医療ニュース
2013年7月1日 月曜日
2011年11月16日(水) 「茶のしずく石鹸」で66人が重症
過去に何度かお伝えしてきました「茶のしずく石鹸」による小麦アレルギーに関して新たな発表がありました。
2011年11月14日、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会は、2011年10月17日までに株式会社悠香から報告のあったアレルギー反応を起こした症例が471人にのぼり、そのうち66人は救急搬送や入院が必要な重篤な症例で、一時意識不明に陥った例もあったそうです。
しかし、これは株式会社悠香が現時点で把握している件数であり、実際にアレルギー反応を起こした人はこの何倍にもなるのではないかとみられています。
以前お伝えしたように、このアレルギーの原因物質は「加水分解コムギ」ではありますが、すべての加水分解コムギで反応がでるのではなく、アレルギー反応を起こすのは「グルパール19S」と命名された物質であることがわかっています。グルパール19Sを含む石鹸は株式会社悠香の「茶のしずく石鹸」を入れて合計18種類あります。そのすべてを下記に紹介いたします。
薬用 悠香の石鹸(茶のしずく石鹸) 株式会社悠香
薬用フェイスソープP(茶のしずく石鹸) 株式会社フェニックス
アルケー ヴィーヴィック化粧品株式会社
梅の花 化粧石鹸 株式会社フェニックス
FY石鹸 株式会社 ピカソ美化学研究所
AU サボンクリア 株式会社シー・ビー・エィ
LVJ フェイシャルソープ 株式会社 東洋新薬
花蜜精はちみつクレンジングソープ 株式会社フェニックス
蔵人純米ソープ ヴィーヴィック化粧品株式会社
クルクベラ サボンクリア 株式会社シー・ビー・エィ
クレンジングソープPF 株式会社フェニックス
化粧石鹸LH 日成興産株式会社
(旧 日本メドック株式会社)
化粧石けんAB 株式会社フェニックス
化粧石けんHEP 株式会社フェニックス
化粧石けんHN 株式会社フェニックス
化粧石けんKI-5 株式会社フェニックス
化粧石ケンOB 株式会社フェニックス
化粧石けんSD 株式会社フェニックス
**************
これら石鹸によって小麦アレルギーが誘発されたことを証明するには、グルパール19Sの検査試薬を皮膚に少量刺入して反応をみる検査(プリックテストと言います)をおこなう必要があります。(現在当院では実施していません) ただし、血液検査でもある程度推測することが可能ですから、疑いのある人はかかりつけ医に相談してみるべきでしょう。
(谷口恭)
参考:
はやりの病気第94回(2011年6月) 「小麦依存性運動誘発性アナフィラキシー」
トップページ: アレルギーの検査
医療ニュース:
2011年5月21日 「「茶のしずく石鹸」が自主回収」
2010年10月20日 「小麦入り化粧品、特に”お茶石鹸”に注意」
投稿者 記事URL
|2013年7月1日 月曜日
2011年12月4日(日) ビールもワインと同じように心血管リスクが低下
ビール党には朗報かもしれません。
ワイン(特に赤ワイン)は適度に飲めば心筋梗塞などの心血管疾患のリスクを減らすことがよく知られています(注1)。「最も健康にいいお酒はワイン」のように語られることが多いように思われますが、ビールにもワインと同様の効果があるとの研究結果が医学誌『European Journal of Epidemiology』2011年11月11日号(オンライン版)(注2)で報告され話題を呼んでいます。
この研究はイタリアの研究者によっておこなわれています。2011年3月までに欧米諸国やオーストラリアでおこなわれたアルコールと心血管リスクに関する合計18の研究を総合的に解析(メタ解析)しています。アルコールは、ビール、ワイン、蒸留酒(注3)に分けて検討されています。
その結果、ワインは度を過ぎると心血管リスクが上昇しますが、適度であればリスクが低下していました。具体的には、1日あたり21グラム(グラスで1杯程度)の飲酒量で最もリスクが低下し、72グラム以上(グラス3~4杯以上)でリスク低下はなくなります。ビールでは、1日あたり43グラム(大瓶1本くらい)が最も心血管リスクが低下し、55グラム(大瓶1.3本くらい)でリスク低下がなくなります。
要するに、少量から中等量であれば、ビールはワインと同じように心血管疾患のリスクが低下することが判ったということであり、ビールを含むお酒は少量なら身体にいいと言われることはこれまでにもあったけれども、今回のきちんとした研究でビールの効果が実証された、というわけです。
