医療ニュース

2013年7月18日 木曜日

2010年2月8日(月) イソフラボンで肺ガンのリスクが低下

 タバコを吸わない男性では、豆腐や納豆などに含まれるイソフラボンの摂取量が多い人が肺ガンになるリスクは、摂取量の少ない人の半分以下・・・。

 このような研究結果が厚生労働省の研究班により発表されました。(報道は2月5日の共同通信など)

 研究班は、岩手、秋田など合計8県に住む45~74歳の男女約76,000人を平均11年間追跡調査しています。追跡期間中、男性481人、女性178人が肺ガンに罹患しました。食事内容の調査から、イソフラボンの摂取量を算出し、男女をそれぞれ4つのグループに分け、肺ガンの発症率を比較しています。

 その結果、男性の非喫煙者では、イソフラボンの摂取量が最も多いグループ(豆腐換算で1日約203グラム、豆腐1丁は300~400グラム)の肺ガン発症率は、最も少ないグループ(同約37グラム)の43%であることが分かりました。

 男性全体では、イソフラボン摂取量と肺ガン発症率の関連性は認められませんでしたが、これは喫煙の影響がかなり大きいからではないかと考えられます。また、女性では、やはりイソフラボンの摂取量が多いほど肺ガンになりにくいという傾向が確認されましたが、統計学的に有意という程の差ではなかったとのことです。

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 豆腐や納豆といった大豆食品で肺ガンのリスクが軽減するというのは嬉しい報告ですが、これはタバコを吸わないことが前提です。実際、研究者のひとりは「肺ガンの最大の原因はやはりタバコである」と述べています。

 イソフラボンは、女性ホルモン(エストロゲン)様の効果があるとされているフラボノイドで、乳癌や子宮体癌などのリスク低減(ただし、逆に増加するのではないかという説もあります)、更年期障害や糖尿病、骨粗鬆症などにも効果があると言われることがあります。

 今回の肺ガンのリスク低減に効果があるとする研究は注目に値するでしょう。しかしながら、これは食品に含まれるイソフラボンであって、サプリメントに同様の効果があるかどうかは不明です。

(谷口恭)

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2013年7月18日 木曜日

2010年2月8日(月) 70歳以上の太っている人は寿命が長い?

 「太っている方が長生きする」という研究がここ2~3年相次いでいますが(下記医療ニュースも参照)、またもや同様の研究結果が発表されました。

 70歳以上で太っている人は標準体重の人に比べて10年間の死亡率が低い・・・

 これはオーストラリアでおこなわれた研究結果です。医学誌『Journal of American Geriatric Society』オンライン版1月27日号(下記注1参照)に論文が掲載されています。

 研究者は、1996年の時点で70~75歳のオーストラリア人9,200人を対象とし、BMI(下記注2参照)で4つのグループに分け、健康状態を10年間追跡調査しています。4つのグループは、①やせぎみ(BMIが18.5以下)、②標準(BMIが18.5~24.9)、③太り気味(BMIが25.0~29.9)、④肥満(BMIが30以上)です。

 調査の結果、グループ③の「太り気味」の人は、グループ②の標準の人に比べて死亡リスクが13%低いという数字が出ています。しかし、グループ④の肥満の人では死亡リスクの低下は認められていません。

 また、座りがちな生活をしていると死亡リスクが女性では2倍になり、男性では4分の1増加するという結果も出ています。

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 参考までに、オーストラリアは米国、英国に続いて世界第3位の肥満大国であると言われています。

 国内外を問わず、このような従来の定説と矛盾するような報告が増えてきています。改めて世界的な大規模調査が待ち望まれます。

(谷口恭)

注1 この論文のタイトルは「Body Mass Index and Survival in Men and Women Aged 70 to 75」で下記のURLで全文が読めます。

http://www3.interscience.wiley.com/cgi-bin/fulltext/123265340/HTMLSTART

注2 BMIはBody Mass Indexの略で、体重(キログラム)を身長(メートル)の2乗で割って算出します。例えば、体重88キログラム、身長2メートルの人であれば、88÷2の2乗=88÷4=22となります。

