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2013年7月14日 日曜日

2010年10月7日(木) コレステロール基準についてNPOが見解発表

 先月(2010年9月)に日本脂質栄養学会が「悪玉コレステロールが高い方が長生きする」という発表をおこない物議をかもしていることはこのサイトでもお伝えしてきました。(詳細は下記「医療ニュース」参照) これには我々医師の方にも多少なりとも混乱が生じ、患者さんに対する説明に苦慮することがしばしばあります。

 そんななか、J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)というNPO法人が見解を発表しました。(詳しくは下記URL参照)

 J-CLEARの見解を簡単にまとめると次のようになります。

 まず、「コレステロールは低い方がいい」とする研究は、主に元々心臓病などを持っている人を対象とした研究が根拠になっており、一般市民にもあてはまるとは言えない側面があることを指摘しています。

 一方、日本脂質栄養学会の主張する「悪玉コレステロールが高い方が長生きする」という考えは、動脈硬化に対するリスクが高い人に対してもあてはまるとは言えず、高い悪玉コレステロールが長寿につながる、などといった考えは危険であることも指摘しています。

 動脈硬化性疾患発症のリスクとして悪玉コレステロール値のみに注目するのではなく、高血圧、糖尿病、喫煙、家族歴など他の危険因子も考慮して、トータルな生活習慣病の管理が重要である、ということをJ-CLEARは主張しています。

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 J-CLEARの指摘どおり、一律に「悪玉コレステロール値(LDL)が140mg/dL以上は動脈硬化のハイリスク」としてしまうのは短絡的すぎるでしょう。閉経後の女性であればこの数値より高い人はいくらでもいますし、逆に基準値以下であったとしても、肥満+高血圧+喫煙があれば、動脈硬化のハイリスクであることは明らかです。

 トータルな生活習慣病の管理を医師と共に考えていく、結局はこう考えるのが一番よさそうです。

注:J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)の見解は下記のURLで閲覧できます。

http://j-clear.jp/oshirase.html

(谷口恭)

参考:医療ニュース
2010年9月6日 「やはり悪玉コレステロールが高い方が長生き!?」
2010年7月14日 「悪玉コレステロールが高い方が長生き!?」

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2013年7月14日 日曜日

2010年10月7日(木) 公費によるHTLV-1妊婦健診が決定!

 2010年9月21日にこのサイトで、HTLV-1の妊婦健診が公費でおこなわれるようになるかもしれない、ということをお伝えしましたが(下記「医療ニュース」参照)、ついに決定しました。

 10月5日、菅直人首相が設置した特命チームが、妊婦を対象とした全国一律の検査を公費負担で行うことを正式に決定しました。(報道は10月6日の共同通信など)

 実際に公費負担で検査が実施されるようになるのは自治体によって異なりますが、早いところでは年内にも開始される見込みだそうです。

 また、検査で陽性だった人に対するカウンセリングができるよう関係者に協力を要請することも決められたそうです。

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 公費による検査がようやく実現することになり一安心ですが、それまでの間も妊婦さんの負担なしで検査できるよう各自治体に努力してもらいたいものです。

(谷口恭)

参考:
医療ニュース2010年9月21日 「待望のHTLV-1妊婦健診、年内実現の見込み
医療ニュース2009年6月29日 「HTLV-1が大都市で増加」
はやりの病気第47回 「誤解だらけのHTL V-1感染症(前編)」
はやりの病気第48回 「誤解だらけのHTLV-1感染症(後編)」
NPO法人GINAウェブサイト 「少しずつ注目され始めたHTLV-1」

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2013年7月14日 日曜日

2010年10月15日(金) Hib、肺炎球菌、HPVワクチンの無料化決定!