しかし、蒸留酒ではそのような結果が出なかったようです。
********************
ビール党には嬉しい研究結果に思われるかもしれませんが、私の周りのビール党や、太融寺町谷口医院に通院しているビール好きな人達の多くは大瓶1本ではすみません。なかには毎日2リットル以上を”日課”にしているという人もいます。そのような飲み方を続ければ心血管リスクを高めるということにはいくら注意してもしすぎることはないでしょう。また、一部には、少量のビールでも健康に有害であるとする研究結果があることも覚えておくべきでしょう。(下記医療ニュースも参照ください)
(谷口恭)
注1 フランス人は飽和脂肪酸が豊富に含まれる食事(要するにあぶらっこい肉料理)をよく食べるのにもかかわらず、虚血性心疾患にかかりにくいことが以前から指摘されており(これは「フレンチ・パラドックス」と呼ばれています)、この原因が赤ワインにあるとされています。
注2 この論文のタイトルは、「Wine, beer or spirit drinking in relation to fatal and non-fatal cardiovascular events: a meta-analysis」で、下記のURLで概要を読むことができます。
http://www.springerlink.com/content/8pu6001584m35146/
注3:蒸留酒とは、穀物などを発酵させて作った醸造酒を蒸留させてアルコール濃度を高めたお酒のことでスピリッツとも呼ばれます。この研究では、ウイスキー、ジン、ラム、テキーラ、ウォッカ、ブランデーなどを指していると思われますが、分類としては焼酎(泡盛含む)も蒸留酒に含まれます。
参考:医療ニュース
2011年10月26日「女性は中年期の適量の飲酒で高齢期が健康に
2011年9月10日 「適度な飲酒がアルツハイマーを予防」
2010年8月23日「飲酒が関節リウマチに有効?」
2010年5月21日「飲酒によりリンパ系腫瘍のリスクが低減」
2010年4月8日 「適度な飲酒は女性の体重増加を抑制」
2009年12月28日「ビール週7本で乳癌のリスク急増」
2011年4月18日「ビール中ジョッキ1杯で発ガンリスクが上昇・・・」
投稿者 記事URL
|2013年7月1日 月曜日
2011年12月5日(月) 白血病のデマにご用心
最近、ネット上の掲示板、ツイッター、ブログ等で、「白血病患者急増 医学界で高まる不安」というタイトルで、とんでもないデマが広がっているようです。以下に内容をそのまま引用します。
各都道府県の国公立医師会病院の統計によると、今年の4月から10月にかけて、「白血病」と診断された患者数が、昨年の約7倍にのぼったことが21日に判明した。これを受けて、日本医師会会長原中勝征は、原発事故との因果関係は不明として、原因が判明次第発表するとした。
白血病と診断された患者の約60%以上が急性白血病で、統計をとりはじめた1978年以来、このような比率は例が無いという。
また、患者の約80%が東北・関東地方で、福島県が最も多く、次に茨城、栃木、東京の順に多かった。
もちろんこのような事実は一切ありません。しかし、このデマを正しい情報と信じてしまっている人も少なくないようで、日本医師会はこの情報が誤りであることを正式に表明しなければならなくなりました(注)。
*************
医師会は国公立ではありませんから、医療関係者であれば、「国公立医師会病院」という言葉を見た瞬間にガセネタであることが分かりますが、放射線被害に対する様々な噂があるなかで一般の人がこのような報道まがいのものを見ると信じてしまうかもしれません。
このデマを流した人は軽い気持ちのイタズラでおこなったのでしょうが、結果として大勢の人たちが不安に苛まれ、被災地の人たちを傷つけることになっています。デマを流す罪は決して小さくありません。
(谷口恭)
注:日本医師会はホームページ上で見解を表明しています。下記のURLを参照ください。
投稿者 記事URL
|2013年7月1日 月曜日
2011年12月28日(水) 体重が減らなくても有酸素運動で長寿に
ジョギングや水泳を定期的にしているのに体重が落ちない・・・、と悩んでいる人には朗報です。
運動により体重が変化したかどうかにかかわらず有酸素運動(注1)を定期的におこなうことが長生きにつながる、という調査結果が、医学誌『Circulation』2011年12月5日号(オンライン版)に掲載されました(注2)。
