医療ニュース
2015年11月28日 土曜日
2015年11月28日 酒さは生活習慣病や心疾患のリスク
酒さ(しゅさ)という疾患は患者数が多い割には、知名度が低いというか、医療に携わる者であれば知らない者はいませんが、一般的にはこの病気の名前自体を知らない人が少なくありません。
酒さは顔面に生じる慢性の炎症性疾患です。以前からこの病気のリスクには様々なことが言われており、心疾患がそのひとつという考えもあります。
今回紹介する研究はその「逆」で「酒さがあると心疾患のリスクが上昇する」というものです。
医学誌『Journal of the American Academy of Dermatology』2015年5月25日号(オンライン版)に掲載された論文(注1)に報告されています。研究は台湾人によるもので、対象者は33,553人の酒さの患者と67,106の酒さでない人です。
分析の結果、酒さがある人はない人に比べて、高コレステロール血症などの脂質異常症となるリスクが1.41倍、同様に高血圧が1.17倍、狭心症や心筋梗塞などの心疾患を患うリスクが1.35倍となっています。この傾向は女性よりも男性で強く認められたようです。
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日頃診ている患者さんのことを思い出してみても、たしかに男性では、酒さと高脂血症・高血圧症が合併しているような印象があります。酒さが先か、高脂血症・高血圧症が先か、というのは「ニワトリが先か卵が先か」と似たような感じがします。
つまり、高脂血症・高血圧症がある人が顔面が赤くなってきたとすれば速やかに主治医に相談すべきですし、すでに酒さの診断がついている人は定期的に健康診断を受けて、血圧や脂質異常に注意すべきでしょう。
注1:この論文のタイトルは「Cardiovascular comorbidities in patients with rosacea: A nationwide case-control study from Taiwan」で、下記のURLで概要を読むことができます。
http://www.jaad.org/article/S0190-9622%2815%2901597-2/abstract
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|2015年11月27日 金曜日
2015年11月27日 抗生物質の使用が体重増加を引き起こす
日常の診療で私が最も困っていることのひとつが、「抗生物質をください」と言って引き下がらない患者さんに、どのようにしてそのような治療が不要であるかを説明するか、ということです。なかには「お金を払うのあたしですよ!」などと怒る人もいて、そういう患者さんと話すのは大変疲れます。
風邪の患者さんが問診票に「コーセーブッシツ(ひらがなのこともあります)をください」と書いてあることもあり、そういった患者さんは抗生物質こそが現在の症状を取り除く「救世主」と思っています。
抗生物質というのは抗菌薬のことを指し、細菌感染症にしか効果はありません。そもそも「抗生物質」という言い方が誤解を招いています。「抗菌薬」という表現をとるべきだと私は考えています。本コラムもここからは「抗菌薬」とします。
抗菌薬は決して安易に使用すべきではありません。細菌性の咽頭炎には抗菌薬が必要、と考えている人もいますが、この理解も必ずしも正しくありません。軽症の細菌感染なら自然治癒力で治すべきです。薬には副作用がつきものです。抗菌薬は、薬のなかでも最も副作用が多いもののひとつです。必ずしも必要でなかった抗菌薬を内服し、その結果入院しなければならないような副作用が出現すれば目も当てられません。
副作用だけではありません。抗菌薬の過剰な使用は「耐性菌」を生み出すことになります。そうすると個人の問題ではすまなくなります。抗菌薬の使用は社会全体で最小限に抑えるべきなのです。
今回お伝えする情報は、抗菌薬の新たな「副作用」です。
小児が抗生物質を繰り返し使用すると体重増加につながる・・・。
医学誌『International Journal of Obesity』2015年10月21日号(オンライン版)にこのような研究が発表されました(注1)。研究の対象となったのは、米国の3~18歳の子供163,820人です。
分析の結果、小児期に7回以上の抗菌薬の処方がおこなわれていれば、15歳の時点で、抗菌薬を使用していない子供に比べ1.4kgの体重増加が認められたそうです。
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抗菌薬を処方するのは「医師」であり、この論文を素直に読めば、医師に責任がある、と感じられます。しかし、冒頭で述べたように、患者さんの方から執拗に抗菌薬の処方を求められることもしばしばあります。(そういう人は、ほぼ例外なく「抗菌薬」とは呼ばず「抗生物質」と言います)
