医療ニュース
2025年3月20日 女性のADHDが増えている
ADHDやADHDを含む発達障害が増えているかどうかについては議論が分かれますが、私自身は過去のコラム(「はやりの病気」第219回 2021年11月「発達障害」を”治す”方法)で述べたように、増えていると考えています。
これは日本に限ったことではなく、英国でも同様で、The Timesによると、イングランドでは、ADHD薬を服用している患者総数は10年間で3倍に増加しています。2015年に同地域でADHDの治療薬を処方されたのは81,000人だったところ、2024年には248,000人にも増えているのです。特に顕著なのが20代後半から30代前半の女性で、なんと10倍に増加しています。
「所得との関係」にも興味深い現象が生じています。2015年の時点では最も貧しい5分の1の地域の患者数は最も裕福な5分の1の地域の約2倍であったところ、2024年にはその差が縮まり、最も貧しい地域での処方箋数は52,262件、最も裕福な地域では49,073件と、ほとんど差が消失しています。
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なぜ、裕福な地域にも患者が増え、そして若い女性の間で急増しているのでしょうか。その答えは「診断されやすくなったから」でしょう。ADHDの古典的な症状は「落ち着きがなく騒がしい」ですが、そうでない場合もあります。例えば「クラスで目立たない存在で夢見るように窓の外を見つめるタイプ」は周囲からは気づかれにくいと言えます。
ところでADHDは「治る」のでしょうか。一般的には「治らない」とされています。実際、ADHDは脳の器質異常とされていて、MRIの所見では小脳や前頭前野の活動が低下していることが指摘されています(このような特徴があるのにも関わらず、画像診断を経ずに診断がつけられているのはおかしいのではないか、という私見を上述のコラムで述べました)。
しかし、私自身はADHDを含む発達障害は「治る」と考えています。証拠を提示することもできます。ADHDの疫学についての研究によると、ADHDは若年者の5.9%、成人の2.5%に発生するとされています。もしもADHDが「治らない」のであれば、若年者が成人より罹患率が高い理由の説明がつきません。もしも治らないのであれば、(成人になってから診断がつく場合もあるわけですから)罹患率は「成人>若年者」でなければなりません。
この数字からも分かるようにADHDは治るのです。「治る」が不適切な表現であれば「治療が不要なほど社会に適応できるようになる」でもかまいませんが、ADHDのレッテルを貼られても社会から遠ざかる必要はないわけです。
ADHDを含む発達障害を議論するときに最も重要なのは「増えているのか、変わらないのか」、あるいは「診断は正しいのか、見逃されていただけではないか」といった議論ではなく、「その人が苦しいのか否か」です。ですから、ADHDであろうがなかろうが、またADHDと診断されようが否定されようが、その人の立場に立って考えれば診断名などどうでもいいわけです。
「前医でADHDって診断されたんですけど……」と診断に疑問を感じて受診する人や、「わたしはADHDでしょうか……」と相談されに来る患者さんにも私はこのようなことを話しています。
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