医療ニュース

2017年5月11日 木曜日

2017年5月11日 白ワインは女性の酒さのリスク 

 医療者からみると「よくある疾患」なのに、あまりメディアなどでは取り上げられず知名度の低い皮膚疾患のひとつが「酒さ」です。酒さは顔面にできる慢性の炎症性疾患で治療に難渋することがしばしばあります。

 ほとんどの患者さんは「なんでこんな病気になったのですか?」と尋ねます。遺伝的な要因を除外すれば、私の印象でいえば、一番多いのがステロイドの不適切な使用、二番目が紫外線です。飲酒が原因や悪化因子になるのもほぼ間違いありません。どのようなお酒がいけないのかについてははっきりしたことは分かっていませんが「ワイン」という説が有力です。

 女性のアルコール摂取は酒さの発症因子。なかでも白ワインのリスクが高い…。

 医学誌『Journal of the American Academy of Dermatology』 2017年4月1日号(オンライン版)にこのような研究が報告されました(注1)。

 この研究の対象者は「看護師健康調査II」(Nurses’ Health Study II)と呼ばれる調査に参加した82,737人の女性で、追跡期間は14年(1991~2005年)、4年ごとに飲酒に関する情報が収集されています。追跡期間中4,945人が新たに酒さを発症しました。

 酒さの発症とアルコール摂取量には相関関係がありました。1日あたり1-4グラムのアルコール摂取で酒さの発症リスクが1.12倍に上昇、30グラムだと1.53倍にもなっていました。アルコールの種類で分類してみると、白ワインのリスクが最も高いことがわかりました。

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 アルコール30グラムというのは、ビールなら大瓶1本、日本酒なら1.5合、ワインならグラスに2杯強といったところです。

 男性についても大酒飲みが酒さになるのはおそらく間違いありませんが、今回の研究は女性のみを対象としたものであり、この程度の飲酒が男性でもリスクになるのかどうかは分かりません。

 また、しっかりとした確証はないものの、赤ワインは酒さの(発症ではなく)「悪化」のリスクという説があります。

注1:この論文のタイトルは「Alcohol intake and risk of rosacea in US women」で、下記URLで概要が読めます。

http://www.eblue.org/article/S0190-9622(17)30292-X/fulltext

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2017年5月11日 木曜日

2017年5月10日 スタチンで糖尿病患者の下肢切断リスクが低下

 ここ数年「スタチン」と呼ばれるコレステロールの薬が話題になることが増えてきました。その理由はおもに2つあります。

 1つは、2010年9月に日本脂質栄養学会が「コレステロールは下げる必要がない」といった内容の発表をおこなったことです。このときマスコミは「コレステロールは高いほど長生きする」といった報道をおこない随分と物議を醸しました。コレステロール値は下げるべきか下げなくていいのか、実はこの論争は今も続いており、日本脂質栄養学会は「下げるべきでない」という考えを今も変えていません。一方、日本動脈学会をはじめとするいくつかの大きな学会や日本医師会は従来どおりの基準を守るべき、つまり高ければ治療すべき、という考えです。(このあたりの詳細は過去のコラム(注1)を参照ください)

 もうひとつ、スタチンが話題になるのは「スタチンを内服することにより糖尿病のリスクが上昇する」と言われだしたからです。フィンランドの大規模調査ではっきりと有意差をもってこれが実証され、使用に慎重さが求められるようになりました。ただし、スタチンの種類にもより、例えばプラバスタチンは逆に糖尿病のリスクが3割も下がるという調査もあります。(詳細は過去のコラム(注2)を参照ください)

 問題なのは、自分自身の判断でこれまで処方されていたスタチンを勝手にやめてしまう患者さんがいることです。病気や薬というのは、それほど単純なものではなく週刊誌の報道をみて自分で中止したり開始したりすべきではありません。医師で意見が異なることがあるのは事実ですが、例えば「LDLコレステロールが〇〇mg/dL以上ならこのスタチンを開始すべき」と簡単に決められるわけではありません。その人の年齢、性別、体重、運動度、ライフスタイル、他の疾患の有無などを考慮して総合的に判断します。

