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2013年6月17日 月曜日
7 義援金のナゾと正しい救援活動 2005/2/3
2004年12月26日の早朝、マグニチュード9.0の大規模な地震が北スマトラの西海岸を襲いました。地震によって発生した高さ10mにも及ぶ津波は一時間でインド洋沿岸500kmにわたって波及し、インド、インドネシア、スリランカ、タイ、モルディブ、ミャンマー、セーシェル、ソマリアの沿岸地域を破壊したそうです。これまでに、約13万9,000人が命を落とし、そして1万8,000人がいまだ行方不明となっているそうです(2005年1月8日現在)。今後不衛生な環境から、コレラやマラリアなどの感染症が蔓延し、さらに多数の被害者が出ると予想されています。
津波の被害者に対する義援金の募集が、多くの団体でおこなわれています。私はこのような被災が生じたときにいつも疑問に思うことがあります。なぜ、多くの団体がそれぞれの基金を立ち上げる必要があるのでしょうか。例えば、ほとんどのテレビ局では、独自に新たに口座を開設し、その口座に義援金を振り込むように視聴者に語りかけています。そして一定の期間を経たところで、ユニセフ、日本赤十字、国境なき医師団などに寄付するというのです。
それならば、はじめからこれら機関のホームページのアドレスや、口座番号をテレビで知らせればいいのではないでしょうか。私はテレビ局のエゴを感じずにはいられないのです。テレビ局は、一定の期間がたったところで、「全部で○○円集まりました。皆様ありがとうございました。」と言います。テレビ局としては、義援金の金額が、どこどこの局に勝ったとか、負けたとか、そういうことを気にしているように思えてならないのです。
テレビ局などの大きな組織では、確実に然るべき機関に義援金が寄付されるものと思われますが、これが聞いたことのないような組織であれば、本当に被災者に使われているのかどうかも疑問です。本当に被災者のことを考えるのであれば、そもそも新しく基金を始める必要などはないはずです。「ユニセフや日赤に義援金を送りましょう!」と宣伝すればいいわけですから。
もしもこれを読んでくれている人のなかで、スマトラ沖地震による津波の被災者に義援金を送りたいと考えている方がおられるなら、私は、直接ユニセフや日赤に募金することをすすめます。その理由をいくつかご紹介しましょう。
まず、自分の寄付した義援金が確実に被災者のために使われていることが実感できます。例えば、街角で募金を呼びかけているような、聞いたこともない組織に寄付しても本当に被災者の元に届いているのかどうか分かりません。随分前の話ですが、街角で募金箱を持って募金活動をしている若い男が、その募金箱から1000円札を取り出し、ファストフード店に入っていったのを見たことがあります。もちろん、すべての街角の募金活動をしている人がそんなことをしていると言っているわけではありませんが、ユニセフや日赤などに寄付をすれば、「自分のお金が本当に被災者の元に届いているのだろうか」などといった心配をしなくてもいいわけです。
次に、これらの機関に一度募金をして名前、住所などを登録しておくと、定期的に世界中で困窮している人たちの情報や、募金の情報などを知らせてくれるという利点があります。こういった情報を定期的に入手することによって、世界の状態がわかり、ときに新聞では報道されていないようなことも知ることができます。そして、自分が困窮している人たちのために何ができるのかといったことを考える機会を得ることができます。衛生状態がよくてモノにあふれた現代日本からは考えられないようなことが、スマトラ沖地震以外でも今も世界の各地で起こっています。
そういったことを常日頃から意識することによって、世界観が変わることもあります。実際に私の知人に、以前はブランド物を買ったり高級クラブに通ったりすることを楽しみにしていたけど、カンボジア難民に寄付したことをきっかけに、奉仕の必要性・重要性を認識し、以降は収入の一定の割合を寄付に使うようになったという人もいます。
もうひとつは、ユニセフや日赤などの組織に寄付したお金は、寄付金控除の対象となって、確定申告をすればいくらか減税されるということです。だから、インターネット上で寄付する場合は、必ず領収書をもらうようにしましょう。例えばユニセフでは募金後数ヶ月以内に領収書を自宅に送ってもらうことができます。もしもテレビ局などに寄付金を送り、それがユニセフに送られたとしてもユニセフの領収書は発行してもらえず、テレビ局に対する寄付では、所得税控除の対象にならないのです。
「テレビ局経由でも直接ユニセフでも結果は同じじゃないか」と言う人もありますが、ひとつには、この寄付金控除の問題があるわけです。それに、ユニセフ側としても、一定の期間を経てからテレビ局経由でまとまった寄付金が送られてくるよりも、その都度個人から直接送られてくる方が、寄付金が早い段階で集まるので利用しやすいのではないでしょうか。
被災者への義援金という話になると、必ず「カネも大事だけどヒトを派遣することが大切」という議論がでてきます。今回も津波の被害者を救うために、世界各国から救援部隊が現地に駆けつけています。日本も自衛隊の派遣が迅速におこなわれましたし、政府から派遣された、医師を含む医療従事者で構成される国際緊急援助隊も現地で活躍しているそうです。医療ボランティアをおこなっているNPO法人のAMDAもすぐに医療従事者を派遣しました。
自衛隊や医療従事者でない一般の人のなかにも、現地に行ってできることがあるなら何でもしたいと考える人も多いでしょう。実際、私のもとにも「お前は行かへんのかい」とか「ボランティアに行きたいねんけどどうしたらええんやろ」という声が寄せられています。
私個人としては、医療ボランティアをおこないに現地に行きたいのですが、現在身内が入院中のこともあって大阪を離れられない状況のため、現時点では寄付金での協力のみとさせていただいています。
「ボランティアに行きたい」という人には、私はとりあえず現地に行くことをすすめています。やみくもに行っても混乱するだけだから組織に属していないなら行かない方がいい、という人もいますが、私はそうは思いません。実際には、行ってみると被災者の役に立つことはいくらでもあります。それに、行ってみないことには本当の状況が分かりません。マスコミの報道をみていても実際のところはよく分かりません。水が足りないのか、感染症が問題なのか、治安の悪化が問題なのかといった問題は、日々変わりますし、実際に自分の目で確かめるのが一番確実なのです。
とりあえず現地に赴き、何が問題になっていて、自分には何ができるのかということを考えて整理し、その上で、現地で中心的な立場で救援活動をおこなっている人に、自分のできることを伝えて指示やアドバイスを求めればいいのです。
ただし、最低限のマナーは必要です。まず最低でも英語ができること。現地の言葉ができるとなおいいです。それに健康であることも絶対必要です。健康を害していれば自分が足手まといになることもあるからです。それから、被災における救援活動の基礎知識は持っていなければなりません。こういった最低限のマナーを無視して「やる気だけはありますので!」といったところで、なかなか使いものにはなりません。
しかしながら、英語については、とりあえずは日本の中学程度のものができればなんとかコミュニケーションは取れるでしょうし、救援の基礎知識は本を一冊読めばある程度の知識が身につきます(例えば『災害初動期における活動マニュアル』へるす出版)。やる気のある人はとりあえず行ってみてはどうでしょうか。
ただし、ボランティアには相当のリスクが伴うことも覚えておいてください。インドネシアでの大量の子供の誘拐(人身売買)は大きく報道されているようですが、他にも、火事場泥棒や強盗が各地で起こっているようです。タイでは被災地の簡易トイレを盗撮していた男が捕まったそうです。阪神大震災のときも、被災者に対する強盗やレイプがいくつもおこりました。こういった被害は被災者だけでなく、善意のボランティアにもふりかかることがあります。そういったリスクもあることを忘れてはいけません。
地震や津波というのは予期せぬときに突然やってきます。明日にでも世界のどこかで起こるかもしれません。自分にも災害が襲ってくるかもしれません。いつの時代もそうですが、我々は常に災害が起こりうるということを頭の片隅においておく必要があり、他人が被害にあったときに何ができるのかということを考えておかなければならないと思います。
今回の津波をもう一度振り返って、今自分に何ができるのか、できるとすればそれは寄付なのか行動なのか、そして助け合いの意味を改めて考えてみてはいかがでしょうか。
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|2013年6月17日 月曜日
6 研修医は本当にしんどいか 2004/7/8
「研修医って大変なんでしょ」
私は現在3年目の医師で、いわゆる「研修医」は卒業したことになりますが、この言葉を研修医の2年間の期間にどれほど聞いたか分かりません。最近はテレビなどで、休みなく働く研修医の姿がえがかれたりして、世間の方々に「研修医は大変な職業」という認識ができあがっているようです。
98年には関西医大附属病院の研修医が26歳という若さで急性心筋梗塞で死亡し、また99年には横浜市立大医学部附属病院の研修医がうつ病から自殺にいたりました。これらの死亡はともに「過労死」と認定され、世間に研修医の大変さが認知されるようになりました。
