医療ニュース
2014年2月28日 金曜日
2014年2月28日 高齢女性の座りっぱなし、死亡リスクが上昇
数年前から、「長時間の座りっぱなしは生活習慣病の危険因子となり死亡リスクを上昇させる。そしてこの弊害は運動をしても解消されるわけではなく、危険性は喫煙に匹敵する」ということがしばしば指摘されています。
今回紹介する研究も似たような結論が導かれています。医学誌『American Journal of Preventive Medicine』2014年2月号(オンライン版)に掲載された論文(注1)によりますと、座って過ごす時間が長い高齢女性は、活動的な女性に比べ、早期死亡のリスクが有意に高いそうです。
この研究の対象は米国の閉経後の女性92,334人です。対象者は調査開始時点で50~79歳であり追跡期間の中間値は12年です。座りっぱなしで「非活動の時間」(注2)が、①4時間以下、②4~8時間、③8~11時間、④11時間以上の4つのグループに分けて死亡リスクが検討されています。
分析した結果、④の1日11時間以上座っている女性は、①の4時間以下の女性に比べると、全原因による死亡リスクが12%高いということが判ったそうです。疾患ごとにみてみると、脳血管疾患、心疾患、ガンによる死亡率が、それぞれ13%、27%、21%高かったようです。
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この研究でも、定期的な運動をしていたとしても長時間座りっぱなしのリスクを帳消しにはしてくれない、といったことが述べられています。これまで発表されている座りっぱなしが危険であることを示す研究は比較的大規模のものが多く、座りっぱなしが早期死亡のリスクになることはほぼ間違いないでしょう。我々ひとりひとりの対策が必要になります。
(谷口恭)
注1 この論文のタイトルは「Sedentary Behavior and Mortality in Older Women」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://www.ajpmonline.org/article/S0749-3797%2813%2900594-1/abstract
注2:原文ではsedentary timeとされています。
参考:
メディカルエッセイ第129回(2013年10月)「危険な「座りっぱなし」」
医療ニュース2013年4月2日「座りっぱなしの生活がガンや糖尿病のリスク」
医療ニュース2010年7月30日「座っている時間が長い人は短命?」
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2014年2月28日 金曜日
2014年2月28日 ビタミンDのサプリメントに有益性なし
ビタミン剤のサプリメントは健康にいいどころか危険性が多く、安易に使用されるべきでないことが指摘されるようになってきていますが(それでもいまだに過剰な宣伝は一向におさまらず使用者は多いようです・・・)、そのビタミン剤のなかで比較的有益ではないか、とされていたのがビタミンDです。
しかしそのビタミンDへの期待も”幻想”に過ぎなかったようです。
医学誌『Lancet Diabetes & Endocrinology』2014年1月24日号(オンライン版)に掲載された論文(注1)によりますと、ビタミンDのサプリメントによる健康上の有益性はほとんどないそうです。
この研究はニュージーランド、オークランド大学のMark J Bolland氏らによっておこなわれています。研究者は、これまでに発表されたビタミンDのサプリメントの効果を評価した複数の調査を総合的に分析(メタ分析)し、ビタミンDの有益性を改めて検討しています。
分析の結果、虚血性心疾患(患者総数48,647例)、脳血管障害(患者総数46,431例)、ガン(患者総数48,167例)、骨折(患者総数76,497例)におけるビタミンDのサプリメントの効果は、カルシウムの併用をしていてもしていなくても、有意な効果は認められなかったそうです。別の見方をすると、ビタミンDのサプリメントを摂取しても、これら疾患のリスクは15%以上は減少しないことが判ったそうです。
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ビタミンDのサプリメントの効果が「15%以上は減少しない」ということは「15%近くは減少する」ということでそれならば有益ではないか、という見方をしたくなりますが、これは効果を多く見積もって15%未満ということであり、実際は効果はほとんどないとみるべきでしょう。また、ビタミンDを過剰摂取したときの副作用にも注意しなければなりません。
ただしビタミンDは危険なものでは決してなく人間には必要なものです。肉や卵に豊富に含まれていますからバランスよく食事をしていれば欠乏することはないのですが、ベジタリアンの人たちは不足しがちになります(注2)。ですから、ベジタリアン(特にヴィーガン)の人たちは肉や卵が食べられないならサプリメントでの摂取も検討すべきです。
まとめると、ビタミンD欠乏症になればサプリメントも含めてビタミンDの積極的摂取を検討すべき、一方欠乏症でない人はサプリメントに有益性はほとんどないことを理解し、有害性に注意すべき、となると思います。
(谷口恭)
注1:この論文のタイトルは「The effect of vitamin D supplementation on skeletal, vascular, or cancer outcomes: a trial sequential meta-analysis」で下記の論文で概要を読むことができます。
http://www.thelancet.com/journals/landia/article/PIIS2213-8587%2813%2970212-2/abstract
注2:ベジタリアンについては下記も参照ください。
メディカルエッセイ第126回(2013年7月)「我々はベジタリアンの道を進むべきか」
参考:医療ニュース
2014年1月28日「やはりビタミン・ミネラルのサプリメントは利益なく有害」
2010年2月1日「ビタミンDの不足は大腸ガンのリスク」
2010年2月11日「ビタミンDが不足すると喘息が悪化」
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2014年2月8日 土曜日
2014年2月8日 HPVワクチンの副作用は「心身の反応」のせい??
