医療ニュース

2016年12月26日 月曜日

2016年12月26日 未成年の格闘技は禁止すべきか

 未成年が格闘技をおこなうのなら非接触型にしなければならない…

 これは米国小児科学会(AAP)のスポーツ医学・フィットネス委員会(COUNCIL ON SPORTS MEDICINE AND FITNESS)による勧告です。医学誌『Pediatrics』2016年12月号(オンライン版)(注1)に掲載されています。

 現在米国では、約650万人の未成年(children and adolescents)がなんらかの格闘技を習っています。格闘技は筋肉を鍛えバランス感覚や柔軟性を養うことだけでなく、自尊心や自我の確立に好影響を与えると考えられています。

 しかし、その一方でコンタクト型の格闘技には外傷のリスクが伴います。外傷の多くは打撲や捻挫といった軽症のものですが、なかには重症例もあります。特に、米国で人気の高い総合格闘技(MMA, mixed martial arts)は、脳振盪や窒息、さらに脊髄損傷といった重症となる外傷のリスクがあります。

 米国では、1990年~2003年の間におよそ12万8,400人の17歳以下の未成年(中間年齢は12.1歳)が救急部で治療を受けています。外傷発生率は、格闘技の練習1,000回あたりにつき41~133件になるとされています。また、ヘッドギアなどの保護用品については、それらが危険性を減らすというデータがなく過信は禁物です。

 格闘技別にみると、救急部で治療を受けた8割近くが空手によるものですが、委員会が最も警告しているのは総合格闘技です。また、テコンドーのキックにも厳しいコメントをしています。テコンドーはだいたい2割がパンチ、8割がキックです。テコンドーによる外傷の多くはキックによるもので、頭部へのキックは脳振盪を起こすこともあります。ところが現在のルールでは頭部へのキックがポイントになり、委員会はこの点に注意を促しています。

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 接触型(コンタクト型)の格闘技がNGで、格闘技をするなら非接触型に、と言われても素直に従える人はそういないでしょう。そもそも格闘は「接触」を前提としています。格闘技が好きな子供に、「型」の練習だけにしておきなさい、と言っても納得しないに違いありません。

 しかし、軽症でない外傷、つまり障害を残すような外傷も起こり得るわけですから、この委員会の警告は傾聴すべきです。また、今回委員会が取り上げているのは、格闘技(Martial arts)だけですが、広義にはコンタクトスポーツには、アメリカンフットボールやサッカーも含まれます。そういったスポーツはどのように考えていくべきなのか、慎重な議論が必要となります。

 日本ではなぜかあまり注目されていませんが、米国ではコンタクトスポーツがCTE(慢性外傷性脳症)という難治性の疾患のリスクになることが次第に周知されつつあります(注2)。

注1:この論文のタイトルは「Youth Participation and Injury Risk in Martial Arts」で、下記のURLで全文を読めます。

http://pediatrics.aappublications.org/content/138/6/e20163022

注2:下記を参照ください。

はやりの病気第137回(2015年1月)「脳振盪の誤解~慢性外傷性脳症(CTE)の恐怖~」
医療ニュース2015年5月9日「脳振盪に対するNFLの和解額が10億ドルに」

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2016年12月26日 月曜日

2016年12月25日 1日1本のタバコでも肺がんの死亡リスク9倍

 1日1本未満の喫煙でも肺がんの死亡リスクが9倍に…

 これは医学誌『JAMA internal medicine』2016年12月5日号(オンライン版)に掲載された論文(注1)が主張していることです。米国国立がん研究所(National Cancer Institute)による研究です。

 研究の対象者は、調査開始時(2004~05年)に59~82歳であった合計290,215人の男女。喫煙歴はアンケートでおこない、2011年末までの死亡者、死亡原因が調べられています。

 結果、全死因死亡リスクは、非喫煙者に比べて、1日1本未満で1.64倍に、1~10本で1.87倍となっています。注目すべきは肺がんの死亡率で、1日1本未満で9.12倍、1~10本で11.61倍にもなっていたのです。

