医療ニュース
2023年9月30日 土曜日
2023年9月30日 座りっぱなしの時間が長ければ運動しても認知症のリスク上昇
座りっぱなしが健康のリスクになることはこれまでこのサイトで何度も伝えてきました。生活習慣病、がん、ED、そして認知症のリスクにもなると言われている「座りっぱなし」は「第2の喫煙」と呼ばれることもあります。
しかし、運動が座りっぱなしのリスクを軽減するという研究もあり、こういった情報も伝えてきました。過去の医療ニュース「1日わずか11分の運動で「座りっぱなし」のリスク解消」で述べたように、ごく短時間の運動でも座りっぱなしによる死亡リスクが低下するというのは希望のある話です。
では、認知症はどうでしょうか。座りっぱなしが認知症のリスクになるのは以前から指摘されていましたが(これは想像しやすい)、やはり運動でそのリスクが解消されるのでしょうか。どうやらそうではなさそうです。運動をしても座りっぱなしの時間が長ければ認知症のリスクが低下しないという大変ショッキングな研究が報告されました。
医学誌「JAMA」2023年9月12日号に掲載された論文「高齢者の座りっぱなしと認知症(Sedentary Behavior and Incident Dementia Among Older Adults)」です。
この研究の対象者は49,841人の英国在住の高齢者 (平均年齢67.19歳、54.7% が女性)で、平均追跡調査期間が6.72年です。この期間中に414人が認知症を発症しました。
1日に10時間座っていた場合、座る時間が10時間未満の場合に比べて認知症を発症するリスクが8%上昇することが分かりました。座りっぱなしの時間は長ければ長いほどそのリスクが高くなります。12時間椅子に座ったまま過ごした人の認知症リスクは63パーセント、15時間ではなんと321%も増加することが分かりました。
さらに興味深いことに、認知症に関しては運動をしてもリスクが低減していませんでした。運動が認知症のリスクを下げることを示した研究はいくつもあるのですが、この研究では中等度から強度の運動(moderate to vigorous intensity physical activity)をおこなってもリスクが低下していなかったのです。
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運動してもリスクが下がらないとは座りっぱなしはなんとやっかいなのでしょう。第2の喫煙というよりもむしろ「喫煙と同等のリスク」と考えた方がいいかもしれません
この研究結果から言えることはただひとつ。認知症のリスクを下げたいのなら「座りっぱなしを極力少なくする生活」を始める以外に方法はありません。例えば、テレビは立って見る、読書も立ったまま、食事はバーカウンターで、仕事の基本スタイルはスタンディング、会議も全員起立したまま、……、といったところでしょうか。
しかしこんな習慣を維持することなどできないでしょう。さしあたり、「座る時は定期的にお尻を上げて空気椅子」あたりから始めればいいのでしょうか……。
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|2023年9月3日 日曜日
2023年9月3日 うつ病があれば炎症性腸疾患を発症しやすい
炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Diseases)とは、分かりやすく言えば、「潰瘍性大腸炎」と「クローン病」のことです。双方ともいわゆる自己免疫性疾患のひとつで、いったん発症するとかなり長期の治療が必要となります。
双方とも、腹痛、下痢、血便、微熱、倦怠感などが続き、生活に支障がでます。がんのリスクにもなり、若くして大腸、さらには肝臓の手術が必要になることもあります。日本を含む先進国で過去数十年増加傾向にある疾患です。
さて、今回発表されたのが「うつ病を患っていれば、将来炎症性腸疾患を発症するリスクが上昇する」という研究です。
医学誌「Inflammatory Bowel Diseases」オンライン版2023年6月10日号に掲載された論文「うつ病と炎症性腸疾患との関連:体系的レビューとメタアナリシス(Association of Depression With Incident Inflammatory Bowel Diseases: A Systematic Review and Meta-Analysis)」を紹介します。
研究の対象はこれまでに発表されているうつ病と炎症性腸疾患の関連について調べた研究5,307件です。これらから基準に合致するものを選び出して解析しなおしました。結果、次のようなことが分かりました。
・うつ病があればクローン病を発症するリスクが1.17倍に上昇する
