医療ニュース

2016年7月29日 金曜日

2016年7月29日 シフト勤務は心臓疾患のリスク

 24時間稼働の工場、警備員、コンビニなど、シフト制で夜間にも勤務しなければならない職種というのは少なくありません。医療職も同様で、病院勤務であれば、医師、看護師、介護士などは夜勤勤務があります。

 過去にも何度かお伝えしたように、夜勤をおこなうと肥満になりやすく、中性脂肪や血糖値が上がりやすく、HDL(善玉コレステロール)が下がりやすいという研究があります(下記医療ニュース参照)。このサイトで繰り返し述べているように「同じ時間に起きて同じ時間に寝る」が健康の秘訣です。

 シフト勤務が心臓疾患のリスクになるとした論文が発表されましたので、今回はそれを紹介したいと思います。

 医学誌『Hypertension』2016年6月6日号(オンライン版)に掲載された論文(注1)によれば、睡眠不足があり、かつ就寝時間が不規則になれば、夜間にも心拍数が上昇し、尿中ノルエピネフリン濃度が上昇するようです。ノルエピネフリンが上昇すれば血管が収縮し血圧上昇が起こります。このような状態が継続すれば、心筋梗塞や心不全など心臓疾患のリスクが上昇することになります。

 研究の対象者は20~39歳の健康な26人です。8日間睡眠時間を5時間に制限し、さらにグループを2つに分け、一方は同じ時間に寝て同じ時間に起きるようにし、もう一方は8日間のうち4日間は就寝時刻を8.5時間遅らせています。

 その結果、どちらのグループも5時間という短い睡眠時間の結果、日中の心拍数は上昇していましたが、就寝時刻を遅らせたグループでは夜間の心拍数が顕著に上昇したようです。また、このグループでは尿中ノルエピネフリン濃度も上昇していました。

 論文の著者は「概日リズム(circadian rhythm)」という言葉をキーワードにしています。概日リズムとはわかりやすいことばでいえば「体内時計」で、これが乱れると様々な不調が生じることがわかっています。「同じ時間に寝て同じ時間に起きる」ことは、概日リズムを一定にするために重要ということです。

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 私が研修医の頃、「僕は少々寝なくても平気ですから頑張ります」と指導医の先生に言うと、「そう言ってられるのも今のうちだけ。40歳前後になれば分かるよ」と言われました。体力(だけ)には自信があった私は、自分だけはいくつになっても夜間の救急外来でもこなせる、と根拠なく思っていたのですが、やはり先輩医師の言うとおり30代後半になると身体がついていかなくなりました。太融寺町谷口医院をオープンした頃は、夜間の救急診療所でも月に数回勤務できていたのですが、そのうち翌日の診療にこたえるようになりました・・・。

 最近、患者さんにシフト勤務の弊害を話すことが多くなっています。しかし、そんなこと理屈ではわかっても、すぐに職場の勤務形態を変更したり、転職したりするわけにはいきません。

 ということは、若い頃から人生計画をたてて、例えば「夜勤は35歳までにする」ということを初めから決めるのがいいかもしれません。しかし、事はそう簡単には運ばないでしょうから、私としては社会全体で「35歳以上の夜勤を制限する」という流れができればいいのではないかと思います。働き手が少なくなると困りますから、一方で「35歳までは夜勤を積極的にしましょう」という啓発をするのです。これは非現実的でしょうか・・・。

注1:この論文のタイトルは「Adverse Impact of Sleep Restriction and Circadian Misalignment on Autonomic Function in Healthy Young Adults」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://hyper.ahajournals.org/content/68/1/243.abstract?sid=72840f8d-9d04-4834-a52d-211033f33153

参考:
メディカルエッセイ第128回(2013年8月)「同じ時間に起きて同じ時間に寝るということ」
医療ニュース
2015年12月22日「「社会的時差ボケ」が糖尿病などのリスクに」
2014年12月26日「夜勤は肥満のリスク」
2016年1月28日「夜勤あけは交通事故を起こしやすい」

