医療ニュース
2017年7月31日 月曜日
2017年7月31日 体重は「現時点と20歳時の差」が重要
私が研修医の頃、循環器内科のT先生は、初診の患者さん全員に「20歳時の体重」を尋ねていました。T先生によれば、現在の体重そのものよりも、20歳時の体重との「差」の方が生活習慣病のリスクとして重要だそうです。
一般的には、生活習慣病のリスクを考慮するときは「現在の体重(もしくはBMI)」を基準とします。しかし、T先生に指導を受けていた私は、T先生の基準の方がずっと参考になることを何人もの患者さんを診察して”実感”し、私自身も「20歳時の体重」を尋ねるようになりました。
ただ、そうはいってもそれを実証した(エビデンスレベルの高い)研究はあまり目にしたことがありませんでした。しかし最近ついに見つけました。医学誌『JAMA』2017年7月18日号に掲載された論文(注)です。
米国ハーバード大学公衆衛生学教室のYan Zheng氏らの研究で、研究の対象としたのは(このサイトでも何度か紹介している)「看護師健康調査(Nurses’ Health Study:NHS)」と「医療従事者追跡調査(Health Professionals Follow-Up Study:HPFS)」。対象者数は女性92,837例(37年間の平均体重増加は12.6kg)と、男性25,303例(34年間の平均体重増加は9.7kg)。女性は18歳時、男性は21歳時の体重が基準とされています。
基準の時点から55歳までで体重が2.5~10.0kg増加した人は、増加しなかった人に比べて、糖尿病、高血圧、心血管障害などの発症リスクが有意に高く、慢性疾患や認知機能、身体障害などを持たずに過ごせる割合が低下することが判りました。具体的な発症率は次のような結果です。(数字は人口10万人・年あたりです)
女性体重不変 女性体重増加 男性体重不変 男性体重増加
糖尿病 110 207 147 258
高血圧 2,754 3,415 2,366 2,861
心血管疾患 248 309 340 383
肥満関連のがん 415 452 165 208
体重増加が大きければ大きいほど発症リスクは増大することが判っています。
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ここで疑問になるのが、「では20歳時のときに肥満であった場合やせなくてもいいのか?」というものです。これを検証した研究は私の知る限りないのですが、私には臨床を通しての”実感”があります。これを一言で言うのはむつかしいのですが、例えば、柔道やアメリカンフットボールをしていて体重が標準より多い場合、つまり筋肉量が多いことが予想できる場合、中年になって、たとえその筋肉が脂肪に置き換わっていたとしても、体重が増加していなければあまり生活習慣病にはなりません。
20歳時に不健康に太っている、つまり脂肪が多く筋肉が少ない場合、中年期にさらに体重が増えていれば多くの疾患のリスクは上昇しますが、それほど体重が増えていない場合は、意外にも血圧や血糖は正常であることが多いのです。
ということは20歳時の時点で、肥満がある場合、それが筋肉質であったとしても脂肪過多であったとしても、その時点で血圧や血糖、その他血液検査に異常がなければ、生活習慣病のリスクは上がらないということになります。現時点でここまで言い切ってしまうのは”危険”ですが、私の実感としては「現在の体重」よりも「現在と20歳時の体重の差」が重要なのです。
注:この論文のタイトルは「Associations of Weight Gain From Early to Middle Adulthood With Major Health Outcomes Later in Life」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/2643761
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|2017年7月31日 月曜日
2017年7月30日 プロバイオティクスは乳幼児の感染予防に効果なし
昨今の腸内細菌ブームは凄まじいものがあります。腸内フローラ、糞便移植、発酵食品、食物繊維などがキーワードとなっており、おなかのなかのいい菌を増やして、その菌にあやかって健康になろうとするムーブメントは単なる「流行」を超えているような気がします。マスコミからの取材依頼も、このテーマで寄せられることが増えてきました。
今回紹介したいのはそういう意味では「残念な」結果です。実際、この研究を取り上げた『Health Day』というオンラインの健康情報サイト(注1)では、露骨に「残念な結果(disappointing results)」と書いています。
その研究が報告されているのは医学誌『Pediatrics』2017年7月3日号(オンライン版)。対象者は8~14か月のデンマークの健康な乳幼児290人です。144人には6か月間プロバイオティクス(ビフィズス菌(Bifidobacterium)と乳酸菌(Lactobacillus))を摂取してもらい、146人には摂取してもらいませんでした(正確に言えばプラセボが投与されました)。
結果、保育園を休んだ日数に差はなく、また、風邪症状、下痢、発熱、嘔吐などの発生頻度にも有意差はありませんでした。一方、プロバイオティクスの副作用もありませんでした。