参考:
医療ニュース2009年10月13日「「太りすぎ」が長生き?」
医療ニュース2009年6月11日「やはり長生きするのは太り気味か…」
医療ニュース2009年4月30日「太った方が長生きする!?」

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2013年7月18日 木曜日

2010年2月11日(木) ネイルサロンに対する初めての調査

 グリーンネイルという爪の病気をご存知でしょうか。文字通り、爪が緑色になる病気でここ数年増加しているような印象があります。グリーンネイルは爪の下で緑膿菌が繁殖することにより生じるのですが、この病気にはある種のカビが関与しているため、治療は抗生物質ではなく抗真菌薬を用います。

 グリーンネイル発生のメカニズムはいいとして、これが起こる原因として見逃せないのがネイルサロンでのトラブルです。つまり、ネイルサロンのケアが不衛生であったことが原因でグリーンネイルが生じることがあるのです。また、グリーンネイル以外にも爪の周囲に細菌感染がおこる(細菌性)爪囲炎をおこして医療機関を受診される人もいます。

 国民生活センターには、ネイルサロンをめぐる相談件数が増えているそうです。そんななか、厚生労働省が全国約140店舗の実態調査をおこないその結果を2月2日に公表しました。(報道は2月3日の共同通信など)

 調査は2009年5月~6月にかけて実施され、札幌市や新潟市など全国10市と都内の7区にある合計143店舗が回答しています。営業場所は商業ビルやデパートの中などが大半を占めたそうです。

 「開設者が施設や施術に関する衛生管理要領を作り、従業者に周知徹底しているか」を聞いた結果、74店舗(51.7%)が「はい」と答え、「いいえ」が69店舗(48.3%)に上っています。また、22.4%に当たる32店舗が「衛生管理の責任者を定めていない」と答えています。

 一方で、皮膚疾患の有無など従業員の健康管理や器具の点検、施術前後の消毒などについては、いずれも90%以上が「している」と答えています。

 厚労省によりますと、「ネイルケアをめぐってはNPO法人などが独自の技能検定を実施しているが、開業や施術についての法的規制はない」そうです。健康被害の相談も目立っており、同省は2009年度中に「衛生基準ガイドライン」を策定する方針を決めています。

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 調査結果によれば、約半数のネイルサロンが具体的な衛生管理要綱を作成していないことになります。また、当局のガイドラインが現在存在しないわけですから、作成していたとしても要綱は独自のものとならざるを得ません。

 「衛生基準ガイドライン」の早期の策定と実施の徹底を望みたいと思います。

(谷口恭)

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2013年7月18日 木曜日

2010年2月11日(木) メタボ腹囲を巡って報道に違いが・・・

 以前よりメタボリックシンドローム(内蔵脂肪症候群)の診断基準のひとつである腹囲を巡って様々な議論が展開されていました。現在の腹囲の基準は、男性85センチ以上、女性90センチ以上ですが、「女性が男性より多いのは国際的にみて異例」、「腹囲の基準を設ければやせていて高血糖や高血圧がある人を見逃してしまう」、あるいは「基準より腹囲が多い人でも健康な人は少なくない」、といった意見もあります。

 日本の診断基準では、腹囲が必須で、血糖・脂質・血圧の3項目のうち2つ以上の異常でメタボリックシンドロームの診断がなされることになっています。一方、米国では、腹囲(男性102センチ以上、女性88センチ以上)は、中性脂肪、HDLコレステロール、血圧、血糖値を含めた5つの診断基準の一項目とされています。(日本の基準では、腹囲が「必須」なのに対し、米国では「一項目」とされているというわけです)

 2月9日、厚生労働省研究班は、腹囲の基準をめぐる大規模調査の結果を報告しました。調査では、全国12ヶ所の40~74歳の男女約31,000人について、心筋梗塞、脳梗塞の発症と腹囲との関連が調べられています。

