医療ニュース
2014年2月28日 金曜日
2014年2月28日 高齢女性の座りっぱなし、死亡リスクが上昇
数年前から、「長時間の座りっぱなしは生活習慣病の危険因子となり死亡リスクを上昇させる。そしてこの弊害は運動をしても解消されるわけではなく、危険性は喫煙に匹敵する」ということがしばしば指摘されています。
今回紹介する研究も似たような結論が導かれています。医学誌『American Journal of Preventive Medicine』2014年2月号(オンライン版)に掲載された論文(注1)によりますと、座って過ごす時間が長い高齢女性は、活動的な女性に比べ、早期死亡のリスクが有意に高いそうです。
この研究の対象は米国の閉経後の女性92,334人です。対象者は調査開始時点で50~79歳であり追跡期間の中間値は12年です。座りっぱなしで「非活動の時間」(注2)が、①4時間以下、②4~8時間、③8~11時間、④11時間以上の4つのグループに分けて死亡リスクが検討されています。
分析した結果、④の1日11時間以上座っている女性は、①の4時間以下の女性に比べると、全原因による死亡リスクが12%高いということが判ったそうです。疾患ごとにみてみると、脳血管疾患、心疾患、ガンによる死亡率が、それぞれ13%、27%、21%高かったようです。
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この研究でも、定期的な運動をしていたとしても長時間座りっぱなしのリスクを帳消しにはしてくれない、といったことが述べられています。これまで発表されている座りっぱなしが危険であることを示す研究は比較的大規模のものが多く、座りっぱなしが早期死亡のリスクになることはほぼ間違いないでしょう。我々ひとりひとりの対策が必要になります。
(谷口恭)
注1 この論文のタイトルは「Sedentary Behavior and Mortality in Older Women」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://www.ajpmonline.org/article/S0749-3797%2813%2900594-1/abstract
注2:原文ではsedentary timeとされています。
参考:
メディカルエッセイ第129回(2013年10月)「危険な「座りっぱなし」」
医療ニュース2013年4月2日「座りっぱなしの生活がガンや糖尿病のリスク」
医療ニュース2010年7月30日「座っている時間が長い人は短命?」
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|2014年2月28日 金曜日
2014年2月28日 ビタミンDのサプリメントに有益性なし
ビタミン剤のサプリメントは健康にいいどころか危険性が多く、安易に使用されるべきでないことが指摘されるようになってきていますが(それでもいまだに過剰な宣伝は一向におさまらず使用者は多いようです・・・)、そのビタミン剤のなかで比較的有益ではないか、とされていたのがビタミンDです。
しかしそのビタミンDへの期待も”幻想”に過ぎなかったようです。
医学誌『Lancet Diabetes & Endocrinology』2014年1月24日号(オンライン版)に掲載された論文(注1)によりますと、ビタミンDのサプリメントによる健康上の有益性はほとんどないそうです。
この研究はニュージーランド、オークランド大学のMark J Bolland氏らによっておこなわれています。研究者は、これまでに発表されたビタミンDのサプリメントの効果を評価した複数の調査を総合的に分析(メタ分析)し、ビタミンDの有益性を改めて検討しています。
分析の結果、虚血性心疾患(患者総数48,647例)、脳血管障害(患者総数46,431例)、ガン(患者総数48,167例)、骨折(患者総数76,497例)におけるビタミンDのサプリメントの効果は、カルシウムの併用をしていてもしていなくても、有意な効果は認められなかったそうです。別の見方をすると、ビタミンDのサプリメントを摂取しても、これら疾患のリスクは15%以上は減少しないことが判ったそうです。
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ビタミンDのサプリメントの効果が「15%以上は減少しない」ということは「15%近くは減少する」ということでそれならば有益ではないか、という見方をしたくなりますが、これは効果を多く見積もって15%未満ということであり、実際は効果はほとんどないとみるべきでしょう。また、ビタミンDを過剰摂取したときの副作用にも注意しなければなりません。
