医療ニュース

2016年12月26日 月曜日

2016年12月26日 未成年の格闘技は禁止すべきか

 未成年が格闘技をおこなうのなら非接触型にしなければならない…

 これは米国小児科学会(AAP)のスポーツ医学・フィットネス委員会(COUNCIL ON SPORTS MEDICINE AND FITNESS)による勧告です。医学誌『Pediatrics』2016年12月号(オンライン版)(注1)に掲載されています。

 現在米国では、約650万人の未成年(children and adolescents)がなんらかの格闘技を習っています。格闘技は筋肉を鍛えバランス感覚や柔軟性を養うことだけでなく、自尊心や自我の確立に好影響を与えると考えられています。

 しかし、その一方でコンタクト型の格闘技には外傷のリスクが伴います。外傷の多くは打撲や捻挫といった軽症のものですが、なかには重症例もあります。特に、米国で人気の高い総合格闘技(MMA, mixed martial arts)は、脳振盪や窒息、さらに脊髄損傷といった重症となる外傷のリスクがあります。

 米国では、1990年~2003年の間におよそ12万8,400人の17歳以下の未成年(中間年齢は12.1歳)が救急部で治療を受けています。外傷発生率は、格闘技の練習1,000回あたりにつき41~133件になるとされています。また、ヘッドギアなどの保護用品については、それらが危険性を減らすというデータがなく過信は禁物です。

 格闘技別にみると、救急部で治療を受けた8割近くが空手によるものですが、委員会が最も警告しているのは総合格闘技です。また、テコンドーのキックにも厳しいコメントをしています。テコンドーはだいたい2割がパンチ、8割がキックです。テコンドーによる外傷の多くはキックによるもので、頭部へのキックは脳振盪を起こすこともあります。ところが現在のルールでは頭部へのキックがポイントになり、委員会はこの点に注意を促しています。

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 接触型(コンタクト型)の格闘技がNGで、格闘技をするなら非接触型に、と言われても素直に従える人はそういないでしょう。そもそも格闘は「接触」を前提としています。格闘技が好きな子供に、「型」の練習だけにしておきなさい、と言っても納得しないに違いありません。

 しかし、軽症でない外傷、つまり障害を残すような外傷も起こり得るわけですから、この委員会の警告は傾聴すべきです。また、今回委員会が取り上げているのは、格闘技(Martial arts)だけですが、広義にはコンタクトスポーツには、アメリカンフットボールやサッカーも含まれます。そういったスポーツはどのように考えていくべきなのか、慎重な議論が必要となります。

 日本ではなぜかあまり注目されていませんが、米国ではコンタクトスポーツがCTE(慢性外傷性脳症)という難治性の疾患のリスクになることが次第に周知されつつあります(注2)。

注1:この論文のタイトルは「Youth Participation and Injury Risk in Martial Arts」で、下記のURLで全文を読めます。

http://pediatrics.aappublications.org/content/138/6/e20163022

注2:下記を参照ください。

はやりの病気第137回(2015年1月)「脳振盪の誤解~慢性外傷性脳症(CTE)の恐怖~」
医療ニュース2015年5月9日「脳振盪に対するNFLの和解額が10億ドルに」

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2016年12月26日 月曜日

2016年12月25日 1日1本のタバコでも肺がんの死亡リスク9倍

 1日1本未満の喫煙でも肺がんの死亡リスクが9倍に…

 これは医学誌『JAMA internal medicine』2016年12月5日号(オンライン版)に掲載された論文(注1)が主張していることです。米国国立がん研究所(National Cancer Institute)による研究です。

 研究の対象者は、調査開始時(2004~05年)に59~82歳であった合計290,215人の男女。喫煙歴はアンケートでおこない、2011年末までの死亡者、死亡原因が調べられています。

 結果、全死因死亡リスクは、非喫煙者に比べて、1日1本未満で1.64倍に、1~10本で1.87倍となっています。注目すべきは肺がんの死亡率で、1日1本未満で9.12倍、1~10本で11.61倍にもなっていたのです。

