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2013年7月2日 火曜日

2012年6月1日(金) 風疹が過去最多の勢い

 風疹(ふうしん)が流行っています。

 国立感染症研究所感染症情報センターの報告によりますと、2012年1月から5月20日までに感染が届けられた患者数は205人(速報値)で、これは全数報告が始まった2008年以降の同時期で過去最多となります。昨年(2011年)の同時期は126人でしたから、昨年からみると1.6倍の増加となります。
 
 2011年を1年間でみると患者数は369人で、これは2008年以降で最多となりますが、2010年の89人からみると約4倍となっています。そして、今年(2012年)は2011年を上回る勢いで推移しているということになります。
 
患者数を都道府県別でみてみると、最多は兵庫県の62人で、大阪府46人、東京都28人、京都府12人、と続きます。

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 風疹は、飛沫感染(他人のくしゃみなどで感染します)で、2~3週間の潜伏期間を経て、発疹、発熱、リンパ節の腫れなどの症状が出現します。子どもに感染した場合は比較的軽症ですみますが、それでも脳炎など重篤な合併症を起こすこともあります。
 
 また、風疹で最も問題になるのが、妊娠初期の女性がかかった場合で、こうなると先天性風疹症候群といって、胎児が難聴、心疾患、白内障などの障害を持って生まれることがあります。このため中絶せざるを得ない妊婦さんもいます。
 
 太融寺町谷口医院でも、昨年は2~3ヶ月にひとりくらいの割合で風疹の患者さんがこられました。成人の場合、高熱が続きリンパ節の腫れがなかなか引かないこともあります。
 
 風疹は予防接種(ワクチン)をしていればほぼ完全に防ぐことができるのですが、していない人があまりにも多い、というのが我々医療者の印象です。実際、2004年に国立感染症研究所が発表したデータによりますと、20~30歳代の風疹に対する免疫をもたない人(ワクチンをうっていなくて過去にかかったこともない人)は530万人にも上るそうで、また、私の印象を述べれば(患者さんには失礼ですが)、過去にかかったことがあると思いこんでいて実際にはかかっていなくて成人してから感染した、という人も少なくありません。
 
 風疹ワクチンも他のワクチンと同様、誤解の多いワクチンで、副作用を極端に恐れている人が少なくありません。たしかにワクチンに伴う副作用はゼロではありませんが、副作用のリスクと接種せずに罹患してしまったときのリスクをしっかりと比較検討すべきです。
 
 風疹ワクチンは麻疹(はしか)ワクチンとセットになったMRワクチンというものが定期接種に分類されています。つまり無料で接種できるということです。現在は1歳代で1回(1期)、小学校入学の前年に1回(2期)の合計2回の接種が基本です。また、特例措置として、2008年から5年間(2012年まで)は、中1と高3に相当する年齢でうつことができます。(注)
 
 定期接種の年齢に該当しない人は自費となりますが、これだけ流行してきましたからよほどの理由がない限りは全員が接種すべきと思われます。(特にこれから妊娠を考えている人) まずはかかりつけ医に相談するようにしましょう。
 
(谷口恭)

注:MRワクチンの「定期接種」は現在太融寺町谷口医院では実施していません。お近くの小児科クリニックにお問い合わせください。成人の風疹ワクチン接種はおこなっていますが、通常はまず抗体の有無を調べますから初診時に接種とはなりません。詳しくは受診時にあるいはお電話にてお問い合わせください。また下記「予防接種」もご参照ください。
 
参考:
トップページ「予防接種」
医療ニュース2007年3月6日「はしか・風しん混合ワクチンの2回目接種率わずか30%」

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2013年7月2日 火曜日

2012年6月11日(月) やっぱり「アクトス」は膀胱癌のリスクか

 いったい、アクトスで膀胱癌のリスクは上がるのか、そうでないのか・・・。

 2012年5月11日号(オンライン版)の『British Journal of Clinical Pharmacology』に掲載された論文では、「アクトスは膀胱癌のリスクにならない」という結論が導かれていました(詳しくは下記「医療ニュース」を参照ください)。これで安心か、と多くの医療者が感じていたところ、『British Medical Journal』の2012年5月31日号(オンライン版)では、再びこれをくつがえす論文が掲載されました(注1)。
 