子宮頸がんや尖圭コンジローマのワクチン(以下、HPVワクチン)について、厚生労働省は、2013年6月、「子宮頸がん予防ワクチンの接種を受ける皆さまへ」というタイトルの注意勧告(注2)を出し、「現在、子宮頸がん予防ワクチンの接種を積極的にはお勧めしていません」と記載されています。
なぜこのような注意勧告がおこなわれたかというと、HPVワクチンを接種した女子生徒に副作用の出現が相次いだからです。なかには持続的な痛みに悩まされ、日常生活もままならない生徒もいるそうです。しかし、一方ではHPVワクチンは世界の多くの国で定期接種に組み込まれるようになってきており日本だけが遅れるのはいかがなものか、という意見もあります。
2014年1月20日、厚生労働省の厚生科学審議会の予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会と薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全調査会は合同会議を開き、HPVワクチンの副作用は、「心身の反応により惹起された症状が慢性化したものと考えられる」と結論付けて、これを公表しました(注1)。
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さて、ここから先は報道されていませんが、この結論が発表された直後から多くの反対意見が寄せられたことが推測されます。なぜならいったん発表したサイトが現在は閲覧できなくなっているからです。
毎日耐えがたい痛みと戦っている女子生徒やその親御さんからすれば、これだけの苦しみが「心身の反応」と言われて納得できるはずがありません。このような発表をするならば、たとえ心身の反応が原因であったとしても、被害者の方への配慮が絶対に必要です。被害にあった女子生徒の学校の友達はどう思うでしょうか。「な~んだ。ワクチンのせいで学校に来れなくなって気の毒だと思ってたけど、ずる休みだったのか」と誤解される可能性も考えられます。
私自身はHPVワクチンが普及することに賛成の立場です。ワクチンを接種しても絶対に子宮頚ガンにならないわけではなく定期的な検診が必要であることには変わりありませんが、それでも7割程度のガンは予防できるのです。それに4価ワクチン(ガーダシル)であれば尖圭コンジローマというやっかいな病気をかなりの確率で防ぐことができるわけです。私自身はHPVワクチンというのは医学の歴史に残る画期的なワクチンだと思っています。
しかし女子中学生全員に接種するという考えには同意できません。なぜなら性交渉を介してしかHPVは感染しないからです。中学を(あるいは高校を)卒業するまでカレシができてもプラトニックラブを通す(だからワクチンは不要)と考えている生徒がいるとすれば、その考えを尊重すべき、というのが私の考えです。
このサイトで何度も述べていますが、B型肝炎ウイルス(HBV)や水痘(みずぼうそう)や流行性耳下腺炎(これら3つはいずれも性交渉のような緊密なコンタクトがなくても感染します)のワクチン接種が不十分であるこの国の状況のなかで、なぜHPVだけを急いで全員に接種しなければならないのか、私にはその理由がどうしても理解できないのです。
(谷口恭)
注1:この発表のURLは下記のとおりでした。「でした」というのは現在見られなくなっているからです。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000035220.html%20target=
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2014年2月3日 月曜日
2014年2月3日 車の運転に注意しなければならない薬
この薬を飲めば車を運転してはいけません。
薬の説明を受けるときにそのようなことを言われたことがある人も多いと思います。代表的な薬は「風邪薬」です。これは医療機関で処方されるものよりも薬局で買える薬の方がむしろ注意が必要です。医療機関で処方される薬で運転に注意しなければならない代表は精神安定剤や抗うつ薬の類です。また、ここ数年は禁煙治療薬であるチャンピックス処方時に運転できないことを聞いたという人も少なくないでしょう。実際、チャンピックス服用で意識低下が起こり交通事故につながったケースが何例か報告されているそうです。
PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)が最近立て続けに、これまであまり注意を払われていなかった薬について運転時の注意勧告をおこないました。勧告は2013年11月26日と2014年1月7日におこなわれており、該当する薬は下記の通りです。(かっこの中が商品名です)
アルツハイマー型認知症治療薬 ドネペジル(アリセプト)
抗不整脈薬          ピルジカイニド(サンリズム)
抗不整脈薬          ベプリジル(ベプリコール)
