医療ニュース
2014年12月27日 土曜日
2014年12月17日 認知症に効くサプリメント
サプリメントというのは以前考えられていたほど有用なものではなく、有効であることを示した研究はほとんどなく、逆に有害性の報告は少なくないために、摂取するメリットはほとんどないですよ、ということを私はよく患者さんに伝えています。私自身もサプリメントの摂取は10年以上前にやめています。
ただし私は、気に入って飲んでいるという人に対して「やめましょう」とまでは言いませんし、もしも有効であるとされる研究が出てくれば検討したいと考えています。
大豆レシチンから生成されたホスファチジルセリンとホスファチジン酸を配合したサプリメントが、高齢者の記憶・気分・認知機能を改善し、アルツハイマー病の症状改善にも有効である・・・
医学誌『Advances in Therapy』2014年11月21日号(オンライン版)にこのようなことを主張する論文(注1)が掲載されました。サプリメントを摂取したグループとしていないグループ(対照グループ)にわけて3ヶ月間の調査がおこなわれています。研究結果をまとめると以下のようになります。
・サプリメントを摂取したグループ(31人)は対照グループ(26人)に比べると、記憶力が改善し冬季うつ病の症状が改善した。
・アルツハイマー病の患者でサプリメントを摂取したグループ(53人)は日常生活機能が維持されたのに対し、対照グループ(39人)では生活機能が低下した。
・サプリメント摂取グループでは、日常生活機能が安定していたのは90.6%で、悪化したのが3.8%。一方、対照グループでは、安定が79.5%で悪化が17.9%。
・サプリメント摂取グループで全身状態の改善を自覚したのは49%で、対照グループでは26.3%。
************
論文の著者は、このサプリメントで、「気分や認知機能が改善しアルツハイマー病の症状改善にも有効」としていますが、調査の規模がそれほど大きくなく、調査期間も短いために、これを普遍的なものと捉えるのは時期尚早と思われます。
しかし、有害性の報告もないようですから、度を超さない程度にこのホスファチジルセリンとホスファチジン酸のサプリメントを日常摂取することには問題ないと思います。ただし、サプリメントではなく大豆をいろんな料理から積極的に摂取する方がはるかに安全で美味しいのは間違いありません。これは大豆由来のイソフラボンについても同様です。
(谷口恭)
注1:この論文のタイトルは「Positive Effects of Soy Lecithin-Derived Phosphatidylserine plus Phosphatidic Acid on Memory, Cognition, Daily Functioning, andMood in Elderly Patients with Alzheimer’s Disease and Dementia」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://link.springer.com/article/10.1007%2Fs12325-014-0165-1#page-1
参考:医療ニュース
2011年9月5日「イソフラボンは骨密度にも更年期にも無効」
2010年2月8日「イソフラボンで肺ガンのリスクが低下」
2008年3月12日「イソフラボンで乳がん減少」
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|2014年12月26日 金曜日
2014年12月26日 夜勤は肥満のリスク
「同じ時間に起きて同じ時間に寝る」ことの重要性はこのサイトで何度か述べていますし、日々太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)を受診される患者さんにも伝えています。
「同じ時間に起きて同じ時間に寝る」ことがなぜ重要かというと、まず生活習慣病の予防になります。規則正しい生活をするだけで血糖値やコレステロールの値が改善していく人は少なくありません。また、片頭痛が劇的に改善する人もいますし、うつ病は早起きして早寝するということを実践するだけで改善する人も少なくありません。
ただ、世の中には「同じ時間に起きて同じ時間に寝る」ことをしたくてもできない人もいます。それはシフト勤務の人です。谷口医院には片頭痛の患者さんが少なくありませんが、治療に難渋する代表的な職業が2つあります。それは(病院勤務の)看護師と客室乗務員です。この2つの職業はどうしても夜勤(や時差)を避けるわけにはいかず、片頭痛のコントロールがむつかしいのです。
