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2023年10月29日 「8時間以上の睡眠」は認知症のリスク

 日本の研究者から興味深い論文が発表されました。国立長寿医療研究センターの研究で「8時間以上の睡眠」で認知症発症のリスクが上昇し、長時間睡眠者がシスチン、プロリン、セリンの摂取量が少なければ、さらにリスクが上がるというのです。医学誌「BMC Geriatrics」2023年10月11日号に掲載された論文「アミノ酸摂取量と睡眠時間は60歳以上の日本人成人の将来の認知機能低下に相加的に関与:地域ベースの縦断研究(Dietary amino acid intake and sleep duration are additively involved in future cognitive decline in Japanese adults aged 60 years or over: a community-based longitudinal study)」です。

 研究の対象者は、調査開始時に認知機能障害のない60~83歳、合計623人、平均追跡期間は6.9年です。
 
 睡眠時間を、短時間(6時間以下)、中程度(7~8時間)、長時間(8時間以上)に分類し認知症発症のリスクをみてみると、中程度に比べ、短時間で19%低下し、長時間で41%増加しています。

 長時間睡眠者でみてみると、3種のアミノ酸、シスチン、プロリン、セリンが不足していると、認知症発症リスクがそれぞれ2.17倍、1.86倍、2.21倍に上昇していました。

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 この論文を読んでまず気になるのが、「栄養不足かつ1日8時間以上の睡眠をとっている人」は誰か、という点です。この調査にはデータベースが使われていますから研究をした当事者も把握していないかもしれませんが、そのままストレートに考えれば「貧困層」に該当するのではないでしょうか。つまり、お金がなくて仕事がない(または少ない)。

 この研究でもうひとつ興味深いのが、「睡眠時間が6時間以下の方が、7~8時間よりも認知症のリスクが低い」という意外な結果です。これまでは睡眠不足は認知症のリスクだと言われてきました。しかし、今回の研究はその定説に矛盾しないと思います。おそらく、例えば睡眠時間が4時間以下くらいになれば認知症リスクは上がるはずです。つまり「日本人の何割かは6時間まではいらないかもしれないけれど極端な睡眠不足はリスクですよ」とは言えると思われます。

 栄養についても補足しておきましょう。シスチン、プロリン、セリンは日本人のごく平均的な食事をしていればじゅうぶんに摂取できます。ただし、ビーガン(完全採食主義者)の人は肉のみならず乳製品も摂りませんから要注意です。

 ビーガンの人は(谷口医院の患者さんのなかにも数名います)これらアミノ酸が不足しないように注意が必要です(診察室で相談してもらえれば個別に回答します)。

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