この研究は、NIH(米国国立衛生研究所)が中心となり実施されています。対象者は中年男性(平均44歳)14,345人で、調査期間は11.4年になります。大まかな結論を言えば、「有酸素運動を続けてエネルギー消費を維持できていれば死亡リスクが約30%低減する」ということになります。そしてこれは、体重が落ちなかった場合でも、です。
つまり、死亡率に関係するのは体重やBMI(体重÷身長の2乗)ではなく、有酸素運動をどれだけおこなっているかであったというわけです。
*********
運動をがんばっている患者さんに話を聞くと、「やってるんですけどね~。なかなか成果がでないんですよ・・・」と答える人がいますが、今回の研究結果はこのような人たちには嬉しいお知らせとなります。
この研究結果が普遍的なものであるならば、たとえ減量ができていないとしても運動を続けることが長生きにつながるわけですから、我々は有酸素運動を「日々おこなう生活習慣のひとつ」として考えるべきなのかもしれません。
(谷口恭)
注1 ここでは「有酸素運動」としましたが、原文は「cardiorespiratory fitness」です。そのまま訳すと、「心肺機能のためのフィットネス」、くらいになると思いますので、「有酸素運動」として差し支えないと考えました。
注2 この論文のタイトルは、「Long-Term Effects of Changes in Cardiorespiratory Fitness
and Body Mass Index on All-Cause and Cardiovascular Disease Mortality in Men」
で、下記のURLで概要を読むことができます。
http://circ.ahajournals.org/content/124/23/2483.abstract?sid=343c4f14-5bbf-
46ee-b7dd-a8e432570622
投稿者 記事URL
|2013年6月29日 土曜日
2013年1月7日(月) やはり減量には脂肪を減らすのが有効
ここ数年ブームになっている「糖質制限食」は、端的に言えば「糖や炭水化物の摂取を制限すれば減量できる」というものであり、もっと極端に「糖や炭水化物を抑えていれば脂肪は食べ放題」などと言われることもあります。
しかし、糖質制限が実際にできるかどうかという問題がありますし(炭水化物の制限は容易ではないと感じている人が多い)、危険性を指摘する研究もあります(詳しくは下記コラムを参照ください)。
スリムになるには脂肪摂取量を減らすだけでよい・・・
このような研究結果が、医学誌『British Medical Journal』2012年12月6日号(オンライン版)に掲載されました(注1)。
この研究は英国イースト・アングリア大学(University of East Anglia)ノリッジ医学部(Norwich Medical School)のLee Hooper氏らによりおこなわれました。
研究では、これまでに先進国で実施された合計33の調査が総合的に解析されています(メタ分析)。調査の全対象者は73,589人に上り、33の調査の内訳は、北アメリカが20、ヨーロッパが12、ニュージーランドが1つです。(日本の調査はありません)
これら33の研究を総合的に解析した結果、脂肪を減らすことにより、約1.6kgの体重減少が得られ、腹囲も減少したとの結果がでたそうです。さらに血圧低下が認められ、血中コレステロール値も有意に下がっていたそうです。
************
今回の研究では詳しく言及されていませんが、一言で「脂肪」といってもいろんなものがあります。基本的なことを確認しておくと、健康上好ましくない脂肪(つまり、体重やウエストを増やし、血圧や血中の脂質レベルを上げる脂肪)は「飽和脂肪酸」と呼ばれるもので代表的なのは肉の脂です。逆に、不飽和脂肪酸、そのなかでも青い魚に含まれる脂肪は高脂血症の治療に使われるくらいですから減量を目指す人も積極的に摂取すべき脂肪です。
この研究結果は、あらためて言われなくてもわかっているようなことであり、驚くべきようなものではなく、なぜ『British Medical Journal』ほどの一流医学誌(注2)で取り上げられたのか、と私は感じました。(きちんと検証したわけではなく私の印象に過ぎませんが)どうも『British Medical Journal』はアンチ糖質制限の論文が多く掲載されるような気がします・・・。
(谷口恭)
参考:メディカルエッセイ第114回(2012年7月) 「糖質制限食の行方」
