医療ニュース

2013年6月29日 土曜日

2013年1月31日(木) 自殺者が3万人を切ったものの・・・

 すでに多くのマスコミで報道されていますが、2013年1月17日、警察庁は2012年の自殺者数を発表しました。1年間の自殺者数は合計27,766人で1997年以来15年ぶりに3万人を割ったことになります。12月分については「速報値」となっていますが、大きく変動することはないでしょうから、「15年ぶりに3万人を切る」は確定となります。
 
 月別、都道府県別の自殺者数が細かく報告されていますので詳しくはそちらを閲覧いただきたいのですが(注1)、ここでいくつかポイントをまとめておきたいと思います。

 まず、男女別の数字は、男性が19,216人で2011年より1,739人の減少、女性は8,550人で1,146人の減少となっています。

 都道府県別では、第1位が東京都で2,760人、大阪府1,720人、神奈川県1,624人と続きます。最も自殺者が少なかったのは、鳥取県の130人で、徳島県164人、島根県168人と続きます。
 
 月別では、前年比で3月が4.9%、2月0.4%、10月0.1%の増加ですが、それ以外の月ではすべて減少しています。特に、5月は25.5%、6月は24.1%と大幅減となっています。自殺者が最も多い月は3月で2,584人、5月2,516人、4月2,434人と続いています。
 
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 自殺者が15年ぶりに3万人を割ったという歓迎すべきニュースが報じられた一方で、12月に大阪府の桜宮高校で教師の体罰が原因で高校生が自殺していた、という大変ショッキングな事件が報道されました。
 
 これまでの15年間は、山一證券の倒産(1997年末)あたりではずみがついた中高年男性の自殺が最も注目されていましたが、今後は若い世代の自殺に注目すべきでしょう。(下記医療ニュースも参照ください)
 
 警察庁のグラフをみれば、東日本大震災のあった2011年を除けば、過去5年間の日本の自殺者数は2月に下がって、3月に急上昇していることがわかります。(震災のあった2011年は3月から5月にかけて自殺者が急激に増えました) 
 
 なぜ3月に自殺者が増えるのか\\。今のところこれを合理的に説明する理論はないと思われますが、過去がそうである以上今年も同様になることが予想されます。あなたの周りにSOSを出している人がいないかどうか、改めて考えてみるべきかもしれません。もちろん、あなた自身が自殺を考えているとすれば、誰かに相談すべきです。誰に相談していいかわからない…、もしそうなら厚生労働省の専用サイト(注2)にまずはアクセスしてみてはどうでしょう。
 

注1 警察庁が発表した詳細については、下記のURLを参照してください。
 
http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/toukei/pdf/saishin.pdf

注2 厚生労働省の「みんなのメンタルヘルス」のURLは下記の通りです。充実したメンタルヘルスの総合サイトで、相談先も紹介されています。

http://www.mhlw.go.jp/kokoro/index.html

参考:医療ニュース
2012年7月29日 「若者の自殺が原因で平均寿命短く?」
2012年5月11日 「20代女性の3人に1人は「自殺」を…」
2012年3月21日 「日本の自殺者、14年連続で3万人超」

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2013年6月29日 土曜日

2013年2月1日(金) 謎に包まれた新しいダニ媒介の感染症

 2013年1月30日、厚生労働省は、マダニを媒介してヒトに感染するウイルスが原因で、山口県の成人女性が2012年秋に死亡していたことを発表しました(注1)。

 この病気は「SFTS(重症熱性血小板減少症候群, Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome)」という名称で、原因ウイルスは「SFTSウイルス」と命名されています。このウイルスは、ウイルス学的には「ブニヤウイルス科」に属します。ブニヤウイルス科といえば、クリミア・コンゴ出血熱ウイルスやリフトバレー熱ウイルスなど、致死的な疾患の原因ウイルスが有名です。
 
 SFTSは歴史が新しく、2011年に中国で初めて発見されました。中国ではこれまで数百例の報告があり、致死率は約12%だそうです。

 山口県の女性は発熱や嘔吐で医療機関を受診しすぐに入院となったそうです。血小板と白血球が大きく減少し、血尿・血便が止まらず、入院後1週間で死亡したと報じられています。ダニに刺されたような痕跡はなく海外渡航歴もなかったそうです。
 
SFTSウイルスが検出されたために診断確定となったわけですが、遺伝子の検査をおこなうと、中国で確認されているものとは配列が異なり、中国から入ってきたものではなく、もともと国内にあった可能性が高いとされています。
 
