医療ニュース

2013年11月11日 月曜日

2013年11月11日 自殺のリスクが低くなる食事とは

  自殺のリスクが低くなる食事のパターンについて、日本人を対象とした研究が報告されたので紹介しておきます。

 国立国際医療研究センター(National Center for Global Health and Medicine)のAkiko Nanri氏らのグループによるJPHC研究(Japan Public Health Center-based Prospective Study)というものがあり、この研究により得られたデータを分析することによって食事と自殺のリスクとの関係が調べられています。研究結果は医学誌『British Journal of Psychiatry』2013年10月10日号(オンライン版)に掲載されています(注1)。

 この研究の対象者は日本人男性40,752人、日本人女性48,285人です。食物摂取頻度調査票を用いて合計134種類の食品と飲料の消費量が調べられています(この調査は1995年から1998年に実施されています)。自殺をしたかどうかは2005年12月までが調べられています。

 これらを分析したところ、男女とも、野菜、果物、いも類、大豆製品、きのこ類、海藻、魚介類の摂取量が高ければ、自殺のリスクが低いという結果が出たそうです。

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 食事とうつ病や自殺を調べた調査は過去にもあり、例えばω3系の不飽和脂肪酸を積極的に摂取するのがいいとされるものが有名です。

 今回の研究では、結局のところ、日本人が古来から食べている馴染みのあるものをバランスよく食べるのがいい、という結果であり、論文のなかでも、”prudent”な食事パターンがすすめられる、と述べられています。”prudent”とは「常識的な」とか「良識のある」という意味で、伝統的な食事に勝るものはないということを意味しています。

(谷口恭)

注:この論文のタイトルは、「Dietary patterns and suicide in Japanese adults: health centre-based prospective study」で、下記のURLで概要を読むことができます。
http://bjp.rcpsych.org/content/early/2013/09/27/bjp.bp.112.114793.abstract?sid=4041be03-3108-4950-a0f5-e569225da988

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2013年11月2日 土曜日

2013年11月2日 糖尿病予防になるフルーツは?ジュースは逆効果?

  果物は身体によくて糖尿病の予防にもなる・・・。いや、果物には果糖が多く含まれておりGI値(グリセミック指数)が高いから糖尿病にはよくないはずだ・・・。

 このように、果物と糖尿病の関係は以前から良いとするもの悪いとするものの双方があり、医学会のなかでも統一した見解がありません。

 糖尿病の予防にいいのは、1位はブルーベリー、2位ブドウ、3位リンゴ、ジュースは逆に糖尿病を悪化させる・・・。

 これは米国ハーバード大学公衆衛生学教室による疫学調査の結果で医学誌『British Medical Journal』2013年8月30日号(オンライン版)に掲載されています(注1)。この論文は日本の新聞や雑誌にも紹介されましたのですでに有名になっているかもしれませんが、ここでも確認しておきたいと思います。

 この研究は、米国の医療者を対象とした3つの大規模調査を再解析し、フルーツの摂取量・種類と糖尿病(2型糖尿病)のリスクについての関連性を調べています。対象者は合計で187,382人になり、このうち12,198人が糖尿病を発症しています。

 まず総論で言えば、フルーツの総摂取量が多いほど糖尿病のリスクは低下しています。各フルーツでの分析結果をみてみると、ブルーベリー、ブドウ・レーズン類、リンゴ・洋ナシ類、グレープフルーツで有意なリスク低下が認められています。

 興味深いのはここからです。リンゴ、オレンジ、グレープフルーツなどのフルーツジュースについて分析してみると、摂取量が増えるごとに糖尿病のリスクが上昇するというのです。

 さらに興味深い分析が続きます。フルーツジュースを同じ量のフルーツに置き換えたとすると、全体でみれば糖尿病のリスクは7%低下するとの結果がでています。それぞれのフルーツでみてみると、ブルーベリーによるリスク低下は33%でこれが最大です。ブドウ・レーズン類、リンゴ・洋ナシ、グレープフルーツでは12~14%低下していたそうです。一方、イチゴとカンタループ(メロン)では明らかなリスク低下は認められなかったそうです。