注1:この論文のタイトルは、「Effect of reducing total fat intake on body weight:systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials and cohort studies」で、下記のURLで全文を読むことができます。
http://www.bmj.com/content/345/bmj.e7666
注2:ちなみに「5大医学誌」に数えられているのは、『British Medical Journal』の他、『JAMA (Journal of American Medical Association)』、『Annals of Internal Medicine』、『Lancet』、『New England Journal of Medicine』です。私は「JALの便(JALBN)」と覚えています。
投稿者 記事URL
|2013年6月29日 土曜日
2013年1月8日(火)コーヒーで口腔ガン・咽頭ガンの死亡リスク低下
1日4杯以上のコーヒー摂取で、口腔ガン及び咽頭ガンでの死亡リスクが半減する・・・
これは、医学誌『American Journal of Epidemiology』2012年12月9日号(オンライン版)に掲載された研究結果です(注1)。
この研究は、米国ガン協会(American Cancer Society)のJanet S. Hildebrand氏らによっておこなわれました。同協会が全米の45歳以上の成人男女を対象として1982年に開始した「Cancer Prevention Study II」と命名された調査に参加した1,184,418人のうち、コーヒーおよび紅茶の摂取に関する情報が得られ、1982年の調査開始当時にガンを発症していなかった968,432人が対象とされています。26年間の調査期間中に合計868人が口腔ガン、または咽頭ガンで死亡しています。
これらのガンによる死亡とコーヒー・紅茶摂取の関係を分析したところ、1日4杯以上のカフェイン入りコーヒーを飲む人は、これらのガンで死亡するリスクが49%減少することが判明したそうです。また、必ず4杯飲まなければならないわけではなく、コーヒー摂取が1杯増えるごとに死亡リスクの低下が認められるそうです。カフェイン抜きのコーヒーでも多少の低下は認められたそうですがその程度はわずかなようです。また、紅茶との間には関連性がなかったそうです。
**************
口腔ガンも咽頭ガンも、最近ではHPV(ヒトパピローマウイルス)の関連がよく指摘されます。この研究からは、コーヒー摂取によりHPVの増殖を抑制できるのかとか、HPVが感染した細胞がガン化するのを防ぐ作用がコーヒーにあるのか、といったことは分かりません。また、この研究では、コーヒーでこれらのガンによる「死亡のリスクが減る」ということを言っているのであり、これらのガンに「かかりにくい」と言っているわけではありません。
これらのガンの死亡リスクを減らすためにコーヒーをたくさん(1日4杯以上!)飲もうとするのは賢明ではないでしょう。まずはHPV感染を防ぐことを考えるべきかもしれません。といってもHPVの口腔内感染を防ぐにはどうすればいいのかというのがはっきりと分かっているわけではありません。(一部には危険な性交渉、特にオーラルセックスによるものが多いのではないか、と指摘されています)
注1:この論文のタイトルは、「Coffee, Tea, and Fatal Oral/Pharyngeal Cancer in
a Large Prospective US Cohort」で、下記のURLで全文を読むことができます。
http://aje.oxfordjournals.org/content/177/1/50.full?sid=2fc8e969-5e2f-4a41-87aa-c0980c76648f
参考:医療ニュース
2012年12月3日 「コーヒーも紅茶も生活習慣病に有効」
はやりの病気第22回(2005年12月) 「癌・糖尿病・高血圧の予防にコーヒーを!」
はやりの病気第30回(2006年4月) 「コーヒー摂取で心筋梗塞!」
投稿者 記事URL
|2013年6月29日 土曜日
2013年1月30日(水) 腰痛の大半はストレスが原因
腰痛の発症や慢性化には心理的なストレスが関与しており、画像検査などでも原因が特定できない腰痛が大半を占める…。
