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2022年4月10日 日曜日
2022年4月 「社会のため」なんてほとんどが偽善では?
1995年、オウム真理教が一連のおぞましい事件を起こしたとき、メディアのプレゼンテーターや知識人たちは「最初は世の中をよくしようと考えていた真面目な若者が……」という論調で語っていました。私には、その言葉に何かひっかかるものがあり、それは今も続いています。
オウム真理教の話題でよく引き合いに出されるのが60年代から70年代にかけての左翼活動、なかでも「よど号ハイジャック事件」と共に頻繁に取り上げられるのが「あさま山荘事件」です。
1972年2月、軽井沢にて日本の歴史に残るその凄惨たる事件が起こりました。今年の2月で事件発生から50年が経過したこともあり、この事件を振り返った記事を掲載したメディアがいくつかありました。今回のマンスリーレポートはそのあさま山荘事件を取り上げ、私見をふんだんに取り入れながら人間の心理を紐解くことに挑戦してみたいと思います。
あさま山荘事件がどのようなものなのか、私がはっきりと把握したのは18歳、大学に入学した直後です。事件が起こったのは1972年ですから68年生まれの私にとってはまだ4歳になっていない頃で、リアルタイムでの記憶はありません。ですが、若者が仲間を殺し合うという凄まじい事件であり、機動隊が現場に踏み込むときの視聴率は90%もあったのですから、その後、繰り返し取り上げられ大勢の人が話題にしていてもおかしくありません。
にもかかわらず、ぼんやりとしか私が理解していなかったのは、おそらく学校の先生も含めて周囲の大人たちが口を閉ざしていたからではないかと思います。単に、子供に殺人の話をするべきでないという道徳的な配慮というよりも、触れてはいけないタブーのような雰囲気があったのではないでしょうか。
社会をよくしたいという思想を持った若者が徒党を組み、やがて集団リンチで仲間を次々と殺した、というこの事件に対し、当時18歳で大学生になったばかりの私はとても惹き付けられました。2ヶ月の間で12人もが殺されたのです。しかし、一連の学生運動についてうまくまとめられた書籍は見つからず、断片的な知識は得られるものの、結局よく理解できないまま月日が過ぎていきました。
それから15年後の2002年、『突入せよ! あさま山荘事件』という映画が公開されました。研修医になったばかりだった私は日曜日のある日、病棟業務を終わらせてから大学病院のすぐ横にある映画館に公開されて間もないこの映画を見に行きました。映画でなら当時の時代背景も含めて全貌が理解できると考えたのです。
結論から言えばこの映画は期待外れでした。なにしろ、主人公が警察の人間ですから、なぜ理想を抱いた若者たちが仲間殺しに向かったのかがまるで理解できないのです。事件を起こした若者たちはたしかに罪人ですが、この事件で(私にとって)大切なのは、人質を盾に籠城した犯人を追い詰める警察の奮闘ではなく、理想に燃えた若者がなぜ仲間を次々に殺していったのかを解明することです。
そして、その6年後の2008年、ついに私が待ち望んでいたこの事件の全貌を解明した映画が公開されました。若松孝二監督の『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』です。これほど衝撃を受けた映画は私は他にはありません。ならば、生涯に観た映画トップテンに入るか、と問われればそれは答えにくく、もう一度この映画を観るには相応の勇気が必要です。
この映画を観てからしばらくは「総括」とか「自己批判」といった言葉をたまたま見聞きすると、それだけで「思い出したくないシーン」が頭のなかに蘇り、吐き気と動悸がしたほどです。ともあれ、あさま山荘事件について何の知識もない人がいたとしても、私はこの映画を一度は観ることを強く勧めたいと思っています。
この映画の主役、そしてこの事件そのものの最重要人物が誰になるのかは見方によって変わるでしょうが、永田洋子は外せないでしょう。「革命左派」のリーダーだった永田については過去に複数の書籍が発行されていて、私は何冊か手に取ったことがあります。永田自身が書いた書籍もあったと記憶しています。
私がこの映画を観る前に抱いていた永田のイメージと映画の永田はほとんど一致していました。美しさからはほど遠く(実際、「美しくない」という理由で好意を持っていた左翼の男性に交際を拒絶されます)、実力者には盲目的に従う一面があり、革命左派の当時の実力者からレイプされています。
永田は少なくとも大学生の頃には理想の社会を求め、それを追求していました。だからこそ、「自己批判」を繰り返し、さらに「相互批判」を重ねたわけです。理想を求めるが故に、美しく男性からちやほやされていた仲間の遠山美枝子に対し「革命に化粧も長い髪も必要ない」と忠告し、自分で自分の顔面を殴らせ、丸刈りにし、そして他の仲間に死ぬまで暴行を加えさせたのです。
逮捕から10年後の1982年、永田には死刑が宣告されました。「自己顕示欲が旺盛で、感情的、攻撃的な性格とともに強い猜疑心、嫉妬心を有し、女性特有の執拗さ、底意地の悪さ、冷酷な加虐趣味が加わり、その資質に幾多の問題を有していた」というのが裁判官の読み上げた言葉です。「女性特有の…」という表現は今なら大きな問題になるでしょうが、82年当時は許されていたのでしょう。
この言葉だけを取り出すと、大柄で冷酷な犯罪者のイメージが浮かび上がるかもしれませんが、実際に永田に面会に行った人の話では(随分前に、女性のジャーナリストだったか作家だったかが、面会に行った様子をどこかに書いていたのを読んだのですが詳しいことは忘れてしまいました)、小柄で声も小さく大人しい印象しかなく、このか弱き女性があのような事件の主犯格だとは到底思えなかったそうです。
では、最初は理想の社会をつくることに情熱をもっていた永田を変えたのは何なのか。私はこのことについて18歳の頃からもう35年も考え続けています。オウム真理教の事件が起こったときにも考えました。オウムの幹部たちは優秀な大学に入学し、社会を理想に近づけることを目指したのになぜ道を踏み外したのか。
当時のメディアは「麻原彰晃という悪魔に洗脳されたのだ」というようなことを言っていましたが、私はそうは感じませんでした。テレビによく登場していた一部のオウム幹部は視聴者から人気がありましたが、私は上から目線のその話し方に不快なものを感じていました。
その後私はいろんな経験をしました。医師になってからも「社会のため」「正義のため」に活動しているという人の話も聞きました。コロナ禍となり「社会のために……」などと宣う人たちもいます。
永田洋子を初めとする革命左派や連合赤軍の”戦士”たち、地下鉄サリン事件など一連のオウム事件の犯人たち、さらには現在「社会のために」という言葉を口にしている人たちのいくらかが共通して持っているもの、それは「自分が正しいということを他人に認めさせたいという欲求」、一言で言えば「強すぎる承認欲求」ではないでしょうか。
「社会のために」「社会を良くしたい」といった言葉は、一見すると正しくてきれいに聞こえます。しかし本当は、自分を認めさせたいという身勝手な欲望をこういったきれいな言葉でカモフラージュしているだけではないでしょうか。と、いつの頃からか思うようになりました。
