医療ニュース

2015年6月29日 月曜日

2015年6月30日 減らない「まつ毛エクステ」のトラブル

 太融寺町谷口医院は都心部に位置していることもあり、美容関係のトラブルに合ったという患者さんがしばしば受診されます。脱毛時の熱傷と並んで多いのがまつ毛エクステンション、「まつ毛エクステ」の被害です。

 2010年2月、独立行政法人国民生活センターはまつ毛エクステの被害が相次いでいることを発表し、当院の「医療ニュース」(下記参照)でも報告しました。

 同センターの発表でトラブルが減少することが期待されたのですが、危害はむしろ増加傾向にあるようです。

 2015年6月4日、同センターは「後を絶たない、まつ毛エクステンションの危害」と題した報告をおこないました(注1)。
 
 同センターによりますと、まつ毛エクステンションの施術を受けたことにより目が痛くなったなどの危害情報が2010年度以降599件に上り、毎年100件以上で推移しているそうです。

 まつ毛エクステは法的に「美容行為」であり、施術者には美容師の免許が必要です。しかし無免許の者が施術することがあるようで、警察庁によりますと、美容師法違反での検挙数、つまり無免許でまつ毛エクステを実施したことでの検挙数が2013年に18件、2014年は12件に上ります。

 同センターでは報告書のなかで次の呼びかけをおこなっています。

まつ毛エクステンションは美容行為であり、業として行うに当たっては美容師の免許が必要です。美容師ではない人が施術をしていると思われたら、最寄りの保健所や都道府県の衛生担当部署へ情報提供してください。

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 ちなみに法律では「美容師は、美容所以外の場所において、美容の業をしてはならない」と定められています。(美容師法第7条) またこの法律では美容所の開設には都道府県知事への届出が義務づけられています。(同法第11条)

 以前当院にまつ毛エクステのトラブルで受診された患者さんは、「施術を受けたエステティックサロンは美容室とはまったく違うし、届出しているとも思えない。エステティシャンが美容師の免許を持っていたとも思えない。そもそも危険性についても説明はまったくなかった」と話していました。

 ちなみにこの患者さんは、このトラブルを国民生活センターや保健所に届けていません。おそらく、同センターが報告としてあげている数字は「氷山の一角」で、実際にはこの何倍、何十倍の被害者がいるのでしょう。

 法律にはたしかに「かたちだけ」で現実的でないものもありますが、まつ毛エクステのトラブルは接触皮膚炎(かぶれ)や感染症(細菌性結膜炎)も多くあり、早期治療が必要な被害です。

 トラブルが生じた場合、責任は加害者にありますが、後遺症が残ってからでは遅すぎます。「自分の身は自分で守る」という原則を思い出し、国民生活センターが呼びかけている「美容師ではない人が施術をしていると思われたら、最寄りの保健所や都道府県の衛生担当部署へ情報提供してください」という忠告は覚えておくべきでしょう。

注1:国民生活センターのこの発表は下記URLで全文を読むことができます。

http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20150604_1.pdf

参考:医療ニュース2010年2月22日「まつ毛エクステのトラブルが急増」

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2015年6月29日 月曜日

2015年6月29日 ピーナッツアレルギー予防のコンセンサス

 ピーナッツアレルギーに対する考え方が変わってきている、ということを以前お伝えしました。(下記「医療ニュース」参照)

 以前の考え方では、妊娠中はナッツ類の摂取を避けて、出生後も早い段階でナッツを食べるべきでない、とされていましたが、これを完全に否定する研究が相次いで発表されました。つまり、母親は妊娠中にナッツを積極的に食べるべきで、出生後は、早期に積極的にナッツを食べさせた方がアレルギーが起こりにくいという考えが注目されているのです。

 従来のこととまったく正反対のことが主張されると当然混乱を招きます。「ピーナッツを食べるな!」が、一転して「早く食べろ!」となったわけですから、いわばコペルニクス的な展開です。

 現場の混乱を抑えることを目的として、世界のアレルギーに関する10の学会が共同でコンセンサスを発表しました(注1)。10の学会は、アメリカ、ヨーロッパ、カナダ、オーストラリアなどのアレルギー関連の大きな学会で、「日本アレルギー学会」もその1つに入っています。