 興味深いのはマスコミによって伝えられるニュアンスが異なっていることです。

 2月9日の読売新聞は、「腹囲の数値によって、心筋梗塞や脳梗塞の発症の危険性を明確に判断できない(と厚労省が発表した)」と報道しています。

 これに対し、2月10日の日経新聞は、「女性の腹囲を(現行の90センチから)80センチに厳しくすれば、より多くの脳卒中や心疾患を予防できる(と厚労省が発表した)」と報道しています。

 読売新聞では「腹囲の基準を設けるのは困難」とし、日経新聞では「女性の基準を厳しくすれば予防につながる」としているのです。

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 2つの報道機関で内容のニュアンスが異なっているのは興味深いですが、双方とも「(腹囲の基準を設けるべきかどうかは別にして)肥満が心疾患や脳卒中のリスクになりうる」という認識は一致しています。

 腹囲の基準は、国内でも議論が分かれ、国際的にもバラバラです。我々としては、いつ変更されるか分からない細かい数字に注目するよりも、「太りすぎはよくない」という常識的なセンスを忘れないことが大切でしょう。

(谷口恭)

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2013年7月18日 木曜日

2010年2月11日(木) ビタミンDが不足すると喘息が悪化

 喘息を持っている人のビタミンDの濃度が低くなると症状が悪化しやすい・・・

 これは医学誌『American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine』オンライン版1月28日号に掲載された論文で紹介されている研究報告です。(下記注参照)

 研究者らは、喘息患者54例のビタミンD濃度を測定し、肺機能、気道過敏性、ステロイド治療に対する反応を評価しています。血中ビタミンD濃度が低い患者では、肺機能および気道過敏性が濃度が高い患者に比べて悪いという結果が出ています。ビタミン濃度が30ng/mL未満の患者の気道過敏性は、それよりも高い患者のほぼ2倍となっています。(気道過敏性が高くなると喘息症状はでやすいと言えます)

 また、ビタミンD濃度は患者のステロイド系喘息治療薬に対する反応を予測できると研究者は言います。ビタミンDは、喘息患者に直接的に関与する形で免疫系あるいはステロイド反応を修飾する物質として作用すると思われる、と述べられています。

 さらに、研究では、「最も体重の重い患者ではビタミンD濃度が最も低かった」という結果もでています。

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 要するに、「ビタミンDの濃度が低いと喘息症状を悪化させるだけでなく、治療をしても改善しにくい」、という結論が導き出されたというわけです。そして、「肥満があると、ビタミンDの濃度が低くなってしまう」というわけです。

 つい最近も、ビタミンDを積極的に摂取すれば大腸ガンの予防になる可能性がある、というニュースをお伝えしたばかりですが、ビタミンDは今後さらに注目されることになるかもしれません。

 早速、喘息がある人もない人もビタミンDをサプリメントで・・・、と言いたいところですが、ビタミンDは摂取しすぎると過剰摂取による弊害も考えなければなりません。何らかのガイドラインの制定を望みたいところです。

(谷口恭)

注 この論文のタイトルは「Vitamin D Levels, Lung Function and Steroid Response in Adult Asthma」で、下記のURLで全文を読むことができます。

http://ajrccm.atsjournals.org/cgi/content/abstract/200911-1710OCv1?maxtoshow=&hits=10&RESULTFORMAT=&author1=Sutherland&searchid=1&FIRSTINDEX=0&fdate=1/1/2010&resourcetype=HWCIT

参考:医療ニュース2010年2月1日「ビタミンDの不足は大腸ガンのリスク」

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2013年7月18日 木曜日

2010年2月15日(月) 大阪府、いきなりエイズが過去最多

 大阪府立公衆衛生研究所の報告によりますと、2009年に発症した「いきなりエイズ」は62人となり、2008年の51人を上回って過去最多となっています。(報道は2月13日の日経新聞)

 「いきなりエイズ」とは、エイズを発症して初めてHIV感染が判ることを言い、発症するまでの数年間の間に他人に感染させている可能性があります。「いきなりエイズ」となると投薬のタイミングが遅れてしまっていますから、命にかかわる状態になることもあります。

 ここ数年間は、当局のPRやキャンペーンが功を奏し、特に大阪府では検査件数は増えていました。その結果、まだエイズを発症していない状態でHIV感染が判明するケースが多く、適切なタイミングで治療を開始することができていました。

