストゼロでできる簡単で(度を超さなければ)安全なダイエット法であり、体重が気になる人はすぐにでも実践すべきでしょう。今回お伝えするのも、比較的簡単にできて、しかも苦痛を伴わない方法です。

 タンパク質の豊富な食事は満腹感を早くに得られる・・・

 医学誌『Journal of the Academy of Nutrition and Dietetics』2016年3月3日号(オンライン版)にこのような研究結果が報告されています(注2)。

 この研究は、米国インディアナ州Purdue大学のRichard D. Mattes氏らによっておこなわれました。研究の方法は、新たに被験者を募ったわけではなく、これまでに発表されている多くの論文を総合的に解析するというものです。(これをメタ解析と呼びます)

 結果、タンパク質を豊富に取れば、タンパク質が少ないときよりも満腹感が早く得られることが分かったそうです。この理由について、研究者は、タンパク質がいわゆる「満腹ホルモン」の分泌を促しているのではないかと推測しています。どのくらいのタンパク質を摂取すれば満腹感を得られるのかについては、はっきりと言及していません。

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 体重が気になる人がいればすぐにでも試してみるべきかもしれません。水が有効という研究もあるわけですから、食事前にまず水を飲み、その後野菜のみならずタンパク質も積極的に摂るようにして、満腹ホルモンの分泌が終わってから、少量の脂肪、最後に少量の炭水化物という流れがダイエットには理想ということになります。

注1:下記を参照ください。
医療ニュース2016年4月4日「最強のダイエット飲料は「普通の水」」

注2:この論文のタイトルは「The Effects of Increased Protein Intake on Fullness: A Meta-Analysis and Its Limitations」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://www.andjrnl.org/article/S2212-2672%2816%2900042-3/abstract

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2016年4月26日 火曜日

2016年4月26日 睡眠不足で食欲亢進はカンナビノイドが原因

 睡眠時間が短いとダイエットの効果が乏しくなるという研究を以前お伝えしたことがあります(注1)。この研究は、同じ食事量でも睡眠不足があるとやせにくい、とするものです。そして、睡眠不足がダイエットに不向きな理由はまだあります。睡眠時間が短いと食欲が亢進することを実感したことのある人は多いのではないでしょうか。今回お伝えしたい研究はそのメカニズム解明につながるかもしれない興味深いものです。

 睡眠不足になるとカンナビノイドが増加する・・・

 カンナビノイドと聞いて分からないという人もいるかもしれませんが、これは誰もが知っている物質です。それは「大麻」です。多幸感をもたらす大麻の成分がカンナビノイドなのです。(正確にはカンナビノイドにもいくつかの種類があり、多幸感と無縁のものがありますがここではその説明に踏み込みません)

 大麻は日本では今も違法であり、世界各国でも前世紀までは一部の国と地域を除いて違法でしたが、ここ10年くらいで合法とする国が一気に増えました。南米、ヨーロッパでは多くの国が合法になり、アメリカでもいくつかの州ですでに合法です。また、日本を含む違法の国であっても入手するのはそうむつかしくありませんから、興味本位で試したことがあるという人もいるでしょう。大麻には依存性もありますし(大麻推進派は「ない」と言いますが、ないわけではありません)、副作用も少なくありませんから安易に手を出すべきではないと私は考えています。そして大麻フリークの人たちも「これだけは困る・・・」と口をそろえて言う”副作用”があります。それが「食欲亢進」です。

 今回紹介する研究は米国シカゴ大学が運営している『SCIENCE Life』と名前のウェブサイト(注2)に報告されています。

 この研究の対象者は20代の健常なボランティア男女14人です。最初の4日間は8.5時間、残りの4日間は4.5時間の睡眠時間が与えられました。(実際の平均睡眠時間は7.5時間と4.2時間) 全日程において1日3食の食事が与えられ、定期的な血液検査がおこなわれました。

 結果、睡眠時間が短ければ、血中カンナビノイド値が、充分な睡眠時間のときに比べて33%も上昇していました。さらに、睡眠時間が充分なときは、血中カンナビノイドは昼食後にピークとなり、その後次第に下降していくのですが、睡眠不足があれば、血中カンナビノイド値の立ち上がりが遅く、午後の遅い時間から上昇し、夕方から夜遅い時間まで高値を維持したままであることが分かりました。

 そして、実際に血中カンナビノイドが高いままの睡眠不足になると、空腹を訴え続け、差し出されたスナック菓子を、睡眠時間が充分なときに比べ2倍近い量を食べたそうです。そして、カロリー摂取量は睡眠時間が充分なときに比べ50%も上昇し、摂取脂肪量にいたっては2倍にもなったそうです。

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 睡眠不足があれば、同じカロリー摂取であっても太りやすいだけでなく、食欲が大幅に亢進するというわけです。