 日本では、本来全員に接種すべきワクチンが普及していない・・・

 これは、このサイトで何度も指摘してきたことですが、ようやく改善の兆しが見えてきました。10月8日、Hib(インフルエンザ桿菌)ワクチン、小児用肺炎球菌ワクチン、HPVワクチンの3種のワクチンが、原則無料で接種できるようになることを政府が決定したそうです。(報道は10月13日の読売新聞)

 報道によりますと、年内にも無料接種が実現しそうで、経費は2010年度補正予算案に盛り込まれるようです。総額は約2,000億円と算出されており、国と地方で折半する方向で調整されるそうです。

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 現在、日本医師会が中心となって、これら3種のワクチン以外にも、B型肝炎ワクチン、水痘ワクチン、流行性耳下腺炎(おたふく風邪)ワクチンが無料で接種できるようになるための署名活動をおこなっています。当院でも署名を承っておりますので、協力いただける方は受付までお申し出ください。

(谷口恭)

参考:
メディカル・エッセイ第90回 「理想のワクチン政策とは・・・」
メディカル・エッセイ第89回 「日本は「ワクチン後進国」の汚名を返上できるか」  
はやりの病気第77回(2010年1月) 「子宮頚ガンのワクチンはどこまで普及するか」
はやりの病気第76回(2009年12月) 「インフルエンザ菌とそのワクチン」
ginaコラム 「子宮頚ガンとHPVワクチン」

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2013年7月14日 日曜日

2010年10月20日(水) 小麦入り化粧品、特に”お茶石鹸”に注意

 10月15日、厚生労働省は、小麦の成分が入った化粧品や石鹸を使って顔面のかゆみなどアレルギー症状が現れたという報告が相次いでいることを発表しました。

 同省によりますと、最近1ヶ月間で、こういったアレルギー症状は合計21例の報告が国にあったそうです。重篤な例の報告はこれまでないそうですが、「運動誘発性アレルギー」といって、小麦入り製品を使用した後、運動をおこなうことによって全身にじんましんや血圧低下が起こった例もあるそうです。(通常、このような症状は「アナフィラキシー」と呼ばれ、”重症”とみなされるはずなのですが・・・)

 小麦入りの製品には、石鹸、シャンプー、化粧水、毛染めなどがあるそうです。小麦を入れる目的は、しっとりとした感覚や泡立ちを得るため、だそうです。

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 ここ1年間くらい、アレルギー関連や皮膚科関連の学会や研究会に参加すると、必ずこの話題が出ています。最近、特に多いのが、”お茶石鹸”で、急速に売上を伸ばしているのと平行してアレルギーの被害も増加傾向にあるようです。

 なんで”お茶”で小麦なの?、と思われる方も多いでしょうが、私の知る限り、この被害はお茶石鹸を使った人に最も多いのです。実際、お茶石鹸を販売している会社のウェブサイトで石鹸の成分を調べてみると、たしかに小麦が使われていました。

 このタイプのアレルギーで最も多い誤解が、「長年使っているから大丈夫」というものです。この理解は必ずしも正しくなく、実際、小麦が含まれている石鹸や化粧品を使って数ヶ月から数年してから発症、というケースは珍しくありません。

 石鹸や化粧品を使ったあとに、湿疹や蕁麻疹、あるいは、これらの使用後の運動で何か症状が出た人は早めに医療機関を受診してください。

(谷口恭)

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2013年7月14日 日曜日

2010年10月27日(水) 悪玉コレステロールを巡る混乱

 日本脂質栄養学会が発表した「悪玉コレステロールが高い方が長生きする」というガイドラインに対し、J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)というNPO法人が見解を発表したということを先日述べました。(詳細は下記医療ニュース参照)

 今度は、日本医師会と日本医学会の両会長が、10月20日、日本医師会館で行われた会見で、「(悪玉コレステロールが高い方が長生きするなどといった考えには)科学的根拠なく、必要な患者の治療を否定するような同ガイドラインを断じて容認することはできない」、と日本脂質栄養学会の見解に反対の表明をおこないました。

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 今回の日本医師会と日本医学会の両会長が発表した日本脂質栄養学会のガイドラインに対する反対の表明は、日本動脈硬化学会の見解を支持するものです。