 SFTSには特効薬もなくワクチンもありません。

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 山口県のこの事例でひっかかるのは、ダニが刺した痕跡がない、ということです。歴史が浅くまだ解明されていないことがあるはずで、おそらく血液や体液を介してヒトからヒトに感染することもあるでしょう。だとすると、何らかのかたちで他人(例えば中国から渡航してきた人)の体液に触れて感染、という可能性もあるのではないでしょうか。
 
 遺伝子の塩基配列が中国のものとは違う、とされていますが、ブニヤウイルスは遺伝子をDNAではなくRNAで持っています。2本鎖のDNAに比べると、1本鎖のRNAは不安定ですから、DNAに比べると容易に変異がおこります。まだ解明されていないけれども、実はSFTSは感染しても発症せずにヒトの体内に棲息することがあり、そのうちに変異がおこり、血液や体液を介して他人に感染させることがある。そして感染させられた者は急性発症する、ということも起こりうるのではないかと私はみています。
 
 しかし、マダニが感染源と分かっていている以上、野山に行く人はマダニ対策をすべきです。マダニが媒介する感染症は、SFTS以外に日本紅斑熱やライム病もありますし、最近アメリカで新しい感染症も報告されています。(下記医療ニュースも参照ください)
 
注1:厚生労働省の発表は下記URLを参照ください。

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002u1pm.html

参考:医療ニュース
2012年9月15日 「ダニに刺されて発症する新しい感染症」

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2013年6月29日 土曜日

2013年2月8日(金) 風疹の抗体、本当にありますか?

 現在世間ではインフルエンザが猛威をふるっていますが、感染力の強い感染症で忘れてはいけないのが風疹です。風疹についてはこのサイトで何度かお伝えしていますが、現在も増え続けています。それも成人の間で確実に増えています。
 
 国立感染症研究所感染症情報センターの報告によりますと、2012年の風疹報告数は、2,353例(暫定値)で、これは過去5年間で最も多い報告数となります。さらに特筆すべきなのは、先天性風疹症候群の報告数が5例あることです。
 
 現在厚生労働省が予防接種を呼びかけているのは次の3つのいずれかに該当する人です。

① 妊婦(抗体陰性又は低抗体価の者に限る)の夫、子ども及びその他の同居家族
② 10代後半から40代の女性(特に、妊娠希望者又は妊娠する可能性の高い者)
③ 産褥早期の女性

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 風疹は飛沫感染で簡単に他人に感染します。ですから、あなたが風疹にかかっていることを知らずに、人ごみでくしゃみをすると横に妊婦さんがいた、ということもありうるわけです。
 
 風疹がむつかしいのは、特に成人の場合、典型例をとらない場合が少なくないからです。太融寺町谷口医院でも、高熱と強い倦怠感、全身の皮疹などがでて、「風疹にしては症状が強すぎる」という場合もあれば、その逆に、熱はほとんどなくリンパ節もほとんど腫脹しておらず皮疹が少し気になるという程度で一見単なる湿疹かと見間違える「風疹にしては症状が弱すぎる」ものもあり、私自身も直ちには診断がつけられなかったケースもありました。
 
 風疹に絶対にかかってはいけないのは妊婦さんです。生まれてくる赤ちゃんが先天性風疹症候群に罹患することを避けなければならないからです。苦労の末に念願の妊娠が実現したのにその直後に風疹にかかって泣く泣く堕胎せざるを得なくなった…、という女性も実際にいます。
 
 風疹はワクチンを接種しているか一度かかっていて抗体が形成されていれば心配する必要はないのですが、患者さんの「風疹の抗体はあるはずです」というのは誤解であることが少なくありません。(詳しくは下記コラムを参照ください) 上記の厚労省が呼びかけている3つに該当しない人でもワクチン接種(もしくは抗体検査)を検討すべきでしょう。
 
(谷口恭)

参考:
はやりの病気第109回(2012年9月) 「これからの風疹対策」
医療ニュース2012年6月1日 「風疹が過去最多の勢い」

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2013年6月29日 土曜日

2013年2月15日(金) 新種のコロナウイルス、世界10例目と11例目

 2012年9月に重症化する新型コロナウイルスについて紹介しましたが(下記医療ニュース参照)、その後少しずつ報告数が増え、HPA(英国健康保護局)は2013年2月11日、世界10例目となるイギリス人の感染者について発表しました。
 
