医療ニュース
2021年12月27日 月曜日
2021年12月27日 安静時の心拍数上昇が認知症のリスク
高齢者の安静時心拍数の上昇は認知症のリスクとなる……。
医学誌「Alzheimer’s Dementia」2021年12月3日号(オンライン版)の論文「安静時心拍数と高齢者の認知機能低下および認知症との関連:人口ベースのコホート研究 (Association of resting heart rate with cognitive decline and dementia in older adults: A population-based cohort study)」でこのような発表がおこなわれました。
研究の対象者はスウェーデンの認知症がない60歳以上の成人で、2001~2004年から2013~16年まで追跡できた2,147人(平均年齢70.6歳、女性が62%、86人が心疾患の既往歴あり)。安静時心拍数は心電図で測定され、60回/分未満、60~69回/分、70~79回/分、80回/分以上の4つのグループに分類されました。
対象者のなかで、追跡期間中に認知症の診断がついたのは289人でした。心拍数で解析した結果、60~69回/分のグループに比べて80回/分以上のグループでは認知症の発症リスクが55%上昇していたことが判りました。
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安静時心拍数の上昇が心血管疾患のリスクであることは広く知られています。今回の研究が興味深いのは、心血管疾患を発症した人たちに認知症のリスクが高いのではなく、心血管疾患に関係なくただ安静時心拍数が高いというだけで認知症のリスクが上昇することを示したからです。
次に知りたいのは、「では、若いうちから心拍数を下げる薬(βブロッカーなど)を用いて安静時心拍数を下げることに努めていれば認知症のリスクを下げられるのか」ということですが、これを調べた研究は見当たりません。
ではどうすればいいか。安静時心拍数は日ごろから有酸素運動をしていれば下がってきます。有酸素運動で認知症のリスクが下がることは以前から指摘されています。この理由は、運動により安静時心拍数が低下するからなのかもしれません。
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|2021年12月22日 水曜日
2021年12月22日 サッカーは直ちにやめるべきかもしれない
日本ではなぜかほとんど関心が持たれていませんが、10年ほど前から欧米諸国ではアメリカンフットボールやサッカーなどコンタクトスポーツ選手の慢性外傷性脳症(CTE)が注目を集めています。なにしろ、かなりの高確率で引退後に脳の障害や認知症に苦しみ、寿命も短くなるわけですから、選手自身や家族は気が気でありません。
今回はサッカーがいかに危険かを示した2つの研究を紹介したいと思います。
まずは、医学誌「Neurology」2021年11月24日号に掲載された「繰り返す頭部衝撃を受けた脳のMRIの異常と神経病理学との関連 (Association Between Antemortem FLAIR White Matter Hyperintensities and Neuropathology in Brain Donors Exposed to Repetitive Head Impacts)」です。
この研究の調査対象者は67人の元サッカー選手及び他の8人(過去にサッカー、ボクシング、軍隊加入のいずれかがある)です。研究開始時点で対象者は全員が死亡していました(なんと平均67歳という若さです)。全員が生存中に脳のMRIを撮影しており、全員が死亡後、研究のために脳を寄付しています。
高齢化に伴い、脳のMRIでは「白質高信号(white matter hyperintensities)」と呼ばれる「スポット」が認められます。この所見はCTEやアルツハイマー病に関連していることが分かっています。今回の研究ではこのスポットの単位が増えるごとに、深刻な小血管障害や白質(脳の一部)の損傷が生じるリスクが2倍になることが分かりました。
解剖ではおよそ7割の(75人中)53人にCTEが認められました。家族の証言からも研究に参加した対象者のおよそ3分の2が認知症に苦しんでいたそうです。
もうひとつの研究は医学誌「JAMA Neurology」2021年8月2日号に掲載された「男性の元プロサッカー選手のポジションとキャリアの長さと神経変性疾患のリスクとの関連 (Association of Field Position and Career Length With Risk of Neurodegenerative Disease in Male Former Professional Soccer Players)」です。
研究の対象者はスコットランド人男性の元プロサッカー選手7,676人。対照として、年齢や経済状況をマッチさせた23,028人の一般人が選ばれています。
7,676人の元サッカー選手のなかでCTEを発症したのは386人(5.0%)で、対照群では366人(1.6%)。リスクは3.66倍となります。
さて、この研究が興味深いのはここからです。サッカーのポジションごとにリスクが検討されているのです。最もリスクが低いのはゴールキーパーで1.83倍(ヘディングする機会が他のポジションよりも少ないから当然でしょう)、最も高いのはフォワードでもミッドフィルダーでもなく「ディフェンダー」で4.98倍です(こちらも当然でしょう)。
キャリアの長さでみると、長ければ長いほどリスクは上昇します。15年以上のプロのキャリアを持つ選手ではリスクがなんと5.20倍にもなっています。
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あくまでも個人的な意見ですが、サッカーという競技自体を見直した方がいいのではないでしょうか。少なくとも、サッカーを開始する時点で本人と保護者はCTEのリスクをきちんと知らされるべきだと思います。
サッカーだけではありません。過去のコラム(下記参照)で、米国ではアメリカンフットボールの元選手の多くがCTEで不幸な結末を迎えていることを紹介しました。オバマ元大統領は「自分に息子がいれば(アメリカン)フットボールはさせない」と公言しています。スポーツの選択には科学的な視点を加えるべきだと思います。
医療ニュース
2017年8月30日 アメリカンフットボールの選手のほとんどがCTEに!
2019年11月23日 やはりサッカーも認知症のリスク
2016年10月14日 コンタクトスポーツ経験者の3割以上が慢性外傷性脳症
はやりの病気
第137回(2015年1月) 脳振盪の誤解~慢性外傷性脳症(CTE)の恐怖~
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