ただしビタミンDは危険なものでは決してなく人間には必要なものです。肉や卵に豊富に含まれていますからバランスよく食事をしていれば欠乏することはないのですが、ベジタリアンの人たちは不足しがちになります(注2)。ですから、ベジタリアン(特にヴィーガン)の人たちは肉や卵が食べられないならサプリメントでの摂取も検討すべきです。
まとめると、ビタミンD欠乏症になればサプリメントも含めてビタミンDの積極的摂取を検討すべき、一方欠乏症でない人はサプリメントに有益性はほとんどないことを理解し、有害性に注意すべき、となると思います。
(谷口恭)
注1:この論文のタイトルは「The effect of vitamin D supplementation on skeletal, vascular, or cancer outcomes: a trial sequential meta-analysis」で下記の論文で概要を読むことができます。
http://www.thelancet.com/journals/landia/article/PIIS2213-8587%2813%2970212-2/abstract
注2:ベジタリアンについては下記も参照ください。
メディカルエッセイ第126回(2013年7月)「我々はベジタリアンの道を進むべきか」
参考:医療ニュース
2014年1月28日「やはりビタミン・ミネラルのサプリメントは利益なく有害」
2010年2月1日「ビタミンDの不足は大腸ガンのリスク」
2010年2月11日「ビタミンDが不足すると喘息が悪化」
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|2014年2月8日 土曜日
2014年2月8日 HPVワクチンの副作用は「心身の反応」のせい??
子宮頸がんや尖圭コンジローマのワクチン(以下、HPVワクチン)について、厚生労働省は、2013年6月、「子宮頸がん予防ワクチンの接種を受ける皆さまへ」というタイトルの注意勧告(注2)を出し、「現在、子宮頸がん予防ワクチンの接種を積極的にはお勧めしていません」と記載されています。
なぜこのような注意勧告がおこなわれたかというと、HPVワクチンを接種した女子生徒に副作用の出現が相次いだからです。なかには持続的な痛みに悩まされ、日常生活もままならない生徒もいるそうです。しかし、一方ではHPVワクチンは世界の多くの国で定期接種に組み込まれるようになってきており日本だけが遅れるのはいかがなものか、という意見もあります。
2014年1月20日、厚生労働省の厚生科学審議会の予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会と薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全調査会は合同会議を開き、HPVワクチンの副作用は、「心身の反応により惹起された症状が慢性化したものと考えられる」と結論付けて、これを公表しました(注1)。
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さて、ここから先は報道されていませんが、この結論が発表された直後から多くの反対意見が寄せられたことが推測されます。なぜならいったん発表したサイトが現在は閲覧できなくなっているからです。
毎日耐えがたい痛みと戦っている女子生徒やその親御さんからすれば、これだけの苦しみが「心身の反応」と言われて納得できるはずがありません。このような発表をするならば、たとえ心身の反応が原因であったとしても、被害者の方への配慮が絶対に必要です。被害にあった女子生徒の学校の友達はどう思うでしょうか。「な~んだ。ワクチンのせいで学校に来れなくなって気の毒だと思ってたけど、ずる休みだったのか」と誤解される可能性も考えられます。
私自身はHPVワクチンが普及することに賛成の立場です。ワクチンを接種しても絶対に子宮頚ガンにならないわけではなく定期的な検診が必要であることには変わりありませんが、それでも7割程度のガンは予防できるのです。それに4価ワクチン(ガーダシル)であれば尖圭コンジローマというやっかいな病気をかなりの確率で防ぐことができるわけです。私自身はHPVワクチンというのは医学の歴史に残る画期的なワクチンだと思っています。
しかし女子中学生全員に接種するという考えには同意できません。なぜなら性交渉を介してしかHPVは感染しないからです。中学を(あるいは高校を)卒業するまでカレシができてもプラトニックラブを通す(だからワクチンは不要)と考えている生徒がいるとすれば、その考えを尊重すべき、というのが私の考えです。