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プロバイオティクスに有効性が認められなかった理由として、研究者らは「今回の研究の対象者の多くが母乳栄養で育てられていた」ことを挙げています。さらに上述の『Health Day』の記事は、「母乳がベスト」というカリフォルニア大学サンフランシスコ校の小児科医カバナ(Cabana)の言葉を引用しています。
カバナ医師は、それぞれの母親の母乳中に独自のヒト乳オリゴ糖(human milk oligosaccharides)が含まれていることを指摘し、母乳がプロバイオティクスより優れていると主張しています。オリゴ糖は、赤ちゃんの消化管内の特定の細菌の増殖を促します。このような物質を最近は「プレバイオティクス」と呼びます。
プロバイオティクスが乳幼児が抗菌薬を内服したときに起こる下痢に有効とした論文は過去にありますが、これは当たり前と言えば当たり前で、成人でもよくあることです。結局のところ、プロバイオティクスが免疫能を上げ感染症予防になることを高いエビデンスレベルで示した研究は今のところ「ない」と考えるべきでしょう。
現時点では乳児にとって「母乳」に勝る食品はないということです。ですが、世の中には母乳の出ないお母さんもたくさんいますし、母親がいない乳幼児もいます。そういった子供たちのためにもプロバイオティクス/プレバイオティクスのさらなる研究は期待されているのです。
注1:下記URLを参照ください。
注2:この論文のタイトルは「Probiotics and Child Care Absence Due to Infections: A Randomized Controlled Trial」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://pediatrics.aappublications.org/content/early/2017/06/29/peds.2017-0735
下記なら全文を読むことができます。
http://pediatrics.aappublications.org/content/pediatrics/early/2017/06/29/peds.2017-0735.full.pdf
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|2017年7月28日 金曜日
2017年7月28日 膀胱炎にニューキノロンを容易に使ってはいけない
このサイトでも何度か紹介したことのあるchoosing wisely。私の希望とは裏腹に、あまり日本では浸透していませんが、非常に大切な概念であり、我々医師も行政も、そしてもちろん患者さんにとっても「有益」なものです。choosing wiselyの概念を一言で言えば「ムダな医療」をなくすということ。具体的な「ムダな医療」の”あぶり出し”をおこなうために、米国の各学会が5つの例を挙げています。
2017年5月13日、米国泌尿器学会(American Urological Association)は、「ムダな医療」をなくすための5つの提言をおこないました(注1)。その5つのうちのひとつが「合併症のない女性の膀胱炎に容易にニューキノロン系抗菌薬を使ってはいけない」です。
ここでいう合併症は、例えば重症の糖尿病とか、HIV、悪性腫瘍といった特に免疫系に異常がおこりやすい疾患のことです。健康な女性の場合は、膀胱炎にニューキノロンでなく、他のより適切なものを使いなさい、ということです。
ニューキノロン系抗菌薬というのは一言でいえばとても”強力”な抗菌薬で、イメージで言えば「最終兵器」に近いものです。そんなものを単なる膀胱炎に使用すれば使用量が増え、いざというときに利かなくなる、つま「耐性菌」が出現することになります。商品名(先発品)で言えば、クラビット、タリビット、シプロキサン、オゼックス、グレースビット、スオード、アベロックス、ジェニナックなどです。米国泌尿器学会はこれらニューキノロン系抗菌薬の副作用を懸念するよう警告しています。
では、どのような抗菌薬を使えばいいのかというと、同学会はニトロフラントイン(nitrofurantoin)やST合剤(スルファメトキサゾール・トリメトプリム,sulfa-trimethoprim)を推奨しています。
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日本は他国に比べ、ニューキノロン系抗菌薬が簡単に使われすぎていることがよく指摘されます。私は、別のところで「毎回風邪にクラビット」を処方する医師を批判したことがありますが、患者さん側も「風邪にはクラビット」と信じている人もいて驚かされます。風邪(上気道炎)に抗菌薬が必要なのは重症の細菌性のものだけであり、太融寺町谷口医院の例でいえば、せいぜい1~2割程度ですし、そのなかでクラビットを含むニューキノロン系抗菌薬が必要な例は年間数例に過ぎません。
膀胱炎の場合、重症化している場合には確かにニューキノロン系を用いるべきこともありますが、たいていはペニシリン系か第一世代セフェム系で事が足ります。ただ、米国泌尿器学会が提唱しているニトロフラントインやST合剤を日本で用いるのは現実的ではありません。そもそもニトロフラントインは日本では販売されていませんし、ST合剤を使いにくいと感じている医師は少なくなく、実は私もその一人です。