一方、医師側も、特に小児科の領域で軽症例に抗菌薬を処方していることがないわけではありません。そして、このように過剰に抗菌薬を処方するようになるきっかけとなった「事件」があります。
その「事件」とは、ウォーターハウス・フリーデリクセン症候群という重症例の子供に対し、初回に診察した医師が抗菌薬を用いなかったことでその子供が死亡したという「事件」です。この「事件」は訴訟になり医師側が敗訴しています(注2)。つまり、初期の段階で抗菌薬を使用すべきであったというのが判決です。しかし、ウォーターハウス・フリーデリクセン症候群というのは極めて稀な重症感染症であり、たとえ初期に抗菌薬を処方していても助からなかった可能性が強く、この判決は随分と物議を醸しました。この判決が、その後医師が抗菌薬を軽症例に処方する原因となった可能性がある、という意見があります。
注1:この論文のタイトルは「Antibiotic use and childhood body mass index trajectory.」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://www.nature.com/ijo/journal/vaop/naam/abs/ijo2015218a.html
注2:この裁判記録は下記URLで読むことができます。
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/660/005660_hanrei.pdf
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|2015年11月6日 金曜日
2015年11月6日 抗菌石けんは不要、普通の石けんで充分
風邪のシーズンになると「うがい・手洗い」がよく言われるようになります。「手洗いするときに抗菌石けんは有用ですか」というのは昔からよくある質問です。以前から、我々は(すべての医師ではないかもしれませんが)、手洗いには「普通の石けん」で充分、抗菌作用を謳ったものは不要、ということを言い続けてきました。最近、それを裏付ける研究が発表されたのでここに紹介しておきます。
研究は韓国のKorea University(漢字名は「高麗大学校」だそうです)の研究者によりおこなわれ、医学誌『Journal of Antimicrobial Chemotherapy』2015年9月16日号(オンライン版)に掲載されています(注1)。20種の細菌を試験管に入れ、一方には普通の石けん、もう一方には抗菌作用のある石けんを加えて細菌がどの程度減少するかを調べました。その結果、9時間以上経過すれば抗菌作用のある石けんを加えた方に強い抗菌効果が認められたそうです。
ところが、石けんを加えて30秒程度では両者に差がない、という結果がでています。通常手洗いは30秒程度で終わるでしょうから、これでは抗菌石けんの意味がないということになります。
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この研究は”意外な結果”が導かれたわけではなく、冒頭で述べたように、以前から医師の間では抗菌作用を謳った石けんは疑問視されていました。むしろ、抗菌成分によるかぶれ(接触皮膚炎)が起こる危険性を危惧しなければなりません。さらに、我々としては(これも医師全員ではないかもしれませんが)通常のものも含めて石けんの使いすぎを懸念しています。
石けんを使いすぎると、皮膚のバリア機能に必要な皮脂をも洗い流すことになり、そうなればかえって微生物に対し脆弱になるからです。
手洗いの際、石けんを使い汚れ(特にアブラ汚れ)を浮きだたせてその後水洗いするのが細菌やエンベロープを持つウイルスを除去するのには有効です。しかし、洗いすぎてバリア機能を損なうようなことがあれば本末転倒になるのです。
ちなみに「エンベロープ」というのはウイルス表面の”殻”のようなもので、これを皮膚から取り除くのにはたしかに石けんが有効です。そしてエンベロープを持つウイルスとしては、インフルエンザ、ヘルペスウイルスといった感染力が強く馴染みのあるものがあります。また、B型肝炎ウイルスやHIVもこのタイプです。
一方、エンベロープを持たないウイルスとして有名なのは、ライノウイルスやアデノウイルスといった「風邪」を引き起こすウイルスや、食中毒で有名なノロウイルスがあります。こういったウイルスには石けんはまったく無効であり、時間をかけて水で洗い流すしかありません。ちなみに、ノロウイルスはアルコールでも死滅しません。アルコールも石けんも無効、しかも感染力は極めて強いというやっかいなウイルスです。