 これまで確認されている第1例から第9例は、全員が中東での感染と考えられています。5人がサウジアラビア、2人がカタール、2人がヨルダンです。そして10例目となったイギリス人もサウジアラビアとパキスタンに滞在していたことが明らかとなっています。
 
 そして2日後の2月13日、世界11例目となるイギリス人の症例がHPAより発表されました(注1)。この11例目の症例はこれまでの10例と異なり中東への渡航歴がないそうです。これまでの10例はヒトからの感染よりもむしろ動物からの感染が考えられており、コウモリの可能性が指摘されていました。
 
 BBCの報道では、11例目のこの症例は父親からの感染が考えられるとのことです。報道でははっきりと述べられていませんが、どうも10例目が11例目の父親であるようなニュアンスです。しかし、同時に「ヒトからヒトへの感染のリスクは極めて低い」と述べられています。
 
 中東への渡航・滞在には充分な注意が必要ですが、WHO(世界保健機関)は現在のところ、入国時の特別なスクリーニング検査や、渡航・貿易の制限は推奨していません。

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 現時点では、外務省海外安全ホームページには、この感染症に対する情報が掲載されていないようです。
 
 厚生労働省検疫所のサイトには、「2013年02月12日更新 新種のコロナウイルス感染症について」というタイトルで情報が載せられていますので、下記を参照してみてください。
 
http://www.forth.go.jp/topics/2013/02121053.html

 ただし、厚労省も渡航を制限しているわけではありませんし、どのような対策をとるべきなのかについての言及はありません。現時点では感染者はまだ少数ですが、重症化しやすいのは間違いなく、世界11例のうち5例はすでに死亡しており、10例目のイギリス人も現在集中治療室に入院しています。
 
 中東方面へ渡航する人は注意深く情報収集することが必要でしょう。

(谷口恭)

注1:BBCは「Health official- new coronavirus risk remains very low」というタイトルで報じています。下記のURLを参照ください。
http://www.bbc.co.uk/news/health-21447216

HPAは下記のURLで11例目について言及しています。
http://www.hpa.org.uk/NewsCentre/NationalPressReleases/2013PressReleases
/130213statementonlatestcoronaviruspatient/

参考:医療ニュース
2012年9月28日 「重症化する新型コロナウイルス」

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2013年6月29日 土曜日

2013年2月15日(金) SFTSで新たに2人の死亡が確認

 ダニで媒介する新しい感染症のSFTSで山口県の女性が2012年の秋に死亡していた、というニュースを先日お伝えしましたが(下記医療ニュース参照)、同じ時期に2人の男性が同じ感染症で死亡していたことが、2013年2月13日、厚生労働省から発表されました。
 
 2人の男性は愛媛県と宮崎県に在住で、2人とも最近の海外渡航歴はなかったそうです。そして、奇妙なことに2人ともダニの刺し傷が見当たらなかったそうです。報道によりますと、宮崎県の男性は山に出かけることがあったそうです。愛媛県の例については報道からはダニに刺される状況にあったのかどうかは分かりません。
 
 厚労省によりますと、全国の都道府県から同様の症状の事例報告がこれまでに9件あり、検査した4件のうち2件からこのウイルス(SFTSウイルス)が検出されています。同省では現在残り5件の検査を急いでいるそうです。
 
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 宮崎県と愛媛県の症例から検出されたSFTSウイルスの遺伝子の塩基配列は山口県の女性のものと似ていたそうです。そして、これらは中国で報告されているSFTSウイルスのものとは異なっているそうです。
 
 ということは、中国から輸入されたものではなく、日本に以前からあったものである可能性が強いと言えます。私は前回の医療ニュースで、中国から入ってきたウイルスが変異した可能性について言及しましたが、日本で発覚した3例がすべて酷似しており、かつ中国のものとは似ていない、となると、日本に以前からあったものと考えるべきでしょう。
 
 しかし、これだけ重症化するウイルス感染が、なぜ今まで注目されなかったのでしょうか。それから、本当にダニが媒介しているのでしょうか。たしかにダニに刺されても気づかない人はいますが、それでも刺し傷は比較的簡単に見つかることが多いという印象が私にはあります。しかし、実はそうでなくて、刺されても痛くもなくて跡も残らない、というケースが実際にはよくあるのでしょうか。
 
 依然謎につつまれたままの感染症です…。

(谷口恭)