ST合剤はたしかに米国では膀胱炎などに頻繁に使われるのですが、それなりに強力な抗菌薬であり、エイズの合併症として有名なカリニ肺炎にもよく効きます。私はタイのエイズ施設で、ST合剤を頻繁に処方していましたが、かなりの確率(私の印象では3~4割)に薬疹が出ます。HIV陽性者に薬疹が出やすいのは事実ですが、ST合剤はHIVに関わりなく薬疹を含む副作用が起こることは少なくありません。日本の添付文書には「【警告】血液障害、ショック等の重篤な副作用が起こることがあるので、他剤が無効又は使用できない場合にのみ投与を考慮すること」と目立つように赤字で書かれています。わざわざこのように「警告」されている薬は容易に使えないのです。
風邪(上気道炎)の場合も、膀胱炎の場合も、重症度の判定、およびどのような細菌が原因になっているかについてはグラム染色という方法を用いて炎症細胞や細菌の像を観察します。グラム染色は簡単にできて数分で結果がでて、おまけに安い検査です。(培養検査やPCR法は高額になります)
つまり、膀胱炎の症状があるから抗菌薬、ではなく、まず尿沈渣のグラム染色をおこない、その結果に基づいて抗菌薬の有無を判定し、必要な場合は炎症の程度と菌の種類(グラム陽性菌か陰性菌か、桿菌か球菌か)を考えて抗菌薬を選択すれば、ニューキノロン系抗菌薬の出番はそう多くないのです。
注1:米国泌尿器学会のプレスリリースは下記を参照ください。
http://auanet.mediaroom.com/2017-05-13-As-Part-Of-Choosing-Wisely-R-Campaign-American-Urological-Association-Identifies-Third-List-Of-Commonly-Used-Tests-And-Treatments-To-Question
また、choosing wiselyのウェブサイトの該当ページは下記です。
http://www.choosingwisely.org/clinician-lists/american-urological-association-fluoroquinolones-for-uncomplicated-cystitis-in-women/
5つの提言の他の4つも簡単に紹介しておきます。
①低リスクの限局性前立腺がんの治療を容易におこなうべきでない
②オピオイド系鎮痛薬を漠然と使わない
③血尿があるからといってルーチン検査として尿細胞診や尿中マーカー検査をすべきでない
④腎結石疑いの小児患者に容易にCT撮影をすべきでない
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|2017年7月9日 日曜日
2017年7月9日 鎮痛剤は心筋梗塞のリスク
鎮痛剤(痛み止め)は安易に飲むべきでない、ということはこのサイトでも繰り返し訴えていますし、日々の診察室でも毎日伝えています。世の中には、痛み止めを安易に使いすぎる人が少なくなく、初診時にはすでに「薬物乱用頭痛」を起こしている人もいます(注1)。
なぜ鎮痛剤を飲みすぎてはいけないのか。たくさんの理由があります。まずは「依存性」があることを自覚すべきです。重症化するとベンゾジアゼピン系睡眠薬と同じかそれ以上にやめることに苦労することもあります。次に臓器への障害があります。特に腎臓の障害を起こすことは珍しくなく、短期間であっても急性腎不全になり入院が必要になることもあります。長期的には心血管系病変のリスクがあります。
今回紹介したい研究は「鎮痛剤の使用で心筋梗塞のリスクが顕著に増加する」というもので、特筆すべきなのは「最初の1ヵ月が最もリスクが高い」ということです。以前から長期使用での心血管系疾患のリスクは指摘されていましたが、短期間でも危険性があることになります。
医学誌『British Medical Journal』2017年5月9日号(オンライン版)に件の論文が掲載されています。研究は過去に発表された論文を総合的に分析する方法がとられています。研究の対象者は合計446,763例で、このうち61,460例が急性心筋梗塞を発症しています。
今回検討されているのは「イブ」や「ロキソニン」などのNSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛薬)と呼ばれる鎮痛剤です。驚くべきことに調査対象となったすべてのNSAIDsで心筋梗塞のリスクが増加しています。使用量は多いほど高リスクとなっています。内服開始1週間でリスク上昇が認められ、1カ月でリスクがピークとなります。各NSAIDsのリスクは次の通りです。
・イブプロフェン(イブ、ナロンエース、バファリンルナなど) 1.48倍
・ジクロフェナク(ボルタレン) 1.50倍
・ナプロキセン(ナイキサン) 1.53倍
・セレコキシブ(セレコックス) 1.24倍
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各NSAIDsの特徴を簡単に記しておきます。きちんとしたデータは見たことがありませんが、おそらく日本で最も使用されているNSAIDsはイブプロフェンだと思われます。理由は薬局で簡単に買えるからです。商品名で言えば、「イブ」の各シリーズ、バファリンプレミアム、バファリンルナ、ノーシンピュア、ナロンエース、フェリア、リングルアイビーなど多数あります。「ブルフェン」という名称の処方薬もありますが、医療機関ではあまり処方されず他のNSAIDsが好まれる傾向にあります。