 コンセンサスでは、最近の研究(注2)を引き合いに出し、重症の湿疹や卵アレルギーのある乳児が早期にピーナッツを摂取すると、ピーナッツアレルギーの発症を大幅に減らすことができるとしています。

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 このコンセンサスを受けて「すべての乳児がピーナッツを早期に食べる」のは危険です。この共同声明が引き合いに出しているのはLEAPと命名された大規模研究ですが、すべての乳児がピーナッツを食べてよい、と言っているわけでは決してありません。

 ピーナッツアレルギーというのは、一気に重症化する可能性もありますから、安易に食べさせると取り返しの付かないことになりかねません。ですから、すでにピーナッツアレルギーの可能性がある小児の親御さんは、まず主治医に相談すべきです。

 ピーナッツアレルギーかどうかを知りたいので血液検査をしてほしい、という依頼がときどきありますが、血液検査のデータは、特に小児の場合はあくまでも「参考」です。問診及び食物負荷試験(入院してもらい実際にピーナッツを摂取してもらう試験)が必要になります(注3)。

 今回のコンセンサスとこれまでの研究などから考えて現段階で言えることは次のとおりです。

・母親にピーナッツアレルギーがなければ妊娠中にピーナッツを積極的に食べて問題ない。

・乳児自身にアレルギー疾患を疑うエピソードがなければ早期にピーナッツを積極的に摂取してもよい。(むしろ積極的に摂取すべき)

・何らかのアレルギー疾患を有している小児は、ピーナッツを摂取すべきかどうかまず主治医に相談すべき。

 また、このサイトで過去に何度か紹介している「Dual Allergen Exposure Hypothesis」(2通りのアレルギー曝露仮説)を考慮すると、次の2つも重要です(注4)。

・湿疹や傷があった場合、保湿をしっかりおこなうなどして、ピーナッツのエキスが皮膚に触れないようにしなければならない。

・ピーナッツオイルを皮膚に塗るべきではない
 
 ピーナッツアレルギーはいったん発症すると治りにくく、重症化しやすく、アーモンドやカシューナッツなど他のナッツ類なども食べられなくなることもあります。一方では、ナッツ類は非常にすぐれた健康食でありますから、できることなら何としてでもアレルギーは避けたいものです。

 乳児期のピーナッツアレルギー対策がその後の人生に大きな影響を与えると言っても過言ではないでしょう。

注1:このコンセンサスは下記URLで全文を読むことができます。

http://www.jacionline.org/pb/assets/raw/Health%20Advance/journals/ymai/Consensus_Communication_Submission_Unmarked.pdf

また日本アレルギー学会のサイトにも和文で掲載されています。

http://www.jsaweb.jp/modules/news_topics/index.php?page=article&storyid=232

注2:このコンセンサスで最も重視している研究の概要は下記URLで参照することができます。

http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1414850

注3:入院施設のない医療機関ではこの試験はできませんし、実施できる医療機関は現時点で多くなく今後対応できる病院が増えることが望まれます。太融寺町谷口医院では、アレルギー検査については現在は成人のみを対象としています。

注4:これについて詳しくは下記「メディカルエッセイ」を参照ください。

参考:
メディカルエッセイ第136回(2014年5月)「免疫学の新しい理論」
医療ニュース(2015年3月30日)「変わってきたピーナッツアレルギーの予防」

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2015年6月5日 金曜日

2015年6月6日 フェイスブックで「うつ」になる理由とは

 フェイスブックのサービスが「うつ」を誘発する・・・

 このようなユニークな研究が医学誌『Journal of Social and Clinical Psychology』に掲載されました(注1)。

 なぜ、フェイスブックでうつになるのでしょうか。論文のタイトルがその答えを物語っています。そのタイトルとは、「Seeing Everyone Else’s Highlight Reels: How Facebook Usage is Linked to Depressive Symptoms」、日本語にすると「フェイスブックでうつ状態になるのは他人のいいところを見るから」くらいになるでしょうか。