 私は過去のコラム(注2)で、スタチンはまず使うならプラバスタチンがいいということを述べましたが、盲目的にプラバスタチンを処方しているわけではありません。患者さんごとにどのスタチンが最も適しているかを判断する必要があるのです。

 今回お伝えしたい情報は「スタチンの使用で糖尿病患者の下肢切断リスクが低下する」という研究です(注3)。糖尿病が進行すると下肢の血行が不良となり、切断せざるを得なくなります。このようなことはなんとしても避けなければなりませんから、血糖コントロールは非常に重要です。そして、糖尿病がある人の多くが高コレステロール血症ももっています。そのときに「糖尿病が怖いから」という理由でスタチンを自分の判断で中止するようなことがあってはいけません。今回の研究はむしろスタチンを内服することによって糖尿病の合併症を防げるとしています。

 研究は台湾のものです。対象者は台湾在住で糖尿病と末梢動脈疾患を有する20歳以上の69,332人です。スタチン使用者が11,409人、スタチン以外の脂質低下薬使用者が4,430人、非使用者が53,493人です。

 データベースを用いて解析した結果、スタチン使用者は非使用者に比べ、下肢を切断するリスクが25%、院内心血管死亡率が22%、全死因死亡率が27%低かったことが判りました。

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 糖尿病がある場合、LDLコレステロールの基準を低くするのが基本です。糖尿病も高血圧も肥満も喫煙も他のリスクもない場合、少々基準値を超えていてもスタチンの処方は必ずしも必要ありませんが、糖尿病があれば(もちろんその程度にもよりますが)LDLコレステロールの基準をかなり厳しくすることもあります。

 結論としては、自分の判断で薬を中止するのではなく「スタチンを含めて現在の内服薬がなぜ必要か」について納得いくまで主治医と話をすることです。

注1:メディカルエッセイ第101回(2011年6月)「過熱するコレステロール論争」

注2:医療ニュース2015年4月6日「スタチンは糖尿病のリスク、使うならプラバスタチン」

注3:この論文のタイトルは「Statin therapy reduces future risk of lower limb amputation in patient with diabetes and peripheral artery disease」で、下記URLで概要を読むことができます。

https://academic.oup.com/jcem/article-abstract/doi/10.1210/jc.2016-3717/3111243/Statin-therapy-reduces-future-risk-of-lower-limb?redirectedFrom=fulltext

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2017年4月28日 金曜日

2017年4月28日 抗菌薬の長期投与は大腸がんのリスク

 20~50代で抗菌薬を長期間使用すると大腸がんのリスクが増える…

 これは医学誌『Gut』2017年4月4日号(オンライン版)に掲載された研究結果(注1)です。もう少し正確に言えば、抗菌薬長期使用で、結腸と直腸(大腸の肛門に近い部分)に「腺腫」と呼ばれる腫瘍ができやすいことが分かったという研究です。「腺腫」は時間がたつと「がん」になることもあります。

 研究の対象者は米国の女性看護師です。NHS(Nurses’ Health Study)と呼ばれる大規模調査に参加した16,642人(2004年の時点で60歳以上)です。20~59歳のときに抗菌薬をどの程度使用したかを聞き出し、2008年には「最近の」抗菌薬の使用状況を確認しています。2004~2010年の間に大腸内視鏡検査がおこなわれ、結果1,195人に「腺腫」がみつかっています。

 腺腫と抗菌薬使用の関係を分析すると、とても興味深い結果が出ました。20~30代で2ヶ月以上抗菌薬を使用した人は、使用していない人に比べて腺腫発症のリスクが36%も高く、40~50代で使用した人では69%も高かったのです。
 
 まだあります。20~39歳で15日以上抗菌薬を使用し、さらに40~59歳でも15日以上使用した人は、まったく使用していない人に比べて、なんと73%も腺腫のリスクが上昇するというのです(下記の表)。