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2016年7月13日 水曜日

2016年7月13日 韓国全土に日本脳炎警報

 朝鮮日報日本語版(注1)によりますと、2016年7月11日、韓国保健福祉部は、韓国全土に「日本脳炎警報」を発令しました。

 報道によれば、韓国保健福祉部疾病管理本部(The Korea Centers for Disease Control and Prevention)の調査で、2016年7月7日に釜山で採取された蚊の64.2%がコガタアカイエカで500匹以上になるそうです。この結果を受けて「警報」が発令されたもようです。韓国の規定では、採取した蚊の半分以上かつ500匹以上がコガタアカイエカであった場合に「警報」が発令されるそうです。

 尚、韓国では昨年(2015年)に40人が日本脳炎を発症しており、これは2001年以降では最多となるそうです(注2)。

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 日本脳炎ウイルスは、豚の体内に生息しており、コガタアカイエカが豚を吸血したときにウイルスが蚊の体内に侵入し、次にヒトを刺したときにウイルスがヒトの体内に侵入することによって感染します。したがって、釜山でコガタアカイエカが大量に確保されたとしても、蚊の体内にウイルスがいなければリスクはありません。

 例えば、釜山の豚の血液から日本脳炎ウイルスそのものか抗体が検出される割合が高いのであれば、たしかにヒトが感染するリスクは高いと言えるのですが、朝鮮日報日本語版の報道では、そのあたりの記載がなくわかりません。(私はハングルが読めないので原文を理解できません)

 しかし、はっきりと「韓国全土で警報」と書かれていますから、韓国の当局がハイリスクと判断したのは間違いないでしょう。韓国渡航を考えている人はワクチン接種をした方がいいかもしれません。

 尚、これまでは私は韓国渡航者に対して「豚を飼っているような地方にいかない限りは日本脳炎のワクチンは不要」と伝えてきました。今回の調査が釜山でおこなわれたこと、当局は「全土」に警報を発令したことから考えると、渡航先に関係なくワクチンを接種した方がいいのかもしれません。

注1:下記URLを参照ください。

http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2016/07/12/2016071200668.html

注2:朝鮮日報には英語版もあり、この情報はなぜか英語版にはあり日本語版にはありません。

http://english.chosun.com/site/data/html_dir/2016/07/12/2016071201405.html

参考:はやりの病気第63回(2008年11月)「日本脳炎を忘れないで!」

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2016年7月11日 月曜日

2016年7月11日 ザガーロはプロペシアに取って代わるか

 男性を対象とした雑誌などではすでに話題になっているようですが、AGA(男性型脱毛症)の新しい治療薬が登場しました。「ザガーロ」という名称で、以前からあった「プロペシア(フィナステリド)」をもっと強力にした薬とされており、だいたいそのような理解で間違ってはいません。実際、プロペシアで効果が不十分だったけれど、ザガーロに変更して発毛効果が認められたとする研究もあります。

 医学誌『International Journal of Dermatology』2014年6月5日号(オンライン版)(注1)によりますと、プロペシア(フィナステリド)で効果が認められなかった症例の8割近くでザガーロの有効性が認められています。

 研究の対象者は韓国人男性です。プロペシアで効果なくザガーロを半年間内服した31人のうち、24人に有効性が認められたそうです。(17例はやや改善(slightly)、6例は中等度改善(moderately)、1例は大きく改善(markedly)とされています) 残りの7人は著変なく、悪化した症例はゼロのようです。発毛の評価はカメラを用いた客観性を担保した方法が採用されています。毛髪の密度は10.3%、太さは18.9%の改善が認められています。副作用は、一過性の性機能不全が6人(17.1%)に生じています。

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 過去に、プロペシアとザガーロ(アボルブ)の比較研究を紹介しました(注2)。その結果もザガーロの方が有効とされていました。ということは、新たにAGA治療を開始するときにはザガーロを選択したいと誰もが考えるでしょう。

