医療ニュース
2013年12月27日 金曜日
2013年12月27日 ワールドカップに出かける前に黄熱ワクチンの検討を
2014年の最大の楽しみにサッカーのワールドカップをあげる人も少なくないと思います。今月からチケットが発売されましたから席の確保に奔走している人もいるのではないでしょうか。
さて、開催地がブラジルとなるといくつか注意しなければならない感染症があります。今年話題になったシャーガス病(カメムシに刺されて感染)や、マラリアなどにも注意が必要ですが、ブラジルで忘れてはいけない感染症に黄熱があります。
黄熱はアフリカが有名ですが、アマゾンなどブラジルの奥地にも生息しています。ネッタイシマカと呼ばれる蚊に刺されることにより感染し、致死率は10%にも及ぶ大変危険な感染症なのですが幸いなことにワクチンがあります。
現在厚生労働省は黄熱ワクチンの接種をよびかけていますので、ブラジル渡航の予定がある人は目を通しておいてください(注1)。黄熱ワクチンはどこででも接種できるわけでなく全国25カ所の機関でのみとなります。
******************
ただし、ではブラジルに渡航する誰もが黄熱ワクチンを接種すべきなのか、と言えばそういうわけでは決してありません。都心部だけの渡航であれば特に接種する必要はないでしょう。黄熱ワクチンは、ワクチンのなかでは比較的副作用が強いことも知っておくべきです。
では、どのような人が黄熱ワクチンを接種すべきなのか、ですが、例えば「せっかくブラジルに渡航するんだからアマゾンまで行ってみよう」などと考えている人は積極的に接種を検討すべきでしょう。
また、国によっては、ブラジルから入国する場合、黄熱ワクチンを接種した証明書が必要になる場合があります。例えば、ブラジルからアフリカ経由で帰国しようとしたときに、サンパウロ→ケープタウンというのはポピュラーな経路ですが、南アフリカ共和国ではブラジルから入国する場合、黄熱ワクチン接種の証明書が必要になります。(日本で接種したときに交付される証明書を携帯していなければなりません)
詳しくは、注1の厚労省の案内のなかにある「黄熱ワクチン接種を行っている機関」に直接相談されるのがいいかと思います。また、FORTH(厚生労働省検疫所)のサイト(注2)も参考になります。
ブラジル渡航では黄熱だけに気をつけていればいいというわけではもちろんありません。上に述べたシャーガス病、マラリアにも注意すべきですし、他にも、デング熱、フィラリア、リーシュマニア、狂犬病、ワイル病など日本にない感染症がたくさんあります。もちろん水道水は飲めませんし、食べ物にも注意が必要で、A型肝炎ウイルスなどにも注意しなければなりません。黄熱以外のワクチンとしては、B型肝炎ウイルスはもちろん、A型肝炎ウイルス、狂犬病、破傷風なども考慮すべきでしょう。
まずはかかりつけ医に相談してみてください。
(谷口恭)
注1:厚労省の案内は下記URLを参照してください。
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11133000-Shokuhinanzenbu-KenekijogyoumuKanrishitsu/leaflet_2.pdf
注2:FORTH(厚生労働省検疫所)の説明については下記URLを参照してください。
http://www.forth.go.jp/useful/yellowfever.html
投稿者 記事URL
|2013年12月27日 金曜日
2013年12月27日 長期間の失業で老化が促進
長期間失業している男性は老化が早い・・・
フィンランドOulu大学のLeena Ala-Mursula氏らにより、フィンランド人の男女を対象とした研究でこのような分析がおこなわれ、医学誌『PLoS One』2013年11月20日号(オンライン版)に論文が掲載されました(注1)。
この研究は、フィンランドで1966年に出生した男女5,600人が対象とされています。対象者が31歳となった1997年にDNAが採取され「テロメア」の長さが調べられています。テロメアの先端部の長さを調べると老化の状態を知ることができることがわかっています。つまり、老化とはテロメアが短縮することに他ならない、というわけです。
研究の結果、過去3年間で2年以上失業していた男性は、仕事をしていた男性に比べると、テロメアの短縮が2倍以上多くみられたそうです。これは、テロメア短縮の原因となり得る(つまり他の老化因子である)喫煙、運動、体重、疾患の有無、教育、婚姻状態などの因子の影響を取り除いた上での結果だそうです。
興味深いことに、女性ではこの傾向が認められなかったそうです。ただし、この研究では女性の失業者はそれほど多くなかったことがこうした結果となった可能性が指摘されています。
また、筆者は論文のなかで別の研究を引き合いに出しています。その研究は米国の35~74歳の608人の女性が対象とされており、長時間労働や複数の仕事を持つことがテロメアの短縮と関係がある、つまり老化が早くなるという結果が出ているそうです。
******************
男性は失業で老化・女性は働き過ぎで老化、と短絡化すべきでないと思います。この線で押し進めて考えると、「男は働いてこそ幸せ、女は仕事をすべきでない」という時代錯誤の結論になってしまいかねません。このようなことを断定するには、もっとたくさんの調査が必要と考えるべきです。