参考:医療ニュース
2013年2月1日 「謎に包まれた新しいダニ媒介の感染症」

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2013年6月29日 土曜日

2013年2月22日(金) 首からぶらさげる「ウイルス除去剤」でやけどの被害

 すでにマスコミでも報道されていますが、首からぶらさげるタイプの「ウイルス除去剤」でやけど被害が相次いでいます。重症例も出ているようで、消費者庁が注意を促しています(注1)。
 
 この製品は、消毒効果のある次亜塩素酸ナトリウムを含む錠剤の入ったパックを首からぶら下げて使うことで、ウイルスが除去できる、とされています。

 皮膚科関連の学会に寄せられた報告によりますと、今月中旬までに17例の症例報告があり、そのうち、製品が確認できている11例の全てが、ダイトクコーポレーション社製の「ウイルスプロテクター」という製品だったそうです。
 
 この製品はすでに国内で70万個が流通しており、厚生労働省が同社に自主回収を指導する予定だそうです。

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 今年に入り、首からネームプレートのような奇妙なものをぶらさげている患者さんが増えたな、と思っていたらこれが「ウイルスプロテクター」でした。

 このやけどは「化学熱傷」と呼ばれるもので、次亜塩素酸ナトリウムの錠剤が汗に触れたことで発症したのだと思われます。衣服の上から装着するだけであれば問題ないと思いますが、熱傷を負った人たちはおそらくこの製品をつけたまま寝てしまったのではないでしょうか。
 
 化学熱傷の場合、気づいたときにはそれほどひどくなくても、時間がたってから皮膚の障害が進行することがあります。思い当たることがある人は、軽症であったとしても一度医療機関を受診すべきだと思います。
 
 それから、問題になっている「ウイルスプロテクター」以外にも似たような製品が多数出回っているそうですので注意が必要です。

(谷口恭)

注1:消費者庁の注意勧告は下記のURLで閲覧することができます。

http://www.caa.go.jp/safety/pdf/130218kouhyou_1.pdf

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2013年6月29日 土曜日

2013年3月4日(月) タバコは美白を遠ざける

 タバコが皮膚に悪影響を与えるということは以前から指摘されており、いくつかの皮膚疾患(特に掌踵膿疱症や尋常性乾癬など)の増悪因子になっていることには疑問をはさむ余地がありません。また、ヘビースモーカーの中高年女性の肌は老化が早いということは医療者からもしばしば指摘されます。しかし、皮膚の老化、ということに対して科学的に検証された研究はあまり見当たりません。
 
 タバコを吸う女性は、吸わない女性に比べてメラニン産生量が増えて色が黒くなる…

 このような研究結果が日本人の学者(岐阜大学のYuta Tamai教授)により発表され話題を呼んでいます。医学誌『Tobacco Control』2013年1月26日号(オンライン版)に掲載されています(注1)。
 
 この研究の対象となったのは、2003年10月~2006年3月に岐阜県の総合病院に健康診断で受診した20~74歳の女性939人です。健診時に喫煙状況などのアンケートをおこない、メグザメーター(Mexameter)という器械を用いて皮膚のメラニンの量が測定されています。
 
 その結果、喫煙者は、非喫煙者および喫煙経験者に比べてメラニンの量が有意に高いことが分かったそうです。1日当たりの喫煙本数、喫煙年数が多ければ多いほどメラニンの量も多いという結果になっています。
 
 この結果は、サンスクリーン(日焼け止め)の使用、肌にいいとされているビタミンや野菜摂取の状況、また脂肪の摂取などの条件を調節しても変わらなかったそうです。

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 メラニンを増やすのを防ぐために最も大切なのは、サンスクリーンをしっかりと塗布する、ということですが、タバコを吸っていると、吸わない人に比べてその効果が減少する、と理解すべきでしょう。
 
 美容のために厳しいダイエットに耐える、しかしタバコがやめられない、という人がときどきいますが、順番は逆だと考えるべきです。このような研究が、禁煙する女性が増えることにつながれば、と思います。
 
(谷口恭)

注1:この論文のタイトルは、「Association of cigarette smoking with skin colour in Japanese women」で、下記のURLで概要を読むことができます。
 
http://tobaccocontrol.bmj.com/content/early/2013/01/25/tobaccocontrol-2012-
050524.abstract?sid=a59ddf87-261d-4f4b-8bd3-62ea71655034