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 患者さんに「タバコやめましたか?」と尋ねると、「完全には止められていませんが、減煙に成功して1日3本程度です」などと答える人がいます。自身にしてみれば「がんばっている」という意識があるのでしょうが、この研究によればあまり意味がないということになります。

 もっとも、この研究を待つまでもなく、減煙しているという人の多くは、貴重なタバコを惜しむように肺の奥まで吸い込みますから、減煙がかえって身体に悪いのでは?と感じることもあります。

 健康で長生きしたいならタバコは止める以外の選択肢はない、と、そろそろ断言してもいいのではないでしょうか。

注1:この論文のタイトルは「Association of Long-term, Low-Intensity Smoking With All-Cause and Cause-Specific Mortality in the National Institutes of Health-AARP Diet and Health Study」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/article-abstract/2588812

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2016年12月9日 金曜日

2016年12月9日 コーヒー1日3杯以上で脳腫瘍のリスクが低下

 ちょうど太融寺町谷口医院が開院した2000年代後半あたりから、コーヒーががんや生活習慣病の予防になるという研究が相次ぎ、このサイトでも繰り返し紹介してきました。今回も「コーヒーは健康に良い」という研究で、「1日3杯以上のコーヒーで脳腫瘍のリスクが低下する」というものです。

 医学誌『International Journal of Cancer』2016年12月15日号(オンライン版)に日本人を対象とした研究が紹介されています(注1)。

 対象者は合計106,324人の日本人の男女(男性50,438人、女性55,886人)です。約10年の調査期間中に脳腫瘍を発症したのは157人(男性70人、女性87人)でした。コーヒーと緑茶を飲む頻度を「週に4日以下」「1日1~2杯」「1日3杯以上」の3つのグループに分け、脳腫瘍のリスクが検討されています。

 男女合わせたデータをみてみると、コーヒーを1日3杯以上飲んでいる人は脳腫瘍のリスクが0.47倍に下がっています。女性だけでみれば0.24倍とさらに低下しています。「神経膠腫」と呼ばれる脳腫瘍全体の約3分の1を占める悪性腫瘍だけでみてみても、コーヒー摂取量が多い人はリスクが0.54倍に低下しています。

 尚、緑茶と脳腫瘍のリスクには相関関係が認められなかったそうです。

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 脳腫瘍の予防にコーヒーを!とまでは言えないと思いますが、この研究はコーヒー好きには嬉しいものでしょう。脳腫瘍にも悪性と良性があります。先に述べた悪性の「神経膠腫」は脳腫瘍のなかで最も頻度が多いものですが、がん全体のなかではそれほど多いわけではありません。

 脳腫瘍がやっかいなのは、予防する方法が確立されていないからです。胃がんならピロリ菌の除菌、肝がんなら肝炎ウイルスの治療、子宮頚がんならワクチンと定期健診、大腸がんなら生活習慣病の予防と治療、肺がんなら喫煙など、多くのがんには「〇〇には気を付けましょう」というものがあるわけですが、脳腫瘍にはそういったものはありません。いくら規則正しい生活を続けていようが、感染症に注意しようが起こるときは起こるのです。遺伝性があるわけでもありません。

 そのような状況のなか、「コーヒーがリスクを下げられるかもしれない」という研究は興味深いと言えます。今後の研究にも注目したいと思います。

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注1:この論文のタイトルは「Coffee and green tea consumption in relation to brain tumor risk in a Japanese population」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ijc.30405/full

参考:
医療ニュース
2016年10月31日 認知症予防にはコーヒー?それとも緑茶?
2016年8月12日 加工肉はNGだがコーヒーはガンのリスクでない
2015年8月28日 コーヒーが悪性黒色腫を予防
2016年3月8日 コーヒーを毎日飲めば膀胱がんのリスクが低下
はやりの病気
第22回(2005年12月)「癌・糖尿病・高血圧の予防にコーヒーを!」
など

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2016年12月9日 金曜日

2016年12月8日 胃薬PPI大量使用は脳梗塞のリスク

 胃薬には様々な機序のものがあり薬局で買えるもの(OTC)もあれば漢方薬もあります。多数ある胃薬のなかで「最もよく効く胃薬は?」と問われれば多くの医療者は「PPI」と答えると思います。