しかし、私のこの仮説が正しいとすると、多くの政治家は承認欲求の強い偽善者ということになってしまいますし、きれいごとを言うのが好きな経営者、さらには「患者さんのために」などと大衆の前で宣っている医師も同じ穴のムジナとなるでしょう。
おそらく真相はもっと複雑であり、別の視点からも考えていかなくてはなりません。ですが、私がこの仮説を考えるようになってから「社会のため」という言葉を聞くと、うさん臭さを拭えなくなったというのが正直な気持ちです。スポーツ選手や何らかの努力をしているタレントがよく言う「みなさんのために頑張ります」という言葉にも嫌悪感を抱くようになりました。「社会のため、みなさんのためではなく、あんたが目立ちたいから、あるいはええかっこがしたいからそんなきれいごとを言ってるだけやろ」と思ってしまうのです。
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|2022年3月27日 日曜日
2022年3月27日 片頭痛はやはり認知症のリスク
片頭痛が認知症のリスクであることはもはや「確定」と言えそうです。
過去の医療ニュース「2021年11月8日 片頭痛は認知症のリスク」でも述べたように、片頭痛が認知症のリスクであることが大規模調査ではっきりとしました。今回、新たに大規模調査がおこなわれ、やはり片頭痛が認知症のリスクであるという結果となりましたので報告しておきます。尚、片頭痛は脳梗塞のリスクであることもすでにはっきりとしています。
医学誌「Aging Clinical and Experimental Research」2022年1月31日号に掲載された論文「片頭痛と認知症のリスク:メタアナリシスと系統的レビュー (Migraine and the risk of dementia: a meta-analysis and systematic review)」を紹介します。
この研究も、過去に発表された質が高い9つの研究を総合的にまとめなおしたメタアナリシスという方法がとられています。9つの研究のうち、7つはコホート研究(前向き研究)と呼ばれる研究です。”まだ”認知症を発症していない片頭痛のある人とない人を追跡した研究です。9つのうち2つはケースコントロール研究(後ろ向き研究)と呼ばれる方法で、”すでに”認知症を発症している人が片頭痛があったかなかったかが調べられています。
研究の全対象者は291,549人で、結果は「片頭痛があれば認知症のリスクが33%上昇する」というものです。
興味深いことに、血管性認知症のリスクが85%上昇していた、という結果も出ています。
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冒頭で紹介した医療ニュースで取り上げた研究では「片頭痛があれば認知症のリスクが34%上昇する」でしたから、ほぼ同じ結果となっていることは注目に値します。
もうひとつ注目すべき点があります。それはその過去に紹介した研究では「アルツハイマー病のリスクが2.49倍も上昇するが、血管性認知症のリスクは上昇させない」だったのに対し、今回の研究では「血管性認知症のリスクを85%も上げる」とされている点です。
いずれにしても、現在片頭痛を持っている人は注意した方がいいでしょう。注意すべきは2つ。1つは、「片頭痛の治療、というよりも予防をしっかりとおこなうこと」。もう1つは「脳梗塞や認知症の片頭痛以外のリスクを取り除くこと」です。つまり、規則正しい生活をして、禁煙して、太らないように注意し、運動を積極的におこない、知的な生活をして、社交も大切にする、といったようなことが大切というわけです。
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|2022年3月20日 日曜日
2022年3月20日 ADHDには濃いコーヒーが有効かも
「発達障害ブーム」あるいは「発達障害バブル」と呼んでもいいかもしれませんが、患者さんから「私は発達障害でしょうか」という訴えを10年ほど前からよく聞くようになり、一向に減りません。発達障害の分類については、いろいろと変更があったり、医療の範疇を離れた考えが世間で大きく広がったりして、いまだまとまっているとは言えませんが、「ADHD型とアスペルガー型がある」と考えている人が多いような印象があります。
そのADHD(注意欠陥多動性障害)にカフェインが有効かもしれない、という研究を紹介したいと思います。
医学誌「Nutrients」2022年2月号に掲載された論文「カフェインによるADHDの治療:動物研究の系統的レビュー (Effects of Caffeine Consumption on Attention Deficit Hyperactivity Disorder (ADHD) Treatment: A Systematic Review of Animal Studies)」に掲載された研究です。
論文のタイトルからわかるように、この研究は動物実験を対象としています。ですが、これまで発表された複数の研究をまとめなおした系統的レビューですから、エビデンスのレベルはまったく低いわけではありません。
結果は、カフェイン摂取により、注意力が上昇し、学習、記憶、嗅覚の識別が向上することが分かりました。しかも血圧も体重も変化していませんでした。また、この結果は神経学的に理にかなったものです。
ただし、多動性と衝動性に関するカフェインの効果は一定していません(つまり、有効とする研究と無効とする研究があるという意味です)。
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動物実験レベルの研究をそのまま鵜呑みにするわけにはいきませんが、適量で度を越さなければADHDの人(または疑っている人)がカフェインを試すのはいいかもしれません。そもそも、ADHDにはメチルフェニデートが有効であることが分かっていますから、似たような作用のあるカフェインが有効なのは頷けます。
メチルフェニデートは覚醒剤類似物質で、商品名で言えばコンサータが該当します。連日内服すれば依存症にもなり得る危険な薬で安易に服用すべきではありません。また、メチルフェニデート以外のADHDの薬も長期服用は危険性が伴うと考えた方がいいでしょう。
カフェインも大量摂取は危険であり依存性もありますが、自制の効かないものではありません。そういう意味では、今後カフェインがADHDに対する比較的安全で長期使用が可能な”薬”となるかもしれません。
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|2022年3月20日 日曜日
第223回(2022年3月) GLP-1ダイエットが危険な理由
「GLP-1ダイエット」が大流行しています。薬剤を使ったダイエットがかつてこれほど流行ったことはおそらくありません。そして、有効性が高く、また安全性も”一応は”高いのです。実際、有効性・安全性に関したエビデンス(医学的確証)も集まってきています。
しかし、このダイエットを批判する声も次第に強くなってきています。後述するように日本医師会の副会長はかなり厳しい言葉を使ってこのダイエットを非難しています。では、「やせたい」と考えている人は今後このダイエット法を実践してもいいのでしょうか。今回は、GLP-1ダイエットの有効性と危険性をまとめてみたいと思います。
