医療ニュース
2015年8月28日 金曜日
2015年8月29日 睡眠薬使用者の自動車事故
睡眠薬を使用している人は自動車事故を起こしやすい・・・。
なんだ、当たり前じゃないか、と思いますが、これを主張している論文を読んで、私はある患者さんのことを思いだしました。そのことは後で述べるとして、まずはこの研究を簡単に紹介したいと思います。研究は医学誌『American Journal of Public Health』 2015年8月号(オンライン版)に掲載されました(注1)。
米国シアトル大学の研究チームが合計409,171人のドライバーの調査をおこないました。対象者はワシントン州の運転免許証を2003年~2008年に取得し少なくとも1年間以上保持した21歳以上の成人です。自動車事故と下記の3つの睡眠・鎮静薬との関係が調べられています。結果は下記のとおりで、数字はその薬を使うことによって事故を起こすリスクがどれくらい上がるかを示しています。
・トラゾドン(商品名は「レスリン」「デジレル」「アンデプレ」) 1.91倍
・ゾルピデム(商品名は「マイスリー」「ゾルピデム」) 2.20倍
・temazepam(日本では未発売) 1.27倍
研究チームは「睡眠薬の新たな使用が自動車事故のリスクに関連がある」と結論づけて、処方する医師は「睡眠薬使用の期間と運転のリスクを説明しなければならない」と述べています。
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ゾルピデム(マイスリー)は、日本で最も処方されている睡眠薬の1種です。即効性がありかつ「短時間作用型」であることから、寝付きが悪いという人によく処方されます。「短時間型だから翌日に残ることもない」と言われています。
ところが、今回の結果は自動車事故を起こすリスクが2.20倍と大きく上昇しています。さらに驚くのはここからです。睡眠薬の多くは「ベンゾジアゼピン系」と呼ばれるもので、ベンゾジアゼピン系薬剤は「依存性」と「反跳性」に注意しなければなりません。「反跳性」とは、以前にも増して不眠の程度が悪化することを言います。
ゾルピデム(マイスリー)は、ベンゾジアゼピン受容体に結合することで作用しますが、ベンゾジアゼピンには入りません。そのため「非ベンゾジアゼピン系」と呼ばれます。ベンゾジアゼピンでないのだから安全性は高いのではないかという意見があるのですが、このデータをみると、安全ではないということになります。
日本では発売されていませんが今回の研究に加えられたtemazepamはベンゾジアゼピン系です。そしてtemazepamのリスクはゾルピデムよりも低くなっています。ということは、非ベンゾジアゼピン系のゾルピデムはベンゾジアゼピン系睡眠薬よりもむしろ自動車事故のリスクが高いということになります。
また、もうひとつ研究に加えられたトラゾドンは、睡眠薬として使用するのではなく、ある程度進行した「うつ病」に用いる薬剤です。ゾルピデム(マイスリー)は、このような進行したうつ病に用いる薬剤よりも自動車事故のリスクが高いということになります。
以前、ゾルピデム(マイスリー)が原因で起こってしまった悲惨な事故(事件)について紹介しました(注2)。ただ、マイスリーばかりが否定的な情報で目立ちますが、注意しなければならない睡眠薬はもちろんマイスリーだけではありません。少なくともベンゾジアゼピン系睡眠薬はすべて注意が必要です。
本文の冒頭で紹介した私が思い出した患者さんは「マイスリーはすぐに効果が切れるから翌日の運転は大丈夫。前の病院でも処方してくれたんだからここでも出してくれ」と何度も訴えました。私は、「自覚がないとしても判断力が落ちることもあるから運転は危険。運転する人には当院では処方できない」と言うと怒って帰って行きました・・・。
当院の患者さんに対しては、ベンゾジアゼピン系を減らして、依存性や反跳性のない睡眠薬に切り替えていくよう助言しています。
注1:この論文のタイトルは「Sedative Hypnotic Medication Use and the Risk of Motor Vehicle Crash」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://ajph.aphapublications.org/doi/abs/10.2105/AJPH.2015.302723
注2:マイスリーが引き起こした事件(事故)については下記を参照ください。
はやりの病気第124回(2013年12月)「睡眠薬の恐怖」
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|2015年8月28日 金曜日
2015年8月28日 コーヒーが悪性黒色腫を予防
2~3年に一度程度でしょうか。「このホクロがガンではないかと思って受診しました」という患者さんが、短い期間に集中して受診されることがあり、この夏がそうでした。医師になりこの現象を何度か経験しましたが、これはまず間違いなく何かのテレビ番組で「ホクロと思っていたが実はガンだった。あなたは大丈夫ですか?」というようなものが放送されたからです。
大半はガンではなく「ただのホクロ」なのですが、たしかに一部はガンが疑わしい症例があります。当院でいえば年間1人くらいはホクロに見えるガン、つまり「悪性黒色腫(マリグナント・メラノーマ)」が見つかります。
