医療ニュース

2013年12月27日 金曜日

2013年12月27日 ワールドカップに出かける前に黄熱ワクチンの検討を

  2014年の最大の楽しみにサッカーのワールドカップをあげる人も少なくないと思います。今月からチケットが発売されましたから席の確保に奔走している人もいるのではないでしょうか。

 さて、開催地がブラジルとなるといくつか注意しなければならない感染症があります。今年話題になったシャーガス病(カメムシに刺されて感染)や、マラリアなどにも注意が必要ですが、ブラジルで忘れてはいけない感染症に黄熱があります。

 黄熱はアフリカが有名ですが、アマゾンなどブラジルの奥地にも生息しています。ネッタイシマカと呼ばれる蚊に刺されることにより感染し、致死率は10%にも及ぶ大変危険な感染症なのですが幸いなことにワクチンがあります。

 現在厚生労働省は黄熱ワクチンの接種をよびかけていますので、ブラジル渡航の予定がある人は目を通しておいてください(注1)。黄熱ワクチンはどこででも接種できるわけでなく全国25カ所の機関でのみとなります。

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 ただし、ではブラジルに渡航する誰もが黄熱ワクチンを接種すべきなのか、と言えばそういうわけでは決してありません。都心部だけの渡航であれば特に接種する必要はないでしょう。黄熱ワクチンは、ワクチンのなかでは比較的副作用が強いことも知っておくべきです。

 では、どのような人が黄熱ワクチンを接種すべきなのか、ですが、例えば「せっかくブラジルに渡航するんだからアマゾンまで行ってみよう」などと考えている人は積極的に接種を検討すべきでしょう。

 また、国によっては、ブラジルから入国する場合、黄熱ワクチンを接種した証明書が必要になる場合があります。例えば、ブラジルからアフリカ経由で帰国しようとしたときに、サンパウロ→ケープタウンというのはポピュラーな経路ですが、南アフリカ共和国ではブラジルから入国する場合、黄熱ワクチン接種の証明書が必要になります。(日本で接種したときに交付される証明書を携帯していなければなりません) 

 詳しくは、注1の厚労省の案内のなかにある「黄熱ワクチン接種を行っている機関」に直接相談されるのがいいかと思います。また、FORTH(厚生労働省検疫所)のサイト(注2)も参考になります。

 ブラジル渡航では黄熱だけに気をつけていればいいというわけではもちろんありません。上に述べたシャーガス病、マラリアにも注意すべきですし、他にも、デング熱、フィラリア、リーシュマニア、狂犬病、ワイル病など日本にない感染症がたくさんあります。もちろん水道水は飲めませんし、食べ物にも注意が必要で、A型肝炎ウイルスなどにも注意しなければなりません。黄熱以外のワクチンとしては、B型肝炎ウイルスはもちろん、A型肝炎ウイルス、狂犬病、破傷風なども考慮すべきでしょう。

 まずはかかりつけ医に相談してみてください。

(谷口恭)

注1:厚労省の案内は下記URLを参照してください。
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11133000-Shokuhinanzenbu-KenekijogyoumuKanrishitsu/leaflet_2.pdf

注2:FORTH(厚生労働省検疫所)の説明については下記URLを参照してください。
http://www.forth.go.jp/useful/yellowfever.html

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2013年12月27日 金曜日

2013年12月27日 長期間の失業で老化が促進

  長期間失業している男性は老化が早い・・・

 フィンランドOulu大学のLeena Ala-Mursula氏らにより、フィンランド人の男女を対象とした研究でこのような分析がおこなわれ、医学誌『PLoS One』2013年11月20日号(オンライン版)に論文が掲載されました(注1)。

 この研究は、フィンランドで1966年に出生した男女5,600人が対象とされています。対象者が31歳となった1997年にDNAが採取され「テロメア」の長さが調べられています。テロメアの先端部の長さを調べると老化の状態を知ることができることがわかっています。つまり、老化とはテロメアが短縮することに他ならない、というわけです。