まずは歴史と作用機序を簡単に振り返っておきます。
GLP-1は消化管(胃腸)から分泌されるホルモンの名前で、発見されたのは比較的新しく1983年です。炭水化物を摂取すると分泌され、膵臓のランゲルハンス島β細胞に作用してインスリンを分泌。その結果、血糖値が下がります。ですからGLP-1がきちんと分泌されていれば糖尿病を防ぐことができます。
「GLP-1ダイエット」と呼ばれていますが、この表現は正確ではありません。なぜならGLP-1とは上述したように、ヒトが分泌するホルモンの名前だからです。「GLP-1ダイエット」という言葉のなかの「GLP-1」は正確には「GLP-1受容体作動薬」を指します。つまり、GLP-1と同じように作用する薬の名前が「GLP-1受容体作動薬」であり、元々この薬は「インスリンを分泌する」わけですから糖尿病の薬です。というより、今も糖尿病の薬です。
しかし、単にインスリンを分泌するだけではなく、GLP-1作動薬には食欲抑制効果があります。さらに、中性脂肪が吸収されるのを防ぐ効果もあります。さらに……、という説明を続けると難しくなってきますから、これ以上の説明はやめておきます。ここまでをまとめると、「GLP-1作動薬は糖尿病の薬でインスリン分泌を促す。食欲も低下するからダイエットにつながる。正確にはこのダイエットは、<GLP-1受容体作動薬を使って食欲低下をもたらせるダイエット>とでも言うべきだが、一般に<GLP-1ダイエット>という名前で呼ばれている」ということになります。ここからは「GLP-1ダイエット」で通します。
さて、実際にGLP-1ダイエットはどれくらいの人が成功するのでしょうか。これには複数の信頼性の高い研究があります。ここでは比較的最近発表された論文を紹介しておきます。
医学誌「BMJ Open Diabetes Research & Care」2022年1月号に掲載された論文「GLP-1受容体作動薬を用いた英国の2型糖尿病患者の体重変化、服薬遵守、中止について(Real-world weight change, adherence, and discontinuation among patients with type 2 diabetes initiating glucagon-like peptide-1 receptor agonists in the UK)」です。
研究の対象者は589人。56.4%が女性で、年齢の中央値は54歳。BMI(体重(kg)の2乗/身長(cm))の中央値は41.2(身長170cmなら119kg)です。GLP-1ダイエットを開始し、1年間が経過した時点で「5%以上の減量」を達成したのは3人に1人(33.4%)、2年が経過した時点では43.5%でした。
1年続ければ3人に1人以上が、2年続ければ4割以上が「5%以上の減量」に成功、しかも重篤な副作用がほとんどなし、というのですからこれはかつてない有用なダイエット法です。実際、海外ではすでに大勢の肥満の人たちがこの薬の恩恵にあずかり、減量に成功しているのです。
では、このダイエットの何が問題なのでしょう。1つは「現時点で保険適用がない」ことです。GLP-1受容体作動薬は非常に高価な薬です。例えば自己注射型のビクトーザは標準的な使用量では1回0.9mgを1日1回注射します。注射剤は1本18mgで薬価は10,359円(税抜き)です。ということは1本で20日分、費用は少なくとも15,000円くらいにはなるでしょう。尚、注射型のGLP-1受容体作動薬は、ビクトーザの他に、バイエッタ(1日2回)、リキスミア(1日1回)、トルリシティ(週1回)、ビデュリオン(週1回、2022年2月販売中止)、オゼンピック(週1回)、サクセンダ(1日1回)(日本未発売で輸入品のみ、ビクトーザと同じもの)(いずれも商品名)があります。
GLP-1受容体作動薬には飲み薬も1つだけあります。リベルサス(商品名)という内服薬で、標準的な使い方は1日1錠(7mg)で、薬価は1錠334.2円(税抜き)です。自費で購入するには最低でも1錠500円くらいにはなるでしょう。
つまり、注射にしても内服にしても最低でも月に15,000円くらいはかかるのです。ただ、「この程度の値段ならやってみたい」と考える人も少なくないでしょう。今までどんな方法でも成功しなかったダイエットが、月に15,000円でかなり高い効果が期待できて、安全性も問題ないのなら始めたいという人は大勢いるに違いありません。
では、費用を納得して始めることの何が問題なのでしょうか。
2022年3月2日、日本医師会の今村聡副会長が記者会見を行い、GLP-1ダイエットを実施している医療機関が増加していることを問題視しました。同副会長は「医の倫理に反する」という言葉を使い、さらに「医師が医療機関の名の下に、このような状態に関与していることは同じ医師として大変遺憾に感じている」と憤りを隠さなかったと報道されています。
実は、今村副会長は2020年6月にも同じような記者会見を開き、これは医師会のウェブサイトにも掲載されています。このときにもやはり「医の倫理に反する」と同じ表現を使っています。
「医の倫理に反する」というこの言葉、かなりきつい表現です。これを言われた側は、「もうお前は医師じゃない」と宣告されたようなものです。では、なぜ医師会の副会長がこれほどまで尋常でない言葉を使って非難するのでしょうか。それは、一部の医療機関が金儲け主義に走っているからです。いまや美容外科のクリニックはほぼ例外なくGLP-1ダイエットに手を出しているといっていいでしょう。さらに、一部の糖尿病専門医も手を出しているようで(と、太融寺町谷口医院の患者さんが話していました。大阪にあるようです)、今村副会長の面目は丸つぶれです。
しかし、「医療機関が金儲けをしようがやせたい患者も幸せになれるのならそれでいいではないか」という意見もあります。もしもあなたがこのように感じたとすれば、実際の患者さん(というよりは”被害者”と呼んだ方がいいでしょう)を見れば必ず考えが変わります。
谷口医院に花粉症の治療目的でやってきたある初診の患者さん(30代女性)が美容クリニックでGLP-1ダイエットの処方を受けていることが分かりました。しかし、この女性、肥満どころか異常なほどやせています。ピンときたために詳しく問診してみると、案の定でした。この女性、重度の摂食障害(拒食症)があり、もともと標準体重よりも少ないのです。そこにGLP-1ダイエットを始めたために病的なやせ方をしています。ですが、本人はそれでもまだ太っていると思い込み、さらなる減量を目指すためにGLP-1ダイエットはやめられないと言います。
今に始まったことではありませんが、一部の美容クリニックはもう無茶苦茶です。「医の倫理」など考えたこともないに違いありません。
医師会副会長が憤りを隠さずに表明したように現状を放置していいはずがありません。ではどうすればいいか。答えは簡単です。まず肥満を病気と認めて(これはすでに認められています)、GLP-1ダイエットは、例えばBMI30以上を対象とし、そして保険適用とし、保険適用外の自費診療を禁止するのです。禁止にする法律をつくることはできなくても、患者を登録制として、登録がなければ製薬会社が販売しない方針をとれば事実上の禁止にすることはできます。個人輸入という抜け道は残りますが、税関での審査を厳しくすればある程度は解決します。