抗不整脈薬          プロパフェノン(プロノン)
動脈閉塞症・肺高血圧症治療薬 ベラプロストナトリウム(ドルナー、プロサイリン、ケアロード、ベラサス)
抗菌薬            アジスロマイシン(ジスロマック)
抗菌薬            オフロキサシン(タリビッド)
抗菌薬            メシル酸ガレノキサシン(ジェニナック)
抗菌薬            レボフロキサシン(クラビット)
抗ウイルス薬         アシクロビル(ゾビラックス)
抗ウイルス薬         バラシクロビル(バルトレックス)
抗ウイルス薬         ファムシクロビル(ファムビル)
抗ウイルス薬         テラプレビル(テラビック)
糖尿病治療薬          アカルボース(グルコバイ)
糖尿病治療薬           ボグリボース(ベイスン)
糖尿病治療薬           ミグリトール(セイブル)
糖尿病治療薬           ピオグリタゾン(アクトス)
糖尿病治療薬          シタグリプチン(ジャヌビア,グラクティブ)
糖尿病治療薬           アログリプチン(ネシーナ)
糖尿病治療薬           アログリプチン・ピオグリタゾン配合剤(リオベル)
糖尿病治療薬          リナグリプチン(トラゼンタ)
糖尿病治療薬           アナグリプチン(スイニー)
糖尿病治療薬           サキサグリプチン(オングリザ)
糖尿病治療薬          リラグルチド(ビクトーザ)
糖尿病治療薬          リキシセナチド(リキスミア)
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少し解説しておくと、糖尿病治療薬は薬が効きすぎて低血糖発作を起こす可能性があるからで、抗菌薬や抗ウイルス薬は稀ですが意識低下の副作用の報告があるからです。
これらを少しでも服用すれば絶対に車の運転ができないか、と問われれば、そうするのが望ましいのは事実ですが、実際には主治医と相談して決めることになります。
もう少し補足しておくと、上記薬剤のなかには注射薬もあるということ(注射のときにはその後運転していいかどうかを尋ねる必要があるでしょう)、かっこのなかの名前は先発品の商品名であり、上記のいくつかは後発品が普及していること、があげられます。
副作用がない薬はなく、どのような薬を飲むときにも注意は必要です。しかし、軽度のむかつきや下痢などであれば大きな問題にはなりませんが、運転中に意識低下が起こり交通事故を起こすようなことは避けなければなりません。上記以外の薬についても、医療機関で薬を処方してもらっている人は主治医に確認しておいた方がいいでしょう。
(谷口恭)
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2014年1月27日 月曜日
2014年1月28日 やはりビタミン・ミネラルのサプリメントは利益なく有害
過剰な宣伝効果のせいか、マルチビタミンやミネラルはいまだによく売れているそうですが、USPSTF(U.S. Preventive Services Task Force、米国予防医療研究チーム)は、すでに2003年に、「ビタミンA、C、E、葉酸入りマルチビタミン、抗酸化物質は推奨する根拠がない(だから推奨しない)」と公表しており、さらにβカロテン(カロチン)については、「喫煙者などの肺ガンのリスクを高める」ことを指摘しています。
新たに系統的な分析をおこなった結果、やはりサプリメントには心血管疾患予防やガンの予防、死亡リスクを低減する効果はなかった。また、やはりβカロテンは喫煙者などの肺ガンのリスクを高める可能性があることがわかった・・・
これは、医学誌『Annals of Internal Medicine』2013年12月17日号(オンライン版)に掲載された論文の結論です(注1)。
研究者は、2003年の上記USPSTFの発表後に報告されたサプリメントの利益と害に関するいくつかの文献を系統的に解析することによってこの結論を導いています。
一部の研究では、長期間マルチビタミンを摂取していた男性は発ガンリスクが低下するというものもあったようですが(下記医療ニュース2012年11月3日参照)、他の良質な研究も交えて総合的に解析すると、ビタミンやミネラルのサプリメントが心血管疾患やガンのリスクを下げる効果はない、という結論が出たそうです。
有害性については、一部の研究で、ビタミンAが肺ガンと股関節骨折のリスクを上昇させる可能性が指摘されています。別の研究では、葉酸が前立腺ガンのリスクを上昇させるというものもあったようです。また、カルシウム摂取が大腸ガンのリスク上昇を示唆したものもあり、ビタミンDとカルシウムの併用で腎結石リスクが上昇することを示した研究もあります(これは以前から何度も指摘されていました)。βカロテンは、喫煙者などの肺ガンのリスクを上昇させることが確認されたようです。