 現在、日本でも大麻を解禁すべきという意見が増えてきているようですが、太ることに敏感な日本人の性格を考えると、太るなら大麻なんていらない、という声が上がり、意外にも世論が「大麻解禁反対」となるかもしれません。

 それにしても多幸感をもたらすカンビノイドが体内で合成されるというのは興味深いと言えます。ヘロイン(麻薬)やメタンフェタミン(覚醒剤)も、なぜ多幸感や興奮をもたらすかというと、これらに似た物質が体内でつくられるからです。ならば、いわば天然の大麻、麻薬、覚醒剤などを思いのままに脳内で作り出せることができれば随分精神状態が安定するのではないか、というのは私が長年考えていることです。いずれ、このことについても詳しく述べたいと思います。

注1:はやりの病気第139回(2015年3月)「不眠症の克服~「早起き早寝」と眠れない職業トップ3~」の中で紹介しています。

注2:このレポートのタイトルは「Sleep loss boosts hunger and unhealthy food choices」で、下記URLで読むことができます。

https://sciencelife.uchospitals.edu/2016/02/29/sleep-loss-boosts-hunger-and-unhealthy-food-choices/

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2016年4月25日 月曜日

2016年4月25日 ノロウイルスの有効な予防法

 毎年冬から春にかけてノロウイルスを代表とする感染性胃腸炎(注1)が流行します。ノロウイルスには一応は周期があるとされており、たしかに統計学的な数字をみれば流行したのは2002年、2006年、2010年と規則性があるように見受けられます。しかし、私の実感としては少なくともここ数年間は「数年毎の流行」ではなく、「毎年の流行」のような印象があります。

 なぜノロウイルスがやっかいなのか。それは感染力が非常に強く、通常のアルコール消毒では効果が不十分だからです。ただし、アルコールがまったく無効というわけではありません。しかし、アルコールはまったく無効と考えている人が(医療者の中にも)います。実は、アルコールの効果に対する考え方は少しずつ変わってきており、厚労省の正式な文章でも表現が改訂されています。また、ノロウイルスに対して有効と思われる新しい消毒液が発売されましたので、これについても紹介したいと思います。

 2004年2月4日に厚労省が発表した「ノロウイルスに関するQ&A」(注2)には、「ノロウイルスの失活化には、エタノールや逆性石鹸はあまり効果がありません。ノロウイルスを完全に失活化する方法には、次亜塩素酸ナトリウム、加熱があります」と書かれています。これを素直に読めば、アルコール(エタノール)は使うべきでなく、ノロウイルスの対策には化学薬品としては次亜塩素酸ナトリウム以外にはない、となります。

 このQ&Aは2015年6月30日に改訂(注3)されました。消毒については「一般的な感染症対策として、消毒用エタノールや逆性石鹸(塩化ベンザルコニウム)が用いられることがありますが、ノロウイルスを完全に失活化する方法としては、次亜塩素酸ナトリウムや加熱による処理があります」、とされています。「(エタノールには)あまり効果がありません」という文言が消えています。

 2004年の表現と2015年の改訂文書は似ているようにみえるかもしれませんが全く異なります。先に述べたように2004年の文書では「アルコールは効果なし」と読めるのに対し、2015年版では「アルコールは完璧ではないですが使うべきです」と解釈できるからです。

 実は、アルコールに対する効果が過小評価されていないか、ということは以前からしばしば指摘されていました。実際には、アルコールはノロウイルスにもある程度は有効です(注4)。ノロウイルスの予防に最も有効なのは「徹底的な手洗い」です。石けんについては、他のウイルスほど有効ではありません。一般に、エンベロープといって”殻”のようなものを持つタイプのウイルス(インフルエンザウイルスやHIVが代表です)には石けんは有効ですが、エンベロープを持たないタイプのウイルスは効果が劣ります。しかし石けんはアブラを落とすのが得意ですから、アブラに付着したノロウイルスを洗い流すことはできます。ですから石けんは効果が不十分とはいえ使った方がいいのです。

 アルコールに話を戻すと、病原体の予防を考えたとき、(特に日本人は)「完璧さ」を求めます。このため、「アルコールで完全に死滅させることができないならもっと強力なものはないのか」と考えたくなります。そして、その「もっと強力なもの」が次亜塩素酸ナトリウムです。実際、次亜塩素酸ナトリウムであれば、ほとんどすべての微生物を完璧に防ぐことができます。

 しかし、欠点もあります。まず刺激が強すぎて皮膚に直接付けることができず手洗いには使えません。金属に塗布すると腐食するという欠点もあります。木材や有機物と接触すると消毒のパワーが減弱することも指摘されています。このため、木製の椅子や手すりなどの消毒には不十分となる可能性があります。パルプを原料とした紙も同様で、以前は、嘔吐物に新聞を載せてその上から次亜塩素酸ナトリウムをかけることが推薦されていましたが、最近はこの方法を疑問視する声もあります。