 ここで興味深いのが、「他人」という表現が「someone else」でなく「everyone else」が使われていることです。おそらく、フェイスブックで他人の情報をみていると、自分以外の「他人全員」に何やら素敵なことが次々と起こり、自分だけが取り残されているという感覚になることを差しているのでしょう。

 Highlight reelsという表現も、ワクワクすること、ドキドキすること、素敵なことなどが、あたかも釣り糸に次々とかかってくるようなイメージを伴います。

 この論文の執筆者は米国ヒューストン大学のMai-Ly Steers氏です。氏は、研究によりうつ状態とフェイスブックの長時間の利用に相関があるとしています。その理由として、通常なら知ることのできなかったプライベートな情報が入ってくることで他人と自分を比較する機会が増える、といったことを指摘しています。

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 この研究についてはヒューストン大学のホームページでも別の学者(著者の指導者でしょうか)により紹介されており、こちらの方がオリジナルの論文を読むよりもわかりやすくまとめられています(注2)。

 私自身はフェイスブックをしていませんが、している友達に少し見せてもらったことが何度かあります。きれいな写真と共に近況報告がなされているわけですが、この論文を読んだときに、そういえば自慢話のようなものが多いな、ということを思い出しました。実際、この論文の著者も、フェイスブックへの投稿は悪いことは取り上げずに良いことを選択する傾向にある、といったことを述べています。

 他人の近況なんか無視すればいいんじゃないの?、と私などは思ってしまいますが、たしかに他人の行動が気になって仕方がない、他人と比較せずにはいられない、という人が多いのは事実です(注3)。私はこのような性格の者は、アメリカ人よりも日本人に多いのではないかと思っていたのですが、この研究はアメリカでおこなわれたものです。日本ではアメリカ以上に、「フェイスブックで他人と比較してうつ状態」が多いのではないでしょうか。

注1:この論文のタイトルは「Seeing Everyone Else’s Highlight Reels: How Facebook Usage is Linked to Depressive Symptoms」で、下記URLで全文(PDF)を読むことができます。

http://guilfordjournals.com/doi/pdf/10.1521/jscp.2014.33.8.701

注2:このニュースのタイトルは「UH Study Links Facebook Use to Depressive Symptoms」で、下記URLで全文を読むことができます。

http://www.uh.edu/news-events/stories/2015/April/040415FaceookStudy

注3:他人のことを気にしない、という考えに興味のある方は下記コラムも参照ください。

マンスリーレポート2015年3月号「競争しない、という生き方」

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2015年6月5日 金曜日

2015年6月5日 12歳アイドル、ヘリウム吸引意識障害報道の”誤解”

 テレビ番組の収録中に、12歳のアイドルが声が変わるヘリウムガス入りスプレーを吸い込んで意識消失で救急搬送された、という事件が数ヶ月前にありました。

 2015年5月22日、日本小児科学会は事故の発生状況や治療経過をまとめ、同学会のウェブサイトに掲載しました(注1)。

 これを受けて、一般のマスコミやネット上でもこのことが話題になっているようですが、どうも問題点がずれているように思えてなりません。この”ズレ”をここで指摘したいと思いますが、まずは事故(事件)の経過を振り返ってみましょう。

 2015年1月28日、12歳の女子アイドルは、ヘリウムガス入りのスプレー缶(ヘリウム80%、酸素20%)を吸入しました。アイドルは吸引後に右手を震わせその後後方に倒れ、後頭部強打により痙攣(けいれん)を起こしたそうです。救急車が到着した頃には意識障害と低酸素血症が出現しており、搬送先の病院ではICU(集中治療室)に入ったようです。精査の結果、意識障害は「脳空気塞栓症」といって脳の血管に空気が入り込んだことが原因であることが判明しました。2015年2月5日の時点では、高次脳機能障害を残す可能性が指摘されています。

 この事件の報道をみていると、目に付くのが「ヘリウムが危険」という主張です。一部の報道では(小児用でなく)成人用のスプレー缶が使用されたことが問題だとされています。

