医療ニュース

2025年1月9日 じんましんを放っておけば死亡リスクが2倍に

 2021年5月から開始したメルマガ「谷口恭の『その質問にホンネで答えます』」は、はや3年半を超え、この間様々な質問をいただいています。もともと谷口医院は2007年の開院以来メールでの質問を常に受け付けているので、以前から全国から(ときには海外からも)多くの相談が寄せられていたのですが、最近はさらに質問の幅が広がっています。メルマガで読者の質問に回答すると、さらに相談が増えることがあります。最近、メルマガ公開後に質問が増えているのが「じんましん(以下、蕁麻疹)」についてです。そのメルマガで紹介した研究についてここで取り上げたいと思います。

 この研究の対象者は米国の慢性蕁麻疹の患者264,680人(及び同数の対象者)です。蕁麻疹があれば、調査開始から3ヵ月後、1年後、5年後の全死因死亡率が、なんと2.09倍、1.77倍、1.69倍にもなるというのです。特に目立つのが若年者(18~40歳)で、死亡リスクは2.14倍にもなります。

 死因としては自殺が多く、自殺念慮/自殺企図は蕁麻疹がない人に比べて3.14倍にもなります。がん(悪性腫瘍)に罹患するリスクも2.09倍とされています。脳血管疾患は2.27倍、糖尿病は2.05倍です。

 興味深いことに、この研究は「治療でリスクが下がる」ことを示しています。まとめると下記のようになります。

 (内服)ステロイドで治療 → リスクは低下せず
 抗ヒスタミン薬で治療 → リスクは低下する
 抗ヒスタミン薬+オマリズマブ(ゾレア)で治療 → リスクはさらに低下

 対象者の薬の使用もとても興味深いものとなっています。

 (内服)ステロイド使用:117,372人
 抗ヒスタミン薬使用:113,334人
 (抗ヒスタミン薬+)オマリズマブ使用:1,414人
 シクロスポリン使用:356人

************
 
 この研究、蕁麻疹が(特に若年者の)死亡リスクになるということにかなり驚かされるのですが、それと同じくらいに衝撃的なのは米国ではこんなにもステロイドが使われているのか、ということです。

 内服(または点滴の)ステロイドは確かに蕁麻疹には”劇的に”効きます。ですから(例えば薬の副作用などで起こる)急性の蕁麻疹には使うことがあります。しかし、慢性蕁麻疹には原則としてステロイドは使うべきでありません。そんなことをすれば取り返しのつかない副作用が生じることは必至だからです。にもかかわらず抗ヒスタミン薬よりも多く使われていることに驚かされます。”雑な治療”と言われても仕方がないでしょう。

 オマリズマブ(ゾレア)は副作用もほとんどなく極めて優れた薬だと言えます。費用が高くつくのが欠点ではありますが、蕁麻疹の死亡リスクがこれだけ高いのならば比較的早い段階から積極的に使用してもいいかもしれません。

 尚、冒頭で触れたメルマガでの相談は「ザイザルを1日2回飲んでも治らない」というものでした。重症例であっても、たいていは、ステロイドでない安全な飲み薬を4~5種類組み合わせれば症状は消えます。その後少しずつ減らしていけば完全に治すことができます。4~5種の内服薬を使っても完全に消えないときにはゾレアを検討することになります。

参考:湿疹・かぶれ・じんましん

 

月別アーカイブ