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私は権威に対して盲目的に従うタイプの人間ではありませんが、2003年のUSPSTFの「ビタミン・ミネラルのサプリメントは効果なくむしろ有害性がある」という発表を受けて、個人的にこういったサプリメントの摂取を一切やめました。科学系の雑誌やネットなどでも少しはこのようなことが報じられましたが、もうひとつ世間には伝わっていないように思えます。
なぜか大手のマスコミはサプリメントが有益でないことや有害性があることについての報道をあまりおこないません。薬やワクチンの副作用を大きく取り上げるのとは対照的です。これはなぜなのでしょう。サプリメントのメーカーがスポンサーになっているからではないのか、と疑われても仕方がないのではないでしょうか。
ただ「サプリメントを飲み出してから身体の調子がいい」と言う人がいるのも事実です。私自身はやみくもにサプリメントを否定するつもりはありませんが、長期摂取で有害性が出れば問題です。サプリメントを摂取している人は一度主治医に相談した方がいいでしょう。
(谷口恭)
注1:この論文のタイトルは、「Vitamin and Mineral Supplements in the Primary Prevention of Cardiovascular Disease and Cancer: An Updated Systematic Evidence Review for the U.S. Preventive Services Task Force」で、下記のURLで全文を読むことができます。
http://annals.org/article.aspx?articleid=1767855#Abstract
参考:
メディカルエッセイ第123回(2013年4月)「カルシウムのサプリメントは危険か」
医療ニュース
2011年11月14日「ビタミンEの発ガンリスク」
2012年3月13日「ビタミンE過剰摂取で骨粗しょう症に」
2011年8月26日「ビタミン剤で発ガンのリスク上昇」
2012年11月3日「マルチビタミン摂取でわずかながらもガン減少」
2012年6月30日「カルシウムのサプリで心筋梗塞のリスクが2倍」
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2014年1月27日 月曜日
2014年1月27日 デング熱は本当に日本で感染したのか
2014年1月10日、厚生労働省は「日本国内でデング熱ウイルスに感染した可能性のある症例」について発表をおこないました(注1)。
同省によりますと、この症例はドイツ人で、2013年8月下旬に日本を周遊したときにデング熱ウイルスに感染しドイツ帰国後に発熱や発疹などの症状を発症したと考えられているそうです。調査はドイツのロベルト・コッホ研究所でおこなわれたとのことです。同研究所からの情報提供を受けて、厚生労働省が検討したところ、日本での感染が否定できないという結論となったそうです。
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日本にいた時期がはっきりしているわけですから、このドイツ人が日本のどこを訪問して、ということはある程度細部にわたるまで把握できるはずです。私は、厚労省のこの1月10日の発表に次いで、例えば、どこの県のどの地域での感染の可能性があるのか、といった情報が出てくるとみていたのですが、1月27日の時点でまだ情報提供がありません。
今は冬で蚊がいませんから余裕がありますが、蚊が登場する季節までにはもっと正確な情報提供をしてもらわなければなりません。場合によってはその地域では外出するときに必ず虫除けスプレーを露出部に使用する、といった対策が必要になるかもしれません。
デング熱はネッタイシマカもしくはヒトスジシマカが人を刺したときに蚊の体内にいたデング熱ウイルスが侵入してくることで感染が起こります。日本では太平洋戦争中に現地から人と一緒に船に乗ってやってきた蚊による流行が起こったとされていますが、それ以降国内での感染はないはずです。しかし、海外で感染して日本帰国後に発症というケースが年間100-200例あります。
今後の厚労省の発表に注目したいと思います。
(谷口恭)
注1:厚労省のこの発表については下記URLを参照ください。
 http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/dl/20140110-01.pdf
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2014年1月14日 火曜日
2014年1月14日 ピル(OC)の長期使用は緑内障のリスク
