医療ニュース

2014年9月5日 デング熱騒ぎで報道されない2つの重要なこと

 連日マスコミで報道されているように、現在代々木公園付近でデング熱に感染した症例があいついでいるようです。厚生労働省に  よると、2014年9月4日までに12都道府県で合計59人が確認されており、いずれも最近の海外渡航歴はなく代々木公園付近での感染が疑われているようです。

 また、2014年9月4日、東京都は代々木公園内で採集した蚊からデング熱ウイルスが検出されたことを発表し、同日午後2時から公園の大半を閉鎖しました。

 では公園閉鎖で充分かと言えば、蚊は風にも流されますから、デング熱ウイルスを保持した蚊が代々木公園の外にいる可能性も充分にあります。(私の率直な感想を言えば、まさか公園が閉鎖されるとは思ってもみませんでした)

 さて、このようなことはマスコミでも報道されていますから、このサイトでとりたててお伝えする必要はないのですが、マスコミが報道しないことで周知されなければならない2つのことをここで述べたいと思います。

 1つめは、代々木公園以外で感染する可能性のある場所についてです。

 そもそもなぜ空港から離れた代々木公園でデング熱が発生したのかというと、代々木公園にいた日本の蚊がデング熱を持っている人を刺したときに血液と一緒にデング熱ウイルスも吸い込み、それを別の人を刺したときに感染させたから、と考えられています。

 では、デング熱を持っていた人は誰なのかというと、もちろん海外から帰国した日本人の可能性もありますが、代々木公園という場所に今一度注目してみましょう。代々木公園は毎週のように様々なイベントがおこなわれており、外国人が中心となるものも少なくありません。

 ここからの私のコメントは物議を醸すことになるかもしれませんが、大切なことなので誤解を恐れずに言いたいと思います。代々木公園では8月2日と3日に「アセアンフェスティバル2014」が、8月16日と17日には「カリブ中南米フェスティバル」が開催されています。アジアもカリブ海も共にデング熱の流行地域です。つまり、これらのフェスティバルの参加目的で来日した外国人が持ち込んだ可能性があるということです。

 ここで私が主張したいのはデング熱を持ち込んだ”犯人”を探せ、ということではもちろんありません。アジアや中南米の人たちを排斥せよ、と言っているわけでももちろんありません。そうではなくて、アジアや中南米から日本にやってくる人のなかには、自身も気付いていないけれどデング熱ウイルスを持っている可能性がある、ということを言いたいのです。デング熱は軽症もあれば不顕性感染(感染しても無症状)の場合もあります。
 
 日本でこのようなかたちでデング熱の流行がおこった以上は、代々木公園に行かなくてもアジアや中南米の人たちが集まる場所に行くときは「蚊対策」をしっかりしましょう、ということが、私が主張したい「マスコミが報道しない重要なこと」の1つめです。

 デング熱の予防については過去にこのサイトで取り上げていますし、マスコミも報じていますが、基本的なことは長袖長ズボンと、DEETと呼ばれる虫除けスプレー・クリームです。ただしDEETは日本製のものは有効成分の濃度が不十分と指摘されることがあります。(ちなみに私はアジアに渡航する際、到着日に現地のコンビニでDEETを購入します) DEETはけっこうな割合でかぶれる人がいます。そういう人にはシトロネラと呼ばれるアロマがおすすめですが、何度も塗り直す必要があります。

 さて、デング熱でもうひとつの「マスコミが報道しない重要なこと」は、デング熱の可能性があれば(つまり原因不明の熱が出現すれば)市販の鎮痛薬を安易に飲まない、ということです。絶対に避けるべきなのは、サリチル酸系の鎮痛剤で、薬局で買えるものの代表は「バファリン」です。(製薬会社の方はどうか「営業妨害」と思わないでください)
 
 また、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)も注意が必要です。例えば「イブプロフェン」と呼ばれる鎮痛剤を含む「イブ」や「リングルアイビー」は避けるべきでしょう。

 もしもデング熱ウイルスに感染しているときに、サリチル酸系の鎮痛薬やイブプロフェンなどのNSAIDsを内服すると、場合によっては全身から出血が起こり、アシドーシスという血液中に酸が異常に蓄積する危険な状態になることがあります。

 では何を飲めばいいのか、ということですが、高熱があればデング熱かどうかにかかわりなく医療機関を受診すべきです。クリニックに行くほど高熱でもないし、倦怠感もたいしたことがない、けどデング熱が心配、という場合は何を飲めばいいかというと、アセトアミノフェンを選択するのが賢明です。代表的な市販のアセトアミノフェンは日本では「タイレノール」です。(念のために断っておくと私はタイレノールを販売しているジョンソン・エンド・ジョンソンと何の利害関係もありません) 

 アセトアミノフェンは、まったく危険性がないとは言いませんが、世界中で新生児から高齢者まで広く使用されている解熱鎮痛剤で、原因不明の発熱のときにも用いることができます。(ちなみに私は海外渡航時には常にアセトアミノフェンを持参し、切れたときは現地の薬局で購入しています)

 繰り返しになりますが、アジアや中南米から渡航した人が集まる場所ではそこに蚊がいればデング熱のリスクが上がるということ、感染を疑ったときは鎮痛剤の選択に注意しなければならないということ、この2つはしっかりと覚えておくべきだと私は思います。

(谷口恭)

参考:
はやりの病気第126回(2014年2月)「デング熱は日本で流行するか」
医療ニュース2014年8月29日「デング熱の国内感染が確実」
メディカルエッセイ第97回(2011年2月)「鎮痛剤を上手に使う方法」

月別アーカイブ