では、手洗いはどうすればいいのでしょうか。答えは簡単で、「抗菌作用を謳った石けんは不要。普通の石けんは用いるべきだが使いすぎに注意。むしろ水洗いに時間をとり、1日に何度もおこないましょう」となります。
それからもうひとつ。太融寺町谷口医院の患者さんのなかには「不潔恐怖」から手を洗いすぎている人が何人かいます。(重症化すると「強迫神経症」という病名がつきます) 先に述べたようにこれをおこなうと必要なバリア機能が損なわれ、かえって感染しやすくなります。ですから、「洗いすぎに要注意!」というのも覚えておくべきでしょう。
尚、今回は手洗いの話なので述べませんでしたが、「うがい」については殺菌作用のあるうがい液は無効であり、たとえばヨード含有のうがい液を用いれば、まったくうがいをしない人と同じように風邪をひくという研究結果があります。つまり、水でのうがいは風邪予防に非常に有効だけれど、ヨード入りのうがい液を使ってしまうとまったく意味がないということです。
注1:この論文のタイトルは「Bactericidal effects of triclosan in soap both in vitro and in vivo」で、下記のURLで概要を読むことができます。
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|2015年11月2日 月曜日
2015年11月2日 マニキュアに含まれるホルムアルデヒドの実態
すでに各マスコミで報道されているように、100円ショップ「ザ・ダイソー」を展開する大創産業(広島県東広島市)が、2015年8月に発売したマニキュア「エスポルールネイル」全148種類の販売を中止し、自主回収すると発表しました。理由は、「ホルムアルデヒドが検出されたから」というものです。
大創産業によりますと、件のマニキュアは中国の工場から大阪市の会社を通じ約576万個を仕入れたそうです。76種類からホルムアルデヒドが検出され、10月16日に大阪府健康医療部薬務課に販売中止が指示され、22日より製品回収と返金をおこなっているようです。
実際に、このマニキュアを使用した消費者から「手荒れ」「爪の変色」などの被害が寄せられているようで、回収は適切な判断であり、このマニキュアを使用したことがある人はしばらくの間注意が必要でしょう。(爪の変化、変色などは時間がたってから生じる可能性があります)
******
一連の報道から分からないことがあります。ホルムアルデヒドは、かつて建材に含まれていることからシックハウス症候群の原因になることが指摘され、規制が厳しくなったという経緯があります。現在の規制は(一般人からみると)非常に複雑であり、たとえばホルムアルデヒドを発散する建築材料を使用するときには一定の面積制限が設けられており、また一定の条件で換気設備を設けなければならないという規則もあります。しかしながら、ホルムアルデヒドを発散する建材が一切禁止されているわけではありません。
他の製品も同様です。家庭用品からもホルムアルデヒドは検出されることがあり、これらは規制値以下であれば問題ないとされています。たとえば、乳幼児用のおしめや寝具(枕や毛布)では16ppm以下、大人用のシャツや靴下、パジャマでは75ppm以下、かつらやつけまつげも75ppm以下と規定されています(注1)。
ホルムアルデヒドには防腐作用があり、また速乾性ですから、おそらくマニキュアには(健康被害のリスクを除外すれば)適しているのでしょう。しかし被害の報告が世界中であるのも事実です。
私が調べた限り、マニキュアのホルムアルデヒドの検出の規制値に触れた情報はありません。ここは消費者庁、または厚生労働省が上記に記したおしめやパジャマなどと同じように規制値をきちんと公表し、各メーカーが発売時に数値を発表すべきだと私は思います。
ちなみに、ニューヨークでもマニキュアを含むネイルサロンでの健康被害が問題になったことがあり、「三大毒素(toxic trio)」として、トルエン、ホルムアルデヒド、フタル酸ジブチルが挙げられています(注2)。
注1:この規定は東京都福祉保健局の下記のページに掲載されています。
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kenkou/iyaku/anzen/law_qa/horu_kisei.html
注2:Reuterの下記の記事が参考になります。タイトルは「New York City needs to step up nail salon inspections: watchdog(ネイルサロンへの検査を厳しくすべき)」です。
http://www.reuters.com/article/2014/09/15/us-usa-new-york-nails-idUSKBN0HA26D20140915
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