医療ニュース

2017年6月26日 少量の飲酒でも認知症のリスク!?

「酒は百薬の長」は昔からよく使われることわざですが、私の経験上、この言葉を述べる人のほとんどが「酒飲み」ですし、この言葉を考え付いたのも酒飲みでしょう。ですが実際に、少量の飲酒は血圧を下げ、生活習慣病を予防でき、寿命を延ばすという報告は多数あります。おそらくほとんどの医療者もこれを支持しています。

 最近、一流の医学誌にこの「常識」を覆すかもしれない論文が掲載され医療者の間でも話題となっています。その論文とは『British Medical Journal』2017年6月6日号(オンライン版)に掲載されたもので、なんと「少量の飲酒でも認知症のリスクになる」と結論づけています(注1)。

 研究の対象者は550人のイギリス人。公務員を対象とした「Whitehall II」と命名された大規模調査に参加した6,306人のなかから無作為に1,380人が選ばれ、その中で研究の趣旨に同意した人たちです。30年間にわたり1週間のアルコール摂取量が調べられ、認知機能が調査され、さらに脳MRIが撮影されています。550人の中からデータ不備などを除いた527人が分析されています。

 結果、30年間のアルコール摂取量が多ければ多いほど海馬(脳の記憶をつかさどっている部分)の萎縮のリスクが上昇していることがわかりました。アルコールをほとんど飲まないグループ(週1未満単位、1単位はアルコール8g)と比べると、週30単位以上摂取しているグループのリスクは5.8倍と最も高くなっています。週に14~21単位であっても、右側海馬萎縮のリスクが3.4倍となっていました。さらに少量摂取(週1~7単位)であったとしても認知症の予防効果は認められていません。

 アルコール摂取量が多ければ、言語を流暢に話す能力も低下していたようです。

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 この論文を読むときには「単位」に注意しなければなりません。アルコールの「単位」はいくつかの基準があり、日本のアルコール健康医学協会は純アルコール20gを1単位と決めています。この方式なら1単位が日本酒1合で(だから日本人にはわかりやすい)、ワインなら1単位が180mLとなりワイングラスに入りきらないくらいの量になります。一方、イギリス式の単位は、この論文ではワイン5杯で14単位と説明されています。以前紹介した論文(下記「医療ニュース」)では「ワイン1杯で3単位」と述べました。

 さて、週に14~21単位で海馬のリスクが3.4倍というのは大変ショッキングな結果です。ワインで言えば週にグラス5~7.5杯。ビールで言えば大雑把に行って週に中ジョッキ4~6杯程度です。毎日飲酒するから人からみれば「少量」になります。さらに、これら以下の摂取量であっても少なくとも認知症の予防効果はなかったということになります。

 酒は百薬の長・・・、本当に正しいのか疑う必要がありそうです。

注1:この論文のタイトルは「Moderate alcohol consumption as risk factor for adverse brain outcomes and cognitive decline: longitudinal cohort study」で、下記URLで全文を読むことができます。

http://www.bmj.com/content/357/bmj.j2353

参考:医療ニュース
2015年9月29日 どのような人がお酒を飲み過ぎるのか

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