医療ニュース

2017年1月6日 合成大麻が生んだ「ゾンビ」がNYで集団発生

 ゾンビがニューヨークでアウトブレイク! 原因は合成大麻!

 このようなタイトルの論文が医学誌『The New England Journal of Medicine』2016年12月14日号(オンライン版)に掲載されました(注1)。

 2016年7月12日、ニューヨーク市ブルックリン地区で33人が合成大麻で精神に異常をきたし、うち18人が救急搬送されました。これを報道した地元のメディアは33人を「ゾンビ」と表現しました。

 米国カリフォルニア大学の研究者が、この「ゾンビ」の原因物質が「AMB-FUBINACA」であることを突き止めました。論文によれば、この物質は「AB-FUBINACA」の類似物(エステル化アナログ)で、AB-FUBINACAはファイザー製薬が研究用に開発した大麻に似た物質です。同社の特許(patent)が2009年に切れ、特許情報が公開されたことから裏社会で開発されることになったのでしょう。裏社会でつくられたAB-FUBINACAはデザイナーズ・ドラッグとして世界中に流通するようになりました。世界で初めて使用者からAB-FUBINACAが検出されたのは2012年で、これは日本です。

 AMB-FUBINACAの作用は大麻の嗜好性の成分であるTHC(テトラヒドロカンナビノール)のなんと85倍だそうです。合成大麻といえば、ヨーロッパのSpiceや米国のK2がよく知られていますが、AMB-FUBINACAはこれらの50倍もの作用があるそうです。

 救急搬送された18人の年齢は25~59歳(平均36.8歳)で全員が男性。論文によれば、搬送された男性は、ぼんやりした目つき(blank stare)で、手足の動きが緩慢で機械的、そしてゾンビのようなうめき声を上げていたそうです。

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 少し解説を加えます。まず、大麻(マリファナ、ハシシ、ガンジャなど呼び方は多数あります)とは、麻の花または葉から精製されたもので嗜好性があります。日本では覚醒剤や麻薬と同じように報道されることがあり同類のものと思われがちですが、こういった違法薬物とはまったく異なります。大麻は医薬品としても使われており、医療用大麻は世界の多くの地域で合法です。嗜好用大麻も米国の8州(+ワシントンD.C.)を含む世界の多くで合法化されており、今後他の地域や国にも広がるとみられています。(ただし私自身は大麻合法化に賛成しているわけではありません。詳細は下記(注2)を参照ください)

 大麻は多くの化学物質から構成されていますが重要な成分はCBD(カンナビジオール)とTHCです。CBDは医療用として用いられ、これには嗜好性がありません。THCに嗜好性があるために、通常の大麻を使用すれば身体が弛緩し恍惚感が得られます。今回「ゾンビ」を生み出したAMB-FUBINACAはそのTHCの85倍とのことですから、救急搬送されるのも無理はありません。

 特許が切れれば内容を公開しなければならないのは規則ですが、その規則のせいで合成大麻が出回っているということを考えなければなりません。

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注1:正確なタイトルは「”Zombie” Outbreak Caused by the Synthetic Cannabinoid AMB-FUBINACA in New York」、直訳すれば「ニューヨークで合成大麻AMB-FUBINACAが原因で”ゾンビ”がアウトブレイク」)です。下記URLで概要を読むことができます。

http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1610300#t=abstract

注2:下記を参照ください。

NPO法人GINA「GINAと共に」第126回(2016年12月)「これからの「大麻」の話をしよう~その2~」

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