 しかし「ヘリウムが危険」というのは誤解です。ヘリウムは空気より軽いことから風船を膨らませるときに用いられていますがヘリウム自体に有毒性はほとんどありません。

 ここでややこしいのは、たしかにヘリウムが「自殺」に使われることがあるからです。ただし、ヘリウムで自殺できるのは、ヘリウムに毒性があるからではなく、頭からビニール袋をかぶってヘリウムをその袋に送り続ければ低酸素状態になるからです。低酸素が進行すると意識混濁となり、やがて死に至ります。

 日本ではあまり報じられませんが(あえて報道していないのかもしれませんが)、海外では、ホテルにヘリウムガスを持ちこんで自殺した、というニュースがときどき報道されています。例えば2014年10月にはチェンマイのホテルでイギリス人の62歳の男性旅行客がこの方法で自殺したことがタイの現地新聞で報道されました。

 ですから、「ヘリウム=自殺のツール」「12歳の少女がヘリウムで意識消失」とくれば、「ヘリウム=危険」と考えてしまうのも無理もないかもしれません。しかしこれは正確ではありません。

 精査の結果、脳空気塞栓症が確認されたということは、スプレー缶を吸うときに強く吸い込み過ぎたことが原因です。つまり、スプレーの中身がただの空気であったとしても同様のことは起こりうるのです。

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 実は私がこの事件を初めて知ったのは日本のマスコミではなく、タイの英字新聞『The Nation』です(注2)。記事のタイトルは「日本のテレビ番組でヘリウム吸入後に子供の歌手(child singer)が意識消失(coma)」とされています。

 この記事を読んで私が最も驚いたのは、記者は完全に日本のテレビをバカにしているということです。その部分を日本語訳してみると次のようになります。

 日本のテレビ番組のサイケデリックな幼稚な世界では、ほとんどがたいして才能のない有名人たちが危険で恥辱的なことで競っている・・・。

 サイケデリックという単語は、芸術を語るときにはいい意味で使われることが多いですが、ここでは否定的な使い方をされています。また、この記事では2012年に日本のタレントがプールに飛び込んで背中を骨折した事故が引き合いに出されています。

 これは極めて私的な意見ですが、私が個人的に付き合いのあるタイ人はほぼ全員が日本人を尊敬してくれています。日本製品の素晴らしさや日本人の勤勉さを称賛するだけでなく、多くのタイ人は日本のアニメが大好きで日本の文化にも一目を置いてくれています。日本で桜と雪を見るのが夢、という話をこれまでどれだけ聞いたことか・・・。

 そのタイの新聞で、日本のテレビ番組が蔑まれていることが私には大変複雑です。

 日本のマスコミはこの番組をつくった制作会社を非難するのではなく、自分たちがつくっている番組も海外から卑下されるようなものではないかどうか今一度見直してもらいたいと思います。

注1:日本小児科学会の発表は下記URLで全文を読むことができます。

http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/injuryalert/0053.pdf

注2:『The Nation』のこの記事は下記URLで全文を読むことができます。

http://www.nationmultimedia.com/breakingnews/Child-singer-in-coma-after-inhaling-helium-on-Japa-30253469.html

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2015年5月29日 金曜日

5月29日 座りっぱなしの危険性は1時間に2分の歩行で解消?

 なぜか日本のマスコミはあまり報道しませんが、海外(特にアメリカ)ではここ数年、「座りっぱなし」のリスクがよく取り上げられています。以前にも紹介しましたが(下記「メディカル・エッセイ参照)、「座りっぱなし」の生活は、高血圧や糖尿病のリスクを上げ、死亡率も上昇させることが指摘されています。

 しかもやっかいなことに、この「座りっぱなし」のリスクは、定期的な運動をしていても下がるわけではなく、その運動の健康へのベネフィットを帳消しにするとされているのです。(もっとも、運動をすることにより座りっぱなしのリスクを軽減するという研究もあります。下記「医療ニュース」を参照ください)

 歩行など軽度な活動を1時間に2分間おこなうと「座りっぱなし」のリスクが解消される・・・

 このような研究結果が医学誌『Clinical Journal of the American Society of Nephrology』2015年4月号(オンライン版)に掲載されました(注1)。