 これまでの経緯をまとめると、日本脂質栄養学会が「悪玉コレステロールが高い方が長生き」と発表、日本動脈硬化学会がそれに真っ向から反対、日本医師会と日本医学会が日本動脈硬化学会を支持、J-CLEARが日本脂質栄養学会と日本動脈硬化学会のそれぞれの意見をまとめて見解を発表、ということになります。

 ますます臨床の現場では混乱が大きくなりそうです。尚、「悪玉コレステロール」というのはLDLコレステロールのことです。

(谷口恭)

参考:医療ニュース
2010年10月7日「コレステロール基準についてNPOが見解発表」
2010年9月6日 「やはり悪玉コレステロールが高い方が長生き!?」
2010年7月14日 「悪玉コレステロールが高い方が長生き!?」

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2013年7月14日 日曜日

2010年10月27日(水) 3つのワクチンの無料化は完全でない可能性

 先日、HPVワクチン、Hib(インフルエンザ桿菌b型)ワクチン、小児用肺炎球菌ワクチンの3つのワクチンが原則無料で接種できるようになることを政府が決定したとお伝えしました。(下記医療ニュース参照)

 この情報の元は10月13日の読売新聞(オンライン版)で、元の文章は下記のとおりです。

政府は8日、若い女性が発症する子宮頸(けい)がんや乳幼児の細菌性髄膜炎などを予防できる3種類のワクチンについて、希望者が原則無料で接種できるよう公費補助を行う方針を固めた。年内にも無料接種を開始する考えで、2010年度補正予算案に関連経費を盛り込む。費用は約2000億円と見込まれ、国と地方で折半する方向で調整する。無料とするのは、子宮頸がん、インフルエンザ菌b型(Hib=ヒブ)、小児用肺炎球菌の各ワクチン。

 しかし、どうも誰もが無料でワクチン接種できるようではないようです。

 10月26日の共同通信は下記のように報じています。

厚生労働省は26日、子宮頸(けい)がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)、乳幼児の細菌性髄膜炎の原因となるインフルエンザ菌b型(Hib)と小児用肺炎球菌の3種類のワクチンについて、市区町村が接種を受ける人に費用を助成する場合、助成額の半分を国から出す事業として、2010年度補正予算案に1085億円を盛り込んだと明らかにした。接種を受ける人の負担額をいくらにするかは、各自治体が決定する。

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 10月13日の読売新聞では「年内にも無料接種を開始する考え」となっていますが、26日の共同通信では、「接種を受ける人の負担額をいくらにするかは・・・」とされています。

 26日の報道が正しいとすると、自治体によっては無料で受けられない場合もあるということになります。しかし、それぞれの自治体が「接種者負担は無料」という方針を決定してくれれば解決することですから、無料接種の地域が増えれば加速度的に無料の自治体が増えるのではないかと思われます。(楽観的すぎるでしょうか・・・)

(谷口恭)

参考:
医療ニュース2010年10月15日 「Hib、肺炎球菌、HPVワクチンの無料化決定!」
メディカル・エッセイ第90回 「理想のワクチン政策とは・・・」  
メディカル・エッセイ第89回 「日本は「ワクチン後進国」の汚名を返上できるか」
はやりの病気第77回(2010年1月) 「子宮頚ガンのワクチンはどこまで普及するか」  
はやりの病気第76回(2009年12月) 「インフルエンザ菌とそのワクチン」  
ginaコラム 「子宮頚ガンとHPVワクチン」

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2013年7月14日 日曜日

2010年11月1日(月) ミラクルミネラルソリューションに注意

 ミラクルミネラルソリューションというサプリメントをご存知でしょうか。このサプリメントの健康被害が相次いで報告されたことを受け、10月26日、厚生労働省はホームページで注意喚起をおこないました。

 ミラクルミネラルソリューションは、ミラクルミネラルサプリメントあるいはMMSなどと呼ばれることもあるそうです。この商品の正体は、米国のジム・ハンブル氏により開発された亜塩素酸ナトリウム28%を蒸留水に溶かした水浄化溶液のようです。クエン酸など酸性のものと一緒に摂取し二酸化炭素を生成させることで、免疫力が高まるとされています。