これは昨年(2012年)、日本整形外科学会と日本腰痛学会が発表した診療ガイドラインの内容で、年末に一部のマスコミで報道されたことが原因なのか、患者さんから「私の腰痛もストレスなんですかね~」と言われることが増えてきました。
腰痛の正式なガイドラインはこれまでなかったのですが、先に述べたふたつの学会が、2001年以降に発表された国内外の論文約4千件から厳選したおよそ200件を基にして策定したようです。
ガイドラインでは腰痛を3つに分類しています。1つは、外傷や感染症、ガンなどが原因となっている腰痛、2つめは、麻痺やしびれ、筋力低下などを伴うタイプの腰痛、そして3つめが、原因をが特定できない腰痛で、これを「非特異的腰痛」と呼びます。
そして3つめの非特異的腰痛は、職場での人間関係や仕事量、仕事上の不満、うつ状態など心理社会的要因が関与している、とされ、ストレスを軽減するためにものの考え方を変える認知行動療法などの精神医学療法が有効である、とまで述べられています。
ガイドラインでは腰痛の検査についても触れられています。腰痛にはレントゲンやCT、MRIなどの画像検査をおこなうことがありますが、ガイドラインでは、すべての症例に画像検査をする必要はない、と述べられています。
治療については、非特異的腰痛の場合、安静は必ずしも有効でなく、可能であれば普段の動きを維持し、慢性の腰痛であれば運動療法を積極的にすべき、といったことが言及されています。
*****************
たしかに、腰痛の患者さんにレントゲン撮影をしても異常が出ないことの方が圧倒的に多く、太融寺町谷口医院で言えば、腰痛を訴える患者さん10人がいたとすれば、すぐにレントゲン撮影をするのはそのうち1人くらいです。どのような場合に撮影をするかというと、上に述べられている2つのケース、すなわち感染症やガンの可能性を考えたときと、麻痺やしびれが伴っているときです。
軽症から重症までひっくるめて統計をとれば、年齢にもよりますが、おそらく腰痛の大半は非特異的腰痛で、そのほとんどは画像撮影で異常が出ないでしょう。
しかし、この原因を「ストレス」と言い切ったガイドラインに私は少し驚きました。私自身の印象でいえば、ストレスは腰痛の増悪因子になることはあっても、きっかけになるとはあまり考えていなかったからです。
「背中や腰の筋肉や靭帯にかけられた負荷が積み重なって腰痛は起こります。だから腹筋と背筋を鍛えましょう」、非特異的腰痛の患者さんに、私はまずこのように話すことが多いのですが、これからは心理状態や労働環境の観点から話をすべきなのかもしれません。
(谷口恭)
投稿者 記事URL
|2013年6月29日 土曜日
2013年1月31日(木) 自殺者が3万人を切ったものの・・・
すでに多くのマスコミで報道されていますが、2013年1月17日、警察庁は2012年の自殺者数を発表しました。1年間の自殺者数は合計27,766人で1997年以来15年ぶりに3万人を割ったことになります。12月分については「速報値」となっていますが、大きく変動することはないでしょうから、「15年ぶりに3万人を切る」は確定となります。
月別、都道府県別の自殺者数が細かく報告されていますので詳しくはそちらを閲覧いただきたいのですが(注1)、ここでいくつかポイントをまとめておきたいと思います。
まず、男女別の数字は、男性が19,216人で2011年より1,739人の減少、女性は8,550人で1,146人の減少となっています。
都道府県別では、第1位が東京都で2,760人、大阪府1,720人、神奈川県1,624人と続きます。最も自殺者が少なかったのは、鳥取県の130人で、徳島県164人、島根県168人と続きます。
月別では、前年比で3月が4.9%、2月0.4%、10月0.1%の増加ですが、それ以外の月ではすべて減少しています。特に、5月は25.5%、6月は24.1%と大幅減となっています。自殺者が最も多い月は3月で2,584人、5月2,516人、4月2,434人と続いています。
**************
自殺者が15年ぶりに3万人を割ったという歓迎すべきニュースが報じられた一方で、12月に大阪府の桜宮高校で教師の体罰が原因で高校生が自殺していた、という大変ショッキングな事件が報道されました。
これまでの15年間は、山一證券の倒産(1997年末)あたりではずみがついた中高年男性の自殺が最も注目されていましたが、今後は若い世代の自殺に注目すべきでしょう。(下記医療ニュースも参照ください)
警察庁のグラフをみれば、東日本大震災のあった2011年を除けば、過去5年間の日本の自殺者数は2月に下がって、3月に急上昇していることがわかります。(震災のあった2011年は3月から5月にかけて自殺者が急激に増えました)