このサイトで何度も述べていますが、B型肝炎ウイルス(HBV)や水痘(みずぼうそう)や流行性耳下腺炎(これら3つはいずれも性交渉のような緊密なコンタクトがなくても感染します)のワクチン接種が不十分であるこの国の状況のなかで、なぜHPVだけを急いで全員に接種しなければならないのか、私にはその理由がどうしても理解できないのです。
(谷口恭)
注1:この発表のURLは下記のとおりでした。「でした」というのは現在見られなくなっているからです。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000035220.html%20target=
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|2014年2月3日 月曜日
2014年2月3日 車の運転に注意しなければならない薬
この薬を飲めば車を運転してはいけません。
薬の説明を受けるときにそのようなことを言われたことがある人も多いと思います。代表的な薬は「風邪薬」です。これは医療機関で処方されるものよりも薬局で買える薬の方がむしろ注意が必要です。医療機関で処方される薬で運転に注意しなければならない代表は精神安定剤や抗うつ薬の類です。また、ここ数年は禁煙治療薬であるチャンピックス処方時に運転できないことを聞いたという人も少なくないでしょう。実際、チャンピックス服用で意識低下が起こり交通事故につながったケースが何例か報告されているそうです。
PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)が最近立て続けに、これまであまり注意を払われていなかった薬について運転時の注意勧告をおこないました。勧告は2013年11月26日と2014年1月7日におこなわれており、該当する薬は下記の通りです。(かっこの中が商品名です)
アルツハイマー型認知症治療薬 ドネペジル(アリセプト)
抗不整脈薬 ピルジカイニド(サンリズム)
抗不整脈薬 ベプリジル(ベプリコール)
抗不整脈薬 プロパフェノン(プロノン)
動脈閉塞症・肺高血圧症治療薬 ベラプロストナトリウム(ドルナー、プロサイリン、ケアロード、ベラサス)
抗菌薬 アジスロマイシン(ジスロマック)
抗菌薬 オフロキサシン(タリビッド)
抗菌薬 メシル酸ガレノキサシン(ジェニナック)
抗菌薬 レボフロキサシン(クラビット)
抗ウイルス薬 アシクロビル(ゾビラックス)
抗ウイルス薬 バラシクロビル(バルトレックス)
抗ウイルス薬 ファムシクロビル(ファムビル)
抗ウイルス薬 テラプレビル(テラビック)
糖尿病治療薬 アカルボース(グルコバイ)
糖尿病治療薬 ボグリボース(ベイスン)
糖尿病治療薬 ミグリトール(セイブル)
糖尿病治療薬 ピオグリタゾン(アクトス)
糖尿病治療薬 シタグリプチン(ジャヌビア,グラクティブ)
糖尿病治療薬 アログリプチン(ネシーナ)
糖尿病治療薬 アログリプチン・ピオグリタゾン配合剤(リオベル)
糖尿病治療薬 リナグリプチン(トラゼンタ)
糖尿病治療薬 アナグリプチン(スイニー)
糖尿病治療薬 サキサグリプチン(オングリザ)
糖尿病治療薬 リラグルチド(ビクトーザ)
糖尿病治療薬 リキシセナチド(リキスミア)
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少し解説しておくと、糖尿病治療薬は薬が効きすぎて低血糖発作を起こす可能性があるからで、抗菌薬や抗ウイルス薬は稀ですが意識低下の副作用の報告があるからです。
これらを少しでも服用すれば絶対に車の運転ができないか、と問われれば、そうするのが望ましいのは事実ですが、実際には主治医と相談して決めることになります。
もう少し補足しておくと、上記薬剤のなかには注射薬もあるということ(注射のときにはその後運転していいかどうかを尋ねる必要があるでしょう)、かっこのなかの名前は先発品の商品名であり、上記のいくつかは後発品が普及していること、があげられます。
副作用がない薬はなく、どのような薬を飲むときにも注意は必要です。しかし、軽度のむかつきや下痢などであれば大きな問題にはなりませんが、運転中に意識低下が起こり交通事故を起こすようなことは避けなければなりません。上記以外の薬についても、医療機関で薬を処方してもらっている人は主治医に確認しておいた方がいいでしょう。
(谷口恭)
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