医療ニュース

2015年10月30日 金曜日

2015年10月31日 花粉症があればガンになりにくい?

 花粉症のある人には「朗報」と呼べるかもしれません。花粉症があれば全死因の死亡率及びガンによる死亡率が低くなるという研究が発表されました。

 医学誌『Clinical & Experimental Allergy』2015年9月14日号(オンライン版)に掲載された論文(注1)の概要を紹介したいと思います。これは日本の研究です。

 研究の対象者は群馬県の2つの地域に住む40~69歳の人たちで、調査は1993年から開始されています。2000年の時点で、対象者8,796人のうち12%に相当する1,088人が12ヶ月以内に花粉症の症状があったと答えています。

 この論文には「対象者は76,186人年フォローされている」とあります。統計学に馴染みのない人には「人年」(英語ではperson-yearsといいます)という表現がわかりにくいと思うので補足しておきます。この研究の対象者は2,000年の時点で8,796人とされています。実際には途中で連絡がつかなくなった人もいるでしょうし死亡している人もいますが、仮に全員が生存しており調査から外れていないとしたときに76,186人年だったとすると、追跡期間は76,186人年÷8,796人=8.66年となります。実際には死亡者や連絡不明の人がいますから、8.66年より長く追跡しているはずです。

 話を戻します。この期間中に合計748人が死亡しています。(内訳は、外因性37人、心血管系疾患208人、呼吸器系疾患74人、悪性腫瘍329人です) 花粉症があるかないかでこれらを分析したところ、花粉症があれば全死因死亡が0.57倍と有意に低くなり、ガン(悪性腫瘍)に関していえば、なんと0.48倍に低下していたそうです。

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 現在花粉症の根本的な治療はスギ花粉に関しては「舌下免疫療法」が普及してきています。この研究を中心に考えるなら、ガン予防のためにそういった治療を受けない方がいいのでしょうか。もちろんそのような判断は時期尚早であり、この研究を過信しすぎるのはよくありません。ガンの予防は”正当な”方法をとるべきです。

 とはいえ、基礎医学的には大変興味深い研究です。今後もアレルギーの有無と各疾患や死亡率との因果関係の研究に注目したいと思います。

注1:この論文のタイトルは「Pollinosis and all-cause mortality among middle-aged and elderly Japanese: a population-based cohort study」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/cea.12638/full

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2015年10月30日 金曜日

2015年10月30日 睡眠不足で風邪のリスクが4倍以上に

 毎日同じ時間に起きて同じ時間に寝るようにしましょう・・・

 これは私が多くの患者さんに伝えているメッセージです。(聞き飽きたという人も少なくないはずです・・・) この「習慣」は非常に大切で多くの疾患を予防することができます。長期で続けると生活習慣病の予防になりますし、ほんの1~2ヶ月実施しただけで片頭痛が大きく改善したり、うつ病がよくなったり、ということは決して珍しくはありません。適切な睡眠時間を確保し、可能な限り起床時間と就寝時間を同じにすることが大切なのです。

 今回お伝えしたいのは、睡眠不足が風邪のリスクになる、ということです。これだけを聞けば、経験的にもそうだろうなぁ~、という気がしますが、今回紹介したい研究の結論は、なんとそのリスクが4倍以上にもなるというものです。

 医学誌『Sleep』2015年9月号(オンライン版)に掲載された論文(注1)の概要を紹介したいと思います。この研究の被験者は、米国ピッツバーグ在住の健康な男女164人(18~55歳)です。この研究に驚かされるのは、ライノウイルスという鼻風邪の病原体を被験者の鼻に注入していることです。わざと感染させるのは人道的にどうなのかな、という気がしないでもないですが、ここは話を進めましょう。

 被験者はライノウイルスを鼻腔に注入された後5日間ホテルに隔離され、風邪症状の有無が調べられました。その結果、睡眠時間が7時間以上の人に比べると、5~6時間の人は風邪をひくリスクが4.2倍に、5時間未満の人は4.5倍にもなったのです。

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 この研究が興味深いのは、単に睡眠時間でグループ分けして、どの睡眠時間のグループが風邪をひきやすいかを調べたわけではないからです。ライノウイルスを実際に注入したということは被験者全員に同じ条件を与えています。そしてホテルに隔離していますから、他から感染する可能性が極めて低くなっているのです。ですから、この研究は科学的な確証度はかなり高いといえます。