 カナダ、モントリオールのJewish General Hospital臨床疫学センターのLaurent Azoulay氏らが、UKのデータベースGeneral Practice Research Database(GPRD)を用いて分析した結果、「アクトスを2年以上服用し、累積服用量が28,000mgを超えると、膀胱癌の発症リスクが2倍に上昇していた」、と結論づけています。
 
 この研究では、1988~2009年に新規に経口糖尿病治療薬を処方された患者115,727例(平均64.1歳)が対象とされています。平均4.6年の追跡調査期間中に膀胱癌と診断されたのは470例(10万人・年当たり89.4)に上ります。
 
 このなかでアクトスが処方されていたのは19例(5.1%)で、対照群では191例(2.9%)だったそうです。これらを統計学的に解析すると、アクトス投与による膀胱癌発症の相対リスク(RR)は1.83となるそうです。さらに、アクトス投与量が多ければ多いほど膀胱癌のリスクが上昇するという結果となり、2年以上かつ累積服用量28,000mg以上では相対リスクは2.54にもなるとのことです。
 
 アクトス(一般名はピオグリタゾン)はチアゾリジン系というグループに分類されるのですが、興味深いことに、同じチアゾリジン系のAvandia(日本では未承認です。一般名はロシグリタゾンといいます)では、膀胱癌のリスク上昇は認められなかったそうです。
 
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 太融寺町谷口医院では、2011年6月からフランス当局の発表を受けて、アクトスの新規処方を見合わせてきました。2012年5月12日の『British Journal of Clinical Pharmacology』の論文が公表されたことで、再び新規処方を検討していたのですが、今回の『British Medical Journal』の発表で、新規処方の見合わせは当分続けざるをえない、と考えています。
 
 それにしても『British Journal of Clinical Pharmacology』でアクトスの安全性が主張されて1ヶ月もたたないうちにまったく逆の結論の論文が公表されたことは興味深いといえます。しかも、どちらの研究も対象としているのはGPRDという同じデータベースなのです。ではどちらの研究に信憑性があるか、という点については、より権威のある『British Medical Journal』かと考えられますが(より厳しい審査を受けているはずですから)、今後の展開にも注目したいと思います。
 
 現在糖尿病の薬にはすぐれたものがたくさんありますから、アクトスが使えなくなったからといって困窮する患者さんはほとんどいないと思われます。アクトスに限らず薬の副作用にはこれからも注意していきたいと思います。
 

(谷口恭)

注:この論文のタイトルは、「The use of pioglitazone and the risk of bladder cancer in people with type 2 diabetes: nested case-control study」で、下記のURLで全文を読むことができます。
 
http://www.bmj.com/content/344/bmj.e3645

参考:医療ニュース
2012年5月18日 「「アクトス」は膀胱癌のリスクを上げない」
2011年6月12日 「糖尿病治療薬「アクトス」が膀胱ガンのリスク」
2011年6月15日 「糖尿病薬、アクトスに続きビクトーザも注意喚起」

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2013年7月2日 火曜日

2012年6月12日(火) 2011年の人口動態;肺炎3位、晩婚+晩産

 2012年6月5日、厚生労働省は2011年の人口動態統計を公表しました。

 今回最も特筆すべきなのは、「三大疾病が変わった」ということです。これまで日本人の死因の三大疾病といえば、悪性腫瘍(癌)、心疾患(心筋梗塞など)、脳血管障害(脳梗塞など)でした。2011年は、1位の悪性腫瘍、2位の心疾患は不動ですが、3位が肺炎となり、脳血管障害は4位となりました。肺炎が死因のトップ3に入るのは1951年以来だそうです。
 
 次に注目すべきは、第1子出産時の母親の平均年齢が30.1歳と、初めて30歳を超えたことでしょう。1975年には25.7歳だった平均年齢は徐々に上昇し、2005年には29.1歳、2010年は29.9歳、2011年についに30歳の大台に乗ったということになります。
 