けれども本当に研修医とはそんなに大変な職業なのでしょうか。たしかに研修医は早朝から深夜まで病院に拘束されますし、深夜に患者さんが急変したり、緊急処置の必要な患者さんが運ばれてくれば、寝ていても電話で起こされます。もちろん休日などほとんどなく、私の場合も、1年目のときに1週間休暇をいただいてタイ国にボランティアに行った以外は、2年間で丸一日休めたのは10日ほどです。そのうえ、研修医としての給料だけではとうていやっていけませんから、月に何度かは、他の病院で当直のアルバイトをすることになります。
こうやって文章にしてみると、たしかに研修医とは決してラクな職業ではなさそうですが、私は他の職業と比べて、研修医だけが大変な職業とはとうてい思えません。
というのは、私は医師になるまでアルバイトも含めれば、20近くの仕事をしていますが、どの仕事もそれなりに大変で、研修医だけが特殊な仕事であるなどとはまったく思えないのです。
例えば、私が18歳のときにアルバイトをしていた旅行会社では、社員の人は一年間で丸一日休めるのは1日あるかないかでしたし、ほぼ毎日早朝から深夜まで激務に追われていました。朝5時に起きてパンフレットを街頭に配布しにいき、出勤するとまず掃除をおこないます。昼間は通常業務に加え、お客さんのクレーム処理などの仕事もあります。ときには事務所に怒鳴り込んでくるお客さんにも対応していました。お客さんに殴られた蹴られたということも一度や二度ではありません。そのうえ聞けばびっくりするような安い給料しかもらっていないのです。
アルバイトの私は、主に沖縄などの観光地で働いていましたが、仕事でミスをすると眉毛を剃られたり、熱湯をかけられたりというイジメもありました。(ただしこれらの「イジメ」は陰湿なものではなく、文章では上手く表現できませんが、笑いのあるイジメであり、イジメられる方もそれほど苦痛ではなかったのですが・・・)
また、私が19歳のときにウエイターのアルバイトをしていたディスコでは、お客さんからだけではなく、先輩方からも殴る蹴るの「ご指導」を受けていました。水商売の世界というのはその業界に一日でも早く入った人間がエラいという社会ですから、19歳の私が、中学卒業と同時にその世界に入った17歳の2年目の「先輩」から蹴られるということも日常茶飯事だったというわけです。
私が正社員をしていた会社では、さすがに暴力というものはありませんでしたが、製品の納期が間に合わないときなど、寝る暇もないほど働いていました。
一方研修医というのは、ときどき泥酔した患者さんに殴られるというようなものはありますが、先輩医師から暴力をふるわれるということはまずありませんし、多くの患者さんは研修医であったとしても敬語で接してくれます。また、看護師など他の医療従事者もずっと年齢が下の研修医に対して、丁寧に敬語で接してくれることが多いといえましょう。10年以上も先輩の看護師さんや検査技師さんが、入ったばかりの研修医に対して、どうしてそこまで丁寧に接する必要があるのだろうと、私はいつも感じていました。
例えば、患者さんの縫合処置をするとき、道具をすべて用意するのは看護師さんで、処置が終われば後片付けをするのも看護師さんです。薬を決めるのは医師ですが、それを準備したり会計をしたり事務的な説明をするのはすべて他の医療従事者です。医師がすることは処置と病状の説明だけです。夜間の当直のときなど、患者さんからの電話をとったり注射や採血をしたりするのはすべて看護師さんで、医師の診察と処置が必要なときだけ、起こされるだけで、それらがなければずっと寝ているだけです。
私の場合を例にとってみても、勤務時間というか拘束時間だけをみてみると、週に100時間を越えますが、そのなかには寝ている時間もけっこうあるのです。
看護師さんの方が、勤務時間はたしかに研修医よりは短いでしょうが、その大変さはずっと上なのです。
もしも研修医が本当に大変な仕事なら、離職率が高くなるはず。しかしながら、実際のところ、私の知る限りでは、仕事のキツさがイヤでやめた研修医というのはほとんどいません。データがないのではっきりと数字で示すことはできませんが、他の職業と研修医の離職率を比べると、天と地ほどの差があるに違いありません。
では研修医は気楽な仕事かというと、そういうわけでもありません。研修医が本当の意味で大変なのは、治らない患者さんを目の前にしたときでしょう。こういうときに本当のしんどさが訪れるのです。教科書を読んでもどうしていいか分からないですし、先輩医師に助言を求めても、そのしんどさが軽減されることはほとんどありません。
「研修医は大変な仕事か」という質問に答えるとするならば、不治の病や死を目前にした患者さんやその家族と接するときに、他の職業ではなかなか感じることのないしんどさがあるということになります。
「医師になりたいけれど(特に研修医の)仕事って相当大変なんでしょうか」こういう質問をする人にこの文章が参考になれば幸です。
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|2013年6月17日 月曜日
5 66歳の研修医 2004/6/9
私のところに寄せられる読者からの質問のひとつに、「私は○○歳ですが医学部受験は大丈夫でしょうか」というものがあります。この質問は非常に多く、そのためすべてのお問い合わせに返答できていません。ごめんなさい。そこで、この場を使ってこの質問にお答えしましょう。
先日今年の医師国家試験の合格者が発表されました。8439人中7457人が合格し、合格率は88.4%で、3年ぶりに9割を下回ったそうです。最高年齢合格者は54歳だったとのことです。ちなみに昨年の最高年齢合格者は66歳でした。
「私は○○歳ですが、・・・」という質問をされる方のメールをよく読んでみると、その懸念を3つに分類することができます。
まずひとつめは、「○○歳で医学部入学が可能か」という点です。ふたつめは、「○○歳で医学部の授業についていけるか」という点です。そして3つめは、「○○歳で研修医となるのに問題はないか」という点です。
これらをひとつずつみていきましょう。
まずひとつめの「○○歳で医学部入学が可能か」という点です。66歳で医師国家試験に合格した人は、年齢が低くとも50代で医学部に入学しているということになります。したがって、「医学部受験を考えている人が50代以下であれば問題ありません」、ということになってしまうのですが、ここで、この質問をもう少し踏み込んで考えてみると、「○○歳で受験すると(現役生に比べて)不利になる大学はあるのか」ということになると思います。これについてお答えするのはちょっとむつかしいかもしれません。実際に現役生の比率が圧倒的に多く、再受験生があまりいない大学もあるからです。
私の場合は、受験する大学に再受験生がいるかどうかということを事前に調べました。この方法についても質問される方がおられますが、方法は簡単です。実際にその大学に足を運んで聞いてみればいいのです。再受験生の割合や合格者最高年齢のデータを揃えている大学は少ないかもしれませんが、「他の大学を卒業してから来る人もいるよー」とか「30代の一年生もいるみたいよー」とかいうような情報はもらえるものと思います。
次にふたつめの質問である「○○歳で医学部の授業についていけるか」という問題ですが、これはその人がどれだけ医学に興味を持っているか、どれだけ情熱をもって医者を目指しているかという点によるでしょう。私の場合で言えば、受験を決意したときから、どうしても医学を学びたいという意思がありましたから、結果的に言えば、たしかにかなりしんどかったのは事実ですが、6年間を通して楽しく学べたものと思います。少なくとも私が経験した関西学院大学理学部の1、2年生での勉強よりは遥かにおもしろかったですし、社会人時代に経験した難題よりはくらべものにならないくらい楽しかったです。
社会に出られた経験のある方にはこう言えばお分かりいただけると思います。すなわち、「実社会で経験する困難さに比べれば医学部の6年間でやらなければならないことなど何でもない」と。
最後に3つめの質問、「○○歳で研修医となるのに問題はないか」という点についてお話していきたいと思います。結論から言えば、「問題はないかどうかはその研修医による」ということになります。
そもそも「○○歳で研修医・・・」という不安は、年齢が原因となる人間関係のことを言っているものだと思います。つまり、いろんなことを教わらなければならない研修医という身分の存在が、あまり年をとりすぎてたら教わりにくいのではないか、あるいは教える方がやりにくいのではないか、という問題だと思います。
けれども、これは実社会ではよくあることで、日本の会社ではだいたいどこも年齢ではなく、その会社あるいはその業界でのキャリアで上下関係が決まるものだと思います。
例えば、私が以前会社員をしていた商社では、新入社員の大半は、大学を卒業した直後の人間でした。けれども毎年30代の転職して入社する人も数人はいました。彼ら(彼女ら)は、例えば20代後半の中堅よりも年齢は上だけれどもキャリアは下なわけです。 上手く順応する人であれば、自分の方が年齢は上であっても、「年下の先輩」に指導を受けて、もちろん敬語を使って接するわけです。また、教える方も、「年上の後輩」に、最初は多少の敬語は使うこともあるでしょうが、基本的には自分の方が先輩なんだから、先輩らしく「年上の後輩」の指導にあたるわけです。こういった光景は別段珍しいものではないと思います。
もうひとつ例をあげましょう。
私は、20歳のとき、しばらくアルバイトでディスコのウェイターをしていました。この世界、いわゆる水商売の世界は上下関係がかなり厳しいのが普通です。少しでもミスをすれば、ペンやフォークなどが飛んできますし、言葉づかいは絶対です。中途半端な敬語を使おうものなら容赦なく手や足が出てきます。そしてこの世界でももちろん、上下関係は年齢ではなく、キャリアで決まるのです。それも一日でもキャリアが上であれば絶対的な先輩となるわけです。