 研究の結果、過去3年間で2年以上失業していた男性は、仕事をしていた男性に比べると、テロメアの短縮が2倍以上多くみられたそうです。これは、テロメア短縮の原因となり得る(つまり他の老化因子である)喫煙、運動、体重、疾患の有無、教育、婚姻状態などの因子の影響を取り除いた上での結果だそうです。

 興味深いことに、女性ではこの傾向が認められなかったそうです。ただし、この研究では女性の失業者はそれほど多くなかったことがこうした結果となった可能性が指摘されています。

 また、筆者は論文のなかで別の研究を引き合いに出しています。その研究は米国の35~74歳の608人の女性が対象とされており、長時間労働や複数の仕事を持つことがテロメアの短縮と関係がある、つまり老化が早くなるという結果が出ているそうです。

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 男性は失業で老化・女性は働き過ぎで老化、と短絡化すべきでないと思います。この線で押し進めて考えると、「男は働いてこそ幸せ、女は仕事をすべきでない」という時代錯誤の結論になってしまいかねません。このようなことを断定するには、もっとたくさんの調査が必要と考えるべきです。

 精神的ストレスがテロメア短縮の要因であることは以前から指摘されています。失業期間が長くなったとしても過重労働があったとしても精神的ストレスが蓄積するのは間違いないでしょうから、仕事の有無でテロメアを論じるのではなく、仕事の有無とストレスの関係に注目すべきだと私は思います。

 私にとってこの論文が印象的なのは、研究の対象者がフィンランド人、ということです。高負担・高福祉国家のフィンランドでは失業保険が充実していたはずですし、(私の記憶が正しければ)失業後も職業訓練を無料でおこなうことができて次の仕事を見つけるのは他国に比べるとむつかしくないはずです。

 同じ研究を日本でおこなえば、さらにテロメアが短くなっている、つまり、日本人で長期にわたり失業している人は精神的ストレスが極めて強くなっている、そして結果として老化が早まり寿命も・・・、ということを危惧します。

(谷口恭)

注1:この研究のタイトルは「Long-Term Unemployment Is Associated with Short Telomeres in 31-Year-Old Men: An Observational Study in the Northern Finland Birth Cohort 1966」で、下記のURLで全文を読むことができます。
 http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0080094

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2013年12月6日 金曜日

2013年12月6日 平均寿命2位、自殺ワースト4位、健康自覚度ワースト1位

 OECD(経済協力開発機構)は国際経済について統計を出したり協議をしたりする国際組織ですが、医療に関するデータ分析もおこなっています。2013年11月21日、2013年版の医療に関する統計を発表しましたので、かいつまんで紹介したいと思います(注1)。

 世界的に平均寿命が延長しており、OECD加盟国全体での平均寿命が80歳を超えています。(正確にいうと、女性では82.8歳、男性は77.3歳です。また、念のために付記しておくと、OECDに加盟しているのは先進国と一部の中進国だけですから、世界全体での平均寿命がこんなに高いわけではありません)

 日本の平均寿命は82.7歳でスイス(82.8歳)についで世界第2位です。死因をみてみても三大疾病の2つである虚血性心疾患(心筋梗塞など)と脳血管疾患(脳梗塞や脳出血)での死亡率は世界平均を下回っています。悪性腫瘍については他国と同様です。

 交通事故死や新生児死亡も日本は他国よりも少ないのですが、日本の死因で問題なのは自殺でワースト4位(人口10万人対20.9)になります。ちなみに、自殺ワースト1位は韓国で(33.3)、2位がハンガリー(22.8)、3位がロシア(22.5)です。

 OECDの調査で興味深いのは「健康自覚度(perceived health status)」の調査があることです。健康自覚度がもっとも低いワースト1位の国はなんと我が国で、健康の自覚がある人はわずか30%しかいません。

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 この統計「Health at a Glance 2013」はたいへん読みやすくて興味深く時間があれば隅から隅まで読みたくなってきます。関心のある方は是非参照してみてください。

 上ではポイントをごく簡単に述べましたが、もう少し補足しておくと、自殺については日本が4位であるということよりも、韓国が2位のハンガリーと大きく差をつけて飛び抜けて高いことが興味深いと言えます。「Health at a Glance 2013」の35ページのグラフをみれば韓国の自殺の異常な様子が一目でわかります。