 2011年に生まれた子供は1,050,698人で、これは前年(2010年)から20,606人の減少となると同時に、統計が開始された1947年以降で最少となります。35歳以上の出産は増加傾向にありますが、34歳以下で減少となっています。
 
 合計特殊出生率(一人の女性が生涯に産む子供の数)は1.39で前年と同じです。出生数が減って、合計特殊出生率が変わらないのは、女性の人数そのものが減っているからです。
 
 平均初婚年齢は男性が30.7歳、女性が29.0歳で、ともに前年を0.2歳上回り、過去最高を記録しています。

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 肺炎で死亡する人は戦後間もない頃は大勢いて死因の上位を占めていましたが、今回肺炎が増えたのは当時と同じ理由ではもちろんありません。戦後は、衛生状態が悪く抗生物質が普及しておらず、今なら簡単に助けられるような症例でも命を落としていた人が少なくないでしょうし、平均寿命も短かった時代ですから高齢となり癌を発症するまでに亡くなっていた人も多かったからです。
 
 2011年になり肺炎で死亡する人が再び増えたのは、誤嚥性肺炎が増えているからでしょう。高齢となり自分でご飯が食べられなくなり、介護師に食べさせてもらったり胃瘻をつけたことで食べ物が逆流したりすることにより誤嚥性肺炎が増えるのです。
 
 よく生命保険会社は、悪性腫瘍、心疾患、脳血管疾患の「三大疾病プラン」を商品にしていますが、今後はその内容も変わるのでしょうか。

(谷口恭)

参考:医療ニュース
2011年6月3日 「出生率上昇、人口減12万人、自殺3万人以下に」
2010年6月7日 「2009年の合計特殊出生率は横ばい」

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2013年7月2日 火曜日

2012年6月30日(土) カルシウムのサプリで心筋梗塞のリスクが2倍

 日本人の多くがカルシウム不足と言われており、そのためカルシウムをサプリメントで摂取している人は少なくありません。しかし、

 カルシウムのサプリメントを摂取すると心筋梗塞になるリスクが2倍になる・・・

と、このような研究結果がスイスのチューリッヒ大学社会予防医学研究所の調査により導かれ、医学誌『Heart』(オンライン版)2012年5月23日で発表されました(注1)。

 この論文では、「European Prospective Investigation into Cancer and Nutrition study(ヨーロッパの癌と栄養に関する前向き研究)(注2)」という大規模研究の対象となったドイツ・ハイデルベルク在住の約24,000人(1994~1998年の調査開始時点で35~64歳)のデータが分析されています。食事の内容、ビタミンやミネラルのサプリメントを摂取しているかどうかを確認し、平均11年間の追跡がおこなわれました。その間に、心筋梗塞354例、脳卒中260例、それ以外の心血管系の原因による死亡267例が発生しているそうです。

 食事から摂取するカルシウムが中程度(1日820mg)のグループは、摂取が少ない人よりも心筋梗塞リスクが低いという結果がでており、女性の方がこの傾向が顕著となっています。しかし、摂取量が1,100mgを超えるとリスク低下は認められていません。

 問題はここからです。

 カルシウムのサプリメントを摂取している人は、まったくサプリメントを摂っていない人に比べると、心筋梗塞のリスクが1.86倍になり、さらにカルシウムのサプリメントだけ(おそらく他のサプリメントは摂らずに、という意味だと思います)を摂取している人では、2.39倍にもなる、と導かれています。

 尚、この研究ではカルシウムと脳卒中のリスクも調べられていますが、こちらは相関関係がなかったそうです。

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 日本のような高齢化社会では、骨粗しょう症のリスクを下げるためにカルシウム摂取の重要性がよく指摘されます。まず、この研究で最も大切なことは、「カルシウムが必要なことは変わらないわけで、摂取方法は食事からにすべきであって、サプリメントはまずい」ということです。

 このサイトで何度か指摘していますが、ここ数年間はサプリメントに関する研究結果はほとんどが否定的なものです。摂取して何も変わらない、であればいいのですが、摂取すると病気のリスクが高まる、とされるものが目立ちます。(下記「医療ニュース」も参照ください)