 それにしても4倍以上というのは驚かされます。これからの風邪の予防は「うがい・手洗い」ではなく、「うがい・手洗い・睡眠を」というキャッチフレーズにするのはどうでしょうか。

注1;この論文のタイトルは「Behaviorally Assessed Sleep and Susceptibility to the Common Cold」で、下記のURLで概要を読むことができます。

http://www.journalsleep.org/ViewAbstract.aspx?pid=30153

参考:メディカルエッセイ第128回(2013年9月)「同じ時間に起きて同じ時間に寝るということ」

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2015年10月26日 月曜日

2015年10月26日 女性の飲酒は結局のところ・・・

 いったい飲酒は身体にいいのか悪いのか、男女差はあるのかどうか・・・。世界中でいろんな人がいろんなことを言いますから、何が正しいのか分からなくて混乱している人も多いのではないでしょうか。

 今回はまるで反対のことを言っている2つの研究を紹介したいと思います。1つめの研究は「女性は少量の飲酒でも乳がんのリスクが上がる」とするものです。

 医学誌『British Medical Journal』2015年8月18日号(オンライン版)(注1)に掲載された研究によりますと、女性は1日に350mLの缶ビール1本程度の飲酒でも(主に)乳ガンのリスクが飲まない人に比べて13%上昇することが判ったそうです。この研究は、米国の医療者男性47,881人、女性88,084人が対象とされています。ちなみに男性は(喫煙していなければ)缶ビールであれば2本程度までなら特に発がんリスクは上昇しないそうです。

 もうひとつの研究は、日本人の研究者によるもので、「日本人女性は飲酒により糖尿病が予防できる」という結論が導かれています。医学誌『Journal of Diabetes Care』015年8月12日号(オンライン版)(注2)に掲載されています。

 この研究の対象者は35~60歳の日本人女性18,352人です。対象者を「まったく飲まないグループ」、「ときどき飲むグループ」、「毎日少し飲むグループ」(ビール中瓶1本程度)、「毎日たくさん飲むグループ」(ビール中瓶1本以上)の4つのグループに分けて検討されています。

 その結果、「ときどき飲むグループ」では「まったく飲まないグループ」に比べ糖尿病を発症するリスクが0.82と低く、さらに興味深いことに、「毎日少し飲むグループ」で0.61、「毎日たくさん飲むグループ」でも0.66と、毎日飲酒をすることが糖尿病の予防につながるという結果がでています。

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 では結局のところ、日本人の女性はお酒をどうすればいいのでしょうか。結論をいえば「かかりつけ医と相談しましょう」となります。ここに紹介した貴重な研究を無視するのはよくありませんし、逆にそればかりに目が行き盲目的になるのもよくありません。その人の糖尿病の他のリスクはどうなのか、乳ガンのリスクは高いのか、あるいは他の飲酒が原因とされている疾患についてはどうなのか・・・、そういったことを総合的に考えてかかりつけ医と相談するのが最善です。

注1:この論文のタイトルは「Light to moderate intake of alcohol, drinking patterns, and risk of cancer: results from two prospective US cohort studies」で、下記のURLで概要を読むことができます。

http://www.bmj.com/content/351/bmj.h4238

注2:この論文のタイトルは「Association between Alcohol Consumption and Glycemic Status in Middle-Aged Women」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://www.canadianjournalofdiabetes.com/article/S1499-2671%2815%2900489-X/abstract

参考:医療ニュース
2013年10月4日「女性も多量飲酒で脳卒中のリスクが増加」
2011年10月26日「女性は中年期の適量の飲酒で高齢期が健康に」
2010年4月8日「適度な飲酒は女性の体重増加を抑制」

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2015年10月6日 火曜日

2015年10月6日 「酒さ」の原因は生活習慣と遺伝

 医療者にとっては「よくある疾患(common disease)」と認識されているけれども、一般の人にはあまり知られていない病というのがいくつかあります。

 酒さはそのひとつで、これを正しく読めない人もいるのではないでしょうか。酒さは「しゅさ」と読みます。英語はrosaceaで、無理矢理カタカナにすると「ロゼイシア」となります。