「早寝早起き」という言葉は、私は小学生には用いますが、成人に対しては「早起き早寝」という表現を使います。成人の「早寝」は簡単でない場合があり、寝ようと思うと余計にプレッシャーになって眠れないということがよくあります。そこで、私は「まず早起きしましょう。前の晩眠れなかったとしても無理矢理にでも起きてみてください」とよく言います。その日1日は睡眠不足になりますが、そのおかげでその晩は早寝ができます。そして次の日も多少無理してでも早起きするのです。
前置きが長くなりましたが、今回紹介したいのは「夜勤をすると代謝が遅くなる」、つまり「夜勤は肥満の元」であることを示した論文です。
医学誌『Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)』2014年11月17日号(オンライン版)に掲載されています(注1)。
研究者らはボランティア14人に6日間研究所で暮らしてもらっています。最初の2日間は正常なスケジュール(朝起床夜就寝)で過ごしてもらい、その後、夜勤スケジュールに変更し、夜間に起きて日中に眠ってもらっています。食事は厳格に管理し毎日同じカロリーを摂取してもらっています。
その結果、夜勤スケジュールの日は消費カロリーが平均で3%低下したそうです。
************
この研究は、被験者が少なく、調査期間が短いようですが、おそらく「シフト勤務が肥満を招く」というのは私が患者さんを診ている経験からいって間違いないと思います。
ただし夜勤シフトのある職場で働いている人が「太りたくないから夜勤のシフトから外してください」とは言えないでしょう。それに、看護師や客室乗務員だけでなく夜に働いてくれる人がいなければ社会は回らないわけで、誰かがやらねばなりません。
今やるべきことは、夜勤がどれだけ健康に害を与えるかという研究を広げ、ひとりあたりの夜勤の量を最小限にして、夜勤勤務者は日頃健康のことでどのようなことに注意すべきかについての指導を受ける、といったことだと思います。
(谷口恭)
注1:この論文のタイトルは「Impact of circadian misalignment on energy metabolism during simulated nightshift work.」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://www.pnas.org/content/111/48/17302.abstract?sid=4c4f3230-a9ae-4ffc-926a-535c2eac38ba
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|2014年12月25日 木曜日
2014年12月25日 「遅延型食物アレルギー」に騙されないで!
食物アレルギーの患者数がここ10年ほどで大幅に増加しているのは間違いありません。2010年頃から注目されだした「茶のしずく石鹸」を使用したことにより発症した小麦アレルギーの被害者は2,100人以上に及びました。2012年12月には東京都調布市の市立小学校で小学5年生の女子生徒がチジミを食べてアナフィラキシー(食物アレルギーの最重症型)を発症し死亡するという痛ましい事故が起こりました。これらはマスコミでも大きくとりあげられました。
原因のはっきりしない蕁麻疹(じんましん)や湿疹が生じると、その原因が食べ物のアレルギーなのではないか、と考える人は少なくなく、太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)にもよく受診されます。食物アレルギーを患う患者さんが増えているのは紛れもない事実であり、重症化すると死亡することもあると聞けば、不安になるのも無理はありません。
谷口医院でも何らかの食物アレルギーの診断がつく患者さんは少なくありません。ただし、食物アレルギーの診断はそう簡単にできるものではありません。血液検査で食物アレルギーの有無が簡単に分かる、と考えている人が多いのですが、これは正しくありません。
食物アレルギーの診断に最も有用なのは、血液検査ではなく「食物負荷試験」です。これは実際にその食べ物を少量食べてもらい症状が出現するかどうかを調べる方法で、その食べ物を摂取することで重症化する可能性がありますから通常は入院が必要です。
次に診断に有用なのは、その症状と食べ物のエピソードを念入りに問診する、という方法です。当然のことながらこれには相当の時間がかかります。症状が出現する前に食べていたものを調味料のレベルまで検索しなければなりません。場合によっては(頻度は少ないですが)半日以上前に食べたものを聞くこともあります。