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 患者さんに「タバコやめましたか?」と尋ねると、「完全には止められていませんが、減煙に成功して1日3本程度です」などと答える人がいます。自身にしてみれば「がんばっている」という意識があるのでしょうが、この研究によればあまり意味がないということになります。

 もっとも、この研究を待つまでもなく、減煙しているという人の多くは、貴重なタバコを惜しむように肺の奥まで吸い込みますから、減煙がかえって身体に悪いのでは?と感じることもあります。

 健康で長生きしたいならタバコは止める以外の選択肢はない、と、そろそろ断言してもいいのではないでしょうか。

注1:この論文のタイトルは「Association of Long-term, Low-Intensity Smoking With All-Cause and Cause-Specific Mortality in the National Institutes of Health-AARP Diet and Health Study」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/article-abstract/2588812

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2016年12月9日 金曜日

2016年12月9日 コーヒー1日3杯以上で脳腫瘍のリスクが低下

 ちょうど太融寺町谷口医院が開院した2000年代後半あたりから、コーヒーががんや生活習慣病の予防になるという研究が相次ぎ、このサイトでも繰り返し紹介してきました。今回も「コーヒーは健康に良い」という研究で、「1日3杯以上のコーヒーで脳腫瘍のリスクが低下する」というものです。

 医学誌『International Journal of Cancer』2016年12月15日号(オンライン版)に日本人を対象とした研究が紹介されています(注1)。

 対象者は合計106,324人の日本人の男女(男性50,438人、女性55,886人)です。約10年の調査期間中に脳腫瘍を発症したのは157人(男性70人、女性87人)でした。コーヒーと緑茶を飲む頻度を「週に4日以下」「1日1~2杯」「1日3杯以上」の3つのグループに分け、脳腫瘍のリスクが検討されています。

 男女合わせたデータをみてみると、コーヒーを1日3杯以上飲んでいる人は脳腫瘍のリスクが0.47倍に下がっています。女性だけでみれば0.24倍とさらに低下しています。「神経膠腫」と呼ばれる脳腫瘍全体の約3分の1を占める悪性腫瘍だけでみてみても、コーヒー摂取量が多い人はリスクが0.54倍に低下しています。

 尚、緑茶と脳腫瘍のリスクには相関関係が認められなかったそうです。

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 脳腫瘍の予防にコーヒーを!とまでは言えないと思いますが、この研究はコーヒー好きには嬉しいものでしょう。脳腫瘍にも悪性と良性があります。先に述べた悪性の「神経膠腫」は脳腫瘍のなかで最も頻度が多いものですが、がん全体のなかではそれほど多いわけではありません。

 脳腫瘍がやっかいなのは、予防する方法が確立されていないからです。胃がんならピロリ菌の除菌、肝がんなら肝炎ウイルスの治療、子宮頚がんならワクチンと定期健診、大腸がんなら生活習慣病の予防と治療、肺がんなら喫煙など、多くのがんには「〇〇には気を付けましょう」というものがあるわけですが、脳腫瘍にはそういったものはありません。いくら規則正しい生活を続けていようが、感染症に注意しようが起こるときは起こるのです。遺伝性があるわけでもありません。

 そのような状況のなか、「コーヒーがリスクを下げられるかもしれない」という研究は興味深いと言えます。今後の研究にも注目したいと思います。

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注1:この論文のタイトルは「Coffee and green tea consumption in relation to brain tumor risk in a Japanese population」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ijc.30405/full

参考:
医療ニュース
2016年10月31日 認知症予防にはコーヒー?それとも緑茶?
2016年8月12日 加工肉はNGだがコーヒーはガンのリスクでない
2015年8月28日 コーヒーが悪性黒色腫を予防
2016年3月8日 コーヒーを毎日飲めば膀胱がんのリスクが低下
はやりの病気
第22回(2005年12月)「癌・糖尿病・高血圧の予防にコーヒーを!」
など