 我々医療者が不思議に感じるのは、酒さを患っている患者さんは決して少なくないのに、なぜかマスコミなどであまり取り上げられず知名度が低いということです。

 酒さとは一言で言えば「顔面に生じる慢性の炎症性疾患」です。単に赤くなるだけのこともあれば、一見ニキビのような小さな腫瘤ができることもありますし、重症化すれば鼻が変形することもあります。

 原因については「不明」と言われることが多いのですが、おそらくそのことが原因ではないか、あるいは少なくともそれが悪化因子になっているだろう、という印象を受けるものはいくつかあります。

 最も多いのがステロイド使用です。長期間ステロイド外用薬を顔面に塗布すると酒さが生じることがあるのです。ただし、ステロイドのせいで「酒さの様になった状態」は「酒さ様皮膚炎」と呼び、酒さと区別することもあります。興味深いことに、ステロイドによる酒さ(酒さ様皮膚炎)はステロイド外用を使用しているときだけでなく、中止した後に生じることもあります。そして治療に難渋します。また、ステロイドは外用だけでなく、過去に内服や注射をしていたことで酒さ(酒さ様皮膚炎)が生じることもあります。

 ステロイドの使用以外の酒さの原因はいろいろあるだろうと考えられますが、実態はよく分かっていません。また遺伝的な要因もあるのではと考えられていますが、これまできちんとしたデータがありませんでした。

 酒さの原因の46%は遺伝である・・・

 このような研究発表がおこなわれ、医学誌『JAMA Dermatology』2015年8月26日号(オンライン版)に掲載されました(注1)。

 酒さをきたす遺伝子が特定できたわけではありませんが、この研究では対象者を双子としているために信憑性は高いと言えます。対象者の双子は米国在住18~80歳の合計275組で、一卵性双生児が233組、二卵性が42組です。

 研究の結果、酒さのリスクの46%に遺伝が関与していることがわかりました。遺伝以外のリスクとしては、生涯の紫外線曝露、加齢、肥満、喫煙、飲酒、心疾患、皮膚がんがあることがわかったそうです。

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 現在の医療技術では遺伝子を変えることはできません。つまり46%の要因はどうにもならないわけです。しかし残りの54%は努力次第でリスクの減少を図ることはできます。たとえば、若いうちから紫外線対策をおこない、太らないように気をつけ、禁煙し、深酒をしない、といったことで酒さのリスクの半分を下げることができるわけです。

 そして、これはおそらく酒さの診断がついた後も、こういったリスクの低減に努めることにより、完全治癒には至らなくとも改善させることが期待できると考えるべきです。

 酒さは治療に時間がかかることもあり、諦めてしまっている人やドクターショッピングを繰り返している人が少なくありません。しかし、治療が功を奏し、「完治」にまでは至らなくてもかなり「いい状態」を維持できる人も多いのも事実です。様々な治療法がありますから、決して諦めるべきでない疾患です。

参考:トップページ「ニキビ・酒さ(しゅさ)を治そう」

注1:この論文のタイトルは「Genetic vs Environmental Factors That Correlate With RosaceaA Cohort-Based Survey of Twins」で、下記のURLで概要を読むことができます。

http://archderm.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=2429555&resultClick=3

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2015年9月28日 月曜日

2015年9月29日 どのような人がお酒を飲み過ぎるのか

 成功者は飲酒過多になる可能性が高い・・・。

 最近、いくつかのマスコミでこのようなことが主張されており、どうやらその根拠としているのは医学誌『BMJ Open』2015年7月23日号(オンライン版)に掲載された1つの論文(注1)のようです。

 この論文は、イングランド在住の50歳以上の男女9,251人が対象とされた研究に基づいています。きちんと読むと、決して「成功者」のリスクが高いと言っているわけではなく、もう少し細かく見ておいた方がいいでしょう。そこでこの論文の要旨をまとめておきたいと思います。

 まず、どの程度のアルコールを飲むと健康被害のリスクが生じるか、についてです。下記のように「単位」に基づいてまとめられています。3単位に相当するのが、ワインであればグラス1杯、ビールであれば1pint(約473mL)です。

・低リスク:男性は週に21単位以下、女性は週に14単位以下。
・中リスク:男性は週に22-50単位、女性は週に15-35単位。
・高リスク:男性は週に50単位以上、女性は週に35単位以上。