・うつ病があれば潰瘍性大腸炎を発症するリスクが1.21倍に上昇する
・うつ病を発症した数年後に炎症性腸疾患を発症しやすい
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研究の対象が過去に発表された5,307件というこの数字がかなり大きいことに驚かされます。これは、炎症性腸疾患の患者さんがうつ病も患っているケースが少なくないと気付いた医師がかなり多いことを示しています。
「どうやら炎症性腸疾患はうつ病と関連がありそうだ。ではどれくらい関連性があるのだろう」と考えた研究者が少なくないということです。
ただし、この考えには昔から論争がありました。「そのような慢性疾患に罹患して平静を保てるはずがない。次第によくうつ状態が出現してもおかしくない」、「いや、そうではなくて炎症性腸疾患を発症したのが後だ。だから関係はない」、などです。
また、これらの疾患を持っている人は性格が似ている、という医療者もいます。さらに、炎症性腸疾患だけでなく、関節リウマチや橋本病など他の自己免疫疾患にも性格の特徴があると言う人もいます。
私個人としては先入観を持ちたくないという理由もあって、日頃の臨床ではこういうことを考えないようにしていますが、これらの疾患を持っている人の精神状態には注意を払うようにしています。
その結果、炎症性腸疾患の治療は(生物学的製剤など高価な薬が必要になるため)専門医を受診してもらい、その他の症状や疾患は谷口医院で診ている、というケースが非常にたくさんあります。そして、それら「症状や疾患」のなかにはうつ病も含まれていることが少なくありません。
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|2023年8月13日 日曜日
2023年8月13日 認知症になれば突然絵が上手くなるかも
このサイトでは認知症について繰り返し取り上げています。「〇〇で発症リスクが下がる」「△△は悪化因子だ」といった研究を数多く報告してきましたが、結局のところ認知症には決定的な予防法があるわけではなく、また有効性の高い治療法があるわけでもありません。ですから、自身や家族が発症すれば、割り切って上手くつきあっていくしかありません。
そして、場合によっては認知症になったからこそ新たな才能が生まれることもあることは知っておいた方がいいでしょう。一部の認知症になれば芸術的創造性が生まれるかもしれません。
医学誌「JAMA Neurology」2023年2月27日号に掲載された論文「前頭側頭型認知症における視覚的創造性、頻度、時期、脳の位置(Prevalence, Timing, and Network Localization of Emergent Visual Creativity in Frontotemporal Dementia)」を紹介します。
認知症にはいくつかのタイプがありますが、芸術的創造性が現れるのは「前頭側頭型認知症」と呼ばれるタイプの認知症で、認知症全体のなかのおよそ1%に相当します。この認知症がアルツハイマー型認知症など他の認知症と異なるのは、初期の時点で人格が豹変し、異常行動をとることが多く、周囲の負担がかなり大変になることです。そのため、認知症のなかで唯一「難病」に指定されています。
研究の対象となったのは、2002年から2019年までの期間に前頭側頭型認知症の診断がついていた689人です。689人中、17人 (2.5%) が視覚的芸術的創造性(visual artistic creativity, VAC)の基準を満たしました。
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認知症患者は世界的に増えていますが、今回取り上げた前頭側頭型認知症は全体の1%に過ぎず、そのなかで視覚的芸術的創造性を発揮するのは2.5%ですから、認知症患者全体でみれば、このような芸術性が期待できるのは4千人に1人、非常に稀です。
しかし、認知症発症でこのような才能が生じるというのは興味深いと言えます。先述したように、前頭側頭型認知症は人格が変わっておかしな行動をとるので周囲は大変です。おかしな行動とは、例えば、他人に暴言を吐く、暴力をふるう、(男性患者なら)女性を強姦しようとする、万引きを繰り返す、などです。
芸術活動に夢中になって、こういった周囲が疲弊する事件を起こさなくなれば理想でしょう。
よく言われるように認知症を発症しても自分自身ではそれに気づきません。もしも、高齢になって突然絵がうまくなった、というようなことがあれば前頭側頭型認知症を疑うべきかもしれません。
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|2023年7月30日 日曜日
2023年8月1日 亜鉛はコロナに効く!