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2016年12月9日 金曜日

2016年12月8日 胃薬PPI大量使用は脳梗塞のリスク

 胃薬には様々な機序のものがあり薬局で買えるもの(OTC)もあれば漢方薬もあります。多数ある胃薬のなかで「最もよく効く胃薬は?」と問われれば多くの医療者は「PPI」と答えると思います。

 PPI、正確にはプロトンポンプインヒビター(proton pump inhibitor)と呼ばれる胃酸分泌を抑制する薬は日本では90年代前半に登場し、あっという間にシェアを伸ばしました。非常によく効く上に、副作用があまりないと考えられており、今では消化器内科医のみならず多くの医師が”簡単に”処方しています。

 そのPPIが今年(2016年)になり、突然「キケンな薬」とみなされることになります。まずきっかけとなったのは「認知症のリスクとなるかもしれない」という報告です。ドイツでおこなわれた大規模研究で、PPI定期使用者の認知症のリスクは使用していない人に比べて44%も上昇していることが分かったのです(注1)。

 次に危険性を発表したのは「米国心臓学会」(American Heart Association)。2016年5月、PPIが血管内皮細胞の老化を加速する可能性があることを報告しました(注2)。「血管内皮細胞の老化の加速」というのは動脈硬化が進行することを意味しており、要するに心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患が起こりやすくなるということです。

 今回お伝えするのも「米国心臓学会」の報告です。2016年11月15日、「大衆向けの胃薬が脳梗塞のリスクを上げる」というタイトルでPPIの危険性をウェブサイトに掲載しました(注3)。

 紹介されているのはデンマークの研究です。対象者はデンマーク国民244,679人(平均年齢57歳)で調査期間はおよそ6年です。この間に脳梗塞を発症したのは9,489例で、発症とPPIの使用状況の関係が検証されています。検討されたPPIは4種。オメプラゾール(先発品の商品名は「オメプラゾン」「オメプラール」)、pantoprazole (Protonix、日本未発売)、ランソプラゾール(タケプロン)、エソメプラゾール(ネキシウム)です。

 解析の結果、PPIを使用していると脳梗塞のリスクが21%上昇していることが判りました。ただし、少ない量の使用であればリスク上昇はほとんどなかったそうです。4種のなかでも差があります。各PPIを最高用量で用いた場合、最もリスク上昇が少なかったのがランソプラゾールの30%、最も高かったのがpantoprazoleの94%でした。

 PPI以外の胃酸分泌を抑制する薬としてH2ブロッカー(ファモチジンなど)があります。H2ブロッカーについては脳梗塞のリスク上昇は認められなかったようです。

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 下記「医療ニュース」でも述べたように、わざわざ高価なPPIを使わなくてもいいのに…、という症例は少なくありません。つまり、PPIに頼らなくても値段の安いH2ブロッカーでコントロールできる例は少なくないように私は感じています。ですから、転勤などで大阪に引っ越してきて新たに当院をかかりつけ医とした患者さんに対してはPPIをH2ブロッカーに変更することがよくあります。

 ただし危険性を意識しすぎて、PPIを一切使わない、というのは行き過ぎです。やはりPPIがどうしても必要な症例もあります。ですが、そういったケースでもPPIで症状を安定させた後は、H2ブロッカーや他の胃薬、あるいは漢方薬などを用いる方がいいでしょう。もちろん薬以上に大切なのは、規則正しい生活、規則正しい食習慣であることは言うまでもありません。 

注1:下記を参照ください。

はやりの病気第151回(2016年3月)「認知症のリスクになると言われる3種の薬」

注2:下記を参照ください。

医療ニュース2016年8月29日「胃薬PPIが血管の老化を早める可能性」

注3:下記を参照ください。

http://newsroom.heart.org/news/Xpopular-heartburn-medication-may-increase-ischemic-stroke-risk

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