 どのような人で飲酒過多のリスクが高くなるかについては男女で差があります。

 女性の場合、興味深いことに「(仕事から)引退していること」「収入が高いこと」が飲酒過多のリスクとなっています。50歳をピークとして(49歳以下はこの研究では検討されていない)年をとるにつれてリスクは減少しています。また、介護を担っている人(原文では「caring responsibility」)はリスクが低いようです。

 男性は女性とは異なる点がいくつかあります。まず、年齢のリスクは50歳から上昇し、60代半ばがリスクのピークとなり、その後は減少していきます。独身者や離婚をしている場合はリスクが上昇しています。そして子供と同居している場合や孤独を感じている場合はリスクが減少する(意外!)としています。また、年をとり収入が減ればリスクも減少していくようです。

 興味深いことに、孤独感や抑うつ感(loneliness and depression)は男女とも飲酒過多とは無関係のようです。

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 いくつかの日本のマスコミが「成功者は飲酒過多になる」と報じたのは、この論文の一部を取り上げたからです。収入があれば外で飲酒することができますし、購入して家で飲むこともできますから、飲酒機会が増えるのは当然といえるでしょう。この研究では男女とも年をとり収入が減るにつれて飲酒量が減っていると述べています。

 さてこの研究全体をどう解釈するか、ですが、まずどこの文化にも同じことが当てはまるとは思わないことです。実際、論文の著者も「イングランド以外のイギリス(UK)では検討していない」ことをこの論文の限界と述べています。イングランドと他のイギリスの地域(スコットランド、ウエールズ、北アイルランド)でも差がでるでしょうが、日本との差はもっと大きいはずです。

 特に、この論文を読んで私が意外に思ったのが、男性の孤独感(loneliness)が飲酒過多のリスクを下げるとしていることです。独身者や離婚者は飲酒過多につながりやすいとしている一方で(これは理解できます)、リスクを下げる要因として、子供との同居(これも理解できます)の他に孤独感があげられているのです。そして、男女とも孤独感や抑うつ感は飲酒過多のリスクにはならないとされています。日本では孤独感や抑うつ感から飲酒に走る人は少なくありません。

 また、男女ともリタイヤ(退職)することがリスクにつながるとしており、この理由として著者らは「時間に余裕がある」ということを考えています。しかし、日本では仕事上での「つきあい」の飲酒も問題になります。

 私個人の見解を述べれば、あまり「〇〇の人は飲酒のリスクが高い」と考えるのでなく、週にどれくらい飲酒すれば健康被害を生じる可能性があるかをひとりひとりが主治医に相談すべき、ということです。特に先に述べた週に50単位(男性)35単位(女性)を超えている人は一度かかりつけ医と話をすべきでしょう。

注1:この論文のタイトルは「Socioeconomic determinants of risk of harmful alcohol drinking among people aged 50 or over in England」で、下記のURLで概要を読むことができます。

http://bmjopen.bmj.com/content/5/7/e007684.abstract?sid=13b88d12-f978-4bfd-820c-9504345d9862

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2015年9月28日 月曜日

2015年9月28日 「情け」をかければ社会不安障害が改善

「社会不安障害」という精神疾患をご存知でしょうか。「社会恐怖」とも呼ばれるもので、人から注目を浴びるかもしれないという状況のなかで生じます。

 軽症であれば、軽度の緊張感・不安感程度で済みますが、重症化してくると、顔面紅潮、手足の震え、声が出なくなる、発汗過多、胃痛・下痢などの身体の症状も伴うようになります。このため、精神科ではなく(当院のような)総合診療の医療機関を受診する患者さんが少なくありません。

 早めに相談してくれればいいのですが、なかには自分でなんとかしようと考え、アルコールに走る人がいます。そしてアルコール依存症、さらにうつ病を発症する人もいます。

 この疾患の生涯有病率は低くなく、米国のある調査では2.4~13.3%とされています。日本では1.4%とする報告があります。

 今回紹介したいのは「他人に親切にすれば社会不安障害が改善する」という研究です。医学誌『Motivation and Emotion』2015年6月5日号(オンライン版)に論文が掲載されています(注1)。

