医療ニュース
2018年6月10日 日曜日
2018年6月10日 スマホ依存でうつ病、不安症
スマホの便利さをいったん知ってしまうと、もはや後には戻れない、と感じている人が大半だと思います。私もそのひとりで、スマホの恩恵を被っていることを日々実感しています。
ですが、一方では「スマホ依存症」なる疾患が確立されるようになり、一部の医療機関では「スマホ依存症専用外来」まであるとか・・・。では、スマホ依存症はどれくらい危険なのでしょう。サンフランシスコ州立大学が興味深い報告をしています。
サンフランシスコ州立大学の135人の学生を調査した結果、スマホを使用しすぎると、「孤立感(isolated)」「寂しさ(lonely)」「抑うつ(depressed)「不安(anxious)」などが生じることが分かったそうです。こういった感情が起こるメカニズムは、他の物質乱用と同じであると同大学の研究者らは主張しています。
しかも、研究者らによると、オピオイド(麻薬)依存が成立するのと同じような脳内の作用がゆっくりと起こっているというのです。
もうひとつ、研究者らが指摘する興味深いポイントがあります。依存症になるのはユーザーのせいではなく、利益を追求するハイテク産業の欲望の結果であると主張しています。
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「あっ、この人、スマホ依存症だ!」と思えるシーンにときどき遭遇します。カフェなどでスマホをテーブルの上に置いて、チャイムやバイブレーションにすぐに反応して中身をチェックする様子はまさにスマホ依存症です。私には、チャイムやバイブレーションがサンフランシスコ州立大学の研究者らがいう「ハイテク産業の欲望」そのものに感じられます。
私自身はスマホ依存症に詳しくなく、また効果的なスマホ依存症外来を実施している医療機関もあまり知らないので、患者さんから相談されたときに困ることがあります。ですが、とりあえず患者さんにいつも助言することがあります。それは、「SNSは1日1回にする」ということです。それができないから依存症になるんだ…、という反論があるでしょうが、まずはLINEもFacebookもその他のSNSもチェックするのは通学前(通勤前)だけにする、というルールをつくるのです。
私自身はもともとSNSは読むだけで発信することはほとんどありませんが、LINEは1日1回、Face bookは週に1回をルールにしています。ちなみに、私がスマホで最も使用頻度が多いのが「Voice of America Learning English」という英語学習のウェブサイトです。スマホ依存症の人には失礼ですが、私の場合、スマホ依存になればなるほど英語が上達するのかな、と思っています・・・。
参考:メディカルエッセイ第184回(2018年5月)「英語ができなければ本当にマズイことに」
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|2018年6月10日 日曜日
2018年6月9日 「座りっぱなし」は認知症のリスクか
「座りっぱなし」が生活習慣病やがんのリスクになるという話はこのサイトでこれまで何度もしてきました。運動で帳消しになるのでは、という声もないわけではありませんが、その逆に、「運動しても危険性は減らず」、「座りっぱなしは喫煙と同等のリスク」とする厳しい意見もあります。
今回はその「座りっぱなし」が認知症のリスクになるという話です。
医学誌『PLOS ONE』2018年4月12日号(オンライン版)に掲載された論文(注1)によると、座っている時間が長い人は内側側頭葉が薄いことがわかったと言います。
ここは脳の解剖を整理しながらみていきましょう。脳をおおざっぱに分類すると、大脳、脳幹、小脳の3つになります。大脳と小脳があるなら中脳もあるわけですが、これは脳幹の中にあります。脳幹は、間脳、中脳、橋、延髄の4つからなります。「のうかん」の中に「かんのう」がある…、これだけでややこしくて投げ出したくなりますが、脳を理解するには、まだまだ序の口です。
内側側頭葉は大脳の一部ですから、今回は脳幹と小脳の話はしません。大脳は外から「大脳皮質」「白質」「大脳基底核」に分類できます。つまり、大脳基底核が大脳の一番奥深い部分です。ややこしいことに、似た名前の「大脳辺縁系」と呼ばれるものがあります。これがどこかというと、部位としては、だいたい大脳基底核の外側あたりに位置するのですが、今でてきた「白質」を指すわけではなく、また、視床や視床下部と呼ばれる間脳(脳幹を構成するひとつでしたね)の一部も含みます。このあたりで脳の解剖がイヤになってくる人も多いのですが、とりあえずは大脳辺縁系というのは「解剖」よりも「機能」を重視すべきものと考えて、重要な部分に「扁桃体」と「海馬」があると覚えておけばいいと思います。扁桃体は人間の情動を司っていて、海馬は記憶に関係しています。
ややこしい話はまだ続きます。人間の記憶は海馬だけが関連しているわけではなく、大脳皮質が委縮すると記憶力が低下します。大脳皮質は、前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉の4つに分類できます。これらのなかで記憶に最も関連があるのが側頭葉で、その内側は内側側頭葉(medial temporal lobe、以下「MTL」)と呼ばれます。ここまできてやっと最初の地点に戻ることができました。しかし、あと1点重要なことを補足しておきましょう。MTLのさらに内側に海馬があります。ですから、海馬が人間の記憶で最も重要な部位で、そのすぐ外側に海馬の次に重要なMTLがあると考えればとりあえず前に進めます。
ようやく今回紹介したい論文のポイントにうつれます。研究の対象者は認知機能が正常な45~75歳の男女35人。「座っている時間」と「運動量」が調べられ、脳のMRIを撮影しMTLの厚さとの相関関係が検討されています。
結果、MTLの厚さは座りっぱなしの時間と逆相関、つまり、座りっぱなしの時間が長ければ長いほどMTLが薄くなっていることが分かりました。MTLをさらに細かくみると、海馬傍回(parahippocampal)(文字通り、海馬の横に位置する)で最も強い関係があり、嗅内野(entorhinal)、皮質(cortical)、海馬台(subiculum)(海馬の下に位置する)でも薄くなっていたのです。
興味深いことに、運動量とMTLの薄さには相関関係が認められませんでした。
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この研究は「運動は座りっぱなしのリスクを帳消しにできない」とする説を支持することになるかもしれません。生活習慣病やがんのみならず、認知症のリスクにもなるなら、座りっぱなしの危険性はもっと注目されるべきかもしれません。ただし、だからといって、最近一部の企業が取り入れている「スタンディング・ディスク」はかえって有害だとする指摘(注2)もあります。
注1:この論文のタイトルは「Sedentary behavior associated with reduced medial temporal lobe thickness in middle-aged and older adults」で、下記URLで全文を読むことができます。
http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0195549
注2:The Washington Postに興味深い記事があります。タイトルは「Study: Standing desks could be harmful to your productivity . . . and your health」で、下記URLで閲覧できます。
参考:
メディカルエッセイ第129回(2013年10月)「危険な「座りっぱなし」」
医療ニュース
2016年2月27日 「座りっぱなし」はやはり危険
医療ニュース
2015年5月29日「座りっぱなしの危険性は1時間に2分の歩行で解消?」
2014年8月22日「運動で「座りっぱなし」のリスクが減少する可能性」
2014年2月28日「高齢女性の座りっぱなし、死亡リスクが上昇」
2013年4月2日「座りっぱなしの生活がガンや糖尿病のリスク」
2015年9月5日「立ちっぱなしも健康にNG?」
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