過去の「流行りの病気」「ポストコロナ症候群に有効な治療薬はあるか」で、亜鉛は「もともと欠乏している人は重症化しやすい」という報告はあるものの、感染時に亜鉛を投与してもそれが新型コロナウイルス感染症(以下、単に「コロナ」)、あるいはコロナ後遺症の治療になるわけではない、という研究を紹介しました。
そのコラムで紹介したように、日本の「医療基盤・健康・影響研究所」はコロナの治療としての亜鉛の有効性を否定しています。そして、今もその考えを取り下げていません。
ところが、世界的には「コロナの治療として亜鉛は有効」という結論になりつつあります。2つのメタアナリシスを紹介しましょう。
1つ目は医学誌「European Journal of Medical Research」2022年5月23日号に掲載された「亜鉛補給と新型コロナウイルス感染症による死亡率:メタ分析(Zinc supplementation and COVID-19 mortality: a meta-analysis)」です。
1,398人の対象者を解析した結果、亜鉛補給によりコロナによる死亡リスクが43%低下するという結果が導かれました。
もう1つの研究は医学誌「Cureus」2023年6月10日号に掲載された「亜鉛補給は新型コロナウイルス感染症患者の死亡率低下と関連する: メタ分析(Zinc Supplementation Associated With a Decrease in Mortality in COVID-19 Patients: A Meta-Analysis)」です。
これまでに発表された亜鉛とコロナについての1,215本の論文が検索され、これらから質の高い5つの試験で死亡率を、2つの試験で症状の改善度を評価しました。結果、亜鉛補給によりコロナによる死亡リスクが37%低下していたことが分かりました。一方、症状自体の改善度には差がなかったようです。
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亜鉛補給がコロナの治療になるかの2つのメタアナリシスが実施され、双方とも「亜鉛に効果あり」という結果が出たわけです。なぜ日本の「医療基盤・健康・影響研究所」は黙ったままなのでしょうか。
亜鉛は費用も安いですから積極的に使えばいいと思いますが、問題は保険診療で血中亜鉛濃度が調べられないことです。以前も述べたように、「自分の亜鉛濃度は低いと思っていたのに調べてみると基準値よりも高かった」ということもしばしばあります。
コロナに感染したときに亜鉛を使うべきか否か。かかりつけ医と相談して決めるのがいいでしょう。
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|2023年7月24日 月曜日
2023年7月24日 更年期障害のホルモン補充療法はやはり認知症のリスクなのか
更年期障害の訴えがある女性全員に勧めているわけではありませんが、谷口医院でもやや重症の更年期障害の患者さんには一度はホルモン補充療法(HRT)の説明をし、そして実際、それなりの割合の人がこの治療法を開始します。
もちろん開始前にはホルモン補充療法の注意点について説明します。乳がんのリスク、血栓症のリスクは必ず伝え、その他その患者さんに応じて話をします。「認知症のリスク」については質問があれば説明しますが積極的には伝えていません。「認知症のリスクを下げる」する報告もあり決着がついていないからです。
今回、「ホルモン補充療法が認知症のリスクになる」という研究が発表されました。
医学誌「British Medical Journal」2023年6月28日号に掲載された論文「更年期障害のホルモン療法と認知症:全国規模の症例対照研究(Menopausal hormone therapy and dementia: nationwide, nested case-control study)」です。
研究の対象は、デンマークの医療データベースに登録されている2000年1月1日から2018年12月31日までの間に認知症を発症した女性5,589人です。対照群(認知症を発症しなかったグループ)として年齢を一致させた55,890人が選ばれています。
認知症を発症したグループでは1,782人(31.9%)がホルモン補充療法を受けていました。一方、対照群でホルモン補充療法を受けていたのは16,154人(28.9%)でした。ホルモン補充療法の治療開始の年齢中央値は53歳でした。
解析した結果、ホルモン補充療法を受けたことがない女性に比べて、ホルモン補充療法を実施していた女性では、認知症の発症リスクが24%高いことが分かりました。