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2013年6月29日 土曜日

2013年3月12日 意外に多いかもしれないHMPV

 いわゆる「風邪」のウイルスとして最も有名なのはインフルエンザウイルスでしょう。インフルエンザ以外ではアデノウイルスとRSウイルスあたりが最近は有名になってきていて、これらは保険診療で検査をおこなうことも場合によっては可能になりました。
 
 これら以外ではSARSの原因ウイルスとして注目を集め、最近では中東で感染しときに重症化することのある新しい型が発見されたことで注目されつつあるコロナウイルスはある程度有名かもしれません。
 
 しかし、それ以外の風邪の原因ウイルス、具体的には、ライノウイルス、エコーウイルス、パラインフルエンザウイルス、などはほとんど注目されていないのではないでしょうか。この理由として、これらウイルスに罹患して「風邪」をひいてもそれほど重症化しないこと、簡単な検査キットがないこと、特効薬がないこと、などが考えられます。
 
 最近、「風邪」の病原体のひとつとして注目されつつあるウイルスがあります。そのウイルスの名前はhuman metapneumovirus(HMPV)で、発見されたのは2001年です。
 
 医学誌「New England Journal of Medicine」2013年2月14日号(オンライン版)(注1)によりますと、米国の研究でこのウイルス(以下HMPV)が小児の入院や救急外来受診の一部の原因になっていることが判りました。
 
 研究者は、2003年から2009年までの米国の3つの郡の病院からHMPVに関するデータを収集し分析しています。その結果、この期間に入院した小児3,490人の約6%、外来を受診した小児3,257人の約7%、救急外来を受診した小児3,001人の約7%でHMPVが検出されました。
 
 HMPV感染で入院した小児は、元々喘息があるケースが多く、なかには酸素吸入を必要とし、集中治療室(ICU)での治療を要するケースもありました。しかし、喘息などの基礎疾患がなくても感染しにくいというわけではなく誰にでも感染するようです。
 
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 HMPVによる急性上気道炎症状は数年前より日本でも話題になることが増えてきており、すでに簡易検査キットもあります。しかし、風邪で受診する患者さんのどの程度がHMPVによるものなのかは不明のままでした。日本とアメリカでは状況が異なっている可能性はありますが、このような研究は注目に値するでしょう。
 
 HMPVの症状は、RSウイルスに似ていると言われています。つまり感冒症状のなかで咳が最も目立ちます。RSウイルスもHMPVも共に特効薬がなく対症療法しかできません。RSウイルスは入院した小児には保険で検査ができますが、HMPVは現在のところ、簡易検査キットがあるのにもかかわらず、どのような場合でも保険診療で調べることはできません。
 
 今のところ、成人に感染してもたいした症状は出ないとされていますが、同じように言われていたRSウイルスが高齢者の施設で集団発生することが最近わかったように、今後成人の集団感染も起こる(すでに起こっている)かもしれません。
 
(谷口恭)

注1:この論文のタイトルは、「Burden of Human Metapneumovirus Infection in Young Children」で、下記のURLで概要を読むことができます。
 
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1204630

参考:医療ニュース
2012年9月30日 「RSウイルス感染症に注意」

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2013年6月29日 土曜日

2013年3月15日(金) 都道府県別の平均寿命、長野県が男女ともに1位

 2013年2月28日、厚生労働省は5年に一度実施される国勢調査を解析した都道府県別の平均寿命を発表しました(注1)。

 平均寿命が最も長いのは、男女とも長野県で、男性80.88歳、女性87.18歳です。男性は1990年から5回連続(25年間)で1位、女性はこれまでは沖縄がトップでしたから、初めての1位ということになります。
 
 逆に最も短いのは男女ともに青森県で、男性77.28歳、女性85.34歳です。

 2位以下をみてみると、男性は、滋賀県(80.58歳)、福井県(80.47歳)、熊本県(80.29歳)、神奈川県(80.25歳)となっています。女性は、2位が島根県(87.0歳)、沖縄(87.02歳)、熊本県(86.98歳)、新潟県(86.96歳)、と続きます。
 
 全体でみると、ほぼすべての都道府県で(鳥取県の女性以外)、平均寿命が伸びています。

 死因別のデータも発表されています(注2)。興味深いのは「老衰」での死亡が、静岡県が男女とも1位で、男性が4.57%、女性13.13%となっています。「自殺」は、男性は1位が秋田県で3.32%、2位が岩手県の3.28%、女性は1位が岩手県で1.57%、2位が秋田県の1.41%と、秋田・岩手で1位2位を占めていることになります。
 