血液検査で調べる特異的IgE抗体の信頼度はその次となります。つまり、特異的IgE抗体が陽性というだけでは本当にその食べ物にアレルギーがあるのかどうかは分からないのです。特に小児の場合は、その食べ物を食べられないとなると成長に影響がでる可能性がありますし、アレルギーがある場合は、給食のメニューを変えないといけないですから、給食を供給する人たちや担任の先生は大変なのです。最近は学校関係者の方々の知識が豊富になり「特異的IgE抗体が陽性だけでは診断できないですよ」ということを父兄に教えてくれることもあります。実際、何の問題もなく食べているものも血液検査をすれば陽性になることは特に子どもの場合はよくあります。
谷口医院では現在小児の食物アレルギーは診察しておらず成人のみを診察・治療しています。成人の場合も、特異的IgE抗体の結果はあくまでも「参考」なのですが、小児と比べれば比較的実情を反映していると言えます。
アレルギーというのは様々なタイプがあり、そのものに触れて(食べて)すぐに症状が出るものもあれば、「遅延性」と呼ばれる2~3日してから症状が出現するものもあります。金属アレルギーや、マンゴーを食べた2~3日後に口の周りに湿疹が生じるアレルギーはこのタイプです。(これは食べたマンゴーが原因なのではなく口の周りに触れたマンゴーが原因であり食物アレルギーではなく「接触皮膚炎」となります) 一部の薬疹のように、薬を飲み終わってしばらくしてから症状が出現するタイプのアレルギーもあります。
ただし、食物アレルギーは「即時型」、つまり、食べてから数分~1時間程度で症状が出現します(注1)。食べてから丸1日以上が経過してから発症するような「遅延性」はないと考えられています。
ところが、です。ここ1~2年の間、谷口医院には次のような患者さんがときどき受診されます。
患者:血液検査でIgG抗体が陽性の遅延型食物アレルギーがあるからコメを食べないように言われて食べていないのですが、これからも食べてはいけないのでしょうか。
医師(私):コメを避けて変化はありましたか?
患者:何もありません。ニキビと下痢と湿疹が治るはずだって聞いたんですけど・・・。
医師(私):検査をしたところでは何と言われたのですか?
患者:IgG抗体が陽性だからとにかくコメを避けるべきと言われたのです。あたしが、前は普通に食べていたし、やめてからも何も変わりません、と言うと、じゃあ少しだけ食べますか、って言われました。あたしが、少しだけってどれだけですか、って質問すると、それは自分で考えてください、と言われました・・・。
この検査をしたところが医療機関かどうか不明ですし、返答したのはおそらく本物の医師ではないでしょう。しかし、このような患者さんが複数人受診されましたからこのような検査を実施しているところがあるのは事実です。
そもそもこの「IgG抗体が関与した遅延型食物アレルギー」というのは海外では昔から否定されているものです。日本のアレルギー関連の学会は公式な見解を発表していなかったために、そこを狙って悪徳業者が金儲けのために食物アレルギーに不安を抱く日本人をターゲットにしたのでしょう。
しかしついに2014年11月19日、日本小児アレルギー学会は、この検査を「推奨しない」と発表しました(注2)。日頃患者さんをみている我々医師からすると、「推奨しない」ではなく「禁止する」くらいに言ってほしかったのですが、学会の立場としては、そこまで強い表現はとれなかったのでしょう。(一般に「ない」ことを証明するのは困難だからです)
アレルギー関連の学会はいくつもありますが、そのなかで日本小児アレルギー学会という比較的小規模な学会がこのような注意喚起を発表したのは、成人よりも小児で被害が相次いでいるからだと思われます。先に紹介したコメ制限を命じられた患者さんのように、食物のIgG抗体は正常な人でも陽性になることがよくあり、IgE抗体のように「参考」にすらなりません。したがって、このようなものを指標にして食事制限するなどというのは愚の骨頂です。小麦や米、卵といった貴重な栄養をとらなくなり成長障害や栄養不良が起これば、いったい誰が責任を取るのでしょうか。
報道によりますと、この「遅延型食物アレルギー」のキットは3~5万円もするそうです。当たり前ですが当然保険適用はありません。(もちろん、通常のIgE抗体は保険で検査ができます)
注1:食べた後運動をしたときに発症する食物依存性運動誘発性アナフィラキシー(FDEIA)は運動をする分だけ時間がかかりますが何時間もたってから発症するわけではありません。下記「はやりの病気」も参照ください。また、食物アレルギーに例外がないわけではなく、私の知る範囲では「納豆アレルギー」が遅発性(「遅延性」ではありません)です。この場合は半日くらいたってから発症することが多いと言われています。納豆アレルギーは大豆の特異的IgE抗体は陰性になります(注3)。他には、牛肉アレルギーも数時間経過してから発症すると言われています。
はやりの病気第94回(2011年6月20日)「小麦依存性運動誘発性アナフィラキシー」