 米国ユタ大学の研究者によっておこなわれたこの調査は、3,623人(うち383人は慢性腎臓病)を対象としています。

 分析した結果、ただ単に立っているだけでは効果がないものの、激しい運動をしなくても、歩行などの軽度の運動を1時間に2分間おこなうと座りっぱなしのリスクを軽減できることが判ったそうです。

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 1時間にわずか2分でいいなら、仕事中に少し遠回りしてトイレに行くとか、別の部署に行くのに階段を使うとか、そういった工夫でできそうです。

 しかし、この研究は、1時間に2分の歩行で「十分」と言っているわけではありません。定期的な運動が必要であることは自明ですし、また、この研究がすべてではありません。

「座りっぱなし」については、どれだけ座れば何がどれだけのリスクなのかということは不明な点が多いですし、また運動をしてもリスクは下がらないのか、ある程度は下がるのか、下がるとすればどの疾患がどの程度下がるのかについてなどよく分からないことが多いと言えます。また、被験者に長時間何日間も座りっぱなしを維持させるのも困難でしょうから、大規模比較試験をおこなうというのも現実的ではありません。

 現時点で言えることは、日々定期的な運動をおこなうこと(毎日が望ましいですが、週あたりで考えてもいいと思います)、できるだけ座りっぱなしを避けて休憩をこまめにとる、ということでしょう。

 可能なら、立ったまま仕事ができれば尚いいと思います。アメリカの映画に出てくるような、ノートパソコンが置かれたバーカウンターだけがあって従来の机や椅子がないようなオフィスが望ましいのかもしれません。

注1:この論文のタイトルは「Light-Intensity Physical Activities and Mortality in the United States General Population and CKD Subpopulation」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://cjasn.asnjournals.org/content/early/2015/04/29/CJN.08410814.abstract?sid=1a7f9a7c-7677-49d5-afcd-51bb8b8a561a

参照:
メディカルエッセイ第129回(2013年10月)「危険な「座りっぱなし」」
医療ニュース(2014年8月22日)「運動で「座りっぱなし」のリスクが減少する可能性」

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2015年5月15日 金曜日

2015年5月15日 リベリア、エボラは終息するもコンドームは永遠に

  2015年5月9日、WHO(世界保健機関)はリベリアにおけるエボラ出血熱流行の終息を宣言しました。同国では今回の流行で合計10,564人が感染し、そのうち4,716人が死亡しています。3月27日に最後の感染者が死亡し、その後42日間が経過しても新たな感染者の報告がなかったために終息したと判断されました。

 このリベリアの終息宣言については外務省のウェブサイトにも掲載されていますし、マスコミでも報道されました。しかし、日本のマスコミはほとんど報じていないものの、このリベリアでの<最後の死亡者>で注目すべきことがあります。

 2015年3月28日の『New York Times』によると、リベリア政府は、エボラ出血熱ウイルスに感染して治癒した男性全員が性交渉においてコンドームを「永遠に」着用しなければならない、という通達を出したのです(注1)。(「永遠に」は原文ではIndefinitelyです)

 同紙によると、リベリアで3月27日に死亡したのは44歳の女性で、診断がついたのは3月19日です。エボラ出血熱ウイルスの潜伏期間は最長21日であり、感染したのは2月26日以降ということになります。感染源はパートナーからとしか考えられず、そのパートナー(男性)はそこからみて3ヶ月前に「完治」しています。

 研究者は、このパートナーの男性の精液を分析しウイルスを検出したようです。ウイルスは精液のなかではかなり長期で生息することが判り、リベリア政府は「永遠に」コンドームを使用することを義務づけたのです。

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 エボラ出血熱ウイルスの感染力は強く、世界中から支援に集まった複数の医療者も治療行為を通して感染しています。

 2015年5月10日には、イタリアの人道支援のNGOに所属しているイタリア人男性がエボラ出血熱を発症し現在入院治療を受けているそうです。この男性も回復後「永遠に」コンドームを装着しなければならない、ということになるでしょう。精液からウイルスを完全に除去する技術が確立されない限りは、この男性は生涯出産を諦めなければならなくなります。