 PPI、正確にはプロトンポンプインヒビター(proton pump inhibitor)と呼ばれる胃酸分泌を抑制する薬は日本では90年代前半に登場し、あっという間にシェアを伸ばしました。非常によく効く上に、副作用があまりないと考えられており、今では消化器内科医のみならず多くの医師が”簡単に”処方しています。

 そのPPIが今年(2016年)になり、突然「キケンな薬」とみなされることになります。まずきっかけとなったのは「認知症のリスクとなるかもしれない」という報告です。ドイツでおこなわれた大規模研究で、PPI定期使用者の認知症のリスクは使用していない人に比べて44%も上昇していることが分かったのです(注1)。

 次に危険性を発表したのは「米国心臓学会」(American Heart Association)。2016年5月、PPIが血管内皮細胞の老化を加速する可能性があることを報告しました(注2)。「血管内皮細胞の老化の加速」というのは動脈硬化が進行することを意味しており、要するに心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患が起こりやすくなるということです。

 今回お伝えするのも「米国心臓学会」の報告です。2016年11月15日、「大衆向けの胃薬が脳梗塞のリスクを上げる」というタイトルでPPIの危険性をウェブサイトに掲載しました(注3)。

 紹介されているのはデンマークの研究です。対象者はデンマーク国民244,679人(平均年齢57歳)で調査期間はおよそ6年です。この間に脳梗塞を発症したのは9,489例で、発症とPPIの使用状況の関係が検証されています。検討されたPPIは4種。オメプラゾール(先発品の商品名は「オメプラゾン」「オメプラール」)、pantoprazole (Protonix、日本未発売)、ランソプラゾール(タケプロン)、エソメプラゾール(ネキシウム)です。

 解析の結果、PPIを使用していると脳梗塞のリスクが21%上昇していることが判りました。ただし、少ない量の使用であればリスク上昇はほとんどなかったそうです。4種のなかでも差があります。各PPIを最高用量で用いた場合、最もリスク上昇が少なかったのがランソプラゾールの30%、最も高かったのがpantoprazoleの94%でした。

 PPI以外の胃酸分泌を抑制する薬としてH2ブロッカー(ファモチジンなど)があります。H2ブロッカーについては脳梗塞のリスク上昇は認められなかったようです。

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 下記「医療ニュース」でも述べたように、わざわざ高価なPPIを使わなくてもいいのに…、という症例は少なくありません。つまり、PPIに頼らなくても値段の安いH2ブロッカーでコントロールできる例は少なくないように私は感じています。ですから、転勤などで大阪に引っ越してきて新たに当院をかかりつけ医とした患者さんに対してはPPIをH2ブロッカーに変更することがよくあります。

 ただし危険性を意識しすぎて、PPIを一切使わない、というのは行き過ぎです。やはりPPIがどうしても必要な症例もあります。ですが、そういったケースでもPPIで症状を安定させた後は、H2ブロッカーや他の胃薬、あるいは漢方薬などを用いる方がいいでしょう。もちろん薬以上に大切なのは、規則正しい生活、規則正しい食習慣であることは言うまでもありません。 

注1:下記を参照ください。

はやりの病気第151回(2016年3月)「認知症のリスクになると言われる3種の薬」

注2:下記を参照ください。

医療ニュース2016年8月29日「胃薬PPIが血管の老化を早める可能性」

注3:下記を参照ください。

http://newsroom.heart.org/news/Xpopular-heartburn-medication-may-increase-ischemic-stroke-risk

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2016年11月18日 金曜日

2016年11月18日 座りっぱなしはEDのリスクにも

 このサイトでは2013年あたりから「座りっぱなし」は大変危険であり、がんや生活習慣病のリスクになるということを繰り返し紹介してきました。運動などでそのリスクが軽減するという意見もありますが、何をしてもリスクは低下しない、いわば「喫煙と同じようなもの」とする報告もあります。