期間でみると、ホルモン補充療法実施期間が1年以下の場合は認知症のリスクが21%、12年以上では74%上昇することが分かりました。つまり、治療期間が長いほどリスクが高いというわけです。
治療開始年齢でみれば、45~50歳で治療を開始した場合は26%、51~60歳では21%リスクが上昇していました。つまり、早く始めるほどリスクが上昇することになります。
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ホルモン補充療法が認知症のリスクになるとする研究については過去にも紹介したことがあります(下記)。その研究はフィンランドのものでやはり規模はそれなりに大きいものでしたから、今後ホルモン補充療法実施には認知症のリスクを念頭に置いた方がいいかもしれません。
例えば、血縁者に認知症の人がいるような場合は避けた方がいいかもしれません。
参考:医療ニュース
2019年3月31日 ホルモン補充療法はアルツハイマーのリスク
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|2023年7月9日 日曜日
2023年7月9日 子宮内膜症の原因は細菌感染か
女性のコモンディジーズである子宮内膜症(以下、単に「内膜症」)の原因が「細菌感染ではないか」というパラダイムシフトとも呼べそうな説が日本の学者から提唱されました。
なぜか日本のメディアではあまり見かけませんが、これはかなり大きなインパクトのあるニュースであり、世界の各メディアが取り上げました。例えば、Washington Postは「1000の研究で1つあるかないかのエキサイティングなものだ」と識者が絶賛したコメントを紹介しています。
ではこの画期的な研究を(メディア記事からではなく)論文から紹介しましょう。医学誌「Science Translational Medicine」2023年6月14日号に掲載された論文「フソバクテリウム感染は、子宮内膜線維芽細胞の表現型の変化を通して子宮内膜症の発症を促進する(Fusobacterium infection facilitates the development of endometriosis through the phenotypic transition of endometrial fibroblasts)」です。
研究の対象となったのは女性155人(内膜症の患者79人、健常者76人)で、膣内を綿棒でぬぐってどのような細菌が生息しているかが調べられました。結果、内膜症の患者の64パーセントが子宮内膜でフソバクテリウム属の細菌が陽性であり、対象者は10%未満でした。
さらにマウスでの実験が実施されました。フソバクテリウムをマウスに注射した後、子宮内膜症病変が増加することが分かったのです。さらにそのマウスに抗菌薬を投与すると、病変の数と体重が大幅に減少したのです。
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では、内膜症で悩んでいる患者さんには全例抗菌薬を投与しましょう、と単純に事が運ぶわけではありません。今回の研究は対象者数が充分とは言えませんし、抗菌薬には弊害もあるからです。
ここで基本事項をおさらいしておきましょう。
まず、内膜症とは簡単にいえば、子宮内膜の組織が卵巣や腹膜など他の組織で増殖し、症状としては腹痛が生じます。原因は現在も不明とされています。いくつかの説があるのですが決定的なものはありません。日本産婦人科医会のサイトによると、次の8つの説が紹介されています。
1)体腔上皮化生説
2)子宮内膜移植説
3)胎生組織遺残説
4)リンパ行性転移説
5)血行性転移説
6)医原性移植説
7)免疫学的異常説
8)幹細胞説
今回の研究は上記のいずれとも異なるまったく新しい説なのです。
次にメディアで取り上げられることはめったにないフソバクテリウムについて紹介しておきましょう。この細菌は通常は無害ですが、一部の株は重篤な感染症を引き起こす可能性があり、歯周炎や扁桃炎などの口腔疾患に関連しています。なぜ、口腔内にみられる細菌が子宮に生息しているのかは分かっていません。男性(女性)との性交渉でオーラルセックス(cunnilingus)を介して、という可能性はなくはないですが、性的接触の経験がない内膜症の患者さんもいます。
内膜症の治療は、最初に試みるのは低用量ピル(保険適用があります)ですが、当然のことながら妊娠を希望する場合はピルは使えませんし、副作用からピルが飲めない人もいます。最終的には手術しか選択肢がない、というケースもあります。