カフェインおよびカフェイン入りコーヒーが悪性黒色腫のリスクを下げる・・・
このような嬉しい研究結果が米国ハーバード大学の研究チームによって導かれました。医学誌『Epidemiology』2015年7月10日(オンライン版)に掲載されています(注1)。
研究は過去に実施された3つの大規模研究を調べ直すかたちをとっています。3つの研究とは、①女性89,220人を対象とし1991~2009年に実施された「Nurses’ Health Study II」、②女性74,666人を対象とし1980~2009年に実施された「Nurses’ Health Study」、③男性39,424人を対象とし1986~2008年に実施された「Health Professionals Follow-up Study」です。
調査機関中に合計2,254人に悪性黒色腫が発生しています。カフェイン摂取量と悪性黒色腫の発生リスクについて検討すると、カフェイン摂取が多いグループでは悪性黒色腫の発症率が有意に低い(0.78倍)という結果が出たようです。ただし性差があり、女性では0.70倍とよりリスクが低いのに対し、男性は0.94倍とそれほど差はでていません。
悪性黒色腫は全身の皮膚のどこにでも発症します。今回の研究では部位ごとの検討もおこなわれています。コーヒーでリスクが下がったのは、頭部、首、四肢など露光部の悪性黒色腫であり、日光があたらない背中や腹部などではあまり差がなかったようです。
また、この研究はカフェイン抜きのコーヒーとの関連性も調べられています。カフェイン抜きのコーヒーでは悪性黒色腫のリスクが下がらなかったようです。
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コーヒーがメラニンの合成を抑制し「シミ」を抑制するということはしばしば指摘されることであり、このサイトでは日本の研究結果を紹介したことがあります(下記医療ニュース参照)。今回の研究で露光部の悪性黒色腫のリスクが特に低下するという結果がでたということは、「コーヒーが紫外線から肌を守る」ということを裏付けています。
また、コーヒーが「基底細胞ガン」という皮膚ガンのリスクを下げるという研究もあります(下記医療ニュース参照)。基底細胞ガンのリスクもまた「長期間の日光暴露」です。
紹介・報告が偏らないよう、コーヒーが健康に悪いという研究も紹介してきましたが(下記医療ニュース参照)、トータルでみればコーヒーがガンのリスクを下げ、生活習慣病の予防をおこない、皮膚にも好影響を与えるということはどうやら間違いなさそうです。
注1:この論文のタイトルは「Caffeine Intake, Coffee Consumption, and Risk of Cutaneous Malignant Melanoma.」で、下記のURLで概要を読むことができます。
参考:
はやりの病気
第22回(2005年12月)「癌・糖尿病・高血圧の予防にコーヒーを!」
第30回(2006年4月)「コーヒー摂取で心筋梗塞!? 」
メディカルエッセイ
第105回(2011年10月)「お茶とコーヒーとチョコレート」
医療ニュース
2014年8月22日「コーヒーで顔のシミも減少」
2014年6月30日「コーヒーで基底細胞癌のリスクが43%も減少」
2013年9月2日「コーヒーの飲み過ぎで死亡リスク増加?」
2013年4月18日「コーヒーでも緑茶でも脳卒中のリスク低減」
2013年1月8日「コーヒーで口腔ガン・咽頭ガンの死亡リスク低下」
2012年10月1日「コーヒーは消化管疾患と無関係」
2008年9月13日「子宮体癌の予防にコーヒーを」
2007年9月3日「コーヒーは肝臓癌のリスクを下げる」
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|2015年8月7日 金曜日
2015年8月7日 スパイシーフードで長生きできるか
唐辛子などの香辛料が使われたスパイシーフードをよく食べる人は食べない人に比べて死亡リスクが14%も低い・・・
これは医学誌『British Medical Journal』2015年8月4日号(オンライン版)に掲載された研究です(注1)。
研究は中国・北京大学の学者によりおこなわれています。中国の一般住民487,375人(30~79歳)が研究の対象とされています。対象者は2004年から2008人に登録され、2013年まで追跡調査がおこなわれています。平均7.2年間(正確には「中央値」が7.2年)の追跡がおこなわれ、この期間中に20,224人が死亡しています。
解析をおこなった結果、唐辛子などのスパイシーフードをほとんど食べない(週に一度未満)の人と比べると、週に1~2日食べる人では死亡リスクが10%低く、週に3日以上食べる人では14%低かったそうです。また、疾患別の調査では、スパイシーフードをよく食べる人は、ガン、(心筋梗塞などの)虚血性心疾患、呼吸器疾患による死亡リスクも少なかったそうです。
男女比は特に認められなかったものの、アルコールを飲まない人の方が、より死亡リスクが低下していたそうです。
さらに、どのようなスパイシーフードがより効果があるのかも解析されています。その結果、生の唐辛子に最も大きな効果があったそうです。この理由について研究者は、生の唐辛子にはカプサイシンやビタミンCが豊富に含まれていて、またビタミンA、K、B6、カリウムなども好影響を与えているかもしれないと考察しています。