 HIVや肝炎、インフルエンザウイルス、風邪、結核、にきび、ガンなどへの効果が謳われており、さらに体内デトックスの効果もあるとされています。日本国内でも購入者が少なくないそうです。

 ところが実際には、謳われている効果が期待できないどころか、副作用が相次いで大変な問題となっているようです。嘔気嘔吐や下痢、腹痛、脱水症状、血圧低下のほか、腎機能障害や血小板細胞傷害など重篤なものの報告もあるそうです。

 今年(2010年)になってから、FDA(米国食品医薬品局)、カナダ保健省、FSA(英国食品規準局)、ニュージーランド保健省は、ミラクルミネラルソリューション摂取中止と速やかな医療機関の受診を呼び掛けています。

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 厚生労働省の注意喚起は、下記のURLで参照できます。

http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/kojinyunyu/050609-1.html

 ミラクルミネラルソリューション、このネーミングからしてなにやら怪しげな雰囲気が漂ってきますが、HIVやガンなどを患っている人は、わらにもすがる思いで購入されたのかもしれません。

 当院には、まだこのサプリメントによる被害者は受診されていませんが、世界中で販売されているということは日本国内にも使用者は少なくないのかもしれません。少しでも気になる症状のある人は早めに医療機関を受診されるべきでしょう。

(谷口恭)

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2013年7月14日 日曜日

2010年11月4日(木) 運動をすれば風邪をひきにくい

 よく運動する人は風邪(上気道炎)をひきにくくなる・・・

 これは、医学誌『British Journal of Sports Medicine 』2010年11月2日号に掲載された論文(注)で報告されている知見です。

 この研究は、18~85歳の男女1,002人(男性40%、女性60%)を対象とし、運動の程度と風邪の関係を調べています。調査期間は12週間です。

 その結果、週5日以上の有酸素運動を行っていた人では、12週の間に風邪に罹患した日数が、ほとんど運動しない人に比べ43%も少ないことがわかりました。また、運動に対する自己評価が高い人は、低い人に比べ46%風邪をひいた日数が少ないこともわかりました。

 さらにこれらの人(週5日以上運動をしている人や運動に対する自己評価が高い人)は、風邪の重症度も、そうでない人に比べて32~41%と大幅に低下していることが分かりました。

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 運動をするから自然免疫力が高まるのか、日頃から運動をしている人は健康に関心が高く手洗いやうがいをしっかりやっているから風邪をひきにくいのかは分かりませんが(おそらく両方でしょう)、運動には利点ばかりで害は一切ないと言ってもいいでしょう。

 「また運動の話しですか~」と最近は診察室で言われることが増えてきましたが、私は多くの患者さんに繰り返し運動の効能を話しています。運動とは副作用のない薬のようなものだと私は考えています。

(谷口恭)

注:この論文のタイトルは「Upper respiratory tract infection is reduced in physically fit and active
adults」で、下記のURLで概要を読むことができます。

http://bjsm.bmj.com/content/early/2010/09/30/bjsm.2010.077875.short?q=w_bjsm_ahead_tab

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2013年7月14日 日曜日

2010年11月4日(木) 海外に修学旅行に行く高2、はしかのワクチン無料

 はしか(麻疹)のワクチン接種率が日本では驚くほど低く、「日本ははしかの輸出国」と海外から揶揄されていることは何度かお伝えしてきましたが、これ以上海外に迷惑をかけないようにするために、来年度海外に修学旅行に行く高2は無料でワクチン接種ができることになりました。

 これは、厚生労働省の「麻疹対策推進会議」で11月1日に決定された事案です。

 同省によりますと、現在年間約17万人の高校生が海外に修学旅行に行き、その9割は高2だそうです。現在の制度では、旅行前にワクチン接種を受けると費用は全額自己負担となり、以前から定期接種の対象にするよう要望が出ていたそうです。