 この論文には最近の流行の「糖質制限」の観点からの考察もあります。糖質制限の考え方からすればGI値(グリセミック指数)が高ければ糖尿病のリスクが高く、GI値が低ければリスクが低下するはずです。しかし、今回の研究での結果は、高GI値のフルーツでリスク上昇がなく、低GI値でリスク低下がなく、中等度のGI値で有意なリスク低下が認められたそうです。

 これらをまとめると、次のようになると思います。

・全フルーツ(原文ではwhole fruits、要するにいろんなフルーツをまんべんなく食べることと考えていいと思います)をジュースにせずにそのままのかたちで摂取するのが糖尿病のリスク低下につながる。

・フルーツジュースが健康全般に悪いとは言えないが、摂り過ぎは糖尿病のリスクになる可能性がある。

・糖尿病のリスク低下となるフルーツを個別に検討すると、1位ブルーベリー、2位ブドウ・レーズン、3位リンゴとなる。

・GI値が高いほどリスクが高いとは言えない。

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 フルーツをまんべんなく摂取するのが糖尿病を含めて生活習慣病のリスク低下につながるということはイメージしやすいと思います。しかし、新鮮なフルーツをそのままのかたちで幅広く摂る、などというのは、高級ホテルに毎日泊まる、とか、毎日買い物にそれなりの時間を割く、とかいったことができなければ現実的にはむつかしいでしょう。

 ですから簡単に果物を摂れる(と考えられている)ジュースに頼りたくなる(というか、ジュースはそもそも美味しいものです)のは誰もが同じでしょう。この論文を受けて、ジュースは一切やめにして毎日違った果物をそのままのかたちで・・・、とまでは思わなくてもいいと思います。

 食事は美味しく楽しく摂らなければ意味がありませんから(少なくとも私はそう考えています)、①フルーツジュースは摂りすぎない、②可能な範囲で果物をそのままのかたちでまんべんなく摂る、③血糖値が高い人は定期的な検査をおこなう、という3つに気をつけていればいいのではないかと思います。

 私がこの論文を読んで疑問に思ったのは、あの酸っぱいブルーベリーをアメリカ人はどうやって食べているのだろう?ということです。ブルーベリーはジャムにすれば美味しいですが、そうすると大量の砂糖を同時に摂取することになりますから糖尿病のリスクは上がるはずです。また、日本人がよく食べるミカンやスイカはどうなるのでしょう。米国のオレンジと日本のミカンは別のものと考えた方がいいのではないかと思うのですが・・・。

谷口恭

注1:この論文のタイトルは、「Fruit consumption and risk of type 2 diabetes: results from three prospective longitudinal cohort studies」で、下記のURLで全文を読むことができます。
http://www.bmj.com/content/347/bmj.f5001

参考:医療ニュース2009年3月17日「肝癌予防には野菜はよくて果物はNG」

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2013年10月29日 火曜日

2013年10月29日 ダイエット用健康食品で死亡例

 およそ1ヶ月前、ダイエット用健康食品「デキサプリン」で副作用が相次ぎ、中には心停止にいたった例もあるということを紹介しましたが(下記医療ニュース参照)、新たに別の健康食品で重篤な副作用が報告されています。

 厚生労働省は2013年10月9日「健康食品(OxyElite Pro)に関する注意喚起について」というタイトルの注意喚起(注1)を発表しました。これは前日の10月8日、米国CDC(疾病予防管理センター)と米国FDA(食品医薬品局)が、「OxyElite Pro」と言う名のダイエット用健康食品で死亡例を含む急性肝炎の被害が多数報告されたことを発表(注2)したことを受けてのものです。

 これら当局の発表によりますと、「OxyElite Pro」はダイエットと筋肉増強を目的につくられた健康食品で、重篤な肝障害をきたす例が相次いでいるようです。発表の時点で合計29名が薬剤性急性肝炎を発症し、2名は肝移植が必要になり、そのうち1名が死亡にいたったそうです。
 
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 OxyElite Proをインターネットで調べてみると、次の6種類の成分から構成されていることがわかりました。

①Bauhinia Purpurea L. (Leaf And Pod) Extract
②Bacopa (Leaf) (Bacopa Monnieri) Extract
③1,3-Dimethylamylamine HCL
④Cirsium Oligophyllum (Plant) Extract
⑤Yohimbe (Pausinystalia Johimbe) Bark Extract
⑥Caffeine 