 けれども、サプリメント好きな人は意外に多く、診察室で患者さんからよく質問を受けます。「どうしても何かサプリを摂りたい」という患者さんがいて、私にはこの心理がよくわからないのですが、どうしても、という人には、「それなら厚労省のデータで不足しているとされているカルシウムのサプリメントを考えてみればどうでしょう」、と返答してきました。

 しかし、これからはそんなことは言っていられないでしょう。我々はサプリメントに対する認識を「摂取しても効果がないもの」から「摂取すれば危険なもの」と変えるべきかもしれません(注3)

注1:この論文のタイトルは、「Associations of dietary calcium intake and calcium supplementation
with myocardial infarction and stroke risk and overall cardiovascular mortality in the Heidelberg
cohort of the European Prospective Investigation into Cancer and Nutrition study (EPIC-Heidelberg)」で、下記のURLで概要(abstract)を読むことができます。

http://heart.bmj.com/content/98/12/920.abstract

注2:「前向き研究」というのは、分かりやすく言えば、対象者をあらかじめ決めておいて、その後どのような病気になるかを追跡していく調査のことです。これに対して「後向き研究」というのは、病気になった人を集めて、過去にどのような食生活をしていたか、喫煙や飲酒はどうだったか、などを聞き取って調べる調査のことです。一般的には「前向き研究」の方がより正確とされています。

注3:ビタミンやミネラル、その他健康食品の有効性を検証したサイトとしては、国立健康・栄養研究所の下記のものがおすすめです。

「 健康食品 」の安全性・有効性情報

参考:医療ニュース
2011年8月26日 「ビタミン剤で発ガンのリスク上昇」
2011年5月6日 「カルシウムサプリメントが女性に危険かも・・・」
2012年3月13日 「ビタミンE過剰摂取で骨粗しょう症に」

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2013年7月2日 火曜日

2012年7月7日(土) カンボジアで原因不明の難病が発生

 カンボジアで原因不明の病気が発生。62人が罹患し61人が死亡。

 これは、検疫所のウェブサイトに2012年7月5日付で掲載された情報です。WHOが世界に向けて7月4日に公表したものを受けての情報です。

 報告によりますと、この原因不明の病気の大多数はカンボジアの南部で発生していますが、特定の地域に集中しているわけではないようです。症状は、高熱と呼吸困難、さらに神経症状も出現するようです。

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 現在入手できる情報からは詳しいことは分かりませんが、一斉に発生していることから感染症である可能性が高いと言えるでしょう。現時点では罹患者は子供に限定されているようですが、今後成人に発症しないとも限りません。

 カンボジアに渡航する人、さらにベトナムやタイ東北地方のカンボジアと国境を接する地域に渡航する人は当分の間、この原因不明の病気の動向に注意する必要があるでしょう。下記の検疫所のサイトを参照ください。

http://www.forth.go.jp/topics/2012/07050941.html

(谷口恭)

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2013年7月2日 火曜日

2012年7月13日(金) カンボジアの難病は手足口病の可能性

 カンボジアで原因不明の病気が流行り大半が死亡している、という情報を先日お伝えしましたが、その後の調査で、この原因は「手足口病」かもしれない、との発表がありました。

 東南アジアで高熱と呼吸症状で死亡、と聞くと、まず考えたいのが高病原性鳥インフルエンザ(A/H5N1)とSARS(重症急性呼吸器症候群)ですが、これらはすでに否定されています。また、高病原性鳥インフルエンザ以外のインフルエンザウイルも否定されています。

 一方、罹患者の一部からエンテロウイルス71(EV71)が検出されたことが判り、手足口病によるものではないか、との見方がでてきました。

 しかし、どうも全例から検出されたわけではないようで、また、一部の罹患者からはデング熱、さらにチクングニヤが検出されたという情報もあり、現時点では原因となる病原体の特定はできていません。

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 手足口病と言えば、昨年(2011年)は日本でも大流行し、子供だけでなく大人も発症し、重症例も相次ぎました。手足口病をきたすウイルスは複数ありますが、昨年日本で猛威をふるったのはコクサッキーA6です。現在、カンボジアで流行している(可能性のある)手足口病の病原体はエンテロウイルス71で、これは日本でも以前から多いタイプのものです。