医療機関で処方量の多いNSAIDsとしてロキソプロフェン(先発の商品名は「ロキソニン」)が挙げられます。これはなぜか日本で特に処方例が多く、海外ではさほど用いられていません。ですから、今回紹介したものも含めて海外の論文にはあまり登場しません。ロキソプロフェンはイブプロフェンと性質が似ていますが、胃腸への副作用がイブプロフェンよりも少ないという特徴があります。ですが、まったくないわけではなく、ロキソプロフェンで胃に穴があいた、という症例も珍しくはありません。(ロキソプロフェンについては下記メディカルエッセイ(注3)も参照ください)
ここ数年、使用量が増えているのがセレコキシブです。これは他のNSAIDsに比べて胃腸障害が少ないのが特徴で、そのため慢性の疼痛のために長期間鎮痛薬が必要な人に好まれます。ですが、今回の研究で明らかになったのは、胃腸障害が軽減されたとしても心筋梗塞のリスクはあるということです。
どのNSAIDsも内服開始後1週間から1か月くらいの間に心筋梗塞のリスクが上がることは覚えておいた方がいいでしょう。また、NSAIDsは血圧をあげるという副作用も忘れてはいけません。
注1;薬物乱用頭痛については下記コラムを参照ください。
はやりの病気第96回(2011年8月)「放っておいてはいけない頭痛」
注2:この論文のタイトルは「Risk of acute myocardial infarction with NSAIDs in real world use: bayesian meta-analysis of individual patient data」で、下記URLで全文が読めます。
http://www.bmj.com/content/357/bmj.j1909
注3:下記を参照ください。
メディカルエッセイ第97回(2011年2月)「鎮痛剤を上手に使う方法」
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|2017年6月30日 金曜日
2017年6月30日 咳止めの「コデイン」が12歳未満は禁止に
「コデイン」というのは咳止めの代表的な薬剤で、医療機関でよく処方されますし、また、多くの市販の風邪薬に含まれています。一般的に使用されるようになってからおそらく50年以上はたっているでしょう。
2017年6月22日、厚労省は12歳未満へのコデインの使用を原則禁止することを発表しました。具体的には、製薬会社に対し2019年中に添付文書を改訂するように指示するそうです。報道によれば、コデインが含まれる市販の風邪薬は600種類にものぼるそうです。
これまで普通に使われていたコデインをなぜ厚労省が禁止とするのか。どうやら米国FDA(米食品医薬品局)が2017年4月に12歳未満への処方を禁じたことを受けて、まったく同じ処置をとろうと考えたようです。
医師がコデインを処方するときは慎重に投与しますが、それでも副作用の報告があります。日本では2004年4月~2017年5月に、呼吸不全や意識障害などの子供の重篤な副作用が4例報告されています(毎日新聞2017年6月4日)。
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コデインは「劇薬」というよりは「麻薬」そのものと考えた方がよく、実際アヘンから抽出されるものです。大量摂取すればいわゆるダウン系の薬物と同様の作用があり、80年代には随分と問題になりました。アンプル剤の咳止め(製品名は伏せます)にコデインがそれなりに含まれていて、これを10~20本ほど一気に飲んで「トリップ」する遊びが流行したのです。しかもこのアンプル剤、同じく咳止めとして使われる「エフェドリン」もそれなりに含まれていて、こちらは大量摂取すると覚醒剤と同じような作用があります。つまり、ダウン系の麻薬とアッパー系の覚醒剤を同時摂取することになり、いわば「スピードボール」が作用したときと同じような状態になるのです。
そのような危険なものをなんで使うの?という声もあるでしょうが、適量をうまく使えば劇的に咳の苦しみから解放されることがあるのです。特に体力のない幼児が眠れないほどの咳をしているときは、短い日数を条件に少量を処方する(というか水薬に混ぜる)のです。今後、コデインが使えないとなると咳の対処に苦労しそうです。
もっとも、コデインを代表とした中枢性の咳止めは安易に処方すべきではありませんし、市販の咳止めも安易に飲むべきでないのは事実です。咳反射を司っている神経を無理やり抑え込むようなやり方ですから、使用はやむを得ない場合に限定すべきです。咳で最も重要なのは「原因究明」です。咳の原因は様々であり、これらを解明することが何よりも重要なのです。太融寺町谷口医院には昔から「長引く咳」で受診する人が大勢います。安易に「咳止めをください」という患者さんに私が毎回伝えているのは「まず咳止め」ではなく「まず原因」です。
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|2017年6月28日 水曜日