注1:『New York Times』のこの記事のタイトルは「Liberia Recommends Ebola Survivors Practice Safe Sex Indefinitely」で、下記URLで読むことができます。
http://www.nytimes.com/2015/03/29/world/africa/indefinite-safe-sex-urged-for-liberia-ebola-survivors.html?_r=0

参考:はやりの病気第132回(2014年8月)「エボラ出血熱の謎」

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2015年5月9日 土曜日

2015年5月9日 脳振盪に対するNFLの和解額が10億ドルに

 「はやりの病気」第137回(2015年1月)で紹介したように、「慢性外傷性脳症(chronic traumatic encephalopathy)」(以下CTE)と呼ばれる疾患がアメリカンフットボールなどのコンタクトスポーツの選手に生じ、うつ病、アルツハイマー病など精神疾患を発症、さらには自殺にまでいたる例が相次いでいる、という話を紹介しました。

 アメリカの報道によれば、2013年8月時点でNFL(ナショナル・フットボール・リーグ)に対する「脳振盪訴訟」の原告となった元プレイヤーは約4,500人、賠償総額約7億6,500万ドルで和解成立、とされていましたが、これからさらに動きがあったようです。

 2015年4月22日、NFLが総額10億ドル(約1,200億円)を支払うことで和解した、という記事が「The New York Times」により報道されました。

 この記事によれば現在原告は5千人以上とされており、2013年の時点よりも増加しています。脳振盪が原因で引退した選手は2万人いるとする説もあり、今後も原告が増える可能性もあるとみられています。

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 一部の報道では、今後このような訴訟がアメリカンフットボールだけでなく、NHL(ナショナル・アイスホッケー・リーグ)などにも及ぶであろうとされています。

 下記「はやりの病気」でも述べましたが、脳振盪後にCTEを発症し、うつ病、アルツハイマー病などに苦しんでいる元選手は、野球選手や格闘技の選手にもいます。

 今のところ、日本ではこのことを詳しく取り上げているメディアは見当たりませんし、(なぜか)医師の間でもあまり取り上げられないのですが、私自身はそれぞれのスポーツがどの程度の危険性があるのかをきちんと検証すべき、それも可及的速やかに検証し公表すべき、と考えています。

 オバマ大統領は「もし自分に息子がいたとすれば、フットボールの選手にはさせない」と発言しているのです。

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参考:はやりの病気第137回「脳振盪の誤解~慢性外傷性脳症(CTE)の恐怖~」

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2015年5月9日 土曜日

2015年5月8日 バンコクの飼い犬の4割が狂犬病のリスク

   ゴールデンウィークにタイを訪れた人も少なくないと思いますが、動物に咬まれるということはなかったでしょうか。タイの英字新聞『The Nation』2015年4月23日(オンライン版)に興味深い記事が掲載されました(注1)。バンコクの飼い犬の4割が狂犬病のリスクがあるという報告が当局よりおこなわれたのです。

 記事によりますと、現在バンコクには60万匹の飼い犬がいて、さらに約10万匹の野良犬が生息しているそうです。

 当局は、WHOが2020年までに狂犬病を撲滅することを目標としていることを引き合いに出し、犬や猫を飼っている人はワクチン接種をさせるように呼びかけています。

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 タイは一時期日本からの渡航者が減少しましたが、最近は再び増加に転じており、2015年1~3月は、毎月12万人前後の日本人が訪タイしています。(前年同月でみると2月は32%の増加、3月は16%の増加です)

 タイに一度でも行ったことのある人なら分かると思いますが、道ばたに犬がだらしなくねそべっている光景はとても印象的です。日本では、犬といえば几帳面で働き者というイメージがありますが、タイではだらしない生き物の代表のように思えます。(これを日本人とタイ人の国民性になぞらえて語る人は少なくありません。タイ人には失礼ですが・・・)

 その昼間はだらしなく寝そべっている犬たちは夜になると豹変します。私は以前、バンコク近郊のある県で車に乗っているときに大型の犬3匹に囲まれ吠えられたことがあります。このときは車の中にいましたから咬まれる可能性はなかったわけですが、それでもいくらかの恐怖を覚え、そして昼間のだらしなさとのギャップに驚かされました。