私は当時20歳でしたが、中卒と同時にこの世界に入った2年目の先輩はまだ17歳なわけです。逆に私より後に入った30歳の後輩もいました。17歳の先輩からみれば私は20歳の後輩となるわけですが、容赦なく厳しい指導をしていただきました。その逆に20歳の私からみた30歳の後輩にも容赦なく厳しい指導をしました。
そういう社会が苦手という人もいるかもしれませんが、仕事とは厳しいものなのです。その代わりというわけではありませんが、厳しさの裏側にはいろいろな楽しいこともあるのです。厳しい分だけ人間関係も強固なものになることだってよくあるのです。
ただ、心配しなくても、医師の世界では、手や足が容赦なく出てくるということはありませんし、例えば人間性を否定するような厳しい言葉を浴びせられることもありません。私の知る限り、看護師の世界の方がよっぽど厳しい上下関係があります。
話を元に戻しましょう。たしかに研修医の多くは24から28歳くらいであり、私のように33歳の研修医というのは少数派でした。40代、50代の研修医はさらに少数派であり、66歳の研修医となると相当珍しいといえるでしょう。
けれども、私はその年齢から不利益を被ったことは一度もありませんし、おそらく40代、50代の人たちも、彼ら(彼女ら)がまともな社会常識を有している限りは、20代の研修医と同様の研修が受けられるものと思います。
教える方、例えば指導医や看護師、その他のスタッフの方に抵抗があるのでは、とお考えの方もおられるでしょう。しかしながら、彼ら(彼女ら)とて立派な社会人のはずです。20代の研修医には丁寧に指導するけれど、40代の研修医にはいい加減に教える、なんてことはしないはずです。絶対にそんな人間がいないとはいいきれないかもしれませんが、どんな世界にも、良識のある人間は必ずいますから、そういう良識というか常識のある人たちから教わればいいわけです。
「○○歳で研修医となるには・・・」というような質問をされる方は、あらためて社会常識というものを振り返ってみてはどうでしょうか。
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|2013年6月17日 月曜日
4 forget-me-not 2004/6/9
2004年4月、それまで1年間研修医として勤務していた星ヶ丘厚生年金病院(以下、星ヶ丘)を退職しました。この一年間で数え切れないほどのことを学んだように思います。これまでの人生を振り返って、これほどたくさんのことを学んだ一年間はなかったように感じます。
あらためてこの一年間を思い返してみると、本当に数々のドラマがありましたし、医師としての知識や技術も大幅に向上したように思います。私は何とめぐまれていたのか、こう感じてやみません。
知識の習得という観点だけで考えてみると、医学部受験を目指した一年間や、医師国家試験の勉強に従事した一年間の方が得たものが大きかったかもしれません。また、ドラマという点からみれば、私が18歳から20歳まで経験した旅行会社でのアルバイトの方が大きかったかもしれません。
けれども、生と死の狭間にいる患者さんやその家族、不治の病におかされた患者さんらと接したことで得られたものは計り知れません。また星ヶ丘の先生方や看護師さん、その他のスタッフの方々からも多くのことを学ばせていただきました。本当にいくら感謝してもしきれないように思います。
私は医師としての最初の一年間は大学で研修を受けました。大学病院には、大学病院でしかみることのできない疾患を経験することができますし、多くのスタッフの方に丁寧に指導していただいたのも事実です。しかしながら、結果として言えば、医師二年目の一年間、すなわち星ヶ丘で過ごした一年間の方がずっと心に残るものが多かったといえるように感じます。
大学病院を去るときは、それほど感慨深いものはなかったのですが、星ヶ丘を去るときには感謝の気持ちと同時に、さみしさで胸がいっぱいになりました。いま、星ヶ丘を去って一ヶ月がたちましたが、毎日のように星ヶ丘での出来事を思い出します。指導していただいた先生方、一緒に喜びや虚しさを語り合った研修医の先生たち、いつも患者さんの立場にたって優しく患者さんと接しておられた看護師さんたちやその他のスタッフの方々、そして、本当は私がしっかりしないといけないのに、逆に私に生命の尊さを教えてくれたり励ましてくれたりした患者さんたち・・・、このような人たちとめぐりあえた私は何と幸せなのでしょうか・・・。
今私が思うのは、いつかこの星ヶ丘に何らかのかたちで恩返しがしたいということと、私のような研修医が、一年間というわずかな期間だけだけれど、多くのことを学ばせてもらったということをスタッフの方々がときどき思い出してくれたらな・・・、ということです。
そんな思いを込めて、私は星ヶ丘を去る前日に、体育館の横の草木が茂っている場所に、12株の忘れな草を植えました。12という数は、私を含めた研修医の数です。忘れな草は多年草となることもありますが、多くは一年で枯れてしまいます。けれどもこの生命力の極めて強い草は、きっと一年後にも芽が出るものと思います。
この前久しぶりに病院を訪ねて、こっそりとその忘れな草を見てきました。花は枯れているものもありましたが、まだ葉は堂々と元気な様子を見せてくれました。
現在私は、大学の医局を離れ、大好きだった星ヶ丘も退職し、昼間は大阪市内のクリニックで無給で修行を重ね、夜は当直のアルバイトで当面の生活をしのいでいます。収入も減り、医師免許は持っているとはいえ、いわばフリーターの生活です。この夏にはタイ国に医療ボランティアに行きます。こんな生き方、自分の好きで選択したこととはいえ、ときには不安になることもありますし、同級生のように安定した医師の生活がふとうらやましくなることもあります。
けれども、私が自分で植えた忘れな草を見て感じました。この草のように、力強く生きていこう。夏の暑さに負けていったん枯れてしまったとしても、翌年にはまた芽を出す。そんな生き方がしたいな・・・と。
そしてこのようにも思います。もし私がくじけてしまったら、一年間お世話になった星ヶ丘の患者さんやスタッフの方々に合わせる顔がない。あの忘れな草が芽を出し続ける限り、私も頑張らなければ・・・と。
私の本の読者の多くは医学部を目指している方々だと思います。学力や年齢、その他の環境のために、周囲から医学部受験を反対されている方も少なくありません。そんな方々に今ひとつアドバイスをさせていただくとするならば、街に出て自然を見つけてほしいと思います。周囲の環境に負けず、堂々と生命力を披露している草木を見て感じて、自分を鼓舞してほしいのです。きっとからだの奥底から生命力があふれてくるはずです。
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|2013年6月17日 月曜日
3 差別される病気 2004/3/19
病気になると様々な苦悩が伴うことが多いと言えますが、医療従事者から軽視されがちと私が感じることのひとつに「差別」という苦悩があります。病気の苦悩と言えば、痛み、呼吸苦、不快感、痒み、あるいは不安、抑うつなどもそうでしょうが、なかなか「差別」という苦悩については、大きく取り上げられることは少ないように感じます。
この理由として、まず我々医師や看護師などの医療従事者が「差別」に対する教育を受けていないということがあげられます。痛みや痒みに対しては、薬剤もありますし、患者さんの訴えがあればすぐに対処しようとします。ところが、「差別」に対しては、患者さんの訴えを聞くことがあっても、現場の医療従事者はほとんど無力です。
次に、患者さんが「差別」に対しては、なかなかその苦悩を訴えないということがあります。いくら差別に悩んでいたとしても、医師や看護師との間に、ある程度の信頼関係ができるまで言い出し辛いのです。やっとの思いでその苦悩を口にしたとしても、なかなかきちんと聞いてくれなかったり、初めから相手にされなかったりということも珍しくないようです。
では、医者は患者の「差別」について取り組まなくてもいいのでしょうか。そんなはずは絶対にありません。そもそも医療というのは、身体面だけをみているだけでは不十分なはずです。健康というのは、身体だけでなく、精神的、社会的にも健康でなければならないはずです。
病気であるがゆえに「差別」を受けているとすれば、これは健康からはほど遠い状態にあるわけです。たしかに、上にあげた理由もあり、患者の「差別」という苦悩に対する対処はむつかしいのですが、医師である以上は、病気に伴うすべての苦悩について取り組まなくてはならない、私はそう考えます。
では、どんな病気が「差別」されるのでしょうか。まずひとつは、結核やハンセン病などの感染症があげられます。結核患者は現在でも隔離されることが多いですし、ハンセン病などは、見た目で分かることもあり、歴史的に差別されてきた事実があります。昨年、九州のある旅館で、ハンセン病の患者の宿泊を拒否したという事件もこのことを物語っています。
身体障害者も差別されることが少なくありません。小学校のとき、小児麻痺の生徒がいじめられたり、ばかにされたりといったいわれのない差別を受けていたことを思い出します。大人でも、例えば、一生車椅子を強いられた人は、健常人からは分からないようなところで様々な差別を受けているという現実があります。
別のところでも書きましたが、皮膚疾患もそうです。見た目ですぐに病気とわかる疾患は何かと差別の対象になるものです。実は私が医師になりたいと思った動機のひとつに、「差別に取り組みたい」というのがあります。私は、皮膚疾患もそうですが、もうひとつ、差別に取り組みたい疾患が、「性感染症」です。