2017年6月28日 60歳未満の高血圧は認知症のリスク
少し前、高齢者の血圧低下は認知症のリスクになるという興味深い研究を紹介しました(注1)。今度はその逆で、若年者(60歳未満)の高血圧はアルツハイマー病のリスクになる、という研究です。
論文は医学誌『Alzheimer’s research & therapy』2017年5月31日号(オンライン版)に掲載(注2)されています。
研究はノルウェーの研究者によりおこなわれ、対象者は「HUNTスタディ」(Nord-Trondelag Health Study)と命名された研究に参加した合計24,638人です。そのうち579人が、アルツハイマー病、血管性認知症、または両者の混合型認知症と診断されています。
データが分析された結果、60歳以上では、収縮期血圧(上の血圧)が高ければアルツハイマー病および混合型認知症の発症リスクが低いことがわかりました。(血管性認知症には相関関係は認められませんでした)
一方、60歳未満で降圧薬を服用している人では、収縮期血圧が高いとアルツハイマー病とのリスクが上昇することがわかりました。
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最近の流れをまとめると、高齢者(何歳からかは議論がありますが)の場合は、血圧が下がるとアルツハイマー病のリスクが増えて、中高年者の場合は逆にリスクが上がる、ということになります。
こういった研究はすべての人に当てはまるわけではなく、自分の判断で薬を中断したり開始したりするのは極めて危険です。気になる人はかかりつけ医に相談してください。
注1:医療ニュース2017年4月7日「血圧低下は認知症のリスク」
注2:この論文のタイトルは「Association between blood pressure and Alzheimer disease measured up to 27 years prior to diagnosis: the HUNT Study」で下記URLで全文を読めます。
https://alzres.biomedcentral.com/articles/10.1186/s13195-017-0262-x
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|2017年6月26日 月曜日
2017年6月26日 少量の飲酒でも認知症のリスク!?
「酒は百薬の長」は昔からよく使われることわざですが、私の経験上、この言葉を述べる人のほとんどが「酒飲み」ですし、この言葉を考え付いたのも酒飲みでしょう。ですが実際に、少量の飲酒は血圧を下げ、生活習慣病を予防でき、寿命を延ばすという報告は多数あります。おそらくほとんどの医療者もこれを支持しています。
最近、一流の医学誌にこの「常識」を覆すかもしれない論文が掲載され医療者の間でも話題となっています。その論文とは『British Medical Journal』2017年6月6日号(オンライン版)に掲載されたもので、なんと「少量の飲酒でも認知症のリスクになる」と結論づけています(注1)。
研究の対象者は550人のイギリス人。公務員を対象とした「Whitehall II」と命名された大規模調査に参加した6,306人のなかから無作為に1,380人が選ばれ、その中で研究の趣旨に同意した人たちです。30年間にわたり1週間のアルコール摂取量が調べられ、認知機能が調査され、さらに脳MRIが撮影されています。550人の中からデータ不備などを除いた527人が分析されています。
結果、30年間のアルコール摂取量が多ければ多いほど海馬(脳の記憶をつかさどっている部分)の萎縮のリスクが上昇していることがわかりました。アルコールをほとんど飲まないグループ(週1未満単位、1単位はアルコール8g)と比べると、週30単位以上摂取しているグループのリスクは5.8倍と最も高くなっています。週に14~21単位であっても、右側海馬萎縮のリスクが3.4倍となっていました。さらに少量摂取(週1~7単位)であったとしても認知症の予防効果は認められていません。
アルコール摂取量が多ければ、言語を流暢に話す能力も低下していたようです。
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この論文を読むときには「単位」に注意しなければなりません。アルコールの「単位」はいくつかの基準があり、日本のアルコール健康医学協会は純アルコール20gを1単位と決めています。この方式なら1単位が日本酒1合で(だから日本人にはわかりやすい)、ワインなら1単位が180mLとなりワイングラスに入りきらないくらいの量になります。一方、イギリス式の単位は、この論文ではワイン5杯で14単位と説明されています。以前紹介した論文(下記「医療ニュース」)では「ワイン1杯で3単位」と述べました。
さて、週に14~21単位で海馬のリスクが3.4倍というのは大変ショッキングな結果です。ワインで言えば週にグラス5~7.5杯。ビールで言えば大雑把に行って週に中ジョッキ4~6杯程度です。毎日飲酒するから人からみれば「少量」になります。さらに、これら以下の摂取量であっても少なくとも認知症の予防効果はなかったということになります。
酒は百薬の長・・・、本当に正しいのか疑う必要がありそうです。