 座りっぱなしでED(勃起不全)のリスクが上昇する・・・。

 このような日本人を対象とした研究結果が報告され話題を呼んでいます。愛媛大学の学者が「道後Study」と呼ばれる疫学研究のデータを分析しました。医学誌『Journal of Diabetes and its Complications』2016年10月18日(オンライン版)に掲載されています(注1)。

 研究の対象者は、2型糖尿病(生活習慣の乱れから起こる糖尿病)の男性患者430人(平均年齢60.5歳)で、自記式質問紙調査を用いて、喫煙、飲酒状況、運動習慣、降圧薬の服用の有無、これまでの病気、歩行習慣などが調べられ、さらに過去1年間の1日あたりの「座りっぱなし」で過ごした時間が問診されています。座りっぱなしの時間は、①5時間未満、②5~7時間、③7~9時間、④9時間以上の4つに分類されています。

 EDについては、その有無と重症度が調べられています。重症度は、「SHIM(Sexual Health Inventory for Men)」(注2)と呼ばれるED用の問診票で評価され、スコア8未満(1-7点)が「重症ED」、8-11点が「中等度ED」です。

 これらを解析すると、④9時間以上座りっぱなしのグループでは「重症ED」になりやすいという結果になっています。オッズ比は1.84、つまり1.84倍「重症ED」になりやすい、ということです。一方、「中等度ED」と「座りっぱなし」には相関関係が認められなかったようです。尚、この調査では対象者の36.1%が「中等度ED」、49.8%が「重症ED」だったようです。

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 もっと大規模な疫学研究にも期待したくなりますが、理論的に考えても、「糖尿病+座りっぱなし」でEDになりやすいのは理解できることです。糖尿病で血管が老化しているところに、座りっぱなしで下半身の血流が滞るのですから。

 座りっぱなしがNGであるのはもはや疑いようがないと思います。私は以前から「健康のための10の週間」として「3つのEnjoy、3つのStop、4つのDataに注意して!」を提唱しています(注3)。「3つのStop」の1つが「Sitting too much」(座りっぱなし)です。

注1:この論文のタイトルは「Self-reported sitting time and prevalence of erectile dysfunction in Japanese patients with type 2 diabetes mellitus: The Dogo Study」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://www.jdcjournal.com/article/S1056-8727(16)30707-3/abstract

注2:SHIMは下記を参照ください。

http://www.njurology.com/_forms/shim.pdf

注3:詳しくは下記を参照ください。

メディカルエッセイ第129回(2013年10月)「危険な「座りっぱなし」」

参考:
医療ニュース2016年2月27日「「座りっぱなし」はやはり危険」

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2016年11月17日 木曜日

2016年11月17日 寒いところに住めばうつ病になりやすい?

 南国に住んでいる人は陽気で楽天的。うつ病とは無縁の人生…。

 こういうイメージを持っている人が多いと思います。私自身もこのような印象があり、実際、タイ人やフィリピン人の底抜けの明るさに感動を覚えたことが何度もあります。日本でも、沖縄で「おばー」に「なんくるないさー」と言われて心が洗われるような経験をしたことがあります。

 一方、寒い地域の人たちに対するイメージは、笑顔が少なく、行動範囲が狭く(雪のせいで仕方がないのですが)、陽気な印象はあまりありません。

 もちろん、これは一種の「偏見」であり、南国に住む人全員が陽気というわけではありませんし、北国に住む人の大半が陰気というわけではないでしょう。ただし、世界的な統計をみてみても、タイやフィリピンは自殺の少ない国にランクされます。日本でも、東北地方は比較的自殺率が高いことはよく知られています。(警察庁の2015年の統計(注1)では、沖縄は自殺率が低いランキングで19位。ずば抜けて低いわけではなさそうです)

 今回、カナダで緯度と自殺率の高さの関係が調べられた研究が報告されたのでお伝えしたいと思います。その研究では、「緯度が高いほどうつ病の罹患率が上がる」、つまり「寒い地域に住むとうつ病になりやすい」という結論がでています。医学誌『Canadian journal of psychiatry』2016年10月11日号(オンライン版)に掲載されています(注2)。

