マンスリーレポート
2009年8月号 虫刺されと夏の風邪
毎年春から夏にかけてのシーズンは皮膚疾患の患者さんが増えます。水虫や湿疹・かぶれはこの季節に増えるからです。気温と湿度が上がり、汗をかきやすくなると水虫の原因のカビ(白癬菌)は増殖しやすくなりますし、かぶれが増えるのは草木に触れる機会が増えることに加え、汗により金属アレルギーが起こりやすくなるからです。
そんな皮膚疾患のなかで、毎年のように「今年は多いな」と私が感じているのが「虫」が原因の皮膚炎です。虫による皮膚炎といってもいろんなタイプがあって、去年は「毛虫皮膚炎」と呼ばれるドクガやチャドクガが原因の皮膚炎が多かったように思います。これは、要するに毛虫の毛に”毒”があり、その毛が身体に付着することによって起こる皮膚炎です。通常、毛虫の毛は衣服のなかにも入ってきますから露出していないおなかや背中にも起こりえます。毛虫皮膚炎の痒みは尋常ではなく、市販の痒み止めなどでは対処できません。あまりにも痒みが強いために患者さんは医療機関に駆け込んできます、
ところが、今年はなぜか太融寺町谷口医院には毛虫皮膚炎の患者さんはあまり来られません。代りに、というわけではありませんが、今年はダニによる皮膚炎が相当増えてきているような印象があります。もっとも、去年もその前年もダニによる皮膚炎は少なくはありませんでした。しかし今年は、「いったん治ったけどまた再発した」、といって再診されたり、「これまでも虫刺されはよくあったけど今年の痒みには耐えられなくて・・・」と言って受診されたりする方が多いように思われます。
最近、私自身もダニにやられてしまいました。
いつ、どこで刺されたのか分かりませんが、足を中心にダニの皮膚炎に特徴的な赤い小丘疹が多発しました。気づいたのは自宅にいたときだったので、とりあえず手元にあった非ステロイド系のクリームを塗ってみました。ところが、これがまったくといっていいほど効かずに、夜間も痒みで目覚めるほどでした。
翌日クリニックに出勤し、強めのステロイドを外用すると幾分ましにはなりましたが、まだ完全には痒みがとれず診察に集中できません。そこで眠くならないタイプの抗アレルギー薬も併用しました。さらにステロイドを繰り返し外用してようやくおさまってきました。
なぜダニによる被害が増えているのか、といった理由はともかく、毎年着実に患者さんが増えているのは間違いないでしょうから、これからも増えていくことが予想されます。さらに、今年は太融寺町谷口医院ではまだ一例も見つかっていませんが、疥癬(ヒゼンダニと呼ばれる人間の皮膚に寄生するダニがもたらす感染症)も毎年どこかで集団発生しています。
当分の間、虫刺されには要注意というわけです。(私も防ダニシーツの購入を検討しているところです)
皮膚疾患以外に、今年の夏に多い(それも明らかに例年以上に多い!)のは「夏風邪」です。
「夏風邪」といってもいろいろあって、37度台の軽度の発熱と喉の痛みだけの軽症のものから、40度近い発熱に苦しめられるもの、喉ではなく下痢や嘔吐に苦しめられるもの(おなかの風邪)、熱はたいしたことがないのに咳がひどくて日常生活に影響がでているもの、といろいろです。
また、新型インフルエンザの流行で、症状自体はそれほど重症でないものの、「もしかして新型・・・?」と感じて受診される患者さんもいます。
なぜこんなにも風邪の患者さんが多いのか、この理由についてはよく分かりませんが、診察をしていて、けっこう無理をしているなぁ・・・、と思わずにはいられないケースが多々あります。
特に目立つのが「仕事のかけもち」です。朝から夕方まで働いて、夕方以降にもうひとつのアルバイトをしている、という人や、ひどい(?)場合は、3つの仕事をかけもちしているような人もいます。
つい先日も3つの仕事をしているという人が発熱と喉の痛みで受診されました。その患者さん(20代女性)は、昼間の仕事(派遣社員で事務職)が不景気の影響でほとんど残業がなくなって給与が減ったそうです。そこで、平日の夜はホステスとして働き、週末にはイベント関係のアルバイトをしていると言います。
そんな生活が2か月ほど続いたある日、突然じんましんがでてきたそうです。そのじんましんはそれほどひどくなかったために無治療で放っておいたところ、今度は胃の痛みと下痢が出現し、それも市販の胃薬で対処できていたのですが、今度は突然の高熱と喉の痛みに苦しむようになり、ついに私のところに受診したというわけです。
この患者さんは、幸にもインフルエンザにはかかっておらず、喉の状態を顕微鏡で調べても抗生物質が必要な状態ではありませんでした。私は一般的な感冒薬だけ処方して、薬に頼るのではなく、充分な休養をとるように言いました。
ここまで無茶な勤務をする人は珍しいかもしれませんが、最近は仕事のかけもちをしている人が少なくないのは間違いないでしょう。いくら仕事を探してもひとつも見つからないと嘆いている人もいますが、その逆に、この患者さんのように、できそうな仕事はかたっぱしから始めるような人もいるというわけです。
あとひとつ、虫刺されと夏の風邪の他に気になる症状があります。この夏に突然増えだしたわけではありませんが、良くない精神状態が原因となる身体症状で悩んでいるというケースが相変わらず少なくないのです。眠れない・・・、食欲がない・・・、便秘と下痢を繰り返している・・・、慢性の頭痛に悩んでいる・・・、などです。以前、『はやりの病気』で紹介した「機能性胃腸症」に悩んでいる人もこの範疇に入るでしょう。
こういった患者さんの診察をしていると、初診時には分からなくても、何度か受診してもらっているうちに原因が見えてくることがあります。そしてその多くは、”仕事”に関係しています。「今の仕事に満足していないが辞める決心もつかない・・・」、(特に自営業の人で)「やる気はあるのに仕事が来ない・・・」、「職場の人間関係がうまくいかない・・・」、などですが、今年になって目立つのが、「そもそも就職先が見つからない・・・」、というものです。
今月になり、日経平均株価は1万円台を維持していますが、失業率は相変わらず高く、特に関西では6月の完全失業率は5.9%にまで上がり、これは2005年3月以来の水準だそうです。
景気が悪化すれば、精神状態に悪影響を与え、それが身体症状をもたらすことになります。また、景気の悪化は収入の減少につながり、それが無理な労働を強いることになり、その結果健康を害すこともあるわけです。
こう考えると景気と病気には深いつながりがあるということになります。ダニに刺されたといって嘆いている私は能天気なものです・・・。
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