 健康自覚度は日本がワースト1位で、韓国がワースト2位です。ちなみに1位はアメリカで、これが私には意外でした。アメリカ人が不健康と断定したいわけではありませんが、アメリカ人には肥満が多く、実際に虚血性心疾患での死亡率はOECD平均よりも高くなっているのです。アメリカ人はのんきというか楽天的なのでしょうか。

 虚血性心疾患のデータも興味深く、死亡率が最も少ないのは日本です。2位は韓国で、ここでも日本・韓国の相同性がみてとれます。しかし、興味深いのは1990年からの比較で、日本では32%減少しているのに対し、韓国では逆に60%も増加しているのです。ちなみに虚血性心疾患での死亡第1位はスロバキアで日本の約10倍です。

(谷口恭)

注1:この統計のタイトルは「Health at a Glance 2013」(あえて訳すとすると「一目でわかる医療」とでもなるでしょうか・・)で下記のURLですべてのページを読むことができます。
http://www.oecd.org/els/health-systems/Health-at-a-Glance-2013.pdf

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2013年11月30日 土曜日

2013年11月30日 バイリンガルは認知症になりにくい可能性

 多くの人が「最もかかりたくない病気」にあげるのがアルツハイマー病などの認知症ですが、現在のところ特効薬は存在しません。たしかに数種類の薬が発売されていますが、使い出すタイミングが遅ければ効果はあまり期待できません。

 であるならば、なんとかして予防を心がけたいところですが、例えば、COPD(慢性閉塞性肺疾患)はタバコを吸わなければ発症しない、というようなレベルでの決定的な予防法があるわけではありません。

 喫煙が認知症のリスクになることはよく言われますが、ではタバコをやめれば認知症を完全に防げるのかと問われればそのようなわけではありません。タバコ以外には、運動や食事(特に地中海ダイエットが有効という報告が多いようです)が予防になる、ということが指摘されますが、どれも”極めて有効”とまでは言えないと思います。

 バイリンガルは1ヶ国語しか話せない人に比べると、アルツハイマー病を含めた3種類の認知症を発症するのが4年以上も遅い・・

 これは、インドのハイダラーバード(ハイダラーバード県はインド中南部のアーンドラ・プラデーシュ州にあります)の研究所のSuvarna Alladi氏らによる研究結果で、医学誌『Neurology』2013年11月6日号(オンライン版)に掲載されています(注1)。

 今回の研究では、認知症の診断がついたインド人648人が研究の対象とされています。対象者のうち391人が2ヶ国語以上を話すバイリンガルです。アルツハイマー病患者は240人で、その他の認知症として、脳血管性認知症、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症、混合型認知症などの診断がついています。被験者の14%は識字能力がないようです。分析の結果、2ヶ国語を話す人は、1ヶ国語しか話さない人に比べ、アルツハイマー病、前頭側頭型認知症、脳血管性認知症の発症が有意に遅いことが判ったそうです。

 興味深いことにこの傾向は識字能力のない人にも認められています。また、3ヶ国語以上を話せても、2ヶ国語の人と有意な差はなかったようです。

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 バイリンガルは日頃から脳をよく使う仕事をしているから認知症になりにくいのでは?、という疑問がでてきますが、この研究では、対象者の教育、職業などの因子は取り除いて考察されています。

 バイリンガルが認知症を遅らせるとする研究は過去にもあるのですが、幼少児から2ヶ国語を自然に学ぶことがいいのか、中学生くらいになってから、あるいは中年になってから語学を勉強しても認知症を遅らせる効果があるのか、そのあたりに触れている研究は私の知る限りありません。

 語学の勉強はたいへんですが楽しいものでもありますから、たとえ認知症の予防にならなかったとしても引退後(あるいはいつからでも!)語学を勉強しましょう、というのが私の個人的な考えです。

(谷口恭)