 この研究は、全国規模でおこなわれた2つの調査(The National Population Health Survey、the Canadian Community Health Survey)を解析することによりおこなわれています。調査期間は1996~2013年で、全回答者のうち、495,739例については「うつ」の調査がおこなわれており、これらのデータと緯度との関係が調べられました。緯度は郵便番号で解析されています。

 結果、緯度が高くなれば、うつ病の有病率が増加することがわかったそうです。また、この傾向は北緯55度未満で発生する傾向があったとされています。

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 カナダは地理的に最も南の都市がトロントになると思います。調べてみると、トロントで北緯43度でした。ちなみに、北緯55度に近い有名な都市となると、エドモントンで北緯53度です。この研究は、だいたい北緯43度から緯度が上がるにつれてうつ病の有病率が上昇し、その傾向は北緯55度まで続く、と読むことができます。

 となると、気になるのは、北緯55度以北はどうなのか、ということと、北緯43度まではどうなのかということです。北緯55度以北の国となると旧ソ連と北欧が該当し、厚労省のデータ(注3)によれば、たしかに旧ソ連の国は人口あたりの自殺率が高いような傾向があります。しかし北欧については、以前は自殺が多い国と言われていたこともありましたが、現在はそうではありません。

 では、北緯43度以南はどうなのでしょう。先に述べたように東北地方の自殺率が高いことは有名ですが、北海道ではそうでもありません(注1)。

 この研究を聞いてもうひとつ気になるのは、北緯43~55度までなら日本で同じことが言えるのか、ということです。ちょうど札幌が北緯43度くらいです。カナダのこの研究が普遍的なものだとしたら、札幌より北部に住むとうつ病になりやすい、ということになりますが、実際はどうなのでしょう…。

注1:警察庁の下記ページを参照ください。
https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/jisatsu/H27/H27_jisatunojoukyou_01.pdf

注2:この論文のタイトルは「Major Depression Prevalence Increases with Latitude in Canada」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://cpa.sagepub.com/content/early/2016/10/03/0706743716673323.abstract

注3:下記を参照ください。
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/hoken-sidou/dl/h22_shiryou_05_08.pdf

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2016年11月3日 木曜日

2016年11月4日 エンテロウイルスD68、8割以上に手足の麻痺残る

 2015年8月以降、エンテロウイルスD68の報告が突然急増しだし、同時に急性弛緩性麻痺の症例の報告が相次いだことから、厚生労働省が「急性弛緩性麻痺(AFP)を認める症例の実態把握について(協力依頼)」という事務連絡を発令した、ということを以前紹介しました(注1)。

 日本小児科学会は、このウイルスと小児麻痺のその後の経過についてまとめて発表しました(注2)。

 この報告では、エンテロウイルスD68が原因で脊髄炎を発症し、手足の麻痺が生じた54症例(男32例、女22例。15歳以下が51例、3例が成人。麻痺の症時期は、2015年8月6例、9月36例、10月9例、11月3例)が分析されています。麻痺が完治したのは54人中わずか5人(9%)のみで、33人(61%)は軽度の回復のみ、11人(20%)は改善が見られなかったそうです。つまり8割以上に手足の麻痺が残っていることになります。

 手足の麻痺以外には、4人(7%)に意識障害、11人(20%)に手足の感覚障害が生じています。8人(15%)に脳神経症状(顔面麻痺や嚥下困難)、13人(24%)に膀胱直腸障害(排尿・排便がうまくできない)が認められています。

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 下記「はやりの病気」にも書いたように、米国CDC(疾病管理センター)が2014年12月に、「新たな感染症の脅威(New Infectious Disease Threats)」というタイトルで4つの感染症を挙げ、そのうちのひとつがこのエンテロウイルスD68です。

 現在のところ、この病原体に対する特効薬もなければワクチンもありません。一般の感染予防をおこなうしかないのです。米国とは対照的に、日本ではなぜかあまりこの病原体については取り上げられませんが、もっと注目されるべきです。

 今年はなぜか流行していないようですが、こういった感染症はある時突然流行りだします。日ごろから家族全員でうがい・手洗いをおこなう習慣ができているかどうか再確認すべきです。