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 以前、国立がん研究センターがん対策情報センターが発表した都道府県別ガン死亡率について紹介しましたが(下記医療ニュース参照)、やはり長野県がダントツの1位、最下位は青森県でした。ガン死亡率と平均寿命が一致しているということは、やはりこの国の最大の死因はガンであり、長生きするためにはガン対策が不可欠ということになるかと思います。
 
 しかし興味深いことは他にもあります。老衰での死亡は全国で男性2.81%、女性8.75%と男女に開きがあることは注目すべきでしょう。自殺は、全国で男性2.52%、女性が1.07%です。男性が自殺で死ぬ確率は老衰で死ぬのと同じくらいであり、実に40人に1人以上が自殺で命を絶っていることになります。つまり同じクラスでひとりくらいが自殺しているということになるわけです。
 
 自殺は、岩手県と秋田県で男女とも1位2位を占めていますが、青森県も男性3位、女性8位とやはり多いようです。しかし同じ東北地方の宮城県では、男性は21位、女性はなんと44位!と「自殺の少ない県」となっています。しかも東日本大震災があったのにもかかわらず、です。これはなぜなのでしょうか。医学的な観点からだけでなく文化人類学的な考察が必要になるのかもしれません。
 
(谷口恭)

注1:詳しくは厚労省の下記のサイトを参照ください。
 
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/tdfk10/dl/02.pdf

注2:死因別データは下記を参照ください。
 
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/tdfk10/dl/05.pdf

参考:医療ニュース
2012年10月26日 「都道府県別ガン死亡率、青森が8年連続ワースト1」

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2013年6月29日 土曜日

2013年3月29日(金) やはり減塩で死亡者が減少

 2011年頃、塩分制限はおこなう必要がないとする論文がいくつか発表され世界中で話題となりました。このような研究結果が発表されたからといって、直ちに世界中の医師が塩分制限を撤回したかといえば、もちろんそのようなことはなく、おそらくほとんどの医師が従来通りの減塩の必要性を訴えていると思われます。

 減塩をおこなえば今後10年間で米国人を50万人も救うことができる・・・

 これは医学誌『Hypertension』2013年2月11日号(オンライン版)(注1)で発表された研究です。

 この研究では、3種類の減塩のシナリオが設定され、コンピュータを用いて解析がおこなわれています。シナリオAは「今後10年間で40%の減塩を段階的におこなう」、シナリオBは「40%の減塩を直ちにおこない国民平均ナトリウム摂取を2,200mg/日(5.6g/日)(注2)とし10年間維持する」、シナリオCは「直ちに国民平均ナトリウム摂取を1,500mg/日(3.8g/日)とし10年間維持する」とされています。

 解析の結果、どのシナリオを採用したとしても死亡者を大きく減らすことができることがわかりました。最も緩やかなシナリオAでさえ、その次の10年間で28万人から50万人もの命を救うことができるとされています。

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 ちなみにアメリカ人の平均塩分摂取量は8.9g/日(ナトリウム3,500mg/日)とされています。日本人は2010年のデータで男性11.2g/日、女性9.9g/日です(厚労省の「国民健康・栄養調査」より)。

 厚労省の「日本人の食事摂取基準」(2010年版)によれば、1日の目標量として、男性は9.0g/日、女性は7.5g/日とされています。この研究のシナリオにあるような、1日あたり5.6g/日や3.8g/日というのは相当困難であることがわかります。

 最近は、減塩不要とする論文をほとんど見かけなくなり、そのようなことを主張する学者の声も聞きません。やはり塩分は従来から言われていたとおり減らしていくのがよさそうです。決して簡単ではありませんが・・・。

(谷口恭)

注1:この論文のタイトルは、「Mortality Benefits From US Population-wide Reduction in Sodium Consumption」で、下記のURLで概要を読むことができます。

http://hyper.ahajournals.org/content/61/3/564.abstract?sid=e3307020-398b-4547-ad52-f2628b84af2d

注2:塩分摂取量について、海外の論文では一般的にナトリウム量が使われますが、日本では食塩のグラム数で表されるのが普通です。「ナトリウム量(mg)x 2.54 ÷ 1,000 = 塩分(g)」が換算式となります。

参考
メディカルエッセイ:第104回(2011年9月) 「塩分制限が不要というのは本当か」
はやりの病気:第81回(2010年5月) 「慢性腎臓病と塩分制限」

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