なぜ3月に自殺者が増えるのか\\。今のところこれを合理的に説明する理論はないと思われますが、過去がそうである以上今年も同様になることが予想されます。あなたの周りにSOSを出している人がいないかどうか、改めて考えてみるべきかもしれません。もちろん、あなた自身が自殺を考えているとすれば、誰かに相談すべきです。誰に相談していいかわからない…、もしそうなら厚生労働省の専用サイト(注2)にまずはアクセスしてみてはどうでしょう。
注1 警察庁が発表した詳細については、下記のURLを参照してください。
http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/toukei/pdf/saishin.pdf
注2 厚生労働省の「みんなのメンタルヘルス」のURLは下記の通りです。充実したメンタルヘルスの総合サイトで、相談先も紹介されています。
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/index.html
参考:医療ニュース
2012年7月29日 「若者の自殺が原因で平均寿命短く?」
2012年5月11日 「20代女性の3人に1人は「自殺」を…」
2012年3月21日 「日本の自殺者、14年連続で3万人超」
投稿者 記事URL
|2013年6月29日 土曜日
2013年2月1日(金) 謎に包まれた新しいダニ媒介の感染症
2013年1月30日、厚生労働省は、マダニを媒介してヒトに感染するウイルスが原因で、山口県の成人女性が2012年秋に死亡していたことを発表しました(注1)。
この病気は「SFTS(重症熱性血小板減少症候群, Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome)」という名称で、原因ウイルスは「SFTSウイルス」と命名されています。このウイルスは、ウイルス学的には「ブニヤウイルス科」に属します。ブニヤウイルス科といえば、クリミア・コンゴ出血熱ウイルスやリフトバレー熱ウイルスなど、致死的な疾患の原因ウイルスが有名です。
SFTSは歴史が新しく、2011年に中国で初めて発見されました。中国ではこれまで数百例の報告があり、致死率は約12%だそうです。
山口県の女性は発熱や嘔吐で医療機関を受診しすぐに入院となったそうです。血小板と白血球が大きく減少し、血尿・血便が止まらず、入院後1週間で死亡したと報じられています。ダニに刺されたような痕跡はなく海外渡航歴もなかったそうです。
SFTSウイルスが検出されたために診断確定となったわけですが、遺伝子の検査をおこなうと、中国で確認されているものとは配列が異なり、中国から入ってきたものではなく、もともと国内にあった可能性が高いとされています。
SFTSには特効薬もなくワクチンもありません。
*******************
山口県のこの事例でひっかかるのは、ダニが刺した痕跡がない、ということです。歴史が浅くまだ解明されていないことがあるはずで、おそらく血液や体液を介してヒトからヒトに感染することもあるでしょう。だとすると、何らかのかたちで他人(例えば中国から渡航してきた人)の体液に触れて感染、という可能性もあるのではないでしょうか。
遺伝子の塩基配列が中国のものとは違う、とされていますが、ブニヤウイルスは遺伝子をDNAではなくRNAで持っています。2本鎖のDNAに比べると、1本鎖のRNAは不安定ですから、DNAに比べると容易に変異がおこります。まだ解明されていないけれども、実はSFTSは感染しても発症せずにヒトの体内に棲息することがあり、そのうちに変異がおこり、血液や体液を介して他人に感染させることがある。そして感染させられた者は急性発症する、ということも起こりうるのではないかと私はみています。
しかし、マダニが感染源と分かっていている以上、野山に行く人はマダニ対策をすべきです。マダニが媒介する感染症は、SFTS以外に日本紅斑熱やライム病もありますし、最近アメリカで新しい感染症も報告されています。(下記医療ニュースも参照ください)
注1:厚生労働省の発表は下記URLを参照ください。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002u1pm.html
参考:医療ニュース
2012年9月15日 「ダニに刺されて発症する新しい感染症」
投稿者 記事URL
|2013年6月29日 土曜日
2013年2月8日(金) 風疹の抗体、本当にありますか?