 ①②は聞いたことのないものですが、天然の葉から抽出したもののようで、説明文(注3)によると、甲状腺ホルモンの1つであるT3を増大させる効果があるそうです。③⑤⑥は交感神経を活性化させる作用があります。④についてはよくわかりませんが、単純に考えて、この健康食品を摂取すると、代謝がかなり活発となり、結果として体重減少が起こるはずです。しかし、このようなものが安全であるはずがなく、血圧上昇、動悸、発汗、イライラなどの副作用が起こることは容易に想像できます。

 今回問題となったのは肝機能障害です。どの成分が肝機能障害をおこしたのかはCDCやFDAの報告をみてもよくわかりませんが、死亡例を出すほどのものですからこのようなものは絶対に摂取してはいけません。日本でも個人輸入で購入できるようですから一度でも飲んだことがあるという人は、たとえ症状がなくても医療機関に相談すべきでしょう。

 また、最近日本でも別のダイエット用健康食品で被害の報告がありました。共同通信2013年10月10日号(オンライン版)によりますと、千葉県在住の2人の女性がそれぞれ「ヴィクトリアスレンダー」、「GLAMOROUS LINE」という名前の健康食品を摂取し頭痛などの副作用が生じたそうです。1人は回復したものの、もう1人は現在も通院中だそうです。

 千葉県はすでに、薬事法に基づき販売業者らを所管する名古屋市、横浜市、大阪市に通報し、現在はサイト上からこれら健康食品は削除されているそうです。

  サプリメントや健康食品はどのようなものであれ、かかりつけ医を持っている人は摂取前に相談すべきでしょう。

谷口恭

注1:厚労省の注意喚起は下記URLで閲覧できます。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000025767.html

注2:CDCのレポートのタイトルは「Acute Hepatitis and Liver Failure Following the Use of a Dietary Supplement Intended for Weight Loss or Muscle Building」で、下記のURLで読むことができます。
http://emergency.cdc.gov/HAN/han00356.asp 

FDAのレポートのタイトルは「OxyElite Pro: Health Advisory – Acute Hepatitis Illness Cases Linked To Product Use」で、下記のURLで読むことができます。
http://www.fda.gov/Safety/Medwatch/SafetyInformation/SafetyAlertsforHumanMedicalProducts/ucm370857.htm

注3:下記のURLがOxyElite Proについて比較的説明が多いようです。
http://www.oxyelite-pro.com/oxyelite-pro-ingredients

参考:医療ニュース
2013年9月30日「デキサプリンを飲まないで!」
2007年3月23日「ダイエット用食品から未承認医薬品検出」

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2013年10月28日 月曜日

2013年10月28日 超低用量ピルでの2人目の死亡例

  以前、超低用量ピル(ヤーズ)の副作用で20代の女性が死亡したという例をお伝えしました。(下記医療ニュース参照) 主治医がヤーズを処方してからわずか13日後、この女性は頭蓋内静脈洞血栓症という、頭の中の血管が血の塊で詰まってしまう病態となり死亡しました。

 死亡したこの20代の女性は、肥満や喫煙など血栓症を起こす要因ほとんどなく、ヤーズを含めてピルのリスクは小さかったと言えます。頭蓋内静脈洞血栓症がピル内服で起こるのは内服開始後数週間以内とされてはいますが、血栓症のリスクのほとんどない20代女性が(中用量ピルでなく)超低用量ピル服用開始のわずか13日後に死亡したというのは注目に値します。

 そして、1人目の死亡例が報告された4ヶ月後の2013年10月、医薬品医療機器総合機構(PMDA)がヤーズによる国内2人目の死亡を発表しました。

 この女性は10代後半で、ヤーズの内服を開始しておよそ1年半後(526日目)に肺動脈塞栓症で死亡しています。女性が外出して下宿に帰宅した後に連絡が途絶え、その3日後に死亡しているところを発見されています。解剖の結果、肺動脈に血栓(血の塊)がみつかったそうです。

