医療ニュース

2018年9月28日 健常者には低用量アスピリンの効果なし

 これは大きなニュースだと思います。

 低用量アスピリンの有用性は過去何十年間繰り返し指摘されてきました。有用性を実証した研究もたくさんあります。何に対して有効かというと、まず心筋梗塞や脳梗塞といった「心血管疾患の再発予防」です。血液が固まりやすくなったことでこれらが起こったのだから、再発を防ぐために血をサラサラにする効果のあるアスピリンを毎日飲みましょう、というわけです。また、アスピリンには大腸がんを予防する効果があることも随分前から主張されています。心血管疾患とがんの中で高頻度の大腸がんを同時に防ぐことができるならば、低用量アスピリンはまさに「魔法の薬」のようです。しかも、通常量を飲めば頭痛や咽頭痛にも有効なわけですから現代人には欠かせない薬と言えるかもしれません。

 では本当に健常人が飲むことに意味があるのでしょうか。これを検証したのが今回紹介する研究です。研究者はオーストラリアのJohn J. McNeil氏。同国および米国の健康な高齢者を対象として、低用量アスピリンの有益性とリスクを検証する研究をおこないました。結果は、一流の医学誌『The New England Journal of Medicine』2018年9月16日(オンライン版)になんと3つの論文で同時に掲載されています(この医学誌に論文が掲載されること自体が名誉なことであり、それが同時に3本というのは”快挙”と言っていいでしょう)(注1)。

 この研究は「ASPREE」(Aspirin in Reducing Events in the Elderly)と名付けられています。2010~2014年に両国で調査開始時点で心血管疾患を有さない高齢者19,114人 (中央値74歳)をアスピリン100mg/日投与したグループ(9,525人)とプラセボ投与グループ(9,589人)に分け4.7年間(中央値)追跡しています。

 結果をみていきましょう。まず「障害のない生活(Disability-free Survival)」についてです。追跡期間中の死亡、認知症、身体障害の発生率はアスピリン服用グループで21.5/1,000人・年、プラセボグループで21.2/1,000人・年で、両グループに有意差はありませんでした。

 次に「全死亡率(All-Cause Mortality)」をみてみましょう。全死亡率はアスピリン服用グループが12.7/1,000人・年、プラセボが11.1/1,000人・年で、アスピリンのリスクは1.14倍となります。認知症の発生率はそれぞれ6.7/1,000人・年と6.9/1,000人・年。永続的な身体障害の発生率は4.9/1,000人・年と5.8/1,000人・年(同0.85、0.70~1.03)でした。全死亡率の差について、著者は、アスピリングループのがんによる死亡率は3.1%とプラセボの2.3%より高く、アスピリンががんの発生に関与している可能性を指摘しています。

 心血管疾患の発生率はアスピリングループが10.7/1,000人・年、プラセボが11.3/1,000人・年で、これは統計学的に有意差はありませんでした。一方、「重大な出血」の発生率はそれぞれ8.6/1,000人・年、6.2/1,000人・年と、アスピリングループで有意に高かったことが判りました。

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 結論としては、健常者が低用量アスピリンを毎日服用すると、長生きするどころか、(胃潰瘍や腸管出血、あるいは脳出血など)出血性疾患のリスクが上昇し、また従来言われていたことと異なり、がんの発症リスクを上昇させるかもしれない、ということになります。

 くれぐれも自己判断でアスピリンを開始しないようにしましょう。鎮痛剤としても、です。

注1:3つの論文のタイトルは「Effect of Aspirin on Disability-free Survival in the Healthy Elderly」「Effect of Aspirin on All-Cause Mortality in the Healthy Elderly」「Effect of Aspirin on Cardiovascular Events and Bleeding in the Healthy Elderly」、です。

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