注2(2019年12月15日付記):現在このページは削除されています。
付記(2015年3月1日):日本小児アレルギー学会に引き続き日本アレルギー学会も注意喚起を発表しています。下記URLを参照ください。
https://www.jsaweb.jp/modules/important/index.php?content_id=51
注3(2016年9月付記):納豆アレルギーはサーファーに起こりやすいことからクラゲが原因と言われています。詳しくは下記を参照ください。
はやりの病気第157回(2016年9月) 最近増えてる奇妙な食物アレルギー
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|2014年12月1日 月曜日
2014年12月1日 薬を飲みやすくする2つの方法
錠剤、カプセル、粉(細粒剤)、シロップと飲み薬には様々な形態があり、その人によって飲みやすさが異なります。誰もが簡単に飲めるのはシロップか口腔内溶解錠(OD錠)でしょうが、すべての薬でそのような形態が用意されているわけではありません。また、錠剤は日頃は飲めるのだけれど吐き気が強いときには飲めない、という人もいます。
錠剤やカプセルは飲みにくいという患者さんの声はときどき聞くのですが、あまりきちんとした回答を医療者が準備しているわけではありません。しかし、最近、薬を飲みやすくする研究がおこなわれ発表されたので紹介したいと思います。
この方法は、医学誌『Annals of Family Medicine』2014年11月12月号(オンライン版)に掲載されています(注1)。紹介されている2つの方法を下記に記します。
1つめの方法は「ペットボトル法」(pop-bottle method)(注2)と命名された方法です。ペットボトルに水を満タン入れ、空気が入らないようにし、錠剤を舌に乗せて、ペットボトルの口を唇でくわえてそのまま水を飲み込む、という方法です(注3)。
もう1つの方法は、前屈み法(lean-forward technique)と命名された方法で、カプセルを舌にのせて水を一口含み、顎(あご)を胸に付けるように下を向いてその状態で飲み込むというものです(注4)。
この研究の対象者はドイツ人の男女151人、うち女性が52.3%、平均年齢は45.8歳(18~85歳)です。対象者の55.6%が錠剤やカプセル剤の服用時に困難さを訴えていたそうです。ペットボトル法(錠剤)を用いた59.7%、前屈み法(カプセル剤)を用いた88.6%が、服用しやすさが改善したと答えたそうです。
*****************
早速私自身がこの2つの方法を試してみたのですが、残念ながらそれほど飲みやすくなったとは感じられませんでした。しかし私は元々、少々大きめの錠剤でも水なしで唾だけで飲めますから、私の実験では参考にならないと思います。それに適当なカプセルの薬がなかったために前屈み法もカプセルではなく錠剤(整腸剤)で試しましたから、私の実験は実験のレベルとしてはかなり低いものと言えます。(しかし、錠剤とカプセルで2つの方法を使い分ける意味はどこにあるのでしょうか。この論文からはそれが分かりませんでした)
私は効果を感じられませんでしたが、もしもあなたが日頃錠剤やカプセルを飲みにくいと感じているなら一度試してみてもいいかもしれません。(ただし、頸椎などの疾患で首を前に曲げることを禁じられている人や、嚥下障害のある人は試す前に主治医に相談してください)
(谷口恭)
注1:この論文のタイトルは「Two Techniques to Make Swallowing Pills Easier」で、下記のURLで全文(PDF)を読むことができます。
http://annfammed.org/content/12/6/550.full.pdf+html
注2:ペットボトル(PET bottle)の「ペット」はポリエチレン・テレフタレート(PolyEthylene Terephthalate)の略ですが、私自身の経験では外国人から「PET bottle」という表現はほとんど聞いたことがありません。日常生活でなら「plastic bottle」で問題ないと思います。私は外国人相手にはそのように言います。この論文で使われている「pop-bottle」という表現は初めて聞きましたが一般的な表現なのでしょうか。ちなみにビニール袋は「plastic bag」と言えば英語を話す人にならまず通じます。(日本人には通じないことがありますが・・)
注3注4:あまり上手とは言えないと思うのですが(失礼!)、論文(注1参照)のなかにイラストがありますので参照してみてください。
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