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 このような事件を聞くとまず気になるのが血栓症を起こすリスクがなかったのかということですが、バイエル薬品株式会社の発表(注1)によると、喫煙はなく、肥満もなく(BMIは22.7)、血が固まりやすくなるような病気をした人が家族にいるわけでもありません。

 これまでは死に至るような重篤な血栓症の副作用は、ピルを飲み出して数週間以内に起こることが多いとされていました。しかしこのケースでは飲み出して1年半が経過してからの発症です。しかも血栓症のリスクがほとんどないのにもかかわらず、です。

 今後ピルを飲むすべての人は、血栓症の予兆(ふくらはぎの痛みや赤み、胸の痛み、息苦しさ、頭痛など)があれば直ちに主治医に相談すべきでしょう。もちろん禁煙をおこない、肥満があれば減量を試みるべきなのは言うまでもありません。

谷口恭

注1(2019年10月27日):バイエル薬品株式会社は事故があった直後に詳細をウェブサイトで報告していましたが、現在そのページは削除されています。下記は医療サイト「m3」の記事です。
https://www.m3.com/clinical/news/182534

参考:
医療ニュース2013年8月30日「超低用量ピルでの死亡例」
はやりの病気第87回(2010年11月)「超低用量ピルの登場」

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2013年10月5日 土曜日

2013年10月5日 電子タバコは本当に有効なのか

 電子タバコの危険性については、このサイトでも取り上げたことがありますし(下記医療ニュース参照)、厚労省は何度か注意喚起を促しています(注1)。しかし、国内外を問わず電子タバコで禁煙を試みる人は増加しており(イギリスでは禁煙に取り組む人の27%が利用しているという報告もあるほどです)、あらためて科学的な危険性と有用性の検証が急がれます。

 そんななか、ニュージーランドのオークランド大学で電子タバコの有効性と安全性についての評価試験がおこなわれ、医学誌『Lancet』2013年9月9日号(オンライン版)に論文が掲載されました(注2)。

 研究の対象者はオークランドの18歳以上の禁煙希望者で、調査期間は2011年9月6日~2013年7月5日です。対象者は、電子タバコ(16mgニコチン入り)使用グループ、ニコチンパッチ(21mg/日)使用グループ、プラセボ(ニコチンなし電子タバコ使用)グループの3つのグループに無作為に分けられて検討されています。

 その結果、6ヶ月が経過した時点で禁煙できていた人は、電子タバコのグループで7.3%(21/289例)、ニコチンパッチのグループで5.8%(17/295例)、プラセボでは4.1%(3/73例)だったそうです。数字だけでみると、電子タバコで禁煙成功率が高いように思われますが、統計学的に分析すると有意差はでなかったようです。

 危険性については、それぞれの有害イベント(副作用)の発生は、電子タバコのグループで137例、ニコチンパッチのグループで119例、プラセボでは36例で、これもまた数字だけみると電子タバコで危険性が高そうですが、統計学的には有意差はないようです。

 この研究からは、電子タバコは危険性があるとは言えないけれども、有効性も統計学的にはあるとは言えない、ということになります。

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 この研究結果をみて私が最もひっかかったのは、電子タバコであろうがニコチンパッチであろうが禁煙成功率が低すぎる、ということです。

 厚労省が平成21年度に調査し公表している「ニコチン依存症管理料算定保険医療機関における禁煙成功率の実態調査報告書」(注3)によりますと、ニコチンパッチでの治療終了9ヶ月の時点で禁煙を継続しているのが49.2%ですから、今回のニュージーランドの調査とあまりにも数字がかけ離れています。

 日本での禁煙治療はパッチよりも飲み薬(チャンピックス)が用いられることが多いのですが、厚労省のこの報告書によれば、飲み薬を用いての治療終了9ヶ月の時点の禁煙維持率は50.1%とされています。

 私がこの論文を読んで最初に思ったのは、電子タバコの有効性を論じる前に、「禁煙は薬を飲めばそれだけで成功するわけではない」ということです。この研究では、対象者は禁煙希望者(smokers wanting to quit)とされていますが、本当にやめる意思があったのかどうか、そして医療者は禁煙のサポートをしたのかどうか、という点が疑問なのです。