そんなときに、難治性となる内膜症が抗菌薬の投与で治癒するなら夢のような話です。勇み足になるようなことは避けなければなりませんが、今後の研究に注意したいと思います。
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|2023年6月26日 月曜日
2023年6月25日 母親の認知症、母親の円形脱毛症は子供に遺伝しやすい
アルツハイマー病が遺伝するのは間違いありませんが、それは父親ではなく母親からだ、という研究結果が発表されました。医学誌「Psychiatry and Clinical Neurosciences」2023年5月10日号に掲載された「親の認知症歴と認知症のリスク: 世界共同研究の横断分析(Parental history of dementia and the risk of dementia: A cross-sectional analysis of a global collaborative study)」にまとめられています。
研究に用いられたのは、8ヵ国のデータベースに登録された高齢者合計17,194人のデータです。父親および母親の認知症歴と子供の認知症、どのような認知症かなどが分析されました。結果、次のことが分かりました。
・母親が認知症があれば子供の認知症の発症リスクは上昇するが、父親では認められなかった
・母親に認知症があれば子供が認知症を発症するリスクは1.51倍、母親がアルツハイマー病であれば子供の認知症のリスクは1.80倍
・子供の性別でも差があった。子供が男性の場合、リスクは2.14倍に上昇するが、女性の場合は1.68倍にとどまる
もうひとつ、こちらは認知症以上に衝撃的な研究を紹介しましょう。
円形脱毛症のエピソードがある母親から生まれた子供は、自己免疫疾患、アレルギー疾患、甲状腺疾患、精神疾患を発症するリスクが有意に高い、というものです。
医学誌「JAMA Dermatology」2023年5月24日号に掲載された論文「円形脱毛症の母親から生まれた子供の自己免疫疾患、アトピー性皮膚炎、甲状腺疾患、精神疾患(Autoimmune, Inflammatory, Atopic, Thyroid, and Psychiatric Outcomes of Offspring Born to Mothers With Alopecia Areata)」で紹介されています。
研究に用いられたのは韓国のデータベースです。円形脱毛症で医療機関を3回以上受診した母親46,352陣と、その母親から2003年から2015年に生まれた子供67,364人が分析されています。
結果、母親に円形脱毛症があれば、子供に次の疾患のリスクが上昇することが分かりました。
・自己免疫疾患:2.08倍
・全頭型脱毛:1.57倍
・アトピー性皮膚炎:1.13倍
・アレルギー性鼻炎:1.04倍
・気管支喘息:1.03倍
・甲状腺機能低下症:1.14倍
・ADHD:1.16倍
・気分障害(うつ病など):1.13倍
・不安障害:1.14倍
当然といえば当然なのかもしれませんが、母親の円形脱毛症の程度が強ければ遺伝リスクも上昇するようです。母親に重症の全頭型脱毛症または汎発性脱毛症があった場合は次のようにリスクが上昇します。
・全頭型脱毛:2.98倍
・ADHD:1.26倍
・気分障害:1.23倍
・不安障害:1.24倍
さらに興味深いのは母親の年齢が関連していることです。分娩時の年齢が35歳未満の母親に比べ、35歳以上の母親が出産した場合、円形脱毛症、アレルギー疾患、精神疾患のリスクが上昇します。
また、生まれてくる子供の性別によっても変わります。男児と比べて女児は円形脱毛、白斑症、精神疾患のリスクが上昇していました。
************
認知症に遺伝性があるのは以前からよく知られており、ApoE遺伝子は簡単に調べることができます。ただし、知ってしまえば後には引けませんから安易な気持ちでは調べない方がいいでしょう。
円形脱毛症については、遺伝性があるという説は過去にもありましたが、それは円形脱毛に対する遺伝であり、他の疾患についても遺伝性があることをこれほど明らかにした報告はなかったと思います。
最近は疾患のみならず性格やキャラクターも環境ではなく生得的なものであるという考えが主流になってきており、それを示唆するエビデンスも増えてきています。これは「やればできる」「教育が人をつくる」「生活習慣のみなおしで病気を防げる」など従来言われてきた言わばリベラルな主張を覆すことになり興味深いと言えます。
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|2023年6月4日 日曜日
2023年6月4日 治る糖尿病は1%だけ?