注1:この論文のタイトルは「Bilingualism delays age at onset of dementia, independent of education and immigration status」で、下記のURLで概要を読むことができます。
http://www.neurology.org/content/81/22/1938.short?sid=beb1e2d5-62d4-48e4-a782-be8301fb4d5a

参考:
はやりの病気第95回(2011年7月)「アルツハイマーにどのように向き合うべきか」

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2013年11月29日 金曜日

2013年11月29日 輸血でHIV感染

 すでに各マスコミで大きく報道されていますが、HIV感の可能性があった40代男性が献血をし、その血液を輸血された60代男性がHIVに感染した、という事件がありました。現時点で判った情報をまとめておきたいと思います。

・40代男性は危険な性行為が約2週間前にあったのにもかかわらず2013年2月に献血をおこなった。

・献血されたすべての血液はHIVの検査をおこなうが、感染して間もない時期のウイルス量が少ない場合は検査をすり抜けてしまうことがあり今回はすり抜けてしまった。

・その40代の男性は11月上旬に再び献血をおこない、このときにHIV感染が発覚した。

・この男性の2月の献血で輸血を受けた患者は2名いることが判明し、うち1人の60代男性はHIVに感染していたことが発覚した。(注:あとの1人(80代女性)については感染していなかったことが2013年11月30日に報道されました)

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 2003年にも同様の事件(事故)があったのですが、世論の注目度は今回の方が高いように見受けられます。ここ2~3年はHIVに対する世間の関心が低下しており、2003年の頃の方がずっとHIVの注目度が高かったように私は思うのですが、今回の方が議論が加熱しているのはおそらくインターネットが当時より普及しているからでしょう。

 これから起こりうる問題は2つある、と私はみています。1つは「輸血に対する警戒心」です。ある程度大きな手術になれば、術前に輸血の同意書を書くことになりますが、ここで同意に躊躇する人が出てくるのではないかと思われます。となると、医療側としては手術がおこなえず、結果として手術のタイミングを逃してしまうようなことが起こらないかを危惧します。

 もうひとつは、危険な性交渉がありながら献血をした者へのバッシングです。この男性がHIVの検査目的で献血をしたのなら許されることではありませんが、本人としては「それほどリスクのある行為ではない」と感じていて、純粋な善意から献血をしたのであればこの男性だけに責任を押しつけるのは問題です。太融寺町谷口医院のHIVの患者さんのなかにも、「そんなことくらいでまさかHIVに感染するとは思わなかった」という人は少なくありません。この男性に対するバッシングが度を超えないか、私はそれを懸念しています。

(谷口恭)

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2013年11月11日 月曜日

2013年11月11日 自殺のリスクが低くなる食事とは

  自殺のリスクが低くなる食事のパターンについて、日本人を対象とした研究が報告されたので紹介しておきます。

 国立国際医療研究センター(National Center for Global Health and Medicine)のAkiko Nanri氏らのグループによるJPHC研究(Japan Public Health Center-based Prospective Study)というものがあり、この研究により得られたデータを分析することによって食事と自殺のリスクとの関係が調べられています。研究結果は医学誌『British Journal of Psychiatry』2013年10月10日号(オンライン版)に掲載されています(注1)。

 この研究の対象者は日本人男性40,752人、日本人女性48,285人です。食物摂取頻度調査票を用いて合計134種類の食品と飲料の消費量が調べられています(この調査は1995年から1998年に実施されています)。自殺をしたかどうかは2005年12月までが調べられています。

 これらを分析したところ、男女とも、野菜、果物、いも類、大豆製品、きのこ類、海藻、魚介類の摂取量が高ければ、自殺のリスクが低いという結果が出たそうです。

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 食事とうつ病や自殺を調べた調査は過去にもあり、例えばω3系の不飽和脂肪酸を積極的に摂取するのがいいとされるものが有名です。

 今回の研究では、結局のところ、日本人が古来から食べている馴染みのあるものをバランスよく食べるのがいい、という結果であり、論文のなかでも、”prudent”な食事パターンがすすめられる、と述べられています。”prudent”とは「常識的な」とか「良識のある」という意味で、伝統的な食事に勝るものはないということを意味しています。

(谷口恭)

注:この論文のタイトルは、「Dietary patterns and suicide in Japanese adults: health centre-based prospective study」で、下記のURLで概要を読むことができます。
http://bjp.rcpsych.org/content/early/2013/09/27/bjp.bp.112.114793.abstract?sid=4041be03-3108-4950-a0f5-e569225da988

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2013年11月2日 土曜日

2013年11月2日 糖尿病予防になるフルーツは?ジュースは逆効果?