 研究の目的は「禁煙を支援すること」ではなく「電子タバコの有効性の検討」ですから、例えばカウンセリングなどのサポートはすべきでなかったということかもしれませんが、この研究でよくわかったのは「禁煙で重要なのは何を用いるかではなく禁煙を希望する人の意思と医療者のサポートこそが最重要」ということではないかと私はみています。

 そういう意味で、電子タバコも使うなら本人の強い意志と医療者のサポートがあればOKといえるかもしれません。ただし安全性が確立していれば、です。現時点では厚労省が電子タバコの使用に注意勧告をしていますから、安易な使用は控えるべきでしょう。

(谷口恭)

注1:平成22年12月27日付けで「ニコチンを含有する電子タバコに関する危害防止措置について」というタイトルで発表しています。詳しくは下記URLを参照ください。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000zlvf.html

注2:この論文のタイトルは「Electronic cigarettes for smoking cessation: a randomised controlled trial」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736%2813%2961842-5/abstract

注3:この報告書は下記URLで読むことができます。
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/06/dl/s0602-3i.pdf

参考:医療ニュース
2009年7月31日「「電子タバコ」はやはり危険!」
2008年9月26日「「電子タバコ」に要注意!」

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2013年10月4日 金曜日

2013年10月4日 女性も多量飲酒で脳卒中のリスクが増加

  ビール大ビン1本を毎日飲む女性は脳卒中のリスクが3倍近くに・・・

 これは大阪大学と国立がん研究センターの共同研究の結果で、同センターが2013年9月25日にウェブサイトで公表しています(注1)。大量飲酒で脳卒中になるという研究はこれまでにもありましたが、男性を中心としたものばかりで、日本人女性を対象とした大規模調査では今回の研究が初となるようです。

 研究の対象となったのは40~69歳の日本人女性約47,000人で、平均17年間の追跡調査がおこなわれています。アルコール摂取量を、「飲まない」、「時々飲む」、「週にエタノール換算で1-74g」、「週に75-149g」、「週に150g-299g」、「週に300g以上」の6つのグループに分けて検討されています。

 追跡期間中に1,864人が脳卒中になり、その内訳は、脳内出血532人、くも膜下出血338人、脳梗塞964人、その他12人とされています。これらを飲酒量により分析すると、「時々飲む」を基準としたとき、「週に300g以上」では全脳卒中のリスクが2.30倍、出血性脳卒中(脳内出血+くも膜下出血)で2.38倍、脳内出血では2.85倍、脳梗塞では2.03倍と増加が認められています。

 尚、心筋梗塞などの虚血性心疾患については292人が発症していますが、統計学的には発症例が少なく、飲酒との明らかな関係は認められなかったそうです。

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 同センターのサイト(注1参照)には、6つのグループの飲酒量ごとのリスクが棒グラフで分かりやすく示されています。これをみれば、300gで極端にリスクが上昇することがよく分かります。150-299gでもリスクが1.5倍になっていますから、脳卒中のリスクを減らすためには149g以下にした方がよさそうです(注2)。

 ただ、このグラフをよくみれば、「飲まない」グループの方が、「時々飲む」よりも脳卒中のリスクが高くなっています。昔からよく言われるように「健康維持にはほどほどの飲酒がいい」ということなのでしょうか。

(谷口恭)

注1:「女性における飲酒と循環器疾患発症との関連について」というタイトルで概要が紹介されています。下記URLを参照ください。
http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/3310.html

また、この研究は医学誌『Preventive Medicine』2013年7月13日号(オンライン版)にも掲載されています。タイトルは、「Alcohol consumption and risk of stroke and coronary heart disease among Japanese women: The Japan Public Health Center-based prospective study」で、下記のURLで概要を読むことができます。
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0091743513002272

注2 150-299gでビール大ビン1~2本、300gで2本以上が目安です。日本酒なら150-299gで1~2合、300gで2合以上になります。(いずれも1日あたりの平均量)

参考:医療ニュース
2009年10月8日「酒飲みの女性は乳ガンになりやすい」
2009年12月28日「ビール週7本で乳癌のリスク急増」
2011年10月26日「女性は中年期の適量の飲酒で高齢期が健康に」
2010年4月8日「適度な飲酒は女性の体重増加を抑制」

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2013年9月30日 月曜日

2013年9月30日 デキサプリンを飲まないで!