ピル(OC、経口避妊薬)を3年間以上服用している女性は緑内障のリスクが2倍に増大する・・・
2013年11月18日、米国眼科学会(American Academy of Ophthalmology)はこのような発表をおこないました(注1)。
この発表に基づく研究は、米国のカリフォルニア大学、デューク大学、及び中国江西省南昌市の南昌大学(Third Affiliated Hospital of Nanchang University)の研究者らによっておこなわれています。
この研究の対象となったのは、2005~2008年に実施された国民健康栄養調査(NHANES)に登録された参加者のなかでピルに関する問診と眼科検診を受けている40歳以上のアメリカ人女性3,406人です。
調査の結果、ピルの種類にかかわらず3年以上服用していると緑内障と診断される可能性が2.05倍高かったそうです。
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ピルの副作用で最も注意しなければならないのは血栓症(血が固まって血管がつまる状態)であり、眼科的な副作用でいえば網膜の血管が詰まることによっておこりうるものは指摘されたことがありますし、実際そういったことはピルの添付文書にも書かれています。
緑内障とピルの関係についてはこれまではあまり指摘されていませんし、薬の添付文書にも記載がありません。しかし、3年以上の服用でリスクが2.05倍というのは決して小さな数字ではありません。
以前から「40歳を超えれば眼科検診を」ということが言われることがありましたが、ピルを飲んでいる人はより積極的に考えるべきでしょう。
(谷口恭)
注1:この発表は米国眼科学会のウェブサイトで公表されています。タイトルは「Long-Term Oral Contraceptive Users are Twice as Likely to Have Serious Eye Disease」で、下記のURLで閲覧することができます。
https://www.aao.org/newsroom/news-releases/detail/longterm-oral-contraceptive-users-are-twice-as-lik
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2014年1月6日 月曜日
2014年1月6日 ナッツを毎日食べると健康で長生き
ナッツを食べるべきか食べないべきか、については意見が分かれるところだと思います。ナッツはビタミンやミネラルが豊富に含まれており、地中海ダイエットのメイン食品のひとつですから、健康に、あるいはダイエットに積極的に摂取する、という人がいます。
一方、ナッツはカロリー過多で太る、あるいはナッツは肌荒れやニキビの原因になると考えて、健康とダイエットのためにあえて避けている、という人もいます。私の知る限り、ナッツで肌荒れやニキビを起こすと書かれた論文などは見たことがなく、これは単なる「噂」だと思うのですが、実際にナッツを食べる(食べ過ぎる)とニキビができやすくなると言う患者さんがいるのも事実です。
最近、ナッツ摂取量と死亡率、さらにいくつかの疾患の罹患率との関係について大規模調査がおこなわれましたので報告します。医学誌『New England Journal of Medicine』2013年11月13日号(オンライン版)によりますと、ナッツ摂取の頻度が多ければ多いほど(つまり毎日食べるほど)総死亡率やガンなどの疾患による死亡リスクが低下することが判ったそうです(注1)。
この調査は、米国の女性看護師121,700人を対象とした健康調査(The Nurses’ Health Study (NHS)と命名されています)と、 男性の医療従事者51,529人を対象とした調査( The Health Professionals Follow-up Study (HPFS) と命名されています)の2つを分析することによっておこなわれています。対象者から、ナッツの摂取量が不明な人、心疾患や脳卒中などを起こしたことがある人などが除かれ、最終的には女性76,464人と男性42,498人の分析がおこなわれています。追跡期間中に死亡したのは女性16,200人、男性11,229人だったそうです。
総死亡率については、ナッツをまったく摂取しない人と比較すると、週に1回未満の摂取で7%の低下、週に1回の摂取で11%、週2~4回で13%、週5~6回で15%、週7回以上の摂取で20%と、摂取する頻度が高ければ高いほど総死亡リスクが低下していることがわかります。
ガンによる死亡については、ナッツをまったく摂取していない人と比べて、週7回以上の摂取で11%低下しており、心臓病による死亡については25%の低下、呼吸器疾患による死亡では24%低下しています。