AIDS患者が差別されている現状は明らかでしょう。私は今年の夏に、タイ国にあるパバナプ寺というAIDS患者がおよそ400人ほど収容されている施設にボランティアに行く予定ですが、日本よりも断然患者数の多いタイ国でさえ、AIDS患者は差別されています。家族からも見放されることさえ少なくありません。
私は一昨年もその施設に行ったのですが、ボランティアをしている医師からこのようなことを聞きました。レントゲン撮影のできないその施設で、どうしても胸部レントゲンを撮る必要のある患者がいて、その医師は近くの病院にその患者を送ったそうです。ところが送り先の病院では、その患者がAIDSであるという理由で撮影を拒否したというのです。そしてこのようなことは日常茶飯事だというのです。
差別される性感染症は何もAIDSだけではありません。すべての性感染症が差別の対象となっているといってもいいでしょう。クラミジアでもヘルペスでも感染すると、患者さんはなかなか人にはそのことを告げられません。勇気をだして病院に行ったとしても、なかなか堂々と症状を訴えることはできません。
そして、性感染症は、身体障害や通常の皮膚疾患など、他の社会的に差別を受けている疾患と大きく異なる点があります。それは医療従事者からも差別的な発言をされることがあるということです。誰にも言えない病気にかかり、やっとの思いで病院に行っているのに、その病院で医者や看護師から差別的な発言をされることも少なくないのです。「不潔なことをするからそんなことになるんだ」とか「君みたいな女がいるから世の中の性病はなくならないんだ」とか、そんなことを言われることもあるのです。
私が実際にある女性から聞いた話を紹介しましょう。その女性は、私の知人の知人で、あるとき数人で食事をしていたときに、たまたま席が横になったので話すことになりました。当時私は医学部の学生で、まだ臨床医学をほとんど知らない頃でした。話の流れで自分は医学部生だという話題になったときに、彼女は私にだけ聞こえるように身の上話を始めました。
彼女は数年前に、ある風俗店で働いていたというのです。風俗店で働くということは、言うまでもなく、様々な性感染のリスクがあります。特に症状が出たわけでもないのですが、性感染が心配になった彼女は、いくつかのクリニックを受診したそうです。
彼女は、医師や看護婦には、「なぜ受診したか」ということを正直に話しました。彼女は、現在の仕事のことも話しました。社会的には何かと差別の対象になる仕事ですが、医療従事者ならそのまま受け止めてくれて相談にのってくれると考えたのです。
ところが、彼女がかかったクリニックの医療従事者は全員、冷淡な態度をとったというのです。
「そんな仕事をしているのが悪いのです。」「すぐに仕事をやめなさい。」
どこへ行ってもそのように言われて、なぜ仕事を続けなければならないかという点については、誰も聞いてくれなかったというのです。彼女にとって、性感染のことを真剣に相談できるのは医療機関をおいて他にはなかったのです。本当は彼女だって仕事のことは誰にも言いたくなかったのです。
それに、彼女は好き好んでそのような仕事をしているわけではないのです。彼女の場合、両親の残した巨額の借金を返済するために、仕方なく働いていたそうです。もちろんこれは本当のことかどうかは分かりませんが、少なくとも私が聞いた印象では、高収入が得られるからとか、嫌いな仕事じゃないから、とかそんな理由で働いていたとは思えませんでした。
性感染症、これほどまで差別の対象となる病気は他にないのではないでしょうか。誰にも言えずにひとりで悩まなくてはならず、さらに医療機関でさえも差別的な発言を受けるのです。
彼女は、なぜ言う必要のない過去の嫌な思いを私に話したのでしょうか。現在は借金を返済し終えており、忘れたいことをわざわざ話す必要などなかったはずです。
私はこのように考えました。「私も数年先には医師になる以上、性感染症の患者をみることがあるかもしれない。私には他の患者と同様、差別することなく診てほしい。」、彼女はそれを伝えたかったのではないかと思うのです。
私は、そのとき、彼女の連絡先どころか名前も聞きませんでした。今ではどこにいるのかも分かりません。これから会うこともないでしょう。
けれども、私はこのことを語っているときの彼女の目を忘れることができません。そしてこのエピソードが、私が性感染症に取り組みたいと思った最大の理由なのです。
ちなみに性感染症を扱っている科というのは、まず性病科が筆頭にきますが、「性病科」の看板をあげているクリニックはほとんどありません。実際は、皮膚科、泌尿器科、婦人科などが、部分的にみているというのが現状です。
「部分的に」というのは、例えば、婦人科では男性はみませんし、皮膚科ではヘルペスやクラミジア、梅毒といった皮膚に症状の出る疾患は得意としますが、クラミジアや淋病といった疾患については通常みることはありません。これとは逆に、泌尿器科では、クラミジアや淋病以外の疾患はあまり得意としていません。
ところが、患者さんの立場にたったときに、これは相当不便です。というのは、まずひとつめに性感染というのは、重複感染していることが多いという問題があります。例えば、クラミジアとヘルペスに同時に感染したなどという場合、クラミジアは泌尿器科で、ヘルペスは皮膚科でというふうに、複数の医療機関を受診しなければならないのです。
もうひとつ、性感染は、パートナーを同時に治療しなければ意味がありません。勇気を出して、ふたりで婦人科に行っても、男性はみてくれないのです。
私は、あらゆる性感染症をパートナーも含めてトータルで治療していく必要があると考えています。
このような経緯があって、私は性感染症をトータルにみることのできる皮膚科医をめざそうと考えたわけです。
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|2013年6月17日 月曜日
2 人間見た目が大事 2004/2/19
私が皮膚科に入局して(現在は退局してます)、よく聞かれることのひとつに、「どうして皮膚科をやろうと思ったのですか。」という質問があります。『偏差値40からの医学部再受験』にその理由を詳しく書いていますが、質問する人たち全員に、「本を読んでください」、などと言うわけにもいかないので、このように言うようにしています。
「人間見た目が大事だから。」
これは誤解を招きやすい言葉かもしれませんが、私が皮膚科に決めた最大の理由を短い言葉で説明するとこのようになります。
「いや、人間は見た目ではなく中身が大切だ。」このような反論もあるでしょう。しかし、そんな意見は、その人の見た目がそこそこだからこそ言えるのです。
例えば、あなたの顔面に直径10cmを超える大きな良性腫瘍があったとしましょう。「そんなことあるわけないから想像もできない。」とあなたは言うかもしれませんね。けれども、そのような皮膚疾患で悩んでいる人は、それほど少なくはありません。なぜあなたがそのような人を見たことがないかと言うと、そういう病気を持った人というのは、通常外出をしないからなのです。そしてこの人の腫瘍は良性腫瘍のために、生命が短くなるということもあまりないのです。
皮膚科の患者さんの、最も頻度の高い疾患のひとつにアトピー性皮膚炎があります。きっとあなたの身近にもひとりやふたり、アトピーで悩んでいる人がいるでしょう。たいがいは、肌に優しい化粧品を使ったり、症状が出やすい首を露出しないような服を着たりして、対処しているものと思います。
ところが、このアトピー性皮膚炎にしても、重症例になると、見た目がボロボロで、化粧などまったくできなくなります。カサカサして粉がふいたような顔になったり、真っ赤になって顔が腫れたりします。アトピーでも重症になると、例えば無垢な子供が見れば泣き出してしまうような醜貌になってしまうのです。
にきびにしてもそうです。重症例になると、肌がでこぼこになって、ちょっとやそっとの化粧では隠すことができません。化粧をしない男性ではさらにその醜い肌が露出されることになります。
もうひとつ例をあげましょう。男性でも、そして最近では女性も、若くして脱毛症に悩む人が増えています。50代、60代になってからならまだしも、20代で脱毛が始まれば、その人の人生は大きく変わってしまうこともあります。最近は手術にしても内服薬にしてもかなりいい治療法ができてきていますが、それでもまだまだ悩む人は後を絶ちません。
皮膚疾患というのは、社会的に非常につらい疾患です。例えば、皮膚疾患に悩むために、就職活動を断念した、とか、皮膚症状が目立つようになってきたために、友人の披露宴や同窓会にも出席できないという人がいるのです。
これを一般の内科・外科疾患と比べてみましょう。心臓が悪くても、肝臓が悪くても、かなり症状が進行しない限り、他人からは病気であることすら分からないことが多いと言えます。さらに重症化し、誰の目からも病気であることが明らかになったときは、他人がかなり心配してくれるのではないでしょうか。例えば、職場の人が肝炎や腎炎で入院すれば、同僚がお見舞いにいくのはよくあることです。
ところが、皮膚疾患が重症化すれば、まず患者さん自身が他人と会うことを嫌がります。皮膚の悪性腫瘍の場合など、ほとんどの人が目をそむけるような醜貌に加え、強烈な悪臭がその患者さんの周縁に充満するのです。
つまるところ、端的に言えば、軽症のうちは、死ぬ病気じゃないからということもあり、誰も気に留めず、重症化すれば見舞うことすら困難になるのが、皮膚疾患と言えるのです。
また、もっとも差別を受けやすいのが皮膚疾患であるとも言えると思います。