 ところが、2009年には検査件数が激減し、保健所などの公的機関でHIV検査を受けた人数が月平均で1,532人まで減少しています。(2008年は月平均1,769件、最も多かった9月は2,617件)

 大阪府での2009年の(エイズを発症していない)HIV抗体陽性者と新規でHIV感染が判ったエイズ患者(いきなりエイズ)の合計は233人で、これは2008年の238人を若干下回っています。ところが、検査件数がこれだけ減少しているわけですから、大阪府のHIV感染者は確実に増えていると考えて間違いないでしょう。

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 大阪府の関係者は、HIV検査件数が減少した原因を「新型インフルエンザが流行したから」と分析していますが、それだけではないと私は考えています。

 不特定多数とのunprotected sex(コンドームを用いない性交渉)の増加があり、さらに「自分だけはかからない」という何の根拠もない妙な自信を持っている人が増えてきているように私は感じています・・・。

(谷口恭)

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2013年7月18日 木曜日

2010年2月17日(水) 検査件数減少で新規HIV感染者も減少

 先日、大阪府では「いきなりエイズ」の患者数が過去最多になったというニュースをお伝えしました(下記医療ニュース参照)。この原因として、まだ症状がない状態で検査を受ける人が減ったことが考えられるわけですが、検査の減少は全国に及んでいるようです。

 厚生労働省は2月12日、2009年のHIV新規感染者(まだエイズを発症していない状態で新たにHIV感染が判った人)は1,008人(速報値)であることを発表しました。7年ぶりに前年を下回ったことになりますが、一方で検査件数も7年ぶりに減少しており、検査件数の減少が新規発見の減少につながったと同省はみています。

 同省によりますと、HIVの検査件数及び新規感染者数は1998年からの10年間でおよそ3倍に増加しています。2008年は検査数が177,156件、感染者が1,126人で、共に過去最高でした。ところが、2009年になり検査を受ける人が急減し、その結果、受検者は約15%、感染者は10%、2008年から減少しています。 

 尚、2009年に新たにエイズを発症した患者(いきなりエイズ)は全国で420人となっており、2008年より11人少なくなっています。

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 大阪府でも全国でも、検査件数が減少し、(まだエイズを発症していない)HIV感染者も減少していることは共通しています。ところが、「いきなりエイズ」は全国ではわずかに減少しているのに対し、大阪府では20%以上も増加しています。

 これは、大阪府ではまだまだ感染に気づいていない人が大勢いる可能性を示唆しているといえるでしょう。

(谷口恭)

参考:医療ニュース2010年2月15日「大阪府、いきなりエイズが過去最多」

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2013年7月17日 水曜日

2010年2月22日(月) まつ毛エクステのトラブルが急増

 ここ数年間、女性の間で、まつ毛エクステ(ンション)が流行しているようです。これはまつ毛にボリュームをもたせるために、専用の接着剤を用いて、まつ毛に絹や化学繊維などで作られた人工毛を付ける一種のメイクです。

 このまつ毛エクステに関するトラブルが急増していることが国民生活センターの報告で分かりました。(同センターの報告は2月17日、報道は翌日の共同通信、読売新聞など)

 同センターには2004年4月から2010年2月5日まで合計156件の相談が寄せられています。相談件数は、2004年、2005年がそれぞれ2件、7件だったのが、2008年度と2009年度は50件に上るそうです。相談者の全員が女性で、接着剤や人工毛が目に入って充血した、炎症を起こしたというものが合計93件、目の周囲の皮膚にトラブルを起こしたケースが45件と報告されています。

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 接着剤や人工毛が目に入るのは危険ですし、皮膚に接触しただけでも、やけどの一種である化学熱傷や接触皮膚炎(かぶれ)が起こることがあります。

 共同通信によりますと、まつ毛エクステを実施するには、資格をもった美容師が美容師法上の「美容所」でおこなわなければならないそうです。しかし、実際はエステやネイルサロンなどでもおこなわれているケースがあります。被害を増やさないためには、法律を周知させることが先決のように思われます。

