医療ニュース
2017年8月31日 木曜日
2017年8月31日 長時間労働で心房細動発症のリスクが大幅上昇
心房細動と呼ばれる不整脈はときに「死に至る病」となることがある重要な疾患です。心臓の疾患として有名な狭心症や心筋梗塞は、適正体重を維持し、禁煙し、適度な運動をおこない、血圧・血糖・コレステロールなどに注意していればリスクを大幅に下げることができます。
一方、心房細動はこれらに注意していても起こるときは起こります。よく議論されるのが「激しい運動」です。マラソンが心房細動のリスクになるという意見は昔からあり、またその逆に激しい運動がリスクを下げるという研究もあり、現時点ではコンセンサスが得られていません。
では「長時間労働」はどうでしょう。
週55時間の長時間労働をおこなうと、週35~40時間のときに比べて4割も心房細動発症のリスクが上昇する…。
米国の医療者向け用サイト『Medscape Family Medicine』にこのようなレポート(注1)が掲載されました。
研究の対象はヨーロッパの8つの患者データベースに登録されている85,494人(うち65%が女性)です。調査開始時に週55時間以上労働していたのが全体の5.2%、35~40時間勤務が62.5%です。追跡機関平均10年の間に1,061人が心房細動を発症しました。
心房細動の発症率と週あたりの労働時間を解析した結果、週55時間以上働く人は、週35~40時間の人に比べて42%も発症リスクが高いことが分かったのです。
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今回の研究だけで長時間労働と心房細動の因果関係を証明するまでには至りませんが、それでも示唆に富む報告です。週55時間というと週休2日を維持したとして、出勤日に1日あたり3時間勤務すればこのレベルになります。日本人の労働者の多くはこれ以上働いているのではないでしょうか。医師の99%はこのレベルを軽く超えています。
日本にも心房細動で悩んでいる人は少なくありません。日本での長時間労働との関係を調べた研究はおそらくないと思いますが、現在でも過去でも長時間労働の経験がある人は定期的な心電図検査をおこなうべきでしょう。心房細動は健診時に本人の自覚がない状態で発見されることが多いからです。
注1:このレポートのタイトルは「New-Onset AF Risk Seen to Rise With Longer Work Hours」で、下記URLで全文を読めます。
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|2017年8月31日 木曜日
2017年8月31日 韓国の加湿器殺菌剤、死亡者は1,200人以上
昨年(2016年)5月にこの「医療ニュース」でお伝えしたように、UKを拠点とした他国籍企業オキシー・レキット・ベンキーザー社が韓国で発売していた殺菌剤が原因で、同国では多数の犠牲者が出ています。昨年紹介したBBCの報道では「約100名が死亡」とされていましたが、韓国のメディア(注1)によると、2017年7月の時点で、被害者総数は5,657人、うち1,212人が死亡しています。
この事件で最も問題なのは、この殺菌剤が肺を損傷させることはすでに2011年にはその可能性が指摘されていたのにもかかわらず、同社がそのまま販売を続けたことです。製品は結局20年近く販売されていたようです。
また、当初の報道ではこの会社だけが問題なのかと思われていましたが、最終的に同社の「Oxy」と呼ばれる製品の被害者は181人のみ(死者は73人)です。同社のこの製品による被害者数が最多なのは事実ですが、全体の被害者数はその30倍以上になります。これは同社だけではなく、スーパー大手の「ロッテマート」や「ホームプラス」も同類の製品を販売していたからであり、これらの業者も有罪判決を受けています(注2)。
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この事件を医学的に検討した論文を探してみましたが見つかりませんでした。BBCなどの一般メディアから得られる情報を総合的に勘案すると、おそらくこの薬剤で起こる肺疾患は「肺線維症」ではないかと思われます。
韓国メディアは、文在寅大統領が2017年8月8日、政府の責任を認めて大統領として初めて謝罪したことを伝えています。政府と企業のどちらが悪いかを論じてもあまり意味がないと思いますが、オキシー・レキット・ベンキーザー社はこの製品をなぜ韓国のみで発売していたのでしょう。同社は日本にもありますが、日本では一切販売されていません。
ですが日本人も安心はできません。過去20年間で韓国のホテルに複数回宿泊した日本人は大勢いるはずです。最近、息苦しさや原因不明の咳が続いている人で韓国渡航歴のある人は、ホテルの部屋に加湿器がおいてなかったかどうかを思い出すべきかもしれません…。
注1:韓国の英字新聞「Korea JoongAng Daily」が報道しています。
http://mengnews.joins.com/view.aspx?aId=3036910
注2:UKのメディア「Independent」が報道しています。
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|2017年8月31日 木曜日
2017年8月30日 アメリカンフットボールの選手のほとんどがCTEに!
