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2022年8月18日 国税庁が若者にアルコール飲料を勧める日本

 医学的というよりも社会的な話になります。

 「Enjoy SAKE! プロジェクト」というイベントをご存知でしょうか。これは、日本産のアルコール飲料の販路拡大及び消費喚起に向けた事業であり、企画しているのは国税庁です。なぜ国税庁がこのような事業を立てるのか不思議な感じがしますが、おそらく税収を上げるためにアルコール飲料を売り込もうという考えなのでしょう。

 国税庁は他にも「サケビバ!」というビジネスコンテストを実施しています。同庁によると、日本産酒類の発展・振興を考えるコンテストだそうで、応募資格者は20歳以上39歳以下の個人またはそのグループとされています。

 税収が増えるのは国にとっていいことなのでしょうが、国税庁が飲酒を促すこういう企画に違和感を覚えないでしょうか。世界ではアルコールは”悪”とみなされ、飲酒しない人がスマートな人とみなされる傾向にあります。

 例えば、New York Timesは(ちょっと古いですが)2019年6月15日に「新しい「シラフ」~今や、みんながシラフ。ちょっとだけ飲む人もシラフ~(The New Sobriety ~Everyone’s sober now. Even if … they drink a little?~)」というタイトルの記事を載せ、記者は「シラフでいても取り残される心配はなく、かっこ悪いと思う必要はない(No longer do you have to feel left out or uncool for being sober.)」と述べています。

 医学的にみれば、たしかに飲酒は適度であれば生活習慣病のリスクを軽減するとされています。しかし、過去の記事で紹介したように「飲酒は少量でも認知症のリスクを高める」とする研究がありますし、そもそもアルコールは依存性がとても強い物質です。

 あなたの周り(やその知人)にも「アルコールで人生を台無しにした人」がいるのではないでしょうか。実際、アルコール依存症になると治療するのは極めて大変です。アルコールの危険性は周知の事実であり、それを知っているからこそ大麻愛好家はもちろん、他の違法薬物を摂取している人たちのなかにも「自分は依存性の強いアルコールはやらない」などとうそぶく人もいます。

 ゆえに、アルコールの危険性を知っている医療者からすれば国税庁のこういった試みはたいへん滑稽に見えます。日本のメディアはそういったことを報じませんが、世界のメディアは放っておかないようです。

 英紙Financial Timesは2022年8月18日「日本の最新のアルコールに関する助言は『もっと飲んでください』(Japan’s latest alcohol advice: please drink more)」という記事を掲載しました。

 同記事では、日本人の飲酒量が減っていることを指摘し、上述した国税庁の企画を紹介しています。同記事によると、日本の成人1人当たりの年間平均飲酒量は、1995年が100リットルだったのに対し、2020年には75リットルにまで減少しています。WHOによると、2018年の日本人の1人あたりの年間飲酒量 (純粋なアルコールに換算した量)は8リットルです。中国は7.2リットル、英国は11.4リットルです。

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 飲酒量が増えて税収が増えるのはそれだけを考えると歓迎すべきことかもしれません。ですが、アルコール依存症となる人が増えれば、生産性が低下し消費が減ります。また、依存症の治療には税金が費やされます。依存症が進行すれば、家庭が崩壊し人間関係が破綻します。自殺者も増えます。

 国税庁はきっと「適量なら大丈夫」というのでしょう。厚労大臣の見解を聞いてみたいところです。

参考:医療ニュース
2017年6月26日「少量の飲酒でも認知症のリスク!?」

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