注1:この論文のタイトルは「Moderate alcohol consumption as risk factor for adverse brain outcomes and cognitive decline: longitudinal cohort study」で、下記URLで全文を読むことができます。
http://www.bmj.com/content/357/bmj.j2353
参考:医療ニュース
2015年9月29日 どのような人がお酒を飲み過ぎるのか
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|2017年6月2日 金曜日
2017年6月2日 ピロリ菌除菌で酒さが大きく改善
難治性の皮膚疾患で患者数が少なくないのにもかかわらず、なぜかマスコミではあまり取り上げられない酒さ。先日は白ワインが酒さ発症のリスクになるかもしれないという研究をお伝えしましたが、今回はその何倍も衝撃的な報告(注1)を紹介します。
その報告とは、まず酒さの原因のひとつがヘリコバクター・ピロリ菌(以下「ピロリ菌」)かもしれない、というものです。この説は突然湧き出てきたものではなく、以前から一部の医師からは指摘されていました。しかし、反対意見も多く、また高いレベルのエビデンス(科学的確証)をもってピロリ菌と酒さの因果関係を証明した研究は存在しないことから、これまでそれほど強調されてこなかったのです。
今回の研究では、酒さの患者をまず集めたのではなく、その逆で、ピロリ菌陽性者を先に観察することから始めています。研究の対象者はイラン・タブリーズ医科大学(Tabriz University of Medical Sciences)に2013年5月から2015年11月の間に受診したピロリ菌陽性者872名。そのうち167名(19.15%)が臨床的に酒さと診断されました。酒さは血液検査や画像検査で診断がつくのではなく「臨床的」すなわち医師の視診で診断をつける疾患です。
167名のうち150名がピロリ菌の除菌がおこなわれ138人(92%)が除菌に成功しました。除菌に成功した患者が酒さも治ったかどうかについては、酒さのそれぞれの症状について検討されています。ほてり、紅斑、丘疹、熱感、落屑、乾燥、浮腫、眼症状については除菌後に有意差を持って改善しています。一方、血管拡張、周辺部位の症状(これが具体的に何を意味するのかは論文からはよく分かりません)、腫瘤様変化については改善は認められませんでした。
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酒さは人種差があると言われています。私はイラン人の知人が多いわけではなくイランの医療事情のことがよく分からず、それが故にこの報告を日本人にあてはめていいのかどうか判断できません。ですが、ピロリ菌の除菌に成功すればこれだけの統計学的有意差を持って酒さが改善するという結果は注目すべきだと思います。
まだあります。酒さを治すのは困難ですが、ピロリ菌の除菌は一次除菌に失敗したとしても二次除菌(さらに二次除菌に失敗すれば三次除菌…)があります。この報告は酒さで悩んでいる患者さんは一度は検討してもいいと思います。
ですが、酒さの原因は様々であり、おそらくピロリ菌が原因の酒さというのはごく一部だと思います。(この研究でピロリ菌陽性者の19.15%が酒さというのは数字が大きすぎるように感じます。日本ではここまでの数字にはならないと思います) ちなみに、太融寺町谷口医院を受診している酒さの患者さんでいえば、原因として最も多いのがステロイドの不適切使用です。ステロイド外用を長期間使用していたことが原因と考えられるのですが、なかにはステロイドの内服や注射を実施しその後酒さを発症したと思われるケースも少なくありません。
他の酒さの原因として、紫外線曝露、飲酒などが挙げられますが、なかにはまったく原因不明のものもあります。そういったケースではピロリ菌感染の有無を調べてみてもいいかもしれません。
注1:この論文のタイトルは「Effects of Helicobacter pylori treatment on rosacea: A single-arm clinical trial study」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/1346-8138.13878/abstract
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|2017年5月29日 月曜日
2017年5月29日 ワクチン1回では不十分~後遺症も残る麻疹脳炎~
感染研感染症疫学センターが毎月発行している「病原微生物検出情報」2017年5月号に興味深い麻疹(はしか)の症例が報告(注1)されました。この症例は、非常に示唆に富むもので、私がこの報告を読んだ最初の印象は「起こるべくして起こった」というものです。まずはこの症例を簡単にまとめてみましょう。
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【症例】36歳男性。生来健康。