注1:はやりの病気第150回(2016年2月)「エンテロウイルスの脅威」

注2:報告書のタイトルは「2015年秋に多発した急性弛緩性麻痺症例に関する臨床的考察~急性弛緩性脊髄炎を中心に~(中間報告)」で、下記URLで全文が読めます。

http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20160724enterovirus1.pdf

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2016年11月3日 木曜日

2016年11月3日 これからのインフルエンザウイルスワクチン

 現在の日本でのインフルエンザウイルスのワクチンは皮下注射のタイプのみです。しかし、世界的には、筋肉注射、皮内注射、鼻スプレー型があり、さらに近い将来、舌下型も登場することになりそうです。ここでは、これらを簡単にまとめてみたいと思います。

 まず、現在日本でおこなわれている日本の皮下注射型について知っておくべきことは、海外ではこれと同じものが筋肉注射されているということです。筋肉注射の方が皮下注射よりも効果が高いからです。しかも、痛みは意外なことに皮下注射の方が強いのです(注1)。では、日本でも筋肉注射にすればいいではないかと思う人もいるでしょうが、不条理なことに日本では筋肉注射が認められていません。

 ところで、皮膚を解剖学的にみてみると、外から皮内(表皮層+真皮層)、皮下組織、筋肉組織となります。皮下注射より、筋肉注射の方が痛くなくて効果が高いなら、皮内なんて全然ダメなのかなと思われがちですが、これまた意外なことに、効果の高さは、皮内>筋肉>皮下、であることが分かっています。これは、皮内に免疫系の細胞が豊富に存在しているためで、ワクチンが注入されると効果的に抗体が産生されるからだと考えられています。また、痛みの程度も、痛くない順に、皮内>筋肉>皮下なります。ということは、皮内注射が効果の面でも痛みの面でも最善ということになります。

 では、皮内注射の欠点はなにかと言えば、それは「注射しにくい」ということです。細い針を使っても技術的に注射が困難で、皮内に注射したつもりでも皮下に入ってしまうことがあるのです。しかし、これを克服した製品が相次いで開発され、日本でも近々市場に登場することになりそうです。特殊なデバイスが開発され、そのまま垂直に皮膚に刺せばワクチンが皮下には届かず皮内に注入されるという仕組みです。

 海外では鼻スプレー型のワクチンもあります。これは針を使いませんから痛くありませんし、インフルエンザウイルスは飛沫感染で鼻や喉から感染するわけですから、鼻腔に抗体を誘導することで注射よりも効果があるのではないかと考えられてきました。日本でも発売は間近と考えられてきました。

 ところが、です。米国小児学会(American Academy of Pediatrics)が「鼻スプレー型のインフルエンザワクチンは効果が低いため使用すべきではない」という見解を発表しました(注2)。CDC(米国疾病管理予防センター)の報告によれば、2015~16年、鼻スプレー型ワクチンの2~17歳の小児における有効性はわずか3%。一方、注射型ワクチンは63%だったそうです。3%と63%、この歴然とした差を見せつけられ、日本でも導入予定だった鼻スプレー型ワクチンの先行きが怪しくなってきました。

 もうひとつ、注目されている新しいワクチンがあります。しかも日本発です。現在、日東電工が開発しているワクチンはなんと「舌下錠」です。舌の下にこの錠剤を1分程度置いて吸収させるそうです。舌下錠は痛くもありませんし、使用にあたり必ずしも医師や看護師の立ち合いが必要でないとされるかもしれません。もしもこの舌下錠が効果も安全性も高いことが証明されれば、世界中で一気に普及するかもしれません。同社では、現時点では、2020年以降の製品化を目指しているそうです。

 もうひとつ、インフルエンザワクチンの最近の話題をお伝えしておきます。それは、妊婦への「チメロサール」含有ワクチン使用についてです。チメロサールは有機水銀の一種であることから、これまでは妊婦はチメロサールフリーのものを使用すべきという声がありましたが、これが否定されました。2016年8月1日、日本産科婦人科学会は、妊婦にも躊躇せずにチメロサール含有ワクチンを接種するよう促す文書(注3)を公開しました。