 しかし、日本ではこれほどの重症化はおこりませんから、エンテロウイルス71が何らかの変異を起こした可能性は否定できないでしょう。ただし、これだけ死亡者が多いのは、カンボジアの劣悪な医療環境が関係していることもありえます。

 はっきり言うと、カンボジアの医療機関は、ごく一部を除き、衛生状態に問題があります。私はNPO法人GINAの関係でタイの医療機関をある程度見てきましたが、公立の病院では何度も驚かされてきました。病室は、体育館のような広さがあり、そこに100人以上の患者さんが所狭しと寝かされているのです。なかには息が絶え絶えの患者さんもいて、これでは院内感染が容易に起こってもおかしくありません。

 しかし、そこで働いている医療者やボランティアに聞くと、カンボジアではこの比ではないそうです。タイで知り合ったあるヨーロッパ人のボランティアによると、タイでは医師は英語ができるが、カンボジアの医師はフランス語はできても英語ができないことが多く、外国人はまともに診てもらえないそうです。

 感染症は急速に広まる可能性があります。そろそろ夏休みですが、子供をつれてのカンボジア旅行は可能な限り避けるべきでしょう。またベトナムやカンボジアと国境を接するタイの東北地方なども充分な注意が必要です。仕事などでどうしても行かなければならない人は海外旅行傷害保険の見直しをすべきでしょう。

 尚、エンテロウイルス71にはワクチンがありません。デング熱にもチクングニヤにもワクチンはありません。ただし、デング熱とチクングニヤは蚊に刺されて発症しますから、虫除けスプレーやクリーム(これらは現地で買った方がいいです)を忘れないようにしましょう。

参考: 医療ニュース2012年7月7日(土) 「カンボジアで原因不明の難病が発生」

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2013年7月2日 火曜日

2012年7月29日(日) 若者の自殺が原因で平均寿命短く?

 厚生労働省は毎年7月末頃に平均寿命を公表します。2011年の平均寿命は、女性が85.90歳、男性が79.44歳とされています(注1)。

 前年(2010年)の平均寿命が女性・男性それぞれ、86.30歳、79.55歳ですから、男女とも前年を下回ったことになります(注2)。

 2012年7月27日の日経新聞で国際比較がおこなわれています。同紙によりますと、女性は香港に抜かれ27年ぶりに2位に転落し、男性は前年の4位から8位に後退したそうです。男女とも1位は香港だそうです。
 
 男女とも寿命が短くなった原因として、厚労省は東日本大震災の影響の他に、20代の自殺が増加したことも一因としています。一方、「三大死因」のガン、心臓病、脳卒中での死亡は減少傾向にあり、同省は、将来日本人が三大死因で死亡する確率を女性49.45%、男性52.83%としています。

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 平均寿命とは、簡単に言えば「生まれたばかりの赤ちゃんが平均してどれくらい生きるか」を意味します。ですから、乳幼児期に死亡することが多い国では、例えば平均寿命が60歳であなたがすでに成人していれば、60歳よりも長生きする可能性が高いわけです。日本のような先進国では乳幼児期の死亡率は小さいですから、成人していても実際の寿命は平均寿命とそれほど隔たりはないはずです。しかし、厚労省が指摘しているように若者の自殺が今後も増えるようであれば、平均寿命が短くなり、ある程度の年齢まで生きた人の死亡年齢との差が大きくなっていくことになります。

注1:詳しくは厚労省のウェブサイト(下記)を参照ください。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life11/index.html

注2:2010年の女性・男性の平均寿命は、速報値ではそれぞれ86.39歳、79.64歳でしたから(下記医療ニュース参照)、最終的に男女とも少し短くなったことになります。

参考:医療ニュース
2011年8月1日 「女性の寿命は5年ぶりに短く、男性は過去最高」
2010年7月28日 「日本人の寿命がさらにさらに長く」
2009年7月18日 「日本人の寿命がさらに長く」
2008年8月4日 「長寿記録更新!女性は23年連続世界一」

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2013年7月2日 火曜日

2012年7月30日(月) 運動不足解消で11ヶ月寿命が延びる!