 ダイエット目的の危険なサプリメントがときどき問題になりますが、最近注目されているのが「デキサプリン」です。

 2013年9月17日、厚生労働省は各地域の衛生主管局宛てに「健康食品(デキサプリン)の取り扱いについて」というタイトルで注意喚起をおこないました(注1)。

 厚労省は、オランダ食品・消費者製品安全局(VWA)からの情報に基づき注意喚起をおこなっています。VWAによりますと、デキサプリンを服用し重篤な副作用が生じた例が受理しただけで11例にのぼるそうです。副作用は、動悸、胸痛、嘔気、頭痛などですが、なかには心停止もあるそうです。

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 ダイエット効果を謳ったサプリメントに危険なものが少なくないことは過去にもお伝えしたことがあります。それらに含まれていたのは、国内未承認の医薬品成分「シブトラミン」や甲状腺ホルモンである場合が多く、大変危険であるのは明らかでした。

 今回オランダの当局が発表した「デキサプリン」が薬理学的にどのようなものなのかよく分からないのですが(正式な文書はオランダ語で書かれています・・)、報告された副作用が動悸、嘔気、頭痛などであることを考えると、シブトラミンや甲状腺ホルモンに似たようなものではないかと推測できます。これら以外の副作用としては、発汗過多やイライラ感、不眠なども起こりうるでしょう。

 心停止になった人がそのまま死亡したのかどうかは厚労省の文書からは分かりませんが、このようなサプリメントを摂取すると命の危険が脅かされることもあるということは充分に知っておく必要があります。

(谷口恭)

注1:厚労省の注意喚起は下記で閲覧することができます。
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/hokenkinou/dl/dexaprine.pdf

参考:
医療ニュース2007年3月23日「ダイエット用食品から未承認医薬品検出」

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2013年9月13日 金曜日

2013年9月13日 ロドデノールの被害に対する”誤報”

 塗ると色が白く抜ける「白斑」を起こすという理由で、カネボウなどの化粧品会社が自主回収を開始したというニュースは先日お伝えしました。(下記医療ニュース参照)

 自主回収は2013年7月上旬から始まり、2ヶ月経過した9月上旬で、白斑を訴えている人が1万人を超えているそうです。

 この事件については各マスコミも頻繁に取り上げており、特集番組も組まれているようです。しかし、マスコミの報道には偏りがあるようで、例えば2013年9月2日に放送されたNHKの「クローズアップ現代」では、視聴者に誤解を与える表現が少なくなく、ロドデノール含有化粧品の安全性に関する「特別委員会」が反論をおこないました。

「クローズアップ現代」の”誤報”に対する「特別委員会」の反論は以下のようになります。

①「1年経っても治らない」との報道について

多くは化粧品使用中止後8週間で明らかな改善がみられている。2年経過しても白斑が残っている症例が数例あるのは事実だが、これらも原因を突き止めて治療をおこなうことは可能。

②「2割の患者しか治らない」との報道について

現時点でのカネボウ社の見解では「完治に近い人が2割いる」であり、「2割の患者しか治らない」わけではない。現時点では化粧品を中止しきちんと経過を追えている症例数が少ない(ので統計的な数字は算出しにくい)。(化粧品自主回収から2ヶ月しかたっていないのですから当然です)

②「色をつくる細胞がなくなっている」という報道について

実際に皮膚を生検してみると、多くの症例で色をつくる細胞(メラノサイト)は残っている。(生検とは皮膚組織を一部採取して、どのような細胞が存在しているのか顕微鏡で調べる検査のことです)

 現時点での治療について委員会では、ステロイドやタクロリムスの外用、トラネキサム酸やビタミン剤の内服、光線療法などについて言及しています(注1)。

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 特別委員会の委員長は藤田保健衛生大学の松永佳世子先生です。私は皮膚科関連の学会などで過去に何度も松永先生のご講演を拝聴していますが、いつも深い感銘を受けます。松永先生は「茶のしずく」などの小麦アレルギーの調査の際にも大変ご活躍されています。(当院は「茶のしずく」については協力施設としてお手伝いさせていただきましたが、「ロドデノール」については現在パッチテストに対応していないことや光線療法の設備がないことなどから他施設を紹介させてもらっています)