「医の倫理」などとうに失われている現実に目を向けなければなりません。規則を厳しくすることでしか薬のまともな処方ひとつできないのが現在の日本の医師の実情というわけです。
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|2022年3月10日 木曜日
2022年3月 『総合診療医がみる「性」のプライマリ・ケア』上梓にあたり
2022年3月5日、『総合診療医がみる「性」のプライマリ・ケア』という本を上梓しました。一応、医学書というカテゴリーにはなりますが、太融寺町谷口医院をオープンして15年が経過した今、人の身体と精神を診察する上で、そして人間そのものを考える上で「性」がいかに大切かという観点からまとめた本です。
私の文章を昔から読んでくれている人はもう聞き飽きたと思いますが、私自身が医師を目指すようになったのは医学部の4年生になってからという遅さで、医学部入学時には医師ではなく研究者を目指していました。研究したかったのは「人間の思考、行動、感情」といったもので、一言で言えば「人間とは何か」を知りたかったのです。
私は10代の頃からこの「疑問」に取りつかれていて、高校生の頃は「人は何のために生きているのか」「自分はどこに行くべきなのか」「自分が生涯をかけてやるべきことはあるのか、あるとすればそれは何なのか」といったことを四六時中考えていました。その時に出た「とりあえずの結論」は、「ここにいてはいけない」でした。
つまり、「こんな田舎にいても自分の人生を無駄に過ごすだけだ」と考え、都心部に出ることだけを夢見るようになったのです。高校生の頃、大学に(少なくとも偏差値の高い大学に)行けるような学力はなく、このまま卒業して地元の工場で働いて、ささやかな楽しみは車をいじることとパチンコと週末のスナック通いと……、とそんな生活を想像すると耐えられなくなったのです。
なにしろ、ファストフードは1軒もなく(私が卒業してからマクドナルドができたようです)、喫茶店が数軒あるだけ、映画館はときどきできてもすぐにつぶれ、貸しレコード屋が1軒のみ、とそんな田舎です。高校を卒業すれば、堂々とパチンコ店に入れることと、スナックとやらに行けることくらしか娯楽は増えません。
その数年後には「勉強が好き」になった私ですが、高校生の頃、勉強は最も嫌なもので楽しいと思ったことなど一度もありません。模擬試験の偏差値が50を超えることはほとんどなく、英語と数学のクラスは成績別でしたが、私はついに最後まで上のクラスには行けませんでした。高3の12月に返って来た河合塾の全統記述模試では総合で偏差値が40です。
しかし後がない私は「都会に出る」ことだけを心の糧に高3の12月から猛勉強を開始しました。高3の夏休みに見学に行った関西学院大学(以下「関学」)のとても綺麗なキャンパスを思い出し、時計台の前の芝生で寝そべっている自分を想像し、勉強に嫌気がさしてくると関学のパンフレットを取り出してやる気を奮い立たせ、そして、勉強する内容は関学の赤本過去9年分のほぼ丸暗記です。
この方法で合格できた私は、「やればできる」という感覚をつかんだような気がしました。その後、関学時代も就職してからも「やればできる」をモットーに、苦手だった英語を克服し、一見無理にみえる仕事にも取り組むようになりました。会社員時代は新しいプロジェクトを自分で提案し、キーパーソンへの根回しなど人間関係でも「やればできる」の精神で突き進みました。医学部受験も「やればできる」を信じました。
「やればできる」は使い古された表現なので、いつしか「no pain, no gain」を口癖のようにしていました。この言葉も受け売りですが、韻を踏んでいるところが気に入ったのです。きっかけは、たしかリチャード・ブランソンの自叙伝だったと思います。
「医学部受験など真剣になれば誰にでも可能だ」、と当時の私は言い続けていました。そして、その考えをまとめたのが『偏差値40からの医学部再受験』という本で、2002年、私が研修医1年目のときに出版しました。この本はよく売れて改訂版も3度ほど出版され、全国から多くの手紙やメールをいただきました。なかにはこの本を持って私の職場まで会いに来られた人もいました。本を持ってきて「サインをしてください」と言われるのです。
こういうときはたいてい「何か一言書いてください」と依頼されるので、私はいつも「no pain, no gain」と書いていました。
さて、冒頭で述べたように最近新しい本を上梓しました。現在谷口医院に勉強に来ているある医師にこの本をプレゼントしたとき「何か一言書いてください」と言われました。本にサインをするのは久しぶりだったので、以前のように「no pain, no gain」と書こうと一瞬思ったのですが、同時に心のなかから「やめておけ」という声が聞こえてきました。
なぜか。それは現在の私がもはや「no pain, no gain」が正しいと思っていないからです。今年54歳になる今となって思うのは、「人生は努力だけではどうにもならないことがある」ということで、より正確に言えば「努力できること自体が幸運だ」となります。
過去のコラム「『偏差値40からの医学部再受験』は間違いだった」でも述べたように、私はこれまでの人生で、不幸としかいいようのない運命の人たちに出会ってきました。もちろん、私が直接知らない人のなかにも「不幸」以外に言葉が見つからないような境遇の人は世界中にたくさんいます。ある日突然、戦争が始まり難民になることだってありますし、肌の色が原因でいきなり暴力の犠牲になったり、突然不治の病を宣告されたり、自分に責任のない交通事故の犠牲となり障害を負ったり……、とそういったことはいくらでもあります。そのような運命に遭遇した人に向かって「no pain, no gain」などと言えるわけがありません。
その過去のコラムで述べたように、「努力ができるのも幸運に恵まれたから」であり、「ならば与えられた境遇で精一杯のことをやる」のが正しい生き方ではないかといつしか考えるようになりました。シェークスピアの名言「All the world’s a stage」が示すように「この世のすべては舞台だ」と考え、与えられた役割を演じるのです。
私が総合診療医を目指すようになったのは、研修医の頃に訪れたタイのエイズホスピスで出会った欧米の総合診療医たちの影響です。彼(女)らは、患者さんの訴えをすべて聞き入れ、日本の専門医がよく口にする「それはうちの科じゃありません」というセリフを決して言いません。たいていの訴えはきちんと聞いて診察・治療をおこない、自身で診られない症状や疾患についても何らかの助言をおこないます。そういった診療の姿をみるにつれ、「これが医師が患者を診るべき姿だ」と直感した私は帰国後、総合診療医になることを決意しました。
その後は決意が揺らぐことなく総合診療医の道を進んできました。どのような患者さんのどのような訴えも聞くように努めています。患者さんとの距離は近くなり、家族や親友にも話していないようなことを聞く機会もよくあります。もちろん話を聞くだけでは意味がなく、その患者さんにとって最善の治療をおこなわなければなりません。そのための知識と技術の吸収をやめることはできません。