 飼い犬の4割に狂犬病のリスクがあるということは、野良犬の場合は、ほとんどがウイルスを持っていると考えて行動すべきでしょう。

 もちろん狂犬病に気をつけなければならないのはタイだけではありません。日本、英国、豪州以外のほとんどの国ではリスクがあります。海外渡航の前に(可能なら)ワクチン接種をしておくべきです。ワクチンをうっていない場合は、充分動物に気をつけて、もしも咬まれた場合は速やかに医療機関を受診しなければなりません。

注1:この記事のタイトルは「Bangkok pet owners warned of rabies danger」で、下記URLで本文を読むことができます。
http://www.nationmultimedia.com/national/Bangkok-pet-owners-warned-of-rabies-danger-30258549.html

参考:
はやりの病気第130回(2014年6月)「渡航者は狂犬病のワクチンを」
はやりの病気第40回(2006年12月)「狂犬病」
医療ニュース2015年4月27日「バリ島の狂犬病対策の是非」

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2015年4月28日 火曜日

2015年4月28日 糖尿病は不眠の原因、まず早起きを

  不眠が生活の質を低下させ生活習慣病の原因にもなる、ということは過去に述べたことがあります。(下記「はやりの病気」を参照ください) 今回ご紹介したいのはその逆で、「糖尿病が悪化すると不眠になる」とするものです。医学誌『PLOS ONE』2015年4月14日号(オンライン版)に掲載された研究(注1)で、大阪市立大学が実施しています。

 大阪市立大学医学部附属病院に糖尿病で入院した63人の脳波を測定したところ、血糖値が悪化すればするほど良質な睡眠がとれないことが判ったそうです。また、良質な睡眠がとれていない被検者では、早朝の血圧が高い傾向にあることも判ったそうです。

 睡眠と糖尿病の関係で興味深い研究が韓国から報告されましたのでそちらも紹介したいと思います。

 医学誌『The Journal of clinical endocrinology and metabolism』2015年4月1日号(オンライン版)(注2)によりますと、睡眠時間が同じであるとき、「夜更かし型」の人は「早起き型」の人よりも糖尿病やその他生活習慣病を発症しやすいそうです。

 この研究は、47~59歳の韓国人約1,000人が対象とされています。「夜更かし型」の人は体脂肪率が高くメタボリックシンドロームに罹患しやすいことが判ったそうです。また、興味深いことに、「夜更かし型」の人は、脂肪率が上昇するのみならず、筋肉量も減少することが判ったようです。

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 良質な睡眠がとれなくなれば、血圧も上昇し、さらに血糖コントロールも悪くなるはずです。つまり、血糖コントロール不良 → 不眠 → さらに血糖値上昇+他の生活習慣病のリスク上昇、と悪循環になるわけです。

 大阪市立大学の研究から言えることは、糖尿病の人は不眠も治しましょう、ということになるわけですが、単に、では睡眠薬を飲みましょう、で解決するわけではありません。

 まず、不眠の原因は何と何なのか、それぞれの原因に対して(薬を使わずに)対処できることはないのか、生活習慣の何を改めればいいのか、などを個別に検討していく必要があります。これらは、医師が診察をしてすぐに答えが見つかるわけではありません。患者さん自身が日頃から不眠について考える必要があると言えるでしょう。

 韓国の研究と合わせて考えれば、日頃から、早起きの習慣を身につけるのが賢明といえます。仕事の内容などから、どうしても夜更かし型にならざるを得ないという人もいますが(特に「物書き」の人はこのパターンが多い)、可能な限り、早起き型にシフトすべきと私は考えています。以前にも述べましたが、私が提唱している健康を維持するためにおこなうべき「3つのenjoy」のひとつが「Early-morning waking up」、つまり「早起き」です。これは「早寝・早起き」ではなく「早起き・早寝」です。(下記2つのコラムも参照ください)

注1:この論文のタイトルは「Association between Poor Glycemic Control, Impaired Sleep Quality, and Increased Arterial Thickening in Type 2 Diabetic Patients」で、下記URLで全文を読むことができます。
http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0122521

