医療ニュース

2022年1月23日 日曜日

2022年1月23日 ソーシャルメディアの利用はうつ病を招く

 ベストセラーとなったスウェーデンの精神科医アンデシュ・ハンセンによる『スマホ脳』(英語版タイトル『Insta-Brain』)には、(私は読んでいないのですが)「スマホは脳の報酬系を刺激して依存させ、集中力を低下させ、抑うつ状態を作り出す」という内容が書かれているそうです。

 最近「スマホ=悪」のような論調が目立ち、私自身はそれには反対なのですが(後述するようにスマホは優れたデバイスです)、ソーシャルメディアはその限りではありません。『スマホ脳』でも、ソーシャルメディアが抑うつ感を招く理由が詳しく書かれているのでしょうが、ここでは最近発表された論文を振り返ってみたいと思います。

 まずは言葉の確認から始めましょう。似た言葉にSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)というものがありますが、ここではSNS(Facebook、Twitter、Instagramなど)に、YouTube、ニコニコ動画などの動画共有サイト、掲示板、さらにLINEなどのメッセージアプリも加えた、要するにインターネットを介したコミュニケーションツールをソーシャルメディアと呼ぶことにします(ただしビジネスなどに用いるemailは除外します)。

 医学誌『JAMA Network Open』2021年11月23日号に「米国の成人におけるソーシャルメディアの使用と自己申告によるうつ病の症状との関連 (Association Between Social Media Use and Self-reported Symptoms of Depression in US Adults)」というタイトルの論文が掲載されました。

 この研究の対象者は、2020年5月から2021年5月の間に合計13回にわたって実施されたオンライン調査に参加した米国の成人5,395人(平均年齢55.8歳、女性65.7%)で、ソーシャルメディアの使用と抑うつとの関係が解析されています。抑うつ状態の評価にはPHQ-9(Patient Health Questionnaire-9)と呼ばれるスケールが用いられています。対象となったソーシャルメディアは、Facebook、Instagram、LinkedIn、Pinterest、TikTok、Twitter、Snapchat、YouTubeです。

 結果、調査期間中に対象者の8.9%(482人)がPHQ-9スコアが5点以上となり「抑うつ状態」と判定されました。特にうつ状態が悪化したのがSnapchat、Facebook、TikTokです。
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 私はソーシャルメディアをほとんど利用しません。LINEは行政からの連絡や(大阪府の医療者の場合)コロナワクチンの予約の連絡などにも必要ですから使わないわけにはいきませんが、本音を言えば使いたくありません。複数の知人から「LINEくらい見といてよ」とよく言われますから1週間に一度くらいはチェックするよう心がけてはいますが、それも面倒くさくて1週間以上知人からの連絡を放っていることもよくあります。だから近しい知人は、電話か電子メールで連絡を寄せてきます。

 それでもたまにTwitterやFacebookを覗いてみることがあるのですが、はっきり言うと気持ち悪くなります。Twitterは有名人もけっこう書き込んでいるようですが、「えっ、この人がこんな汚い言葉使うの?」と驚き、そして幻滅することの連続です。Facebookは、「これ、自慢以外の何?」と言いたくなるような写真やコメントのオンパレードに嫌気がさします。

 「最も恥ずべき話が自慢と悪口」ではなかったでしょうか。

 医師の掲示板もひどいものです。匿名なのをいいことに罵詈雑言の嵐です。そして、こういうページに人気があることが私には不思議でなりません。そもそも他人の悪口を聞かされれば不快な気分にならないでしょうか。

 私は「言葉」というものは人間にとって非常に大切なものだと思っています。言葉をなくせば人間が人間として存在し続けることができなくなります。だから、我々はもっと言葉を大切にし、自分の言葉に責任を持つべきだと信じています。ただし、このような考えを他人に強要するつもりは毛頭なく、匿名で他人を罵り合ったり、自慢したりすることを楽しいと思う人たちとは住む世界が違うだけだと思っています(実際はすぐ近くに住んでいるのでしょうが)。

 話を戻しましょう。私が思うに、自慢話や他人への罵詈雑言が飛び交うソーシャルメディアを見ていると抑うつ状態になるのは至極当然の帰結であり、まともな精神状態を維持したければそんな世界とは縁を切って、言葉に責任を持つという考えの人とのコミュニケーションを重視すればいいのです。