     40-59歳  使用なし     1-14日        15日以上

20-39歳
使用なし       1.00        1.29         1.26

1-14日        1.06       1.37         1.47

15日以上       1.01       1.56         1.73

 なぜ、抗菌薬を用いれば腺腫のリスクが上昇するのか。研究者らは腸内細菌叢が乱れることが原因だと指摘しています。尚、「最近の」抗菌薬の使用ではリスクが上昇していません。

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 腸内細菌叢(最近は「腸内フローラ」と呼ばれることが増えてきました)の乱れが様々な疾患のリスクになることが分かってきています。重症の下痢をきたすクロストリジウム・ディフィシル感染症、クローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性疾患、花粉症や喘息などのアレルギー疾患、また最近では肥満や精神疾患の原因も腸内細菌叢の乱れが原因である証拠が増えつつあります。そして腸内細菌叢が乱れる最も大きな原因は「抗菌薬の過剰使用」です。

 抗菌薬の使用が大腸がんのリスクにもなるのであれば、抗菌薬適応には今以上に慎重になるべきでしょう。このサイトでも何度も指摘していますが、抗菌薬を気軽に求める患者さんは少なくありません。使用は必要最小限にすべきです。

「風邪で抗生物質をください」という患者さんに、「この風邪は抗菌薬が不要です」という説明をするのに苦労することがありますが、日ごろ私がもっと問題だと感じている抗菌薬の使用があります。それは「ニキビ」に対する使用です。「過去に2か月間抗生物質を飲んでいた」という患者さんがときどきいます。腸内細菌叢についてどのように考えているのでしょうか。太融寺町谷口医院はニキビの患者さんも少なくありませんが、抗菌薬内服はせいぜい1週間の処方にしています。

注1:この論文のタイトルは、「Long-term use of antibiotics and risk of colorectal adenoma」で下記URLで概要を読むことができます。

http://gut.bmj.com/content/early/2017/03/16/gutjnl-2016-313413

参考:
毎日新聞「医療プレミア」
花粉症もアトピーも抗菌薬が原因かも?
やせられない… それは抗菌薬が原因かも

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2017年4月28日 金曜日

2017年4月28日 胃薬PPIは認知症患者の肺炎のリスク

 つい数年前まで「最も優れた胃薬」と考えられていたPPI(プロトンポンプ阻害薬)の弊害が次々と指摘されています。インパクトが強かったのが認知症のリスク(注1)になるというものですが、他にも様々な副作用や弊害が指摘されています(下記「医療ニュース」参照)。

 今回紹介したいのは、「認知症患者にPPIを用いると肺炎のリスクが9割も上昇する」というものです。

 医学誌『Journal of the American Geriatrics Society』2017年3月21日号(オンライン版)に台湾の研究(注2)が紹介されています。

 研究の対象者は、PPIを投与された認知症患者786人です。PPIを投与されていない認知症患者との比較がおこなわれました。結果、PPIを投与されると89%も肺炎のリスクが上昇することが分かったのです。

 他の肺炎のリスクとしては、年齢(5%の上昇、以下同様)、男性(57%)、脳血管疾患の既往(30%)、慢性肺疾患(39%)、うっ血性心不全(54%)、糖尿病(54%)、向精神薬の使用(29%)という結果です。

 興味深いのは、H2ブロッカーと呼ばれる、PPIとよく比較される胃薬を用いれば肺炎のリスクが低下するという結果がでたことです。

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 おしなべて言えば、PPIはH2ブロッカーよりもよく効きます。ですが、太融寺町谷口医院の患者さんで、胃炎、胃潰瘍、逆流性食道炎などでPPIでなければコントロールできないという人はそう多くありません。前医でPPIを処方されていても、症状が安定していればH2ブロッカーに変更できることも多々あります。

 漢方薬なども含めて他の胃薬を併用したり、食生活の習慣を見直してもらったりして、PPIからの離脱に成功することはそう珍しくありません。以前は「安全」と言われていましたが、これだけリスクが指摘されていますから、今後PPIの使用は最小限にすべきでしょう。

