医療ニュース

2017年12月8日 金曜日

2017年12月8日 子宮頸がんより多いHPVが原因の中咽頭がん

 世界的にはかなり普及してきたHPVワクチンが日本では一向に広まらないなか、このウイルスが原因の中咽頭がんが急増していることが指摘されています。

 医学誌『Annals of Internal Medicine』2017年11月21日号(オンライン版)で報告された論文(注1)によれば、米国では2008年から2012年の間に、年平均38,793人が「HPVが原因のがん」と診断されています。そのうち女性が23,000人で59%、男性は15,793人、41%です。そして、驚くのはここからです。

 HPV原因のがんといえば子宮頸がんがいわば”常識”でしたが、これが覆りました。報告によれば、現在米国の「HPVが原因のがん」のなかで最も多いのは子宮頸がんでなく中咽頭がんなのです。そして、興味深いことに中咽頭がんを男女ごとにみてみると、女性が3,100人なのに対し、男性は12,638人。男性の方が4倍も多いのです。

 男女差についてもう少しみていきましょう。2002年から2012年の間、HPVが原因の中咽頭がんは女性ではほとんど増えていないのに対し(年0.57%の増加。後で述べるように最近は減少傾向という報告もあります)、男性では年2.89%の増加です。そして、男性の中咽頭がんの発症率は人口10万人あたり7.8人であり、すでに女性の子宮頸がんの発症率(10万人あたり7.4人)を超えているのです。特に上昇率が顕著なのが50代の男性です。論文によれば、この上昇傾向は2060年までは継続し、中咽頭がんは公衆衛生学的に重要な懸念事項とされています。

 では中咽頭がんに対して最も有効な方法は何か。論文ではワクチン接種で発症を予防できることが指摘されています。ところが、米国ではHPVワクチンの接種が男性ではさほど高くなく、さらにリスクの高い中高年にはほとんど普及していません。

 ここからはHPV感染率についてみていきましょう。やはり男女比が興味深いと言えます。口腔内のHPV感染率は、女性で3.2%なのに対し男性では11.5%もあります。人数に換算すれば男性1,100万人、女性320万人です。ハイリスク(注2)のHPV感染率でみると、男性7.3%、女性1.4%です。HPVのハイリスクとして有名な#16だけでみると、男性の口腔内感染率は女性の6倍にもなります(男性1.8%、女性0.3%)。

 もう少し細かくみてみましょう。同性間のパートナーをもつ男女でみると、男性の場合ハイリスクのHPV口腔内陽性率は12.7%、女性は3.6%です。また、黒人、喫煙者、大麻使用者、生涯に16人以上の膣またはオーラルセックスのパートナーがいた者でリスクが高くなっています。

 この「生涯16人以上のパートナー」を詳しくみてみましょう。これまでの人生で16人以上のパートナーがいた男性の場合、パートナーが1人以下の場合に比べて、口腔内のHPV感染は、そのパートナーたちとの「行為」が、オーラルセックスで10倍、膣交渉で4倍、「いずれも」で8倍高くなっています。女性については16人以上のパートナーがれば、1人未満に比べて、オーラルセックスで3倍、膣交渉で6倍、「いずれも」で7倍高くなっています。

 上に述べたように女性の中咽頭がんは増減がほとんどないとされていますが、この論文では、最近は減少傾向にあることを指摘した別の論文を引き合いに出しています。この理由として、女性のHPV感染の予防(子宮頸がんスクリーニング検査やワクチン)が功を奏した結果ではないかと著者らは考えています。

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 この論文は衝撃的です。医学の教科書を書き換えなければならない数字が突き付けられています。これまではHPVが原因のがんといえば子宮頸がんがほとんどだったのが、中咽頭がんが最多となり、しかも男性の方が女性より4倍も多いというのです。

 日本にはまだこのようなデータがありませんし、中咽頭がんでHPVが調べられるようになったのはつい最近のことです。

 ちなみに日本は諸外国と比べてオーラルセックスの普及率が高いと言われており、海外ではいくらか普及している女性の膣をカバーする「デンタルダム」などは日本ではほとんど売れないと聞きます。

 あなたが男性であったとしても女性であったとしても、咽頭のHPV検査、またはHPVワクチン、検討しなくていいですか?

注1:この論文のタイトルは「Oral Human Papillomavirus Infection: Differences in Prevalence Between Sexes and Concordance With Genital Human Papillomavirus Infection, NHANES 2011 to 2014」で、下記URLで概要を読めます。

http://annals.org/aim/article-abstract/2657698/oral-human-papillomavirus-infection-differences-prevalence-between-sexes-concordance-genital

注2:論文によれば、ハイリスクのHPVのサブタイプは、16, 18, 26, 31, 33, 35, 39, 45, 51, 52, 53, 56, 58, 59, 66, 68, 73, 82。ローリスク(通常、尖圭コンジローマの原因となる)は、6, 11, 40, 42, 54, 55, 61, 62, 64, 67, 69, 70, 71, 72, 81, 82, 83, 84, 89です。

参考:
毎日新聞「医療プレミア」
「HPVよりも優先すべきワクチンは」2016年8月7日
「HPVワクチン定期化の費用対効果」2016年8月14日
「ワクチン接種する/しない 学んだ上で判断を」2016年8月21日
NPO法人GINAコラム「子宮頚ガンとHPVワクチン」
NPO法人GINAコラム「悩ましき尖圭コンジローマ」

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2017年12月1日 金曜日

2017年11月30日 日本人の年齢別ピロリ菌感染率

 日本の高齢者の半数以上がピロリ菌に感染している…。

 これは私が医学部の学生だった1990年代によく言われていたことですが、それから20年以上経過し、当時と今の「高齢者」の年齢が変わってきています。「高齢者」とは呼ばずに「X0年代生まれ」という言い方にすべきではないか、と個人的に思っていたところ、まさにそのことを調べた論文が発表されました。

 医学誌『Scientific reports』2017年11月14日号(オンライン版)に掲載されています(注1)。研究を実施したのは愛知医科大学のChaochen Wang氏らで、これまでに発表されている合計86の感染率の研究を総合的に解析(これを「メタ分析」と呼びます)しています。研究の総対象者は170,752人です。

 結果は以下の通りです。数字(%)はピロリ菌の陽性率です。

1910年生まれ 60.9%
1920年生まれ 65.9%
1930年生まれ 67.4%
1940年生まれ 64.1%
1950年生まれ 59.1%
1960年生まれ 49.1%
1970年生まれ 34.9%
1980年生まれ 24.6%
1990年生まれ 15.6%
2000年生まれ  6.6%

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 若年者、というか現在30~40代の世代にもかなり多いことに驚かされます。ピロリ菌は井戸水で感染すると言われています。私は現在49歳。子供の頃、井戸水を使用している家庭はそれほど多くありませんでした。そして私はピロリ菌陰性でした。田舎育ちの私でも陰性なんだから、全国的に私の同世代は大半が陰性だろうと思っていたのですが、この研究をみると「日本人は若年者にもピロリ菌陽性が多い」と認識した方がよさそうです。

 ピロリ菌が原因の疾患は胃がんを始め多数あります。消化器疾患のみならず、血液疾患や一部の皮膚疾患にも関与していると言われています。では、検査して陽性なら除菌を…、と考えたくなる人も多いと思いますが、私自身はピロリ菌除菌には慎重な対応をすべきだと考えています。

参考:
毎日新聞「医療プレミア」2017年7月2日「ピロリ菌「全例除菌」を勧めない理由」

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

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