「クローズアップ現代」への反論で松永先生が最も強調されているのが、患者さんに対する「不安にならないで!」というメッセージです。反論の文書の冒頭に「(マスコミの心ない)言葉に深く傷付き、不安になられたのではないでしょうか。心配しております」と記載されています。何よりもまず患者さんの立場にたった視点から対処されていることが伝わってきます。

 ロドデノールの被害に会われた方は大変つらい思いをなさっているかと思いますが、委員会の先生方や、実際に患者さんを診ている専門の先生方は一生懸命に取り組まれていますのでどうか不安にならないでください。

(谷口恭)

注1:これらの治療は患者さんの判断でおこなうのではなく医師の指導の下でおこなうべきです。現在当院では対応していませんが、適切な医療機関を紹介しますので、当院にかかりつけ医の方でロドデノールの被害に会われた方は相談ください。(メールで相談されてもかまいません。また適切な医療機関をご存じであれば当院への連絡なしに直接受診されてもかまいません)

参考:医療ニュース2013年7月6日「カネボウなどの化粧品の一部で白斑のトラブル」

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2013年9月4日 水曜日

9/4 長時間1回と短時間3回、有効なウォーキングはどちら?(その2)

  糖尿病(もしくはその予備軍)の人がウォーキングをするなら、長時間1回よりも短時間3回の方が有効である、という研究結果を以前紹介しました。(下記医療ニュースを参照ください)

 ところが、これとまったく正反対の研究結果が発表されましたので報告します。(尚、この発表は学会での発表であり、まだ論文になっているわけではありません。しかし、最近ここでお知らせした結果とまったく正反対であるためにあえて取り上げることにしました)

 1日に15分間の散歩を3回行うよりも1回45分間の持久運動の方が血糖値の改善に有効である・・・・。

 これは2013年6月21日~25日に米国シカゴで開催された第73回米国糖尿病学会で、オランダMaastricht大学のJan-Willem van Dijk氏が発表した研究結果です。(この報道は医学系サイト「日経メディカルオンライン」2013年8月19日号に掲載されました)

 この研究の対象となったのは、2型糖尿病の男性20例(平均年齢64歳、平均BMI 29.5、平均HbA1c 6.9%)で、コントロール日(ウォーキングなし)、毎食後15分間のウォーキングを3回する日、45分間の持久運動を1回おこなう日を設けて血糖値がどのように変動するかが測定されています。

 日内血糖変動をみてみると、1日のうちで高血糖状態だった時間は、コントロール日では6時間51分だったのに対し、45分間の持久運動日では4時間47分と有意に減少しています。一方、毎食後15分間のウォーキングを3回する日では、6時間2分とコントロール日とほとんど差はなかったようです。平均血糖値でみてみても、45分間の持久運動日ではコントロール日よりも有意に減少したのに対し、毎食後15分間のウォーキングを3回する日ではほとんど下がらなかったようです。

 しかし、食後の血糖値上昇の程度については、45分間の持久運動日だけでなく毎食後15分間のウォーキングを3回する日でも有意に減少したそうです。また、食後のインスリンの値も、コントロール日と比較すると、45分間の持久運動日でも毎食後15分間のウォーキングを3回する日でも有意に低下したようです。

 これらの結果に対し、発表者は、「血糖コントロールの改善には、ある程度のまとまった量の身体活動が必要かもしれない」とコメントしたそうです。

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 下記医療ニュースでお伝えした研究結果と丸々正反対であることが興味深いといえます。両方の研究とも対象者が10人、20人と少なく、現時点ではどちらが正しいとは言えないと考えるべきでしょう。

 しかし、ひとつだけあきらかなことがあります。短時間の運動を繰り返すにしても、長時間の運動を一度だけやるにしても、まったく運動しないよりははるかに血糖値改善効果があるのは間違いないということです。

 短時間を3回、長時間を1回などと決めてしまうのではなく、まずはどちらでもいいので長続きして楽しくできる方法を各自選べばいいのではないかと思います。そして、これは糖尿病(またはその予備軍)の人たちだけにあてはまるわけではなく、体重を減らしたい、あるいは健康を維持したいと考えているすべての人にいえることです。

(谷口恭)

参考:医療ニュース2013年7月3日「長時間1回と短時間3回、有効なウォーキングはどちら?」

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2013年9月2日 月曜日

9/2 コーヒーの飲み過ぎで死亡リスク増加?