注1:下記を参照ください。
はやりの病気第151回(2016年3月)「認知症のリスクになると言われる3種の薬」

注2:この論文のタイトルは「Association of Proton Pump Inhibitors Usage with Risk of Pneumonia in Dementia Patients」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jgs.14813/abstract

参照:医療ニュース
2017年1月25日「胃薬PPIは細菌性腸炎のリスクも上げる」
2016年12月8日「胃薬PPI大量使用は脳梗塞のリスク」
2016年8月29日「胃薬PPIが血管の老化を早める可能性」

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2017年4月7日 金曜日

2017年4月7日 血圧低下は認知症のリスク

 高血圧は生活習慣病のリスクであり、減塩・運動・減量では下がりきらず、降圧薬を使わざるを得ない人も少なくありません。適度な血圧を維持することは、将来の脳卒中や心筋梗塞を予防するために重要なことですが、血圧が下がることは「認知症」のリスクになります。最近、2つの研究が報告されました。

 ひとつめの報告は医学誌『Alzheimer’s & Dementia』2017年2月号に掲載されています(注1)。ポイントをまとめます。

・認知症を患っていない90歳以上の対象者559人(米国人)を約3年調査したところ、(なんと)40%が認知症を発症した。

・80歳以降で高血圧を発症した人は、90代で認知症を発症するリスクが正常血圧の人に比べて42%低かった。

・90歳以降で高血圧を発症した人は、90代で認知症を発症するリスクが正常血圧の人に比べて63%低かった。

・以上の関連性は降圧薬を服用しても変わりはなかった。

 ということは、80代以降に高血圧を発症すれば、認知症になりにくく、また動脈硬化のリスクは降圧薬服用で下がるのだから、高血圧を発症した方が心身ともに健康で長生きできることを意味しています。むしろ、90歳をこえれば4割もが認知症になるのなら、高血圧を起こすためにどうすればいいかを考えたくなってきます。

 もうひとつ紹介したいのはスウェーデンの大規模調査です。医学誌『European journal of epidemiology』2017年2月11日号(オンライン版)に掲載されています(注2)。

 対象者は同国の18,240人(平均年齢45歳±7歳、男性63%)であり、1974~92年に安静時と体位変換時の血圧が測定されています。そして2002~2006年に再度安静時の血圧が測定されています(平均年齢68±6歳)。結果は以下の通りです。

・2009年12月末までに428人(2.3%)が認知症を発症した。

・調査開始時の起立時の拡張期血圧(下の血圧)が低ければ認知症のリスクが高かった。10mmHg低下するごとに1.22倍のリスク上昇。これは(安静時に)正常血圧である場合にリスク上昇となる。

・2002~06年の再検査で、血圧が高くなっていれば認知症のリスクは低下していた。収縮期血圧(上の血圧)は10mmHg上昇していれば6%のリスク低下、拡張期は10mmHg上昇していれば13%低下。

・2002~06年の再検査で、最も血圧が下がっていたグループは、血圧が最も上昇していたグループと比較すると、認知症のリスクが大きく上昇していた。収縮期の低下は46%のリスク上昇、拡張期の低下は54%の上昇。

 こちらは比較的若い世代での検討です。40代でも60代でも血圧が低いことは認知症のリスクとなり、年をとってから血圧が下がった場合は、リスクが大幅に増加することを示しています。

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 この2つの研究、日本のメディアはあまり取り上げていませんが、もっと注目されてもいいのではないでしょうか。血圧を下げることに躍起になっている人は少なくありません。もちろん認知症のリスクは血圧だけで予測できるわけではありませんし、民族間の差もあると思われます。