そういった診療を15年以上続けてきて思うことのひとつに「<性>は人間にとってとても大切なこと」があります。患者さんの訴えの”裏側”には「性」が隠れていることが多々あるのです。また、生活習慣の改善にはパートナーの協力が得られるか、パートナーのために治療に前向きになることはできるか、そもそもパートナーはいるのか、性的指向は同性か異性か、もしかすると性自認が揺らいでいるということはないか、リビドーがその人の行動に影響を与えていることはないか、といったことを考えるべきこともあります。
医学部入学、研究者から医師への進路変更、タイでの総合診療医との出会い、帰国後の大勢の患者さんとの出会いなどの運命を通して、培ってきた経験を他人に伝え、そして与えられた”舞台”で役割を演じるのが今の自分の運命だと思っています。
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|2022年2月20日 日曜日
2022年2月21日 歯周病が身体も精神も蝕んでいく
歯周病が心疾患を中心とする様々な疾患のリスクになることは随分前から指摘されています。日本の多くの歯科医院のウェブサイトにもそれが掲載されていて「Floss or Die」という言葉はそれなりに人口に膾炙しています。「フロスをするか、死か」というこの標語は、デンタルフロスをしっかりと実践して歯周病を予防しなければ、死に至る病を起こすことになるという意味です。
では、(フロスを怠るかどうかは別にして)歯周病を起こせば身体疾患、あるいは精神疾患に対するリスクがどれくらい上昇するのでしょうか。
医学誌『BMJ Open』2021年12月19日号に掲載された論文「歯周病の慢性疾患への関わり:英国のプライマリ・ケアでのデータを使用した後向きコホート研究 (Burden of chronic diseases associated with periodontal diseases: a retrospective cohort study using UK primary care data)」を紹介したいと思います。
研究の対象者は英国在住者で、かかりつけ医で歯周病の記録がある64,379人と、歯周病の記録のない対照者251,161人です。調査開始時点の平均年齢は45歳、調査期間は1995年1月1日から2019年1月1日までで、追跡期間の中央値は3.4年です。
調査開始時点(ベースライン時点)の解析では、歯周病があるグループは対照グループに比べて、各疾患の罹患率が次のように上昇していました。
・(狭心症などの)心血管疾患:43%上昇
・(糖尿病などの)代謝疾患:16%上昇
・(関節リウマチなどの)自己免疫疾患:33%上昇
・(うつ病などの)精神疾患:79%上昇
次に、調査開始時点ではなかったけれど追跡期間中に歯周病ができた人が、対照グループ(追跡期間中も歯周病にならなかった人)に比べて各疾患の罹患率がどれだけ上昇したかをみてみましょう。
・(狭心症などの)心血管疾患:18%上昇
・(糖尿病などの)代謝疾患:7%上昇
・(関節リウマチなどの)自己免疫疾患:33%上昇
・(うつ病などの)精神疾患:37%上昇
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この論文を読んで、私がまず驚いたのは英国のプライマリ・ケア医(私のような総合診療医)は患者さんの歯の状態に関心を払い、カルテにその旨を記載していることです。私の場合、患者さんからの訴えがあれば簡単な(とても簡単な)歯のチェックをおこなって歯周病や齲歯(虫歯)がひどければカルテに記載しますが、ほとんどの患者さんに対しては訴えがなければ歯科疾患に関しての話をすることもあまりありません。
次に驚いたのが精神疾患の高さです。歯周病と心疾患との関係は昔からよく指摘されていますし、糖尿病の患者さんに歯周病が多いことにはなんとなく気付いていましたが、精神疾患は考えたことがありませんでした。
精神疾患の場合、気分が落ちることにより、フロスどころかブラッシングすらできなくなり口腔内の衛生状態が悪化して歯周病になるのでは、と考えられますが、これだけ高い数字をみると、もしかすると、歯の不衛生でなく精神疾患が先なのかもしれません。精神状態が悪くなることで免疫能が低下して、その結果歯周病をもたらす細菌が増殖するという理屈です。
いずれにしてもすべての人が歯周病の予防をすべきなのは自明です。ちなみに、私の場合、フロスが苦手で歯間に入れることができないために歯間ブラシを使っています。ブラッシングは30年前から電動歯ブラシを愛用しています。しかし、最近歯科医院を受診すると歯肉炎があることを指摘されました……。
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|2022年2月20日 日曜日
第222回(2022年2月) ポストコロナ症候群に有効な治療薬はあるか
前回は新型コロナウイルス(以下、単に「コロナ」)に感染した後に生じるポストコロナ症候群(以下、PCS)に劇的に効く可能性があるのがコロナワクチンであるが、コロナワクチンでPCSが余計に悪化することもあり「両刃の剣」であることを紹介しました。
他の薬としては、海外では、deupirfenidone(日本未発売)、抗血栓薬のアピキサバン(エリキュース)、高コレステロール血症薬のアトルバスタチン(リピトール)などがよく用いられているものの必ずしも有効性が認められているわけではないこと、日本では、ビタミン剤、プレガバリン(リリカ)、イベルメクチン(ストロメクトール)、ステロイドなどが用いられるがどれもエビデンスがないことを述べました。また、一部の医療機関で実施されているBスポット療法(EATとも呼ばれます)は術者に差があることに加え「無効だった」という声が多いことも述べました。
結局、「自信を持って勧められる薬はない」が現時点で言えることです。しかし、それでもPCSで苦しんでいる患者さんを見捨てるわけにはいきませんから、我々は手探りで有効な治療方法を探し求めているわけです。
今回はそんな薬のなかでも、比較的期待度の高い2つ、すなわちビタミンDと亜鉛について現時点で分かっていることを紹介したいと思います。
しかし、その前にイベルメクチンについて触れておきましょう。この薬は、2020年の春には期待する声が上がっていました。副作用が少なく廉価であることから、世界各国で試験的に使われました。一部には有効とする研究もありましたが、大規模研究(例えばこのメタアナリシス)では効果が否定されています。また、イベルメクチンが有効とする研究には不正が複数みつかっており、BBCはこれを指摘し、やはり有効性を否定しています。
過去のコラム(はやりの病気第146回(2015年10月)「疥癬(かいせん)と大村先生のノーベル賞」)で述べたように、イベルメクチンは疥癬に対しては驚くほどよく効きます。それまでの疥癬に用いる薬はどれもあまり効きませんでしたから、イベルメクチンの登場は画期的でした。ところが、コロナに対しては、たしかにコロナウイルスを入れた試験管にイベルメクチンをふりかけるとウイルスが死ぬことは分かっているのですが、感染した人に飲んでもらっても効果がないのです。
そんななか、2022年1月31日、興和株式会社が「興和 イベルメクチンの「オミクロン株」への抗ウイルス効果を確認」というタイトルのプレスリリースを公表し、これが物議を醸しました。タイトルには「抗ウイルス効果を確認」とありますから、あたかも臨床試験で(つまり人に投与して)効果があったような印象を受けますが、内容をよく読めば試験管の中の話であることが分かります。これでは多くの人が勘違いするに違いありません。実際、Reuterはこのプレスリリースを受けて「臨床試験で効果あり」といった内容の誤報をおこない、後に訂正記事を出しました。これについての検証記事はAFPが発表しています。