 この研究は、カナダ・ブリティッシュコロンビア州のサイモンフレーザー大学(SFU、Simon Fraser University)の研究者によりおこなわれています。社会不安障害の診断がついている学生115人が研究の対象者です。

 115人がランダムに3つのグループにわけられています。1つめのグループ(38人)は4週間にわたり「他人に親切にする」を実行しました。2つめのグループ(41人)は「寄付などの行為」(原文では「exposure only」とされています。おそらく他人とコミュニケーションをさほどとらない慈善行為のことを指しているのだと思われます)をおこないました。3つめのグループ(36人)は「日記を付ける」ことをおこないました。つまり3つめのグループは「対照群」です。

 その結果、1つめのグループと2つめのグループ共に、3つめのグループに比べて社会的交流を避けたいという気持ちが減少しました。特に1つめのグループ、つまり「他人に親切にする」を継続したグループでは社会不安障害の症状が大きく改善したようです。

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 太融寺町谷口医院に社会不安障害で受診される患者さんは社会人がほとんどです。最もよくあるのが「今度朝礼でスピーチをしなければならない・・・」とか「次の会議でプレゼンをしなければならない・・・」というケースです。

 こういったケースでは、一時的に不安を和らげる薬や心拍数をおさえる薬を本番の30分くらい前に内服してもらっています。これでうまくいくことが多いのですが、このような薬に頼る方法を繰り返すのもよくありません。

 2015年9月号の「マンスリー・レポート」で、私は「情けは人の為ならず」を実行すれば自分自身がお金に困らなくなり社会全体が理想的なものになる、ということを述べました。私個人の意見としては、社会不安障害がある人のみならず、すべての人が他人に親切にする社会をつくるべきだと考えています。

注1:この論文のタイトルは「Kindness reduces avoidance goals in socially anxious individuals」で、下記のURLで概要を読むことができます。

http://link.springer.com/article/10.1007/s11031-015-9499-5

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2015年9月4日 金曜日

2015年9月5日 立ちっぱなしも健康にNG?

「座りっぱなし」が生活習慣病の大きなリスクとなり、規則正しい生活を心がけようが定期的な有酸素運動をおこなおうがそのリスクが減るわけではないとする研究もある、という話を過去に何度かおこなってきました。

 ならば立ちながら仕事をすればいいのでは?となるわけで、私もそのように思っていたのですが、「立ちっぱなしの仕事が健康に被害をもたらす」という研究がでてきました。

 医学誌『Human Factors』2015年6月5日(オンライン版)に掲載された論文(注1)によりますと、1日5時間の立ちっぱなしの仕事をおこなうと下肢筋肉の疲労を引き起こし、腰痛や筋骨格障害のリスクが高まる可能性があるとしています。

 この研究はスイス連邦工科大学(ETH, Eidgenössische Technische Hochschule)の研究チームによっておこなわれています。対象者は男性14人、女性12人で、半分が18~30歳、残りの半分は50~65歳です。過去に神経障害や筋骨格障害がないことが条件で、前日の激しい運動は控えてもらっています。

 対象者全員に工場でおこなうような軽作業をシミュレートしてもらっています。5時間の立ちっぱなしの業務の間、何度かの5分間の休憩と30分の昼食休憩が設けられています。

 姿勢の安定と下肢の筋力を計測し、対象者には不快度を答えてもらっています。結果、年齢・性別にかかわらず、作業日の終了時に著しい疲労を感じていることがわかりました。

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 この研究、きちんとした医学誌に掲載されたこともあり興味を持ったのですが、対象者が少なく、長期間での検討がなされていません。日頃、立ちっぱなしになる習慣のない人が5時間も立ったままの仕事をやらされれば不快感を自覚するのは当然のことであり、日頃使っていない筋肉に負荷をかけることになるでしょうから、筋力低下が生じるのも十分理解できることです。

 座りっぱなしの危険性が指摘されるのは、生活習慣病のリスクが上昇するということ、食事や運動を改善させても座りっぱなしのリスクが軽減されない可能性があること、です。立ちっぱなしに健康被害があることを証明するには、長期間の観察が必要なのは当然であり、さらに一時的な筋肉の疲労などではなく(これらは慣れると改善する可能性が高い)、生活習慣病の罹患率や死亡率との関連を調べなければなりません。