現在世間ではインフルエンザが猛威をふるっていますが、感染力の強い感染症で忘れてはいけないのが風疹です。風疹についてはこのサイトで何度かお伝えしていますが、現在も増え続けています。それも成人の間で確実に増えています。
国立感染症研究所感染症情報センターの報告によりますと、2012年の風疹報告数は、2,353例(暫定値)で、これは過去5年間で最も多い報告数となります。さらに特筆すべきなのは、先天性風疹症候群の報告数が5例あることです。
現在厚生労働省が予防接種を呼びかけているのは次の3つのいずれかに該当する人です。
① 妊婦(抗体陰性又は低抗体価の者に限る)の夫、子ども及びその他の同居家族
② 10代後半から40代の女性(特に、妊娠希望者又は妊娠する可能性の高い者)
③ 産褥早期の女性
*******************
風疹は飛沫感染で簡単に他人に感染します。ですから、あなたが風疹にかかっていることを知らずに、人ごみでくしゃみをすると横に妊婦さんがいた、ということもありうるわけです。
風疹がむつかしいのは、特に成人の場合、典型例をとらない場合が少なくないからです。太融寺町谷口医院でも、高熱と強い倦怠感、全身の皮疹などがでて、「風疹にしては症状が強すぎる」という場合もあれば、その逆に、熱はほとんどなくリンパ節もほとんど腫脹しておらず皮疹が少し気になるという程度で一見単なる湿疹かと見間違える「風疹にしては症状が弱すぎる」ものもあり、私自身も直ちには診断がつけられなかったケースもありました。
風疹に絶対にかかってはいけないのは妊婦さんです。生まれてくる赤ちゃんが先天性風疹症候群に罹患することを避けなければならないからです。苦労の末に念願の妊娠が実現したのにその直後に風疹にかかって泣く泣く堕胎せざるを得なくなった…、という女性も実際にいます。
風疹はワクチンを接種しているか一度かかっていて抗体が形成されていれば心配する必要はないのですが、患者さんの「風疹の抗体はあるはずです」というのは誤解であることが少なくありません。(詳しくは下記コラムを参照ください) 上記の厚労省が呼びかけている3つに該当しない人でもワクチン接種(もしくは抗体検査)を検討すべきでしょう。
(谷口恭)
参考:
はやりの病気第109回(2012年9月) 「これからの風疹対策」
医療ニュース2012年6月1日 「風疹が過去最多の勢い」
投稿者 記事URL
|最近のブログ記事
- 2025年1月9日 じんましんを放っておけば死亡リスクが2倍に
- 2024年12月26日 認知症の遺伝リスクが高くても心肺を鍛えれば低下する
- 2024年12月12日 砂糖はうつ病のリスク
- 2024年11月22日 アメリカンフットボール経験者の3分の1以上がCTEを自覚、そして自殺
- 2024年11月17日 「座りっぱなし」をやめて立ってもメリットはわずか
- 2024年10月24日 ピロリ菌は酒さだけでなくざ瘡(ニキビ)の原因かも
- 2024年10月11日 幼少期に「貧しい地域に住む」か「引っ越し」がうつ病のリスク
- 2024年9月19日 忍耐力が強い人は長生きする
- 2024年9月8日 糖質摂取で認知症のリスクが増加
- 2024年8月29日 エムポックスよりも東部ウマ脳炎に警戒を
月別アーカイブ
- 2025年1月 (1)
- 2024年12月 (2)
- 2024年11月 (2)
- 2024年10月 (2)
- 2024年9月 (4)
- 2024年8月 (1)
- 2024年6月 (2)
- 2024年5月 (2)
- 2024年4月 (2)
- 2024年3月 (2)
- 2024年2月 (3)
- 2024年1月 (1)
- 2023年12月 (2)
- 2023年11月 (2)
- 2023年10月 (2)
- 2023年9月 (2)
- 2023年8月 (1)