 コーヒーは、様々なガンの予防になり、高血圧や糖尿病のリスクを軽減させる、など、最近は「コーヒーは身体によい」という研究が相次いでいます。従来懸念されていた胃などへの悪影響もないという研究(下記医療ニュース参照)も発表され、コーヒーはいいことずくし、というような流れにありますが、米国でコーヒーの否定的な研究が発表されましたので報告いたします。

 55歳未満の人は、1日4杯以上のコーヒー摂取で全死亡リスクが上昇する・・・

 これは米国サウスカロナイナ大学公衆衛生学校のJunxiu Liu氏らによる研究結果で、医学誌『Mayo Clinic Proceedings』2013年8月19日号(オンライン版)に掲載されています(注1)。

 この研究の対象となったのは、43,727人のアメリカの一般住民です。(年齢は20~87歳。男性33,900人、女性9,827人です) 調査期間は1971年2月から2002年12月で、コーヒーの摂取量を含む生活習慣、本人と家族の病歴などが調べられています。コーヒーの摂取量については、「摂取しない」「1週間に7杯未満」「1週間に8~14杯」「1週間に15~22杯」「1週間に22~27杯」「1週間に28杯以上」の6つのグループに分類されて解析されています。

 調査期間中(中央値は17年)に死亡したのは2,512人(男性87.5%)で、そのうち32%が心筋梗塞など心血管系のものだったそうです。

 コーヒー摂取量と死亡の関係を分析すると、55歳未満では、男女ともコーヒー摂取が週に28杯以上になると全死亡のリスクが有意に上昇していたようです。週28杯以上(1日4杯以上)摂取する55歳未満の男性の全死亡のリスクは、コーヒーをまったく摂取しないグループに対し1.56倍、女性では2.13倍とされています。

 一方、55歳以上であれば、男女ともに摂取量と全死亡の間に有意な関連は認められなかったようです。

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 コーヒーが身体によい、とする研究では、量が多ければ多いほどよい、とするものが多いようですから、この研究は過剰摂取に警告を鳴らすものとして注目すべきでしょう。しかし、週に28杯というのはかなり多いような気がしますが、米国では(日本でも?)週に28杯以上ものコーヒーを飲んでいる人はそんなに大勢いるのでしょうか。

 ちなみに私もコーヒーは大好きでけっこう摂取している方だと思うので、週あたり何杯飲んでいるか振り返ってみました。平均すると、診療がある日が1日4杯、診療がない日で1日2~3杯で、だいたい週あたり25杯であることがわかりました。週に28杯以下ですから死亡リスクの上昇は考えなくていい、とみなしたいと思います。

 たったひとつの研究に影響を受けすぎるのは問題ですが、コーヒーに関する研究はこれからもどんどん発表されていくでしょうから、みなさんも、日頃どれくらい飲んでいるのかを把握しておくのはいいかもしれません。

(谷口恭)

注1:この論文のタイトルは、「Association of Coffee Consumption With All-Cause and Cardiovascular Disease Mortality」で、下記のURLで全文を読むことができます。

http://www.mayoclinicproceedings.org/article/S0025-6196%2813%2900578-8/fulltext

参考:
医療ニュース2012年10月1日「コーヒーは消化管疾患と無関係」
医療ニュース2013年4月18日「コーヒーでも緑茶でも脳卒中のリスク低減」
医療ニュース2013年1月8日「コーヒーで口腔ガン・咽頭ガンの死亡リスク低下」
医療ニュース2012年12月3日「コーヒーも紅茶も生活習慣病に有効」
はやりの病気第22回(2005年12月) 「癌・糖尿病・高血圧の予防にコーヒーを!」   
はやりの病気第30回(2006年4月) 「コーヒー摂取で心筋梗塞!」

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

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