医療ニュース
2011年10月28日(金) マイコプラズマ肺炎も過去最多、しかも・・・
今年は「風邪」の多い年で、このサイトでもお伝えしてきたように、リンゴ病、手足口病、RSウイルスが過去最多を記録しています。そして、昨年10月頃から増えだし、2010年は過去最多を記録したマイコプラズマも、再び6月下旬から急増しており、過去最多の状態が続いています。
国立感染症研究所感染症情報センターによりますと、全国に約500ヶ所ある定点医療機関当たりの1週間ごとの患者報告数は、6月下旬から各週とも過去の同じ週に比べて最も多い状態が続いており、10月に入りさらに急増しています。10月10~16日の定点当たり報告数(速報値)は1.23で、3週間前の2倍超にまで増えていることになります。
都道府県別にみてみると、定点あたりの報告数は、青森の5.67が最多で、沖縄(4.14)、埼玉(3.78)、愛知(3.15)、大阪(2.47)と続いています。
今年のマイコプラズマが脅威なのは、感染者数が増えていることだけではありません。流行しても早期発見・早期治療を心がければ、いずれ流行は収束していきます。しかし、今年のマイコプラズマは、従来「特効薬」として使われていたマクロライド系抗生物質が効かないのです。
国立感染症研究所感染症情報センターの速報(注)によりますと、マクロライド系抗生物質に耐性のある(つまりマクロライドが無効な)マイコプラズマが89.5%にも上るそうなのです。2002年には耐性はゼロ(つまりマクロライドで全例治癒した)でしたから、わずか10年足らずで特効薬がほぼ無効になったことになります。
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咳が主症状の風邪症状の患者さんのなかにマイコプラズマを疑う例があります。私の経験で言えば、小児の場合は咳の仕方に特徴があり、胸部レントゲンからも疑いやすいのですが、成人の場合は、症状とレントゲンからマイコプラズマと断定するのは困難です。
マイコプラズマの確定診断をつけるための血液検査はありますが、それほど精度が高くないものや、結果判定に時間のかかるものであり、あまり実用的ではありません。最近になり、マイコプラズマの迅速診断キットが発売されましたが、値段がやや高いのが難点です。(当院では現在導入を検討中です)
確定診断をつけるのが困難であったとしても、咳が主症状の「風邪」で、(ウイルス性でなく)細菌性の可能性が強く、マイコプラズマが疑われれば、従来であれば「特効薬」のマクロライド系抗生物質を使用すれば上手くいくことが多かったわけです。ところが、マクロライド耐性が約9割ですから、こうなればマクロライドの処方は治療を遅らせることになりかねません。(1~2年前から、マクロライドが無効なマイコプラズマが増えていることは”実感”として感じていましたが、89.5%という数字には驚かされました)
国立感染症研究所感染症情報センターの報告では、「マクロライド以外でマイコプラズマ感染症に適応があるのはミノサイクリン」としていますが、同時に「ミノサイクリンは耐性菌は認められていないが、抗菌力が非常に優れているというわけではない」とも述べられています。
これからはマイコプラズマの治療に苦労することが増えてくるかもしれません。しかし、マクロライドとミノサイクリン以外にもマイコプラズマに有効と考えられる抗生物質はありますから、咳が主症状の「風邪」があれば早めに医療機関を受診すべきでしょう。
(谷口恭)
注:国立感染症研究所感染症情報センターの報告は下記URLで読むことができます。
http://idsc.nih.go.jp/iasr/rapid/pr3814.html
参考:医療ニュース
2011年1月28日 「マイコプラズマが急増!」
2011年9月30日 「RSウイルスがアウトブレイク」
2011年7月29日 「手足口病の勢い止まらず」
2011年6月25日 「リンゴ病が過去10年で最多」
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