医療ニュース
2016年11月3日 これからのインフルエンザウイルスワクチン
現在の日本でのインフルエンザウイルスのワクチンは皮下注射のタイプのみです。しかし、世界的には、筋肉注射、皮内注射、鼻スプレー型があり、さらに近い将来、舌下型も登場することになりそうです。ここでは、これらを簡単にまとめてみたいと思います。
まず、現在日本でおこなわれている日本の皮下注射型について知っておくべきことは、海外ではこれと同じものが筋肉注射されているということです。筋肉注射の方が皮下注射よりも効果が高いからです。しかも、痛みは意外なことに皮下注射の方が強いのです(注1)。では、日本でも筋肉注射にすればいいではないかと思う人もいるでしょうが、不条理なことに日本では筋肉注射が認められていません。
ところで、皮膚を解剖学的にみてみると、外から皮内(表皮層+真皮層)、皮下組織、筋肉組織となります。皮下注射より、筋肉注射の方が痛くなくて効果が高いなら、皮内なんて全然ダメなのかなと思われがちですが、これまた意外なことに、効果の高さは、皮内>筋肉>皮下、であることが分かっています。これは、皮内に免疫系の細胞が豊富に存在しているためで、ワクチンが注入されると効果的に抗体が産生されるからだと考えられています。また、痛みの程度も、痛くない順に、皮内>筋肉>皮下なります。ということは、皮内注射が効果の面でも痛みの面でも最善ということになります。
では、皮内注射の欠点はなにかと言えば、それは「注射しにくい」ということです。細い針を使っても技術的に注射が困難で、皮内に注射したつもりでも皮下に入ってしまうことがあるのです。しかし、これを克服した製品が相次いで開発され、日本でも近々市場に登場することになりそうです。特殊なデバイスが開発され、そのまま垂直に皮膚に刺せばワクチンが皮下には届かず皮内に注入されるという仕組みです。
海外では鼻スプレー型のワクチンもあります。これは針を使いませんから痛くありませんし、インフルエンザウイルスは飛沫感染で鼻や喉から感染するわけですから、鼻腔に抗体を誘導することで注射よりも効果があるのではないかと考えられてきました。日本でも発売は間近と考えられてきました。
ところが、です。米国小児学会(American Academy of Pediatrics)が「鼻スプレー型のインフルエンザワクチンは効果が低いため使用すべきではない」という見解を発表しました(注2)。CDC(米国疾病管理予防センター)の報告によれば、2015~16年、鼻スプレー型ワクチンの2~17歳の小児における有効性はわずか3%。一方、注射型ワクチンは63%だったそうです。3%と63%、この歴然とした差を見せつけられ、日本でも導入予定だった鼻スプレー型ワクチンの先行きが怪しくなってきました。
もうひとつ、注目されている新しいワクチンがあります。しかも日本発です。現在、日東電工が開発しているワクチンはなんと「舌下錠」です。舌の下にこの錠剤を1分程度置いて吸収させるそうです。舌下錠は痛くもありませんし、使用にあたり必ずしも医師や看護師の立ち合いが必要でないとされるかもしれません。もしもこの舌下錠が効果も安全性も高いことが証明されれば、世界中で一気に普及するかもしれません。同社では、現時点では、2020年以降の製品化を目指しているそうです。
もうひとつ、インフルエンザワクチンの最近の話題をお伝えしておきます。それは、妊婦への「チメロサール」含有ワクチン使用についてです。チメロサールは有機水銀の一種であることから、これまでは妊婦はチメロサールフリーのものを使用すべきという声がありましたが、これが否定されました。2016年8月1日、日本産科婦人科学会は、妊婦にも躊躇せずにチメロサール含有ワクチンを接種するよう促す文書(注3)を公開しました。
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チメロサール含有ワクチンが危険という声はつい最近までありましたし、その前は、そもそも妊婦はインフルエンザワクチンをうつべきでないという意見もありました。それを思えば、随分とインフルエンザワクチンに対する考え方が変わったものです。
鼻スプレー型の効果が乏しいことが分かった以上、現時点では、皮内型の登場が待ち望まれているといっていいでしょう。そして2020年以降は、日東電工の舌下型が主流となるかもしれません。私は利益目的で株式を購入したことがありませんが、こういう情報は投資家の人たちにはどのようにうつるのでしょうか・・・。
注1:毎日新聞「医療プレミア」に詳しく書いたことがあります。興味がある方は参照ください。
注2:米国薬剤師協会(American Pharmacist association)のサイトで紹介されています。記事のタイトルは「Recommendations for prevention and control of influenza in children, 2016-2017」で、下記URLで読むことができます。
https://www.pharmacist.com/recommendations-prevention-and-control-influenza-children-2016-2017
注3:下記で全文が読めます。
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