世界的にはイベルメクチンは「効かない」とされているのにもかかわらず、日本にはいまだに効能を信じる「イベルメクチン信者」がいます。そして、彼(女)らは「イベル」と呼び「イベル、置いてますか」と毎日のように問い合わせをしてきます。さらに興味深いのは、海外の「イベルメクチンがコロナに有効」とする研究でも後遺症に効くとしているわけではいことです。それが、日本のイベルメクチン信者の間では、いつのまにかコロナにだけではなく、コロナ後遺症も、さらにはコロナワクチン後遺症にも有効な薬だとされているのです。
なぜ、このようにイベルメクチンが有効であると盲目的に信じる人がいるのかはよく分かりませんが、そろそろ目を覚ましてPCSに効果のある薬をきちんと探すべきです。
ビタミンDの効能を振り返ってみましょう。ビタミンDは、コロナが流行し始めた頃から注目されていて、「有効」とする小規模な研究もありました。しかし、現在は重症化を予防する効果は「ない」とされています(例えば医学誌「JAMA」2021年3月16日号に掲載された論文「中等度から重症のコロナ患者の入院期間についてのビタミンD3の単回高用量の影響:無作為化臨床試験 (Effect of a Single High Dose of Vitamin D3 on Hospital Length of Stay in Patients With Moderate to Severe COVID-19: A Randomized Clinical Trial )」)。感染予防については有効とする研究もあるのですが(例えば医学誌「Aging Clinical and Experimental Research」に掲載された論文「コロナの感染症と死亡率予防におけるビタミンDの役割(The role of vitamin D in the prevention of coronavirus disease 2019 infection and mortality)」、エビデンスレベルの高い研究は見当たりません。
PCSに対するビタミンDの効果については、残念ながら否定するものが目立ちます(例えば医学誌「Nutrients」2021年7月15日号に掲載された論文「コロナ感染後のビタミンDと持続する症状との関係の研究 (Investigating the Relationship between Vitamin D and Persistent Symptoms Following SARS-CoV-2 Infection)」。ビタミンDは正常な免疫能を維持するのに必要なものであり、昔に比べて紫外線にあたらなくなった日本人は不足しがちですから、日ごろから食品から(またはサプリメントから)積極的に摂取すべきですが、PCSの治療薬としては期待できなさそうです。
次に亜鉛をみてみましょう。亜鉛がコロナに有効と考えたくなるのは、感染すると味覚障害が起こるからです。亜鉛欠乏でも味覚障害が起こりますから、誰でも「コロナ感染+亜鉛不足→味覚障害」と一度は疑います。ところが、「医療基盤・健康・影響研究所」は亜鉛の有効性を否定しています。一方、海外の研究のなかには「亜鉛欠乏者はコロナで重症化しやすい」とした論文もあります(例えば医学誌「International Journal of Infectious Diseases」2020年11月号に掲載された論文「コロナ、亜鉛欠乏症患者は重症化しやすい (COVID-19: Poor outcomes in patients with zinc deficiency)」)。
「亜鉛は効果がなかった」とする研究もあります。医学誌「JAMA」2021年2月12日号に掲載された論文「コロナ患者の症状の長さと改善に関する高用量の亜鉛とビタミンCと通常治療の効果 (Effect of High-Dose Zinc and Ascorbic Acid Supplementation vs Usual Care on Symptom Length and Reduction Among Ambulatory Patients With SARS-CoV-2 Infection)」では、亜鉛摂取、ビタミンC摂取、両方摂取、どちらも摂取しない、の4つのグループで、症状の長さや改善度にまったく差を認めませんでした。
結局のところ、亜鉛はコロナにもPCSにも有効とするエビデンスはありません。しかし、「日本人は日ごろから亜鉛不足」という意見があります。ならば亜鉛をコロナ感染予防のために、あるいは感染してからPCSを防ぐために摂取した方がいいのでしょうか。私は安易には摂取しない方がいいと考えています。それは、本当に亜鉛不足かどうかが分からないからです。過去の「医療ニュース」(2015年7月21日「危険な亜鉛サプリメント」)で述べたように、私自身が自分の血中亜鉛濃度を計測してみると、不足しているどころか正常範囲をオーバーしていました。この状態でサプリメントなどから亜鉛を摂取すると大変なことになっていたかもしれません。
亜鉛にはまだ問題があります。それは上述の「医療ニュース」で述べたように亜鉛の摂りすぎで銅欠乏症を招く恐れがあるからです。私は銅を意識して食事をしたことがありません。そこで不足していないかどうかを確認するために血中銅濃度を測定すると、132ug/dLと基準値(70~130ug/dL)をオーバーしていました。
ちなみに、私の血中ビタミンD濃度についてはたいてい基準値より低く出ます。そこで医薬品の(サプリメントでなく)ビタミンD(正確には「活性型ビタミンD」)をしばらく毎日摂取していたことがあるのですが、ほとんどビタミンDの値(この場合は1,25-(OH)2ビタミンD)は上昇しませんでした。以前「ビタミンDのサプリメントの効果を知りたいから血中ビタミンD(25-OHビタミンD)の濃度を調べてほしい」という患者さんの採血をおこなうと充分に高い数値を示していました。ということは、ビタミンDについては医薬品よりもサプリメントの方が、効果が高いのかもしれません。
話を戻しましょう。コロナにもPCSにも、もちろんポストコロナワクチン症候群にも今のところビタミンDや亜鉛が有効とする質の高いエビデンスはありません。また、これらの血中濃度を調べるのは保険診療上困難で、自費であれば高くつきます。結局のところ、日ごろからバランスのとれた食事をしましょう、といったことくらいしか言えません。
ビタミン、ミネラルの適正摂取は意外に難しいのかもしれません。ならば、定期的にこれらの値を測定して不足しているものはサプリメントで補えばいいのでは?と考えたくなりますが、これはなかなか困難です。保険適用がなく、しかも通常の採血で計測するような項目に比べると、ビタミンやミネラルの測定はかなり費用が高いからです。ただし、私自身も関心があるので、これから自分でお金を出して調べてみようと思います。近いうちに報告したいと思います。
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|2022年2月13日 日曜日
2022年2月13日 カレーライスは身体も精神も健康にする!