慢性外傷性脳症(以下「CTE」)…。世間では今もあまり知られておらず名前も地味ですが、もっともっと注目されなければならない、と数年前から私が(他に仲間もおらず)ひとりで言い続けている疾患です。
詳しくは過去のコラム(注1)を参照いただきたいのですが、ここでも簡単にまとめておくと、アメリカンフットボールの選手の多くが度重なる頭部への衝撃が原因で脳に損傷が生じ、若くして認知症、うつ病、パーキンソン病様症状などの神経症状を発症し、やがて死に至る極めて悲惨な疾患です。また自殺率が高いことも判っています。
アメリカンフットボールが原因であることが自明でありながら、これまでそれが大きく報道されておらず、また野球やサッカーでも同じ被害が出ることも指摘されていますが、こちらも(特に日本の)メディアはあまり取り上げません。
今回紹介したい研究は、CTEが従来考えられていたよりもずっと起こりやすいことを明らかにしました。
医学誌『JAMA』2017年7月25日号(オンライン版)に掲載された論文(注2)によると、死亡した元アメリカンフットボール選手202人(死亡時年齢中央値66歳)のうち、なんと177人(87%)もが神経病理学的にCTEの診断がついたのです。177人の死亡時年齢中央値は67歳、選手をしていた期間は平均15.1年でした。
また、NFL(ナショナル・フットボール・リーグ)の選手111人だけで検討すると、なんと110人(99%)がCTEの診断がついているのです。つまり、選手としてのレベルが高いほど有病率が高いということです。
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この研究、海外のSNSでどれだけ話題になっているのか私にはわかりませんが、少なくとも海外のメディアでは大きく報道されています(注3)。一方、日本のメディアは沈黙しているようにしか見えません。日本では欧米諸国と比べると、アメリカンフットボールをプレイする人数は少ないでしょうが、サッカーや野球は大勢います。
また、CTEは過去に「パンチドランカー」と呼ばれていたものとほぼ同じ疾患であり、ボクサーをはじめとする格闘家に多いことも分かっています。
日本でもこういったスポーツがCTEのリスクになっていないかどうかを調査し、危険性がどの程度か明らかにし世間に伝えるべきだと私は考えています。
注1;下記コラムを参照ください。
はやりの病気第137回(2015年1月)「脳振盪の誤解~慢性外傷性脳症(CTE)の恐怖~」
医療ニュース2017年3月6日「ヘディングは脳振盪さらに認知症のリスク」
医療ニュース2016年10月14日「コンタクトスポーツ経験者の3割以上が慢性外傷性脳症」
注2:この論文のタイトルは「Clinicopathological Evaluation of Chronic Traumatic Encephalopathy in Players of American Football」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/2645104?resultClick=1
注3:下記を参照ください。
BBC:http://www.bbc.com/news/world-us-canada-40718990
CNN:http://edition.cnn.com/2017/07/25/health/cte-nfl-players-brains-study/index.html
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|2017年8月7日 月曜日
2017年8月7日 冷たい食べ物で起こる頭痛と片頭痛
アイスキャンディやアイスクリームなどを食べると、キーンとする頭痛が起こるという人は少なくないと思います。この頭痛、医学的には「cold stimulus headache(冷刺激頭痛)」(注1)と呼びますが、軽症であることもあり、あまり医学界では議論されません。他の呼称として「brain-freeze headache(脳凍結頭痛)」「ice-cream headache(アイスクリーム頭痛)」があります。(カッコ内の日本語訳は私の訳です。正式な和名はおそらくないと思います)
米国の医療系メディア『Health Day』2017年7月22日号(注2)にこの頭痛を防ぐ方法が紹介されています。その方法を述べる前に、この頭痛を少し医学的にみてみましょう。
この頭痛はそのメカニズムが完全に解明されたわけではありませんが、口蓋(口の中の上の部分)の奥にある神経が、冷たい食べ物で刺激されると、その情報が頭痛を引き起こす脳の領域に伝わることで生じると考えられています。『Health Day』の取材を受けた米国テキサスA&M医科大学(Texas A&M College of Medicine)のStephanie Vertrees氏は、この神経は蝶口蓋神経節神経痛(sphenopalatine ganglioneuralgia)と述べています。
世界的な医学のオンライン教科書である『UptoDate』によると、この頭痛は大勢の人にみられるものの、とりわけ片頭痛を有する人によく認められます。Stephanie Vertrees氏はそれを進めて、「この頭痛を意図的に起こすことによって片頭痛が予防できるかもしれない」と述べています。
これが正しいのかどうかは今後の研究を待つしかありません。また、これも現時点では高いエビデンス(科学的確証)があるとはいえませんが、Stephanie Vertrees氏が『Health Day』で述べた、この頭痛を防ぐ3つの方法について紹介しておきます。
①冷たいものはゆっくり食べる
②冷たいものは口の奥に含むのではなく前の方で保つようにする
③舌を口蓋(口の上)に押し付けて舌の温度で温める
************
この頭痛(cold stimulus headache)自体はたいしたことがなく、もちろん治療の対象になりませんが、片頭痛との関連性は興味深いと言えます。たしかに、アイスクリームを食べたときに片頭痛が起こるという人もいます。私自身は、片頭痛の患者さんに冷たいものを避けるような制限をすることはありませんが、今後、「アイスクリームで片頭痛」と言う人には、まったく食べないのではなく、上記の3つを守りながら食べることを助言したいと考えています。
ですが、Stephanie Vertrees氏が述べている「この頭痛を意図的に起こすことによって片頭痛を予防する」という考えは時期尚早だと思います。
注1:世界的な医学の教科書『UpToDate』に少し説明があります。(ただし有料サイトです)
注2:この記事は「The Scoop on Avoiding ‘brain freeze’」で読むことができます。
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