  果物は身体によくて糖尿病の予防にもなる・・・。いや、果物には果糖が多く含まれておりGI値(グリセミック指数)が高いから糖尿病にはよくないはずだ・・・。

 このように、果物と糖尿病の関係は以前から良いとするもの悪いとするものの双方があり、医学会のなかでも統一した見解がありません。

 糖尿病の予防にいいのは、1位はブルーベリー、2位ブドウ、3位リンゴ、ジュースは逆に糖尿病を悪化させる・・・。

 これは米国ハーバード大学公衆衛生学教室による疫学調査の結果で医学誌『British Medical Journal』2013年8月30日号(オンライン版)に掲載されています(注1)。この論文は日本の新聞や雑誌にも紹介されましたのですでに有名になっているかもしれませんが、ここでも確認しておきたいと思います。

 この研究は、米国の医療者を対象とした3つの大規模調査を再解析し、フルーツの摂取量・種類と糖尿病(2型糖尿病)のリスクについての関連性を調べています。対象者は合計で187,382人になり、このうち12,198人が糖尿病を発症しています。

 まず総論で言えば、フルーツの総摂取量が多いほど糖尿病のリスクは低下しています。各フルーツでの分析結果をみてみると、ブルーベリー、ブドウ・レーズン類、リンゴ・洋ナシ類、グレープフルーツで有意なリスク低下が認められています。

 興味深いのはここからです。リンゴ、オレンジ、グレープフルーツなどのフルーツジュースについて分析してみると、摂取量が増えるごとに糖尿病のリスクが上昇するというのです。

 さらに興味深い分析が続きます。フルーツジュースを同じ量のフルーツに置き換えたとすると、全体でみれば糖尿病のリスクは7%低下するとの結果がでています。それぞれのフルーツでみてみると、ブルーベリーによるリスク低下は33%でこれが最大です。ブドウ・レーズン類、リンゴ・洋ナシ、グレープフルーツでは12~14%低下していたそうです。一方、イチゴとカンタループ(メロン)では明らかなリスク低下は認められなかったそうです。

 この論文には最近の流行の「糖質制限」の観点からの考察もあります。糖質制限の考え方からすればGI値(グリセミック指数)が高ければ糖尿病のリスクが高く、GI値が低ければリスクが低下するはずです。しかし、今回の研究での結果は、高GI値のフルーツでリスク上昇がなく、低GI値でリスク低下がなく、中等度のGI値で有意なリスク低下が認められたそうです。

 これらをまとめると、次のようになると思います。

・全フルーツ(原文ではwhole fruits、要するにいろんなフルーツをまんべんなく食べることと考えていいと思います)をジュースにせずにそのままのかたちで摂取するのが糖尿病のリスク低下につながる。

・フルーツジュースが健康全般に悪いとは言えないが、摂り過ぎは糖尿病のリスクになる可能性がある。

・糖尿病のリスク低下となるフルーツを個別に検討すると、1位ブルーベリー、2位ブドウ・レーズン、3位リンゴとなる。

・GI値が高いほどリスクが高いとは言えない。

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 フルーツをまんべんなく摂取するのが糖尿病を含めて生活習慣病のリスク低下につながるということはイメージしやすいと思います。しかし、新鮮なフルーツをそのままのかたちで幅広く摂る、などというのは、高級ホテルに毎日泊まる、とか、毎日買い物にそれなりの時間を割く、とかいったことができなければ現実的にはむつかしいでしょう。

 ですから簡単に果物を摂れる(と考えられている)ジュースに頼りたくなる(というか、ジュースはそもそも美味しいものです)のは誰もが同じでしょう。この論文を受けて、ジュースは一切やめにして毎日違った果物をそのままのかたちで・・・、とまでは思わなくてもいいと思います。