糖尿病の治療を受けている患者の約1%だけが薬が不要になる……。
これは医学誌「Diabetes Obesity and Metabolism」2023年5月8日号に掲載された論文「日本における2型糖尿病の寛解と再発の発生率と予測因子: 全国患者登録の分析 (JDDM73)(Incidence and predictors of remission and relapse of type 2 diabetes mellitus in Japan: Analysis of a nationwide patient registry (JDDM73))」の結論です。
この研究の対象者はタイトルから分かるとおり日本人です。「糖尿病データマネジメント研究会(JDDM)」という研究会が保有するデータベースが分析されています。研究の対象者は18歳以上の日本人48,320人で、この研究での糖尿病の定義は「HbA1cが6.5%以上、および(または)糖尿病の薬が処方されている」です。
「寛解」というのはおおまかには「治ること」と考えていいのですが、この研究での定義は「糖尿病の薬を中止して3カ月以上HbA1cが6.5%未満を維持している状態」とされています。
解析の結果、中央値5.3年の追跡期間中に3,677例が寛解に至り、年間1000人あたりの寛解率は10.5(およそ100人に1人)でした。
寛解に至りやすい特徴としては「治療期間が短い」「調査開始時のHbA1cが低い」「調査開始時のBMIが高い」「1年でBMIが大きく低下している」「調査開始時に糖尿病の薬を飲んでいない」でした。
ただし、寛解した3,677人のうち2,490人(67.7%)が1年以内に再発(HbA1c値の再上昇)していました。
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この研究は、日本の糖尿病関連サイトでも報告されています。
この日本語の報告では、「糖尿病は意外にも治る人がいる」というような紹介をされています。
しかし谷口医院の経験でいえば、糖尿病が「治る」のは1%程度ではありません。1割までは届かないと思いますが、少なく見積もっても5%程度(20人に1人程度)の患者さんは薬を中止できます。残念ながら再発する人がいるのは事実ですが、この研究のように7割近くなどということはありません。せいぜい2~3割程度です(さらに長期間観察すれば上昇するかもしれませんが)。
そもそも他院から谷口医院に移ってきた時点では、「これまで食事にも運動にも気を使っていなかった」という人が大半です。そういう人には、まず薬を止めたい意思があることを確認し、生活習慣を改善させればそれが可能であることを説明します。
糖尿病で重要なことのひとつは「薬を使うかどうか別にして、治療開始を遅らせない」ことです。糖尿病はいったん発症して長期化すると、血管がボロボロになり、物理的に傷んだ血管はもはや修復不能になります。
そうなる前に生活習慣を改め必要最低限の薬を使えばいいのです。
「糖尿病は治らない」なんて考え、もはや古すぎます。
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|2023年5月28日 日曜日
2023年5月28日 「常に夜勤」はアルツハイマー病のリスクが2倍以上
夜勤やシフト勤務が認知症のリスクになると言う研究は最近「夜勤もシフト勤務も認知症のリスク」でお伝えしたばかりですが、今回も似たような研究を紹介したいと思います。
医学誌「Journal of Neurology」2023年4月6日号に掲載された論文「夜勤とすべての認知症およびアルツハイマー病のリスクとの関連性:英国バイオバンク参加者245,570人を対象とした縦断研究(The association of night shift work with the risk of all-cause dementia and Alzheimer’s disease: a longitudinal study of 245,570 UK Biobank participants)」をまとめていきます。
研究の対象者は英国のデータベース(UK Biobank)に登録されている245,570人、追跡期間の平均は13.1年です。夜勤とすべての原因による認知症およびアルツハイマー病の発症との関連性が調べられています。結果は次の通りです。