2016年8月中旬より出張でジャカルタ滞在。渡航前は会社から推奨のあったA型肝炎ウイルスワクチン(以下HAV)、 B型肝炎ウイルスワクチン(以下HBV)、日本脳炎ワクチン(以下JE)の3種を接種。9月上旬顔面腫脹、その2日後に高熱と全身の発疹、さらに意識が混濁し現地病院に緊急入院。気管内挿管がおこなわれ人工呼吸器管理となった。様態改善せず、入院4日目にシンガポールへ移送。移送後も痙攣発作を認め麻疹脳炎の診断確定。抗けいれん薬開始。症状改善傾向にあり人工呼吸を中止。発症26日後に帰国し日本の医療機関に入院。
入院時、意識清明であったが、舌が正常に動かない、飲みこむのが不自由など麻疹脳炎の後遺症を認めた。胃に管を入れ栄養を摂りリハビリテーションが開始された。発症から68日後に退院となり退院時には食事が可能となったが、現在も後遺症が残存。
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さて、この症例、渡航前にワクチンを接種していなかったのはなぜでしょう。会社から推奨のあったのは、HAV、HBV、JEの3種のみ。ジャカルタのみなら狂犬病は必須ではなくこれはいいとして、なぜ麻疹と風疹が含まれていないのか、この点が大いに疑問です。そして、会社は医学の専門家ではないですから責任を問われないかもしれませんが(とはいえ、なぜ産業医がこの従業員に麻疹ワクチンの推奨をしなかったのかは追及されることになるかもしれません)、ワクチンを接種していた医師は何をしていたんだ、と感じる人もいるでしょう。
では医師は何をしていたのか。ここからは私の予想です。おそらくワクチンを実施した医師は、麻疹や風疹ワクチンの必要性についても説明したはずです。そして、おそらくこの会社員の男性は、「会社から推奨されていないので大丈夫です」というようなことを言ったのではないでしょうか。
なぜ私にこのような推測ができるかというと、太融寺町谷口医院にも同じようなケースが多数あるからです。この患者さんが言う「大丈夫です」というセリフ、最近頻繁に聞くのですが(もしかすると「流行語」なのでしょうか)、言葉以外から伝わってくるニュアンスとしては「余計なことを言わないで」というふうに感じられることもあり、そうなると現実的にはそれ以上のことが言えず、せいぜい「他の感染症のこともしっかり学んでおいてくださいね」と助言するくらいのことしかできません。
実際には、ほとんどのケースで「大丈夫」でなく、たいへん危険な状態で現地に渡航することになります。では、患者さんがすべて悪いのか、というとそうではなく、会社の辞令や命令で現地渡航するわけで、それに伴う費用は会社が出すべき、という考えは分からなくはありません。決して安くないワクチンを自分のポケットマネーで負担しなくてはならないのは腑に落ちないと考えるのでしょう。
ですが、海外では(本当は日本でも)「自分の身は自分で守る」が原則です。特に感染症は「正しい知識」があれば防げることが多いのです。もしもこの男性が会社に頼らずに、自分自身でジャカルタの医療状況について調べていたらきっとこのようなことにはならなかったに違いありません。
また、もしも会社の上司や人事部が、または産業医がもう少し現地の疾患のことを知っていたら違った対策をとることになったに違いありません。あるいは、ワクチンを接種した担当医が、聞くのを嫌がる男性を引き留めてでも麻疹の危険性を忠告していたら…。
この男性の後遺症が今後どうなるのかは公表された報告からは分かりません。今のところ、この症例は一般のメディアでは報じられていないようですが、関係者のみならず、海外旅行(それは観光も含めて)に行く機会のあるすべての人が知っておくべきだと私は思います。
注1:下記URLを参照ください。
https://www.niid.go.jp/niid/ja/id/1047-disease-based/ma/measles/idsc/iasr-in/7279-447d02.html
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|2017年5月28日 日曜日
2017年5月28日 妊娠中のマクロライド系抗菌薬は流産のリスク
妊娠中は薬に頼らざるをえない事態を可能な限り避けなければなりません。規則正しい生活を心がけて感染症の予防をしっかりとおこなうことが重要です。
しかし、いくら気を付けていても妊娠中に風邪をひくことはあります。ほとんどの風邪はウイルス性ですから治療には何もせずに休養をとるのが一番です。そして、市販の風邪薬の多くは妊娠中には飲んではいけない成分を含んでいます。
では、ウイルス性ではなく細菌性の風邪をひいたとき、あるいは細菌性の膀胱炎や腸炎に罹患したときにはどうすればいいでしょうか。細菌性であったとしても日ごろ健康な人であれば、上気道炎でも膀胱炎でも腸炎でも水分摂取と安静で治ることもあります。ですが、高熱が続いたり倦怠感が強くなってきたりした場合は抗菌薬を使わざるを得ません。
では、妊娠中の抗菌薬はどれくらい危険なのでしょうか。抗菌薬と流産の関係を検証した研究が最近発表されました(注1)。
研究の対象者はカナダ・ケベック州在住で1998年から2009年の間に妊娠して自然流産した15~45歳の妊婦8,702人。対照者は妊娠週数及び妊娠した年を一致させた87,020人の妊婦です。