 私の知る限り、日本では低い血圧が認知症のリスクと結論づけられた研究は見当たりません。私が診察室でよく感じるのは、数字にこだわりすぎる人が多い、ということです。(もちろん血圧にまったく無関心な人も少なくありませんが…) 収縮期血圧、拡張期血圧がどれくらいが理想かというのは、その人の年齢、性別、体重、運動量、ライフスタイル、これまでの病気などによってまったく異なります。メディアが語る「理想の数字」に囚われるのではなく、ひとりひとりがかかりつけ医と相談すべきであることは間違いありません。

注1:この論文のタイトルは「Age of onset of hypertension and risk of dementia in the oldest-old: The 90+ Study」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://www.alzheimersanddementia.com/article/S1552-5260(16)32962-4/fulltext

また、下記URLで一般向けのプレスリリースを読むことができます。こちらの方が英語が分かりやすくておすすめです。

http://alz.org/documents_custom/high-bp_statement_011717.pdf

注2:この論文のタイトルは「Longitudinal and postural changes of blood pressure predict dementia: the Malmö Preventive Project」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://link.springer.com/article/10.1007/s10654-017-0228-0

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2017年4月3日 月曜日

2017年4月3日 グルテンフリー食は糖尿病のリスク?!

 過去のコラム(「はやりの病気」第158回(2016年10月)「「コムギ/グルテン過敏症」という病は存在するか」)で紹介したように、太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)には、コムギ/グルテンフリー食を実践している患者さんが少なくありません。

 医学的根拠はないものの「コムギ/グルテン過敏症」が存在する可能性は否定できず、私自身はこの疾患の存在を100%の確証を持って肯定しているわけではありませんが、実践して調子がいい、という患者さんは応援するようにしています。

 その理由のひとつが、コムギ/グルテンを除去することで糖質摂取が制限され、また、米は食べていますから、適度な「糖質制限」ができるからです。「糖質制限」についても私自身は「完全肯定」しているわけではありませんが、経過観察を続けながらやり過ぎないように実践する分にはかまわないと考えています。

 ですから、適度なコムギ/グルテンフリー食は糖尿病や肥満の予防になるのではないかと考えていました。ところが、です。「グルテンフリー食にすると糖尿病のリスクが上昇する」という研究が最近報告されました。米国心臓協会(American Heart Association)がウェブサイトで報告(注1)しています。

 研究は、医療従事者を対象とした3件(NHS (Nurses’Health Study), NHSⅡ(Nurses’Health StudyⅡ), HSPS(Health Professionals Follow-up Study))の疫学調査のデータ合計199,794人分を解析することによりおこなわれています。結果、グルテン摂取量が最も多い上位20%のグループは、最も少ないグループ(4グラム/日未満)に比べて、糖尿病のリスクが13%低下していたのです。

 なぜ、グルテンフリー食は糖尿病のリスクを上昇させるのか。研究者らは「食物繊維」が要因のひとつと考えています。つまり、グルテンを含む食品には食物繊維が豊富に含まれており、これが糖尿病の予防になるのではないかという考えです。さらに、研究者らは、グルテンフリー食はビタミンやミネラルといった微量元素が不足する可能性についても言及しています。

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 食物繊維をしっかり摂れば肥満や糖尿病のリスクを軽減できることが最近よく指摘されます。そして、食物繊維というのは量をある程度摂らねばならないことから、食品から取り出してサプリメントや健康食品をつくることが困難です。しかも、食物繊維には様々な種類があります。結局、効果的に食物繊維を摂取するには「バランスの良い食事をする」のが最も現実的です。

 この研究は米国人を対象としています。日本食の場合、野菜、海藻、いも類、あるいは玄米などから食物繊維を摂取することができます。本文でも述べたように、私自身はグルテンフリー食を否定も肯定もしていませんが、日本食をバランスよく摂取するのであれば、この報告に影響を受けてやめる必要はないと考えています。

注1:このレポートのタイトルは「Low gluten diets may be associated with higher risk of type 2 diabetes」で、下記URLで読むことができます。

http://newsroom.heart.org/news/low-gluten-diets-may-be-associated-with-higher-risk-of-type-2-diabetes