 食事は美味しく楽しく摂らなければ意味がありませんから(少なくとも私はそう考えています)、①フルーツジュースは摂りすぎない、②可能な範囲で果物をそのままのかたちでまんべんなく摂る、③血糖値が高い人は定期的な検査をおこなう、という3つに気をつけていればいいのではないかと思います。

 私がこの論文を読んで疑問に思ったのは、あの酸っぱいブルーベリーをアメリカ人はどうやって食べているのだろう?ということです。ブルーベリーはジャムにすれば美味しいですが、そうすると大量の砂糖を同時に摂取することになりますから糖尿病のリスクは上がるはずです。また、日本人がよく食べるミカンやスイカはどうなるのでしょう。米国のオレンジと日本のミカンは別のものと考えた方がいいのではないかと思うのですが・・・。

谷口恭

注1:この論文のタイトルは、「Fruit consumption and risk of type 2 diabetes: results from three prospective longitudinal cohort studies」で、下記のURLで全文を読むことができます。
http://www.bmj.com/content/347/bmj.f5001

参考:医療ニュース2009年3月17日「肝癌予防には野菜はよくて果物はNG」

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2013年10月29日 火曜日

2013年10月29日 ダイエット用健康食品で死亡例

 およそ1ヶ月前、ダイエット用健康食品「デキサプリン」で副作用が相次ぎ、中には心停止にいたった例もあるということを紹介しましたが(下記医療ニュース参照)、新たに別の健康食品で重篤な副作用が報告されています。

 厚生労働省は2013年10月9日「健康食品(OxyElite Pro)に関する注意喚起について」というタイトルの注意喚起(注1)を発表しました。これは前日の10月8日、米国CDC(疾病予防管理センター)と米国FDA(食品医薬品局)が、「OxyElite Pro」と言う名のダイエット用健康食品で死亡例を含む急性肝炎の被害が多数報告されたことを発表(注2)したことを受けてのものです。

 これら当局の発表によりますと、「OxyElite Pro」はダイエットと筋肉増強を目的につくられた健康食品で、重篤な肝障害をきたす例が相次いでいるようです。発表の時点で合計29名が薬剤性急性肝炎を発症し、2名は肝移植が必要になり、そのうち1名が死亡にいたったそうです。
 
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 OxyElite Proをインターネットで調べてみると、次の6種類の成分から構成されていることがわかりました。

①Bauhinia Purpurea L. (Leaf And Pod) Extract
②Bacopa (Leaf) (Bacopa Monnieri) Extract
③1,3-Dimethylamylamine HCL
④Cirsium Oligophyllum (Plant) Extract
⑤Yohimbe (Pausinystalia Johimbe) Bark Extract
⑥Caffeine 

 ①②は聞いたことのないものですが、天然の葉から抽出したもののようで、説明文(注3)によると、甲状腺ホルモンの1つであるT3を増大させる効果があるそうです。③⑤⑥は交感神経を活性化させる作用があります。④についてはよくわかりませんが、単純に考えて、この健康食品を摂取すると、代謝がかなり活発となり、結果として体重減少が起こるはずです。しかし、このようなものが安全であるはずがなく、血圧上昇、動悸、発汗、イライラなどの副作用が起こることは容易に想像できます。

 今回問題となったのは肝機能障害です。どの成分が肝機能障害をおこしたのかはCDCやFDAの報告をみてもよくわかりませんが、死亡例を出すほどのものですからこのようなものは絶対に摂取してはいけません。日本でも個人輸入で購入できるようですから一度でも飲んだことがあるという人は、たとえ症状がなくても医療機関に相談すべきでしょう。

 また、最近日本でも別のダイエット用健康食品で被害の報告がありました。共同通信2013年10月10日号(オンライン版)によりますと、千葉県在住の2人の女性がそれぞれ「ヴィクトリアスレンダー」、「GLAMOROUS LINE」という名前の健康食品を摂取し頭痛などの副作用が生じたそうです。1人は回復したものの、もう1人は現在も通院中だそうです。