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 チメロサール含有ワクチンが危険という声はつい最近までありましたし、その前は、そもそも妊婦はインフルエンザワクチンをうつべきでないという意見もありました。それを思えば、随分とインフルエンザワクチンに対する考え方が変わったものです。

 鼻スプレー型の効果が乏しいことが分かった以上、現時点では、皮内型の登場が待ち望まれているといっていいでしょう。そして2020年以降は、日東電工の舌下型が主流となるかもしれません。私は利益目的で株式を購入したことがありませんが、こういう情報は投資家の人たちにはどのようにうつるのでしょうか・・・。

注1:毎日新聞「医療プレミア」に詳しく書いたことがあります。興味がある方は参照ください。

日本のワクチン注射 世界の”非常識”

注2:米国薬剤師協会(American Pharmacist association)のサイトで紹介されています。記事のタイトルは「Recommendations for prevention and control of influenza in children, 2016-2017」で、下記URLで読むことができます。

https://www.pharmacist.com/recommendations-prevention-and-control-influenza-children-2016-2017

注3:下記で全文が読めます。

http://www.jsog.or.jp/news/html/announce_20160801_1.html

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2016年11月1日 火曜日

2016年10月31日 認知症予防にはコーヒー?それとも緑茶?

 認知症の予防にはこれさえやっておけばOK、というものはありません。運動、禁煙、栄養のある食事などは必要でしょうが、これらを続けていても必ず防げるわけではありません。しかし、少しでもリスクを下げられるものがあるなら検討することに価値はあるでしょう。

 今回紹介したいのは、カフェインと緑茶についての2つの研究です。どちらも「効果あり」という結果がでています。

 65歳以上の女性を対象とした研究で、カフェインをたくさん摂取すれば認知症(dementia)及び認知機能障害(cognitive impairment)の発生率を下げられることがわかった・・・。

 医学誌『The journals of gerontology』2016年9月27日号(オンライン版)にこのような論文(注1)が掲載されました。研究は、米国の65歳以上の女性を対象とした調査「The Women’s Health Initiative Memory Study」に協力した6,467人を解析することにより行われています。

 認知症に関連する危険因子である喫煙やアルコール、生活習慣病などの影響を調整し、カフェイン摂取量と認知症/認知障害のリスクを検討したところ、カフェインを中央値よりもたくさん摂取する女性は、中央値以下の女性と比べて、認知症、認知障害のリスクが共に0.74倍(26%のリスク減)に低下していることがわかったそうです。

 もうひとつの研究は日本のものです。

 毎日緑茶を5杯以上飲めば認知症のリスクが低下する・・・。

 医学誌『The American journal of geriatric psychiatry』2016年10月号(オンライン版)にこのような研究結果(注2)が報告されました。

 研究は東北大学でおこなわれ、対象者は65歳以上の日本人男女13,645人、追跡期間は5.7年間です。この研究は「前向きコホート研究」と呼ばれる方法でおこなわれています。これは疫学調査では最も信頼性が高い研究方法です。

 結果、5.7年間で認知症の発症率は8.7%。緑茶を1日に5杯以上飲む人は、1日1杯未満の人に比べると発症率が0.73倍(27%のリスク減)であることがわかったそうです。

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 米国人は通常緑茶をあまり飲みませんから、米国の研究でいうカフェインはコーヒーまたは紅茶と考えていいでしょう。比較的同時期に発表された日米2つの研究がほぼ同じ数値(米国のものは0.74倍、日本のものは0.73倍)を示したところが興味深く感じられます。

 緑茶にもカフェインは含まれますから、これら2つの研究は同じようなことを言っているのかもしれません。カフェインは摂取しすぎると中毒性もありますから、認知症予防目的であっても過剰摂取するのは危険ですが、適度に楽しむのは有効でしょう。少なくとも、炭酸飲料や清涼飲料水のコーヒーや紅茶への置き換えは検討すべきです。ファストフードのセットメニューを注文するときにこのことを思い出せればいいのですが・・・。