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そうか、では早速生の唐辛子を食べよう、と思っても、乾燥唐辛子やパウダー、チリソースならともかく、生の唐辛子(fresh chilli pepper)など日本人にはそう食べられるものではありません。
研究の対象者が50万人近くですから、統計学的にはそれなりには意味のある研究と言っていいと思いますが、摂取したものは自己申告ですし、また民族による違いもあるでしょうし、現時点ではこの研究を我々日本人は「鵜呑み」しない方がいいと思います。
また、唐辛子に含まれるカプサイシンが肥満を防ぎ、ガンのリスクを下げると言われることもありますが、どのようなものも「過ぎたるは及ばざるがごとし」という言葉のように度を過ぎてはいけません。
生の唐辛子を食べ続けると、そのうち胃痛と下痢に悩まされることになるでしょう。
(谷口恭)
注1:この論文のタイトルは「Consumption of spicy foods and total and cause specific mortality: population based cohort study」で、下記URLで全文を読むことができます。
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|2015年8月3日 月曜日
2015年8月3日 食物アレルギーが急増
食物アレルギーが増加しているというのは、日々の診療で多くの医師が感じていることです。先日、東京都がそれを裏付けるようなデータを公表しました(注1)。
東京都は5年毎に3歳児を対象としたアレルギー疾患の調査をおこなっています。今回公表されたのは2014年の調査です。3歳までに何らかのアレルギー症状を有し、かつ診断がついた(つまり親御さんがアレルギーを疑っているだけではなくきちんと医師が診断をつけたケース)のは39.3%に上ります。5年前の2009年は38.8%、10年前の1999年は36.8%ですから増加傾向にあります。
アレルギーを疾患別にみてみると、アトピー性皮膚炎は1999年の16.6%から11.2%と3割以上減少しています。喘息はあまり変わっておらず、アレルギー性鼻炎も顕著な変化はありません。
一方、大幅に増えているのが食物アレルギーです。1999年が7.1%で、2014年が16.7%ですから2倍以上も増えていることになります。
原因の食物については、「卵」81.0%、「牛乳」33.3%、「小麦」14.6%、「落花生」9.2%、「大豆」6.3%、「キウイ」6.2%、「えび」5.1%の順で高くなっています。
5年前(2009年)のデータと比べてみると、順位・割合ともに上昇した食物は、落花生、キウイ、ごま、くるみがあげられます。逆に低下した食物には、えび、いくら、やまいも、そば、かに、さけ、鶏肉、さばがあります。
なぜ食物アレルギーが増えているのか、この理由についてはコンセンサスが得られた意見は今のところありません。
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食物アレルギーが増えているのは小児だけではありません。この東京都のようなきちんとしたデータは見たことがありませんが、日本人の成人も確実に食物アレルギーが増えている印象があります。
一般に、成人のアレルギーというのは「同じ物質に触れ続けることが原因」です。戦後日本はスギを植えすぎてスギの花粉に曝露される機会が増えたためにスギ花粉症が増えたわけですし、動物好きの人が一緒に過ごす時間が長いことでイヌやネコのアレルギーになるということはよくあります。
したがって、食物アレルギーのいくらかは同じものをたくさん食べ過ぎたからという可能性があります。そのため私は、食物アレルギーの人に、「これ以上アレルギーを増やさないようにするために特定のものを多く食べるような食習慣は避けましょう」と話しをしています。
しかし、小児の場合は、この「同じものを食べ過ぎたから」という理論は通じません。東京都のデータでは、発症時期は半年くらいで起こっているケースが多いようです。ピーナッツアレルギーの場合は、経皮感作(つまり、皮膚の微小な傷などにピーナッツが触れたことでアレルギーになる)で説明が可能な場合があるのですが(注2)、すべての食物アレルギーをその理屈で説明することはできません。
食物アレルギーの発生機序については分からないことが多く、新しい研究を待たねばなりません。現在我々がすべき予防対策は、妊娠すればバランスよく食べて偏った食事をしない(ピーナッツはその妊婦にアレルギーがある場合を除いて避けるべきでないことが判っています)、小児期の経皮感作を防ぐ(保湿をしっかりおこなう)、成人も含めて同じものばかりを食べないようにする、といったことです。
注1:東京都のこのデータは下記のURLですべて閲覧することができます。
http://www.tokyo-eiken.go.jp/files/kj_kankyo/allergy/c_naiyou/sansaiji.pdf
注2:下記「医療ニュース」を参照ください。
参考:医療ニュース
2015年3月30日「変わってきたピーナッツアレルギーの予防」
2015年6月29日「ピーナッツアレルギー予防のコンセンサス」
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