 一方で、今回の論文では触れられていませんが、「下肢静脈瘤」が立ちっぱなしの仕事をしている人に多いのは自明です。つまり、立ったままじっとしていれば下肢にたどり着いた血液が戻りにくくなりうっ滞し、その結果下腿がむくみ心臓に戻れなくなった血液が静脈を太らせるようになるのです。これを解消するには、足踏みをする、(可能なら)そのあたりを動き回る、などの工夫が必要です。

 立ちっぱなしの健康被害を総まとめする必要がありそうです。

注1:この論文のタイトルは「Long-Term Muscle Fatigue After Standing Work」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://hfs.sagepub.com/content/early/2015/06/05/0018720815590293.abstract

参考:
メディカルエッセイ第129回(2013年10月)「危険な「座りっぱなし」」
医療ニュース
2014年8月22日「運動で「座りっぱなし」のリスクが減少する可能性」

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2015年9月4日 金曜日

2015年9月4日 電子タバコ、有害でなく禁煙補助にも有効?

 電子タバコ、どう思いますか?

 この質問を受けたとき私は「有害性も報告されていますし、禁煙ツールに使えるという話もあるようですが、それを示す証拠もないようですし、決して勧められるものではありません」と答えています。

 実際、米国FDA(食品医薬品局)も日本の厚生労働省も電子タバコの危険性を勧告しています。(下記医療ニュース参照)

 ところが、です。イギリスの保健省が「電子タバコの危険性は低く禁煙支援ツールになり得る」という発表を正式におこないました。2015年8月19日、同省の公式サイトに発表されています(注1)。

 同省のサイトによりますと、電子タバコは従来のタバコに比べて有害性が95%も低く、さらに禁煙ツールになるかもしれない(have the potential to help smokers quit smoking)と断言しているのです。

 この理由として、同省が調査した結果、従来のタバコが持っている有害な化学物質のほとんどが電子タバコには含まれていないことを挙げています。

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 この発表を読んだとき、私は、これは世界中で議論を呼んで大きな論争になるに違いないと感じました。ところが、実際はそうでもなく、日本も含めてメディアはあまり大きく取り上げていないようです。

 なぜいまひとつ注目されないのかは分かりませんが、イギリス保健省のこの発表は大変重要だと私は考えています。

 なぜなら、「禁煙ツールになる可能性がある」と断言しているからです。禁煙を始めたいという人には禁煙補助薬があり、保険適用もありますが、それでも安いわけではなく(とはいえタバコの値段よりは遙かに安いですが)、副作用もないわけではなく、飲み薬(チャンピックス)の場合はその間、車の運転をやめなければなりません。

 もしも電子タバコで禁煙できるとなると、費用は安いですし(高いものもあるようですが)、副作用はほとんどないでしょうし(イギリス保健省は従来のタバコに比べ95%も有害性がないといっているのですから)、運転もできますし、医療機関で実施する禁煙治療よりも先に試してみたいという人は少なくないでしょう。というより、禁煙を考えているほとんどの人が先に電子タバコを試すに違いありません。

 私は元喫煙者で現在は吸っていませんが、もしも禁煙を考えているときにこの記事を読んだとすれば電子タバコで禁煙を試みた思います。さらに、(従来のタバコの)禁煙が成功した後も、電子タバコを吸い続けることも考えるかもしれません。

 しかし、これまでの各国の調査から、有害性の高い電子タバコが存在するのもまた事実です。ということは、どの電子タバコが安全なのかを明らかにし、本当に禁煙ができるのかどうかを長期的な観点から検証していく必要があるでしょう。

注1:イギリス保健省のこのウェブサイト(GOV.UK)でこの発表を読むことができます。タイトルは「E-cigarettes around 95% less harmful than tobacco estimates landmark review」で、下記のURLで全文を読めます。

https://www.gov.uk/government/news/e-cigarettes-around-95-less-harmful-than-tobacco-estimates-landmark-review

参考:医療ニュース
2015年7月15日「電子タバコ、未成年には禁止すべきでは?」
2013年10月5日「電子タバコは本当に有効なのか」
2009年7月31日「「電子タバコ」はやはり危険!」
2008年9月26日「「電子タバコ」に要注意!」