(谷口恭)

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2013年7月17日 水曜日

2010年2月22日(月) はしかワクチン追加接種は依然低迷

 国内でのはしか(麻疹)ワクチンの接種率が低すぎるということは、このサイトで何度も何度もお伝えしていますが、その傾向は一向に変わらないようです。

 はしかの予防接種は、以前は1歳頃に一度接種するのみでした。しかし、一度接種では充分な免疫力が得られないため、2006年から2回目を小学校入学前に接種することになりました。ただし、これではルール変更になる前の子供は一度しか接種できないことになりますから、5年間の時限措置として13歳と18歳の全員を対象として公費負担(無料)でワクチン接種がおこなわれています。

 13歳と18歳のワクチン接種率の目標を厚生労働省は95%としています。2009年3月末時点(2008年度最終)での18歳のワクチン接種率は全国平均で77.3%、13歳では85.1%で目標からはほど遠い数字となっています。

 2月18日、同省は2009年度のワクチン接種率の途中経過を発表しました。2009年12月末時点で、接種率の全国平均は18歳で56.6%、13歳で65.8%となっています。

 2009年度の対象者は3月末で公費負担による定期接種が受けられなくなってしまいます。(その後に受けると自費となります)

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 接種率が低いのは都市部で特に顕著のようです。特に、神奈川、東京、大阪では18歳の4割前後しか接種していないようです。3月末までもう少し時間がありますから、該当する人は忘れないようにしましょう。

参考:
医療ニュース2009年10月27日「はしかワクチン接種、目標に届かず」
はやりの病気第46回(2007年6月)「はしかの予防接種率はなぜ低いのか」

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2013年7月17日 水曜日

2010年2月22日(月) 神戸の9ヶ月男児がポリオを発症

 2月19日、神戸市が市内在住の9ヶ月の男児がポリオを発症したことを発表しました。(報道は同日の共同通信)

 厚生労働省によりますと、国内でポリオが発症したのは2008年12月の三重県での報告以来だそうです。

 神戸市によりますと、2009年11月にポリオワクチンの集団予防接種を実施しましたが、この男児は体調不良で受けていなかったとのことです。現在、男児には左足の麻痺(まひ)が認められるそうです。周囲への二次感染の可能性はないと神戸市はみています。

 男児は2009年12月28日に発熱があり2010年1月1日に医療機関を受診しています。その後、麻痺(まひ)が現れ1月7日に入院となり、2月5日にポリオウイルスが検出されたと報告されています。

 この男児から検出されたポリオウイルスを国立感染症研究所が調査したところ、野生株(自然界に生息しているウイルス)ではなく、ワクチン株(ワクチンとして使われている弱毒化したウイルス)であることが判明しています。感染経路は断定することはできないものの、他の乳児に実施した予防接種のワクチンに含まれていたウイルスが何らかのルートで感染した可能性が考えられています。

 神戸市は、「ワクチン未接種の男児がワクチン型に感染したまれなケース。集団で免疫を付けることが大事なので、集団予防接種はしっかりと受けてほしい」とコメントしているそうです。

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 現在国内でおこなわれているポリオのワクチンは経口ワクチン(シロップを飲むタイプ)です。このワクチンは弱毒化したウイルスを用いるため、ごく稀にポリオに感染したときと同様の副作用が出現することがあります。また、便から排出されたワクチン由来のウイルスが家族に感染することもあると言われています。(ただし麻痺などの症状が出現する確率は非常に低く、およそ580万回に1回との研究があるそうです)

 また、この経口ワクチンは成人では副作用の危険性が高まるため、原則として成人には投与(接種)できません。

 ポリオのワクチンは、今のところ経口生ワクチンが主流ではありますが、世界的には生ワクチンではなく不活化ワクチン(注射型)に切り替わりつつあります。例えば、米国では現在は不活化ワクチンのみ使用されるようになり、すでに経口ワクチンは過去のものとなっています。

 日本でも不活化ワクチンへの切り替えが検討されてもいいのではないでしょうか。

(谷口恭)

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