流産と抗菌薬使用の関係を検討した結果、流産した女性の16%が妊娠初期に抗菌薬を使用していたことが判りました。一方、対照者は13%未満でした。特筆すべきなのはマクロライド系抗菌薬のアジスロマイシン(先発品の商品名は「ジスロマック」)の流産のリスクは1.65倍、クラリスロマイシン(同じく「クラリス」「クラリシッド」)なら2.35倍にもなることが判ったことです。(尚、この研究では、メトロニダゾール、ニューキノロン系、テトラサイクリン系などの流産のリスクにも触れていますが、これらは日本では妊娠中には「禁忌」とされており使用されることはありませんからここでは言及しないでおきます)
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太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)にも妊娠中の患者さんが少なくありません。妊娠前から谷口医院をかかりつけ医にしている人のみならず、従来かかりつけ医を持っていなくて妊娠後に谷口医院を受診するようになったという人もいます。妊娠中は、出産に関することであれば産科の担当医を受診しなければなりませんが、妊娠中に風邪をひいたときなどは、産科医を受診すると他の妊婦さんにうつすリスクがありますから、産科医を受診しにくいのです。
妊婦さんが受診された場合、それがどのような疾患であったとしても薬の処方は最小限にします。(もっとも、谷口医院ではどのような患者さんにも「薬は最小限にすべき」と伝えていますから、実際には妊娠の有無でそれほど変わるわけではありません)
妊婦さんに抗菌薬を処方せねばならない場合、効果が期待できそうであればペニシリン系を選択します。なぜなら、この世界最古の抗菌薬(注2)は、歴史的に大勢の妊婦さんに使用されてきており相対的に安全であることが分かっているからです。
問題は、ペニシリンが役に立たないケースです。ペニシリンはグラム陽性菌とカテゴライズされる細菌には比較的よく効きます。グラム陰性菌に対しては過去にはよく効いていましたが、最近は耐性菌が多く効かないケースも目立ちます。また、細胞内寄生菌といって顕微鏡では観察できない菌のいくらかはペニシリンがまったく無効です。比較的よくあるのがマイコプラズマ、クラミドフィラ(クラミジア)(注3)など咳が主症状となる上気道感染です。この場合、通常は日本ではマクロライド系の抗菌薬を選択するのが一般的です。けれども、今回の研究が示しているように、これだけ流産との相関が高いなら、症状をみながら薬を使わずに自然治癒に期待する選択を積極的に考えるべきかもしれません。
細菌性のものも含めて風邪(上気道炎)を予防するには日ごろのうがい・手洗いが重要です。また、夫に風邪症状があるときには家に帰らないようにしてもらうこともあります。妊娠すれば、可能な限りの風邪をひかない対策を実行すべきなのです。
さて、谷口医院でもしばしば相談を受けるのが「性器クラミジア感染症」です。この疾患は大半が無症状であり、妊娠初期におこなわれる「妊婦検診」で発覚します。谷口医院をかかりつけ医にしている人は、「産科で薬を飲まないといけないと言われたけど大丈夫でしょうか」と言って受診します。また、何らかの事情(おりものの異常がある、無症状だが危険な性交渉があった)などで谷口医院を受診し、性器クラミジア感染症が見つかることもあります。そして妊娠していたという場合がときどきあります。
上気道炎(風邪)の場合とは異なり、性器クラミジア感染症(クラミジア子宮頚管炎)の場合は自然治癒の期待はできません。そして、無症状であったとしても治療しなければなりません。大切な胎児をつつんでいる子宮にそのような細菌が棲息していれば胎児に感染するリスクが出てくるからです。そして、クラミジアにはペニシリン系(およびセフェム系抗菌薬)は一切無効です。また、妊娠していなければクラミジアにも使用できるニューキノロン系やテトラサイクリン系抗菌薬は妊娠中の使用は「禁忌」とされています。結局、マクロライド系抗菌薬しか選択肢がないのです。
しかし、今回の研究が示しているようにマクロライド系は流産のリスクがあるわけです。結局のところ、妊娠する前にきちんと性感染症の検査をしておく、というのが最も大切ということになります。
注1:この論文のタイトルは「Use of antibiotics during pregnancy and risk of spontaneous abortion」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://www.cmaj.ca/content/189/17/E625.abstract?sid=48adccb6-9169-4c74-b40e-8a8f1f50dcd9
注2:世界最古の抗菌薬はペ二シリンではない、という意見もありますが、世界的にコンセンサスが得られているのはペニシリンです。詳しくは下記コラムの注2を参照ください。
毎日新聞「医療プレミア」「日本初の女性医師を生涯苦しめた病とは」
注3:クラミドフィラ(クラミジア)には「言葉の混乱」があります。①クラミジア肺炎、②クラミジア・シッタシ(オウム病)、③クラミジア・トラコマティス(性器クラミジア感染症)のうち、①と②はクラミドフィラという呼び方が正確なのですが今も「クラミジア」と呼ばれるのが一般的です。最近(2017年4月)、2人の妊婦が死亡したことが報じられたクラミジアは②です。詳しくは下記コラムを参照ください。
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