昨年、ハンセン病の患者の宿泊を拒否したという旅館がマスコミで取り上げられましたが、これとて、ハンセン病という皮膚症状が前面に出る疾患だからこそです。たしかにB型肝炎やC型肝炎の患者さんも、(針刺しや性行為で)他人に感染させる可能性があることから、差別を受けることもありますが、通常の社会生活では、他人に知られることはまずありません。
これに対し、ハンセン病など、皮膚症状が露骨になる疾患では、他人から隠すことができません。そのため、宿泊拒否などいわれのない差別を受けることになるのです。
AIDSにしてもそうです。AIDS患者はそれ自体で差別を受けているという現実がありますが、症状が出るまでの間は、少なくとも街を歩いていて差別を受けることはないでしょう。ところが症状が出現すると、AIDSの症状というのは、カポジ肉腫であったり、皮膚の悪性腫瘍であったりと、皮膚症状から差別を受けることが多いのです。
私が、一昨年に出向き、また今年の夏にも行く予定のタイ国にあるパバナブ寺という寺では約400人のAIDS患者さんが収容されていますが、患者さんの何割かは、皮膚症状が出現して、家族や知人から受け入れられなくなり、社会的に差別を被っている人たちです。
どのような病気をどのように捉えるかは、人それぞれで、医師によってもまちまちですが、私は皮膚疾患がもっともつらい病気だと感じています。これが私の皮膚科志望の最大の理由です。
「人間見た目が大事」なのです。
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|2013年6月17日 月曜日
第117回(2013年5月) 便秘を治す(後編)
前回は便を柔らかくするタイプの便秘薬について述べました。今回は、腸管を刺激するタイプの薬についてまずは説明していきます。
一般的に薬局で購入されることが多い腸管刺激薬として「ビサコジル」というものがあります。商品名でいえば、「コーラック」が一番有名でしょうか。(ただし、後述するように「コーラックソフト」は他の成分でできています。その他別の種類のコーラックもあります) 他には、ビューラック、スルーラックなども主成分はこのビサコジルです。
私の印象でいえば、ビサコジルは使い始めたときはいいのですが、そのうち次第に効かなくなっていくことがしばしばあります。すると、もちろん添付文書では許可されていませんが、自分の判断でどんどん量を増やしていく人がいます。ひどい人になってくると、1日に30錠以上飲んでいる、ということもあります。
効かないだけならまだいいのですが、一部の腸管にのみ効くことがあります。すると、その先で通過障害が起こり、それでもその手前の腸は動かされますから、これが腹痛を起こすのです。腸管を刺激するタイプの便秘薬で最も注意すべきなのはこの腹痛であり、これが最も起こりやすい腸管刺激薬がビサコジルであるという印象が私にはあります。尚、医薬品としてもビサコジルは座薬のタイプならありますが、あまり広く使われていません。
薬局で購入できる腸管刺激剤では「センナ」も有名です。センナ茶なるものも出回っているようで、私の印象で言えばビサコジルよりはマイルドです。医療機関でも従来からよく処方されています(注1)。前回述べた酸化マグネシウムとセンナの組み合わせは、多くの医師が用いている処方です。太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)でも、この組み合わせの処方をしばしばおこないます。
センナというのは南アジアや中東でよく育つマメ科の植物で、そのためなのか、身体にやさしい、というイメージが流布しています。センナとは別の植物の根茎を基原としたものに「大黄(ダイオウ)」があり、こちらは漢方薬のひとつの成分として有名です。薬局で買える漢方系の便秘薬の大半はこの大黄が主成分です。
医療機関で便秘に処方される漢方薬の定番は、大黄甘草湯、大承気湯、麻子仁丸、桃核承気湯、防風通聖散…、などで、これらも大黄が主成分のひとつです。では、これら複数の漢方薬はどのように使い分けるべきか。便秘以外の症状も考慮し、必要に応じて舌や脈、おなかのはりかたなどを東洋医学的な観点から診察し決定します。
例えば、谷口医院を受診される便秘の患者さんは若い女性が多く、便秘だけでなく、のぼせ、頭痛、めまい、不眠、不安などの症状を訴えることがしばしばあります。このような症例に、月経不順や月経困難が伴っていれば「桃核承気湯」が第一選択薬となることが多いといえます。
腸管を刺激する薬剤としてもうひとつ有名なものがあります。それは「ピコスルファートナトリウム水和物」というもので、医療機関で処方される商品名でいえば「ラキソベロン」が一番有名でしょう。(他にもありますし、後発品も多数発売されています) ピコスルファートナトリウム水和物は、他の腸管刺激剤に比べると、副作用の腹痛が起こりにくいという特徴があります(私の印象ですが)。
これまでみてきた他の腸管刺激薬は、効果がないからといって量を増やせば、けっこうな確率で腹痛が生じます。特にビサコジルでは顕著です。一方、ピコスルファートナトリウム水和物の場合は、量を増やすと、効果は期待できて副作用は起こりにくいのです。実際、大腸ファイバー(大腸の内視鏡)の前には、通常の内服量の10倍に相当する量を飲んでもらうことがありますし、便秘がひどい人の場合はさらに増やすこともあります。しかし腹痛は、まったくとは言いませんが、それほど起こらないのです。ですから、どうしても便を出したいときには、思い切って10倍量を飲むというのはひとつの方法です。(自己判断でおこなうのは危険です)
ピコスルファートナトリウム水和物は医療機関でよく処方されますが、現在は薬局でもほぼ同じもの(スイッチOTC)が処方箋なしで購入できます。製品名でいえば、「コーラックソフト」(先に述べたように従来の「コーラック」とはまったく別のものです)、「ピコラックス」、「ソフィットピュア」などが相当します。
さて、ここまで述べてきたのは「便を柔らかくする薬」と「腸管を刺激する薬」です。では、これら「2本立て」で便秘は解決するのか、と問われれば、実はまったくそうではありません。(今回のコラムでは重要なことを後回しにして話をすすめています)
では、これら2系統の薬よりも大切なものとは何か。ですが、その前にこれまで述べてこなかった薬について説明します。そして、実は「2系統の薬」より、こちらの方が重要です。
その薬とは「プロバイオティクス(整腸剤)」です。便秘というのは、急性の一時的な疾患ではありません。長期的な観点から(というよりは生涯にわたり)考えていかなければなりません。そういう視点でみたときに最重要の薬剤がプロバイオティクスなのです。プロバイオティクスは、腸内環境を整えて、腸の機能向上や下痢・便秘などの症状を解消するもの、とされていますが、もっと簡単に言えば「腸内に生息している善玉菌を増やしてくれる薬」です。「薬」とも呼ぶべきでないかもしれません。私は患者さんに説明するときは「良質のヨーグルトを錠剤にしたようなもの」と言うこともあります。
ではプロバイオティクスは一生飲まなければならないのか、という質問がきそうですが、そんなことはありません。替わりになる食べ物を積極的に摂ればいいのです。もしもあなたの便秘が成人になってからのものであり幼少時にはなかったとすれば、子供の頃に食べていて今は食べていないものを考えてみてください。そこに、漬物や味噌汁はないでしょうか。発酵食品がプロバイオティクスの替わりになるのです。和食でいえば、漬物や味噌汁の他に納豆などもあてはまります。洋食でいえば、ヨーグルトやヤクルトなどです。成人してからの便秘であれば、子供の頃のなつかしい食べ物を食事に取り入れてみてはどうでしょう。(ただし和食の摂り過ぎは塩分過多に要注意です)
便秘解消の食べ物としてよく取り上げられるのが「食物繊維」です。食物繊維は確かに重要ですが、実際には「ゴボウを多量に食べて余計におなかがはった」という人もいます。これは「食物繊維のバランス」に問題のある可能性があります。食物繊維には水溶性と不溶性があり、これらをバランスよく取らなければなりません。栄養学的には水溶性と不溶性の比率を重要視するのですが、実際にそこまで考えて食事をとるのは大変です。不足がちになるのは水溶性の方で、水溶性の食物繊維として比較的摂りやすいのがコンニャクと海藻です。ゴボウやサツマイモといった「いかにも食物繊維」にみえるのは不溶性です。
さて、最後に、私が最も主張したい最強の便秘解消法について話したいと思います。(今回は最も言いたい大切なことを最後までとっておいたのです)
それは「運動」です。谷口医院を定期的に受診している人からは「聞き飽きた」と言われるかもしれませんが、運動は「万病の予防法」であり便秘もその例外ではありません。もしもあなたが、成人してから、特に、高校を卒業してから便秘が始まった、というのであれば運動量が減っていないでしょうか。中学高校と部活(運動部)をしていてその後運動習慣がなくなってから便秘が始まったという人は非常に多いのです。それに、本格的に運動をしている人、特にプロのスポーツ選手で便秘に悩んでいる人はほとんどいません。
どんな運動がいいのかといえば、最も重要なのが「継続しておこなえる運動」です。気が向いたときだけプールに行くとか、春と秋の登山を恒例としている、などで便秘が解消されるわけではありません。「継続しておこなえる」を前提として、有酸素運動と腹筋運動を組み合わせるのがおすすめです。有酸素運動でいえば、体力に自信のない高齢者などではウォーキングでもいいと思いますが、可能であれば、ジョギング、ランニング、水泳などを無理のない範囲でされることをすすめます。運動が苦手でウォーキングしかできない、という人も、最後の100メートルか200メートルくらいは、ラストスパートとして息が切れるくらいに飛ばしてみましょう。こうすることにより腸の動きが活発になります。