注2:この論文のタイトルは「Evening chronotype is associated with metabolic disorders and body composition in middle-aged adults.」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://press.endocrine.org/doi/pdf/10.1210/jc.2014-3754

参考:
はやりの病気第139回(2015年3月)「不眠症の克服~「早起き早寝」と眠れない職業トップ3~」
メディカルエッセイ第129回(2013年10月)「危険な「座りっぱなし」」

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2015年4月27日 月曜日

2015年4月27日 バリ島の狂犬病対策の是非

  現在バリ島では犬をめぐっての議論が白熱しているようです。

 きっかけは2015年1月27日、10歳のオーストラリアの女子が一匹の犬に噛まれたことです。幸いなことにこの犬は地元の動物保護団体が狂犬病ワクチンを事前に接種しており、この少女は軽い怪我を負っただけで大事には至りませんでした。

 しかし、この事故の2日後にバリ州の知事が「野良犬をすべて殺す」との発言をメディアの前でおこないこれが物議を醸しています(注1)。

 バリ島にはおよそ50万匹の野良犬がいると試算されています。

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 少女は助かったわけですし、少女に噛みついた犬も狂犬病ワクチンを接種していたのになぜ?、と感じますが、知事がこのような発言をおこなったのには理由があります。

 狂犬病はバリ島では以前から問題になっていましたが、近年は特に顕著で2008年以降でみると150人以上が狂犬病で死亡しています(注2)。外国人が犬に噛まれる事例も相次いでいるようです。知事の立場からすると、「観光」が税収の大部分を住めるバリ島で、観光客が遠ざかることを避けたかったのでしょう。

 しかし、50万匹もの野良犬を一掃せよ、となれば当然世界中の動物保護団体から反対意見が出ますし、ヒンドゥー教徒や仏教徒はイヌを大切にしますから地元の一般人からも批判されているようです。(インドネシアで最大多数の宗教はイスラム教で、イスラム教徒は犬を嫌いますが、バリ島ではヒンドゥー教徒と仏教徒が大部分を占めます)

 ゴールデンウィークにバリ島に旅行に出かけるという人も少なくないと思います。狂犬病ワクチンを接種していない人は、現地では動物に咬まれないように注意して(狂犬病ウイルスを持っているのは犬だけではありません)、もしも咬まれたら直ちに現地の医療機関を受診するようにしてください。(狂犬病ワクチンは感染してからでも効果が期待できます)

 尚、個人的な体験を付記しておくと、私はアジアのある島で早朝にジョギングをしているときに野良犬に囲まれて大変恐い思いをした経験があります。島でジョギングするときはたいてい海沿いを走るのですが、その日私は山道を走っていました。犬の鳴き声が聞こえてきた1~2分後には5~6匹の犬に囲まれてしまっていました。手に持ち替えたバックパックで比較的身体の小さな犬を振り払いながらそこを抜けだし全速力で疾走し事なきをえましたが、100メートル以上も複数の野良犬に追いかけられているときは本当に恐怖でした。私は狂犬病ワクチンを接種していますが、もしも接種していなかったらあの恐怖は何倍にもなっていたに違いありません。

 狂犬病ワクチンを接種している人も野良犬がいそうなところには近づかないのが賢明です。

注1:『The New York Times』が報道しています。記事のタイトルは「Beach Dogs, a Bitten Girl and a Roiling Debate in Bali」で、下記URLで記事が読めます。野良犬を捕獲している写真も掲載されています。
http://www.nytimes.com/2015/03/05/world/beach-dogs-a-bitten-girl-and-a-roiling-debate-in-bali.html?_r=0

注2:財デンパサール日本国総領事館のウェブサイトに記載があります。下記URLを参照ください。
http://www.denpasar.id.emb-japan.go.jp/japan/04_02safe.html

また、下記は同領事館の「安全対策情報等:2015年4月」です。狂犬病についての記載もあります。
http://bali.vc/press/201504

参考:はやりの病気第130回(2014年6月)「渡航者は狂犬病のワクチンを」

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

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