医療ニュース
2017年7月30日 プロバイオティクスは乳幼児の感染予防に効果なし
昨今の腸内細菌ブームは凄まじいものがあります。腸内フローラ、糞便移植、発酵食品、食物繊維などがキーワードとなっており、おなかのなかのいい菌を増やして、その菌にあやかって健康になろうとするムーブメントは単なる「流行」を超えているような気がします。マスコミからの取材依頼も、このテーマで寄せられることが増えてきました。
今回紹介したいのはそういう意味では「残念な」結果です。実際、この研究を取り上げた『Health Day』というオンラインの健康情報サイト(注1)では、露骨に「残念な結果(disappointing results)」と書いています。
その研究が報告されているのは医学誌『Pediatrics』2017年7月3日号(オンライン版)。対象者は8~14か月のデンマークの健康な乳幼児290人です。144人には6か月間プロバイオティクス(ビフィズス菌(Bifidobacterium)と乳酸菌(Lactobacillus))を摂取してもらい、146人には摂取してもらいませんでした(正確に言えばプラセボが投与されました)。
結果、保育園を休んだ日数に差はなく、また、風邪症状、下痢、発熱、嘔吐などの発生頻度にも有意差はありませんでした。一方、プロバイオティクスの副作用もありませんでした。
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プロバイオティクスに有効性が認められなかった理由として、研究者らは「今回の研究の対象者の多くが母乳栄養で育てられていた」ことを挙げています。さらに上述の『Health Day』の記事は、「母乳がベスト」というカリフォルニア大学サンフランシスコ校の小児科医カバナ(Cabana)の言葉を引用しています。
カバナ医師は、それぞれの母親の母乳中に独自のヒト乳オリゴ糖(human milk oligosaccharides)が含まれていることを指摘し、母乳がプロバイオティクスより優れていると主張しています。オリゴ糖は、赤ちゃんの消化管内の特定の細菌の増殖を促します。このような物質を最近は「プレバイオティクス」と呼びます。
プロバイオティクスが乳幼児が抗菌薬を内服したときに起こる下痢に有効とした論文は過去にありますが、これは当たり前と言えば当たり前で、成人でもよくあることです。結局のところ、プロバイオティクスが免疫能を上げ感染症予防になることを高いエビデンスレベルで示した研究は今のところ「ない」と考えるべきでしょう。
現時点では乳児にとって「母乳」に勝る食品はないということです。ですが、世の中には母乳の出ないお母さんもたくさんいますし、母親がいない乳幼児もいます。そういった子供たちのためにもプロバイオティクス/プレバイオティクスのさらなる研究は期待されているのです。
注1:下記URLを参照ください。
注2:この論文のタイトルは「Probiotics and Child Care Absence Due to Infections: A Randomized Controlled Trial」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://pediatrics.aappublications.org/content/early/2017/06/29/peds.2017-0735
下記なら全文を読むことができます。
http://pediatrics.aappublications.org/content/pediatrics/early/2017/06/29/peds.2017-0735.full.pdf
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