精神的ストレスがテロメア短縮の要因であることは以前から指摘されています。失業期間が長くなったとしても過重労働があったとしても精神的ストレスが蓄積するのは間違いないでしょうから、仕事の有無でテロメアを論じるのではなく、仕事の有無とストレスの関係に注目すべきだと私は思います。
私にとってこの論文が印象的なのは、研究の対象者がフィンランド人、ということです。高負担・高福祉国家のフィンランドでは失業保険が充実していたはずですし、(私の記憶が正しければ)失業後も職業訓練を無料でおこなうことができて次の仕事を見つけるのは他国に比べるとむつかしくないはずです。
同じ研究を日本でおこなえば、さらにテロメアが短くなっている、つまり、日本人で長期にわたり失業している人は精神的ストレスが極めて強くなっている、そして結果として老化が早まり寿命も・・・、ということを危惧します。
(谷口恭)
注1:この研究のタイトルは「Long-Term Unemployment Is Associated with Short Telomeres in 31-Year-Old Men: An Observational Study in the Northern Finland Birth Cohort 1966」で、下記のURLで全文を読むことができます。
http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0080094
投稿者 記事URL
|2013年12月6日 金曜日
2013年12月6日 平均寿命2位、自殺ワースト4位、健康自覚度ワースト1位
OECD(経済協力開発機構)は国際経済について統計を出したり協議をしたりする国際組織ですが、医療に関するデータ分析もおこなっています。2013年11月21日、2013年版の医療に関する統計を発表しましたので、かいつまんで紹介したいと思います(注1)。
世界的に平均寿命が延長しており、OECD加盟国全体での平均寿命が80歳を超えています。(正確にいうと、女性では82.8歳、男性は77.3歳です。また、念のために付記しておくと、OECDに加盟しているのは先進国と一部の中進国だけですから、世界全体での平均寿命がこんなに高いわけではありません)
日本の平均寿命は82.7歳でスイス(82.8歳)についで世界第2位です。死因をみてみても三大疾病の2つである虚血性心疾患(心筋梗塞など)と脳血管疾患(脳梗塞や脳出血)での死亡率は世界平均を下回っています。悪性腫瘍については他国と同様です。
交通事故死や新生児死亡も日本は他国よりも少ないのですが、日本の死因で問題なのは自殺でワースト4位(人口10万人対20.9)になります。ちなみに、自殺ワースト1位は韓国で(33.3)、2位がハンガリー(22.8)、3位がロシア(22.5)です。
OECDの調査で興味深いのは「健康自覚度(perceived health status)」の調査があることです。健康自覚度がもっとも低いワースト1位の国はなんと我が国で、健康の自覚がある人はわずか30%しかいません。
***************
この統計「Health at a Glance 2013」はたいへん読みやすくて興味深く時間があれば隅から隅まで読みたくなってきます。関心のある方は是非参照してみてください。
上ではポイントをごく簡単に述べましたが、もう少し補足しておくと、自殺については日本が4位であるということよりも、韓国が2位のハンガリーと大きく差をつけて飛び抜けて高いことが興味深いと言えます。「Health at a Glance 2013」の35ページのグラフをみれば韓国の自殺の異常な様子が一目でわかります。
健康自覚度は日本がワースト1位で、韓国がワースト2位です。ちなみに1位はアメリカで、これが私には意外でした。アメリカ人が不健康と断定したいわけではありませんが、アメリカ人には肥満が多く、実際に虚血性心疾患での死亡率はOECD平均よりも高くなっているのです。アメリカ人はのんきというか楽天的なのでしょうか。
虚血性心疾患のデータも興味深く、死亡率が最も少ないのは日本です。2位は韓国で、ここでも日本・韓国の相同性がみてとれます。しかし、興味深いのは1990年からの比較で、日本では32%減少しているのに対し、韓国では逆に60%も増加しているのです。ちなみに虚血性心疾患での死亡第1位はスロバキアで日本の約10倍です。
(谷口恭)
注1:この統計のタイトルは「Health at a Glance 2013」(あえて訳すとすると「一目でわかる医療」とでもなるでしょうか・・)で下記のURLですべてのページを読むことができます。
http://www.oecd.org/els/health-systems/Health-at-a-Glance-2013.pdf
投稿者 記事URL
|最近のブログ記事
- 2024年11月17日 「座りっぱなし」をやめて立ってもメリットはわずか
- 2024年10月24日 ピロリ菌は酒さだけでなくざ瘡(ニキビ)の原因かも
- 2024年10月11日 幼少期に「貧しい地域に住む」か「引っ越し」がうつ病のリスク
- 2024年9月19日 忍耐力が強い人は長生きする
- 2024年9月8日 糖質摂取で認知症のリスクが増加
- 2024年8月29日 エムポックスよりも東部ウマ脳炎に警戒を
- 2024年8月4日 いびきをかけば認知症のリスクが低下?