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2017年3月31日 金曜日

2017年3月31日 殺虫剤や蚊取り線香が子供の行動障害を起こす可能性

 殺虫剤が健康上有害かどうかというテーマはもう何十年も議論が続いています。DDT(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)は大変効果的な殺虫剤であり、かつては日本でも幅広く使われていました。八重山諸島のマラリア対策にも使われ、DDTのおかげで日本はマラリアを根治できたのです。ですが、有害性のために現在日本での使用は禁止されています。

 現在、日本製の殺虫剤及び蚊取り線香で最も一般的に使われているのが「ピレスロイド」と呼ばれる物質です。ピレスロイドが有害か否かという問題も何十年にわたり議論されていて、現在では「よほど大量摂取しなければ人体に有害はない」とされています。日本中毒センターは、蚊取り線香に対しては「ひとかけら程度の誤食では中毒症状は出現しない」とし、家庭用のピレスロイド系殺虫剤スプレーでも「通常、大量でない限り重篤な中毒は起こりにくい」と案内しています(注1)。

 私のように東南アジアによく行く者にとっては、蚊取り線香は必需品です。特に安宿に泊まるときはデング熱やチクングニア熱対策に蚊取り線香は絶対に必要なものであり、地域によってはマラリア対策もせねばなりません。

 妊婦や小児がピレスロイドに曝露されると行動障害のリスクが増加する…

 医学誌『Occupational & Environmental Medicine』2017年3月1日号(オンライン版)でこのような報告がおこなわれました(注2)。研究は仏国Rennes大学病院によりおこなわれています。

 対象者はフランスの母親287人。妊娠中、及び子供は6歳のときの尿中ピレスロイド代謝物の濃度が測定され、行動障害との関連が分析されています。

 結果、異常または境界線の社会行動障害のリスクがピレスロイド曝露により2.93倍も上昇することが判りました。興味深いことに社会行動障害の種類が、ピレスロイドの曝露が妊婦か子供かによって異なります。妊娠中の母親が曝露された場合は、小児の内在性困難(internalising difficulties)のリスクが上昇しました。内在性困難とは、例えば、うつ状態や不安のことです。一方、6歳の子どものピレスロイド濃度が高い場合は、外在性困難(externalising difficulties)のリスク上昇がみられます。これは、他人への攻撃や破壊的な行動のことです。

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 この研究だけでピレスロイドの危険性を過剰に流布するのは間違いだとは思いますが、妊婦さんや小さな子供がいる場合は、殺虫剤も蚊取り線香も最小限の使用にすべきかもしれません。となると、蚊帳や蠅とり紙の出番でしょうか。少なくとも21世紀の日本で私はこれらを見たことがありませんが…。

注1:日本中毒センターの情報は下記を参照ください。

・蚊取り線香について
http://www.j-poison-ic.or.jp/tebiki20121001.nsf/SchHyodai/C0D48C45ED65D05F492567DE002B895B/$FILE/M70049_0100_2.pdf

・殺虫剤について
http://www.j-poison-ic.or.jp/ippan/M70219_0100_2.pdf

注2:この論文のタイトルは「Behavioural disorders in 6-year-old children and pyrethroid insecticide exposure: the PELAGIE mother-child cohort」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://oem.bmj.com/content/74/4/275

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2017年3月31日 金曜日

2017年3月31日 成人女性のニキビの発生因子とは?

 アダパレン(ディフェリン)、過酸化ベンゾイル(BPO、ベピオゲル)などが日本でも使えるようになり、一昔前に比べるとニキビの治療は随分とおこないやすくなりました。ですが、ニキビは慢性疾患ですから、他の慢性疾患と同様、日ごろの生活習慣の改善が大切です。

 医学誌『Journal of the American Academy of Dermatology』2016年12月号(オンライン版)に興味深い論文(注1)が掲載されました。成人女性のニキビの発生因子が検討されています。

 研究の対象者はイタリア国内の12の都市の外来を受診した25歳以上の女性278人。対照グループはニキビ以外で受診した270人の女性です。結果は以下の通りです。それぞれの項目でニキビの発症リスクが何倍になるかが調べられています。