 健康のために運動しましょう、というのは聞き飽きた言葉で、言われたときには「わかっとるわい!」と言い返したくなりますが、では、運動すればどれだけ健康になれるのか、という問いに数字を使って答えるのはなかなか困難です。

 日本人は運動不足を解消すると平均寿命が0.91年(約11ヶ月)延びる!

 このようなことが、米国ハーバード大学ブリガムアンドウイメンズ病院(Brigham and Women’s Hospital)のI-Min Lee博士らの研究で導き出され、医学誌『Lancet』2012年7月21日号(オンライン版)に掲載された論文(注1)で述べられています。

 研究者は、運動不足(inactivity)が各疾患にどれくらいの影響を与えるかを算出しています。その結果、全世界でみたときには、心筋梗塞などの心疾患の5.8%、糖尿病の7.2%、乳ガンの10.1%、結腸ガンの10.4%が運動不足によるものであることがわかったそうです。

 この研究が興味深いのはこれを世界中の国や地域で分析していることです。日本では、心疾患、糖尿病、乳ガン、結腸ガンの運動不足が関与する割合が、それぞれ10.0%、12.3%、16.1%、17.8%とされています。

 さらに研究者は、もしも運動不足が解消されたとすると平均寿命がどれだけ延長するか、という試算もしています。結果は、世界中では平均寿命が0.68年延長することになり、日本の場合は0.91年(約11ヶ月)の延長となるそうです。

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 この研究は公衆衛生学的な研究ですから、すべての人が運動不足を解消すればこれらの疾患に罹患しなくなり平均寿命が伸びるという意味ではありません。つまり、いくら運動しても、結腸ガンになる人はなるわけです。

 しかし、だからといって運動不足のままでいるのはもったいないと考えるべきです。この論文によりますと、運動不足が寿命に与える影響は、喫煙や肥満とほぼ同等だそうです。がんばりすぎてストレスが貯まるのは問題ですが、運動・禁煙・減量は「長生きするための3原則」と考えるべきでしょう。

注1:この論文のタイトルは、「Effect of physical inactivity on major non-communicable diseases worldwide:
an analysis of burden of disease and life expectancy」で、下記のURLで概要を読むことができます。また、全文を読むことも可能です。その場合はユーザ登録が必要ですが無料でおこなえます!(医師でなくとも誰もが無料で登録できます)

http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736%2812%2961031-9/abstract

参考:医療ニュース
2011年12月28日 「体重が減らなくても有酸素運動で長寿に」  
2007年2月21日 「運動する男性は大腸がんの危険度が30%低い」

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2012年8月1日(水) 喫煙者率、2011年も過去最低だが・・・

 JT(日本たばこ産業)は毎年「全国たばこ喫煙者率調査」をおこなっています。今年は全国の成人男女約32,000人を対象に5月に実施されました。回答を得たのは19,897人からで回収率は62%ということになります。以下の結果が7月30日に発表されました(注1)。

 男女合計21.1%(前年から0.6ポイント低下)
 男性のみ32.7%(前年から1.0ポイント低下)
 女性のみ10.4%(前年から0.2ポイント低下)

 JTは、高齢化の進行、健康意識の高まり、2010年10月に実施されたタバコ税増税などが喫煙者率減少の要因とみているようです(注1)。

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 JTはいくつかの理由で喫煙者率が減少したことを強調したいようですが、今回の低下率は0.6ポイントですから、2010年から2011年の低下率が2.2ポイント(下記医療ニュース参照)だったことを考えると低下率は鈍くなっていることがわかります。

 結果の解釈については「過去最低になって良かった」ではなく、「禁煙を試みる人が減り喫煙者の減少率が鈍くなり好ましくない状態」とみるべきではないか、と私は考えています。