腹筋もできる範囲でかまいません。一番いいのは古典的な腹筋運動(クランチ)にひねりを加えたものですが、腰痛がある方は、アイソメトリックな筋トレ(腹筋に負荷をかけて身体を固定させる筋トレ。V字腹筋やプランクなど)でもOKです。
ストレッチも効果的ですが、それ以上にすすめたいのが自分でおこなうマッサージです。入浴時に腸管のかたちをイメージしてゆっくりとおなかに圧力をかけてマッサージをおこなうのがいいでしょう。リラックスしておこなうのが最大のコツです。今回はほとんど述べていませんが、おなかを動かすのは副交感神経の働きで、副交感神経はリラックスしたときに活動してくれるからです。
最後に便秘をまとめておきましょう。
1、便秘の大半は「純粋な便秘」だが、なかには他の疾患により便秘が生じていることもある。特に重要なのが、大腸ガン、甲状腺機能低下症、糖尿病、パーキンソン病、などである。
2、過敏性腸症候群により便秘が生じることもある。
3、便秘薬は「便を柔らかくする薬」と「腸管を刺激する薬」にわけて考えると理解しやすい。
4、「便を柔らかくする薬」は酸化マグネシウムが最もよく使われる。新薬の「アミティーザ」は今後期待される薬剤。
5、「腸管を刺激する薬」には、ビサコジル、センナ、大黄、ピコスルファートナトリウム水和物などがある。製品によっては一時的に大量に飲んでもらうこともあるが自己判断での増量は危険。
6、便秘以外に症状のある場合は漢方薬が有効であることも多い。
7、プロバイオティクス( 整腸剤)は有効である。発酵食品を積極的に摂ることも推薦される。
8、食物繊維は内容にも注意を。ゴボウやサツマイモなど(不溶性)だけでなくコンニャクや海藻(水溶性)も積極的に。
9、「運動」は最強の便秘解消法。できれば有酸素運動は息が切れるまでおこなう。腹筋はひねりを加えたクランチがベストだが、アイソメトリックなものでもOK。
10、マッサージも有用。入浴時にリラックスした状態でおこなうのがコツ。
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注1:医療機関で処方されるものの代表を商品名で記しておくと、アジャストA、ヨーデル、アローゼン、センノサイド、プルゼニド、などです。(これらはいずれも先発品で、後発品も多数あります)
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|2013年6月17日 月曜日
第116回(2013年4月) 便秘を治す(前編)
便秘には多くの人が悩まされています。しかしながら、これだけありふれた疾患ながら「便秘のみ」で受診する「初診の」患者さんはそれほど多くありません。
例えば、腹痛で受診し、問診から便秘があることが判り、便秘を治すことによって腹痛が改善した、というケースはよくありますし、全身倦怠感や身体のむくみで受診し、やはり問診から便秘もあることが判った、というケースにも遭遇します。こういう場合は全身に様々な症状をきたす疾患が隠れていることがあり、「便秘」が診断の大切な手がかりになることがあります。
「便秘のみ」を訴える人のなかには、よく聞くと「大腸ガンが心配で・・・」が本当の受診理由であることがあります。これはまったく正しい考え方で、目安として40歳を超えてから便秘に悩みだした、という人は医療機関を受診すべきです。こういう人の多くは、雑誌やテレビ、インターネットなどで、「大腸ガンの症状は便秘・・・」というものを目にして受診することが多いと言えます。(ただし、「便秘があって大腸ガンが心配・・・」と言って受診する人で、大腸ガンが実際に見つかることはごくわずかです)
純粋に「便秘」だけを目的に受診する人はそう多くはありません。これは、おそらく「便秘ごときで医療機関を受診すべきでない」と考えている人が多いからでしょう。
医療機関を受診しなくても、市販の便秘薬で対処できるのであれば問題ないでしょう。しかし、その市販薬の使用量が次第に増えてきているとすれば問題ですし、市販の薬で改善しないのであれば医療機関を受診すべきです。たかが便秘・・・、という見方もあるかもしれませんが、便秘は勉強や仕事の効率を落とし、場合によっては生活の質(QOL)を大きく損ねることになります。
というわけで、今回は、便秘に対して医療機関ではどのように対処しているかについて述べていきます。
医療機関では、まずその便秘が「純粋な便秘」なのか「何かの病気が原因で起こっている便秘」なのかについて鑑別することから始めます。「何かの病気が・・・」というのは、先に例にあげた大腸ガンや甲状腺機能低下症が代表ですが、糖尿病で起こることもあれば一部の膠原病(強皮症など)でも起こりえますし、高齢者であればパーキンソン病ということもあります。下痢と便秘を繰り返しているなら「過敏性腸症候群(IBS)」という疾患の可能性もあり、これは非常に多い疾患です。また、薬剤が原因ということもあり、この場合は市販の風邪薬でも起こりえますので、注意深い問診がまずは必要となります。
この時点で大腸ガンを疑えば、大腸ファイバー(肛門からカメラを入れる検査)を勧めることになります。先にレントゲンを撮ることもありますが、私の場合、大腸ガンの可能性が高いと考えれば、レントゲンを省略して大腸ファイバーを勧めています。(谷口医院では実施できませんので近くの医療機関を紹介しています)
甲状腺機能低下症や膠原病、糖尿病を疑えば血液検査をおこないます。特に甲状腺機能低下症の場合は、血液検査をしない限りは診断がつきませんので、可能性があると考えれば早い段階で採血を勧めることが多いと言えます。
当たり前の話ですが、「何かの病気が原因で起こっている便秘」の場合は、その病気の治療をすすめていくことになります。
便秘の頻度でいえば「何かの病気が原因の便秘」よりも「純粋な便秘」の方が圧倒的に多いと言えます。便秘の患者さんが100人いるとすると「何かの病気が原因の便秘」の患者さんは1人いるかどうか、という程度で、ほとんどの人は「純粋な便秘」です。(ただし、先に述べた過敏性腸症候群(IBS)は頻度の高い疾患です。これについてはいずれ改めて詳しく紹介したいと思います)
冒頭で私は、「便秘」のみを訴えて受診する患者さんは多くない、と述べました。しかし、太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)で便秘の治療を受けている人は大勢います。これはなぜかというと、最初に受診したときは便秘とは関係のないことで受診し、そのうちいろんな健康上の悩みを話されるようになり、そのうちのひとつが便秘、というケースが多いというわけです。
ここからは「純粋な便秘」の治療法について話をすすめていきます。
まずすべきことは、それはどのようなタイプの便秘かということです。教科書的にはいろんな分類法があるのですが、私が重視しているのは、まず「腹痛があるかないか」です。腹痛がある場合、市販のものも含めて腸管を刺激するタイプの薬は使うべきでありません。なぜなら腹痛があるということは、腸管の一部が動いているけれどもその先に通過障害があり、そのために痛みが生じている可能性が強く、そのような状態に腸管を刺激する薬を使えば腹痛はさらに増悪することになるからです。
この場合、まず試みるのは便をやわらかくする薬です。酸化マグネシウムが最もよく使われます。副作用がほとんどなく(注1)、値段が安いのが特徴です。後発品を使えば1錠(330mg)あたり5.6円で3割負担では2円未満となります。酸化マグネシウムの1日あたりの投与量は最高で6錠(2グラム)。1日あたり10円(3割負担)という安さです。
酸化マグネシウム以外で便を柔らかくする薬というのは、あまり有名でないものが多かったのですが、2012年11月にまったく新しい便秘薬が発売されました。
この新薬の名前はアミティーザ(一般名はルビプロストン)といい、小腸からの水分分泌を促すことにより、酸化マグネシウムとはまったく異なる作用機序で便を柔らかくします。このアミティーザという薬、便秘薬としては実に32年ぶりの登場です。ちなみに32年前に発売された便秘薬はラキソベロン(一般名はピコスルファートナトリウム水和物)です。(ラキソベロンは腸管を刺激するタイプの便秘薬として次回紹介します)
アミティーザが発売されて数ヶ月が経過しますが(2013年4月現在)、谷口医院では本格的には処方しておらず、一部の患者さんに説明をして同意を得た場合にのみにしています。というのは、まだ、発売後の全国規模での評価が充分におこなわれているとはいえず、どの程度有効なのかが未知だからです(注2)。
それからもうひとつ、谷口医院で本格的に処方をおこなっていない理由があります。それはコストです。アミティーザは1錠あたり156.6円(3割負担で47円)もします。1日2回が基本なので1日あたり3割負担で94円もすることになります。これが2週間になると1,316円。これまで散々苦労してきた便秘が2週間のみの処方で治る可能性は高くなく数ヶ月は続けることになるでしょう。とすると、3ヶ月(12週)で7,900円もすることになります。これに処方代や診察代も加わりますから実際には10,000円を超えることになります。
なかには、それくらいコストがかかっても長年の便秘が解消されるなら飲んでみたい、という人もいるかもしれません。しかし現時点では有効性についてのデータが乏しいこともあって、谷口医院では本格的な処方に踏み切っていないというわけです。
次回は、腸管を刺激するタイプの便秘薬や漢方薬の紹介とその危険性、レントゲン検査について、その他の便秘対策などについて紹介していきたいと思います。