 千葉県はすでに、薬事法に基づき販売業者らを所管する名古屋市、横浜市、大阪市に通報し、現在はサイト上からこれら健康食品は削除されているそうです。

  サプリメントや健康食品はどのようなものであれ、かかりつけ医を持っている人は摂取前に相談すべきでしょう。

谷口恭

注1:厚労省の注意喚起は下記URLで閲覧できます。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000025767.html

注2:CDCのレポートのタイトルは「Acute Hepatitis and Liver Failure Following the Use of a Dietary Supplement Intended for Weight Loss or Muscle Building」で、下記のURLで読むことができます。
http://emergency.cdc.gov/HAN/han00356.asp 

FDAのレポートのタイトルは「OxyElite Pro: Health Advisory – Acute Hepatitis Illness Cases Linked To Product Use」で、下記のURLで読むことができます。
http://www.fda.gov/Safety/Medwatch/SafetyInformation/SafetyAlertsforHumanMedicalProducts/ucm370857.htm

注3:下記のURLがOxyElite Proについて比較的説明が多いようです。
http://www.oxyelite-pro.com/oxyelite-pro-ingredients

参考:医療ニュース
2013年9月30日「デキサプリンを飲まないで!」
2007年3月23日「ダイエット用食品から未承認医薬品検出」

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2013年10月28日 月曜日

2013年10月28日 超低用量ピルでの2人目の死亡例

  以前、超低用量ピル(ヤーズ)の副作用で20代の女性が死亡したという例をお伝えしました。(下記医療ニュース参照) 主治医がヤーズを処方してからわずか13日後、この女性は頭蓋内静脈洞血栓症という、頭の中の血管が血の塊で詰まってしまう病態となり死亡しました。

 死亡したこの20代の女性は、肥満や喫煙など血栓症を起こす要因ほとんどなく、ヤーズを含めてピルのリスクは小さかったと言えます。頭蓋内静脈洞血栓症がピル内服で起こるのは内服開始後数週間以内とされてはいますが、血栓症のリスクのほとんどない20代女性が(中用量ピルでなく)超低用量ピル服用開始のわずか13日後に死亡したというのは注目に値します。

 そして、1人目の死亡例が報告された4ヶ月後の2013年10月、医薬品医療機器総合機構(PMDA)がヤーズによる国内2人目の死亡を発表しました。

 この女性は10代後半で、ヤーズの内服を開始しておよそ1年半後(526日目)に肺動脈塞栓症で死亡しています。女性が外出して下宿に帰宅した後に連絡が途絶え、その3日後に死亡しているところを発見されています。解剖の結果、肺動脈に血栓(血の塊)がみつかったそうです。

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 このような事件を聞くとまず気になるのが血栓症を起こすリスクがなかったのかということですが、バイエル薬品株式会社の発表(注1)によると、喫煙はなく、肥満もなく(BMIは22.7)、血が固まりやすくなるような病気をした人が家族にいるわけでもありません。

 これまでは死に至るような重篤な血栓症の副作用は、ピルを飲み出して数週間以内に起こることが多いとされていました。しかしこのケースでは飲み出して1年半が経過してからの発症です。しかも血栓症のリスクがほとんどないのにもかかわらず、です。

 今後ピルを飲むすべての人は、血栓症の予兆(ふくらはぎの痛みや赤み、胸の痛み、息苦しさ、頭痛など)があれば直ちに主治医に相談すべきでしょう。もちろん禁煙をおこない、肥満があれば減量を試みるべきなのは言うまでもありません。

谷口恭

注1(2019年10月27日):バイエル薬品株式会社は事故があった直後に詳細をウェブサイトで報告していましたが、現在そのページは削除されています。下記は医療サイト「m3」の記事です。
https://www.m3.com/clinical/news/182534