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2015年8月28日 金曜日

2015年8月29日 睡眠薬使用者の自動車事故

 睡眠薬を使用している人は自動車事故を起こしやすい・・・。

 なんだ、当たり前じゃないか、と思いますが、これを主張している論文を読んで、私はある患者さんのことを思いだしました。そのことは後で述べるとして、まずはこの研究を簡単に紹介したいと思います。研究は医学誌『American Journal of Public Health』 2015年8月号(オンライン版)に掲載されました(注1)。

 米国シアトル大学の研究チームが合計409,171人のドライバーの調査をおこないました。対象者はワシントン州の運転免許証を2003年~2008年に取得し少なくとも1年間以上保持した21歳以上の成人です。自動車事故と下記の3つの睡眠・鎮静薬との関係が調べられています。結果は下記のとおりで、数字はその薬を使うことによって事故を起こすリスクがどれくらい上がるかを示しています。

・トラゾドン(商品名は「レスリン」「デジレル」「アンデプレ」) 1.91倍
・ゾルピデム(商品名は「マイスリー」「ゾルピデム」) 2.20倍
・temazepam(日本では未発売) 1.27倍

 研究チームは「睡眠薬の新たな使用が自動車事故のリスクに関連がある」と結論づけて、処方する医師は「睡眠薬使用の期間と運転のリスクを説明しなければならない」と述べています。

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 ゾルピデム(マイスリー)は、日本で最も処方されている睡眠薬の1種です。即効性がありかつ「短時間作用型」であることから、寝付きが悪いという人によく処方されます。「短時間型だから翌日に残ることもない」と言われています。

 ところが、今回の結果は自動車事故を起こすリスクが2.20倍と大きく上昇しています。さらに驚くのはここからです。睡眠薬の多くは「ベンゾジアゼピン系」と呼ばれるもので、ベンゾジアゼピン系薬剤は「依存性」と「反跳性」に注意しなければなりません。「反跳性」とは、以前にも増して不眠の程度が悪化することを言います。

 ゾルピデム(マイスリー)は、ベンゾジアゼピン受容体に結合することで作用しますが、ベンゾジアゼピンには入りません。そのため「非ベンゾジアゼピン系」と呼ばれます。ベンゾジアゼピンでないのだから安全性は高いのではないかという意見があるのですが、このデータをみると、安全ではないということになります。

 日本では発売されていませんが今回の研究に加えられたtemazepamはベンゾジアゼピン系です。そしてtemazepamのリスクはゾルピデムよりも低くなっています。ということは、非ベンゾジアゼピン系のゾルピデムはベンゾジアゼピン系睡眠薬よりもむしろ自動車事故のリスクが高いということになります。

 また、もうひとつ研究に加えられたトラゾドンは、睡眠薬として使用するのではなく、ある程度進行した「うつ病」に用いる薬剤です。ゾルピデム(マイスリー)は、このような進行したうつ病に用いる薬剤よりも自動車事故のリスクが高いということになります。

 以前、ゾルピデム(マイスリー)が原因で起こってしまった悲惨な事故(事件)について紹介しました(注2)。ただ、マイスリーばかりが否定的な情報で目立ちますが、注意しなければならない睡眠薬はもちろんマイスリーだけではありません。少なくともベンゾジアゼピン系睡眠薬はすべて注意が必要です。

 本文の冒頭で紹介した私が思い出した患者さんは「マイスリーはすぐに効果が切れるから翌日の運転は大丈夫。前の病院でも処方してくれたんだからここでも出してくれ」と何度も訴えました。私は、「自覚がないとしても判断力が落ちることもあるから運転は危険。運転する人には当院では処方できない」と言うと怒って帰って行きました・・・。

 当院の患者さんに対しては、ベンゾジアゼピン系を減らして、依存性や反跳性のない睡眠薬に切り替えていくよう助言しています。

注1:この論文のタイトルは「Sedative Hypnotic Medication Use and the Risk of Motor Vehicle Crash」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://ajph.aphapublications.org/doi/abs/10.2105/AJPH.2015.302723