さらに、体重増加との関係についても、ナッツの摂取量が多い人ほど体重は減少していたそうです。論文の著者が「ナッツの食べ過ぎは体重増加の心配があるだろうが」と書いていますから、アメリカでも多くの人がナッツは太ると考えているのでしょう。
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ナッツを食べると肥満を防げて、病気にもならずに長生きできるとなるといいことばかりです。しかも、この研究は対象者が少なくありませんから説得力があります。
ナッツと聞いて気になるのは塩分との兼ね合いです。塩辛い味が好みの我々日本人は塩分摂取量には注意すべきでしょう。気になる人は塩分無添加のナッツを考えてみてもいいかもしれません。(ただし、完全な食塩無添加ナッツを美味しく食べられるか、というところが気になりますが)
ちなみに、何を食べるとどれだけ太るかという研究が同じ医学誌『New England Journal of Medicine』2011年6月23日号(オンライン版)に掲載されており(注2)、ここでもナッツは4年間で0.57ポンド(258グラム)の体重減少とされています。最も体重が増えたとされているのがポテトチップスの1.69ポンド(766.57グラム)です。
ということは、ソファーに座りながら、あるいは新幹線の座席でビールのつまみにポテトチップスを食べているという人はナッツに変更すべき、となるのかもしれません。
(谷口恭)
注1:この論文のタイトルは「Association of Nut Consumption with Total and Cause-Specific Mortality」で、下記のURLで全文を読むことができます。
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1307352#t=articleTop
注2:この論文のタイトルは「Changes in Diet and Lifestyle and Long-Term Weight Gain in Women and Men」で、下記のURLで全文を読むことができます。
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1014296#t=articleTop
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2013年12月27日 金曜日
2013年12月27日 ワールドカップに出かける前に黄熱ワクチンの検討を
2014年の最大の楽しみにサッカーのワールドカップをあげる人も少なくないと思います。今月からチケットが発売されましたから席の確保に奔走している人もいるのではないでしょうか。
さて、開催地がブラジルとなるといくつか注意しなければならない感染症があります。今年話題になったシャーガス病(カメムシに刺されて感染)や、マラリアなどにも注意が必要ですが、ブラジルで忘れてはいけない感染症に黄熱があります。
黄熱はアフリカが有名ですが、アマゾンなどブラジルの奥地にも生息しています。ネッタイシマカと呼ばれる蚊に刺されることにより感染し、致死率は10%にも及ぶ大変危険な感染症なのですが幸いなことにワクチンがあります。
現在厚生労働省は黄熱ワクチンの接種をよびかけていますので、ブラジル渡航の予定がある人は目を通しておいてください(注1)。黄熱ワクチンはどこででも接種できるわけでなく全国25カ所の機関でのみとなります。
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ただし、ではブラジルに渡航する誰もが黄熱ワクチンを接種すべきなのか、と言えばそういうわけでは決してありません。都心部だけの渡航であれば特に接種する必要はないでしょう。黄熱ワクチンは、ワクチンのなかでは比較的副作用が強いことも知っておくべきです。
では、どのような人が黄熱ワクチンを接種すべきなのか、ですが、例えば「せっかくブラジルに渡航するんだからアマゾンまで行ってみよう」などと考えている人は積極的に接種を検討すべきでしょう。
また、国によっては、ブラジルから入国する場合、黄熱ワクチンを接種した証明書が必要になる場合があります。例えば、ブラジルからアフリカ経由で帰国しようとしたときに、サンパウロ→ケープタウンというのはポピュラーな経路ですが、南アフリカ共和国ではブラジルから入国する場合、黄熱ワクチン接種の証明書が必要になります。(日本で接種したときに交付される証明書を携帯していなければなりません)
詳しくは、注1の厚労省の案内のなかにある「黄熱ワクチン接種を行っている機関」に直接相談されるのがいいかと思います。また、FORTH(厚生労働省検疫所)のサイト(注2)も参考になります。
ブラジル渡航では黄熱だけに気をつけていればいいというわけではもちろんありません。上に述べたシャーガス病、マラリアにも注意すべきですし、他にも、デング熱、フィラリア、リーシュマニア、狂犬病、ワイル病など日本にない感染症がたくさんあります。もちろん水道水は飲めませんし、食べ物にも注意が必要で、A型肝炎ウイルスなどにも注意しなければなりません。黄熱以外のワクチンとしては、B型肝炎ウイルスはもちろん、A型肝炎ウイルス、狂犬病、破傷風なども考慮すべきでしょう。