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 2007年5月には、修学旅行でカナダを訪れていた高校生がはしかを発症し、同校の生徒全員がそのホテルで隔離されたという出来事がありましたし、同年8月には、米国東部で国際スポーツ大会に出場していた日本の10代の生徒がはしかを発症し、6人に感染させ隔離されたことが報道されました。

 そろそろ「日本ははしかの輸出国」という汚名を返上すべき時期ではないでしょうか。尚、はしかの抗体がついていないのは10代だけではありません。当院の調査では、20代の約6割、30代の約5割が抗体陰性だったのです。

 感染症は自分が苦しむだけでなく、ときに国際問題になりかねない、ということも覚えておくべきでしょう。

(谷口恭)

参考:
はやりの病気第46回(2007年6月)「はしかの予防接種率はなぜ低いのか」
医療ニュース2008年2月25日「アメリカで日本人がはしかの感染源」
医療ニュース2007年6月11日「はしかの女子高生(日本)と結核の弁護士(米)」

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2013年7月14日 日曜日

2010年11月4日(木) 睡眠不足は脂肪を蓄積

 睡眠不足があるとやせない、というのは何となくイメージできることですが、これを科学的に実証した研究が報告されました。

 医学誌『Annals of Internal Medicine』2010年10月5日号に掲載された論文(注)によりますと、ダイエット中に睡眠不足があれば、体重は減るものの脂肪が減ってくれないようです。

 この研究では、10人のボランティア(うち7人が男性)が摂取カロリーを1,500kcalに制限したダイエットをおこない、睡眠時間8.5時間と睡眠時間5.5時間をそれぞれ2週間経験しています。両者をおこなうのに3ヶ月のインターバルをとっています。

 その結果、2週間後の体重減少は、8.5時間睡眠時が2.9kg、5.5時間睡眠時が3.0kgと有意な差がないものの(0.1kgの差は有意な差ではありません)、脂肪だけでみてみると、8.5時間睡眠時には1.4kgの減少なのに対して、5.5時間睡眠群では0.6kgしか減少していないことが分かりました。

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 なぜ睡眠不足があると脂肪が減らないかに関して、研究者は、グレリンというホルモンに注目しています。つまり、睡眠不足→グレリン上昇→空腹感上昇と同時に脂肪を蓄積させるように働く、というメカニズムを考えています。

 グレリンというホルモンは、一言で言えば、「食欲をおこすホルモン」です。生物学的に考えれば、睡眠不足にある状態というのは生命が脅かされるような危機的な状態(敵がいつ迫ってくるかわからない、食料不足で寝る時間を削って食べ物を探さなければならない、など)にあるわけで、そんなときには脂肪が蓄積される方がいいですし、空腹感を感じて食に対する欲求が強まった方が生き延びやすいと言えます。ですから、睡眠不足→グレリン上昇は理にかなっているといえます。

 ちなみに、食欲を考えるときに重要なもうひとつのホルモンにレプチンがあります。レプチンはグレリンとは逆に、満腹感を感じるように働き、脂肪の代謝を促進させます。レプチンを一言で説明すれば、「やせるホルモン」で、レプチンの働きにくい体質であれば太りやすいと言えます。実際、レプチンの遺伝子異常があり充分なレプチンが産生されない家系では肥満の家系となることが分かっています。しかし、一般に肥満がある人のレプチン濃度は高値を示します。これは、レプチンは分泌されるもののそのレプチンに細胞が反応しないからです。(これを「レプチン抵抗性」と呼びます)

 遺伝子を後天的にいじることはできませんから(将来できるようになるかもしれませんが倫理的に問題があります)、ダイエットをしたい人は「しっかりと睡眠をとることでグレリンの過剰分泌を防ごう」という程度の意識をもつようにすればどうでしょう。

(谷口恭)

注:この論文のタイトルは、「Insufficient Sleep Undermines Dietary Efforts to Reduce Adiposity」で、下記のURLで概要を読むことができます。

http://www.annals.org/content/153/7/435.abstract

参考:メディカルエッセイ第93回 「ダイエットの2大法則」 (2010年10月)

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