・親にニキビがある(あった) → 3.02倍
・兄弟姉妹にニキビがある(あった)→ 2.40倍
・自身が思春期にニキビがあった → 5.44倍
・妊娠の経験がない → 1.71倍
・多毛症がある → 3.50倍
・オフィスワークをしている(無職または専業主婦と比べて) → 2.24倍
・精神的なストレスがある → 2.95倍
・野菜・果物の摂取量が少ない → 2.33倍
・新鮮な魚の摂取量が少ない → 2.76倍

 両親や兄弟、過去のことは変えられませんが、食生活やストレスなどについては改善の余地があるかもしれません。

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 冒頭で述べたように、日本でも世界標準の薬が使えるようになったことでニキビの治療は随分とおこないやすくなりましたが、それだけで解決するわけではないようです。この研究結果を単純に解釈すれば、オフィスワークをしていてストレスがあって、妊娠の経験がなく、野菜・果物と新鮮な魚をあまり食べていないのであればリスクが何十倍にもなってしまいます。このような女性はいくらでもいるでしょうから、さすがに何十倍にまではならないでしょうが、他の多くの慢性疾患と同様、ストレスコントロールと健康的な食生活が重要であることは間違いないでしょう。

参考:はやりの病気第140回(2015年4月)「古くて新しいニキビの治療」

注1:この論文のタイトルは「Adult female acne and associated risk factors: Results of a multicenter case-control study in Italy」で、下記のURLで概要を読むことができます。

http://www.eblue.org/article/S0190-9622(16)30480-7/fulltext

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2017年3月31日 金曜日

2017年3月31日 大通り沿いに住むことが認知症のリスク

 大通りや幹線道路沿いに住めば認知症を発症しやすい・・・

 これは一流の医学誌『Lancet』2017年1月4日号(オンライン版)に掲載された報告です(注1)。

 研究はカナダでおこなわれたものです。対象者はオンタリオ州に居住の20~50歳の約440万人、及び55~85歳の約220万人です。大通りから住居までの距離と認知症の発症との関係が分析されています。観察期間は2001年から2012年です。

 調査期間中に合計243,611人が認知症を発症しました。大通りから居住地の距離との関係は、大通りから300メートル以上離れたところに住んでいる人に比べ、50メートル未満の人では1.07倍認知症を発症しやすいことがわかりました。50~100メートルでは1.04倍、101~200メートルは1.02倍、201~300メートルなら1.00倍です。

 大通りに近づけば近づくほど認知症のリスクが上昇するという”きれいな”結果となっています。尚、認知症と同じ脳疾患であるパーキンソン病と多発性硬化症でも同じ分析がおこなわれていますが、これら2疾患の発症と大通りからの距離との関連性はありませんでした。

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 私的なことになりますが、私が幹線道路沿いに初めて住んだのは20歳の頃で、医学部入学時に引っ越ししたワンルームマンションも幹線通り沿いに位置していました。医学部卒業後は研修先の病院の寮に入ることになりその寮は幹線道路から大きく離れていました。そのときは、研修医ということもありほとんど寮に帰れない生活でした。その後、幹線道路か否かにこだわったわけではないのですが、たまたま幹線道路から離れたところに住み始めました。

 すると、まったく予想していなかったことが起こりました。よく眠れるのです! 今考えれば、当たり前といえばそうなのですが、静かな環境というのがこんなにも大事なのかと驚きました。

 その後私は、国内でも海外でもホテルを予約するときには、幹線道路から離れたところという条件で探すようにしています。尚、日本では心配不要ですが、海外でホテルを探すとき、私は他に2つの条件を求めます。ひとつはホットシャワーが出ること(40歳を過ぎてから冷たい水はキツイのです)、もうひとつは「窓があること」です。アジアでは、ボロボロのゲストハウスでなくとも、例えば2,500円くらいするような中堅のホテルでも、窓がないということがあります。このような研究は見たことがありませんが、窓のない部屋で生活すると間違いなく健康を害する、と私は考えています。