・すべての原因による認知症を発症したのは1,248人。アルツハイマー病発症者は474人
・すべての認知症の発症リスクは、常に夜勤をしている人が最も高い(リスクは1.465倍)。
・不規則なシフト勤務者のすべての認知症のリスクは1.197倍
・アルツハイマー病の発症リスクは、常に夜勤をしていれば2.031倍にもなる
・常に夜勤勤務をしている人は、AD-GRS(Alzheimer’s disease genetic risk score/アルツハイマー病遺伝的リスクスコア)が高、中、低のいずれであっても、アルツハイマー病のリスクが高くなる
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今回も対象者が多い大規模研究です。もはや夜勤が認知症のリスクとなるのは自明といっていいでしょう。
遺伝的リスクが低くても高くてもアルツハイマー病を発症するリスクが上がるわけですから、リスクが高い人(ApoE遺伝子をε4で持つ人)は早い段階で夜勤中止を検討すべきでしょう。
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|2023年5月7日 日曜日
2023年5月7日 ペットを飼ってもストレスは減らない?
谷口医院の患者さんのなかにはペット好きが少なくありません。なかにはネコを20匹以上買っているとか、毎月の給料の大半をイヌとネコのエサ代や砂代に費やしているという人もいます。
それだけの手間とお金をかけても精神的なストレスが緩和され、幸せ感を自覚できるのであればやはりペットと過ごす暮らしは理想だと言えるでしょう。ですが、最近、そうではなくてペットでストレスが減るわけではない、という意外な報告がありました。
医学誌「Plos One」2023年4月26日号に掲載された論文「新型コロナウイルス流行中の飼い主とペットとの関係、ストレス、孤独の変化、及びメンタルヘルスに対するペット所有の影響:縦断調査(Temporal patterns of owner-pet relationship, stress, and loneliness during the COVID-19 pandemic, and the effect of pet ownership on mental health: A longitudinal survey)」を紹介します。
研究の対象者は新型コロナウイルス流行前(2020年2月)とロックダウン中(2020年4月~6月)の感情を振り返りました。2020年9月と2021年を通して四半期ごとに追跡調査が実施され、約4,200人以上の回答が分析されました。
結果、ネコとイヌの飼い主は新型コロナウイルス流行期間を通してペットとの絆が着実に深まっていると感じていました。 家でより多くの時間を過ごし、他者から隔離されていることが、ペットとの関係が強化されたと考えられます。
ところが、です。メンタルヘルスに対するペットの影響は期待に反するものでした。ペットがストレスと孤独を和らげると予想されましたが、ペットを飼っている人は、飼っていない人に比べて、同じ程度の孤独を自覚しており、時にはより高いストレスレベルを自覚していることがあったのです。
ただし、ペットを飼うことにより、ロマンティックな関係(恋愛)に関連する孤独感が緩和されることを示唆する結果が得られました。
また、ペットを飼っていない人はストレスの量が少なく、猫を飼っている人は最もストレスが多いことが分かりました。ロックダウン中に獣医を受診したり、日々のケアにお金がかかったりすることは、ペット所有者のストレスの一因となった可能性が示唆されました。
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まとめなおすと、「ペットが必要な人は元々ストレスが多い」、「ペットの必要性を感じていない人は元々ストレスが少ない」と言えるかもしれません。
論文が示すように、ペットを買えば、そのペットを受診させる必要もあり、エサ代や砂代でそれなりの出費を覚悟せねばならず「責任」がでてきます。これが新たなストレスになる場合があるのでしょう。
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