注2:マイスリーが引き起こした事件(事故)については下記を参照ください。

はやりの病気第124回(2013年12月)「睡眠薬の恐怖」

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2015年8月28日 金曜日

2015年8月28日 コーヒーが悪性黒色腫を予防

 2~3年に一度程度でしょうか。「このホクロがガンではないかと思って受診しました」という患者さんが、短い期間に集中して受診されることがあり、この夏がそうでした。医師になりこの現象を何度か経験しましたが、これはまず間違いなく何かのテレビ番組で「ホクロと思っていたが実はガンだった。あなたは大丈夫ですか?」というようなものが放送されたからです。

 大半はガンではなく「ただのホクロ」なのですが、たしかに一部はガンが疑わしい症例があります。当院でいえば年間1人くらいはホクロに見えるガン、つまり「悪性黒色腫(マリグナント・メラノーマ)」が見つかります。

 カフェインおよびカフェイン入りコーヒーが悪性黒色腫のリスクを下げる・・・

 このような嬉しい研究結果が米国ハーバード大学の研究チームによって導かれました。医学誌『Epidemiology』2015年7月10日(オンライン版)に掲載されています(注1)。

 研究は過去に実施された3つの大規模研究を調べ直すかたちをとっています。3つの研究とは、①女性89,220人を対象とし1991~2009年に実施された「Nurses’ Health Study II」、②女性74,666人を対象とし1980~2009年に実施された「Nurses’ Health Study」、③男性39,424人を対象とし1986~2008年に実施された「Health Professionals Follow-up Study」です。

 調査機関中に合計2,254人に悪性黒色腫が発生しています。カフェイン摂取量と悪性黒色腫の発生リスクについて検討すると、カフェイン摂取が多いグループでは悪性黒色腫の発症率が有意に低い(0.78倍)という結果が出たようです。ただし性差があり、女性では0.70倍とよりリスクが低いのに対し、男性は0.94倍とそれほど差はでていません。

 悪性黒色腫は全身の皮膚のどこにでも発症します。今回の研究では部位ごとの検討もおこなわれています。コーヒーでリスクが下がったのは、頭部、首、四肢など露光部の悪性黒色腫であり、日光があたらない背中や腹部などではあまり差がなかったようです。

 また、この研究はカフェイン抜きのコーヒーとの関連性も調べられています。カフェイン抜きのコーヒーでは悪性黒色腫のリスクが下がらなかったようです。

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 コーヒーがメラニンの合成を抑制し「シミ」を抑制するということはしばしば指摘されることであり、このサイトでは日本の研究結果を紹介したことがあります(下記医療ニュース参照)。今回の研究で露光部の悪性黒色腫のリスクが特に低下するという結果がでたということは、「コーヒーが紫外線から肌を守る」ということを裏付けています。

 また、コーヒーが「基底細胞ガン」という皮膚ガンのリスクを下げるという研究もあります(下記医療ニュース参照)。基底細胞ガンのリスクもまた「長期間の日光暴露」です。

 紹介・報告が偏らないよう、コーヒーが健康に悪いという研究も紹介してきましたが(下記医療ニュース参照)、トータルでみればコーヒーがガンのリスクを下げ、生活習慣病の予防をおこない、皮膚にも好影響を与えるということはどうやら間違いなさそうです。

注1:この論文のタイトルは「Caffeine Intake, Coffee Consumption, and Risk of Cutaneous Malignant Melanoma.」で、下記のURLで概要を読むことができます。

http://journals.lww.com/epidem/Abstract/publishahead/Caffeine_Intake,_Coffee_Consumption,_and_Risk_of.99164.aspx

参考:

はやりの病気
第22回(2005年12月)「癌・糖尿病・高血圧の予防にコーヒーを!」
第30回(2006年4月)「コーヒー摂取で心筋梗塞!? 」

メディカルエッセイ
第105回(2011年10月)「お茶とコーヒーとチョコレート」

医療ニュース
2014年8月22日「コーヒーで顔のシミも減少」
2014年6月30日「コーヒーで基底細胞癌のリスクが43%も減少」
2013年9月2日「コーヒーの飲み過ぎで死亡リスク増加?」
2013年4月18日「コーヒーでも緑茶でも脳卒中のリスク低減」
2013年1月8日「コーヒーで口腔ガン・咽頭ガンの死亡リスク低下」
2012年10月1日「コーヒーは消化管疾患と無関係」
2008年9月13日「子宮体癌の予防にコーヒーを」
2007年9月3日「コーヒーは肝臓癌のリスクを下げる」

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

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