数年前から「カレーが健康に良い」ということがしばしば指摘されます。香辛料のおかげで塩分摂取が減ること、タンメリックに含まれるクルクミンをはじめ、各スパイスには抗酸化作用があること、漢方薬にも使用されるクローブやナツメグは様々な健康増進効果があること、などがその理由でしょう。
ですが、「カレーが健康に良い」とされている記事を最後までよく読むと、たいていはご飯を食べると(つまりカレーライスにすると)、炭水化物を摂りすぎることになり(日本のカレールーにはコムギがたっぷり入っています)健康に悪いために、「一緒にご飯を食べるのは避けてカレールーだけで食べましょう」と書かれています。
では、カレーはよくてもカレーライスは身体によくないものなのでしょうか。実は、「カレーライスは身体にも精神にも良い」とする研究が発表されました。
医学誌「Diabetes & Metabolic Syndrome」2021年12月号に掲載された論文「カレーライス消費と高血圧、2型糖尿病、うつ病との関連:2012~16の調査結果 (The association between curry-rice consumption and hypertension, type 2 diabetes, and depression: The findings from KNHANES 2012-2016)」を紹介します。
研究の対象者は18歳以上の韓国人17,625人。カレーライスの消費量と心血管障害、2型糖尿病、うつ病などとの関連が解析されました。結果は、カレーライスをよく食べる人は、食べない人と比べて次のような違いがあることが分かりました。、
・中性脂肪上昇のリスクが11%低い
・糖尿病の指標であるHbA1C、血糖値がそれぞれ19%、14%低く、2型糖尿病の発症リスクが18%低い
・高血圧のリスクが12%低い
・うつ病のリスクが18%低い
************
驚くべき結果ですが、この結果を信用していいのでしょうか。嗜好品を対象とした調査は、得てして研究者の”好み”が反映されます。喫煙者はタバコの害が小さくなったデータを大切に扱うどころか、タバコが健康にいいとするデータをなんとか出そうとします。アルコールでも赤身肉でも同じです。
カレーライスがこれだけ健康に良いとするデータを算出したのはおそらく「カレー好き」の学者でしょう。
そして、その「カレー好き」が執筆した論文を食い入るように読んで、このようにまとめたものを公開する私もまた「カレー好き」であることはすでに本サイト読者の方にはお見通しでしょう。
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|2022年2月11日 金曜日
2022年2月 「絶望」から抜け出すための方法
前回は昨年(2021年)12月に起こった西梅田精神科クリニック放火事件を取り上げ、こういった犯罪を実行する人間は「絶望」を抱えていて、その絶望を阻止するには社会の一人一人が草の根レベルで他人を慮り信頼されるように努めることだ、という自説を紹介しました。
今回はその後新たに生じた不幸な2つの事件を振り返り、絶望を感じそうになったときや感じてしまっているときには何をすればいいのか、について私見を述べたいと思います。
まずは1つめの事件です。
2022年1月15日午前8時半ごろ、東京大学近くの路上で、名古屋の17歳の高校生が、大学入学共通テストを受験しにきていた高校生2人(男子1名女子1名)及び70代の男性の合計3人を刃物で刺傷。さらに犯行現場の最寄り駅「東大前」で放火事件も起こしました。刺傷被害の高校生2人は意識があり助かりましたが70代男性は重症(その後の報道は不明)。加害者の17歳男子は「勉強していても上手くいかず、大きな事件を起こして自分も死のうと思った」と供述したそうです。
次は2つ目の事件です。
2022年1月27日午後9時頃、ふじみ野市在住の66歳の男、渡辺宏が44歳の男性医師を含むクリニックの関係者7人を自宅に呼びつけ、散弾銃で医師を殺害、さらに41歳の理学療法士も銃撃しました。報道によると、渡辺の母親がこのクリニックによる在宅医療を受けており事件前日に他界。医師を含むクリニックの関係者7人を弔問に呼びつけ「死んだ母を蘇生せよ」と迫りました。犯人は日頃からクリニックに不満を抱えており、過去15回に渡り医師会に苦情の電話を入れていたとのこと。さらに、複数の医療機関にも抗議しており、治療方針や病院対応に不満を感じると院内で大声を出して怒っていたことが報道されています。
ふじみ野市のこの銃殺事件は、特に訪問医療に従事する大勢の医療関係者を震撼させました。当然のことながら、犯人の渡辺を非難する声は医療者からだけでなく一般の世論からも挙がっており、簡単に銃所持を許可した行政にも批判の矛先が向いています。
後になってから、実情を知らない無責任な立場から「~たら、~れば」と論じるようなことは避けるべきではありますが、それでもこの事件について「私だったら」という視点で私見を述べておきます。
医師は基本的に患者さんの立場に立ちます。疾患を抱えている場合、少々矛盾したことを言っていたとしてもあくまでも患者さんの「味方」となります。患者さんが会社や家族と争っている場合、「医学的な観点から」という条件はつきますが、できる限りのことをして患者さんを守ります。
ただし、患者さんの味方になるのも「限度」というものがあります。「患者さんよりも大切な人たち」を守らねばならないからです。そして、その「大切な人たち」とは共に働くスタッフです。
医師の前では腰が低いのに、看護師や受付スタッフに対しては横柄な態度をとる患者がいます。太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)にもたまにそういう患者がやってきます。もちろん、谷口医院のスタッフ側に問題があるような場合は別ですが、そうではなく言いがかりとしか考えられないようなとき、つまり「限度」を超えた場合には、私自身がその患者の目を見ながら「当院では診られません。二度と来ないでください」と「出入り禁止宣告」をおこないます。この「宣告」は平均すると年に1人くらい、つまり過去に十数名に対しておこなっています。
ただ、これ以上は大切なスタッフに言葉の暴力の被害を負わせるわけにはいかないと判断して「出入り禁止宣告」をおこなうわけですが、それでも「この患者にも何らかの事情があるに違いない」とは考えます。これまでこの社会で生きてこられたわけですから、それなりの常識や節度も持っているはずです。ふじみ野市の渡辺も、報道によれば過去には銀行員として勤めていたそうですから、まったく社会に適合できないわけではないでしょう。
では、なぜ「暴走」する患者がいるのか。それは社会や他者への怨恨などから「絶望」が取返しのつかないところまで大きく膨れ上がったからであり、その絶望を抑制するためには周囲の人間が草の根レベルで他者を慮らねばならない、というのが前回のコラムで述べたことです。
では、運悪く周囲にそういった気遣いをしてくれる他者がいなかった場合は防ぎようがないのでしょうか。
報道によれば、渡辺は病弱する母親のために1つ1万円もする魔除けの「塩」を2つも購入していたそうです。宗教的なパワーに期待することは決して悪いわけではありません。宗教に救われたという話は古今東西どこの社会にもいくらでもあります。では、魔除けの塩を販売した宗教には何か問題があったのでしょうか。自分がよく知らない宗教を悪く言うべきではありませんが、この宗教は困窮した人(渡辺)に対するコミュニケーションが不十分だったのではないでしょうか。