注1:高齢者の場合は稀に高マグネシウム血症になることがあり注意が必要です。また腎臓の機能が低下している場合は使えないこともあります。それ以外にも副作用がないわけではありません。また、下記医療ニュースも参照ください。
注2(2017年10月付記):大規模な集計結果は見たことがありませんが、谷口医院の患者さんで言えば、アミティーザを使っていたけれども現在は他の便秘薬にしているという人が大半であり、また新たな処方はそれほど多くありません。
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|2013年6月17日 月曜日
第115回 慢性胃炎の治療とピロリ菌の除菌 2013/03/20
すでにマスコミでも報じられていますが、2013年2月21日、胃粘膜に寄生し、胃がんなどの原因となっているヘリコバクター・ピロリ菌の検査と治療の保険適用が大幅に拡大されました。今回は、今後胃炎の治療がどのように変化するか、ということとピロリ菌除菌の問題点についてお話したいと思います。まずは、ピロリ菌と胃がんの関係についておさらいしておきます。
胃に細菌が棲息しており、それが胃炎や胃がんの原因ではないかという指摘は随分前から(19世紀後半から)ありました。実際に顕微鏡でそれらしき細菌を見つけた、という報告もあったのですが、一方では強酸の胃粘膜に細菌が棲息できるはずがない、という説も根強く、長い間論争になっていました。
この論争に決着をつけたのは、オーストラリアのロビン・ウォレンとバリー・マーシャルで、1983年、ヒトの胃から、らせん状の細菌を培養することに成功し、この細菌が後にヘリコバクター・ピロリ菌と命名されました。この発見は歴史に残るものであり、2005年には、二人の学者に対しノーベル生理学・医学賞が授与されています。
その後の研究で、ピロリ菌は胃炎を起こすだけでなく、胃がんの原因になっていることも証明されました。それまで胃炎はストレスによるもの、胃がんは塩辛いものの食べ過ぎ、と言われていたわけですから、これらがピロリ菌という細菌による感染症であった、ということはコペルニクス的転回と言っても過言ではないでしょう。ストレスや食生活は容易に改善させることはできませんが、感染症ならその病原体をやっつけてしまえば解決する話だからです。
ピロリ菌の発見はオーストラリアの学者の功績ですが、その功績による恩恵を最も受けている国のひとつが日本です。なぜなら日本は、海外諸国、特に欧米諸国と比べると胃がんの罹患率が極めて高いからです。ちなみに、日本以外で胃がんの多い国としては韓国が有名です。ということは、胃がんの原因の大半がピロリ菌であるのは間違いありませんが、塩分摂取の多い地域で胃がんが多いというのもまた事実です。
日本人ほど塩分を摂る民族はいないと言われることがありますが、実は韓国はその上をいきます。韓国料理は唐辛子が多く使われていますし、サムゲタン(鶏肉に高麗人参やもち米などを入れて煮込んだスープ)は日本人の感覚としては塩分が少なすぎると感じられるために、韓国料理は塩分控えめの健康食のように思われることがありますが、実際はその逆です。この最大の原因はおそらくキムチでしょう。キムチは日本の漬物と同じくらいに塩分が含まれています。
話を戻しましょう。胃炎程度であればともかく、胃がんの原因がピロリ菌であるならば、ピロリ菌保有者にかたっぱしから抗生剤を使って除菌してしまえば、日本人のがんを大きく減らせる、と考えることができます。日本人の男性は1990年代前半までがんによる死亡では胃がんが1位で、女性についていえば2000年でもまだ1位でした。現在でも胃がんは男性のがんの死亡者数の2位、女性の3位を占めています。
もしもピロリ菌の除菌療法が確立した1990年半ばに、国民全員にピロリ菌の検査をおこない、陽性者全員に除菌療法を実施していれば、その後の胃がん罹患者は大きく減少していたかもしれません。(もっとも、胃がんについては内視鏡検査(胃カメラ)が普及し、早期発見ができれば9割以上の確率で治癒します。ですから、胃がんを減らしたければ国民全員に内視鏡検査を実施すべきかもしれません。コストのことを無視すれば、ですが)
しかし、行政はこのような対策はとりませんでした。この最大の理由はコストの問題であろうと予想されます。そもそもピロリ菌は不衛生な環境で感染するものであり、1950~60年頃までに生まれた人では半数以上は陽性であろうと言われています。若年者では陽性率が減少しますが、それでも1~2割くらいは陽性であると考えられています。ということは少なく見積もっても、全国民の4人に1人程度に強力な抗生剤を飲んでもらうことになり、その費用はどうやって捻出するのだ、という問題がでてきます。それに、ピロリ菌を保有している人が全員胃がんを発症するわけでもありませんから、このような治療は「無駄な治療」となる可能性もあり、その無駄な治療で薬による副作用がでたときに誰がどのように責任をとるんだ、という問題もあります。
ですが、胃がんの可能性を大きく減らせるなら、自費でもいいから検査を受けたい(実際、人間ドックでは実施されていました)、そして陽性なら薬も飲みたい、という人は少なくありませんでした。
では、これまで保険診療でピロリ菌の検査・治療ができたのはどのような場合かというと、内視鏡検査で胃もしくは十二指腸に「潰瘍」があることが確認できた場合です。つまり、単に「胃炎」があるだけでは保険診療でピロリ菌の有無を調べることはできなかったわけです。「潰瘍」というのはわかりやすく言えば、胃炎が悪化して、胃粘膜がただれたような状態のことです。内視鏡をする医師からみれば、胃の粘膜に炎症は確実にあるが「潰瘍」があるとまでは言えない、ピロリ菌は陽性かもしれないが潰瘍がないから保険では検査ができない、となるわけです。
2013年2月21日以降は、内視鏡検査で潰瘍がみつからなくても単に胃炎があるだけでピロリ菌の検査が保険でおこなえて、さらに陽性であれば治療(除菌)もおこなうことができるようになりました。すると、診察代、内視鏡代、薬代をすべて含めても3割負担で自己負担は1万円を超えないくらいです。これは画期的なことであり、これから日本の胃がん罹患者が大幅に減少することが期待でき、2013年を「胃がん撲滅元年」と命名しようという声もあるほどです。
さて、どのような人が内視鏡検査を受けるべきか、ですが、市販の胃薬で胃痛やむかつきがとれない人や、薬は効くけれども常に手放せない、という人は主治医か、もしくは内視鏡を実施しているクリニックを受診するのがいいでしょう。すでにかかりつけ医から胃薬を処方してもらっているという人は主治医に相談すればいいと思います(注1)。
胃炎症状があり、内視鏡をおこないピロリ菌がみつかった場合、がんのリスクを減らせることができるのですから、多くの場合除菌はした方がいいでしょう。しかし、注意点はあらかじめ覚えておくべきです。
ひとつめに、一度の除菌ですべての人からピロリ菌が消えるわけではありません。強い抗生剤を組み合わせて内服しても、残念ながらピロリ菌が死滅しないこともあります。その場合、別の抗生物質を用いて治療をやり直すことになりますが、やはり全例成功するわけではありません。さらに、いったん除菌に成功したとしても新たに再感染することもあります。医学誌『JAMA』2013年2月13日号(オンライン版)に掲載された論文(注2)によりますと、ピロリ菌の除菌治療後に陰性が確認できた人の11.5%が1年後に再感染していたことが判ったそうです。
ふたつめに、除菌後に逆流性食道炎(GERD、もしくは胃食道逆流症ともいいます)を発症する人が多いということが挙げられます。逆流性食道炎というのは、胃酸過多の状態となり、その胃酸が食道に上ってきて食堂粘膜に炎症を起こすことにより胸焼けや吐き気が起こります。ピロリ菌除菌と逆流性食道炎には何ら関係がないとする報告もあるのですが、関連性を指摘する報告もいくつかあり、また私の実感としてもピロリ菌除菌後に逆流性食道炎を起こしている患者さんは少なくないという印象があります。
逆流性食道炎をおこすと、食後、吐き気に悩まされ実際に毎食後嘔吐するような人もいますし、胸焼けや背部痛に苦しむこともあります。強い胃酸抑制剤が手放せなくなることもあります。ピロリ菌を除菌して胃痛から解放されたものの、今度は逆流性食道炎に悩まされる、がんのリスクは下がったそうだけど、そもそもピロリ菌保有者でがんを発症するのはごくわずかであることを考えると、本当に除菌をしてよかったのか、という疑問が出てくることがあるかもしれません。
ただし、逆流性食道炎は治るまでに時間がかかることもありますし、いったん治っても再発することもありますが、それでもきちんと治療をおこなえば多くのケースでよくなりますし、無症状のまま進行し気づいたときには手遅れとなる可能性のあるがんのリスクが減らせるのであれば、ピロリ菌除菌には意味があるわけです。
このあたりのことを主治医としっかりと相談して、内視鏡検査や除菌療法をおこなうかどうかを検討すべきというわけです。
注1:太融寺町谷口医院にも胃炎で通院されている人は大勢おられます。すでに一部の患者さんには説明していますが、薬を手放せない人は内視鏡検査を受けておいた方がいいでしょう。太融寺町谷口医院では、現在内視鏡検査ができませんから、希望があれば内視鏡に対応できる医療機関を紹介しています。
注2:この論文のタイトルは、「Risk of Recurrent Helicobacter pylori Infection 1 Year After Initial Eradication Therapy in 7 Latin American Communities」で、下記のURLで概要を読むことができます。
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|2013年6月17日 月曜日