 ところで、冒頭で述べたように、私はスマホ自体はとても貴重なツールだと思っています。私が最も使うアプリは英英辞典(LONGMANを最も多用し、頻繁に発音させています)、英和・和英辞典(Weblioの使用が最多)、類義語辞典/シソーラス(こちらもWeblioが多い)、漢和辞典などで、コミュニケーションを上達させるための言葉の学習にもはやスマホは欠かせないアイテムです。

 最後にドイツの医学者フーフェランドが著した医師の倫理要綱とも呼べる『扶氏医戒之略』から一部を紹介します。

人の短所を言うのは聖人君子のすべきことではない。他人の過ちをあげることは小人のすることであり、一つの過ちをあげて批判することは自分自身の人格を損なうことになろう(馬場茂明著『聴診器』より)

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2022年1月4日 火曜日

2022年1月4日 円形脱毛症は認知症と網膜疾患のリスク

 円形脱毛症の患者さんから尋ねられる最も多い質問は「原因は何ですか?」です。興味深いことに、この後に続くのは「ストレスが多いからですかね?」と「私にはストレスがないのですが……」と正反対のコメントです。

 円形脱毛症が起こる理由は「免疫系の細胞が(大切な)毛根を敵と勘違いして攻撃してしまうから」と言えます。ストレスが原因かどうかという問いに対して私はしばしば「半分イエスです」と答えています。ストレスそのものが直接脱毛につながるわけではありませんが、強烈なストレスにより免疫系が乱れることがあるからです。「ストレスがない」という人は我々からみると要注意です。

 社会生活を営んでいれば何らかのストレスがない方がおかしいわけで「ストレスがない」と言う人のいくらかは過酷な環境にいます。例えば過重労働が月に100時間を超えているのに「こんなの平気です。勉強させてもらって給料までもらえて幸せなんです。僕には何のストレスもありません」というような人は注意が必要なのです。例えばある日突然うつ病を発症するようなことがあります。

 話を円形脱毛症に戻しましょう。この疾患に対して「原因は?」と尋ねる人は多いのですが、「円形脱毛症はどのような疾患のリスクになりますか?」と聞く人はほとんどいません。今回紹介したいのは、円形脱毛症は「認知症」そして「網膜疾患」のリスクになるという話です。

 医学誌「The Journal of Clinical Psychiatry」2021年10月26日号の論文「円形脱毛症と認知症のリスクの関連:全国コホート研究 (Association of Alopecia Areata and the Risk of Dementia: A Nationwide Cohort Study)」によると、円形脱毛症は認知症のリスクとなります。

 研究の対象者は45歳以上の円形脱毛症を有する台湾の男女2,534人です。対照には、年齢、性別、収入、疾患などを合わせた25,340人が選ばれています。結果、円形脱毛症があればどの年齢、性別でもすべての認知症のリスクが対照者に比べて3.24倍、アルツハイマー病については4.34倍にも上昇していました。特に65歳以上の男性のアルツハイマー病のリスクが高かったようです。

 次に医学誌「Journal of the American Academy of Dermatology」2021年11月1日号の論文「円形脱毛症と網膜疾患の関連:全国的コホート研究 (Association between alopecia areata and retinal diseases: A nationwide population-based cohort study)」を紹介しましょう。

 研究の対象者は台湾の円形脱毛症の男女9,909人です。対照にはやはり条件を合わせた99,090人が選定されています。結果、対照者と比較して、円形脱毛症があれば網膜疾患に罹患するリスクが3.10倍に上昇していました。具体的には、網膜剥離(retinal detachment)が3.98倍、網膜血管閉塞症(retinal vascular occlusion )が2.45倍、網膜症(retinopathy)が3.24倍です。

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 円形脱毛症は軽症の場合、標準的な治療で治りますし、場合によっては何もしなくても自然に治癒します。ですが、他方、重症化するとかなり難渋することもあります。入院してもらいステロイドを大量に点滴すれば治ることは治るのですが、この方法はすぐに再発するケースが多々あります。脱毛専門の医療機関を紹介することもあるのですが、結果としてうまくいかないケースもそれなりにあります。

 かといって、特に予防する方法もありません。漢方薬もほとんど効果がありませんし、認知行動療法も無力です。医師泣かせの疾患のひとつです。

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

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