 しかしそうはならないのではないかと私はみています。現在プロペシアには後発品(ジェネリック薬品)があり、価格は1箱(28日分)でだいたい6千円くらいです。ところがザガーロには後発品がなく、価格は1箱(30日分)で9千円近くもします。1日あたりでみれば80円程度の差ですが、これが何か月も何年もとなると馬鹿になりません。また、ザガーロとまったく同じアボルブという前立腺肥大症の薬があり、これはザガーロよりは安いのですが、AGAには承認されておらず、自己判断で内服すると大きな副作用が出たときに保障されないという問題があります。

 どちらを選択するかは、個人の考えということになります。それ以前にAGAは病気ではありませんから、それだけ高いお金を払ってまで治療をすべきかという根本的な問題もあります。さらに軽度とはいえ副作用もありますから、治療開始には充分に慎重になるべきです。

注1:この論文のタイトルは「Effect of dutasteride 0.5 mg/d in men with androgenetic alopecia recalcitrant to finasteride」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/ijd.12060/abstract

注2:下記「医療ニュース」のなかで取り上げています。

医療ニュース2014年3月17日「AGAにはプロペシアよりアボルブが有効?」

参考:トップページ「薄毛・抜け毛を治そう」

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2016年7月4日 月曜日

2016年7月4日 肥満+うつ(鬱)があれば食事前の悲しい話はNG

 ストレスがあるときは食事が喉を通らない、という人がいる一方で、ストレスがあれば食欲が亢進する、という人もいます。そして、皮肉なことに、日ごろから肥満を気にしている人に限って「食欲亢進」と言うような印象があります。この私の印象は正しいのでしょうか・・・。

 肥満とうつ(鬱)があると、悲しい話を聞いたときにエネルギー摂取量が有意に多くなる・・・。

 これは医学誌『Journal of health psychology』2016年5月20日号(オンライン版)に掲載された論文(注1)が主張していることです。

 研究は米国ニューヨークのセント・ボナベンチャー大学の心理学者Gregory J Privitera氏によるもので、154人が研究に参加しています。参加者を肥満、うつ病のカテゴリーに分類し、悲しい話を読んでもらったときと、幸せな話を読んでもらったときで、食事量や食事の内容がどれくれい変化するかが調べられています。被験者には、好きなものを好きなだけ食べられるビュッフェスタイルで食事が供給されました。

 結果、肥満とうつ(鬱)がある被検者は、悲しい話を読んだときに、エネルギー摂取量が有意に多くなり、また高カロリー食品を多く摂取することが分かったそうです。

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 研究の規模がさほど大きくないため、信ぴょう性はさほど高くないかもしれませんが、経験的にも合致することであり、参考になる研究だと思います。体重を気にしている人は、気分がすぐれないときには、意識して楽しい本を読んだり楽しい会話を心がける、ということが有効かもしれません。または、そのようなときには意識して食事量を減らし、高カロリーのものを避けるようにすべきでしょう。

 以前私は、フランス人は高カロリー食をたくさん食べるのに肥満が少ないのは「ゆっくり食べる」ことが原因ではないか、という自説を述べました(注2)。フランス人は家族との食事の時間を大切にし、ゆっくりと時間をかけて会話を楽しみながら食事をします。もしかすると肥満になりにくいのは、単に時間をかけて「ゆっくり食べる」からだけではなく、家族との会話を「楽しんで食べる」からかもしれません。

 いずれにしても、ストレスがありうつ状態になっているときに、そのストレスを”孤食”で解消することは止めておいた方がいいでしょう。

 

注1:この論文のタイトルは「Differential food intake and food choice by depression and body mass index levels following a mood manipulation in a buffet-style setting」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://hpq.sagepub.com/content/early/2016/05/19/1359105316650508.abstract

注2:メディカルエッセイ第142回(2015年11月)「速く歩いてゆっくり食べる(後編)」

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