- 2024年7月15日 感謝の気持ちで死亡リスク低下
- 2024年6月30日 マルチビタミンで死亡率上昇?
- 2024年6月5日 15歳老けてみえる人は大腸がんかも
月別アーカイブ
- 2024年11月 (1)
- 2024年10月 (2)
- 2024年9月 (4)
- 2024年8月 (1)
- 2024年6月 (2)
- 2024年5月 (2)
- 2024年4月 (2)
- 2024年3月 (2)
- 2024年2月 (3)
- 2024年1月 (1)
- 2023年12月 (2)
- 2023年11月 (2)
- 2023年10月 (2)
- 2023年9月 (2)
- 2023年8月 (1)
- 2023年7月 (3)
- 2023年6月 (2)
- 2023年5月 (2)
- 2023年4月 (2)
- 2023年3月 (2)
- 2023年2月 (2)
- 2023年1月 (2)
- 2022年12月 (2)
- 2022年11月 (2)
- 2022年10月 (2)
- 2022年9月 (2)
- 2022年8月 (2)
- 2022年7月 (2)
- 2022年6月 (2)
- 2022年5月 (2)
- 2022年4月 (2)
- 2022年3月 (2)
- 2022年2月 (2)
- 2022年1月 (2)
- 2021年12月 (2)
- 2021年11月 (2)
- 2021年10月 (2)
- 2021年9月 (2)
- 2021年8月 (2)
- 2021年7月 (2)
- 2021年6月 (2)
- 2021年5月 (2)
- 2021年4月 (4)
- 2021年3月 (2)
- 2021年1月 (2)
- 2020年12月 (3)
- 2020年11月 (3)
- 2020年9月 (2)
- 2020年8月 (2)
- 2020年7月 (1)
- 2020年1月 (2)
- 2019年12月 (2)
- 2019年11月 (2)
- 2019年10月 (2)
- 2019年9月 (2)
- 2019年8月 (2)
- 2019年7月 (2)
- 2019年6月 (2)
- 2019年5月 (2)
- 2019年4月 (2)
- 2019年3月 (2)
- 2019年2月 (2)
- 2019年1月 (2)
- 2018年12月 (2)
- 2018年11月 (2)
- 2018年10月 (1)
- 2018年9月 (2)
- 2018年8月 (1)
- 2018年7月 (2)
- 2018年6月 (2)
- 2018年5月 (4)
- 2018年4月 (3)
- 2018年3月 (4)
- 2018年2月 (5)
- 2018年1月 (3)
- 2017年12月 (2)
- 2017年11月 (2)
- 2017年10月 (4)
- 2017年9月 (4)
- 2017年8月 (4)
- 2017年7月 (4)
- 2017年6月 (4)
- 2017年5月 (4)
- 2017年4月 (4)
- 2017年3月 (4)
- 2017年2月 (1)
- 2017年1月 (4)
- 2016年12月 (4)
- 2016年11月 (5)
- 2016年10月 (3)
- 2016年9月 (5)
- 2016年8月 (3)
- 2016年7月 (4)
- 2016年6月 (4)
- 2016年5月 (4)
- 2016年4月 (4)
- 2016年3月 (5)
- 2016年2月 (3)
- 2016年1月 (4)
- 2015年12月 (4)
- 2015年11月 (4)
- 2015年10月 (4)
- 2015年9月 (4)
- 2015年8月 (4)
- 2015年7月 (4)
- 2015年6月 (4)
- 2015年5月 (4)
- 2015年4月 (4)
- 2015年3月 (4)
- 2015年2月 (4)
- 2015年1月 (4)
- 2014年12月 (4)
- 2014年11月 (4)
- 2014年10月 (4)
- 2014年9月 (4)
- 2014年8月 (4)
- 2014年7月 (4)
- 2014年6月 (4)
- 2014年5月 (4)
- 2014年4月 (4)
- 2014年3月 (4)
- 2014年2月 (4)
- 2014年1月 (4)
- 2013年12月 (3)
- 2013年11月 (4)
- 2013年10月 (4)
- 2013年9月 (4)
- 2013年8月 (172)
- 2013年7月 (408)
- 2013年6月 (84)