まずはかかりつけ医に相談してみてください。
(谷口恭)
注1:厚労省の案内は下記URLを参照してください。
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11133000-Shokuhinanzenbu-KenekijogyoumuKanrishitsu/leaflet_2.pdf
注2:FORTH(厚生労働省検疫所)の説明については下記URLを参照してください。
http://www.forth.go.jp/useful/yellowfever.html
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2013年12月27日 金曜日
2013年12月27日 長期間の失業で老化が促進
長期間失業している男性は老化が早い・・・
フィンランドOulu大学のLeena Ala-Mursula氏らにより、フィンランド人の男女を対象とした研究でこのような分析がおこなわれ、医学誌『PLoS One』2013年11月20日号(オンライン版)に論文が掲載されました(注1)。
この研究は、フィンランドで1966年に出生した男女5,600人が対象とされています。対象者が31歳となった1997年にDNAが採取され「テロメア」の長さが調べられています。テロメアの先端部の長さを調べると老化の状態を知ることができることがわかっています。つまり、老化とはテロメアが短縮することに他ならない、というわけです。
研究の結果、過去3年間で2年以上失業していた男性は、仕事をしていた男性に比べると、テロメアの短縮が2倍以上多くみられたそうです。これは、テロメア短縮の原因となり得る(つまり他の老化因子である)喫煙、運動、体重、疾患の有無、教育、婚姻状態などの因子の影響を取り除いた上での結果だそうです。
興味深いことに、女性ではこの傾向が認められなかったそうです。ただし、この研究では女性の失業者はそれほど多くなかったことがこうした結果となった可能性が指摘されています。
また、筆者は論文のなかで別の研究を引き合いに出しています。その研究は米国の35~74歳の608人の女性が対象とされており、長時間労働や複数の仕事を持つことがテロメアの短縮と関係がある、つまり老化が早くなるという結果が出ているそうです。
******************
男性は失業で老化・女性は働き過ぎで老化、と短絡化すべきでないと思います。この線で押し進めて考えると、「男は働いてこそ幸せ、女は仕事をすべきでない」という時代錯誤の結論になってしまいかねません。このようなことを断定するには、もっとたくさんの調査が必要と考えるべきです。
精神的ストレスがテロメア短縮の要因であることは以前から指摘されています。失業期間が長くなったとしても過重労働があったとしても精神的ストレスが蓄積するのは間違いないでしょうから、仕事の有無でテロメアを論じるのではなく、仕事の有無とストレスの関係に注目すべきだと私は思います。
私にとってこの論文が印象的なのは、研究の対象者がフィンランド人、ということです。高負担・高福祉国家のフィンランドでは失業保険が充実していたはずですし、(私の記憶が正しければ)失業後も職業訓練を無料でおこなうことができて次の仕事を見つけるのは他国に比べるとむつかしくないはずです。
同じ研究を日本でおこなえば、さらにテロメアが短くなっている、つまり、日本人で長期にわたり失業している人は精神的ストレスが極めて強くなっている、そして結果として老化が早まり寿命も・・・、ということを危惧します。
(谷口恭)
注1:この研究のタイトルは「Long-Term Unemployment Is Associated with Short Telomeres in 31-Year-Old Men: An Observational Study in the Northern Finland Birth Cohort 1966」で、下記のURLで全文を読むことができます。
 http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0080094
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- 2025年7月27日 コロナワクチンが救ったのは1440万人ではなく250万人
- 2025年6月29日 食物アレルギーがある人の搭乗、重症化したり拒否されたり……
- 2025年6月1日 一度の採血でがんを診断し治療薬まで決められる「革命」
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