 最近、ノロウイルスを効果的に予防することのできる改良型の消毒薬が相次いで登場してきています。価格が高いことなどもあり、現時点ではまだそれほど普及していませんが、医療機関のみならず一般企業や家庭でも今後使われるようになっていくかもしれません。下記はその一例です。

〇ルビスタ(R)(キョーリンメディカルサプライ社) 
http://www.rubysta.jp/

〇ラビショット(健栄製薬株式会社)
http://www.kenei-pharm.com/medical/344/

〇ザルクリーン (健栄製薬株式会社)
http://www.kenei-pharm.com/medical/336/

  
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注1:ノロウイルスに感染しているかどうか調べてほしい、という要望がときどきありますが、原則として成人の場合は保険適用もなく現実的ではありません。ノロウイルスは成人であればほとんどのケースで入院は不要ですし、そもそも特効薬がありませんから、検査することにあまり意味がありません。一方、小児や高齢者で入院が必要になる場合は院内感染のリスク管理の意味もあり検査がおこなわれることが多いといえます。

注2:下記URLを参照ください。

http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/kanren/yobou/dl/040204-1.pdf

注3:下記URLを参照ください。

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/kanren/yobou/040204-1.html

注4:消毒に用いるアルコールには「エタノール」と「イソプロピルアルコール」があります。ノロウイルスを含むエンベロープを持たないウイルスにはイソプロピルアルコールでは有効性が乏しいため、エタノールを用いるべきです。

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2016年4月4日 月曜日

2016年4月4日 最強のダイエット飲料は「普通の水」

 普通の水(plain water)こそが最強のダイエット飲料だ・・・

 医学誌『Journal of Human Nutrition and Dietetics』2016年2月22日号(オンライン版)に掲載された論文が主張していることです。

 この研究の対象者は米国在住18歳以上の合計18,311人です。対象者が飲食したものとその量を分析した結果、普通の水の摂取量を1%増やすと、1日の総摂取カロリーが8.58Kcal減少し、さらに脂肪0.21グラム、砂糖0.74グラム、塩9.80ミリグラム、コレステロール0.88グラム、それぞれの摂取量が減少するという結果が出ました。

 これは、対象者の人種・民族、教育レベル、収入、体重に関わらず同じように言えることのようです。女性や高齢者より、若年から中年の男性に顕著に認められたようです。

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 普通の水を1%増やしたときの数字が算出されていますが、これではわかりにくいと思います。そこで例を挙げて考えてみましょう。毎日朝食前にコップ1杯の水を飲む人がいたとして、この人が夕食前にも飲んだとしましょう。水の摂取量は100%の増加となります。論文の数字にあてはめてみると、総摂取カロリーは8.58キロカロリーx100=858キロカロリー減少、塩は9.8ミリグラムx100=980ミリグラム≒1グラムの減少となります。

 もしもコップ1杯の水を増やすことでこれだけ摂取カロリーが低下し、塩分を減らすことができるなら、世の中のほとんどの肥満と高血圧がなくなることになります。いくらなんでもそこまでの効果はないだろうと思えますが、比較的大規模な調査ですからこの研究は注目に値します。そして「普通の水」なら低コスト(日本ではほぼ無料)であり、度をこさなければ安全です。

 ところでこの研究の恩恵に最も預かれる国はどこでしょうか。それは日本を含む水道水が飲める国です(注2)。この研究はアメリカ人を対象としています。アメリカではほとんどの地域で水道水が飲めませんから、おそらくこの研究でいう「普通の水(plain water)」とはコンビニやスーパーで売られているミネラルウォーターのことを指していると思われます。

 海外に行けば誰もがすぐに実感することですが、日本のように食堂や喫茶店に着席した時点で無料の飲料水を持ってきてくれる国はほぼありません。しかも日本の水は軟水で味もいいのです。(ヨーロッパの一部の国では水道水が飲めますが、硬水であることが多く、美味しくありません。ただし北欧の水は日本よりも美味しいという声もあります)

 これからは、たとえばファミリーレストランに着席したときは、まず出されたコップ1杯の水を飲みながらメニューを眺め、水を飲み終えてから注文するような習慣を身につければどうでしょう。

注1:この論文のタイトルは「Plain water consumption in relation to energy intake and diet quality among US adults, 2005-2012」で、下記のURLで概要を読むことができます。

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jhn.12368/abstract

注2:水道水が飲める国というのはほとんどありません。しかも美味しく飲めるとなると、日本を除けば、ニュージーランドと北欧くらいだと思います。国土交通省が公表している平成16年度の「日本の水資源」のなかに報告あります(下記URL参照。ページ40)。(平成26年度版ではなぜか言及されていません)

http://www.mlit.go.jp/tochimizushigen/mizsei/hakusyo/h16/1.pdf

参考:
メディカルエッセイ第94回(2010年11月)「水ダイエットは最善のダイエット法になるか」
医療ニュース2016年2月29日「水道水には多数の「良い細菌」」

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