参考:
医療ニュース2013年8月30日「超低用量ピルでの死亡例」
はやりの病気第87回(2010年11月)「超低用量ピルの登場」

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2013年10月5日 土曜日

2013年10月5日 電子タバコは本当に有効なのか

 電子タバコの危険性については、このサイトでも取り上げたことがありますし(下記医療ニュース参照)、厚労省は何度か注意喚起を促しています(注1)。しかし、国内外を問わず電子タバコで禁煙を試みる人は増加しており(イギリスでは禁煙に取り組む人の27%が利用しているという報告もあるほどです)、あらためて科学的な危険性と有用性の検証が急がれます。

 そんななか、ニュージーランドのオークランド大学で電子タバコの有効性と安全性についての評価試験がおこなわれ、医学誌『Lancet』2013年9月9日号(オンライン版)に論文が掲載されました(注2)。

 研究の対象者はオークランドの18歳以上の禁煙希望者で、調査期間は2011年9月6日~2013年7月5日です。対象者は、電子タバコ(16mgニコチン入り)使用グループ、ニコチンパッチ(21mg/日)使用グループ、プラセボ(ニコチンなし電子タバコ使用)グループの3つのグループに無作為に分けられて検討されています。

 その結果、6ヶ月が経過した時点で禁煙できていた人は、電子タバコのグループで7.3%(21/289例)、ニコチンパッチのグループで5.8%(17/295例)、プラセボでは4.1%(3/73例)だったそうです。数字だけでみると、電子タバコで禁煙成功率が高いように思われますが、統計学的に分析すると有意差はでなかったようです。

 危険性については、それぞれの有害イベント(副作用)の発生は、電子タバコのグループで137例、ニコチンパッチのグループで119例、プラセボでは36例で、これもまた数字だけみると電子タバコで危険性が高そうですが、統計学的には有意差はないようです。

 この研究からは、電子タバコは危険性があるとは言えないけれども、有効性も統計学的にはあるとは言えない、ということになります。

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 この研究結果をみて私が最もひっかかったのは、電子タバコであろうがニコチンパッチであろうが禁煙成功率が低すぎる、ということです。

 厚労省が平成21年度に調査し公表している「ニコチン依存症管理料算定保険医療機関における禁煙成功率の実態調査報告書」(注3)によりますと、ニコチンパッチでの治療終了9ヶ月の時点で禁煙を継続しているのが49.2%ですから、今回のニュージーランドの調査とあまりにも数字がかけ離れています。

 日本での禁煙治療はパッチよりも飲み薬(チャンピックス)が用いられることが多いのですが、厚労省のこの報告書によれば、飲み薬を用いての治療終了9ヶ月の時点の禁煙維持率は50.1%とされています。

 私がこの論文を読んで最初に思ったのは、電子タバコの有効性を論じる前に、「禁煙は薬を飲めばそれだけで成功するわけではない」ということです。この研究では、対象者は禁煙希望者(smokers wanting to quit)とされていますが、本当にやめる意思があったのかどうか、そして医療者は禁煙のサポートをしたのかどうか、という点が疑問なのです。

 研究の目的は「禁煙を支援すること」ではなく「電子タバコの有効性の検討」ですから、例えばカウンセリングなどのサポートはすべきでなかったということかもしれませんが、この研究でよくわかったのは「禁煙で重要なのは何を用いるかではなく禁煙を希望する人の意思と医療者のサポートこそが最重要」ということではないかと私はみています。

 そういう意味で、電子タバコも使うなら本人の強い意志と医療者のサポートがあればOKといえるかもしれません。ただし安全性が確立していれば、です。現時点では厚労省が電子タバコの使用に注意勧告をしていますから、安易な使用は控えるべきでしょう。

(谷口恭)

注1:平成22年12月27日付けで「ニコチンを含有する電子タバコに関する危害防止措置について」というタイトルで発表しています。詳しくは下記URLを参照ください。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000zlvf.html

注2:この論文のタイトルは「Electronic cigarettes for smoking cessation: a randomised controlled trial」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736%2813%2961842-5/abstract

注3:この報告書は下記URLで読むことができます。
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/06/dl/s0602-3i.pdf

参考:医療ニュース
2009年7月31日「「電子タバコ」はやはり危険!」
2008年9月26日「「電子タバコ」に要注意!」

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

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