現代日本に住む我々はもはや宗教に頼ることができないのでしょうか。その答えは簡単には出せませんが、私なら宗教よりも別のものを探し求めます。それは何かというと「人、本、旅」です。この「人、本、旅」という言葉は私のオリジナルではなくて、現在APUの学長をされている出口治明さんの名言です。出口さんは、この3つを「人間が賢くなる方法」あるいは「人生を豊かにする方法」として述べられていますが、私はもっと根源的なレベル、すなわち「人が人として絶望せずに生きていくために不可欠なもの」と捉えています。ちなみに、出口さんは私の出身高校の大先輩(ちょうど20年先輩)です。
世の中の何もかもがイヤになり、手を差し伸べてくれる人がまったくいなければ「人、本、旅」から「人」は消えますが「本」「旅」は残ります。本は申し訳ないくらいに安く手に入るものですし、旅もさほどお金をかけずにすることもできます。もちろんお金があるに越したことはありませんが。
本は何を読んでも救われるわけではありませんが、私の”独自調査”によると、いわゆる「古典」を数多く読んでいる人はたいてい心が安定しています。古典とは聖書など宗教に関わるものから、歴史書、シェークスピアなどの古典文学、夏目漱石や志賀直哉といった日本の名著も含めてのことです。
旅についてはやはりお勧めは「一人旅」です。最も推薦したいのはスケジュールを決めずにバックパッカーとして海外を放浪することですが、国内1泊旅行でも自分と向き合って心を豊かにすることは可能です。ちなみに私は、コロナ前までは学会参加にかこつけて全国各地を訪れることを趣味にしていました。
もしもこれを読まれている方が、人生に行き詰っていたり、やりたいことやすべきことが見つからなかったり、あるいは絶望を抱えているのであれば、「人、本、旅」の大切さを思い出し、周囲に適当な人がいなければ「本」をもって「旅」に出てみませんか。それだけでも心が平和になります。さらに旅先では、新たな「人」との出会いが待っているかもしれません。
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|2022年1月23日 日曜日
2022年1月23日 ソーシャルメディアの利用はうつ病を招く
ベストセラーとなったスウェーデンの精神科医アンデシュ・ハンセンによる『スマホ脳』(英語版タイトル『Insta-Brain』)には、(私は読んでいないのですが)「スマホは脳の報酬系を刺激して依存させ、集中力を低下させ、抑うつ状態を作り出す」という内容が書かれているそうです。
最近「スマホ=悪」のような論調が目立ち、私自身はそれには反対なのですが(後述するようにスマホは優れたデバイスです)、ソーシャルメディアはその限りではありません。『スマホ脳』でも、ソーシャルメディアが抑うつ感を招く理由が詳しく書かれているのでしょうが、ここでは最近発表された論文を振り返ってみたいと思います。
まずは言葉の確認から始めましょう。似た言葉にSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)というものがありますが、ここではSNS(Facebook、Twitter、Instagramなど)に、YouTube、ニコニコ動画などの動画共有サイト、掲示板、さらにLINEなどのメッセージアプリも加えた、要するにインターネットを介したコミュニケーションツールをソーシャルメディアと呼ぶことにします(ただしビジネスなどに用いるemailは除外します)。
医学誌『JAMA Network Open』2021年11月23日号に「米国の成人におけるソーシャルメディアの使用と自己申告によるうつ病の症状との関連 (Association Between Social Media Use and Self-reported Symptoms of Depression in US Adults)」というタイトルの論文が掲載されました。
この研究の対象者は、2020年5月から2021年5月の間に合計13回にわたって実施されたオンライン調査に参加した米国の成人5,395人(平均年齢55.8歳、女性65.7%)で、ソーシャルメディアの使用と抑うつとの関係が解析されています。抑うつ状態の評価にはPHQ-9(Patient Health Questionnaire-9)と呼ばれるスケールが用いられています。対象となったソーシャルメディアは、Facebook、Instagram、LinkedIn、Pinterest、TikTok、Twitter、Snapchat、YouTubeです。
結果、調査期間中に対象者の8.9%(482人)がPHQ-9スコアが5点以上となり「抑うつ状態」と判定されました。特にうつ状態が悪化したのがSnapchat、Facebook、TikTokです。
************
私はソーシャルメディアをほとんど利用しません。LINEは行政からの連絡や(大阪府の医療者の場合)コロナワクチンの予約の連絡などにも必要ですから使わないわけにはいきませんが、本音を言えば使いたくありません。複数の知人から「LINEくらい見といてよ」とよく言われますから1週間に一度くらいはチェックするよう心がけてはいますが、それも面倒くさくて1週間以上知人からの連絡を放っていることもよくあります。だから近しい知人は、電話か電子メールで連絡を寄せてきます。
それでもたまにTwitterやFacebookを覗いてみることがあるのですが、はっきり言うと気持ち悪くなります。Twitterは有名人もけっこう書き込んでいるようですが、「えっ、この人がこんな汚い言葉使うの?」と驚き、そして幻滅することの連続です。Facebookは、「これ、自慢以外の何?」と言いたくなるような写真やコメントのオンパレードに嫌気がさします。
「最も恥ずべき話が自慢と悪口」ではなかったでしょうか。
医師の掲示板もひどいものです。匿名なのをいいことに罵詈雑言の嵐です。そして、こういうページに人気があることが私には不思議でなりません。そもそも他人の悪口を聞かされれば不快な気分にならないでしょうか。
私は「言葉」というものは人間にとって非常に大切なものだと思っています。言葉をなくせば人間が人間として存在し続けることができなくなります。だから、我々はもっと言葉を大切にし、自分の言葉に責任を持つべきだと信じています。ただし、このような考えを他人に強要するつもりは毛頭なく、匿名で他人を罵り合ったり、自慢したりすることを楽しいと思う人たちとは住む世界が違うだけだと思っています(実際はすぐ近くに住んでいるのでしょうが)。
話を戻しましょう。私が思うに、自慢話や他人への罵詈雑言が飛び交うソーシャルメディアを見ていると抑うつ状態になるのは至極当然の帰結であり、まともな精神状態を維持したければそんな世界とは縁を切って、言葉に責任を持つという考えの人とのコミュニケーションを重視すればいいのです。
ところで、冒頭で述べたように、私はスマホ自体はとても貴重なツールだと思っています。私が最も使うアプリは英英辞典(LONGMANを最も多用し、頻繁に発音させています)、英和・和英辞典(Weblioの使用が最多)、類義語辞典/シソーラス(こちらもWeblioが多い)、漢和辞典などで、コミュニケーションを上達させるための言葉の学習にもはやスマホは欠かせないアイテムです。
最後にドイツの医学者フーフェランドが著した医師の倫理要綱とも呼べる『扶氏医戒之略』から一部を紹介します。
人の短所を言うのは聖人君子のすべきことではない。他人の過ちをあげることは小人のすることであり、一つの過ちをあげて批判することは自分自身の人格を損なうことになろう(馬場茂明著『聴診器』より)
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