- 2023年7月 (3)
- 2023年6月 (2)
- 2023年5月 (2)
- 2023年4月 (2)
- 2023年3月 (2)
- 2023年2月 (2)
- 2023年1月 (2)
- 2022年12月 (2)
- 2022年11月 (2)
- 2022年10月 (2)
- 2022年9月 (2)
- 2022年8月 (2)
- 2022年7月 (2)
- 2022年6月 (2)
- 2022年5月 (2)
- 2022年4月 (2)
- 2022年3月 (2)
- 2022年2月 (2)
- 2022年1月 (2)
- 2021年12月 (2)
- 2021年11月 (2)
- 2021年10月 (2)
- 2021年9月 (2)
- 2021年8月 (2)
- 2021年7月 (2)
- 2021年6月 (2)
- 2021年5月 (2)
- 2021年4月 (4)
- 2021年3月 (2)
- 2021年1月 (2)
- 2020年12月 (3)
- 2020年11月 (3)
- 2020年9月 (2)
- 2020年8月 (2)
- 2020年7月 (1)
- 2020年1月 (2)
- 2019年12月 (2)
- 2019年11月 (2)
- 2019年10月 (2)
- 2019年9月 (2)
- 2019年8月 (2)
- 2019年7月 (2)
- 2019年6月 (2)
- 2019年5月 (2)
- 2019年4月 (2)
- 2019年3月 (2)
- 2019年2月 (2)
- 2019年1月 (2)
- 2018年12月 (2)
- 2018年11月 (2)
- 2018年10月 (1)
- 2018年9月 (2)
- 2018年8月 (1)
- 2018年7月 (2)
- 2018年6月 (2)
- 2018年5月 (4)
- 2018年4月 (3)
- 2018年3月 (4)
- 2018年2月 (5)
- 2018年1月 (3)
- 2017年12月 (2)
- 2017年11月 (2)
- 2017年10月 (4)
- 2017年9月 (4)
- 2017年8月 (4)
- 2017年7月 (4)
- 2017年6月 (4)
- 2017年5月 (4)
- 2017年4月 (4)
- 2017年3月 (4)
- 2017年2月 (1)
- 2017年1月 (4)
- 2016年12月 (4)
- 2016年11月 (5)
- 2016年10月 (3)
- 2016年9月 (5)
- 2016年8月 (3)
- 2016年7月 (4)
- 2016年6月 (4)
- 2016年5月 (4)
- 2016年4月 (4)
- 2016年3月 (5)
- 2016年2月 (3)
- 2016年1月 (4)
- 2015年12月 (4)
- 2015年11月 (4)
- 2015年10月 (4)
- 2015年9月 (4)
- 2015年8月 (4)
- 2015年7月 (4)
- 2015年6月 (4)
- 2015年5月 (4)
- 2015年4月 (4)
- 2015年3月 (4)
- 2015年2月 (4)
- 2015年1月 (4)
- 2014年12月 (4)
- 2014年11月 (4)
- 2014年10月 (4)
- 2014年9月 (4)
- 2014年8月 (4)
- 2014年7月 (4)
- 2014年6月 (4)
- 2014年5月 (4)
- 2014年4月 (4)
- 2014年3月 (4)
- 2014年2月 (4)
- 2014年1月 (4)
- 2013年12月 (3)
- 2013年11月 (4)
- 2013年10月 (4)
- 2013年9月 (4)
- 2013年8月 (172)
- 2013年7月 (408)
- 2013年6月 (84)