 ですが、窓があるかどうかを事前に調べることが困難であり、これが私の悩みです。Agoda、Tripadviser, Expediaのいずれのホテル検索サイトも「窓あり」で検索できません。他の人はどうしているのでしょうか…。

注1:この論文のタイトルは「Living near major roads and the incidence of dementia, Parkinson’s disease, and multiple sclerosis: a population-based cohort study」であり、下記URLで概要を読むことができます。

http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(16)32399-6/fulltext

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2017年3月6日 月曜日

2017年3月6日 ヘディングは脳振盪さらに認知症のリスク

 アメリカンフットボールなどのコンタクトスポーツが脳にダメージを与え、将来認知症や人格変貌、さらに自殺をも招くことがある、ということはここ数年注目されており、このサイトでも何度か取り上げました(注1)。この脳にダメージをおこす疾患のことを「慢性外傷性脳症」(以下「CTE」)と呼びます。コンタクトスポーツと言えばサッカーを思い浮かべる人も多いでしょう。では、サッカーのヘディングはどうなのでしょうか。

 ヘディングをよく行う選手は、あまり行わない選手に比べて脳震盪を起こす可能性が3倍以上…。

 医学誌『Neurology』2017年2月1日号(オンライン版)にこのような研究が報告されました(注2)。

 研究の対象者は、ニューヨーク市のアマチュアサッカークラブの成人男女の選手222人。調査はオンライン上でおこなわれました。調査期間の2週間でヘディングを行った回数は、男性平均44回、女性は27回でした。また、「偶発的な頭部への衝撃」が男性の37%、女性の43%にありました。そして、ヘディングや偶発的な衝撃により20%の選手に何らかの症状が認められています。

 これらを分析した結果、ヘディングをよく行う選手は、あまり行わない選手に比べ脳振盪を起こすリスクが3倍以上、偶発的な衝撃を2回以上受けた選手は、受けていないい選手と比較し6倍以上となっていました。

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 この論文では、ヘディングが脳振盪を起こしやすいとは言っていますが、CTEのリスクとなるかどうかについては検討されていません。しかし一般紙がこれに言及しています。英国の新聞「The Telegraph」はこの記事を取り上げ、ヘディングとCTEのリスクについて、イングランドの元ストライカーJeff Astle氏を取り上げてコメントしています(注3)。Astle氏は若くして認知症を発症し2002年に59歳の若さで他界しています。

 Astle氏の若すぎる死とサッカーの関係についてはBBCも取り上げています(注4)。BBCは、氏の娘のDawnさんがラジオ番組でコメントした次の言葉を紹介しています。

「サッカーが原因で認知症が起こったことを示す証拠は以前からありました。にもかかわらず真剣に検討されなかったのは”許されないこと”かつ”不可解”なことです」

注1:下記を参照ください。
はやりの病気
第137回(2015年1月) 脳振盪の誤解~慢性外傷性脳症(CTE)の恐怖~
医療ニュース
2016年10月14日 コンタクトスポーツ経験者の3割以上が慢性外傷性脳症
2015年5月9日 脳振盪に対するNFLの和解額が10億ドルに 

注2:この論文のタイトルは「Symptoms from repeated intentional and unintentional head impact in soccer players」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://www.neurology.org/content/88/9/901.short?sid=2346c46a-d26b-49a8-942b-bd585e28f60e

注3:この記事のタイトルは「Demand for new study of heading and concussion(ヘディングと脳振盪の新たな研究が望まれる)」です。下記URLを参照ください。

http://www.telegraph.co.uk/football/2017/02/01/demand-new-study-heading-concussion/

注4:この記事のタイトルは「Jeff Astle’s daughter: Dad’s job killed him(Jeff Astle氏の娘が語る~父の仕事が父を殺した~)」です、下記URLを参照ください。

http://www.bbc.com/news/uk-38979607

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

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