注1:この論文のタイトルは「Relationships Between Caffeine Intake and Risk for Probable Dementia or Global Cognitive Impairment: The Women’s Health Initiative Memory Study」で、下記URLで概要を読むことができます。

https://biomedgerontology.oxfordjournals.org/content/early/2016/09/20/gerona.glw078.abstract?sid=d0698e2d-94d4-422b-8fbb-7729897c1397

注2:この論文のタイトルは「Green Tea Consumption and the Risk of Incident Dementia in Elderly Japanese: The Ohsaki Cohort 2006 Study」で、下記URLで全文を読めます。

http://www.ajgponline.org/article/S1064-7481(16)30177-4/fulltext

参考:はやりの病気第131回(2014年7月)「認知症について最近わかってきたこと」

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2016年10月28日 金曜日

2016年10月28日 片頭痛があれば甲状腺機能低下症にも注意

 病気には性差というものがあります。例えば、関節リウマチは女性の方が多いですし、慢性炎症性腸疾患のクローン病は男性に多い疾患です。

 頭痛は男女ともに起こりますが、頭痛の種類によって男女差は異なります。アルコールが引き金になることが多い「群発頭痛」は男性に多い一方で、片頭痛は女性に多いという特徴があります。

 甲状腺疾患は男性でも珍しくありませんが女性に多いのは間違いありません。特に「甲状腺機能低下症」は圧倒的に女性に多い疾患です。

 片頭痛、甲状腺機能低下症とも比較的よくある疾患(common disease)であり、両者を合併している患者さんも少なくありません。しかし、これら2つの疾患のメカニズムは互いに関係なく、どちらかを発症するともう一方の疾患のリスクが上がるとは理論上は言えないと思われてきましたが、そうではないかもしれません。

 片頭痛を有している患者は、甲状腺機能低下症のリスクが4割も上昇する・・・。

 医学誌『HEADACH』2016年9月27日号(オンライン版)に掲載された論文(注1)にこのようなことが述べられています。

 研究の対象者は、米国オハイオ州在住の成人8,788人(最終的に解析の対象となったのは8,412人)で、20年間の追跡調査がおこなわれました。その結果、頭痛全体では甲状腺機能低下症を発症するリスクが21%高くなり、片頭痛に限定すれば41%も上昇することが判ったそうです。

 ただし、この論文では、片頭痛が甲状腺機能低下症を引き起こす(あるいはその逆の)ことを理論的に説明しているわけではなく、関連性の機序は不明のままです。

 研究者によれば、甲状腺機能低下症の治療をおこなえば、頭痛の頻度が減少することが期待でき、また、頭痛があり甲状腺機能低下症を新たに発症すると頭痛の頻度が増えることがあるそうです。
 
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 この論文では、米国の片頭痛の有病率が12%、甲状腺機能低下症は0.1~2%とされています。日本では、片頭痛については数値が高くでた研究でも10%を超えませんから、米国人の方が多いのでしょう。一方、甲状腺機能低下症は、日本では2%ということはなく、少なくとも数パーセントはあります。高齢女性に限定すると10%とするものもあります。また、甲状腺機能低下症の原因となる「橋本病」は疾患名から分かるように日本に多い疾患です。

 これらを考えると、米国と日本では同じように考えることができず、日本での片頭痛と甲状腺機能低下症の関連性は現段階では不明です。しかし、甲状腺機能低下症の症状である、便秘、低体温、浮腫(むくみ)、低血圧などがあり、なおかつ片頭痛を持っている患者さんには、甲状腺の検査をすべきかもしれません。

注1:この論文のタイトルは「Headache Disorders May Be a Risk Factor for the Development of New Onset Hypothyroidism」で、下記URLで概要を読むことができます。ただし、上記「41%の上昇」については概要には記されておらず、論文の本文に記載されています。論文は有料になりますので、ここではその該当箇所だけ原文を載せておきます。(論文の6ページの左に該当箇所があります)

Our study found that patients with preexisting headache disorders had a 21% increased risk of developing new onset hypothyroidism while those with possible migraine showed an increased risk of 41%.

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/head.12943/full

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

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