注1:JTのウェブサイトで詳しく紹介されています。下記URLを参照ください。

http://www.jti.co.jp/investors/press_releases/2012/0730_01.html

参考:医療ニュース
2011年10月15日 「喫煙者率が男女とも過去最低に」
2010年8月16日 「喫煙率、男性は過去最低、女性は再び増加」

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2012年8月6日(月) ポリオワクチンに伴う混乱

 すでにマスコミで報道されているように、今年(2012年)9月1日より、定期の予防接種に不活化ポリオワクチンが導入されることになりました。さらに、4種混合ワクチン(ジフテリア・百日咳・破傷風・不活化ポリオワクチン)が7月27日に薬事承認されました。4種混合ワクチンは2種類のものが登場するようです。ひとつは「テトラビック皮下注シリンジ」(阪大微生物病研究会)、もうひとつは「クアトロバック皮下注シリンジ」(化学及血清療法研究所)です。

 不活化ポリオワクチンが定期接種に組み入れられたのはもちろん歓迎すべきことなのですが、すでに混乱が生じているようです。話がややこしいのは

・単独の不活化ワクチンと、2種類の4種混合ワクチンが登場することになり、それぞれ接種開始日が異なる

・すでに、生ワクチンを1度接種している場合はどうすればいいのか

・生ワクチンでなく、特殊なクリニックで輸入物の不活化ワクチンを1回、もしくは2回接種している場合はどうすればいいのか

・ポリオ接種は見合わせており、3種混合ワクチンの1回目をすでに接種している場合は?

といった問題がでてくるからです。これらに対し厚労省は、様々な状況でどのようにすべきかの指針を公表しています(注1)。

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 厚労省が公表している各状況でどのようにすべきかの指針は大変わかりにくいものとなっていますが、これは厚労省が悪いわけではなく、ワクチンの移行期には必然的について回る問題です。

 では、接種対象者(その父兄)はどうすればいいのでしょうか。厚労省のウェブサイトなどで確認してももちろんかまわないわけですが、かかりつけ医に相談するのが一番正確だと思われます。

 尚、太融寺町谷口医院には成人の方から不活化ワクチンの問い合わせがしばしばありますが、しばらくの間は見合わせたいと考えています。ここ数年の経緯からみて、ワクチン不足になる可能性があると思われるからです。(2年前のHibワクチン、昨年のHPVワクチンが供給不足になったのは記憶に新しいところです。現在はA型肝炎ワクチンの入手が困難になっていますし、狂犬病ワクチンは入荷の目処すらたちません)

(谷口恭)

注1:厚労省が公表している指針を下記に紹介します。(何度読んでもややこしいです・・・)

【3 種混合ワクチン未接種かつポリオワクチン未接種の者】
 ⇒ 4種混合ワクチン未導入の時点で開始する者:3種混合ワクチン+単独の
   不活化ポリオワクチン
 ⇒ 4種混合ワクチン導入後に開始する者:原則として4種混合ワクチン

【以下のいずれかのワクチンを接種している者】
 ・生ポリオワクチン1回
 ・単独の不活化ポリオワクチン1回以上
 ・3種混合ワクチン1回以上
 ⇒ 4種混合ワクチンの導入にかかわらず:原則として3種混合ワクチン
   +単独の不活化ポリオワクチン

・4種混合ワクチンの標準的な接種期間は以下の通り(3種混合ワクチンと同じ)。
 ・初回接種は、生後3か月から12か月に、20~56日の間隔をおいて3回
  ※3種混合ワクチンと4種混合ワクチンの間隔も20~56日までとする。
  (単独の不活化ポリオワクチンと異なり、接種間隔の上限は56日までと
   する)。
 ・追加接種は、初回接種から12か月~18か月後(最低6か月後)に1回。
  ※この年齢を超えた場合、これまで通り、7歳6か月に至るまでの間であ
   れば定期接種を実施できる。
  (単独の不活化ポリオワクチンと異なり、定期導入時点で追加接種も含まれる。)

参考
厚労省の <ポリオワクチン> (このサイトはわかりやすく解説されています)
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/polio/ 

医療ニュース:2012年5月1日 「ついにポリオ不活化ワクチン導入へ」
はやりの病気第100回(2011年12月) 「不活化ポリオワクチンの行方」

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