第114回(2013年2月) 花粉と黄砂とPM2.5
今年(2013年春)の花粉の飛散量は去年より多いと言われており、実際昨年に比べると花粉症の患者さんの受診が早くなっているようです。ただし、マスコミでは花粉の量が2倍とか5倍とか言われていますが、患者数やひとりの患者さんの重症度が倍以上になっているわけではありません。その逆に、昨年(2012年)は花粉量が例年より少ないと言われていましたが、患者さんの人数が少なかったわけではありません。私の実感としては、花粉飛散量の予測と関係なく、毎年一定の患者さんが受診されます。
一方、1月中旬からやや目立っているのは咳を訴える患者さんです。「長引く咳」というのは太融寺町谷口医院では、以前から最も多い訴えのひとつなのですが、今年の特徴として「やっぱりPM2.5のせいですかね~」と、患者さんが言われることが目立ちます。
PM2.5、年明けに突如としてマスコミに登場し、その後連日のように報道されるこの言葉はすでに2013年の流行語とも呼べるでしょう。週刊誌やワイドショーでは特集が組まれ、巷では、「PM2.5対応のマスク」が品切れを起こしているとか・・・。
PM2.5とは何か、をまず確認しておきましょう。PMは、particulate matter、つまり「粒子状物質」の略で、要するに「大気中に浮遊する微粒子」のことです。(私はparticulate materialと思っていましたが、materialではなくmatterが正しいようです) PM2.5とは、その微粒子のなかでも直径が2.5マイクロメートル以下の、より小さいもののことです。
PM2.5がなぜ問題か、というと、粒子自体がそれだけ小さいために、呼吸をすると肺の奥にまで到達しやすくなるからです。粒子が口や鼻から喉(のど)に入ってくると、まず喉に違和感が生じます。激しい痛みまで起こすことはあまりありませんが、「イガイガする」「イガラっぽい」などと表現される不快な感覚になります。粒子がさらに奥に入ると、今度は気管(や気管支)の粘膜に刺激を与えます。そしてこの刺激によって、咳が誘発されます。
黄砂(こうさ)というものがここ数年注目を集めています。中国内陸部の砂漠や乾燥地域の砂塵が上空に巻き上げられ地上に降り注がれる気象現象のことで、春に日本にやってきます。もう少し正確に言えば、3月頃から増加しだし、ちょうどゴールデンウィークくらいから5月中旬くらいまでがピークとなります。
黄砂による症状は花粉症のものと似ています。つまり、顔面(特に目のまわり)が痒くなり、目が痛痒くなり、鼻水がでます。喉がイガイガし、咳もでます。黄砂と花粉症の関係は解明されていない点も多いのですが、花粉症がある人が黄砂の被害も受けやすい、というのは間違いありません。
黄砂によって生じる皮膚の痒みや咳が、刺激によるものか、アレルギーによるものか、ということはまだしっかりと検討されていないと思いますが、私自身は両方の可能性があると考えています。つまり、黄砂の微粒子が皮膚や粘膜を刺激することによって症状が誘発されるのと同時に、黄砂の一部を構成する金属、つまり大陸の砂漠の砂のなかに混じっている金属がアレルギーを引き起こしているのではないかという仮説です。実際、黄砂にはアレルギーを引き起こしやすい金属の代表であるコバルトが含まれているという報告もあります。
黄砂が刺激とアレルギーの両方の機序でおこっているというこの仮説を示唆する理由があります。まず黄砂による症状は花粉症などアレルギーを有している人に圧倒的に出やすいということからアレルギーのメカニズムが働いていることが考えられます。しかし、花粉症に対して有効な抗ヒスタミン薬やステロイド点鼻薬・吸入薬が黄砂に対しては効果が弱いのです。つまり花粉症と同じ治療をすることによって、黄砂のアレルギーによる症状は抑えることができても、刺激による症状にはさほど効果がない、というわけです。
黄砂が飛んだ日は喘息で入院する症例(特に小児)が増えるという報告があり、これは理解しやすいことですが、興味深いのは、黄砂により脳梗塞のリスクが上昇するという研究があることです。(詳しくは下記医療ニュースを参照ください)
黄砂には様々な微粒子が含まれますが、直径4マイクロメートルほどの微粒子が多いと言われており、このサイズであれば肺の奥の方にまで入り込みます。そしてここまでくれば毛細血管にも悪影響を与えるということです。
話は再びPM2.5に戻ります。PM2.5は黄砂よりも直径が小さいわけで、これはすなわち肺のより奥に、つまり身体のより深部に到達しやすいことを意味します。つまり、皮膚の痒み、鼻炎、結膜炎、咽頭痛、喘息といった症状のみならず、アスベストなどのじん肺と同じような機序で肺癌を含む肺障害を起こす可能性、さらに血管に入り込み心筋梗塞や脳卒中などの血管障害を黄砂以上に起こしやすい可能性もでてきます。また、微粒子の毒性により、例えば頭痛や倦怠感といった様々な症状が出現する可能性もあります。
ちょうど昭和30~40年代におこった四日市喘息を彷彿させます。多数の死者を出すこととなった四日市喘息は高度経済成長の負の側面であるわけですが、現在の中国の急激な経済発展を考えれば、ある意味ではPM2.5の大量飛散は必然と言えるのかもしれません。
対策としては、中国政府にリーダーシップをとってもらうのがいいわけですが、それほど事は簡単に運ばないでしょう。さしあたりマスクで予防、となるわけですが、よくマスコミで指摘されるように通常のマスクでは粒子が貫通してしまいます。そこで、特別なマスク、とりわけ「N95」と呼ばれるマスクが注目を集めていますが、それほど単純な話ではありません。
まずN95というのは、「0.3マイクロメートル以上の塩化ナトリウム結晶の捕集効率が95%以上」という規格で製造されたマスクのことですが、簡単に言えば、普通のマスクでは貫通してしまうような小さな結晶もブロックできますよ、というものです。最近では、新型インフルエンザが流行した2009年に世間の注目を集めました。医療現場では結核の患者さんに接するときに用いられています。
たしかにN95を用いればPM2.5の予防対策として有効でしょう。ただしそれは”適切に”使用できれば、の話です。N95を適切に使用するのは案外むつかしいのです。つまり、きちんとフィットしておらずに隙間から粉塵や微粒子が入り込んでしまっていることが多いというわけです。これを確認するのにフィットテストという方法があるのですが、テストをしてみると、医療従事者でさえうまくフィットしていないことが多いのです(注1)。N95を装着した2~3割の者しか適切に予防できていなかった、という報告もあるほどです。
また、しっかりと隙間をつくらないようにフィットさせようとしても、顔面の解剖学的な形状とマスクが合わない、ということもあります。N95というのは、米国労働安全衛生局(OSHA;Occupational Safety and Health Administration)が認定しているのですが実は何百種類もあります。様々なメーカーが製造しており、サイズや形状がそれぞれ異なるわけですが、特に顔面の小さな女性などでは、何種類を試しても合うものがなかった、という場合もあります。
自分の顔に合うN95が見つかったとして、適切にフィットさせたとしても、その状態で過ごすのはかなり苦しいことを覚悟しなければなりません。N95を装着した状態で、信号が黄色に変わりそうだから小走りで横断歩道を渡ろう、などということは到底できません。それくらい苦しいマスクを連日装着するというのは現実的でない、と私は考えています。
ではどうすればいいか、ということですが、効果が不十分であったとしても通常のサージカルマスクの2枚重ねくらいで対処するのが現実的かと思います。そして、可能な限りPM2.5飛散量が多い日(注2)には外出を控える、それでも生活に支障が出るなら、思い切ってPM2.5が飛んでこないどこか遠くに引っ越す、というのもひとつの選択肢かもしれません。これを「転地療法」と呼びますが、実際、四日市喘息のときには、きれいな空気を求めて引越しした人も大勢いたそうです。
ではまとめておきましょう。
●2013年春の花粉飛散量は例年より多くなることが予測されている。
●例年春には花粉以外に黄砂が飛散し、花粉症がある人には黄砂による症状もでやすい。
●黄砂による症状は、鼻水・鼻づまりや目の痒みだけでなく、咽頭痛や咳、喘息症状がでることも多い。
●花粉症は治療でコントロールできるが、黄砂は治療をしても効果不十分なことが多く、黄砂に触れない対策が重要となる。
●中国大陸から飛んでくるPM2.5による症状は、投薬で充分な対処ができるわけではなく、可能な限り予防することが大切。
●注目されているN95マスクは、きちんと装着できていないことが多い。適切にフィットさせれば予防効果は期待できるかもしれないが、息苦しくなるため長時間の装着は現実的でない。
究極の治療として「転地療法」を選択せざるを得ない人も今後出てくるかもしれない。
注1:youtubeでN95のフィットテストを見ることができます。興味のある方は下記を参照ください。
http://www.youtube.com/watch?v=kKHnI1piKC8&noredirect=1
注2:PM2.5を含めて大気汚染物質の飛散状況は環境省のウェブサイトで知ることができます。下記を参照ください。
黄砂については気象庁の下記サイトが参考になります。
http://www.jma.go.jp/jp/kosafcst/
また、花粉については環境省の下記サイトがよくまとまっています。
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